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裁判例


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         主    文
     原判決及び第一審判決中、被告人両名に関する部分を破棄する。
     被告人Aを懲役一年、同Bを懲役二年に各処する。
     第一審における未決勾留日数中、被告人両名に対し各その刑期に満ちる
までの分をそれぞれその本刑に算入する。訴訟費用中、第一審における証人C、同
D、同E、同F、同G、同H、同I、同J(ただし、昭和四七年七月一三日支給分)
及び原審における証人K、同Lに各支給した分は被告人Bの負担とする。
         理    由
 被告人Aの弁護人倉田哲治、同青木英五郎(名義)の上告趣意は、事実誤認、単
なる法令違反、量刑不当の主張であり、被告人Bの弁護人中田直人、同渡辺卓郎、
同望月千世子の上告趣意のうち、憲法三一条違反をいう点は、実質において刑法六
〇条の解釈適用の誤りをいう単なる法令違反の主張であり、判例違反の主張のうち、
原判決が被告人Bに関して他人の行為を自己の手段として犯罪を行つたという関係
が認められないにもかかわらず共謀共同正犯の成立を認めているとして判例違反を
いう点は、原判示にそわない事実関係を前提とする判例違反の主張であり、また、
原判決が共謀共同正犯における共謀について日時、場所等を具体的に認定判示して
いないとして判例違反をいう点は、所論引用の判例は、共謀共同正犯における共謀
は罪となるべき事実でありこれを認定するには厳格な証明によらなければならない
としているが、厳格な証明によつて共謀が成立したことが認定される場合に更にそ
の日時、場所、内容等を具体的に特定して判示することまで要するとしているもの
でないから、右各判例違反の主張はいずれも前提を欠き不適法であり、その余の点
は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、すべて刑訴法四〇五条の上告理由
にあたらない。
 しかしながら、所論に鑑み職権をもつて調査すると、原判決及び第一審判決は以
下に述べる理由から破棄を免れない。
 原判決は、第一審判決が被告人両名に関する罪となるべき事実として摘示した同
判決第二、第三及び第五の各背任の所為はこれを包括して一個の背任罪を構成すべ
きものであると解したうえ、右各事実のうち第二(ただし、第一審判決末尾に添付
してある犯罪事実一覧表(二)の整理番号33の事実を除く。)及び第五の各事実
については、被告人両名がこれらの犯行を原判示のK及びMと共謀して遂行したと
いう証拠は右Kの供述をおいて他になく、右供述はそれ自体矛盾撞着し不自然不合
理なところがあるばかりか重要部分について客観的事実と明らかに相違し到底信用
することができないから、これを措信して右各事実につき被告人両名とK、Mとの
共謀の成立を認定した第一審判決は、証拠の評価を誤り事実を誤認したものである
として、右各事実について被告人両名を無罪とする一方、前記第二の犯罪事実一覧
表(二)の33の事実及び同第三の各事実(以下、これらを単に「本件事実」と略
称する。)については、右各事実の証拠であるKの供述はMの供述と部分的ながら
符合しているうえ、その一部について被告人A自身も自認していることなどに照ら
して信用することができ、これによつて被告人両名がK及びMと共謀してこれらを
敢行したものであることが優に認められるから、本件事実について被告人両名を有
罪とした第一審の判断は相当であると判示している。
 ところで、原判決が被告人両名において本件犯行に共謀加功したと認めるべき証
左として述べるところは、要するに、被告人両名が、その勤務する株式会社N(以
下、単に「N」と略称する。)の営業が極度に不振で殆んど正常な業務を停止した
状態にあるにもかかわらず、これに対して前記Mを介し同人の勤務する株式会社O
銀行P支店から巨額の融資がされており、しかもその態様が担保の徴求などを全く
欠き通常の取引形態から著しく逸脱したもので、いずれにしても回収困難ないし回
収不能に陥ることが必定のものであることを熟知しながら、前記Kと相謀り、右M
を通じて更に二〇億円という桁外れに多額の貸出しを受けることを企図したこと、
右融資の謝礼として右同人に五億円のリベートを提供することとし、昭和四五年二
月六日ころ、前記N社長室において、被告人両名及びKの三名が共同して右五億円
を小切手五〇枚に分割して作成したこと、被告人Aにおいて、翌七日ころ、これを
O銀行P支店の前記Mの許まで持参して同人に手渡し、その際同人に対し、Nはあ
と二〇億円必要でありこれを必要とする理由はのちほどKから説明するが兎に角二
〇億円の貸出しを考慮されたいなどと申し向け、更にその後しばしば電話で右融資
の実行方を促したこと、被告人Bにおいて、同年三月四日ころ、前記Kと共に右M
をホテル・Qに呼び出し、同所において、KとこもごもNが二〇億円を必要とする
理由について具体的に説明し、その際右Kがさきに渡した小切手はMにおいて自由
に使つて欲しいなどと申し向け強力に融資実行の要請をしたこと、ここにおいて右
Mも被告人らの要請に応じることとし、このような多額の不正融資を支障なく遂行
するためには東京都以外の銀行に架空人名義口座を開設してそこに順次送金する方
法を採るのが便宜であると提案し、これに被告人B及びKが同意したこと、以上の
諸事実は証拠上動かし難く、これらによれば被告人両名が前記K及びMと共謀して
本件犯行に及んだことが明白であるというのである。
 しかしながら、原判決の右認定事実のうち、被告人Aにおいて、額面総額五億円
の前記小切手をMに届けたこと、更にその際口頭で、またその後は電話で、右同人
に対し再三に亘り新規貸出しを要請したこと、被告人Bにおいて、Kが右Mをホテ
ル・Qに呼び出し二〇億円の新規融資を要請した際、これと同席しNが二〇億円を
必要とする根拠を具体的な事業計画を示しながら説明したこと、以上の諸事実が証
拠上明認できるという限りにおいては原判決の認定は正当と認められるが、その余
の事実、とりわけ次の諸点に関する原判決の認定・判断は、第一審及び原審におけ
るMの供述その他関係各証拠を勘案すると到底首肯し難いものがあるといわなけれ
ばならない。
 すなわち、
 一 原判決は、被告人両名において五億円の謝礼小切手をMに提供するのと引換
えにNに二〇億円の新規融資をさせることを前記Kと共謀したこと、並びに被告人
両名及びKの三名がN社長室において右謝礼小切手合計五〇通を共同作業により作
成したことを認定しているが、この点に関する証拠としては僅かにKの供述がある
だけであつて、被告人両名は捜査の当初から右事実を一貫して否定し、五億円の謝
礼を提供して二〇億円の融資を受けるという話合いは専らNの社長であるKとO銀
行P支店の副長兼外国為替係長であるMの二人だけの間で行われ、五億円の謝礼小
切手の作成もKが単独でしたものであると主張しているから、原判決の認定する右
のような事実が果して存在したか否かは一にかかつて右K供述の信用性に依存して
いるところ、右五〇通の小切手のうち現存する一六通(当裁判所昭和五六年押第二
六号の二二)の金額欄の打痕の特徴(なお、警視庁技術吏員R作成の鑑定書参照)、
被告人A及びSの捜査官に対する各供述などによれば、右各小切手はいずれもKの
内妻(当時)Tの所有するチエツク・ライターで打刻されていること、そして右チ
エツク・ライターがN会社内に持ち込まれた事実はないことが認められるから、こ
れら小切手がN社長室において作成されたとするK供述は虚偽であるといわざるを
えず、右K供述がN社長室における小切手作成状況を余りにも具体的・詳細に生生
しく述べているだけに、同供述の他の部分についてもその信用性に多大の疑念を生
ぜしめることになるというべきである。
 そして、このことは、単に謝礼小切手がN社長室で作成されたとする原判決の認
定が誤りであるというにとどまらず、原判決が、右謝礼小切手を被告人両名及びK
が三人がかりでN社長室において作成したという事実をもつて、本件事実がNの会
社ぐるみの犯行であつて資金担当取締役である被告人Aや地区N担当取締役である
被告人BもKと共同して本件犯行を遂行したことの徴憑として位置づけている基本
的な構成そのものを揺がし、それがKの個人的な利を図る目的に出た犯行であると
する被告人両名の主張がむしろ真実に合致するのではないかという疑いすら生ぜし
めるのである。
 二 次に、原判決は、被告人BにおいてK及びMとのホテル・Qでの話し合いに
同席し、本件融資金を受け入れるため東京都外の銀行に架空人名義口座を開設する
ことに同意した旨認定するが、証拠によれば、その後横浜市内の七銀行に架空人名
義口座が開設されているところ、右開設手続はすべてNと何ら関係のない前記Tが
Kの指示により行つており(この事実はK自身も認めている。)、右口座の入・出
金はM、KないしTのいずれかがし、被告人両名は右口座開設手続に関与した事実
がないのは勿論のこと、口座の入・出金にもかかわつたことの確たる証跡も窺われ
ないことに徴すると、右横浜七行口座はK個人の私的な隠し口座である疑いが強く、
遡つて右口座開設に被告人Bが参画したとの事実も存在しないのではないかとの疑
いを生じ、この疑いは原判決の前記認定に合理的な疑いを生ぜしめるものといわな
ければならない。
 三 そして更に、この点は原判決も正当に認定しているところであるが、本件事
実によつて形式上Nに貸し出された総額八億一千六百万円余りの金員について、被
告人Aは一円もその分け前にあずかつておらず、被告人Bもその分け前にあずかつ
たとの確証がない。
 そして、N自体が右融資金をその本来の事業目的に使用したという証跡はないの
である。
 このようにみてくると、五億円の謝礼と引換えに二〇億円の融資を得るという本
件の筋書きは、K個人によつて発案、推進され、融資金の主たる受け皿である横浜
七行口座の開設、運用もまたK個人によつてされたのではないか、という疑いがあ
り、本件は、被告人両名が供述するように、専らKが個人の利得を収める目的をも
つてしたもので、被告人両名がKと共謀して同人らの利得を意図してしたものでは
ないという疑いが強い。
 以上のような見地に立つて、被告人Aが五億円の小切手をMの許まで届け、かつ
再三にわたつて新規融資を要請し、被告人BがMに対しホテル・Qで二〇億円の資
金需要の根拠を説明したという、前記の証拠上明認することができる事実をみると、
以上の被告人両名の所為は、Kの個人会社ともいうべきNに雇われ、資金面を担当
していた被告人Aにおいて、社長であるKの命をうけて融資側に立つMに対し資金
貸出しを要請し、また、地区N設立など営業面を担当していた被告人Bにおて、同
じく社長であるKの命をうけ自己の分担事務である事業計画の内容を説明したにと
どまるものとみるのが合理的であり、このことは、M自身第一審及び原審における
公判廷で供述しているように同人が被告人両名を単にKの使者ないしNの単なる事
務担当者として遇し、例えば被告人Aの二〇億円融資要請も単に聞き流してしまつ
ている事実によつても裏付けられるのである。
 してみると、被告人両名の右所為は、KやMらと共謀し、かつ、その共謀に基づ
いて本件背任罪の犯行を遂行したというに足りないものというべきであり、右Kの
ために、同人の犯行を容易ならしめるべくこれを幇助したにとどまるものと認める
のが相当である。
 したがつて、原判決が、安易にKの供述の信用性を肯認し、右供述等に基づいて
被告人両名が本件背任罪の共謀共同正犯であるとしたのは、証拠の評価を誤り、事
実を誤認し、ひいては刑罰法令の適用を誤つた違法があるというべきであり、右違
法は、判決に影響を及ぼすことが明らかであり、本件において原判決及び原判決の
支持する第一審判決を破棄しなければ著しく正義に反するものというべきである。
 よつて、刑訴法四一一条一号、三号により原判決及び第一審判決を破棄し、同法
四一三条但書に従い被告事件について更に判決することとするが、第一審判決が摘
示する被告人両名に関する罪となるべき事実のうち本件事実以外の部分は既に原判
決の理由中において無罪とされ、これに対して検察官から上告の申立がなく当事者
間において攻防の対象からはずされたものとみるべきであるから(最高裁昭和四一
年(あ)第二一〇一号同四六年三月二四日大法廷決定・刑集二五巻二号二九三頁、
同四二年(あ)第五八二号同四七年三月九日第一小法廷判決・刑集二六巻二号一〇
二頁参照)、
 この部分については原判決の無罪の結論に従うものとし、原判決が肯認した第一
審判決の有罪部分についてのみ次のとおり判決する。
 第一審判決及び原判決の挙示する証拠によれば、被告人両名は、K及びMが共謀
して第一審判決の罪となるべき事実第二のうち同判決末尾に添付してある犯罪事実
一覧表(二)の33の事実及び同第三の事実の各背任の犯行をするに際し、その情
を知りながら、右Kの指示に従い、被告人Aにおいて昭和四五年二月七日ころ右不
正融資をすることの謝礼の趣旨で額面総額五億円の小切手五〇通を台東区ab丁目
c番d号O銀行P支店において右Mに手渡し、かつ、そのとき及びその後に前後数
回にわたり電話等でNに対する二〇億円の融資の実行方を求め、被告人Bにおいて
同年三月四日ころ、東京都港区eb丁目f番地ホテル・Qにおいて、右Kと同席し
て前記Mに対し、Nにおける二〇億円の資金需要の理由根拠について具体的な事業
計画を示して説明するなどして右Kのした貸出し要請を補強し、もつて右KがMと
した前記背任の犯行を容易ならしめて、これを幇助したものである。
 法令に照らすと、被告人両名の所為は包括して刑法二四七条、六二条一項、六五
条一項、昭和四七年法律第六一号による改正前の罰金等臨時措置法三条一項一号に
各該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、右は従犯であるから刑法六三条、六
八条三号により法律上の減軽をした刑期の範囲内で被告人Aを懲役一年、同Bを懲
役二年に各処し、同法二一条により第一審における未決勾留日数中被告人両名に対
し各その刑期に満ちるまでの日数をそれぞれその本刑に算入し、訴訟費用について
は刑訴法一八一条一項本文により第一審及び原審における証人中主文掲記の者に支
給した分を被告人Bに負担させることとし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり
判決する。
 検察官水原敏博 公判出席
  昭和五七年四月二二日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    谷   口   正   孝
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   崎   萬   里
            裁判官    本   山       亨
            裁判官    中   村   治   朗

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