弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人崎信太郎、同表久守、同石川貞行の上告理由第一点について。
 選挙争訟における選挙無効の原因とは、選挙の規定に関する違反があつて、それ
が選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあることをいい、選挙の規定の違反とは、選
挙の管理執行の手続に関する規定の違反をいうものであることは、当裁判所の判例
とするところである(最高裁昭和二三年(オ)第一三号同年六月二六日第二小法廷
判決・民集二巻七号一五九頁、昭和四三年(行ツ)第九二号同四四年七月一五日第
三小法廷判決・民集二三巻八号一五三七頁、昭和四五年(行ツ)第五六号同四六年
四月一五日第一小法廷判決・民集二五巻三号二七五頁等)。ところで、公職選挙法
(以下「公選法」という。)二七条一項は、市町村の選挙管理委員会に対し、選挙
人名簿に登録された者が当該市町村から他市町村へ転出したことを知つた場合には、
直ちに右名簿上にその旨の表示をなすべきことを義務づけている。そして、右の転
出した旨の表示(以下転出表示という。)がされた場合において、転出後四か月を
経過したときは、その表示をされた者(以下転出被表示者という。)を右選挙人名
簿から抹消すべきものとされており(公選法二八条二号参照)、転出表示をする主
たる趣旨・目的が選挙人名簿の正確性の担保と二重登録の防止にあることは疑いを
いれないところであるが、その趣旨・目的は、単に右の点に尽きるものと解するこ
とはできない。すなわち、公選法上、地方公共団体の議会の議員または長の選挙に
おいては、投票管理者をはじめとする投票事務従事者が、同法四四条一項により実
施すべき選挙人名簿との対照に際し、選挙権の要件たる住所要件(同法九条二、三
項参照)について一定の範囲内における実質的な審査の権能と義務とを有するもの
であることは、同条二項の規定からも窺われるところであるが、転出表示は、転出
被表示者の住所の変更に関する事実を示すものとして、公選法の規定にしたがいな
されるものであり、しかも、選挙人名簿における右の者の該当部分になされるもの
であることを考えると、右の住所要件の審査にあたり、最も確実かつ重要な資料を
提供するものということができるのである。そうであるとすれば、市町村の議会の
議員または長の選挙においては、投票事務従事者は、投票にきた者につき、選挙人
名簿との対照の際、当然に転出表示の有無に注意し、転出表示がなされている場合
には、住所要件を欠くものとして、その投票を拒否する義務があるものというべく、
ただ、右表示が誤つていることなどを明らかにする資料の提示等があることによつ
て、その住所要件の存在を確認しうるというような特別の事情がある場合にのみ、
その投票を許すことができるものと解するのが相当であり、したがつて、右の義務
を懈怠して、上述のごとき特別の事情がないにもかかわらず、転出被表示者に対し
投票を許すことは、選挙の管理執行の手続に関する規定に違反するものといわなけ
ればならない。
 これを本件についてみるに、原審の確定するところによると、本件選挙において、
各投票所の投票事務従事者は、一投票所の例を除き、選挙人名簿(抄本)上にされ
た転出表示には全く顧慮することなく、そのため投票にきた転出被表示者に対して
住所要件につき確認せずに漫然と投票を許し、また、右の一投票所においても、転
出被表示者につき住所要件の存在に疑問をもつた程度で、結局は右同様に漫然と投
票を許した、というのであり、しかも、投票事務従事者において、右転出被表示者
につき、その住所要件の存在を確認しうる特別の事情のあつたことは、原審の認定
しないところであるから、本件選挙には、選挙の管理執行の手続に関する規定の違
反があつたものと解さざるをえない。しかして、右違反により、住所要件を欠く一
二名に投票を許して一二票の無効投票を招くに至つたこと、本件選挙における最下
位当選者と最高位落選者との得票差が九票であることは、原審の確定するところで
あるから、右違反が選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあることは明らかである。
 以上によると、本件選挙を無効であるとした原審の判断は、投票所入場券を転出
被表示者に交付した点が選挙の管理執行の手続に関する規定の違反にあたらないと
する所論の当否につき論ずるまでもなく、相当である。
 なお、所論は、公選法二〇九条の二を援用して本件選挙を無効とすべきではない
というが、同条は、当選争訟に関する規定であつて、選挙の管理執行の手続に関す
る規定の違反がない場合の投票にのみ適用さるべきものであり、選挙争訟である本
件には適用がないから、右所論は失当である。また、所論引用の各最高裁判所判決
は、本件と事案を異にするものか、または、以上の判示に牴触しないものであつて、
原判決を非難するものとしては、いずれも適切でない。
 論旨は、ひつきよう、独自の見解に立つか、または、原審の認定に沿わない事実
を前提として、原判決を非難するものであつて、いずれも採用することができない。
 同第二点について。
 選挙の管理執行の手続に関する規定の違反があるときは、それが選挙の結果に異
動を及ぼすおそれがあるかぎり、当該選挙が無効とされることは、第一点について
述べたとおりであり、このことは、右違反の影響をうけた投票の多寡にかかわるも
のではない。そして、ひろく一般的に選挙の人的一部無効を認める見解が実定法上
の根拠を欠くものであることは所論のとおりであるが、そのことから、右判断を左
右することはできない。
 論旨は、ひつきよう、独自の見解を主張するにすぎず、採用することができない。
 同第三点について。
 所論一および二の(1)の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に
照らして首肯するに足り、その過程にも右所論の違法はない。そして、原審の確定
する事実関係のもとでは、原判示の一二名(原判決二三丁裏、二四丁表参照)につ
き選挙当時a町に住所がなかつたとした原審の判断は、是認することができ、右判
断に至る過程が示されていないからといつて、原判決に理由不備、理由そごの違法
があるとはいえない。また、所論二の(2)指摘の原判示は、本件の結論を出すにあ
たつて必ずしも必要なものではないから、その措辞に適切を欠くところがないでは
ないが、それを根拠にして原判決を非難する右所論は、失当である。
 論旨は、すべて採用することができない。
 第四点について。
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯する
に足り、その過程にも所論の違法はない。
 論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難す
るにすぎず、採用することができない。
 第五点について。
 所論違憲の主張は、第一、二点と合わせ読むと、その実質は公選法二〇五条一項
の解釈適用の誤りをいうにすぎないものと解されるところ、原判決に右違法のない
ことは、すでに第一、二点について述べたとおりであるから、右所論は、失当とい
うほかはない。
 論旨は採用することができない。
 第六点について。
 原審が投票所入場券の誤配を直ちに選挙の管理執行の規定の違反にあたるとした
ものとは解しがたいのみならず、右の点の当否が、本件選挙を無効であるとした原
審の判断に影響のないことは、すでに第一点について述べたとおりである。また、
所論二引用の各最高裁判所判決は、原判示と矛盾するものとは解しがたい。
 論旨は、すべて採用することができない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、
裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下   田   武   三
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫
 裁判官大隅健一郎は海外出張中につき署名押印することができない。
         裁判長裁判官    下   田   武   三
      別表1
           最高裁判例中、類例選挙無効判決の概要
 (1) 最高裁昭和二九年九月一七日判決(民集八巻九号一六四四頁)
 「1」 原      審  札幌高裁函館支部昭和二八年六月一日判決(行裁
集四巻六号一四九頁)
 「2」 違法管理投票数   三、八三七名(違法不在者投票)
 「3」 異動のおそれ    あり、但、その範囲は特定できない。
 「4」 違法管理の内容   右、三八三七名の不在者投票用紙及び、同封筒の
交付につき、施行令五二条所定の証明書を徴せず、正当事由の有無も審査せずに交
付した。
 「5」 公正を害する事由  法定の証明書を徴しないで投票用紙封筒を交付す
る等の違法があれば選挙の自由公正は確保しがたいのみならず、本来不在者投票を
することができない者も相当数不在者として投票したことが推認でき、かゝる者は
不在者投票の不適格者として投票用紙封筒の交付を拒まれゝば選挙当日棄権する者
があるかもしれないし、投票しても別の候補者を記載するとも限らない。
 (2) 最高裁昭和三二年四月五日判決(法律新聞四九号三頁)
 「1」 原      審  広島高裁昭和三一年九月二七日判決(行裁集七巻
九号二一六七頁)
 「2」 違法管理投票数   少なくとも三四票(替玉投票)
 「3」 異動のおそれ    あり、但、範囲等につき判示なし
 「4」 違法管理の内容   候補者の一人が、ある投票所の受付係と投票立会
人に対し、替玉の者が投票に行くから知らん顔をしてくれと依頼し、その依頼を受
けた立会人は他の立会人にそれを伝え、さらに他の立会人も替玉投票に気付きなが
ら、それを看過した。
 「5」 公正を害する事由  右替玉投票の外(イ)投票録の投票人数(一一、
〇三九人)と投票数(一一、〇六六票)及び使用投票用紙枚数(一一、〇四〇枚)
が一致せず、その原因が解明できない。(ロ)投票立会人二名が公選法違反被告事
件で有罪判決をうけた等の事情があつて、全体として選挙の公正を疑わしめるもの
である。
 (3) 最高裁昭和三三年二月六日判決(民集二巻二号一四〇頁)
 「1」 原      審  福岡高裁昭和三二年六月八日判決
 「2」 違法管理投票数   一二七票(違法不在者投票)
 「3」 異動のおそれ    あり(町長選挙にも影響あり、町会議員選挙は範
囲不明)
 「4」 違法管理の内容   都道府県選挙管理委員会が公選法施行令第五五条
二項によつて病院の一部を指定した場合に、不在者投票管理者が右指定外病棟入院
者に不在者投票をさせた。
 「5」 公正を害する事由  町長選挙においては、当選者と次点者の得票差が
九票、町会議員選挙では最下位当選者と次点者の得票差が一票であり、他にも多数
人に異動を及ぼすおそれがあつたと推認される。また病院の一部を指定したことも
違法性が問題となつた。
 (4) 最高裁昭和三七年一二月二六日判決(民集一六巻一二号二五八一頁)
 「1」 原      審  仙台高裁秋田支部昭和三七年二月二八日判決
 「2」 違法管理投票数   九六票(内訳 違法不在者投票三〇票、過剰投票
数二三票、開票後の票数変動三三票)
 「3」 異動のおそれ    全候補者のうち三五%強、全当選者のうち三七%
弱の者の当落に異動を生ぜしめる。
 「4」 違法管理の内容   不在者投票につき施行令第五六条及び六〇条の法
定記載要件を欠く違法があつた。
 「5」 公正を害する事由  前記過剰投票の存在や、票数の変動、あるいは、
一一八枚の不成規紙片の混入は選挙全体の自由と公正の理念に反する。
 (5) 最高裁昭和四六年四月一五日判決(民集二五巻三号二七五頁)
 「1」 原      審  仙台高裁昭和四五年三月二三日判決(高裁民集二
三巻二号一一〇頁)
 「2」 違法管理投票数   三一票(潜在的有効投票)
 「3」 異動のおそれ    当選者一八名中、下位五名
 「4」 違法管理の内容   不在者投票三一票につき、選挙管理委員会の不手
際により、投票箱の閉鎖時刻までに投票管理者に送致されなかつた。
 「5」 公正を害する事由  違法管理投票数及び、影響の範囲が多大である。
                               以  上

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