弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役六月に処する。
     但し本判決確定の日より参年間右刑の執行を猶予する。
     訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 原審検察官検事高橋秋一郎、弁護人布施辰治の各控訴趣意は記録編綴の各控訴趣
意書の記載と同一であるので茲に引用する。
 検察官の控訴趣意は要するに原判決は被告人に対する昭和二十三年政令第二百三
十八号違反の公訴事実につき法令の解釈適用を誤り此の点を無罪と断じたのは判決
に影響を及ぼすこと明らかな法令の適用の誤りであるから原判決は破棄を免れない
というのであり弁護人の控訴趣意第一ないし第三点は要するに原判決は被告人に対
する公務執行妨害の公訴事実につき事実を誤認し有罪と断じて判決を言渡したが該
判決は理由にくいちがいがあり且法の下の平等と裁判の公正に関する憲法違反の不
法判決であるから破棄さるべきものであるというのである。よつて記録を精査し、
原判決を仔細に検討するに、原判決は昭和二十三年政令第二百三十八号違反の点を
無罪と断じたのは同政令の解釈を誤り判決に影響を及ぼすべき法令適用の誤りを犯
したものと認めるを相当<要旨第一>とする。何となれば後記自判の際摘示の証拠に
より認定しうる「Aが被告人より手をつかまれてB連盟C県本部事務所
の入口に引摺り出される当時Aは被告人に対し連盟が解散になりましたから財産の
接収に参りましたと告げた事実」は昭和二十六年五月二十二日政令第百六十号によ
る改正前の政令第二百三十八号第十七条第二項、第十九条第三号制定の趣旨に鑑み
るに右は当該吏員が解散団体の指定を受けたB連盟C県本部事務所の財産で国庫に
帰属した動産、不動産、債権その他の財産を点検調査をなし該当財産と認めたのは
持ち運ぶという趣旨の告知であることは瞭然である。従つてAの使用した「接収」
なる用語は前記第十七条の「検査」と同義であると解すべく、よつて右告知は同条
に規定された検査の告知と解するを相当とすべきであるから被告人が強制接収をし
ようとしているAの行為を妨害したので検査を妨害する意思はなかつたと述べてい
るが接収を妨害する意思は即検査を妨害する意思に該当すると認定するのが相当の
解釈であるというべきである。
 <要旨第二>なおAが右接収に赴いた際同人は被告人に対し前記改正前の政令第二
百三十八号第十七条第三号所定の身分を示す証票を呈示するのを誤つて
他の証票を呈示したのであるが当時Aは右政令所定の証票を携帯していたこと及び
B連盟C県本部は解散になつたから其の財産の接収に来たと告げた事実は後記自判
のとおり認定しうるのであるからAの検査行為は正当であり被告人はAが接収すべ
き財産の検査を実施しようとする真意を認識していたものと認めうるので、示した
証票が誤つていつの一事を掴えて被告人の犯意阻却の事由とするのは適当でない。
 <要旨第三>更にAの右接収行為は前記政令第六条に基く保全措置でありこの保全
行為は同政令第十六条により道府県知事に代行させることが出来、代行
を依嘱された知事は同政令第十七条第二項により当該吏員をして帳簿其の他の物件
を検査させることが出来るのであつて之を拒み、妨げ、忌避したものは同政令第十
九条第三号により処罰されることは明らかであるのに原判決は前記解釈を誤り其の
結果政令第二百三十八条違反の点を無罪と断じ之れと一所為の関係にたつ公務執行
妨害の点のみを有罪と認定して処断した違法は判決に影響を及ぼすべき法令の適用
の誤りを犯しているというべきであるから原判決は破棄を免れない。検察官の論旨
は理由がある。よつて刑事訴訟法第三百九十七条に則り原判決を破棄し、同法第四
百条但書により当裁判所において更に改めて後記のとおり判決をなすべきものであ
るから弁護人の前記第一点ないし第三点に対する判断は之を省略する。
 なお弁護人の控訴趣意第四点について、
 この点についての判断は原審の判断と同旨であつて結局論旨は理由がないものと
認めるので排斥する。
 「罪となるべき事実」
 被告人は昭和二十一年春頃より昭和二十四年九月八日午前中法務総裁より解散を
命ぜられるまでの間B連盟C県本部の委員長をしていたものであるが、同日午前七
時半頃法務総裁の命により法務府民事局長が岩手県知事に対し同日解散団体に指定
された前記連盟及び在D青年同盟の財産保全のため必要の措置を実施すべき旨無電
をもつて通達があつたので同県地方課長Aは同県知事代理副知事Eより右通達に基
く前記連盟の財産接収の命を受け同県地方課員主事F外十一名を伴い同日午後六時
三十分頃盛岡市ab番地所在の前記連盟C県本部事務所に赴き、同所に居合せた約
二十名の朝鮮人に対し右Aが大声で「既に解散を命ぜられた前記連盟及びD青年同
盟の財産の接収に来たから協力して欲しい」旨を告げたところ右朝鮮人等は同人を
取囲んで其の行動を阻止し、同人が接収すべき財産検査のため附近の書類立の上に
置いてあつた多数の簿冊に三、四尺近寄り手を伸そうとしたところ右簿冊と同人と
の間に四名位の朝鮮人が押合つて入り込み妨害したので更に同人が其のうち一冊で
も入手しようとして右手を右妨害する朝鮮人の頭の間より差入れた瞬間、折から前
記連盟解散指定の事実を知つて同所に来合せた被告人は矢庭に同人の胸を突き貴様
は誰れだと怒号したので被告人が同連盟の委員長であることを知つたAは「自分は
斯ういう者ですあなたの連盟が解散になりましたから財産の接収に参りました」と
告げて携行していた二葉の証票のうち政令第二百三十八号に基くものを提示すべき
を誤つて団体等規正令に基く調査吏員たる身分を示す証票を提示したところ矢庭に
右証票を取り上げ年月日の記入なく、写真も貼布されていないのを一瞥するやこれ
を振りかざしながら「こんなもので話をするなら表に出ろ」と言いAの手を掴んで
事務所の入口まで引き摺り出し、なおも同人が再三前記職務遂行のため右事務所内
に入らうとするのを朝鮮人多衆と共に強いて排除する等の暴行を加え以つてAの前
記解散団体の財産の検査引渡を拒否して之が公務の執行を妨害したものである。
 「証拠の標目」
 一、 原審第一回公判調書中の被告人の供述部分の記載(記録五十頁裏より五十
二頁裏八行目まで)
 一、 原審第二回公判調書中の証人A同Fの各供述記載
 一、 原審第六回公判調書中の証人Aの供述記載
 一、 原審第三回公判調書中の証人G同E、同H同Iの各供述記載
 一、 原審第六回公判調書中の証人Jの供述記載
 一、 押収にかかる証第三ないし第九号の各書面の記載及び証第一号の存在を綜
合して判示事実を認定する。
 「法令の適用」
 被告人の所為中財産の検査を拒んだ点は解散団体の財産の管理及び処分等に関す
る前記改正前の昭和二十三年政令第二百三十八号第十七条第二項第十九条第三号罰
金等臨時措置法第二条第四条に公務の執行を妨害した点は刑法第九十五条第一項に
当るところ右は一個の行為で二個の罪名に触わる場合に該当するので同法第五十四
条第一項前段、第十条により重い前者の罪につき定めた刑に従うべく所定刑中懲役
刑を選択し、定められた刑期範囲内で諸般の情状を斟酌し被告人を懲役六月に処
し、同法第二十五条を適用して本判決確定の日より参年間右刑の執行を猶予すべ
く、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項により全部被告人の負担たるべきも
のとして主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 松村美佐男 裁判官 蓮見重治 裁判官 檀崎喜作)

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