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平成16年10月28日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成15年(行ウ)第24号 不作為の違法確認請求事件
判     決
主     文
 1 原告が平成12年3月21日ころにした,廃棄物の処理及び清掃に関する法律14条の
2第1項に基づく産業廃棄物の処分の事業範囲変更許可申請について,被告が何ら
の処分をしないことが違法であることを確認する。
 2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
   主文同旨
第2 事案の概要
 1 本件は,原告が,平成12年3月21日にした廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以
下「廃掃法」という。)14条の2第1項に基づく産業廃棄物の処分の事業範囲変更許
可申請(以下「本件申請」という。)について,被告が何ら処分しないことの違法確認を
求める事案である。
 2 前提事実等
 (1)原告は,Aを経営し砂利採取事業を営む者であり,平成7年9月13日,廃掃法15条
1項(平成9年法律第85号による改正前のもの)に基づいて産業廃棄物処理施設
設置の許可申請を行い,同年11月20日被告の許可を受け,この許可に基づいて
平成8年2月10日から福岡県前原市大字a字bc番dほか土地上においてAの砂利
採取事業に伴い排出される無機性汚泥の脱水施設(以下「本件施設」という。)を稼
働させている(争いのない事実及び甲5の3)。
 (2)本件に関する関係法令の規定
    産業廃棄物処分業者は,その処分の事業の範囲を変更しようとするときは,都道府
県知事の許可を受けなければならない(廃掃法14条の2第1項)。
    また,産業廃棄物処理施設設置の許可を受けようとする者は,産業廃棄物処理施
設の位置,構造等の設置に関する計画(以下「設置計画」という。)等を記載した申
請書を提出しなければならないとされている(廃掃法15条2項)。
    そして,福岡県においては,福岡県産業廃棄物処理施設の設置に係る紛争の予防
及び調整に関する条例(以下「本件条例」という。)において,以下のとおり規定され
ている。
   ア 設置者(産業廃棄物処理施設の設置をしようとする者をいう。2条5項)は,産業廃
棄物処理施設の設置計画を策定するときは,調査計画届を知事に提出しなけれ
ばならず(6条1項),調査計画届を提出した設置者は,環境調査書を知事に提
出しなければならない(同条2項)。
   イ 知事は,設置者から,環境調査書の提出があったときは,規則で定める地域指定
基準に基づき,周知を図る必要のある市町村の長に環境調査書の写しを送付
するものとし,その市町村の長の意見を聴いた上,環境調査書に係る指定地域
を定め,これを定めたときは,速やかにその旨を設置者及び関係市町村の長に
通知するものとされている(7条)。
   ウ また,知事は,この通知をしたときは,規則で定める事項を公告し,環境調査書を
公告の日から30日間,閲覧に供しなければならないとされ(8条1項),この場合
において,知事は,あらかじめ,公告する内容を設置者に通知するものとされ
(同条2項),設置者は,上記通知を受けたときは,周辺住民に対し,環境調査
書を作成した旨,その他規則で定める事項について周知に務めなければならな
いと規定している(同条3項)。
   エ さらに,設置者は,その閲覧の期間内に,指定地域内において環境調査書の説明
会を開催しなければならず,これを開催する場合には,説明会開催日の10日前
までに,その日時,場所等を印刷物の配布等の方法により,あらかじめ周辺住
民に周知するとともに,知事及び関係市町村の長にその旨を報告しなければな
らないとされている(10条1,2項)。
 3 争点
   原告が,被告に対し,平成12年3月21日に本件申請を行ったか
 4 争点に関する当事者の主張
 (原告の主張)
   原告は,平成12年3月21日,原告が経営するAの総務部長Bにおいて,本件申請に
係る申請書(以下「本件申請書」という。)を○○保健所に提出した。
 (被告の主張)
 (1)原告が,平成12年3月21日,本件申請をした事実はない。
 (2)本件条例5条1項は,設置者は,産業廃棄物処理施設の設置計画の策定に当たって
は,この条例に定める手続を遵守するよう努めるとしており,廃掃法に基づく許可
申請に先立って本件条例に基づく諸手続を履践することが必要である。
    また,本件施設の設置許可申請に係る施設は,原告が営む砂利採取事業に伴い排
出される無機性汚泥を脱水するためのものであったから,本件条例26条4号,福
岡県産業廃棄物処理施設の設置に係る紛争の予防及び調整に関する条例施行
規則19条1号により,本件条例が適用されなかったものである。しかし,本件施設
を使用して,建設業者及び水道事業者から排出される建設系無機性汚泥の脱水を
業として営むことを計画したため,本件条例が適用されることとなった。
   ア そして,以下の事情及び,原告が同日以降,現在に至るまで本件条例に規定され
た諸手続を継続して行っている事実に照らせば,本件申請に先立つ本件条例に
基づく紛争予防のための諸手続が現在も継続している状況であり,原告から被
告に対して具体的に本件申請がされたものではない。
   (ア)原告から平成10年3月11日付けで環境調査書が提出されたので,被告は,指
定地域を指定し,同年6月,その旨を原告及び関係市町村の長である前原市
長に通知した。
   (イ)そして,被告は,原告が従前実施した説明会は本件条例に反するものであるとし
て,原告に対して本件条例に基づく説明会を実施するよう指導し,原告もこれ
を受けて平成12年1月28日に再度の説明会を実施した。
   (ウ)また,原告としても,周辺住民との協議を継続し,環境の保全のために必要な事
項を内容とする「環境保全協定書」を締結する旨を平成12年3月17日付けで
明らかにし,平成14年5月には前原市行政区自治会長宛に環境保全協定の
締結を申し入れており,本件条例に規定された諸手続が完了していないこと
を認識していた。
   (エ)その後,上記諸手続は中断された状況であったが,平成15年5月13日,原告と
前原市長及び関係住民との間で本件条例15条所定の環境の保全のために
必要な事項を内容とする協定を締結することを含めて,協議が再開され,同
年7月9日にもこれが開催された。
  イ 仮に,Bが平成12年3月21日に本件申請書を○○保健所に持参したとしても,上
記のような事情にもかんがみると,廃掃法に基づく許可申請をする意思に基づ
いて提出されたものではなく,また,被告の行政指導に任意に従い,その提出を
見合わせたものである。
第3 当裁判所の判断
 1 本件申請がされたか否か
 (1)ア 証人Bは,本件申請に関し,次のとおり証言し,甲9(B作成の「証言」と題する書
面)にもこれに沿う記載(ただし,提出しようとした相手方は,○○保健所のC
とされている。)がある。なお,原告の供述によると,同証言及び甲9記載中の
「C」は,「D」のことを指すものと認められる。
    (ア)Aの従業員であったBは,平成12年3月21日,原告から本件申請書を○○保
健所のD宛に提出してくるようにとの指示を受け,同日午後,同保健所に赴
いて,Dにこれを提出しようとした。
    (イ)ところが,Dはこれを一瞥しただけでその受領を拒否したので,Bは,預かってお
いてもらいたいと述べたが,これも拒否されたため,その理由を尋ねたが,
Dは,受理できないとのみ述べた。そのやりとりは5分位だった。
    (ウ)そして,Bが会社に戻って原告にこの経過を報告したところ,原告から激しくしか
られた。
    イ また,原告は,概ね次のとおり供述する。
    (ア)平成12年3月20,21日ころ,原告が本件申請書(甲18)を○○保健所に持参
したものの,これを受け取らなかったので,Bに持参させたところ,戻って来
たBから,Dが県庁に連絡したが,受け取ってもらえなかった旨報告を受け
た。
    (イ)その後も原告が本件申請書を持参し,Dと押し問答をした。
    (ウ)原告が本件申請書を持参した際には,Dは,県庁から受け取らないようにとの
指示を受けているし,自分には責任がない,県庁に聞いてくれと述べたの
で,原告は,県庁に行けば保健所に行けと言うし,保健所に行けば受け取
らないと言うのでは困ると述べた。
    (エ)また,○○保健所に本件申請書が持参された後,原告が県庁のEに対して,受
け取らない理由を問い質し,「字も読みきらんのか。」と言い,受け取らない
理由を文書で出すよう要求したにもかかわらず,受領しない理由について
説明はなかった。
 (2)また,当事者間に争いのない事実及び証拠(甲4の1,4の2,5の2ないし5の5,6
の1,10の5,13の2ないし13の4,19の2,乙6,10)によれば,以下の各事実
を認めることができる。
   ア 原告は,本件施設において,業として建設業者及び水道事業者から排出される建
設系無機性汚泥の脱水を営むことを計画し,被告に対し,平成10年2月4日,
本件条例6条1項所定の調査計画届を提出した。
   イ 同年3月11日,原告は,被告に対し,同条2項所定の環境調査書を提出した。
   ウ 原告は,被告に対し,平成12年1月12日付けで,本件条例10条2項の住民に対
する説明会実施に関する周知報告を行った。
   エ そして,同月28日,本件条例10条1項に基づき,原告が本件施設の周辺住民に
対して説明会を行い,同年2月23日,原告は,同条例11条の説明会等実施状
況報告書を被告に提出した。
   オ また,原告は,同月17日にFとの間で,同年3月1日に日本鋪道株式会社との間
で,それぞれ環境保全協定書を取り交わしたほか,同月17日には,前原市大字
東の行政区との間で,平成8年に両者で取り交わした土地利用協定書が有効で
あることを確認するとともに,周辺関係者と環境保全協定書を取り交わすことに
双方異議がない旨の「確認事項」と題する文書(甲13の2)を取り交わした。
    (なお,被告は,平成14年5月に原告が前原市行政区自治会長宛てに環境保全協
定の締結を申し入れたと主張し,乙9(環境保全協定書(1))がその証拠である
とするが,その日付欄には記載がなく,これによって上記主張事実を認めること
はできない。)
 (3)ア そこで,上記(1)アのBの証言等及び同イの原告の供述の信用性について判断
する。
      上記(1)アの証言等は,持参した本件申請書の受取りをDがかたくなに拒否した
際の同人とのやりとりとして特に不自然な点はなく,同イの原告の供述も,極
めて具体的であり,かつ,本件申請に関して,○○保健所のDと県庁の担当
者であるEと間でほんろうされている状況にある者とその応対者の言動として
十分に自然なものである。
    また,原告が被告の行政指導に基づく本件条例に定める手続を履践したと認識し
て,平成12年3月21日ころに本件申請に及ぶことは上記(2)で認定した経
過とも整合する。さらに,同日以降は,本件申請に関して被告による行政指導
が原告に対してされた事実や原告が何らかの行政指導に従った行動をとった
ことを認めるに足りる証拠はないことも原告が本件申請をしたことを裏付ける
ものというべきである(なお,平成15年7月9日に本件申請に関し,原告及び
福岡県・前原市の各担当者,地元代表者による会議が開かれたことが認めら
れるが,同会議においては,原告側の行政書士から,本件条例の手続は完
了していると認識していること,及び被告による本件申請の不受理が違法で
あるとの発言がされたことが認められ(甲11の2),同会議への原告の出席
が被告による行政指導に従う趣旨とは認められない。)。
 イ 他方,Dの起案に係る,本件処理施設に関する経緯等を記載した「前原市大字東
のGの中間処分場について」と題する文書(乙10)には,平成12年3月ころ
に,原告又はBが本件申請書を持参した旨の記載がないことが認められる。
しかしながら,Dが本件申請書の受取りを拒否したとすれば,同人としては,
本件申請書の持参が法的効力を有する行為ではなく,何ら意味のない行為で
あるとの認識であった可能性が大きい。したがって,Dは,そうした認識から,
これを上記文書に記載しなかったとも十分に考えられる。
      また,本件申請書にはあて先の記載がなく,Bは申請費用を所持していなかった
ことが認められる(甲18及び証人B)。しかし,本件申請書のように行政処分
を申し立てるために官公庁に提出する文書のあて先については正確を期する
ため,後日記入する予定で,とりあえず空白のまま作成することは,経験則上
も時々見受けられる。そして,原告の供述によれば,それまでも申請書類を持
参した際に担当者から申請費用等に要する金額を示され,その後にこれを持
参することが通常であったことが認められる。
      さらに,原告は,その後も平成15年10月23日に本件訴訟を提起するまでは,
本件申請書をDが受け取らなかったことに対し,Eに対して抗議したこと以外
には,法的手段をとるなどの措置を講じていないことが認められる(原告本
人)。しかしながら,原告は,それまで有効な法的手段を知らなかったところ,
同年5,6月ころ,「いんだすと」において,産業廃棄物処理施設設置等の許可
申請に対して何らの処分をしないことが違法であることを確認した仙台地方裁
判所の裁判例に接したことにより,本件訴えの提起を行政書士に依頼したこ
とが認められる(甲8,原告本人)。
      以上によれば,上記文書に本件申請書が持参された旨の記載がないこと,本件
申請書にあて先の記載がなく,Bが申請費用を所持していなかったこと,本件
申請書を持参したとする平成12年3月21日から本件訴えの提起まで,原告
は格別の法的手段をとっていないことが,いずれも本件申請がされたことの
推認を妨げ,また,本件申請がその意思がなくされたことを推認させるとはい
い難い。
    ウ 上記で判示したところを総合すると,上記(1)アのBの証言等及び同イの原告の
供述により,平成12年3月21日ころ,原告は,Bを使者として,本件申請書を
被告の担当部署である○○保健所に持参して,担当者であるDに手交しよう
としたが,Dがこれを受け取ることを拒否したことが認められる。
   また,上記(2)で認定した経過によれば,原告は本件申請前までは被告の行政指
導に応じていたことが認められるものの,本件申請後は原告が行政指導に従
った行動をとったことは認められないから,本件申請時に,更に被告の行政指
導に従う意思で本件申請を見合わせたとは認められない。
 2 不作為の違法性
   行政庁は,申請が到達してからこれに対する処分をするのに通常必要な期間内に許
可,不許可の処分をしなければならず,これを経過した場合には,これを相当とするよ
うな特段の事情のない限り,その不作為は違法となると解される。
   本件では,口頭弁論終結日である平成16年8月19日において,本件申請から約4年
5か月が経過しているから,本件申請に対して許可,不許可の処分をなすべき相当期
間は優に経過していることは明らかである。被告は,関係住民の不安が強いなどと主
張するが,仮にそうだとしても,そのことは本件申請に対する不作為を正当化すべき
特段の事情には当たらないから,本件申請書の受取りを拒否し,これに対して許可,
不許可の処分をしなかったことは違法である。
 3 したがって,本訴請求は理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用の負担に
つき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成16年8月19日)
  福岡地方裁判所第1民事部
    裁判長裁判官         須田啓之
  裁判官      秋信治也
 裁判官      光本 洋

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