弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決及び第一審判決中被告人Aに関する部分を破棄する。
     被告人Aは無罪。
     被告人C、同Bの本件各上告を棄却する。
         理    由
 弁護人飯田孝朗の上告趣意第一、一及び二、(一)について
 所論は、刑法一七五条の規定は憲法二一条に違反する旨、並びに、本件猥せつ図
画の販売及び販売目的の所持に刑法一七五条の規定を適用したのは憲法三一条に違
反する旨主張するが、これらは、いずれも控訴趣意書において主張することがなく
原審も判断していない事項に関するものであるから、適法な上告理由にあたらない。
 同第一、二、(二)について
 所論は、第一審判決には、被告人A、同Bに関する犯罪事実の摘示を欠いている
のにかかわらず、原判決がこれを破棄しなかつたのは憲法三一条に違反する旨主張
するが、原判決がいうとおり、第一審判決には、措辞適切を欠く点はあるが、右両
被告人に関する犯罪事実が示されていると認めることができるから、所論は前提を
欠き適法な上告理由にあたらない。
 同第二について
 所論は、判例違反をいうが、引用の判例は事案を異にし本件に適切でないから、
所論は前提を欠き適法な上告理由にあたらない。
 同第三、第四の一、二について
 所論は、いずれも単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、適法な上告理由に
あたらない。
 しかしながら、所論第三にかんがみ、職権により調査すると、原判決が是認した
第一審判決が認定判示した犯罪事実のうち、第二、三の要旨は、被告人C、同Aが
共謀のうえ、昭和四九年一一月初旬ころ東京都内の被告人A方において、販売の目
的で、男女性交の場面や性器等を露骨に撮影した猥せつのカラー写真雑誌の写真原
板三二枚を所持したというものである。そして、原審弁護人が、被告人両名におい
ては右写真原板をアメリカで販売する目的で所持していたにすぎないから刑法一七
五条後段の罪は成立しないと主張したのに対し、原判決は、「同条は猥せつの図画
等をいやしくも販売の目的で所持する以上これを処罰する趣旨の規定で、国内で販
売する目的の場合にだけ適用があると解すべきものではないうえ、被告人両名にと
つては要するに高額の代金取得だけが目的であつたので、さしあたりアメリカでの
販売を志向していたとはいえ、国内で販売する意図がまつたくなかつたとは断定し
がたい」旨判示して、右主張を斥けている。
 ところで、刑法一七五条の規定は、わが国における健全な性風俗を維持するため、
日本国内において猥せつの文書、図画などが頒布、販売され、又は公然と陳列され
ることを禁じようとする趣旨に出たものであるから(このことは、刑法二条、三条
の国外犯の処罰例中に同法一七五条が掲げられていないことから明らかである。)、
同条後段にいう「販売の目的」とは日本国内において販売する目的をいうものであ
り、したがつて、猥せつの図画等を日本国内で所持していても日本国外で販売する
目的であつたにすぎない場合には同条後段の罪は成立しないと解するのが相当であ
る。これを本件について見ると、第一審判決挙示の証拠によれば、被告人Cは、昭
和四八年九月ころ、スウエーデンのポルノ書籍販売業者から本件写真原板を買い受
けたのち、東京都内の印刷業者に依頼し右写真原板を用いてカラー写真雑誌多数冊
を製作させたうえ、これを日本国内で販売したり又は販売の目的で所持していたと
ころ、昭和四九年二月中検挙され、右写真雑誌多数冊を押収され、取り調べられる
にいたつたこと、そのようなことがあつて、同被告人においては、アメリカ商社の
日本駐在員などをしアメリカに出張などしていた被告人Aを介して、右写真原板を
アメリカで売却しようと考え、同年一一月初旬ころ、同被告人に対し、右の趣旨を
依頼してこれを預けたこと、被告人Aにおいては、これを引き受けたのち、国際電
話でアメリカの関係業者数社に対し右の売却の交渉をしたりしていたことを認める
ことができるのである。以上の事実に照らすと、被告人Cが右写真原板を被告人A
に委託した主な動機は、売却代金の取得にほかならなく、アメリカで売却するとい
うこと自体はその方便にすぎないとみられるのであるが、しかし、本件起訴の対象
である前記日時における所持に際し、被告人C及び同Aが、日本国内で売却する目
的をも合わせもつていたと断定することも困難なところであり、結局、被告人両名
の右写真原板の所持について、日本国内で販売する目的があつたとの証明は十分で
ないといわなければならない。
 そうすると、被告人両名の右所持について刑法一七五条後段の罪の成立を認めた
第一審判決及びこれを維持した原判決には、事実の誤認又は法令の解釈適用の誤り
があり、これが判決に影響を及ぼすものと認められるところ、被告人Cの関係では、
第一審判決の認定判示したその余の各犯行の態様及びその量刑などに照らし、原判
決及び第一審判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められないが、
被告人Aの関係では、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる
(なお、第一審判決が右写真原板三二枚の没収について刑法一九条一項一号を適用
した点も誤りといわなければならないが、右物件が同判示第一及び第二の一、二の
各犯行の用に供されたものであることは明らかであつて、同項二号によつても没収
することができる場合であるから、右適条の誤りは判決に影響を及ぼすべきもので
はないと認められる。)。
 よつて、刑訴法四一一条一号、三号により、原判決及び第一審判決中被告人Aに
関する部分はこれを破棄し、なおただちに判決することができるものと認め、同法
四一三条但書、四一四条、四〇四条、三三六条により、被告人Aが販売の目的で前
記のとおり猥せつの図面を所持したとの公訴事実について、無罪の言渡をすべきで
ある。被告人C、同Bについては、同法四一四条、三九六条により本件各上告を棄
却すべきである。
 よつて、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
 検察官設楽英夫 公判出席
  昭和五二年一二月二二日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    本   山       亨

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