弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人増井和男、同鈴木健太、同河村吉晃、同佐村浩之、同石川利夫、同寳
金敏明、同古江頼隆、同松村玲子、同藤崎清、同坂中英徳、同黒田一博、同沖貴文、
同清水洋樹、同三島孝雄、同佐藤義紀、同梅原操の上告理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係及び記録上明らかな被上告人の在留経過の概
要は、以下のとおりである。
 1 被上告人は、中国の国籍を有する者であるが、昭和六〇年九月一七日、日本
国籍を有するDと婚姻し、昭和六一年一〇月二七日、出入国管理及び難民認定法(
平成元年法律第七九号による改正前のもの)四条一項一六号、出入国管理及び難民
認定法施行規則(平成二年法務省令第一五号による改正前のもの)二条一号所定の
「日本人の配偶者又は子」の在留資格をもって本邦に上陸を許可された。
 2 被上告人は、本邦上陸後しばらくの間、D方に同居していたが、その後、同
女と不仲になり、昭和六二年四月ころ、D方を出て別居するようになった。
 3 被上告人は、右別居後も、「日本人の配偶者又は子」の在留資格により在留
期間を一年とする数次の更新許可を受けて本邦に滞在していたが、平成二年一月四
日付けでされた在留期間更新許可は、出国準備期間として平成元年一〇月二八日か
ら平成二年一月二七日までの三箇月間在留期間を更新するというものであり、同年
一月一九日付けでされたそれも、出国準備期間として同月二八日から四月二七日ま
での三箇月間在留期間を更新するというものであった。さらに、同年七月三〇日に
は、同年四月二八日から七月二七日までの三箇月の在留期間の更新許可と同時に、
被上告人の在留資格を前記改正後の出入国管理及び難民認定法別表第一の三所定の
「短期滞在」とし、在留期間を同月二八日から一〇月二五日までの九〇日とする在
留資格変更許可がされた。
 4 Dは、平成二年八月二三日、被上告人との間の婚姻無効確認訴訟を提起し、
同年一二月二六日、右婚姻の無効を確認する第一審判決がされたが、被上告人は、
右判決に対し控訴して争い、平成三年一〇月二二日、右第一審判決を取り消し、D
の請求を棄却する控訴審判決がされ、これが確定した。
 5 被上告人は、右訴訟が係属中である平成三年一月一〇日と同年四月一六日に、
右訴訟が係属中であることを理由に「短期滞在」の在留資格による在留期間の更新
申請を行い、各申請日にその許可を受けて本邦における在留を継続してきたが、右
四月一六日付けの許可に係る在留期間が同年七月二二日で満了することになるため、
同月六日、右在留期間満了後の在留期間の更新申請をしたところ、上告人は、被上
告人の右申請に対し、右訴訟の控訴審判決が確定した後である平成四年二月一九日
に至り、これを不許可とする本件処分を行った。
 6 Dは、平成四年四月一七日、被上告人を相手方として離婚請求訴訟を提起し、
右訴訟は、原審口頭弁論終結時には東京地方裁判所に係属中であった。
 二 「短期滞在」の在留資格で本邦に在留する外国人から在留期間の更新申請が
された場合において、上告人は、通常であれば、当該外国人につき、「短期滞在」
の在留資格に対応する出入国管理及び難民認定法別表第一の三下欄の活動を引き続
き行わせることを適当と認めるに足りる相当の理由があるかどうかを判断すれば足
り、他の在留資格に対応する活動を行わせることを適当と認めるに足りる相当の理
由があるかどうかについて考慮する必要のないことは、一応所論のとおりである。
  しかし、本件については、直ちに所論のように解することはできない。前記事
実関係及び原判決の事実摘示に表われた当事者の主張その他記録上明らかな在留資
格の変更許可に係る審理上の諸経過によれば、被上告人は、「日本人の配偶者又は
子」の在留資格(ただし、前記改正に伴い、平成二年六月一日以降は、右改正後の
出入国管理及び難民認定法別表第二所定の「日本人の配偶者等」の在留資格によっ
て本邦に在留するものとみなされた)をもって本邦における在留を継続してきてい
たが、上告人は、同年七月三〇日、被上告人とDとが長期間にわたり別居していた
ことなどから、被上告人の本邦における活動は、もはや日本人の配偶者の身分を有
する者としての活動に該当しないとの判断の下に、被上告人の意に反して、その在
留資格を同法別表第一の三所定の「短期滞在」に変更する旨の申請ありとして取り
扱い、これを許可する旨の処分をし、これにより、被上告人が「日本人の配偶者等」
の在留資格による在留期間の更新を申請する機会を失わせたものと判断されるので
ある。しかも、本件処分時においては、被上告人とDとの婚姻関係が有効であるこ
とが判決によって確定していた上、被上告人は、その後にDから提起された離婚請
求訴訟についても応訴するなどしていたことからもうかがわれるように、被上告人
の活動は、日本人の配偶者の身分を有するものとしての活動に該当するとみること
ができないものではない。そうであれば、右在留資格変更許可処分の効力いかんは
さておくとしても、少なくとも、被上告人の在留資格が「短期滞在」に変更される
に至った右経緯にかんがみれば、上告人は、信義則上、「短期滞在」の在留資格に
よる被上告人の在留期間の更新を許可した上で、被上告人に対し、「日本人の配偶
者等」への在留資格の変更申請をして被上告人が「日本人の配偶者等」の在留資格
に属する活動を引き続き行うのを適当と認めるに足りる相当の理由があるかどうか
につき公権的判断を受ける機会を与えることを要したものというべきである。
 三 以上によれば、被上告人が平成三年七月六日にした在留期間の更新申請に対
し、これを不許可とした本件処分は、右のような経緯を考慮していない点において、
上告人がその裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものであるとの評価を免
れず、本件処分を違法とした原審の判断は、結論において是認することができる。論
旨は採用することができない。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    大   野   正   男
            裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    尾   崎   行   信

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