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平成28年1月20日判決言渡
平成27年(行コ)第240号各退去強制令書発付処分等取消請求控訴
事件(原審・東京地方裁判所平成26年(行ウ)第205号,同第207号及び同第
208号)
1原判決を取り消す。
2被控訴人らの各請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
主文同旨
第2事案の概要等
1事案の要旨
本件は,バングラデシュ人民共和国(以下「バングラデシュ」とい
う。)の国籍を有する外国人の家族(夫婦とその子)である被控訴人
らが,それぞれ,出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)
所定の退去強制対象者に該当する(退去強制事由は被控訴人P1(夫,
以下「被控訴人父」という。)が不法入国,被控訴人P2(妻,以下
「被控訴人母」といい,被控訴人父と併せて「被控訴人父母」という。)
と被控訴人P3(子,以下「被控訴人子」という。)が不法残留)と
の認定に係る異議の申出には理由がない旨の各裁決及び退去強制令書
を発付する各処分を受けたのに対し,被控訴人父と被控訴人子が難病
等により本邦での治療を必要としており,被控訴人母がその看護をす
ることが必要であるなどの事情があるにもかかわらず,被控訴人らの
在留を特別に許可しなかった上記各裁決及びこれらを前提としてされ
た上記各処分はいずれも違法であると主張して,これらの取消しを求
める事案である。
                 1
主    文
原判決は,被控訴人らの各請求をいずれも認容したので,これを不
服とする控訴人が,原判決を取り消し,被控訴人らの各請求をいずれ
も棄却することを求めて控訴した。
2前提事実並びに争点及び主たる争点についての当事者の主張の要旨
(1)前提事実並びに争点及び主たる争点についての当事者の主張の要
旨は,下記(2)のとおり当事者の当審における各補充主張を摘示する
ほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要」の2及
び3並びに「第3主たる争点についての当事者の主張の要旨」に記
載のとおりであるから,これを引用する。
(2)当事者の当審における補充主張
ア控訴人
(ア)原判決の判断の枠組みの誤りについて
原判決は,外国人が本邦の社会制度や医療水準を前提とした医
療を受ける地位又は利益が法的に保障されているわけではない
との一般論を認めつつ,外国人が本邦滞在中にたまたま難病とさ
れる疾病等に罹患し,本邦での治療が奏功しており,他方で国籍
国では十分な治療が受けられず重症化が見込まれるといった事
情がある場合は,別異に解する余地があるとしている。
しかし,国民の保護は,第一義的には,国籍国がその責任を負
うものであり,国籍国に強制送還されることにより本邦と同等の
医療水準での医療を受けられなくなるとしても,そのことは,直
ちに,在留特別許可を認めなかった裁決の違法事由となるもので
はない。もともと,在留特別許可が,退去強制事由があり強制送
還を余儀なくされる外国人に対し,恩恵的に与えられるものであ
ることからは,人道的配慮の見地から極めてやむを得ない例外的
な場合にそれが付与されることがあるとしても,それは,国籍国
に帰国後直ちに生命に危険が生じるような事態に陥る可能性が
あるとき,本邦から国籍国への移動を困難とするような重篤な病
状であるとき,本邦でなければ治療ができないような重篤な病状
であるときなど,その病状が生命に関わるほど重篤で,極めて高
度の治療の必要性及び緊急性並びに病状が重症化する切迫性が
認められる場合等に限られるべきである。原判決の判断枠組みは,
例外的な場合を不当に広く認めるものであって誤っている。
なお,入管法は,法務大臣等が,在留特別許可の許否の判断を
するに当たって,特定疾患の対象疾病に罹患している外国人の現
在の病状を把握し,国籍国に送還した場合の重症化の見込み等に
関する国籍国の医療事情や,当該外国人の具体的な資産状況等を
子細に調査することまでは要求しておらず,具体的に何をどの程
度調査するかは,法務大臣等の裁量に委ねられているというべき
である。
原判決が挙げている社会権規約(国際人権A規約)12条1項
及び2項は,個人に対し即時に具体的権利を付与すべきことを定
めたものではなく,また,外国人が,国費による負担を前提とし
た医療上の処遇を受けることを保障するものではない。原判決の
判示は,法務大臣等に付与された広範な裁量権を不当に制約する
ものである。
また,児童条約も,外国人に本邦に在留する権利を保障するも
のではない。
(イ)被控訴人父に関する本件裁決の判断について
a潰瘍性大腸炎は必ずしも重篤な病気ではなく,適切な内科的
治療により寛解状態を維持でき,日本では,著しい制限を受け
ることなく就労等を含む日常生活を営むことが可能な「軽快者」
と認定されることが多い。さらに,生命予後は健常人と同等で
ある。
日本国内の統計(平成4年のもの)によると,潰瘍性大腸炎
のうち,直腸炎型,初回発作型,軽症について,それらの手術
例の割合及び死亡例の割合はいずれも高くない(死亡例は,そ
れぞれ,直腸炎型で0.4パーセント,初回発作型で0.7パ
ーセント,軽症で1.1パーセント程度)。
そして,被控訴人父の潰瘍性大腸炎は,直腸炎型,初回発作
型,軽症であるので,今後も5-ASA薬剤の服用により寛解
状態を維持できると見込まれる(なお,被控訴人父が,平成2
0年4月2日から1か月程度入院したのは,潰瘍性大腸炎の悪
化を原因とするものではなかった可能性が高い。)。現に,被
控訴人父は,潰瘍性大腸炎発症後も,特段の問題なく稼働して
きた。
bバングラデシュにおいて,潰瘍性大腸炎の治療薬である5-
ASA薬剤として,メサラジンだけでなく,スルファサラジン
含有薬も流通している。そして,これらはいずれも,ダッカ市
内及びムンシゴンジ市内の公立病院やコミュニティクリニック
で処方され,あるいは,医師の処方箋があれば上記各市内の薬
局で購入可能である。
そして,バングラデシュの2010年(平成22年)の月平
均世帯収入は1万タカを超えており(原判決の認定した500
0~6000タカは誤りである。),また,被控訴人らは,バ
ングラデシュで親族の援助を受けることが期待できる。そうす
ると,1か月の薬代が約1600タカ余りとして(なお,スル
ファサラジンであればもっと安価となる。),被控訴人父が,
バングラデシュにおいて,潰瘍性大腸炎の治療薬を購入し続け
ることは十分可能である。
仮に,被控訴人父の潰瘍性大腸炎が再燃したとしても,5-
ASA薬剤の投与量を増やしたり,服用の方法を変えたり,ス
テロイド剤を投与するなどの方法で寛解導入を図ることができ,
直ちに外科手術等が必要となるとはいえない。さらに,中低所
得層が利用するバングラデシュの公立病院でも,内視鏡検査や,
服薬では対応できないほど症状が悪化した場合の外科手術が行
われており,その費用が,被控訴人父母が捻出できないほどの
額であるとはいえない。
c以上に加え,被控訴人父の入国及び在留状況が悪質であるこ
と,東京入管に出頭して入管法違反の事実を申告したことを過
大に評価すべきではないこと等を併せ考慮すると,被控訴人父
に係る在留特別許可をしなかった判断に裁量権の範囲の逸脱又
はその濫用があったとはいえない。
(ウ)被控訴人子に関する本件裁決の判断について
a停留精巣による悪性腫瘍の発生頻度は極めて低く,生死に関
わる重大な疾病とはいえない。
b本件各裁決時において,バングラデシュの病院でも停留精巣
の手術は行われており,また,被控訴人父母はその費用を捻出
することができた。
cバングラデシュにおいても,停留精巣の手術後の定期的な経
過観察を受けることは可能である。
d被控訴人子は,本件各裁決時4歳であって,バングラデシュ
に帰国後すぐに周囲の環境に慣れることが可能である。
なお,被控訴人父母の不法な在留の継続により築かれた諸事
情を,被控訴人子の在留特別許可の判断において格別にしんし
ゃくすることは相当でない。
e被控訴人父母について在留特別許可を付与すべきでないこ
とは,前記(イ)及び後記(エ)のとおりである。
f以上からは,被控訴人子に在留特別許可を付与しなかった判
断に,裁量権の範囲を逸脱し,又はそれを濫用した違法がない
ことは明らかである。
(エ)被控訴人母に関する判断について
被控訴人母の入国及び在留の状況が悪質であること,東京入管
に出頭して入管法違反の事実を申告したことを過大に評価すべ
きではないことに加え,被控訴人母が監護養育すべき被控訴人子
がバングラデシュに帰国することについて特段の支障があると
は認められないこと等からは,被控訴人母に在留特別許可を付与
しなかった判断に,裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用した違法が
ないことは明らかである。
(オ)本件各退令発付処分の適法性について
本件各裁決が適法である以上,それを前提とする本件各退令発
付処分もまた適法なものである。
イ被控訴人ら
(ア)原判決の判断の枠組みについて
aガイドラインは,特に考慮する積極要素として,「難病等に
より本邦での治療を必要としていること」を明示しており,控
訴人が主張するような「その病状が生命に関わるほど重篤で,
極めて高度の治療の必要性及び緊急性並びに病状が重症化する
切迫性が認められる場合」などという限定はない。
また,社会権規約12条及び児童条約は,法務大臣等の裁量
権を制約する根拠となる。
b控訴人は,在留特別許可の許否の判断について,当該外国人
の行状といった個別事情のみならず,国内の治安や善良風俗の
維持,保健衛生等の政治,経済,社会等の諸事情,外交関係な
どの諸般の事情を総合考慮すべきであるとして,各種事情の考
慮の重要性を強調しているのに,他方で法務大臣等がそれらの
各事情の調査義務を負わないと主張することは矛盾している。
(イ)被控訴人父に関する本件裁決の判断について
aバングラデシュの医療状況及び衛生環境は劣悪である。すな
わち,バングラデシュでは,世界平均と比べて,人口当たりの
医師及び看護師の不足が深刻である。また,医師の技術力も劣
り,更には医療に必要な機材や物資も不足している。
公立病院の診療費用は安価であるが,著しく混雑しており,
緊急時であっても長時間待たされることがある。
民間病院は優れた医療を提供しているが,費用が高く,一定
の富裕層でなければ利用できない。
市販されている薬について,模倣品(偽薬),保管状態の悪
いもの又は有効期限切れのものが流通しており,信頼性及び安
全性に疑問がある。
b被控訴人父が,バングラデシュにおいて5-ASA薬剤を購
入し服用し続けることは不可能である。
まず,メサラジンは,公立病院向けに発せられた必須医薬品
リストに入っておらず,入手性に劣る。
また,処方箋作成の費用もかかることを考慮すると,その入
手には,平均的な収入に比して過分な費用を要する。バングラ
デシュでは,平均収入が増えているものの激しいインフレーシ
ョンにより支出も増加しており,平成22年のバングラデシュ
の1世帯の月当たりの可処分所得の平均は,国全体で280タ
カであり,地方部では36タカにすぎない。月額1600タカ
を超える薬代(なお,これに,薬を入手するための診療代,処
方箋代が加算される。)を被控訴人父が負担することは不可能
である。
控訴人は,メサラジンより安価なスルファサラジンが流通し
ている旨主張する。しかし,メサラジンは,スルファサラジン
の副作用を取り除いた改良薬であり,これが普及したことによ
り潰瘍性大腸炎の患者の重症度が大きく改善した。被控訴人父
が,わさわざ副作用の強い薬を選択することは社会通念上あり
得ない。
c前記のとおり,バングラデシュの公立病院で提供されている
医療が劣っていること,また,可処分所得が少なく,高額な民
間病院の費用を賄えないことからは,被控訴人父は,定期的な
内視鏡検査や,症状が悪化した場合の手術を受けることもでき
ない。
d被控訴人父の症状について,潰瘍性大腸炎に罹患してから約
10年が経過していること自体が重篤であるといえる。
被控訴人父が平成20年4月2日から同月28日まで入院
したことについて,仮にそれが潰瘍性大腸炎のためではなく,
O29の感染によるものであったとしても,潰瘍性大腸炎によ
り被控訴人父の体が弱っていたことに加え,衛生状態が劣悪な
バングラデシュに一時帰国した際に感染したものと推測できる
から,被控訴人父をバングラデシュに帰国させることは,その
健康を著しく害する。
e以上からは,被控訴人父に在留特別許可を付与しなかった判
断には,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるというべきで
ある。
(ウ)被控訴人子に関する本件裁決の判断について
a妊孕力(にんようりょく)は,人間の最も基本的な権利であ
る生殖の自由に係るものであり,それを損ないかねない停留精
巣は重大な疾病である。
b前記のとおり,バングラデシュでは,人口当たりの医師や看
護師の数が少なく,病院のベッドも不足している。なお,腹腔
鏡による停留精巣の手術は,公立病院では行われていないと思
われる。
また,バングラデシュでは,平均的な収入に比して,停留精
巣の手術の費用は著しく高額である。
したがって,被控訴人子は,バングラデシュでは,早期に停
留精巣の手術を受けることはできなかった。
cよって,被控訴人子に在留特別許可を付与しなかった判断に
は,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるというべきである。
(エ)被控訴人母に関する本件裁決の判断について
被控訴人母の入国及び在留状況は悪質なものであるとはいえ
ない。
そして,被控訴人母は,被控訴人子の監護養育をするものであ
り,被控訴人子と分離することは相当でない。
したがって,被控訴人母に在留特別許可を付与しなかった判断
には,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるというべきである。
第3当裁判所の判断
1当裁判所は,原審で採用されたもののほか,当審で新たに取り調べ
た証拠に照らし,本件各裁決及び本件各退令発付処分の取消しを求め
る被控訴人らの各請求はいずれも理由がなく,棄却すべきものと判断
する。その理由(当事者の当審における各補充主張についての判断を
含む。)は,下記2のとおり補正した上で引用する原判決の「事実及
び理由」中の「第4当裁判所の判断」のとおりである。
2原判決の補正
(1)26頁8行目から9行目にかけての「一次的」を「一時的」に改
める。
(2)同15行目の「P4」を「P5」に改める。
(3)29頁10行目冒頭から同行目末尾までを以下のとおり改める。
「再燃寛解型(再燃と寛解を繰り返すもの),慢性持続型(寛解期
がほとんどみられないもの),急性劇症型(発症から急激に症状
が悪化し重篤な状態に陥るもの),初回発作型(最初のみ症状が
出て,その後は寛解状態を維持するもの)」
(4)30頁1行目の「対外」を「体外」に改める。
(5)31頁11行目の「定期的に」を「定期的な受診や」に改める。
(6)同12行目末尾の次に以下のとおり加える。
「ただし,内視鏡検査について,どれくらいの頻度で行うべきかは
一概にはいえず,腸管の状態を悪化させる可能性もあるので必要以
上に行うのは相当でないとの見解がある。」
(7)同23行目末尾の次に以下のとおり加える。
「そして,血液障害,肝機能障害及び腎機能障害を有する患者や,
乳幼児,妊婦及び授乳婦に投与する際には注意が必要とされてい
る。」
(8)同26行目の「SP」を「副作用の主原因となるスルファピリジ
ン(SP)」に改める。
(9)32頁1行目の「治療薬である。」の次に「これにより,平成3
年頃から平成17年にかけて,患者の重症度が大きく改善された。」
を加える。
(10)同3行目末尾の次に以下のとおり加える。
「これには,腹痛,下痢,吐き気等の副作用があり,また,腎機能
及び肝機能の低下している者に対しては慎重に用いられるべきと
されている。なお,メサラジンは,主として緩解導入療法に用いら
れるものであり,近時は緩解維持目的に使用されないことが多いと
いう見解もある。」
(11)同6行目の「甲23,」の次に「26,」を加える。
(12)同9行目の「原告父は,」の次に以下のとおり加える。
「内視鏡検査で,そのほとんどの所見である「血管透見像消失,易
出血性,粗糙(そそう)又は細顆粒状粘膜,びらん・潰瘍,連続性
病変」があるとされ,生検病理検査でも「異形成」を除いた全ての
所見である「びまん性炎症性細胞浸潤,びらん,陰窩膿瘍,杯細胞
の減少又は消失,腺の配列異常」があるとされた。」
(13)33頁13行目の「診断された。」の次に「なお,この検査で,
被控訴人父の糞便からO29が検出された。」を加える。
(14)同15行目の「○」の次に「。これは,各種感染症に効能のある
合成抗菌剤であるが,潰瘍性大腸炎の患者に投与されるものではな
い。」を加える。
(15)同19行目の「30」の次に「,乙43,44」を加える。
(16)同20行目冒頭から同25行目末尾までを以下のとおり改める。
「ク被控訴人父は,平成21年2月6日,愛知県○市所在のP6
病院において,内視鏡検査及び生検病理検査を受け,平成17年1
2月9日の同各検査において存在するとされた前記イの各所見の
うち,びまん性炎症性細胞浸潤はあるとされたものの,それ以外の
全ての所見はないとされた。また,被控訴人父は,平成21年4月
10日,同病院で,便検査及び血液検査を受け,便の出血はなく,
腹部の疼痛もないとされた。被控訴人父は,同月16日,同病院の
医師から,潰瘍性大腸炎の病名で,その病態が「初回発作型」,最
近1年以内の重症度が「軽症」,最近の罹患部位が「直腸,結腸,
盲腸」,現在の治療が「5-ASA製剤」などと診断された。(甲
31,乙43,44)」
(17)34頁10行目の「(乙9)」を以下のとおり改める。
「その結果,盲腸及び直腸にごく軽度の炎症所見があるが,活動性
病変はなく,直腸の炎症の活動性(Mattsgrade)は,5段階の1
(正常)から2の間とされた。
それ以降,被控訴人父は,大腸内視鏡検査を受けていない。(乙
9,43,44,56)」
(18)35頁3行目の「8,」を削除する。
(19)同7行目末尾の次に,改行の上以下のとおり加える。
 P7医療センターのP8医師は,平成27年7月14日の法務省
入国管理局の職員による聴き取り調査に対し,被控訴人父につい
て,今後も現在と同様の投薬を続ける必要があり,そうすれば寛
解状態を維持できると思われること,平成24年以降被控訴人父
の症状が特に悪化したということはないこと,内視鏡検査は必ず
しも定期的に行うべきものではなく,また,金銭的な理由もあっ
て実施していないこと,潰瘍性大腸炎は,衛生状態の善し悪しと
直接関連するものではないこと等を述べている。(乙44,56)」
(20)38頁5行目から6行目にかけての「薬局に併設された医院」の
次に「(以下「薬局併設医院」という。)」を加え,同行目の2番
「テ
目,同7行目及び同8行目の各「医院」をいずれも「薬局併設医院」
に改める。
(21)39頁2行目冒頭から同4行目末尾までを以下のとおり改める。
「バングラデシュにおいて,医薬品は薬局で購入することができ
るが,日本の外務省は,邦人の渡航者に対して,高温多湿の中で保
管されたまま販売されたり,有効期限が切れている薬品も少なくな
く,信頼性,安全性に疑問があるので,医薬品等は可能な限り自分
で調達することを勧めている。」
(22)同10行目末尾の次に改行の上以下のとおり加える。
「ただし,伝染病(マラリア)の発症数が,平成20年をピーク
に減少を続け,それによる死者数は,平成18年以降顕著に減るな
ど,衛生環境の改善をうかがわせる事情もある。(甲41)」
(23)40頁6行目冒頭から同8行目末尾までを以下のとおり改める。
「(ウ)バングラデシュ保健家族福祉省の医薬品管理局は,そのデー
タベースに,メサラジン(Mesacol)や複数の製薬会社のスルフ
ァサラジン薬を登録している。(乙46)
(エ)ダッカ市内及びムンシゴンジ市内の公立病院及びコミュニテ
ィクリニックで,メサラジンやスルファサラジンは処方され,ま
た,医師の処方箋があれば同各市内の薬局でも購入可能である。
(乙47ないし49,62)
(オ)2013年(平成25年)9月5日現在の為替レートによれば,
1円は0.78121タカ(バングラデシュ・タカ)に換算され
る。(乙36)
ウバングラデシュにおける大腸内視鏡検査及び潰瘍性大腸炎の外
科手術等
バングラデシュの病院(公立病院を含む。)でも,大腸内視鏡
検査及び潰瘍性大腸炎の外科手術は行われている。
内視鏡検査の費用は,140米ドルないし150米ドル(1万
タカないし1万1000タカ程度)である。潰瘍性大腸炎の手術の
費用は,650ないし700米ドル(5万タカ前後)である。
なお,外科手術に至らない程度の場合の(あるいは外科手術を
選択する前の),寛解状態に導入するためのステロイド剤の投与の
治療も行われている。(乙48,49,弁論の全趣旨)
エ停留精巣の治療について
バングラデシュの公立病院において,停留精巣又は非触知精巣
患者について,外科手術(精巣固定術)が行われている。その費用
は,600米ドル程度(4万5000タカ程度)である。(乙47,
49,弁論の全趣旨)」
(24)43頁19行目から54頁21行目までを以下のとおり改める。
「ウ送還による支障
(ア)認定事実(1)アによれば,被控訴人父は,バングラデシュで
成育し,母国語であるベンガル語の読み書き及び会話に不自由
はなく,親族がいずれもバングラデシュで生活していることか
らすると,被控訴人父がバングラデシュで生活すること自体に
特段の支障はない。
(イ)他方で,認定事実(3)から(5)までによれば,被控訴人父は,
平成17年12月頃から本件各不許可判断までの間,発症の原
因が解明されておらず,日本の特定疾患治療研究事業の対象と
されている潰瘍性大腸炎に罹患し,治療を受けていることが認
められる。
認定事実(3)及び(4)のとおり,一般に,潰瘍性大腸炎に罹患
した患者は,炎症を抑える効能を有し,下血等の症状を著しく
緩和させる5-ASA薬剤の投与を中心とする内科的治療に
より症状が消失して寛解し,発症前と同様の日常生活を送るこ
とができる。ただし,その症状は再燃することがあり,その場
合に,炎症が広範囲に及び,更には炎症を長期間放置すると癌
等の合併症を引き起こすおそれもあることから,寛解の状態を
維持するため,たとえ重症度において軽症と診断されたとして
も,上記の内科的治療を継続的に受けるとともに,適宜内視鏡
検査を受ける必要がある。そして,症状が再燃した場合には,
寛解導入のためステロイド剤等の投与を受け,それでも対処で
きないときは外科手術を受けることになる。
認定事実(5)のとおり,被控訴人父は,平成17年12月に
潰瘍性大腸炎を発症してから現在に至るまで,重症度において
軽症であり,また病態が初回発作型(当初症状が出る以外は,
寛解状態が継続するもの)であると診断され,現に5-ASA
薬剤の投与を内容とする通院治療によって日常生活を送るこ
とができている。被控訴人父は,平成20年4月に約1か月に
わたる入院をしたことがあるものの,その後は,入院加療を要
する状態になったことはない(そもそも,上記入院は,潰瘍性
大腸炎の悪化によるものでなく,O29の感染によるものと推
認できる。)。なお,被控訴人父は,複数回にわたって内視鏡
検査を受けているが,平成24年6月以降は受けていない。
そうすると,被控訴人父は,今後も,本邦におけるのと同様
の通院治療を継続することができるのであれば,健常人と同じ
生活を送っていくことが可能であると認められる。
なお,認定事実(5)エ及び上記3のとおり,被控訴人父は,
平成19年9月に本件一時帰国をした際,日本の医療機関から
処方されていた5-ASA薬剤(○)を持参して投与していた
が,バングラデシュにおいて潰瘍性大腸炎の症状が出たことか
ら,同国の公立病院であるP9病院で受診したところ,同病院
で治療を受けている間には,完全な寛解状態に至らなかった。
もっとも,前記認定のとおり,被控訴人父の症状が,日常生活
が困難になる程度にまで悪化したとは認められず,また,本件
一時帰国を終えた直後の段階で,直ちに特別の治療を必要とす
る程度にまで悪化していたとまではうかがわれないことに加
え,前記認定に係るその後の被控訴人父の加療状況等も考慮す
ると,同人の潰瘍性大腸炎が軽症かつ初回発作型であるとの診
断が覆るものではなく,5-ASA薬剤の服用を続けることに
より寛解状態を維持できる蓋然性は肯定される。
また,日本と比較して,バングラデシュの衛生状態がよくな
いとしても,そもそも衛生状態が潰瘍性大腸炎の悪化に直接影
響するとはいえないから,そのことに関して,日本で生活する
のとバングラデシュで生活することとの間で有意な差があると
は認められない。
(ウ)被控訴人父が,日本におけるのと同様の服薬治療を,バングラ
デシュでも継続して受けられるか否か検討する。
認定事実(8)のとおり,バングラデシュにおいて利用可能と
される潰瘍性大腸炎の治療薬としては,メサラジン(5-AS
A薬剤)及びスルファサラジンがあり,被控訴人父の親族が居
住するダッカ市内又はムンシゴンジ市内のいずれでも,一般の
人は,医師の処方箋があれば,それらの治療薬を容易に入手し,
服用することができると認められる。
なお,被控訴人らは,バングラデシュでは薬品の保管状況が
劣悪であり,さらには偽薬も流通している旨指摘し,証拠(甲
12,13の1及び2,15の1及び2,54の1ないし7)
によれば,そのような事例があると認められるものの,その発
生頻度は明らかでなく,有効な5-ASA薬剤が流通し容易に
入手できるとの前記認定は覆されない。
(エ)被控訴人父が,帰国後もこれまでと同じメサラジンを服用す
るとして,バングラデシュで入手できる5-ASA薬剤の1つ
である「○」の値段は,1セット(400mg・50包)361.
50タカ(本件各裁決の当時の為替レートで約463円)であ
ることが認められるところ,前記認定のとおり,被控訴人父が
服用していたメサラジンの量は1日当たり3000mgであっ
たから,これと等しい量を服用することを前提とすると,被控
訴人父が今後も5-ASA薬剤の服用を継続するためには,1
か月を30日とすると,毎月,「○」を4.5セット分購入す
る必要があり,その値段は1626.75タカ程度となる。
そして,バングラデシュにおける本件各裁決時の世帯毎の平
均的な月収は1万タカ前後であり,支出もそれよりわずかに少
ない程度であると認められることからすると(乙51),被控
訴人父が,同国において,被控訴人母子を扶養するなどしつつ,
バングラデシュの平均的な1か月当たりの支出額の16パー
セント程度に当たる毎月1600タカを超える値段の5-A
SA薬剤を購入し続けることは,別途診察料(これは,公立病
院であれば10から50タカであり,薬局併設医院でも100
から300タカ程度であって,被控訴人父の日本における受診
状況からは,2か月ないし3か月に1回程度で足りると解され
る(乙44)。)及び処方箋の作成代(以上は,合計して20
0タカ程度と見込まれる(甲48の1)。)等を考慮しても,
可能であると認められる。
なお,被控訴人らは,統計上の世帯毎の平均収入は,富裕層
や海外からの送金を受けている世帯のそれを含むもので,そう
でない家庭の収入はもっと少なく,あるいは,バングラデシュ
の平均的な世帯毎の可処分所得は全国平均で300タカに満
たず,地方部では36タカ程度であって,被控訴人父は,必要
な医療費を到底支払えない旨指摘する。
前者について,被控訴人父は,潰瘍性大腸炎に罹患した後も,
日本において相当額の稼働収入を得てきたものであり(原審被
控訴人父本人),バングラデシュにおいても平均的な稼働収入
が得られると推認できる。後者について,上記統計上の支出は,
医療上の支出を含むものと解することができ,あるいは,可処
分所得だけから潰瘍性大腸炎の医療費が支出されるとは断定
できないから(被控訴人父に,潰瘍性大腸炎以外の持病がある
とは認められない。),やはり前記認定を覆すものではない。
(オ)以上のとおり,被控訴人父は,バングラデシュに帰国した場
合においても,日本におけるのと同様,適切な薬剤を治療に必
要な数量入手して,潰瘍性大腸炎に対する効果的な治療を継続
して受け,寛解状態を維持することができる蓋然性があると認
められる。
(カ)前記認定のとおり,潰瘍性大腸炎は,5-ASA薬剤の服用
によって内科的に大腸粘膜の異常な炎症を抑えることができ
ない場合には,症状が重症化し,ステロイド剤の投与や外科的
治療が必要となる場合もあり得るとされ,また,大腸癌の発症
リスクが高まること等に備えて適宜内視鏡検査を受ける必要
があるとされている。
しかし,そもそも,被控訴人父において,それらの将来的な
要否,時期ないし頻度は不明である上(前記認定のとおり,潰
瘍性大腸炎の内視鏡検査についても,患者の状態に応じて適宜
行えば足りるものであり,現に被控訴人父は平成24年6月以
降受けていない。),この内視鏡検査,ステロイド剤の投与及
び外科手術はバングラデシュでも行われている。そして,それ
らのうち,内視鏡検査や外科手術の各費用は,バングラデシュ
の平均的な世帯の収入に比して高額ではあるが,被控訴人父母
が貯蓄をし,あるいはそれぞれの親族の援助を受けるなどして
それらの費用を捻出することは可能であると認められる。
したがって,被控訴人父は,バングラデシュにおいても,潰
瘍性大腸炎の重症化を早期に発見するための診察や,万が一重
症化した場合の寛解導入のための適切な医療を受けられる蓋
然性があると認められる。
(キ)以上を総合考慮すると,被控訴人父が,難病とされる潰瘍性
大腸炎に罹患しその治療を必要としているとしても,本邦での
それが必要であるとは認められず,この点について,同国に送
還することには支障はないというべきである。
エ被控訴人父に在留特別許可を付与しないとの判断の当否
被控訴人父について,在留特別許可を付与しないという判断を
した東京入管局長は,被控訴人父が潰瘍性大腸炎に罹患している
という事実を認識しつつ,その治療方法は日本とバングラデシュ
とで大きく異なることはないこと,被控訴人父の病状が重篤では
ないことなどから,難病等により本邦での治療を必要としている
とはいえず,送還に支障はない旨判断したと認められるところ,
前記のとおり,被控訴人父がバングラデシュに帰国した場合でも,
適切な薬剤を治療に必要な数量入手して潰瘍性大腸炎に対する
効果的な治療を継続でき,仮に潰瘍性大腸炎の症状が再燃した場
合でも外科的措置を含め必要かつ適切な治療を受けられのであ
って,難病とされる潰瘍性大腸炎により本邦での治療を必要とす
るとは認められないのであるから,東京入管局長の前記の判断に
は,判断の基礎とされた重要な事実に誤認があり,又は事実に対
する評価が明白に合理性を欠いていたとはいえない。
そうすると,東京入管局長がした被控訴人父に在留特別許可を
付与しないとの判断は,被控訴人父の入国及び在留の状況が相当
に悪質であるという消極要素(上記イ)も考慮すると,社会通念
に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるとはいえない。
(2)被控訴人子についての検討
ア退去強制事由
前提事実(4)エのとおり,被控訴人子は,平成22年9月10
日を超えて,在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経
過して本邦に残留したから,入管法24条4号ロ(不法残留)に
該当し,原則として本邦から当然に退去すべき地位にある。
イ入国及び在留の状況
もっとも,前記2(2)カのとおり,被控訴人子は,本邦に在留
していた被控訴人父母の子として出生し,そのまま本邦に留まる
ことによって不法残留となったのであるから,被控訴人子には不
法残留となったことについて責めに帰すべき事由はなく,その境
遇には同情すべき点がある。
しかも,前提事実(6)アのとおり,被控訴人子は,親である被
控訴人父母と共に本件出頭申告をし,その不法残留が長期化する
ことが防止されている。
以上の点は,被控訴人子の在留特別許可に関する判断に当たり,
積極要素として考慮されるべきである。
ウ送還による支障
(ア)認定事実(6)及び(7)のとおり,本件各不許可判断の当時,被
控訴人子は,停留精巣に罹患し,手術を実施する必要性が高か
ったのであって,これを放置しておけば,妊孕力が低下すると
ともに,精索の捻転や外傷等によって精巣に悪影響を生じ,悪
性腫瘍の発生頻度も高くなることが懸念されていたものと認
められる。しかし,認定事実(8)のとおり,バングラデシュに
おいても,停留精巣の手術を受けることは可能であった。そし
て,バングラデシュにおける停留精巣の手術の費用は,平均的
な世帯毎の収入額に比して相当高額であるものの,被控訴人父
が,少なくとも平成24年11月頃まで稼働して相当額の収入
を得ていたことに照らすと,本件各裁決時にそれを受けること
は可能であったと推認できる。すなわち,被控訴人子は,バン
グラデシュに帰国した場合に,早期に上記の手術等適切な治療
を受けることができたと認められる(なお,認定事実(7)ウの
とおり,被控訴人子は,平成26年9月,日本で停留精巣を治
療するための手術を受け,成功している。)。
また,停留精巣の予後に照らすと,その手術の後も定期的に
経過観察を受けていくことが望ましいと認められるところ,こ
れについても,バングラデシュにおいて停留精巣の手術が行わ
れていることからは,被控訴人子が同国に帰国した場合に適切
な診療を受けることができると認められる。
(イ)認定事実(2)のとおり,被控訴人子が,これまで一貫して本
邦で生活してきており,近所の児童らとの交流を通じるなどし
て日本語を習得しつつあり,本邦の生活環境に適応していると
しても,本件各不許可判断の当時,被控訴人子は4歳といまだ
幼く,環境の変化に対する順応性を十分に有していることが推
認されるから,両親である被控訴人父母と共にバングラデシュ
に帰国して,時間が経過するにつれて同国の生活環境に慣れ親
しむことは十分に可能であるということができる。
そして,前記(1)及び後記(3)のとおり,被控訴人父母がバン
グラデシュに送還されることにつき特段の支障があるとは認
められない以上,被控訴人子の在留特別許可に関する判断に当
たっては,被控訴人父母が同国に帰国することを前提とするこ
とができる。すなわち,被控訴人子をバングラデシュに送還す
ることにより親子の断絶が生じることを考慮する必要はない。
(ウ)したがって,被控訴人子は,本件各不許可判断の当時も現時
点においても,バングラデシュに送還されることにつき特段の
支障はないというべきである。
エ被控訴人子に在留特別許可を付与しないとの判断の当否
以上を総合考慮すれば,被控訴人子は,その境遇に同情すべき
点があり,自ら入管に出頭していることを積極要素として考慮す
るとしても,日本において停留精巣の手術及びその後の経過観察
を受けることが必要とはいえなかったことからは,被控訴人子に
在留特別許可を付与しないという東京入管局長の判断は,その基
礎とされた重要な事実に誤認があり,又は事実に対する評価が社
会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明らかであるとは
認められない。
(3)被控訴人母についての検討
ア退去強制事由
前提事実(3)カのとおり,被控訴人母は,平成22年9月15
日を超えて,在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経
過して本邦に残留したから,入管法24条4号ロ(不法残留)に
該当し,原則として本邦から当然に退去すべき地位にある。
イ入国及び在留の状況
前提事実(3)及び認定事実(2)によれば,被控訴人母は,被控訴
人父の指示を受けるなどして,ブローカーから夫が他人(P10)
名義となっている虚偽の本件婚姻証明書を入手した上,平成17
年9月,これに基づいて取得した在留資格認定証明書を行使し,
不正に在留資格を取得して本邦に上陸した。しかも,被控訴人母
は,その後も,被控訴人父の指示を受けるなどして夫を他人名義
とする虚偽の申請を繰り返し行い,その結果,2回にわたる在留
資格の変更許可を,5回にわたる在留期間の更新許可をそれぞれ
不正に受け,本件各不許可判断がされるまでの8年以上もの間,
不正な在留を継続した。
また,前提事実(5)のとおり,被控訴人母は,平成17年9月
の入国後,平成24年7月に外国人登録法が廃止されるまで,約
7年もの長期にわたり,虚偽の事項で外国人登録をし,もって同
法18条1項2号に違反していた。
以上のとおり,被控訴人母の入国及び在留の状況は,出入国管
理行政上これを看過することはできず,被控訴人母の在留特別許
可に関する判断に当たり,消極要素として考慮されるべきである。
他方で,前提事実(6)アのとおり,被控訴人母は,遅きに失し
たとはいえ,本件出頭申告をし,その不正な在留がこれ以上長期
化するのを自発的に防止したのであるから,この点は,上記の消
極要素を減殺するものとして評価することができるものである。
ウ送還による支障
認定事実(1)イのとおり,被控訴人母は,バングラデシュで成
育し,母国語であるベンガル語の読み書き及び会話に不自由はな
く,親族がいずれもバングラデシュで生活している上,健康状態
にも格別問題はないことからすると,バングラデシュへ送還され
ることに特段の支障はないものといえる。
そして,前記(2)のとおり,被控訴人子が,本邦に在留する必
要があったとは認められないのであるから,その監護養育を行う
被控訴人母についても,バングラデシュに送還されることにつき
特段の支障があるとるとは認められない。
エ被控訴人母に係る本件各不許可判断の当否
以上のとおり,被控訴人母が,自ら入管に出頭していることを
積極要素として考慮するとしても,前記のとおり被控訴人子が本邦
で治療を受けるため在留する必要があるとは認められないのであ
るから,被控訴人母に在留特別許可を付与しないという東京入管局
長の判断は,その基礎とされた重要な事実に誤認があり,又は事実
に対する評価が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明
らかであるとは認められない。
(4)補足
ア被控訴人らは,ガイドラインの「難病等により本邦での治療を
必要としていること」との積極要素について,何ら限定が付され
ておらず,また,社会権規約12条や児童条約に照らし,法務大
臣等の裁量権が制約されるため,被控訴人父子について在留特別
許可が与えられるべきであり,さらに,本件出頭申告を重く考慮
すべきである旨主張する。
イしかしながら,前記1のとおり,外国人は本邦の社会制度や
医療水準を前提とした医療を受ける法的地位又は利益を保障さ
れておらず,低所得者でも十分な医療を受けることのできる体制
を充実させる第一義的な責務を負うのは当該外国人の本国であ
る。我が国が締約国となっている社会権規約12条1項が,「こ
の規約の締約国は,すべての者が到達可能な最高水準の身体及び
精神の健康を享受する権利を有することを認める」と定め,同条
2項が,「この規約の締約国が1の権利の完全な実現を達成する
ためにとる措置には,次のことに必要な措置を含む」として,「病
気の場合にすべての者に医療及び看護を確保するような条件の
創出」を挙げているとしても,それは,個人に対して具体的な権
利を付与したものとは認められない。また,このことは,児童条
約においても同様である。
そして,少なくとも,外国人が本邦滞在中にたまたま難病とさ
れる疾病等に罹患したことから本邦での治療を開始し,それが現
に奏功した場合でも,既にそれらの疾病等が一応完治したか,そ
の症状が長期間にわたり安定し,国籍国に帰国した後も,本邦と
全く同一の水準とまではいえないにせよ,同様の継続治療ないし
経過観察を受けられるため症状が悪化ないし再燃する可能性は
あっても高くなく,仮に悪化ないし再燃したとしても適切な治療
を受けることができると見込まれる事情がある場合は,上記の一
般論と別異に解する必要はない。すなわち,そのような場合は,
控訴人(法務省入国管理局)の定めたガイドライン(甲18)が,
在留特別許可に関する判断における考慮事項の積極要素として
挙げている「当該外国人が,難病等により本邦での治療を必要と
していること,又はこのような治療を要する親族を看護すること
が必要と認められる者であること」に該当しないというべきであ
る。
そうすると,バングラデシュの医療や衛生事情が日本と比較し
て劣っており(甲48の1,54の8ないし15等),日本に在
留すればより確実かつ質の高い医療が受けられるとしても(なお,
バングラデシュでは,国際的な協力を受けるなどして,医療や衛
生に関するインフラを改善する努力が続けられている,甲34,
35,41,43,乙30。),本件では,被控訴人父の潰瘍性
大腸炎が,服薬を続けることによって長期間寛解状態が継続して
おり,バングラデシュでも同様の服薬治療等を受けられること,
被控訴人子の停留精巣についてもバングラデシュでも必要な手
術及び経過観察を受けられることからは,被控訴人父の持病及び
被控訴人子の既往症が,ガイドラインの上記積極要素に該当する
とはいえないし,あるいは重く評価することもできない。
ウまた,本件出頭申告が自発的なものであると評価できるとして
も,認定事実(2)キのとおり,被控訴人父は,平成21年12月に
違反調査を受けた際,入管に対して真正な身分事項を告げておらず,
その結果,違反容疑なしの処分を受け,その後も約2年10か月の
間,不正な在留を継続していたことからは,本件出頭申告は遅きに
失したものであり,在留特別許可を認める積極要素として考慮でき
る程度は大きくない。
(5)まとめ
以上のとおり,被控訴人らに在留特別許可を付与しないとした
東京入管局長の本件各不許可判断が,その基礎とされた重要な事実
に誤認があり,又は事実に対する評価が社会通念に照らして著しく
妥当性を欠くため,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用し
たものと認められない。
5本件各裁決及び本件各退令発付処分の適法性
以上のとおり,本件各不許可判断を前提としてされた本件各裁決は,
いずれも適法であり,それらを前提としてされた本件各退令発付処分
(入管法49条6項参照)もまた適法である。
よって,被控訴人らの各請求はいずれも理由がない。」
第4結論
よって,本件控訴に基づき,原判決を取り消して,被控訴人らの控
訴人に対する各請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判
決する。
東京高等裁判所第12民事部
裁判長裁判官杉原則彦
裁判官高瀬順久
裁判官朝倉佳秀

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