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平成14年(ワ)第6613号特許権侵害差止請求事件
口頭弁論終結日 平成15年2月24日
            判       決
 原    告      リヒター ゲデオン ベジェセティ ジャール 
アールテー
訴訟代理人弁護士  品 川 澄 雄
同  吉 利 靖 雄
補佐人弁理士  岩 田   弘
同  中 嶋 正 二
   被    告      日本医薬品工業株式会社(以下「被告日本医薬品
工業」という。)
被    告  株式会社陽進堂(以下「被告陽進堂」という。)
被告ら訴訟代理人弁護士 浦 崎   威
同  久 保 精一郎
   主       文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
   事実及び理由
第1 請求
1 被告日本医薬品工業は,別紙物件目録1記載の医薬品を製造し,販売し,又
は販売のために展示してはならない。
2 被告陽進堂は,別紙物件目録2記載の医薬品を製造し,販売し,又は販売の
ために展示してはならない。
3 被告日本医薬品工業は,その所有する別紙物件目録1記載の医薬品を,被告
陽進堂は,その所有する別紙物件目録2記載の医薬品を,それぞれ廃棄せよ。
第2 事案の概要
 本件は,ファモチジンに関する特許権を有する原告が,日本薬局方ファモチ
ジンを原薬とする別紙物件目録1及び2記載の各医薬品(以下,まとめて「被告ら
医薬品」という。)の製造販売等を準備している被告らに対し,被告ら医薬品の製
造販売等は原告の上記特許権を侵害すると主張して,被告ら医薬品の製造販売等の
差止め等を求めている事案である。
1 争いのない事実等
(1) 原告は,医薬品の研究開発及び製造販売を業とし,世界各国において医薬
品を販売しているハンガリー国法人である。被告らは,いずれも主に医薬品の製
造,販売を業とする株式会社である。
(2) 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許請求の範囲請
求項1の発明を「本件発明」という。)を有している。
特許番号  特許第2708715号
発明の名称  形態学的に均質型のチアゾール誘導体の製造方法
出願番号  特願平6-196865号
分割の表示  特願昭62-193855号の分割
出願日  昭和62年8月4日
公開番号  特開平7-316141号
公開日  平成7年12月5日
優先権  1986年8月5日のハンガリー国特許出願番号3370/8
6に基づく優先権
登録日  平成9年10月17日
特許請求の範囲請求項1
「その融解吸熱最大がDSCで159℃であり,その赤外スペクトルにお
ける特性吸収帯が3506,3103及び777cm-1
にあり,及びその融点が15
9~162℃であることを特徴とする「B」型のファモチジン。」
(3) 本件発明の構成要件は,次のとおりに分説することができる(以下,それ
ぞれ構成要件ア,構成要件イなどという。ただし,構成要件エの趣旨については,
後記のとおり,争いがある。)
ア その融解吸熱最大がDSCで159℃であり,
イ その赤外スペクトルにおける特性吸収帯が3506,3103及び777
cm-1
にあり,及び
ウ その融点が159~162℃である 
エ ことを特徴とする「B」型のファモチジン
(4) 一般名「ファモチジン」〔化学名:N-スルファモイル-3-(2-グア
ニジノ-チアゾール-4-イル-メチルチオ)-プロピオンアミジン〕には,A型
とB型の二つの結晶形のものが存在し,本件発明に係るファモチジンは「B型ファ
モチジン」と呼ばれる結晶形のものである。
(5) 本件特許に先行して,山之内製薬株式会社(以下「山之内製薬」とい
う。)の出願・登録に係る次の特許(以下「山之内特許」といい,その明細書を
「山之内特許明細書」という。)が存在した(乙5)。
発明の名称  アミジン誘導体ならびにその製造法
特許番号  第1333173号
出願日  昭和54年8月2日
登録日  昭和61年8月28日
(6) 被告日本医薬品工業は,平成14年3月14日,山之内製薬が製造販売す
るH2受容体拮抗剤たる「ガスター散」と同一の後発医薬品として,別紙物件目録
1記載の医薬品について,薬事法14条1項に基づく厚生労働大臣の製造承認を受
け,同医薬品について健康保険法に基づく薬価収載申請をし,同法の適用を受ける
健康保険薬として販売を準備中であり,近く販売が開始される。
(7) 被告陽進堂は,平成14年3月15日,山之内製薬が製造販売するH2受
容体拮抗剤たる「ガスター錠」と同一の後発医薬品として,別紙物件目録2記載の
医薬品について薬事法14条1項に基づく厚生労働大臣の製造承認を受け,同医薬
品について健康保険法に基づく薬価収載申請をし,同法の適用を受ける健康保険薬
として販売を準備中であり,近く販売が開始される。
(8) ファモチジンは,現行の第十四改正日本薬局方に収載された医薬品である
(以下,第十四改正日本薬局方に収載されたファモチジンを「日本薬局方ファモチ
ジン」という。)。厚生労働大臣から製造承認を受けた被告ら医薬品に含まれる原
薬ファモチジンは,現行の第十四改正日本薬局方に収載されたとおりの規格のもの
でなければならない。
(9) 被告らは,日本薬局方ファモチジンを株式会社ワイ・アイ・シーから購入
し,被告ら医薬品の原薬として用いている。
(10) 日本薬局方ファモチジンの赤外吸収スペクトル測定法によるスペクトル
が示す特性吸収帯は,本件発明に係る明細書(甲2,以下「本件明細書」とい
う。)の「B」型のファモチジンの特性吸収帯(【0019】の【表1】)と一致
している。したがって,被告ら医薬品に含まれる日本薬局方ファモチジンは,構成
要件イの「その赤外スペクトルにおける特性吸収帯が3506,3103及び77
7cm-1
にあり」を充足する。
2 争点
 被告ら医薬品は,本件発明の技術的範囲に属するか。
(1) 構成要件エの充足性(争点1)
(2) その他の構成要件(ア,ウ)の充足性(争点2)
第3 当事者の主張
1 構成要件エの充足性(争点1)について
(原告の主張)
(1) 構成要件エ記載の「『B』型ファモチジン」の意義
ア 本件明細書の特許請求の範囲請求項1には,「・・・を特徴とする
「B」型のファモチジン」と記載されているが,この記載は,以下のとおり,本件
発明に係るファモチジンの構成要件アないしウを反復記載したものにすぎず,上記
3要件とは別個の構成要件を記載したものではない。
 したがって,構成要件エ記載の「『B』型ファモチジン」は,100パ
ーセント純粋なB型ファモチジンに限定されるものではなく,A型ファモチジンが
混在し,100パーセント純粋なB型ファモチジンといえなくても,構成要件アな
いしウを充足していれば足り,特にIRスペクトル特性が一致していれば足りると
解すべきである。
イ 本件特許出願前には,ファモチジンにA型とB型の結晶多形が存在する
ことは知られておらず,本件特許出願前の公知のファモチジンは,A型ファモチジ
ンとB型ファモチジンの混合物であり,単に「ファモチジン」と総称されていた。
本件発明は,ファモチジンの結晶多形の存在を初めて見出し,多形体結晶のそれぞ
れを分別晶出させ得る結晶化制御技術を確立し得たことに基づき発明されたもので
あり,ファモチジンの結晶多形のうち請求項1で特定された三つの要件,すなわ
ち,DSC測定値(構成要件ア),IRスペクトル特性(構成要件イ)及び融点
(構成要件ウ)の各要件を併有するファモチジンを技術的範囲とするものである。
ウ そうすると,構成要件エ記載の「『B』型ファモチジン」は,以下のと
おりに理解すべきである。すなわち,公知のファモチジンは,A型の存在比率が多
く,IRスペクトル特性において,B型の特性吸収帯の他にA型の特性吸収帯も検
出されるものであったのに対して,構成要件エ記載の「『B』型ファモチジン」
は,IRスペクトル特性においてA型ファモチジンの特性吸収帯が検出されず,B
型ファモチジンの特性吸収帯のみが検出されるという点で,公知のファモチジンと
区別される新規な物質である。つまり,A型ファモチジンの混在がIRスペクトル
特性(構成要件イ)において検出されるほど多いものが公知のファモチジンであ
り,A型ファモチジンの混在がDSC吸熱最大(構成要件ア)では検出されるが,
IRスペクトル特性(構成要件イ)においては検出されない程度に少ないものは,
実質的にB型ファモチジンと同等であり,本件特許出願前には知られていなかっ
た,本件発明に係る「B」型ファモチジンであると理解すべきである。
(2) 被告ら医薬品と構成要件エとの対比
ア 被告ら医薬品が,本件発明の「『B』型ファモチジン」に当たるか否か
は,次のような過程により判断すべきである。すなわち,まず,IRスペクトルの
特性吸収帯(構成要件イ)によりB型ファモチジンの特性吸収帯のみが検出される
かどうかを判定し,次いで,B型ファモチジンの特性吸収帯のみが検出されるもの
について,融解吸熱最大温度(構成要件ア)及び融点(構成要件ウ)が一致するか
否かにより判断すべきである。
イ 被告ら医薬品の原薬ファモチジンは,前記第2の2(10)のとおり,IR
スペクトルにおいて,B型ファモチジンの特性吸収帯のみが検出され,後記2のと
おり,融解吸熱最大温度(構成要件ア)及び融点(構成要件ウ)の一致も認められ
るから,構成要件エ記載の「『B』型ファモチジン」に当たる。なお,被告らは,
被告ら医薬品の原薬ファモチジンが山之内特許明細書の実施例2の製法に従って製
造されたと主張するが,この点については知らない。
(被告らの反論)
(1) 構成要件エ記載の「『B』型ファモチジン」の意義
 山之内特許に係る公知のファモチジンは,A型ファモチジンとB型ファモ
チジンの混合物であった。本件発明は,公知のファモチジンとは異なり,「100
%の形態学的純度を有する異なった型のファモチジンである」(乙6の1,2)と
の主張が認められて特許査定されたものである。したがって,本件発明に係る
「B」型ファモチジンは,形態学的に均質なファモチジン,すなわち,純度100
%の単一のB型結晶ファモチジンを意味する。
(2) 被告ら医薬品と構成要件エとの対比
 被告ら医薬品の原薬ファモチジンは,山之内特許明細書の実施例2の製法
に従って製造された上記公知のファモチジンであり(乙7),A型ファモチジンと
B型ファモチジンの混合物であるから,本件発明の技術的範囲に含まれない。
2 その他の構成要件の充足性(争点2)について
(原告の主張)
(1) 構成要件アの充足性について
ア 本件発明に係るB型ファモチジンの赤外吸収スペクトル測定法によるス
ペクトルと日本薬局方ファモチジンの赤外吸収スペクトル測定法によるスペクトル
とは,特性吸収帯(波数)及び吸収強度が一致しているから,両者は同一物質であ
る。そして,本件発明に係るB型ファモチジンについて,DSC(示差走査熱量測
定法)による測定をした結果は,融解吸熱最大が加熱速度1℃/分において15
9.5℃であった。
イ したがって,被告ら医薬品中の日本薬局方ファモチジンは,構成要件ア
の「その融解吸熱最大がDSCで159℃であり」を充足する。
(2) 構成要件ウの充足性について
ア 第十四改正日本薬局方には,日本薬局方ファモチジンの融点は,「融
点:約164℃(分解)」の性状を示すと記載されている。この融点は,構成要件ウ
の「融点159~162℃」と僅かに相違する。
 しかし,日本薬局方の融点は,融け終わりの温度を融点として記載して
おり,また,「約」及び「(分解)」の記載は,融点が不明確であることを意味し
ている。そして,この融点は,単に日本薬局方ファモチジンについての参考情報で
あり,日本薬局方ファモチジンであることを確認するための判定基準ではない。し
かも,本件発明の発明者は,本件発明に係るB型ファモチジン(すなわち,日本薬局
方ファモチジン)の融点がかなり変わりやすいことを明らかにし,その理由として融
解前に分解が始まることを挙げて,加熱速度の遅速により融点が変動する旨を説明
している。
イ したがって,被告ら医薬品中の日本薬局方ファモチジンの「融点:約1
64℃(分解)」と構成要件ウの「融点159~162℃」との相違は,融点が異な
ることを示すものではない。被告ら医薬品中の日本薬局方ファモチジンは構成要件
ウを充足する。
(被告らの反論)
(1) 構成要件アについて
ア ファモチジンは,本件特許出願前から公知の物質である。公知のファモ
チジンは,A型ファモチジンとB型のファモチジンの混合物であり,これをDSC
により分析すれば,両型に由来する159℃と167℃を融解吸熱最大とする二つ
の融解吸熱ピークが出現する。したがって,公知のファモチジンと本件発明に係る
「B」型ファモチジンとを峻別するためには,構成要件アは,「DSCで159℃
を融解吸熱最大とする一つの融解吸熱ピークが出現することを特徴とする」と厳格
に解釈される必要がある。
イ 被告ら医薬品の原薬ファモチジンをDSCにより分析したところ,本件
発明に係る「B」型ファモチジンと異なる融解吸熱パターンを示した(乙8)。し
たがって,被告ら医薬品の原薬ファモチジンは,構成要件アを充足しない。
(2) 構成要件ウについて
 被告ら医薬品の原薬ファモチジンの融点は,164.5℃である(乙7)
から,構成要件ウの「その融点が159~162℃である」を充足しない。
第4 当裁判所の判断
 1 構成要件エの充足性(争点1)について
(1) 事実認定
 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ,これに反す
る証拠はない。
ア 本件発明は,従来公知のファモチジンにA型とB型の結晶多形が存在す
ることを見出したことに基づいてされたB型のファモチジンに関する発明である
(甲2の【0001】~【0002】)。
イ 本件明細書には,次の記載がある(甲2)。
(ア) 「本発明は形態学的に均一なファモチジン(Famotidine)の製造方
法に関する。」(2欄6~7行)
(イ) 「しかしながら,文献にはファモチジンが多形型をもつかどうかに
ついては示唆がない。ファモチジンの従来公知の製造方法の我々の再現試験の間
に,これらの試験をDSC(中略)により分析した際にファモチジンが二つの型即
ち「A」及び「B」型を有することがわかった。」(2欄14行~3欄5行)
(ウ) 「本発明の方法により製造されたファモチジンの「B」型は159
℃の値を有する融解吸熱最大(DSC-曲線上)を有し,そのIR-スペクトルの
典型的な吸収帯は3506,3103,及び777cm-1
にある。本発明の方法の
最大の利点は,本方法が100%の形態学的純度を有する異なった型のファモチジ
ンを製造するための容易な,良く制御された技術を与え,及び正確にファモチジン
多形を相互に並びに明らかにされていない組成の多形混合物から区別することであ
る。多形混合物の代わりに均質多形体を説明することの重要性を示すために,純粋
な「A」型および「B」型のファモチジンの測定されたデータからの表を示す。」
(6欄4~16行)
ウ 特許庁審査官は,平成8年3月26日,本件特許出願に対し,特許法2
9条2項の規定により特許を受けることができないとの拒絶理由通知を発した。こ
れに対し,本件特許出願人である原告は,同年9月26日,意見書を提出し,本件
特許出願は特許査定に至ったが,同意見書には,次の記載がある(乙6の1)。
(ア) 「B型ファモチジンの方がA型より強い生物吸収力を有し,従いま
してB型の方が有利な効能を発揮し得ることとなります。このことは,本願発明に
より純品なB型ファモチジンを得ることではじめて見出されたことであります。」
(1頁下から4~1行)
(イ) 「従いまして,B型ファモチジンはA型に比べ,薬理学的な観点に
おいて有利な物理的又は物理化学的な性質を有することがご理解頂けたものと思わ
れます。よって,純品たるB型ファモチジンは,A型とB型のファモチジンの混合
物である引例1~3記載のファモチジンとは相違し,且つそれより有利な効果を奏
する化合物であります。」(2頁5~9行)
(ウ) 「よって,B型ファモチジンを純品で得ることは,薬理効能が優れ
ている化合物が得られるという点で有利であるのみならず,薬剤の製造バッチ間差
も回避できるという点で有利な効果をも奏します。このようなことは,ファモチジ
ンの混合物についてしか述べていない引例1~3記載の発明から当業者が容易に想
到し得るものではありません。」(2頁14~18行)
(2) 判断
ア 構成要件エの「『B』型のファモチジン」の意義
(ア) 前記(1)認定のとおり,本件発明は,従来公知のファモチジンについ
て,A型とB型の結晶多形が存在することを見出したことに基づくB型のファモチ
ジンに関する発明である。
 そして,本件明細書の「発明の詳細な説明」欄には「本発明は形態学
的に均一なファモチジンの製造方法に関する。」,「本発明の方法の最大の利点
は,本方法が100%の形態学的純度を有する異なった型のファモチジンを製造す
るための容易な,良く制御された技術を与え,及び正確にファモチジン多形を相互
に並びに明らかにされていない組成の多形混合物から区別することである。」と記
載され,「A型ファモチジン」と「B型ファモチジン」の混合物(多形混合物)
と,純粋な「A型ファモチジン」又は「B型ファモチジン」(均質多形体)とを明
確に区別していること,拒絶理由通知に対する意見書において,引用例のファモチ
ジンがA型及びB型の混合物であるのに対し,本件発明に係るB型ファモチジンは
「純品なB型ファモチジン」であると述べて特許査定に至っていること等の事実経
緯に照らすならば,構成要件エの「『B型』のファモチジン」は,形態学的に均一
なB型のファモチジン,すなわち100%の形態学的純度を有するB型のファモチ
ジンを指し,形態学的な混合物を含まないものと解するのが相当である。
(イ) これに対して,原告は,A型ファモチジンの混在がDSC吸熱最大
(構成要件ア)では検出されるが,IRスペクトル特性(構成要件イ)においては
検出されない程度に少ないものは,実質的にB型ファモチジンと同等のものとして
本件発明に係る「B」型ファモチジンであると理解すべきであり,本件発明に係る
「B」型ファモチジンは,100パーセント純粋なB型ファモチジンに限定される
ものではなく,A型ファモチジンが混在し,100パーセント純粋なB型ファモチ
ジンといえなくても,請求項1に規定されている3要件,殊にIRスペクトル特性
が一致する限り,本件発明に係る「B」型ファモチジンに当たるというべきである
と主張する。
 しかし,以下の理由から,原告の主張は採用できない。
 まず,本件明細書には,原告の上記主張を示唆し又は裏付ける記載は
一切存在せず,かえって,前記(1)認定のとおり,本件明細書及び前記意見書の各記
載を見れば,本件発明に係る「B」型ファモチジンは形態学的に均一なB型ファモ
チジンをいうものと理解するのが自然である。
 また,本件明細書の特許請求の範囲請求項1の記載によれば,「その
融解吸熱最大がDSCで159℃であり」(構成要件ア),「その赤外スペクトル
における特性吸収帯が3506,3103及び777cm-1
にあり」(構成要件
イ),「その融点が159~162℃であること」(構成要件ウ)の3要件が本件
発明に係る「B」型ファモチジンを特定する特徴的な物性とされている。本件明細
書には公知のファモチジンから区別するための純粋なA型ファモチジン及びB型フ
ァモチジンのDSC測定値,IRスペクトル特性,融点等についての測定データの
値が示されているが,構成要件アないしウは,純粋なB型ファモチジンの測定デー
タの値を用いて物性が記載されている。したがって,上記3要件は,A型ファモチ
ジンと区別する,純粋なB型ファモチジンを特定するための要件を記載したものと
解すべきである。
 そうすると,本件発明に係る「B」型ファモチジンについて,原告の
主張するように,A型ファモチジンの混在がDSC吸熱最大(構成要件ア)では検
出されるが,IRスペクトル特性(構成要件イ)においては検出されない程度に少
ないものは,本件発明に係る「B」型ファモチジンであると理解することは,上記
のとおりA型ファモチジンと区別する趣旨で記載された構成要件アを無視するに等
しいこととなる。
 以上のとおりであるから,原告の上記主張は採用できない。
イ 対比
(ア) 証拠(乙8,9,16)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が
認められ,これに反する証拠はない。
a 被告陽進堂において,被告ら医薬品の原薬ファモチジン(株式会社
ワイ・アイ・シーが製造したもので,製造記号CB-21のもの)をDSC測定に
より分析した結果,DSCチャートにおいて,2点の融解吸熱ピークが検出され,
同ピークの一つは,「B」型ファモチジンの存在を示す融解吸熱ピークである15
9.70℃であり,他は,A型ファモチジンの存在を示す融解吸熱ピークである1
62.05℃であった。
b 被告日本医薬品工業において,上記原薬ファモチジン(製造記号C
B-21)の粉末X線回折測定をした結果,B型結晶に基づく回折線が確認される
とともに,A型結晶に特有な回折線である回折角が確認された。
c 株式会社ワイ・アイ・シーにおいて,富山大学理学部助教授A立会
のもとに行われた被告ら医薬品の原薬ファモチジン(ロットCT-16)のDSC
測定の結果,同ファモチジンは,A型とB型の混合型ファモチジンであると認めら
れた。
(イ) 上記認定の事実によれば,被告ら医薬品の原薬ファモチジンは,純
粋なB型のファモチジンではなく,A型とB型の混合したファモチジンであると認
められるから,構成要件エを充足しない。
(3) 小括
 以上のとおり,被告ら医薬品の原薬ファモチジンは,構成要件エを充足
しないから,被告ら医薬品は,本件発明の技術的範囲に属しない。
2 結論
 以上の次第で,原告の請求は,その余の点につき判断するまでもなく,いず
れも理由がない。
 よって,主文のとおり判決する。
    東京地方裁判所民事第29部
        裁判長裁判官   飯  村  敏  明
           裁判官 榎  戸  道  也
           裁判官 佐  野     信
           物件目録1
「日本薬局方ファモチジン」を原薬とするH2受容体拮抗剤たる「日本薬局方フ
ァモチジン散」(販売名「プロゴーギュ散2%」)
           物件目録2
「日本薬局方ファモチジン」を原薬とするH2受容体拮抗剤たる「日本薬局方フ
ァモチジン錠」(販売名「プロゴーギュ錠10㎎」「プロゴーギュ錠20㎎」)

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