弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,金100万円及びこれに対する平成13年6月2
8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人は,a県内で発行される朝日新聞・毎日新聞・読売新聞・a新聞の
朝刊に,原判決別紙記載の謝罪広告を原判決別紙記載の条件で1回掲載せ
よ。
第2 事実関係
 事実関係は,原判決2頁20行目から3頁2行目までを次のとおり改めるほ
か,原判決「事実及び理由」欄の第2記載のとおりであるから,これを引用す
る。
「(3) a市では平成13年1月28日に市長選挙が行われたが,この市長選挙で,
控訴人は新人のA候補を支援したのに対し,a市議会において民主党所属の
4名を含む6名の市会議員で結成しているa市議会民主ネットクラブ(以下「民
主ネットクラブ」という。)と民主党a県総支部連合会(以下「県連」という。)の
関係団体である連合a及び自治労本部は現職で3選を目指していたB候補を
推薦したため,県連は分裂状態となり,同市長選ではどの候補者も推薦せ
ず,選挙運動は党員の自主判断に委ねられた。」
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断するが,その
理由は,次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」欄の第3記載のと
おりであるから,これを引用する。
(1) 原判決17頁11行目から22行目までを次のとおり改める。
「する。
 しかしながら,本件記事の文面上,同記事は,ある市議が控訴人はB市
長への個人的恨みから総支部を動かしている旨の発言をしたということ自
体を報じたものであって,その発言内容を事実と摘示して報じたものではな
いといわざるを得ない。
 もっとも,控訴人が主張するように,記事等の中には,文面はある人の発
言の形をとっているが,実質的にはその記事等の作成者が当該ある人の
発言部分の内容を事実として摘示しているものと評価される場合もなくは
ないと考えられる。
 そこで,本件記事は,被控訴人がある市議の発言の形をとって,その発
言部分の内容を事実として摘示したものと評価されるものであるかどうかと
いう観点から,前掲各証拠によって検討してみると,以下の諸点を指摘す
ることができる。」
(2) 同19頁2行目ないし4行目の「この程度の記述によっては,読者は必ず
しも政治家としての原告に対する信頼感を低下させることになるか疑問と
いうべきである。」を「本件記事の文面から,通常,読者がただちに市議の
発言部分の内容は真実であると読み取るものとは容易に考え難い。」と改
める。
(3) 同19頁12,13行目の「,その許容限度を」を削除し,14行目の「これが
許容限度を超えるものとは解されない。」を「上記同様,通常,読者がただ
ちに市議の発言部分の内容は真実であると読み取るものとは考え難い。」
と改める。
(4) 同19頁15行目の冒頭「(4)」を「(3)」と改め,以後17行目までを次のと
おり改める。
「前項に指摘した諸点に照らして勘案してみると,本件記事について,これを
被控訴人がある市議の発言の形をとって,その発言部分の内容を事実とし
て摘示したものと評価することはできない。
 なお,控訴人は,市議の発言部分は第1区総支部と民主ネットクラブの対
立と分裂の真の原因は何かという本件記事の報道目的の核心に触れた唯
一のもので,その内容も政治家である控訴人の社会的評価に影響を与え
る具体性を持つものであるとし,本件記事は市議の発言という体裁をとりな
がら発言部分の内容を事実として摘示したものである旨指摘するが,前記
(補正後の原判決「事実及び理由」欄の第3の1(2)ア,イ)のとおり,本件
記事は,B市長の責任をめぐって民主党の第1区総支部と民主ネットクラブ
が分裂状態にあることを報道の趣旨,目的とするものであり,また市議の
発言部分は,控訴人のB市長に対する個人的恨み等の具体的内容につい
て一切言及していないものであり,本件記事全体の中で見るとき,市議の
発言部分は主要なテーマとして取り扱われたものとは解されないのであっ
て,この発言部分を総支部と民主ネットクラブの対立と分裂の真の原因は
何かという報道目的の核心に触れた記事と捉えることには無理があるとい
うべきであるから,控訴人の上記指摘は採用できない。
 また,甲第45号証の1ないし107,同第46号証の1ないし52,同第47
号証の1ないし63は,控訴人側で実施した一部の市民に対するアンケート
調査結果にすぎず,これをもって上記判断が左右されるものではない。」
(5) 同19頁17行目と18行目の間の冒頭に「(4)」を加えた上,次のとおり付
加する。
「 以上によれば,本件記事をもって市議の発言部分の内容を事実として摘
示した記事ということはできないので,それを前提として控訴人の社会的評
価の低下に関し被控訴人につき名誉毀損の責任を問題にすることはでき
ないが,同記事は,ある市議が控訴人はB市長への個人的恨みから総支
部を動かしている旨の発言をしたということ自体を報じたものと認められる
ところ,市議のこの発言部分が控訴人を批判,非難する内容のものである
ことは否定できないから,被控訴人がこのような市議の発言部分を記事と
して掲載したこと自体,控訴人がある市議から上記のような批判,非難を
受けているということを報じたものといわざるを得ず,その限度において同
記事は控訴人の社会的評価を低下させ,名誉を毀損するものというべきで
ある。」
(6) 同19頁19行目から同21頁17行目までを次のとおり改める。
「 そこでさらに,被控訴人が本件記事中に市議の発言部分を掲載したこと自
体に関し,控訴人に対する名誉毀損の違法性阻却事由の有無を検討す
る。
 本件記事の市議の発言部分は,民主党a県第1区総支部という政党の支
部と民主ネットクラブという市議会の会派の対立の一例として,同クラブ所
属の市会議員が民主党a県第1区総支部の代表である控訴人に対して批
判,非難していることを報じたものであるから,これが公共の利害に関する
事実であることは明らかであるところ,市議の発言部分を含む本件記事
は,前記(原判決「事実及び理由」欄の第3の1(1)オ,キ及びク)のようにし
て被控訴人の新聞記者であるC記者が取材し,被控訴人が自社の発行す
るD新聞に掲載したものであって,通常の新聞報道と考えられるから,被控
訴人はこれを専ら公益を図る目的で報道したものと認めるのが相当であ
る。
 なお,控訴人は,C記者は雑談の延長ともいうべき極めて短時間の取材
で安易に第1区総支部の動きを控訴人のB市長に対する個人的な恨みに
よるものと断定し,これを一市会議員の言葉を借りて記事にしており,同市
議の発言内容の真実性についての裏付取材も全くしておらず,a地方では
著名な政治家である控訴人にとってこの上なく不名誉でその人格を侮辱す
る表現を行い,控訴人に事前の確認,反論の機会も与えなかったとして,
市議の発言部分の報道に公益性はないと指摘するが,本件記事の市議の
発言部分がその発言内容を真実と断定して摘示したものと認められないこ
とは前記(補正後の原判決「事実及び理由」欄の第3の1)のとおりである
し,本件記事やその報道過程に特段被控訴人の控訴人に対する害意を窺
わせるような事実は見当たらないのであって,控訴人の上記指摘は採用で
きない。
 次に,摘示された事実の真実証明についてであるが,前記のとおり,市
議の発言部分は,民主ネットクラブ所属のある市会議員から控訴人はB市
長に対する個人的恨みから総支部を動かしているとの発言があったという
事実を指摘するものであり,これが控訴人の社会的評価を低下させ,名誉
を毀損するのは,控訴人がある市議から上記のような批判,非難を受けて
いるということを報じているという限度においてであるから,その違法性阻
却事由としての真実性の証明も,上記発言の存在についてなされるべきで
ある(なお,この点に関する被控訴人の主たる主張は,原判決10頁7行目
から11頁20行目までに記載するとおりであるが,被控訴人は原審の第1
回口頭弁論で陳述した平成13年8月6日付け準備書面(1)第2の2や当審
の第1回口頭弁論で陳述した平成16年6月18日付け準備書面の5項(2)
において,上記発言がなされたことが事実であることも主張している。)とこ
ろ,乙第13号証並びに証人C及び同Eの各証言によって,平成13年3月1
9日,C記者がa市議会の民主ネットクラブの会派控室で同クラブ所属の6
名の市議に面会した際に,市議の1人が「控訴人はB市長への個人的恨
みから第1区総支部を動かしている」旨の発言をしたことが認められるか
ら,上記真実性の証明はあったというべきである。
 なお,控訴人は,控訴人がB市長に個人的な恨みを抱いており,その個
人的恨みを晴らすために第1区総支部を動かしてB市長の辞任要求運動
を行ったという事実はないとして,真実性の証明があったことを争うが,前
記のとおり,市議の発言部分は,控訴人がB市長に対する個人的恨みか
ら第1区総支部を動かしているとの事実を指摘して控訴人の名誉を毀損す
るものではないから,控訴人の上記主張は失当であり,これを採用するこ
とはできない。
 したがって,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人が市議の
発言部分を記事として掲載したこと自体によって控訴人の社会的評価を低
下させたことによる名誉毀損は違法性を欠くものであるということができ
る。」
2 結論
 以上のとおりであるから,控訴人の請求はいずれも理由がなく,原判決は
結論において相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することと
して,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第2部
裁判長裁判官    熊田士朗
裁判官    川添利賢
裁判官    多見谷 寿 郎
結  果 請求棄却
平成15年8月28日 岐阜地方裁判所
平成13年(ワ)第342号 謝罪広告等請求事件 
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請 求
1 被告は,原告に対し,金100万円及びこれに対する平成13年6月28日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,a県内で発行される朝日新聞・毎日新聞・読売新聞・a新聞の朝刊
に,別紙記載の謝罪広告を別紙記載の条件で1回掲載せよ。
第2 事案の概要
 本件は,原告が被告に対し,被告が発行した新聞記事に原告の名誉を毀
損する部分があったとして,不法行為に基づき,慰謝料金100万円及びこれ
に対する訴状送達の日の翌日から民法所定の年5分の割合による遅延損害
金の支払並びに別紙記載のとおりの謝罪広告の掲載を求めた事案である。
1 争いのない事実
(1)原告は,平成9年1月から平成13年10月まで民主党a県第1区総支部
(以下「第1区総支部」という。)代表の地位にあった者である。なお,原告
は,昭和30年4月からa市会議員を2期,昭和38年4月からa県会議員を
5期にわたって勤め,昭和58年12月以降衆議院議員に3回当選し,平成
8年10月の衆議院議員選挙で落選するまでの間,大蔵委員会筆頭理事,
法務委員,商工委員等を歴任し,日本社会党の総務局長,中央執行委員
等を勤め,平成8年1月にはF内閣において内閣官房副長官に就任するな
どして政治活動に従事してきた。
(2)被告は,b地方を中心に,D新聞を発行販売することを業とする会社であ
る。
(3) a市では平成13年1月28日に市長選挙が行われたが,この市長選挙に
あたり,民主党の第1区総支部は新人のA候補を支援したのに対し,a市
議会において民主党所属の4名を含む6名の市会議員で結成しているa市
議会民主ネットクラブ(以下「民主ネットクラブ」という。)は現職のB候補を
推薦し,両組織はそれぞれ独自の選挙運動を行った。
 上記市長選挙ではB候補が当選したところ,この選挙をめぐって,a市の複
数の幹部職員らが公職選挙法136条の2(公務員等の地位利用による選
挙運動の禁止)の規定に違反したとして逮捕される事件が発生した(以下
「本件刑事事件」という。)。
 第1区総支部は,本件刑事事件の発生をうけて,平成13年4月14日開催
の同総支部幹事会及び同月19日開催の同総支部三役会の審議を経て,
B市長は本件刑事事件発生の責任をとって市長を辞職し,出直し選挙で信
を市民に問うべきであるとの運動方針を決定した。
 他方,民主ネットクラブは,本件刑事事件による市政の異常事態の解消と
混乱の回避が先決であるとして,第1区総支部の上記方針に同調せず,当
面B市長の辞職を求めない方針を決めた。
(4)被告は,平成13年4月20日,D新聞朝刊に以下の記事を掲載した(以下
「本件記事」という)。
(見出し)
 「a1区」
 「民主が分裂状態」
 「B氏派 市長辞任要求に反発」
(記事の内容)
「a市長選挙違反事件に絡むB市長の責任問題について,民主党a1区
総支部は十九日,三役会議を開き,B市長に辞任を求める方針を打ち出し
た。二十一日の党県連常任幹事会に報告する。これに対して,選挙戦でB
市長を推薦したa市議会の同党四人と社民,無所属各一名で構成する「民
主ネットクラブ」は反発。同総支部は“分裂状態”となった。同総支部代表の
G・元衆議院議員によると,十四日の同総支部幹事会と,同日,同代表,
県議らによる三役会議で,B市長の責任を問う声が相次いだ。この動きを
受けて民主ネットは今月十八日,同総支部に「見解」と題した書面を提出。
「今は市政の混乱を回避するのが先決」「民主ネットは(民主党総支部の)
下部機関ではない」などとして「今後も(同総支部が)市政問題に踏み込む
ことがあれば,重大な決意を持って対応する」などと総支部の対応を批判
した。ある市議は「G代表は,B市長への個人的な恨みから,総支部を動か
している」と話す。こうした事態に,同党県連代表のH・参院議員は「双方の
責任者から早急に事情を聴取し,県連として今後の対応を検討する」とし,
二十一日の党県連常任幹事会後に,話し合うことになった。一月に行われ
たa市長選挙では,同総支部は事実上自主投票となったが,民主ネットは
B氏を推薦。G総支部代表は「非自民,非共産」を掲げ,無党派の新人候
補を支援していた。」(以下,上記記事の内容中の「ある市議は「G代表は,
B市長への個人的な恨みから,総支部を動かしている」と話す。」との部分
を「市議の発言部分」という。)。
2 争 点
(1)本件記事中の市議の発言部分は原告の名誉を毀損するものであるか否
か。 (原告の主張)
ア 本件記事中の市議の発言部分は,単なる論評や意見の表明に止まる
ものではなく,その前提となる事実として摘示されたもので,①原告は,
B市長に個人的な恨みを抱いていること,②原告は,その個人的な恨み
を晴らすために第1区総支部の組織を動かしてB市長の辞任要求運動
を行っていること,これらの事実を摘示しているものである。もとより,原
告はB市長に個人的な恨みを抱いたことはないし,B市長の辞職を求め
る行動をとったのも,本件刑事事件の発生という異常事態に対し,第1
区総支部の正式な意思決定機関の決議を経ているのであって,原告が
個人的恨みから同総支部を動かして行ったものではない。
 上記①は,どのような内容の恨みを抱いているものか,その原因事実を
特定していないが,同②でB市長に対する辞任要求という政治行動の動
機・目的を理解する上では特定表示されている。この記事を読む者は,
原告が個人的な恨みを晴らすためにB市長に対する辞任要求運動をし
ていると誤認し,恨みの具体的な内容を知らなくても原告に失望し,以降
は原告のあらゆる政治活動を同じように個人的な動機・目的から出てい
るのではないかと疑う傾向が出るから,本件記事は原告の政治家として
の社会的評価を低下せしめるものである。
イ 本件記事は,第1区総支部が平成13年4月14日開催の同総支部常
任幹事会,同月19日開催の同総支部三役会において,B市長に対する
辞任要求行動をするという組織としての意思決定を行う動きをしていた
のに対して,a市議会の民主党議員を中心とする議会内会派である民主
ネットクラブが反発し,両組織の対立がエスカレートしている事実を時系
列的に発生事実を並べて紹介した事実の紹介記事であって,両組織の
行動の当不当を述べる等して,D新聞としての意見の表明や論評を行お
うとしたものではない。
もし,本件記事が意見の表明や論評を行おうとしたものであるとすれ
ば,問題の「ある市議はG代表はB市長への個人的恨みから,総支部を
動かしていると話す」という記述は,同総支部ないしその代表である原告
の行動を批判論評するための表現として行われたということになり,原
告が,B市長への個人的な恨みから総支部を動かしているという記述
は,この批判論評を行うための前提として摘示した事実ということにな
る。
また,本件記事が,民主ネットクラブの一議員が原告の一連の行動を
批判する意見を述べ,あるいは論評した内容を報道する記事だというの
であれば,本件記事の市議の発言部分は事実の摘示そのものである。
ウ 一般に政治家は国民や住民の権利利益を擁護し,国家や地方の安全
繁栄のために自己の信念に基づいて政治活動を行うものであって,個
人的な恨みという次元の低い動機目的から政治活動をするものではな
い。まして,原告は,保守的色彩の濃いa県の政治的土壌の中で,戦後
の日本社会党,民主党と共に歩み,清廉潔癖な政治家として選挙民か
ら評価を受けてきた人物であって,その原告がB市長に対する個人的な
恨みから第1区総支部を動かしたという内容虚偽の報道をされ,これが
a市民の知りうるところとなれば,多くの支持者が原告に失望し,原告を
見限り,離反することは多言を要しないところであり,とりわけb地方では
最大の発行部数を持ち,同地方の住民に大きな影響力を持っているD
新聞がこのような記事を書けば,一般の読者は,D新聞が書くのだか
ら,もしかしたら記事の内容は真実かもしれないと思い,原告に対する社
会的評価が低下する危険が十分にあったというべきである。
 したがって,本件記事の市議の発言部分は,原告の名誉信用を毀損
するものであって不法行為を構成するから,原告は被告に対し,原告が
被った精神的苦痛に対する慰謝料100万円(及び遅延損害金)の支払
と別紙記載のとおりの謝罪広告の掲載を求める。
(被告の主張)
 記事の内容が他人の名誉を毀損すべきものであるか否かは,一般読者
の普通の注意と読み方を基準とし,かつ,その記事を全体として観察した
上で判断すべきであるところ,本件記事は,以下のとおり,B市長の責任問
題をめぐって第1区総支部が分裂状態にあることを伝えることを目的とする
ものであって,市議の発言部分も抽象的な言辞によって原告の第1区総支
部の運営のあり方を社会通念上是認される限度内の言辞によって批判し
たもので,これによって原告に対する国民一般の政治的,人格的評価の低
下をもたらすような性質のものではないから,市議の発言部分は民法710
条及び723条が予定する名誉毀損行為としての類型的実質的違法性が
なく,名誉毀損の不法行為を構成するものではない。
ア 本件記事の市議の発言部分は,原告が「B市長への個人的な恨みか
ら,総支部を動かしている」ことについての具体的な根拠となるべき事実
を挙げずに抽象的に記述され,かつ,本件記事の趣旨がB市長の責任
問題をめぐって第1区総支部が分裂状態にあることを伝えることを目的
としているものであり,原告がB市長に対し個人的な恨みを持っていた
か否かを伝えることを目的とするものではないことは明かであり,原告の
第1区総支部の運営方法を批判しているとの印象を受けるのみで,さら
に進んで,原告が,B市長に対し,具体的にどのような恨みを持ち,その
恨みによってどのように総支部を動かしているかということまで記述して
いるものとして理解することはありえない。
イ 本件記事の市議の発言部分は,具体的な事実を摘示するものではな
く,総支部の代表である原告の支部運営についての批判的意見を記述
するに止まるものであり,立場を異にする政治家に対する他の政治家の
公正な論評ないし意見表明の記述である。本件記事の市議の発言部分
をその前後の文脈と併せて読めば,B市長に対する辞任要求に対し,市
政の混乱を回避するためとの理由でこれに反対する民主ネットクラブの
意見を無視して,第1区総支部が同市長の辞任を求める方針を打ち出し
たことにつき,同クラブ所属の市議が原告の総支部運営方法を前記抽
象的な言辞によって批判しているものと理解することができる。
ウ 本件記事は,主として,B市長に対する辞任要求をめぐって第1区総支
部とそれに所属する市議4名を含む民主ネットクラブとの意見が対立し
ている事実を伝えるものであるが,第1区総支部が同市長の辞任を求め
る方針を打ち出した経過については,第1区総支部の代表である原告の
説明を記述し,この総支部の対応に対する民主ネットクラブの批判の内
容については,同クラブの提出した「見解」と題した書面の内容と,同クラ
ブ所属市議の談話とを記述しているものであり,同総支部と民主ネットク
ラブとの双方の立場を公平に扱っている。
(2)本件記事は公益を図る目的で記載されたものか。
(被告の主張)
 仮に市議の発言部分が事実の摘示を含むものであるとしても,この記述
は,以下のとおり公益を図る目的でなされ,その前提とされた事実の主要
な部分において真実又は真実と信ずべき相当な理由があり(この点は次
項(3)に詳論),人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱する
ものではないから,公正な論評として違法性がない。
本件記事は,第1区総支部がB市長に対し辞任を求める方針を打ち出し
たことをめぐる,同総支部と民主ネットクラブとの意見の対立及び分裂状況
を伝えるものであり,本件記事中の市議の発言部分も,分裂状態を引き起
こした同総支部の支部長であった原告の運営方法に対する批判的な意見
ないし論評であるところ,政党やその支部,市議会会派は公的存在である
から,その意見の対立や分裂状況ないし運営方法について記述した本件
記事は,公共の利害に関する事実につき,専ら公益を図る目的で公表され
たものであって,もとより人身攻撃を目的とするものではないことは明らか
である。
(原告の主張)
公益を図る目的の有無は,名誉毀損事実自体の内容,性質から客観的
に判断するだけでなく,その表現方法や事実調査の程度,執筆態度等を
総合し,全体的に評価,判定すべきであるところ,本件記事を作成した被
告のC記者は,雑談の延長ともいうべき極めて短時間の取材で安易に原
告の個人的な恨みと断定し,これを一市会議員であるEの言葉を借りて記
事にしており,同市議の発言の真実性についての裏付取材も全くしておら
ず,a地方では著名な政治家である原告にとってこの上なく不名誉でその
人格を侮辱する表現を行い,原告に事前の確認,反論の機会も与えなか
った。これらの諸事情に照らせば,本件記事には公益性はないというべき
である。
(3)本件記事の市議の発言部分の内容は真実か,あるいは,被告において,
市議の発言部分の内容を真実と信じるに足る相当な理由があったか。
(被告の主張)
本件記事中の「G代表は,B市長への個人的恨みから,総支部を動かし
ている」との言辞は,民主ネットクラブの市議Eにおいて,原告がa市長選
挙からその後のB市長の責任問題の発生に至るまで,B市長が市長として
不適任であるとの自説に固執し,これに基づいて第1区総支部を運営して
同総支部の分裂を招いていることに対する批判的な意見を表現するため
に用いられたものであって,これが市議の発言部分の主要部分と解すべき
である。
原告のB市長が市長として不適任であるとする考え方を「B市長への個
人的な恨み」と表現したことは,いささかその表現に正確性を欠いている
が,「恨み」の用語の定義には「うらむこと」の他に「にくいと思うこと」,「不
満に思うこと」,「残念に思うこと」も含まれるから,全く不適切ということはで
きない。
そして,以下の各事実に鑑みれば,原告がa市長選挙当時からB市長の
責任問題発生時まで,B市長を市長として不適任と考え,同市長に不満を
有しており,このような個人的考えに基づいて第1区総支部を動かしている
との市議の批判内容は真実と認められるし,また被告において,それが真
実と信ずべき相当な理由があった。
ア A氏擁立問題
原告は,a市長選挙において,現職のB市長を市長候補として不適格
として対立候補であるA氏を市長候補として擁立した。
イ a市c町のマンション問題及び原告の出陣式問題
原告は,その著書「I政治日記下」の中で,原告が関与したa市c町の
建築物高度制限指定問題に対するB市長の対応や,B市長が原告の選
挙運動の出陣式に出席せず,他の候補者の出陣式に出席したことにつ
いて,これらを不満とする趣旨の記述をしていた。
ウ 第1区総支部の役員構成の問題
第1区総支部の幹事の中には,原告の子供や,原告と関係の深い民
間団体の構成員で民主党員ではない者が含まれており,同総支部の意
思決定に原告の意向が反映しやすい素地があった。 
エ 第1区総支部がB市長の辞任要求決議をするに至った経過
原告は,民主党a県総支部連合会の動きに先駆けて,第1区総支部
の幹事会にB市長の辞任を求める運動方針を提案し,その意向に従っ
た意見の集約をし,三役会で前記運動方針の決定前にJ秘書に命じて
マスコミ各社に三役会において前記運動方針が決定される旨連絡させ,
かつ,民主ネットクラブの反対にもかかわらず,三役会においてその決
定を強行した。
(原告の主張)
原告は,B市長に個人的な恨みを持っているとか,その恨みに基づいて
第1区総支部を動かしてB市長の辞任要求運動を行ったという事実はない
し,下記のとおり,被告において,そのように信じるについて相当な理由は
ない。この問題は,何らかの根拠,何らかの資料があれば幅広く相当性が
認められるというものではなく,確実な資料,根拠に照らし,相当の理由が
あることが必要であって,被告はこれを示す必要があるところ,被告がその
根拠としてあげる前記の諸事情は,以下のとおり合理的な根拠となり得な
いものばかりである。
ア A氏擁立問題
第1区総支部は新人候補者の擁立の努力をしたが,a市労連(a市職
員労働組合及びa市水道労働組合,a市交通労働組合などの連合組織)
は,B市長とのつながりが強く,B市長を候補者として推薦することを決
め,これを受けて連合aも同候補推薦を決めたため,民主党は,市長選
挙については非自民・非共産の候補を支援することにして事実上の自由
投票とし,労働組合以外の民主党の主な幹部は,A候補を擁立したもの
であって,決して原告一人がA候補を支持したものではない。この時の
原告の取った行動をもってB市長への個人的恨みの存在をうかがわせ
る事情の一つとする被告の前記の主張は,見当違いもはなはだしいも
のである。
イ a市c町のマンション問題及び原告の出陣式問題
原告がa市c地区を都市計画法8条の高度地区に指定してほしいとB
市長に対し要請をしたところ,B市長は,一旦は原告や地元自治会長ら
に対して住民の合意を得て高度地区指定をすると発言しておきながら,
後に高度地区指定は困難であるとの返答をした。
これらは,原告が地元自治会の要請を受けて政治活動をしたもので
あって,原告の個人的な動機とは無縁である。
平成8年10月20日に行われた衆議院議員選挙において,原告は落
選したが,原告は選挙運動をしながら落選を予感し,その予想を日記の
各所に記述していたもので,被告主張の前記記述は,B市長が出陣式
に欠席したこともその徴表となる事実として感情抜きで記載したものに過
ぎず,このような記述をもって原告がB市長への個人的恨みを持ってい
ることの根拠とすることは著しく客観性を欠き,被告独自の解釈というべ
きである。
ウ 第1区総支部の役員構成の問題
第1区総支部の幹事会は,労働組合グループ7名(連合a地区協議会
加入の労働組合の組合員から選出された者),中小企業グループ7名
(a県中小企業商工団体15団体2200事業所から選出された者),民主
党党員及び議員グループから選出された者7名,合計21名で構成さ
れ,各グループが選出した者を支部長が自動的に任命する慣例になっ
ているので,幹事会の構成に支部長の恣意が入る余地はない。その中
に原告の子のKが選出されているが,同人は,a県中小企業商工団体の
傘下のL協同組合(加入組合員771事務所,事務局職員25名)の事務
局次長と研修生連合会(202事業所加入で事務局職員7名)の事務局
長を兼任し,これを21年間続けており,その実績を背景に中小企業グ
ループから選出されたものであって,原告の恣意によって,選出したもの
ではない。
エ 第1区総支部がB市長の辞任要求決議をするに至った経過
原告は,民主党a県総支部及び第1区総支部の意思決定の準則に則
って,手続きを積み重ねながらB市長の引責辞職と出直し市長選の実施
を求める政治活動を行っていたものであり,市長選挙に際して公職選挙
法違反でa市の幹部職員が相次いで逮捕される事態に直面すれば,B
市長の辞任要求をすることはごく自然な行動であって,政党がこの運動
の先頭に立ち,市民・世論をその方向に導く活動を行うことも当然の正
常な行動である。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(名誉毀損の有無)について 
 (1)前記「争いのない事実」欄記載の事実と証拠(甲1号証ないし20号証,27
号証,29号証ないし31号証,乙1号証ないし11号証,13号証,14号証,
証人C,同M,同E,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,本件記事が
掲載されるに至った経緯及び事情として以下の事実が認められる。
ア 第1区総支部は,a市の民主党組織を統括する組織であり,同総支部に
は支部大会に次ぐ意思決定機関兼執行機関として総支部常任幹事会
が置かれ,なお日常的な党活動の方針を決定するために,規約外の組
織である三役会が置かれている。原告は,前記のとおり,平成9年から
平成13年まで第1区総支部の代表を勤めていた。
イ 平成13年1月28日,a市長選挙が行われ,現職候補のBが当選した
が,この選挙に際し,a市役所の幹部職員が,B候補のために票の取り
まとめをし,公務員がその地位を利用して特定の候補者の選挙運動をし
たとの公職選挙法違反の事実により,平成13年2月13日,a市環境部
課長が,同年3月10日には同市環境部次長が,同月13日には市長室
参与が,同年4月3日には前市長室長が逮捕される本件刑事事件が発
生した。
ウ 上記市長選挙においては,原告は新人のA候補を支援したが,民主ネ
ットクラブやa県連の関係団体である連合a及び自治労県本部は,現職
で3選を目指していたB候補を推薦し,a県連は同市長選挙については
どの候補者も推薦せず,党員の自主的判断に委ねて選挙運動が行わ
れていた。
エ 原告は,本件刑事事件について,B市長はその責任をとって市長を辞
職すべきであるとの立場をとり,平成13年4月14日民主党a県第1区総
支部の常任幹事会を開催し,同幹事会ではB市長は辞任すべきである
との意見を集約した。
オ 同月18日,原告の秘書Jから被告a支社報道部のC記者に電話があ
り,C記者は,同秘書から,上記のとおり開催された第1区総支部の常
任幹事会で,B市長は辞職するべきであるとの意見に異論はなく,明日
19日に開催する三役会で,第1区総支部としての意見がまとまり,その
後,21日a県連常任幹事会に諮り,党としてB市長に辞任勧告すること
になるのではないかとの情報を得た。
カ 同月19日,第1区総支部三役会が開かれ,B市長が出直し選挙を行う
こと,民主ネットクラブと一体となって闘うために話し合いの場を持つこ
と,これらを同月21日の民主党a県連の常任幹事会に報告することが
議決された。
キ 同月19日,C記者は,原告から上記三役会の経過とその結論を取材
し,同三役会において,B市長に辞任を求める方針を打ち出し,これを同
月21日開催予定のa県連常任理事会に報告すること,14日開催の同
総支部常任幹事会や上記三役会において,B市長の責任を問う声が相
次いだことを聞き,併せて,第1区総支部に対し,民主ネットクラブ市議
団から「民主党a県第一区総支部幹事会協議事項に対する民主ネットク
ラブの見解」(甲3)と題する書面が提出されていること及びその内容に
ついて説明を受けた。
 同書面には,民主ネットクラブ所属の市議が一致して,民主党としてB
市長に対し辞職勧告を行おうとする第1区総支部の方針や同総支部の
意見の集約の仕方に異を唱え,同総支部が市政問題について市議団
の意向を無視し,十分な話し合いもせず今後も市政問題に踏み込むな
らば,民主ネットクラブとして重大な決意をもって対応するとの意向が示
されていた。
ク C記者は,同月19日,上記のとおり原告から取材した後,a市議会の民
主ネットクラブの会派控室に取材に訪れ,同クラブ所属の6名の市議に
面会し,同市議らに上記三役会の結論を伝えるとともに,これに対する
同市議らの意見や,上記「民主党a県第一区総支部幹事会協議事項に
対する民主ネットクラブの見解」を出した真意について取材したが,その
際,同市議らから,第1区総支部の対応を批判する発言がなされ,その
中に「G代表は,B市長への個人的な恨みから,総支部を動かしてる」と
の発言があり,C記者は,これを本件記事中の市議の発言部分として取
り入れて記事を作成した。
(2)原告は,本件記事中の「ある市議は「G代表は,B市長への個人的恨みか
ら,総支部を動かしている」と話す。」との市議の発言部分は,ある市議の
発言の形をとって,原告がB市長に個人的な恨みを抱いていること,そし
て,その個人的恨みを晴らすために第1区総支部を動かしてB市長の辞任
要求運動を行っていること,これらの虚偽の事実を摘示するものであって,
読者に対し,原告が個人的な動機目的によって政治活動を行う者であるか
のような疑念を抱かせ,その社会的評価を低下させるものである旨を主張
するところ,上記市議の発言部分は,その部分に限ってこれを読むときは,
原告が上記のとおり主張する事実を摘示し,「個人的恨みから」との表現を
含む記述からは,原告が懸念するような原告の政治家としての社会的評
価を低下させる危険性を孕むものと評価する余地がある。
(3)しかし,記事のうちの一部分の記述が伝える意味内容は,一般の読者の
普通の注意と読み方を基準とし,その前後の記述を含めた記事全体の記
載内容に照らしてこれを判断することが必要かつ相当であり,また,記事
の報道趣旨,目的,記事の背景となる事情,報道対象の社会的分野の性
質その他諸般の事情に照らしてこれを検討し,それが他人の社会的評価
を低下させるべきものであるか否かも,これらの観点に照らして判断しなけ
ればならない。
 そこで,このような観点から前掲各証拠によって検討してみると,以下の
諸点を指摘することができる。
ア本件記事の全体の構成は,「a1区 民主が分裂状態 B氏派 市長辞
任要求に反発」との見出しの下に,本件刑事事件に関するB市長の責
任問題について,第1区総支部が辞任を求める方針を決定し,これに対
して民主ネットクラブが反発して同総支部が分裂状態になったこと,次い
で,同総支部の代表の原告からの情報として,その幹事会や三役会議
でB市長の責任を問う声が相次いだこと,これに対して民主ネットクラブ
が反発の姿勢を示していること,そして,問題の市議の発言部分が記述
され,その後,民主党県連代表の対応を紹介し,最後にこれらに先立つ
市長選挙において総支部代表の原告と民主ネットクラブが別々の候補
を支援した経緯があること,このようになっており,本件記事は,B市長
の責任問題をめぐって民主党の総支部と民主ネットクラブが分裂状態に
あることを報道の趣旨,目的とするものと解され,それぞれの姿勢や方
針を,両者のやり取りとともに記述する中で問題の市議の発言部分が記
述されているが,上述のとおりの本件記事全体の中でみるときは,この
市議の発言部分が主要なテーマとして取り扱われたものとは解されず,
その表現も具体性に乏しく,ある市議の批判的見解を報じるほどの位置
付けとされるに止まっている。
イ そして,本件記事が掲載されるに至る経緯,事情は既に判示したとおり
であって,当時,本件刑事事件が発生し,現職のB市長の選挙運動を市
役所職員が行ったとして市役所幹部から複数の逮捕者が出るという異
常事態の推移が社会の関心を呼んでいた状況下にあって,こうした事態
に対し,B市長に対して政治責任を問い,辞任を求めるとの立場をとった
原告の姿勢も上記のとおり本件記事に盛り込まれており,これに対して
市議の発言部分は,具体的な根拠も示されていないのであるから,この
程度の記述によっては,読者は必ずしも政治家としての原告に対する信
頼感を低下させることになるか疑問というべきである。
ウ また,本件記事は,上記のとおり,B市長の責任問題をめぐる政治団
体等の対立状況や動向を報じるものであるところ,これらに関わる団体
や個人の政策ないし利害の対立やこれに基づく議論の応酬は,相手方
に対する批判を戦わすことをもって行われることが一般であり,その過
程においては,相手方の政治的な姿勢,判断の当否に限らず,その人
格面や社会的な評価の指摘にも及んで議論がなされることもあると解さ
れる。そして,そのような政治的な議論の過程において述べられた言辞
は,互いに政治的に対立抗争する相手方に対する批判的な姿勢の表現
として,その許容限度を理解すべきものというべきであり,上記市議の発
言部分をこのような観点からみるときも,これが許容限度を超えるものと
は解されない。
(4)前項に指摘した諸点に照らして勘案してみると,本件記事中の市議の発
言部分は,これによって原告の政治家としての社会的評価を低下させるほ
どのものとは認めがたいというべきである。
2 争点(2),争点(3)について
(1)既に述べたとおり,本件記事中の市議の発言部分は,原告の名誉を毀損
すべきものとは認められないが,仮にこれを積極に解した場合について,
その違法性阻却事由に関し,上記のとおり争点(2),争点(3)の議論がなさ
れているので,念のため,これらについても検討しておく。
新聞記事において,他人が述べたことを記事として掲載し,それが事実を摘
示するものであったり,事実を前提とした意見ないし論評であって,その内
容が名誉毀損に当たる場合においては,その事実が公共の利害に関する
事実にかかり,かつ,これを掲載する目的が専ら公益を図ることにあって,
当該事実が重要な部分について真実であるか,真実と信ずるについて相
当な理由があるときには,記事の内容が人身攻撃に及ぶなど意見ないし
論評の域を逸脱したものでない限り当該名誉毀損行為は違法性を欠くもの
と解すべきである。
(2)本件記事中の市議の発言部分は,事実を摘示し,又はこれを前提とした
意見ないし論評と解し得るものであることは前述のとおりであるところ,本
件記事は,B市長の責任問題に関し,民主党の辞職勧告をめぐる政党支
部と市議会会派の意見の対立というa市の市政問題を報道したものである
から,その記事の性質は公共の利害に関する事実につき,専ら公益を図る
目的で掲載されたものと認められる。原告は,C記者が裏付け取材をして
いないこと等を理由に公益目的がない旨の主張をするが,C記者が本件記
事を掲載するに至った既述の経緯及び本件記事の記載内容に照らし,こ
の主張は採用できない。
(3)上記市議の発言部分が摘示する事実は,原告がB市長に個人的な恨み
を抱いていること及び原告がその恨みによって第1区総支部を動かし,B
市長の辞任要求運動を行ったことと解し得るところ,本件記事は,上記のと
おり市長の進退問題をめぐる政党支部と市議会会派の対立とその状況を
報じるものであり,このような民主政治の重要事項に関する情報について
は,市民に対する情報提供の重要性に鑑み,表現の自由・報道の自由が
より尊重されるべきである。そして,このような観点から,新聞等は,上記の
政治的問題に携わる関係者の情報については,その言動等の客観的事
実に止まらず,人柄や人格,その言動等についての社会的評価に及ぶ事
項についてもこれを報道することができ,その場合の当該記事の真実性又
は真実と信じた相当性の判断対象は,こうした主観的,社会的な評価の性
質上,それを直接立証することは困難であるから,そのような社会的評価
が存在することそれ自体をもって足るものと解すべきである。
 本件において,原告について,市議の発言部分に相当する表現による批
判的な見解が複数存在したことは原告本人の供述及び甲30号証の供述
記載によってもこれを認めることができ,また,証人C,同Mの証言によっ
ても明らかというべきであるから,市議の発言部分に関する事実につい
て,その真実性は証明がなされたものと認められる。
(4) そして,本件記事中の市議の発言部分が,原告に対する人身攻撃と評
すべきものではないことは,上述した諸点に照らして明らかであり,そうす
ると,市議の発言部分は,仮に原告の名誉を毀損すべきものであったとし
ても,その違法性が阻却され,不法行為を構成するものではない。
3 結 論
以上のとおり,原告の請求は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につ
き民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
(岐阜地方裁判所民事第1部)
(別紙添付省
略)

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