弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人が控訴人に対して平成七年三月三〇日付けでした在留資格の変更を許
可しない旨の処分を取り消す。
三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第一 当事者の求める裁判
一 控訴人
 主文と同旨
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 事案の概要
 次のとおり、付加、訂正するほか、原判決の事実及び理由中の「第二 事案の概
要」(三頁七行目冒頭から一二頁一〇行目末尾まで)に記載のとおりであるから、
これを引用する。
1 原判決三頁七行目冒頭から四頁三行目末尾までを次のとおり改める。
「一 本件は、出入国管理及び難民認定法(平成元年法律第七九号による改正後の
もの。以下、改正前の同法を「旧法」、改正後の同法を単に「法」という。)二条
の二及び別表第二所定の「日本人の配偶者等」の在留資格で日本に滞在していたタ
イ王国国籍の女性である原告が、その後、夫と別居していたこと等から右在留期間
の更新を拒絶されたため、法二条の二及び別表第一の三所定の「短期滞在」の在留
資格に変更して滞在していたが、再び右別表第二所定の「日本人の配偶者等」の在
留資格への変更許可申請をしたところ、これに対し、被告は、平成七年三月三〇日
付けで、右変更を不許可とする旨の処分(以下「本件処分」という。)をしたの
で、被告に対し、本件処分は違法であるとして、その取消しを求めた事案であ
る。」
2 同五頁九、一〇行目の「在留期間の更新を認める」を「法二一条三項所定の在
留期間の更新を適当と認める」と、同一〇行目の「同年」を「平成六年」と改め
る。
3 同六頁六行目の「被告は、」の次に「法二〇条三項所定の」と加える。
4 同七頁八行目の「民法七五二条」の次に「参照」と加える。
5 同八頁七行目の「求められる」を「認められる」と改める。
6 同九頁一〇行目の「原告について」を「原告の本件申請に対し、法二〇条三項
所定の」と改める。
7 同一一頁八行目末尾に改行のうえ、次のとおり加える。
「 なお、原告は、平成六年の在留期間更新許可申請を不許可とした処分を争うこ
となく、自らの意思に基づき、希望する在留資格を「出国準備」を理由とする「短
期滞在」に変更申請をし、これが許可されたものである。したがって在留資格の変
更を求める本件申請には、変更の必要性及び相当性並びに法二〇条三項但書の「や
むを得ない特別の事情」が必要であるところ、仮に右の平成六年の不許可処分が違
法であるとしても、後者の処分は前者の処分を前提とするものではないから、前者
の処分の違法性を承継しないし、変更の必要性及び相当性並びにその他にやむを得
ない特別の事情を認めるに足りる事情も存在しない。」
8 同一一頁一一行目の「継続していたし、」の次に「現在においてもAとの同居
を望み、同人との婚姻関係を継続する意思を失っていないし、」と加える。
9 同一二頁三行目の「欠くものであり、」を「欠くものである。」と改め、同三
行目と四行目との問に改行して次のとおり加える。
「 仮に、原告とAとの婚姻関係が本件処分時において破綻していたとしても、そ
の責任はもっぱらAにあり、離婚となれば原告が精神的、社会的、経済的に極めて
苛酷な状態におかれることになるので、Aからの離婚請求は有責配偶者からの離婚
請求として認容されないものである。それにもかかわらず、原告が被告の本件処分
により国外退去を強制されれば、その後にAから離婚訴訟が提起されても事実上こ
れに応訴することはできなくなり、右の点についての裁判所による司法判断を経る
機会を奪ってしまう結果になる。したがってこの点を看過している点において、被
告は評価を間違っている。」
10 同一二頁四行目の「また、原告がAの不貞、遺棄のために別居を余儀なくさ
れ、」を、改行のうえ「また法二〇条三項但書の点については、原告は被告に右の
諸事情を無視され、平成六年の」と改める。
11 同一二頁六、七行目の「受けたものであることを考慮すると、」を「受けた
ものである点を考慮すべきである。」と改め、改行して、「これらの諸事情を考慮
すると、原告の本件申請には、法二〇条三項本文及び但書所定の在留資格の変更を
適当と認めるに足りる相当の理由及びやむを得ない特別の事情があるのであって、
これを拒否した本件処分は、」と改め、さらに同九行目の「裁量権の裁量権」を
「裁量権」に改める。
第三 当裁判所の判断
一 争点一について
1 当裁判所は、控訴人は、本件処分当時、法二条の二、別表第二の在留資格であ
る「日本人の配偶者等」に該当し、当該在留資格が認められるための要件を具備し
ていたものと判断する。その理由は、「日本人の配偶者等」の意味について、次の
2のとおり解するところ、控訴人には、次の4のとおりの事由があり、これに該当
すると判断するからである。以下順次述べる。
2 法二条の二、別表第二の「日本人の配偶者」の意味
(一) 当裁判所も法二条の二、別表第二の在留資格である「日本人の配偶者等」
のうち、日本人の配偶者の身分又は地位に該当するためには、単に法律上有効な婚
姻関係にあるだけでは足りず、日本人の配偶者としての活動が必要であると解す
る。その理由は、原判決の事実及び理由の「第三 争点に対する判断」の一の1
(一)(一三頁二行目冒頭から一五頁三行目末尾まで)に記載のとおりであるか
ら、これを引用する。
(二) そこで、次に右(一)に示した日本人の配偶者としての活動とは何かにつ
いて検討すると、法二条の二の別表第二の在留資格である「日本人の配偶者等」に
関して、法は、日本人の配偶者としての活動の内容を個別、具体的には定めておら
ず、その活動範囲等を具体的に認識させるような規定も見当たらないから、同法の
趣旨、目的、制度の構造等諸般の事情を勘酌したうえ、我が国で適用される法例以
下の国際民事法(準拠法としての日本民法を含む。)の諸規定並びに国内法として
の日本民法とその解釈及び条理などをも参考としながら、社会通念にしたがって判
断するほかない。
 ところで、一般に日本人の配偶者としての活動としては、当該配偶者と同居し、
協力、扶助しあう場合(法例一四条、民法七五二条参照)が通常ではあるが、それ
にとどまらず、例えば、単身赴任で別居中であったり、双方の合意に基づいて離婚
するか否かを考えるために当分の間別居中である場合などを含み、さらに夫婦関係
が既に破綻して別居しているような場合にあっても、外国人である配偶者が離婚に
ついて合意せず、かつ、日本人である配偶者が不貞や悪意の遺棄を行うなどして、
明らかに有責配偶者に該当し、離婚訴訟を提起しても、これが認容されないような
とき(法例一六条、民法七七〇条一項五号参照)は、未だ当該外国人である配偶者
の日本での在留は、特段の事情がない限り、日本人の配偶者として活動しているも
のと評価でき、別表第二の「日本人の配偶者等」に該当すると解すべきである。け
だし、右のような場合には、その在留が通常、前記の法の目的に反することはない
し、また、右両配偶者の身分関係には、法例と大部分の場合準拠法として日本民法
が適用されるところ、法別表にいう「日本人の配偶者」の概念はもとより同法独自
の立場から決めるべきことは当然であるが、同じ日本法である右法例、日本民法の
使用するそれと著しく乖離した意味付けをすることは、日本法間における用語の統
一を乱し、ひいては制度、善良の風俗等に混乱を生じさせるおそれがある。具体的
に見ても、日本人の有責配偶者の不貞等により婚姻関係の破綻に追い込まれた外国
人である配偶者が、それにもかかわらず、日本から退去させられ、ますます夫婦間
を疎遠に追いやられ、さらに地理的、経済的、社会的、言語的な障害等により、事
実上、自らの権利(婚姻費用分担請求権等)も行使困難になり、極端な場合、日本
人有責配偶者から離婚訴訟を提起されても事実上これに応訴できなくなってしまう
(子の親権者の指定、財産分与、慰謝料請求権の行使についても同じ)ことにな
り、著しく正義に反する結果を招来する危険があるし、このことは国際化する婚姻
関係の中にあって、社会理念や通念にも合わないと考えられるからである。
(三) なお、この点に関し、控訴人は、「日本人の配偶者等」の在留資格が認め
られるためには、日本人との有効な婚姻関係が存在すれば足りる旨主張するが、前
記(一)の説示のとおり、右の見解は採用できない。他方、被控訴人の主張及び行
政実務は、基本的には前記(一)の解釈と同旨であると認められるが、その具体的
な適用に当たっては、当該日本人配偶者の不貞等の有責行為によって婚姻関係が破
綻している場合であっても、破綻している事実を重視し、外国人である配偶者はも
はや日本人の配偶者としての行動をしていないとして、右在留資格を否定する。し
かし、この見解は、先に述べたとおり、日本人配偶者の有責性を顧慮していない点
において採用の限りではない。
3 そこで、以上の見解に立って、控訴人が本件処分時に法二条の二、別表第二の
在留資格である「日本人の配偶者等」の在留資格が認められるための要件を具備し
ていたか否かについて検討すると、証拠及び証拠によって認められる事実は、次の
とおり、付加、訂正するほか、原判決の第三の一の2の(一)(一八頁二行目冒頭
から三一頁四行目末尾まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(一) 原判決一八頁三行目の「九の一、二、」の次に「二七、」と加え、同行目
の「検甲一ないし三」を「検甲一ないし一一」と改める。
(二) 同五行目の「一八及び一九、」の次に「二三、」と加え、同行目の「原告
本人」の次に「、当審における証人畑純一、同控訴人本人」と加える。
(三) 同一九頁二行目の「スナックにおいて、」の次に「借金返済のため、求め
られるまま、」と加える。
(四) 同二〇頁二行目の「原告は」を「その後原告は、Aが原告と正式に婚姻し
たいと考え、婚姻に必要な書類を用意してタイに来たので、」と改め、同八行目の
「嵩んだこともあって」の次に「Aには借金があったので、その支払に充てるた
め」と加え、同九行目末尾に改行のうえ、次のとおり、加える。
「 原告は、Aに昼の弁当を作って持たせるなど、通常の主婦としての仕事もして
おり、Aは、原告がやきもちを妬くことを嫌がってはいたが、それ以外に原告が妻
として問題があるとは考えていなかった。」
(五) 同二一頁四行目の「旅行に出る旨告げてBとともに出奔し、」を「旅行に
出る、一人で考えたい、待っていてくれなどと告げて、Bとともに出奔して所在を
くらまし、」と改め、同五行目の「同居するようになった。」の次に「なお、Aは
出奔前には、原告の勤務するスナックのママに対して離婚はしないと述べてい
た。」と加える。
(六) 同六行目の「原告は、」の次に「Aが彼氏のいる女性と駆け落ちしたと聞
かされ、半信半疑のまま、Aの居場所を探したが、日本の地理に不慣れであり、探
すことができなかった。その後、知人の力を借りて、ようやく」と加え、同八行目
の「ともに」の次に「原告とAの結婚式の写真を持って」と加える。
(七) 同九行目の「これに対し、Aが、」を「しかし、Aから」と、同一〇行目
の「拒否したところ、原告は、」を「拒否されてしまったので、原告は、このまま
Aと別居状態が続いたのでは在留期間更新の許可が下りず、日本に在留することが
できなくなってしまうのではないかと恐れた。そのため、原告は、離婚する意思は
毛頭なかったにもかかわらず、離婚すると言わなければ右更新についてAの協力が
得られないと考え、Aに対し、」と改める。
(八) 同二三頁二行目冒頭から二四頁三行目末尾までを次のとおり改める。
「(6) 原告は、警察署にも捜索願いを出すなどしてAを捜し、連絡先が判明し
てからは、その判明した連絡先である勤務先に伝言を依頼するなどしたが、連絡が
取れないまま時が経過した。やがて再び在留期間更新時期が近づいてきたので、原
告はAに対し、更新手続への協力を求めたところ、Aはこれに応じて、平成四年三
月三一日、大阪入国管理局に出頭した。その際、原告は、Aに、仕事の都合で別居
しているが、早く同居したい旨記載された書面を作成してもらい、原告は、これを
添付して、希望する在留期間を三年とする在留期間更新許可申請書を同局に提出し
た。被告は、同年八月一〇日、在留期間を一年とする更新許可をした。なお、右A
に作成してもらった書面内容は、原告が呈示した案文を書き写したものであった
が、右案文は、前回更新時にAに作成してもらった書面の案文と同様、漢字かな混
じり文であり、原告自身が起案した文面ではないと推測される。」
(九) 同二四頁四行目の冒頭から同五行目の「求められたことから」までを次の
とおり改める。
「(7) 原告は、その後もAが戻ってくるのを待っていたが、その見通しがな
く、また、次の在留期間更新については協力を得られないおそれがあったため、平
成五年初めころ、和歌山県の畑純一弁護士に相談をし、同弁護士に対し、緊急の問
題としてAから在留期間更新手続の協力を求めること、併せて夫婦間が円満になる
ようAと話し合いを行うことの二点を依頼した。畑弁護士は、本件は、原告とAが
偶然に知り合って、真摯に交際のうえ、困難を乗り越えて結婚したものであるこ
と、しかし、Aがその後女性を作って原告を捨て別居状態になっていること、それ
にもかかわらず、Aが更新手続に協力しないことによって、原告が国外退去にな
り、その後、Aが離婚訴訟を起こして勝訴するということになれば誠に理不尽であ
ると考え、右依頼を引き受けた。そして、畑弁護士は、当時の入管行政の実務では
夫の不貞によって別居ないし婚姻関係破綻に追い込まれている外国人である妻の場
合でも、別居等の事実があれば、これを理由として日本人の配偶者等に該当しない
として扱われているので、原告が不許可処分を受けてしまうと、取消訴訟でその不
当性を争う道は事実上はなはだ困難であるし、また、原告の依頼の趣旨が夫婦関係
の円満解決にあったことから、平成五年三月四日、和歌山家裁新宮支部に夫婦間の
協力扶助請求の審判及び審判前の保全処分を申し立てた。そして同月二五日の保全
手続の審問期日において、原告とAとの間で、在留期間更新手続について協力する
こと、夫婦間の正常化についても今後話し合って行くという話がされたことから、
同弁護士は、当事者間の話合いに委ねることにした。その結果、Aは」
(10) 同二五頁二行目冒頭から二六頁八行目末尾までを次のとおり改める。
「(8) しかし、その後も原告とAとの間で夫婦関係正常化に向けての話し合い
は進まず、再度の在留期間更新手続の時期が近づいたが、これへのAの協力も難し
くなったため、原告は、再び畑弁護士に相談をした。これを受けて、畑弁護士は、
Aに対し、夫として協力する義務があることなどを話して説得したのに対し、Aは
離婚届を渡してくれれば、最後に一度だけ協力する旨回答した。畑弁護士は、Aが
協力しなければ、在留期間更新の許可はおりなないだろうと判断し、原告に対し、
本来、Aは有責配偶者であり離婚をAから求められる筋合ではないが、Aの協力が
ないと在留期間の更新が難しいこと、Aから協力を得るため、やむなく同人と取り
引きしてAの離婚届作成の要求を一定の条件のもとで受け入れて同弁護士が原告か
ら離婚届を預かる方も考えられるが、この場合には、その期間中に原告の気持ちが
整理できなくて、離婚届の返還を求めても、返還できなくなることなどを説明した
ところ、原告は、Aとの取引に応じたくはないものの、それでは在留期間更新許可
を得られず、日本から退去を求められ、事実上、話し合いがでぎなくなることか
ら、真実は離婚する意思はなかったものの、同弁護士がAと原告の立場を考慮して
作成したA宛ての書面を写し、離婚届とともに同弁護士に交付した。右書面には、
離婚をし他の人と結婚する決心がつかないので、更に二回在留期間更新手続に協力
をしてほしい旨及び翌年四月を経過すれば離婚届を畑弁護士に預ける旨が記載され
ていた。原告が二回の協力を求めたのは、直ぐに離婚を考えられる状況にはなく、
Aが悪い女性との関係に眼を醒まして原告のもとに戻るのに時間が欲しかったため
であった。なお、右書面中に原告が交際している男性がいるかのような記載がある
が、畑弁護士には具体的な人についての心当たりはなかった。」
(二) 同二七頁八行目末尾に「なお、畑弁護士は、右のとおり、Aの協力は得ら
れたものの、結果的に更新が不許可となったことから、原告から預かっていた離婚
届を原告に返還した。」と加える。
(一二) 同二九頁八行目冒頭から三一頁四行目末尾までを次のとおり改める。
「(11) 原告は、AがBと出奔した後も、AがBと別れて戻ることを期待し
て、ホステスとして稼働しながら、Aの持ち物を処分することなく、肩書住所地で
生活をしていた。原告は、平成三年初めころにAの勤務先で同人と話し合った後
も、Aと接触を求めたが、勤務先にしか電話はなく、Aがいないときは取り次いで
もらえないので、なかなか会うことができず、調停及び在留期間更新手続の機会に
しか、話し合うことができなかった。原告は、在留期間更新手続の協力を得るた
め、三年間の更新許可がされれば離婚を考える旨の発言をしたことはあるものの、
本件申請に至るまでAと離婚をする決心はついていなかった。また、原告は、右の
とおり稼働しており、Aの扶助を受けなくても生活は可能であったので、女性と同
棲し子供のいるAに対し、生活費の支給を求めることはしなかった。
(12) Aは、原告のもとから出奔して以来、Bと同棲し、同人との間でC(平
成四年一二月三一日生)、同D(平成六年一〇月二九日生)をもうけ、両名を認知
している。Aは、原告に発見されるまで、自分の方から連絡を取って原告との関係
をどうするかなどについて話し合おうとしたことはなく、生活費を送ったりしたこ
ともなかった。またAは、平成六年六月ころから、Bの祖父が経営する果物畑の栽
培を手伝っており、本件処分当時は、原告との婚姻関係を修復する意思のないこと
を原告に告げていた。Aは、出奔して後、原告に対し離婚を求めたことはなく、ま
た、その立場にはないと認識しているものの、できれば離婚したいとの意思を有し
ており、本件訴訟の結果次第で、裁判を含めて離婚の話をするつもりでいるが、先
立つものはなく、具体的な離婚条件などは示されていない。」
4(一) 以上の事実によれば、控訴人は、同棲期間を含めれば、一時、タイ王国
に帰国していた期間はあるものの、ほぼ六年間にわたり、Aと同居生活をし、その
間、控訴人は、Aから見ると、嫉妬心が強いと感じられたことはあるとしても、特
に妻として問題があったわけではなかったこと、ところがAは、他の女性と不貞行
為に及び、旅行に出ると偽って、同女とともに行方をくらまし、その後は控訴人に
連絡をすることも、生活費を送金することもなく、一方的に控訴人を遺棄して、そ
の女性と同棲生活を営んでいたものであって、Aは明らかな有責配偶者であるこ
と、本件処分当時、控訴人とAとの婚姻関係は、別居後四年半が経過し、その間、
AがBと同棲を続け、その間に二児までもうけており、客観的に見れば、再びAが
控訴人の元に戻って同居することは難しい状態にあり、原告とAとの婚姻関係は破
綻状態にあったことが認められるが、しかし、控訴人は、右当時、Aとの婚姻関係
を今後も維持、継続したいと考え、Aが女性と別れて自分のもとに戻ることを切望
しており、Aも、その間の事情をわきまえ、直ちに原告との婚姻関係を解消しよう
とは言い出せなかったこと、また、仮にAがその時点で控訴人に対し離婚訴訟を起
こしても到底認容される余地はなかったこと(法例一六条、民法七七〇条)、そう
すると、控訴人のAに対する配偶者としての地位は、法的にも十分保護されるべき
であり、他に前記の法の目的を害するような特段の事情のない本件においては、本
件処分時において、控訴人には日本人の配偶者としての活動を認めることが十分に
可能であり、したがって、控訴人は、「日本人の配偶者等」としての在留資格を有
すると解するのが相当である。
(二) 被控訴人は、この点に関して、控訴人は、平成二年八月以降Aと別居し、
家庭裁判所の調停時や在留期間更新許可申請の際に顔を合わせるだけで、Aに対し
三年間のビザがもらえたら離婚をする旨申し述べ、離婚を約した書面及び署名済み
の離婚届を交付するなど、本件処分時には、両者の婚姻関係は完全に破綻し、控訴
人も夫婦としての活動を行う意思もその可能性も存在しない状態であり、日本人の
配偶者としての活動を行おうとする者に該当しないと主張する。しかし、前記認定
のとおり、控訴人は、Aが女性と別れて自分のもとに戻ると信じて待っていたが、
被控訴人に在留期間の更新許可をしてもらえなければ、タイ王国に帰らなければな
らず、そうなるとAとの同居を回復することも不可能となるため、不本意ながら、
離婚をほのめかせつつ、Aに在留期間更新手続への協力を求めてきたのであり、A
も、夫としてこれに協力する義務のあることから、右手続に協力してきたものであ
り、本件処分当時も、控訴人は、Aと離婚する意思はなかったが、畑弁護士からA
の要望に応じなければ被控訴人から更新許可を受けることができない旨説明され、
将来離婚に応じるような書面を作成したが、その文面においても、離婚の決心はつ
かず、少なくとも今後二年間は、Aと離婚できるかについて心の整理をする時間が
ほしいことを明記し、その間に、AがBと別れて控訴人のもとに戻るのを待ちたい
と考えていたのであり、Aも、その趣旨を理解して、在留期間更新手続に協力した
ことが認められるのであり、また、強くAの不貞行為を責め、翻意を促して積極的
に行動すれば、かえってAの離婚意思を強固にすることも懸念されるのであり、円
満な解決を求める意味で積極的な働き掛けをしていないからといって、離婚意思を
有していると推認することはできないのであって、Aに対し三年間のビザがもらえ
たら離婚をする旨申し述べたとしても、Aに翻意を促す時間がほしかったからと解
されるのであり、離婚を約した書面及び署名済みの離婚届を交付するなどしたのも
前記の経緯によることを考えると、これらの事実から、両者の婚姻関係は完全に破
綻し、控訴人も夫婦としての活動を行う意思もその可能性も存在しない状態であっ
たと判断することはできないと言わなければならない。
二 争点二について
1 被控訴人は、控訴人の本件申請に対し、法二〇条三項所定の在留資格の変更を
適当と認めるに足りる相当の理由がないとして、本件不許可処分を行ったものであ
り(甲九)、被控訴人の主張によれば、右不許可処分の理由は、「日本人の配偶者
等」の在留資格が認められるためには日本人の配偶者としての活動をし、又、活動
する予定であることが必要であると解されるところ、控訴人は、日本人の配偶者と
しての活動をしておらず、又、離婚意思を有しており、今後も活動する可能性もな
い状態であり、それにもかかわらず、控訴人はAに同居する予定があるとの虚偽の
書面を提出させるなどして欺いたものであり、そのような場合は、「短期滞在」の
在留資格を「日本人の配偶者等」の在留資格へ変更する必要性及び相当性はなく、
かつ、同項但書における「やむを得ない事由」も存在しないと判断したことによる
ものと考えられ、また、右判断に当たっては配偶者である日本人が有責か否かにつ
いては考慮されていなかったことは、被控訴人の主張及び弁論の全趣旨により明ら
かである。
2 しかしながら、前記のとおり、控訴人はAとの婚姻を継続する意思を喪失した
ものとは認めることができないのであって、それにもかかわらず被控訴人におい
て、控訴人が離婚意思を有しており、今後も日本人であるAの配偶者として活動す
る可能性がなくなったと判断したことは重大な事実を誤認したものと言わなければ
ならず、また、日本人である配偶者が有責配偶者であり、離婚訴訟を提起しても認
容されないような場合には、なお、日本人の配偶者としての活動をする余地がある
ことは前記のとおりであり、被控訴人は、控訴人がそのような立場にあったことを
考慮しなかったのであるから、この点において、その評価を誤ったものとも言わな
ければならない。
3 ところで、法二〇条三項は、被控訴人は、在留資格の変更を適当と認めるに足
りる相当の理由があるときに限り、これを許可することができ、「短期滞在」の在
留資格をもって在留する者の申請については、やむを得ない特別の事情に基づくも
のでなければ許可しない旨定めているが、右の要件の判断は、法の目的である国内
の治安及び善良の風俗の維持などの国益の保持の見地から、当該外国人の在留中の
行状、国内外の情勢など諸般の事情を総合して行うべき被控訴人の裁量行為である
と解されるのであり、右判断が違法であるというためには、その裁量権の行使が全
く事実の基礎を欠き、又は、事実に対する評価が合理性を欠くこと等により社会通
念上著しく妥当性を欠くことが明らかなときは、裁量の範囲を逸脱し、又は、その
濫用があったものとして、違法になると解するのが相当である。
4 そこで、検討すると、右1及び2記載のとおり、被控訴人は、控訴人が離婚の
意思を有しておらず、円満解決を望んでおり、Aの戻りを待ち望んでいるにもかか
わらず、控訴人は離婚意思を有しており、婚姻関係を継続する意思がないと誤認を
したものであるが、離婚意思を確定的に有しているか否かは、日本人の配偶者とし
ての活動を考えるうえで極めて重要な事実であると言わなければならない。また、
被控訴人は、相手方である日本人が有責配偶者であるか否かについては、評価の対
象とはしていないのであるが、しかし、有責配偶者であるか否かは、離婚訴訟にお
いても、その要件を異にしており、当該外国人において日本人の配偶者としての活
動の余地があるか否かを評価するうえでも重要な事柄であると言わなければならな
い。そうすると、被控訴人がした本件不許可処分は、その裁量権の行使が全く事実
の基礎を欠き、かつ、事実に対する評価が合理性を欠くことにより社会通念上著し
く妥当性を欠くことが明らかであると言わねばならず、したがって、裁量の範囲を
逸脱し、又は、その濫用があったものとして違法になると解するのが相当である。
5 なお、控訴人は、Aに協力を求めて、事実に反する書面を提出するなどして
「日本人の配偶者等」の在留資格について更新の許可を求めた経緯はあるのである
が、当時、控訴人が、既にAと別居しており、Aは女性と同棲しており、連絡も取
りにくい状態にあることなどを話せば、当時の更新手続の運用からすると、日本人
有責配偶者への配慮が欠けており、「日本人の配偶者等」の要件を具備しないもの
として、更新が不許可とされ、日本に滞在することができなくなる危険が高かった
のであり、控訴人が有責配偶者の妻として、日本に滞在するためにはやむを得ない
行動であったと見ることもできないものではなく、また、控訴人は、Aと婚姻して
再入国して後は、他に日本国の国益を損なうような行状はなく、かえって在留許可
を認めないとすれば、控訴人の円満な解決を求める活動ができなくなるのはもとよ
り、控訴人は生活の資を失い、我が国を最後の同居地としてAから我が国の裁判所
に離婚訴訟等を提起された場合にも、事実上、日本人の妻としての活動が封じられ
る危険が高く、結果的に日本人の配偶者としての活動をする余地を奪われることに
なるのであり、これらの点を考えると、右事実に反する陳述をしたなどの事実があ
るとしても、なお、前記判断を左右するに足りないというべきである。
6 また、本件は、「短期滞在」で上陸した者が日本人の配偶者等への変更を求め
たものではなく、既に「日本人の配偶者等」の在留資格を有しており、その更新を
同様の理由で違法に拒絶されたために、やむを得ず被控訴人の指示にしたがって
「短期滞在」の在留資格を取得したうえ、直ちに「日本人の配偶者等」への在留資
格の変更を求めたものであり、前記認定の経緯を総合すると、別個の処分であるか
ら前記認定の違法性を引き継がないということはできず、変更の相当性及び必要性
を認めるべきであり、また、短期滞在からの在留資格の変更において必要とされる
「やむを得ない特別な事情」についても、右同様、これを認めるべきであり、これ
らの事情がないとして、これを不許可とすることは、前記同様、著しく妥当性を欠
くと言うべきである。
二 以上によれば、控訴人の本件請求は理由があるから、これを認容すべきであ
り、これと異なる原判決は相当でないから、これを取り消し、訴訟費用の負担につ
き、民事訴訟法六七条、六一条を適用して主文のとおり判決する。
平成一〇年一〇月二日弁論終結
大阪高等裁判所第六民事部
裁判長裁判官 笠井達也
裁判官 孕石孟則
裁判官 大塚正之

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛