弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴はいづれもこれを棄却する。
         理    由
 弁護人三輪寿壮外二名の控訴趣意書中被告人Aの分について、
 第二点 (一)論旨は被告人Aの投石は被害者Bにこれを的中させろ目的でなく
同人を驚かしてやる目的で同人の五、六歩手前を狙つて投石した或は投石した石か
Bに当るかも知れないという程度の認識わあつたとしてもそれを否定する認識の方
が相当強く働いて居ると見るべきであり認識ある過失と見るのが相当であると<要旨
第一>いい暴行の事実を否定するのであるが、暴行とは人に向つて不法なる物理的勢
力を発揮することで、その物理的力が人の身体に接触することは必要で
ない。例えば人に向つて石を投じ又は棒を打ち下せば仮令石や棒が相手方の身体に
触れないでも暴行は成立する。群衆の中に棒を揮つて飛込み暴れ廻われば人や物に
衝らないでも暴行というに十分である。して見ると右暴行の結果石や棒が人の身体
に衝りこれに傷を負わせることは暴行の観念から離れ傷害の観念に移行包攝せられ
るものというべきである。記録によると被告人等は同僚で仲良しである被害者Bを
驚かす目的で悪戯けて夜間同人に向うてその数歩手前を狙うて四五十米手前から投
石したことが認められるが石は投げた所に止るものでなくはねて更に同方向に飛ぶ
性質のものであるから数歩手前を狙つて投げても尚Bに向つて投石したといい得る
し投石の動機がいたづらであつても又その目的が同人を驚かすことにあつても投石
行為を適法ならしめるものでないから右被告人等の投石行為はBに向つて不<要旨第
二>法の物理的勢力を発揮したもの即ち暴行を為したものといい得る。而して傷害罪
は暴行がありその結果傷害が生ずれば即ち成立し傷害の結果に対して認
識することを要しないことは己に幾多の判例の示すところであるから仮令被告等が
その投石がBには衝らないであろうと予想していたとしても、これは傷害の結果に
対する認識に関することで傷害罪の成立には影響がない。論旨は投石の場合その人
が身体に衝るまでを暴行の観念に包含せられるものとし被告人等に石がBに衝るこ
とを予想しなかつた理由で暴行の意思を否定するのであるが右の理由からしてこれ
を採用しない。但し右の予想なきことは犯罪の成立には影響ないとしても犯情には
重大なる差異を生ずるものであるが記録によると被告人等には投石がBに衝るかも
知れぬという未必の故意があつたものと認められる。原審公判廷において被告人等
はこの点を否定しているか人に向つてその数歩手前に投石すれば或は人に衝るかも
知れぬと予想するのが常例であり特別の事情なき限り衝らないと思うとは条理に反
し採用し難い。論旨はそれ故に理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 保持道信 判事 山田要治 判事 鈴木勇)

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