弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中「当審における未決勾留日数中一五〇日を原判決の刑に算入す
る。」との部分を破棄する。
     その余の部分に対する本件上告を棄却する。
         理    由
 検察官の上告趣意について
 記録によれば、被告人は、本件起訴前である昭和五〇年三月一二日、本件各事実
と同一性のある事実につき殺人、死体遺棄の罪名で勾留状の執行を受け、その後一、
二審を通じて引き続き勾留されていたものであるが、第一審である福島地方裁判所
会津若松支部は昭和五〇年八月二七日被告人を懲役一五年に処する等の旨の判決を
言い渡し、これに対し、検察官及び被告人がいずれも同年九月九日控訴を申し立て
たところ、原審は、昭和五一年三月三〇日各控訴を棄却するとともに控訴審におけ
る未決勾留日数中一五〇日を第一審判決の刑に算入する旨の判決を言い渡したこと
が認められる。そして原判決が右のとおり控訴審における未決勾留日数中一五〇日
を第一審判決の刑に算入する旨言い渡した点は、その理由中の記載に照らし、被告
人の控訴申立後の未決勾留の日数の一部を、刑法二一条に則り裁量により算入した
趣旨であることが明らかである。
 しかし、本件のように、検察官も控訴を申し立てた場合には、その後の未決勾留
の日数は、刑訴法四九五条二項一号により、判決が確定して執行される際当然に全
部本刑に通算されるべきものであつて、控訴裁判所には右日数を本刑に算入するか
否かの裁量権が委ねられておらず、刑法二一条により判決においてその全部又は一
部を本刑に算入する旨の言渡をすべきでないことは所論引用の当裁判所判例の示す
ところである(当裁判所昭和二五年(あ)第一四七七号同二六年三月二九日第一小
法廷決定・刑集五巻四号七二二頁、昭和四八年(あ)第一一四五号同年一一月二七
日第三小法廷判決・裁判集刑事一九〇号七一五頁参照)。従つて、原審が控訴審に
おける未決勾留日数中一五〇日を本刑に算入したのは、刑法二一条の適用について
右判例と相反する判断をしたものといわなければならない。この点に関する論旨は
理由がある。所論のうち、大審院の判例に違反するという点は、最高裁判所の判例
がある場合であるから、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 よつて、刑訴法四〇五条二号、四一〇条一項本文、四一三条但書により、原判決
中「当審における未決勾留日数中一五〇日を原判決の刑に算入する。」との部分を
破棄し、原判決中その余の部分に対する上告は、上告趣意としてなんら主張がなく、
従つてその理由がないことに帰するから、同法四一四条、三九六条により、棄却す
ることとして、主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官団藤重光の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によ
るものである。
 裁判官団藤重光の反対意見は、次のとおりである。
 本件においては、原審における未決勾留日数はすべて法律上当然に本刑に通算さ
れるのであつて(刑訴法四九五条)、原判決が「当審における未決勾留日数中一五
〇日を原判決(=第一審判決)の刑に算入する。」としたのは、かりにそのまま確
定したとしても、効力を発生する余地のないものであり、検察官は直接に右の規定
にもとづいて法定通算があつたものとして刑の執行指揮をするべきである。原判決
におけるこの種の誤りは「違算、書損その他これに類する明白な誤謬」(民訴法一
九四条参照)というべきものであつて、原裁判所は更正決定をもつて対処すること
ができるものと解するのが相当である(団藤・新刑事訴訟法綱要・七訂版・二九七
頁、二九八頁注一三。なお、団藤・刑事訴訟法綱要・昭和一八年・二八四頁注九参
照)。このような明白な形式的誤謬はもともと上訴理由とはならないものというべ
く、もし本件のように上告があつたばあいには、上告審は、上告を棄却するととも
に、その上告棄却の裁判中において、原判決の主文を更正すれば足りるのである。
なお、念のために付言すれば、このような更正は形式的なものにすぎないから、更
正の有無は前記のような検察官の権限には影響を及ぼさないものと考える。
 多数意見は、当裁判所の判例(昭和三二年(あ)第九〇八号同三三年四月一〇日
第一小法廷判決・刑集一二巻五号八六六頁)にしたがつたものであるが、わたくし
は、この判例そのものに疑問をいだく(団藤・新刑事訴訟法綱要・七訂版・五一一
頁、五一二頁注四。なお、横井大三・上訴・刑訴裁判例ノート(5)一一九ー一三
一頁、高田義文・最高裁判所判例解説・刑事編・昭和三三年度・二一八頁以下、中
野次雄・警察研究四四巻二号九三頁以下参照)。もともと一部上訴は刑訴法三五七
条によつてみとめられているところであるが、それは公訴不可分の原則その他の関
係から、事がらの性質上、おのずから一定の制限を受けるものであつて、刑の言渡
しの判決における未決勾留日数の通算の部分が独立して一部上訴の対象になりうる
ものとは、わたくしにはとうてい考えられない。未決勾留日数の通算の部分を切り
離して、刑の言渡しの部分だけが確定するとみることは、理論的にも実務的にも不
都合である。前記判例、したがつて本件多数意見も、本件のようなばあいを一部上
訴とみているのではあるまい。けだし、もし一部上訴とみているのならば、「その
余の部分に対する本件上告を棄却する」こともありえないはずだからである。そこ
で、全部上訴とみているものと解するほかないが、そうだとすれば、一部破棄・一
部上告棄却はおかしいのであつて、原判決全部を破棄するべきことは当然だといわ
なければならない。わたくしは、いずれにせよ、多数意見を支持することができず、
前記判例は変更されるべきものと考える。
 検察官鎌田好夫 公判出席
  昭和五一年一一月一八日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸       盛   一
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    団   藤   重   光

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