弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
一 申請人が被申請人に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定め
る。
二 被申請人は、申請人に対し、金三三〇万円及び平成二年五月以降本案の第一審
判決言渡しに至るまで毎月一五日限り、月額金三三万円の割合による金員を仮に支
払え。
三 申請人のその余の申請は、これを却下する。
四 申請費用は被申請人の負担とする。
       理   由
第一 申請
 無期限で平成元年七月以降月額金五六万八七九〇円の仮払いを求めるほか、主文
一、二項と同旨
第二 事案の概要及び争点
一 争いのない事実
1 被申請人は、小口貨物の運送を目的とする会社であり、申請人は、昭和五三年
三月二三日被申請人会社に通常の労働契約を締結して入社し、いわゆる「従業員運
転者」として働いていたが、昭和六二年五月二〇日付で退職願いを出し、一旦退社
した。
2 申請人は、右退社に際して被申請人会社から「従業員運転者」より収入が高額
になる「償却」という制度がある旨説明を受け、一か月後の同年六月二一日、改め
て右「償却」制度に基づきいわゆる「受け取り」の者として働く趣旨で、被申請人
会社と「運送契約書」と題する書面による契約(以下、「本件契約」という。)を
締結し、働いてきた。
3 被申請人は申請人に対し、平成元年六月一七日付の内容証明郵便により、同月
二〇日をもって「本件契約」を「解約告知」する旨通告し、同月二一日以降申請人
の就労を拒否している。
4 申請人は、「受け取り」の者も労働法上の労働者であり、本件契約には期間の
定めはないから、本件「解約告知」は実質的には解雇の意思表示にあたり、解雇に
は正当な事由が必要であるところ、本件においては全くそのような事由はないか
ら、解雇権の濫用もしくは不当労働行為により無効であると主張して本件仮処分申
請に及んだ。
二 争点
1 「本件契約」の実態から、申請人に「労働者性」が認められるか。
2 本件「解約告知」の効力。
第三 争点に対する判断
(以下の一応認定した事実は、本件疎明資料及び審尋の経過を総合したものである
が、事実認定との結びつきを明確にするため特に個別に掲げた疎明資料もある。)
一 争点1(申請人の「労働者性」)について
1 申請人と被申請人会社との関係
 申請人が契約していた「償却」制度とは、被申請人会社が所有し営業免許の許可
を受けた車両を、「受け取り」の者が「購入」したという形式(名義は代金完済後
も会社のままであるし、現実に「受け取り」の者が当該車両を会社との契約上の仕
事に使用することをやめた後に引き取った事例があったとの疎明はない。)をと
り、同人に同車を専属的に使用させて運送業務にあたらせ、水揚げ金額に応じた全
額歩合制の報酬から車両の購入代金や自動車税その他の経費を差し引いて支給し、
自動車の燃料等の運行諸費用、点検・修理等自動車に要する経費等も同人に自己負
担させるという概要のものであった。
2 申請人の労働の実態
(一) 申請人の仕事内容は、四トンの貨物自動車で主に塗料・染料・菓子類・薬
品等を被申請人会社の指定どおり配達、集荷することで、配達地域を会社内の一〇
の配送地域のうちの京都コース(南区、右京区、西京区担当)と指定されていた
が、このことは申請人が「従業員運転者」として働いていた時期から通して全く同
じであった。
 京都コースには合計五名の担当者がおり、申請人以外の四名は「従業員運転者」
であり、五名はそれぞれ決まった地域を割り振られて担当していた。
(二) 申請人の一日は、毎朝六時頃に東大阪市<以下略>所在の被申請人会社大
阪営業所に出社し、前夜荷積みをしておいた自己使用車両に乗って出発し、京都に
朝八時頃到着して午前中に配達を完了し、午後に予め会社から指定された集荷先
(申請人はフジケミ近畿、日亜ペイント、ヘンケル白水の三か所)で集荷し、大阪
営業所に戻り荷物をおろし、翌日配達分の荷物の伝票を渡されて宵積みをし、荷物
を積込み終えるのは午後九時頃でその後帰宅するという毎日であった。このことも
「従業員運転者」時代と全く変わらず、また京都コースの申請人以外の四名の「従
業員運転者」とほぼ同様であった。ただ、荷積みの際に四台しかないホームについ
ては申請人には専用のホームが割り当てられ、優先的に使用できた。
(三) 作業の指示は「従業員運転者」と同様に配車係又はA次長からなされた。
作業の段取り自体についての細かい指示はないが、前日の荷物を午前中に配送完了
することが求められる仕事の性質上コース、担当地域によって仕事の手順は必然的
に定まり、申請人の自由裁量の働く余地はほとんどなく、物理的に不可能な場合を
除き諾否の自由もなかった。
 右のようなスケジュールのため、申請人が、仕事中もしくは被申請人会社退社
後、他から依頼を受けて自己使用車両を運転し運送に従事するなどして被申請人か
ら支給される金員以外の収入を得る余地は全くなかった。
(四) 労働時間につき、「従業員運転者」のようなタイムカードによる管理はな
されていないが、毎日の作業日報、タコグラフを会社に提出することを義務づけら
れ、万一事故を起こせば事故報告書の提出義務を課せられていたであろうことは
「従業員運転者」と同様である。
 申請人の車両には業務用の無線がなく、「従業員運転者」のような集荷完了時の
連絡義務は課せられていなかったが、連絡の必要な場合は適宜の方法にて必ず会社
と連絡を取っていた。
(五) 作業に際しては、「従業員運転者」と同じ会社名入りの制服の着用が義務
づけられていた。
 また、申請人が「購入した」とされている車両には会社名入りのカラーリングが
施されており、申請人の自由なカラーリングは許されなかった。
(六) 労働日・休日は「従業員運転者」と全く同じであり、申請人が都合で休む
場合は前もって被申請人会社に連絡することで足りた。申請人が会社から代行者の
手配を命じられたことはなく、逆に申請人は自己以外の者をもって運送にあたらせ
ることは許されないとの認識をもっていた。
3 申請人の報酬
(一) 会社から「受け取り」の者に支給される金員は、あらかじめ定められた率
による配達歩合(直接配達分は売上の四五・五パーセント)と集荷歩合(契約当初
一個当たり約三〇円でその後約二六円となる)の二本建ての全額歩合制であり、毎
月二〇日締めで決定され、そのなかから申請人の場合は、「車両償却費」月額七万
二二二三円及び「割賦支払利息」二万一六六七円(車両購入代金二六〇万円の三年
間の元利均等分割払いとして)をはじめ、自動車税、自動車保険料等の費用、「一
般管理費」(専用ホーム使用料。当初月額一万円を五万円に増額)の基本経費及び
振込料を控除した残額が翌月一五日に申請人指定の口座に振込み支払われる仕組み
であった。
(二) 申請人の収入は昭和六一年の一年間の税引前総収入が五二二万三二一〇円
であったのに対し、昭和六三年の名目総支給額は九五六万四七二〇円となり「従業
員運転者」時代の年収に比して確かに増加した。
 ただし、右の額から振込み支給前に会社から差し引かれた経費合計一九九万一〇
八一円(車両償却費八六万六六七六円、割賦支払利息二六万〇〇〇四円、自動車
税・自動車保険料等計四三万七〇二一円、一般管理費四〇万円、其の他経費二万七
三八〇円)及び自己負担の経費合計約一七八万五三四〇円(燃料費八五万二〇〇〇
円×12/11、修理・車検費三七万七〇三五円×12/11、高速代一万八四〇
〇円×12/11、タイヤ・部品代三八万九一三〇円×12/11の合計)を差し
引くと五七八万八二九九円となり、さらにこれから(被申請人会社によれば必ずし
も支払うべき費用ではなかったようであるが、その点は一応おく。)申請人がアル
バイトに自発的に支払っていたと主張する経費約四三万六三六〇円(四〇万円×1
2/11)を差し引けば、結局申請人としては比較対象たる税引前総収入は五三五
万一九三九円ということになり、べースアップ幅を考慮し、更には事故等による危
険を負担することや退職金制度もないことをも考慮すると、「従業員運転者」時代
と格段の開きはみられなかった(もっとも、車両償却費年間八六万六六七六円、割
賦支払利息年間二六万〇〇〇四円の控除は三年間で終了するから、四年目からはこ
の分の増額が「受け取り」のうまみとして見込まれていたことも一応認められ
る)。
(三) なお、前述の運賃料率の減額(一個あたりの集荷歩合約三〇円を約二六円
に切り下げ、申請人の当時の月収にして約一万数千円ほど下がることになったも
の)及び経費の増額(専用ホーム使用料として一般管理費の名目で月額一万円差し
引いていたものを五万円に切り上げたもの)は、この間の昭和六三年六月に行われ
た。
4 「受け取り」の者と「従業員運転者」との差異
 本件契約は書面上請負契約的形式をとっており、申請人には「従業員運転者」と
異なりタイムカードによる管理はなされず、荷物を宵積みした自己使用車両に乗っ
て帰宅して翌朝出社せず直接配達先に向かうことも許されていたこと、報酬につい
てもその算出システム(「受け取り」の者は「従業員運転者」のような基本給・残
業手当その他の諸手当・賞与等の支給を受けず、退職金の制度もない。)、支払い
時期・方法(当月二〇日締めの分を「従業員運転者」は当月末現金支給。「受け取
り」の者は翌月一五日指定口座振込払い)、また企業内の福利厚生面(特に健康保
険・厚生年金保険・雇用保険等に「受け取り」の者は加入していない。)でも「従
業員運転者」と異なった扱いを受けていたことが一応認められる。
 (なお、企業内の組合にも「受け取り」の者は入れないとされ、明確に区別され
た扱いを受けていた。)
 しかし、結局のところは「受け取り」の者と「従業員運転者」との主たる相違は
報酬の算出システムにあり、ことに「受け取り」の者の側の意識としては、単に自
己がその使用車両の償却費・税金・燃料その他の車に関する経費・危険を負担する
かわりに全額出来高払いで「従業員運転者」よりも高額の収入が見込めるというこ
とに尽きるといえるが、現実には(特に未だ車両償却期間中である場合は)報酬面
でも格段の差異はなかったことが一応認められる。
5 申請人の労働者性についての判断
 「労働者性」の判断基準は使用者との実質的使用従属関係の有無に求められると
ころ、以上認定の事実によれば、結局、被申請人会社は申請人を労働時間中拘束し
てその指揮監督下においており、申請人と被申請人会社との間には実質的な使用従
属関係があったと考えるのが相当であり、申請人の労働者性は優に認められる。両
者の間には労働契約関係が成立していたものというべきであって、本件契約が被申
請人主張のごとき単なる請負契約とはいえない。
二 争点2(本件「解約告知」の効力)について
1 本件「解約告知」及びその前後の経緯
(一) 昭和六三年六月、「受け取り」者に対し、集荷歩合の単価切り下げと専用
ホーム使用料の切り上げが行われた件につき、申請人が抗議したところ、被申請人
会社は、会社の方針にあわない人はやめてもらっていいとの態度であり、不満と不
安を募らせた申請人は、被申請人会社に対し、毎月支給される報酬を決定する基と
なる得意先から受け取る運賃の明細についても問い合わせたが、明らかにはされな
かった。
 「受け取り」者は従来の被申請人会社の企業内組合には入れなかったため、右の
件の他「従業員運転者」も「受け取り」者も早朝から午後九時ころまでにわたる長
時間労働がなされていたことなどを含め、待遇の改善と安定を求めて申請人が中心
となり、非公然で新組合の結成・加入を訴えた。
(二) 平成元年六月上旬ごろ、申請人は、同人の新組合結成の働きかけを知った
被申請人会社のB大阪営業所長に呼ばれ、A次長同席のうえ、翻意するか会社をや
めるよう迫られ、「集荷歩合の単価を切り下げ前の数字にもどしてくれるなら組合
はやらない。」と返答し、会社側も一応検討するとのやりとりがあったが、結局集
荷歩合の単価は元に戻らなかった。
(三) 平成元年六月一一日、申請人らが中心となって「受け取り」の者及び「従
業員運転者」計七名で新組合(全日本運輸一般労働組合中央支部井谷運輸産業分
会。以下「分会」ともいう。)を結成し、翌一二日に被申請人会社に結成を通知
し、集荷歩合の単価を切り下げ前の数字に、また専用ホーム使用料を切り上げ前の
数字にそれぞれ戻してほしいことその他の報酬面、労働条件面等での要求事項につ
き同月一七日午後七時よりの期日で団体交渉を申し入れた。申請人は、分会結成時
より分会長に就任し、会社への結成通知も申請人と組合の中央支部副委員長との二
名で行うなど中心的役割を果たしており、結成通知書に名前を出した分会員のうち
分会長(申請人)、書記長、会計の三名は「受け取り」の労働契約の者であった。
(四) このような動きの中でB大阪営業所長は、「受け取りの者はクビにしてや
る。」と発言し、日程調整がつかないと団交申し入れに応じないまま、同月一九
日、突然申請人に対し、翌二〇日付をもって同人との契約関係を終了させること、
その旨の内容証明郵便を既に同人の自宅宛郵送していると告げ、そのころ会社から
申請人に対する同月一七日付の「解約告知」と題する内容証明郵便が届いた。
(五) なお、分会長である申請人に対する右「解約告知」後、組合の分会書記長
で、「受け取り」の者であるCにおいて、申請人にかわり公然と活動し、分会の中
心的役割を果たしていたところ、被申請人会社は右Cに対しても平成元年七月二一
日付の「請負契約予告通知」と題する内容証明郵便をもって、同人の契約を同年一
〇月二〇日をもって終了させる旨の意思表示を行った。
 その後残る一名の「受け取り」者の分会員である会計のD及び「従業員運転者」
二名は分会を脱退し、現在はその余の二名の「従業員運転者」のみが残された分会
員として被申請人会社において働いている。
2 期間の定めの有無とその解釈
(一) 本件契約書(疎甲一〇)第七条によれば、本件契約には一年の期間の定め
があるかのごとき記載があり、右の事実を前提とすれば、本件「解約告知」は昭和
六三年六月に一度更新された本件契約の期間満了に伴う傭止めと解される余地もあ
る。
(二) しかし、前認定のとおり「受け取り」者と「従業員運転者」とでは、その
従事する仕事内容自体は同一で臨時的性格はないこと、両者の差異は主として報酬
の算出システムにあるといえるが前記一3(二)の試算では申請人の場合車両償却
後に初めて「受け取り」の実質的うまみが享受できる仕組みであったとさえいえる
ところ、申請人の「購入」した車代金二六〇万円は償却期間三年の均等分割払とさ
れており、毎月の報酬から「車両償却費」として七万二二二三円、「割賦支払利
息」として二万一六六七円の合計額である九万三八九〇円を三六か月間控除された
後にようやくこの額についての「受け取り」制度のうまみが享受できる仕組みにな
っているが、本件「解約告知」時点では未だ二か年しか経過していないこと、また
現実の運用としても契約書の文言に「双方より何等かの申出なき時は更に一ヶ年延
長する」と記載されているように、申請人はもちろん他の「受け取り」者について
も期間満了の都度直ちに新契約締結の手続をとるのではなく、逆に何らの手続なし
に原則として反復更新する運用がされてきたことが一応認められることから考えれ
ば、本件契約書上の期間の定めにもかかわらず、労使双方がともに期間満了時に労
働契約が終了すべきことを予定していたとは認めがたく、むしろ、被申請人会社と
しては、特段の事情のない限り労働契約を更新することを予定し、申請人としても
また引き続き働けることを期待していたものであって、実質においては、当事者双
方とも、期間の定めは一応あるが、いずれからか格別の意思表示のないかぎり当然
更新されるべきものと考えており、このような考えのもとに本件労働契約関係は締
結され、存続されてきたものというべきである。
(三) 以上から、右のような本件契約を終了させる趣旨のもとにされた本件「解
約告知」による期間更新拒絶の意思表示は、実質において解雇の意思表示にあたる
と解されるから、その効力の判断にあたっては、その実質に鑑み解雇の法理を類推
すべきである。
3 本件「解約告知」の効力についての判断
(一) ところで、被申請人会社が、本件契約の更新を拒絶した理由としてあげる
ものは、被申請人会社により昭和六三年六月になされた「受け取り」者に対する集
荷歩合の切り下げと専用ホーム使用料の月額一万円から五万円への切り上げにつ
き、申請人が、従前の条件に改定するよう求めて被申請人会社と折り合いがつかな
かったということのみである。
 しかし、申請人が被申請人会社に対し労働条件等の改善を求める申し入れをなす
こと自体は、労働者である申請人の立場からは当然の行為であるし、前記二1認定
の事実によれば、申請人のなした集荷歩合の単価や専用ホーム使用料等についての
申し入れがその態様において特に問題とされるべきものであったとも疎明されない
から、右の申し入れがあったことのみをもって解雇の理由とすることは到底なしえ
ない。
(二) 以上、申請人と被申請人との間には労働契約が成立しており、期間の定め
については前記のとおり解されるので、本件「解約告知」の効力の判断にあたって
は、解雇の法理を類推すべきであり、解雇には正当な事由が必要であるところ、被
申請人の主張する期間更新拒絶理由は解雇の正当事由にはなりえないものであるか
ら、本件「解約告知」は解雇権の濫用として、その余の点について判断するまでも
なく無効なものというべきであり、申請人は依然として被申請人会社に対し労働契
約上の権利を有する地位にあるものである。
三 保全の必要性
1 仮払いを命ずべき期限について
 申請人が被申請人から支給される報酬を唯一の収入源として申請人及びその家族
(専業主婦の妻、就学前の二児)の生計を営んできた労働者であることは明らかで
あり、本件「解約告知」により第一審の本案判決の言渡に至るまで被申請人会社の
労働者として扱われず、右報酬が受けられないとすれば、その生活に著しい支障を
来たし、申請人に回復しがたい損害を生ずるおそれがあるものと考えられる。しか
し申請人が第一審の本案判決の言渡時以降に及んで金員の仮払いを求める部分は、
申請人が本案の第一審において勝訴すれば仮執行の宣言を得ることによって右と同
一の目的を達することができるので右申請部分については必要性を欠く。
2 仮払いを命ずべき金額について
 申請人が本件「解約告知」直前三か月間(疎甲七ないし九)の平均賃金と主張す
る金五六万八七九〇円のうち、一か月約一八万五〇〇〇円余が燃料費その他申請人
の自己負担の経費に当てられていたことは申請人の自認するところであり、更に申
請人が本件「解約告知」後不定期とはいえアルバイトによる幾分かの報酬を得てき
たことも一応認められる。他方、被申請人会社が申請人の平成元年六月分の報酬
(六月二〇日締め七月一五日払い)を自動車の残代金と相殺したと主張して申請人
に対し支払わないことや、申請人が現在本件「解約告知」に起因する借金等の返済
に追われていることその他本件疎明に現れた一切の事情を総合すれば、金三三〇万
円及び平成二年五月以降本案の第一審判決言渡しに至るまで毎月一五日限り、月額
金三三万円の割合による金員をもって現在の危険の回避に必要な仮払い額と認める
のが相当である。
四 結論
 以上の次第で、本件仮処分申請は、主文一、二項記載の限度で理由があるから、
事案の性質上保証を立てさせないでこれを認容し、その余は理由がなくかつ保証を
もって疎明に代えさせることも相当でないからこれを却下し、申請費用の負担につ
き民事訴訟法八九条、九二条但書を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 水谷美穂子)

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