弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人Aの上告理由は別紙記載のとおりである。
 論旨は要するに、自作農創設特別措置法(以下単に本法と略称する。)により農
地の買収が行われる場合には、買収農地を定めるにつき、農地所有者にその選択権
があつて、農地所有者が本法七条により異議を申し立てたときは行政機関は右農地
所有者の意思に従つて買収農地を定めるべきであるとして、これを前提として、本
件買収に関する行政機関の措置の違法及び違憲並びに本法の違憲を主張するのであ
る。しかし本法による農地改革は、本法一条にこの法律の目的として掲げられたと
ころによつて明らかなごとく、耕作者の地位を安定し、その労働の成果を公正に享
受させるため自作農を急速且つ広汎に創設し、又、土地の農業上の利用を増進し以
つて農業生産力の発展と農村における民主的傾向の促進を図るという公共の福祉の
為の必要に基いたものであり、同六条四項は農地委員会が、農地買収計画を定める
に当つては、一自作農となるべき者の農地を買い受ける機会を公正にすること、二
自作農となるべき者の耕作する農地を集団化し、且つ当該地方の状況に応じて当該
農地につき田畑の割合を適正にすることを勘案すべき旨を規定しているのであつて、
そのような本法の立前からすれば、右の目的に副い、且つ公共の福祉の為に必要な
限度内であるならば、買収農地を定めるに当り、農地所有者の権利が制限を受ける
に至ることがあつても已むを得ないものという外はなく、若し、所論のように農地
所有者に買収農地の選択権を認め、農地委員会がこれに拘束せられるものであると
するならば、到底本法の目的を達成し得ないことは明白である。尤も、右買収農地
を定めるに当り、不当に農地所有者の権利を制限することは許されないのであつて、
本法七条は、農地所有者の権利を保障する趣旨の下に、農地買収計画につき農地所
有者に異議申立の権利を与えてはいるが、しかし、そのことが所論のように当然に
農地所有者に対し買収すべき農地の選択権を認めたものとは解することができない。
また本法のその他の規定にも所論のような農地所有者の買収農地の選択権を認めた
と解せらるるものは見当らないのであつて、右選択権を主張する所論は理由がなく、
これを前提として本件買収計画及び買収処分が本法に違反するとの主張は、前提を
欠くものといわなければならない。
 次に、本法が違憲であるとの主張については、本法による農地改革がわが国にお
ける農業生産力の発展と農村における民主的傾向の促進を図るという公共の福祉の
為の必要に基いたものであることは上述のとおりであるから、本法が右公共の福祉
の為の必要に基き、農地所有者に買収農地の選択権を認めることなく、その意思い
かんに拘らず農地委員会によつて買収農地が定められ、これが為農地所有者の権利
が制限を受けるに至ることがあつても、その一事をもつて、本法が憲法二九条及び
一一条に違反するものということはできない。また本件買収計画及び買収処分が違
憲であるとの主張については、右農地所有者の権利の制限は、本法の目的に適合し
且つ公共の福祉の為に必要と認められる限度内に限らるべきは当然であつて、若し
これを逸脱した場合には違憲の問題を生ずる場合があるかもしれないけれども、上
告人の違憲の主張は単に買収農地に関する農地所有者の選択権を主張し、これを前
提として違憲をいうに止まり、それ以外において本件買収計画及び買収処分が本法
の目的に反し又は同六条四項の趣旨に反するという主張その他これを違法ならしめ
るような主張をしていないのであつて、原審の確定した事実によれば、本件買収計
画及び買収処分が本法の目的に反し又は公共の福祉の為に必要と認められる限度を
超えて農地所有者たる上告人の権利を侵害したと認むべき点は何らあらわれていな
いのであるから、右買収計画及び買収処分が憲法九八条により効力を有しないもの
とは認められない。
 よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のと
おり判決する、
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    入   江   俊   郎

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