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(原審・東京地方裁判所平成12年(ワ)第15194号損害賠償請求事件(原審言渡日13年6月22
日))
     主      文
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,107万7475円及びこれに対する平成12年8月27日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払 え。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
4 この判決は,主文第2項に限り,仮に執行することができる。
     事実及び理由
第1 控訴の趣旨と原判決の主文
 1 控訴の趣旨
主文と同旨
 2 原判決の主文
  (1) 被控訴人は,控訴人に対し,9万1880円及びこれに対する平成12年8月27日か
ら完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。
  (2) 控訴人のその余の請求を棄却する。
  (3) 訴訟費用は,これを10分して,その1を被控訴人の,その余を控訴人の負担とす
る。
  (4) この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。
第2 事案の概要
 控訴人は,東京都港区ab丁目所在のマンション(以下「本件マンション」という。)の区分
所有者全員で構成される管理組合であり,被控訴人は,平成10年11月30日ころまで,
本件マンションの区分所有者であった者であり,遅くとも平成7年夏ころから平成10年5月
末ころまで控訴人の代表者たる理事長の地位にあった。
 本件は,被控訴人が,控訴人の理事長として,複数の自動販売機設置業者(以下「自販
機業者」という。)との間で,自販機業者が控訴人に手数料を支払い,本件マンションの1
階共用部分に缶ジュース,清涼飲料等の自動販売機を設置する等の契約を締結したが,
その際,同時に,被控訴人が「ABC」なる屋号の自動販売機取扱(個人)業者として,自販
機業者との間で,上記自動販売機につき,自販機業者が被控訴人(「ABC」)に対し自動
販売機設置に係る仲介手数料を支払うとの契約(以下「本件各仲介契約」という。)を締結
し,仲介手数料名下に各自販機業者から合計67万7475円の支払を受けたことに関し,
控訴人が,その被控訴人の行為は控訴人の理事長としての職務に反し,背任行為に当た
る旨主張し,不法行為に基づく損害賠償として,上記仲介手数料と同額の損害金67万74
75円及び弁護士費用等40万円並びにこれらに対する訴状送達の日の翌日から支払済
みまでの遅延損害金の支払を請求するとともに被控訴人が本件マンションの区分所有者
として延滞している水道料等9万1880円及びこれらに対する上記と同様の遅延損害金の
支払を請求した事案である。
 被控訴人は,「ABC」としての正当な商行為として,自販機業者との間で,本件マンション
に自動販売機を設置させる旨の本件各仲介契約を締結し,その報酬として仲介手数料を
得たものであり,これが控訴人に対する不法行為を構成するものではない旨主張し,ま
た,延滞水道料等については,被控訴人所有の区分所有建物を競落した競落人が自分に
代わって支払うべきである旨主張し,控訴人の請求を争った。
 原判決は,本件各仲介契約の締結が被控訴人が個人として自由になしえる経済活動の
範囲内に含まれるものと認め,したがって本件各仲介契約の締結が控訴人に対する不法
行為を構成するものではないと判断して,控訴人の不法行為損害賠償請求を棄却し,延
滞水道料等9万1880円及びこれに対する平成12年8月27日から支払済みまで民事法
定利率年5分の割合による遅延損害金についてのみ控訴人の請求を認容した。そこで,控
訴人が,延滞水道料等9万1880円及びこれに対する上記遅延損害金の請求認容部分を
除く,その余の控訴人敗訴部分につき控訴をした。したがって,当審における審理の範囲
は,延滞水道料等9万1880円及びこれに対する上記遅延損害金を除くその余の控訴人
の請求(すなわち不法行為損害賠償請求)の当否となる。
 1 前提となる事実(当事者間に争いがない事実は証拠を掲記しない。)
  (1) 控訴人は,本件マンションの区分所有者全員で構成される建物の区分所有等に関
する法律(以下「建物区分所有法」という。)3条の団体たる管理組合であり,権利能力なき
社団である。
 被控訴人は,平成10年11月末日まで,本件マンションの401号室の区分所有者で控
訴人の組合員であり,少なくとも平成7年度から平成10年度まで(本件マンションの管理
規約・使用細則によれば平成7年6月1日から平成10年5月末日まで),控訴人の代表者
たる理事長を務めていた者である(甲2,4,10の①ないし⑤)。被控訴人は,控訴人の理
事長を務めていた当時,個人で「ABC」なる屋号で清涼飲料の自動販売機の取扱を行う
業者でもあった(乙1,弁論の全趣旨)。
  (2) 被控訴人は,平成7年9月5日,控訴人の理事長として,理事会を開催し,控訴人
が管理する本件マンションの一階共用部分に飲料水等の自動販売機を設置した場合年間
推定120万円以上の手取収入が得られるので,本件マンションの応急修理の費用等を捻
出するため,自販機業者に飲料水等の自動販売機を設置させることを許可したいとの議
案を控訴人の総会に提出することを提案し,その旨理事会で決定された。控訴人の理事
会は,同年10月3日開催の控訴人の臨時総会に,その旨の議案を提出し,可決承認され
た(甲1,2,4,被控訴人本人)。
  (3) 被控訴人は,上記(2)の総会決議をもって,自販機業者に飲料水等の自動販売機
を設置させることが承認されたので,控訴人の代表者理事長として,以下のとおり,各自販
機業者との間で,自動販売機の設置契約(以下「本件各設置契約」という。)を締結した(甲
6の①,②,7の①,②,④,8の①ないし③,調査嘱託の結果,弁論の全趣旨。)。
   ア 契約日 平成8年9月ころ
 自販機業者 D株式会社
 契約内容の骨子 控訴人に対して,設置された自動販売機で販売された飲料一本当たり
17円の手数料を支払う。
   イ 契約日 平成7年12月ころ
 自販機業者 E株式会社
契約内容の骨子 控訴人に対して,設置された自動販売機で販売された飲料一本当たり1
7円の手数料を支払う。
   ウ 契約日 平成7年10月ころ
自販機業者 F株式会社
契約内容の骨子 控訴人に対して,設置された自動販売機で販売された飲料一本当たり1
7円の手数料を支払う。
   エ 契約日 平成7年10月24日
 自販機業者 G株式会社
契約内容の骨子 控訴人に対して,設置された自動販売機で販売された飲料一本当たり1
5円の手数料を支払う。
   オ 契約日 平成8年9月5日
 自販機業者 株式会社H
契約内容の骨子 控訴人に対して,設置された自動販売機で販売された飲料一本当たり1
5円(平成10年6月から17円)
の手数料を支払う。
  (4) 控訴人は,本件各設置契約に基づき,各自販機業者をして,控訴人が管理する本
件マンション1階の共用部分に各自動販売機(以下「本件自動販売機」という。)を設置さ
せ,本件各設置契約に基づき,上記(3)のとおりの手数料を各自販機業者から受領した。
  (5) 被控訴人(「ABC」)は,各自販機業者との間で,本件自動販売機につき,以下のと
おり,本件各仲介契約を締結した(甲6の①,②,7の①~④,8の①ないし③,調査嘱託
の結果,弁論の全趣旨。)。
   ア 契約日 平成8年9月ころ
 自販機業者 D株式会社
 契約内容の骨子 被控訴人に対して,設置された自動販売機で販売された飲料一本当
たり11円の手数料を支払う。
   イ 契約日 平成7年12月ころ
 自販機業者 E株式会社
契約内容の骨子 被控訴人に対して,設置された自動販売機で販売された飲料一本当た
り11円の手数料を支払う。
   ウ 契約日 平成7年10月ころ
自販機業者 F株式会社
契約内容の骨子 被控訴人に対して,設置された自動販売機で販売された飲料一本当た
り11円の手数料を支払う。
   エ 契約日 平成7年10月24日
 自販機業者 G株式会社
契約内容の骨子 被控訴人に対して,設置された自動販売機で販売された飲料一本当た
り7円の手数料を支払う。
   オ 契約日 平成8年9月5日
 自販機業者 株式会社H
契約内容の骨子 被控訴人に対して,設置された自動販売機で販売された飲料一本当た
り10円の手数料を支払う。
  (6) 被控訴人は,本件各仲介契約に基づき,「「ABC」こと(被控訴人)」として,各自販
機業者から,別紙1,別紙2(ただし,「ABC」欄記載の金額にして設置協力金10万円を除
くその余の金員。)及び別紙3(ただし,「被控訴人名」欄記載の金員。)各記載の金員合計
67万3460円並びD株式会社からは,平成11年1月にも,4015円(総合計67万7475
円)を受領した(甲6の②,7の④,8の③,9,調査嘱託の結果,弁論の全趣旨)。
  (7) 控訴人は,本件各仲介契約が被控訴人の控訴人に対する背任行為に当たる旨主
張し,各自販機業者との間で,本件自動販売機につき,以下のとおり,契約を締結し直し
た。なお,D株式会社は,平成11年1月ころ,その本件自動販売機を撤去し,以後,控訴
人と契約をしていない(甲8の②,11の①,②,調査嘱託の結果)。
   ア 契約日 平成11年2月12日
     自販機業者 E株式会社
     契約内容の骨子 控訴人に対して,設置された自動販売機で販売された飲料一本
当たり28円の販売手数料を支払う。
   イ 契約日 平成11年2月16日
     自販機業者 F株式会社
     契約内容の骨子 控訴人に対して,設置された自動販売機で販売された飲料一本
当たり28円のロケーションコミッションを支払う。
   ウ 契約日 平成11年2月25日
     自販機業者 G株式会社
     契約内容の骨子 控訴人に対して,設置された自動販売機で販売された飲料一本
当たり28円の販売手数料を支払う。
   エ 契約日 平成11年2月25日
     自販機業者 株式会社H
     契約内容の骨子 控訴人に対して,設置された自動販売機で販売された飲料一本
当たり28円の販売手数料を支払う。
  (8) 他方,各自販機業者は,上記(7)のように控訴人と設置契約を締結し直すとともに,
被控訴人に対する本件各仲介契約による手数料の支払を止めた。
 2 主たる争点及び主たる争点に関する当事者双方の主張
  (1) 被控訴人が各自販機業者と本件各仲介契約を締結し手数料を取得した行為が控
訴人の理事長としての職務に違背し,控訴人に対する不法行為を構成するものであるか
否か。
   ア 控訴人の主張
 被控訴人は,控訴人の理事長の地位にあったことを奇貨とし,各自販機業者との間で本
件各設置契約を締結するに際して,理事長としての職務に違背し,控訴人に無断で,本件
各仲介契約を締結して,本来,本件各設置契約により控訴人において取得することができ
る収益金のうちから合計67万7475円を手数料名下に被控訴人の口座に送金させてこれ
を領得したものであり,また,被控訴人の上記行為は,控訴人の管理する本件マンション
の共用部分を無断使用するものであるから,被控訴人は,控訴人に対し,不法行為に基づ
く損害賠償責任を負う。
   イ 被控訴人の反論
 被控訴人は,自動販売機の設置業者であり,本来,メーカーから振り込まれる売上手数
料を受け取り,その一部を被控訴人と設置先との契約に基づき設置先へ支払うべきとこ
ろ,このような方法では設置先である控訴人に入金されるのが遅れるため,本件では,控
訴人に対する好意で,自販機業者から直接控訴人の口座に手数料が振り込まれるように
したものであり,被控訴人が自販機業者から受領した手数料は,被控訴人に当然帰すべ
き業務手数料である。
 控訴人は,被控訴人が自動販売機の設置業者であることを知っていたし,他方,本件各
設置契約は,控訴人の理事会の承認を得ている上,控訴人の収支に何らの迷惑もかけて
いないのであり,被控訴人が,本件各仲介契約に基づき自販機業者から手数料を取得し
たことが不法行為になることはない。
  (2) 控訴人の被った損害
   ア 控訴人の主張
 控訴人は,被控訴人の不法行為により,以下のとおり,合計107万7475円の損害を被
った。
   (ア) 被控訴人が手数料として取得した67万7475円と同額の損害金
   (イ) 弁護士報酬30万円及び訴訟遂行のため弁護士に支払うべき実費10万円
   イ 被控訴人の認否
 控訴人の損害に関する主張はすべて争う。
第3 当裁判所の判断
 1 本件控訴は,原判決で認容された延滞水道料等9万1880円及びこれに対する前記
遅延損害金の請求部分を除くその余の控訴人敗訴部分についてされたものであるから,
当審における審理の範囲は上記控訴人敗訴部分に係る請求の当否,すなわち被控訴人
が本件各仲介契約に基づき各自販機業者から手数料を取得した行為が控訴人に対する
不法行為に該当するか否かであるところ,当裁判所は,上記被控訴人の行為が控訴人に
対する不法行為を構成し,これにより被控訴人が被った損害合計107万7475円を賠償
する責任があると判断する。そのように判断する理由は,次のとおりである。
  (1) 被控訴人が自販機業者と本件各仲介契約を締結し手数料を取得した行為が控訴
人の理事長としての職務に違背し,控訴人に対する不法行為を構成するものであるか否
か(争点(1))について
   ア 控訴人は,建物区分所有法3条の団体たる管理組合であるから,同条の規定に
基づき,建物区分所有法の定めるところにより,集会を開き,規約を定め,及び管理者を
置くことができるところ,建物区分所有法25条は,「区分所有者は,規約に別段の定めが
ない限り集会の決議によって,管理者を選任・・・(中略)・・・することができる」と規定してお
り,これらの規定を承けて,控訴人の管理規約(甲4)は,「理事長は,管理組合を代表し,
その業務を統括する」(36条1項)と定めてその基本の職務権限を明らかにした上,「理事
長は,区分所有法に定める管理者とする」(同条2項)と定めており,控訴人の理事長は,
控訴人の総会の決議を待つまでもなく,当然に本件マンションにおける建物区分所有法に
定める管理者とされているのである。
 控訴人の理事長が統括する控訴人の業務については,管理規約31条に定めがあり,
「管理組合が管理する敷地及び共用部分等の保安,保全,保守,清掃,消毒及び塵芥処
理」(同条1号),「敷地及び共用部分等の変更,処分及び運営」(同条5号),「その他組合
員の共同の利益を増進し,良好な住環境を確保するために必要な業務」(同条11号)など
が含まれるものと規定されている。
 そして,控訴人の理事長は,控訴人の他の役員とともに,「役員は,法令,規約及び使用
細則並びに総会及び理事会の決議に従い,組合員のため,誠実にその職務を遂行するも
のとする。」と義務づけられている(管理規約35条1項)とともに,建物区分所有法26条1
項で「管理者は,共用部分並びに第21条に規定する場合における当該建物の敷地及び
附属施設を保存し,集会の決議を実行し,並びに規約で定めた行為をする権利を有し,義
務を負う。」と定められ,かつ,建物区分所有法28条で「この法律及び規約に定めるもの
のほか,管理者の権利義務は,委任に関する規定に従う。」と定められているから,控訴
人の理事長は,受任者として,委任の本旨に従い(すなわち,本人たる区分所有者全員の
ために,したがってその全員で構成する管理組合たる控訴人のために,建物区分所有法
及び管理規約の関係規定により管理者に託された趣旨に適合するように),善良な管理者
の注意をもってその職務を遂行すべき義務を負う(民法644条参照)ものと解される。
イ そこで,被控訴人が,各自販機業者との間で本件各仲介契約を締結し,手数料を取得
した行為が,控訴人の理事長としての善良な管理者の注意を怠り,又は誠実に職務を遂
行すべき義務に違反するものであるか否かを検討する。
 前記第2,1(3)ないし(5)のとおり,控訴人が各自販機業者と締結した本件各設置契約と
被控訴人が各自販機業者と締結した本件各仲介契約は,同一の自動販売機を控訴人が
管理する本件マンションの1階共用部分に設置することに係るものであるから,各自販機
業者としては,本件自動販売機を設置するにつき,本件各設置契約に基づき控訴人に支
払うべき手数料と本件各仲介契約に基づき被控訴人に支払うべき手数料の合計額,すな
わち1本当たり22円ないし28円を自動販売機設置の手数料として支払う意思があったも
のであり,被控訴人が控訴人のために誠実に交渉すれば,控訴人において,自販機業者
から上記金員全額を自動販売機設置の手数料として取得することが可能であったと認めら
れる。これらのことは,前記第2,1(7)及び(8)のとおり,被控訴人が控訴人の理事長を退任
した後,控訴人と各自販機業者(ただし,株式会社Dを除く。)との間で,各自販機業者が控
訴人に対し1本当たり28円を自動販売機設置の手数料として支払う旨の契約が締結され
るとともに,各自販機業者が被控訴人に対する本件各仲介契約による手数料の支払を止
めたことからも明らかである。
 このような自販機業者と本件自動販売機の設置の許諾,手数料の額や支払方法等につ
いて交渉し,契約を締結する職務を負っていた被控訴人は,その設置の場所を控訴人が
管理する本件マンションの1階共用部分とする(物件の稼働費たる照明電気代等は控訴人
が負担する)のであるから,控訴人が各自販機業者から各自販機業者が支払う意思のあ
る本件自動販売機設置の手数料の全額を得られるように交渉し,かつ,その旨の契約を
締結するべき善良な管理者としての注意義務及び誠実に職務を遂行するべき義務があっ
たものといわなければならない。
 ところが,被控訴人は,このような義務に反し,各自販機業者とそのような交渉をせず,
控訴人が各自販機業者から支払を受けることが可能であった1本当たり22円ないし28円
の自動販売機設置の手数料の一部のみを控訴人に取得させるよう交渉するとともに,被
控訴人が個人として営業している「ABC」が各自販機業者から仲介手数料として1本当た
り22円ないし28円から控訴人が取得する手数料の額を控除した残額に相当する金員を
取得するよう交渉し,そのような交渉の結果,本件各設置契約を締結するとともに,本件各
仲介契約を締結したものであり,これらにより,被控訴人が前記の義務に従い誠実に職務
を遂行すれば控訴人が取得し得た手数料の全額を控訴人に収受させず,かえって,その
手数料の一部の額に相当する金員を本件各仲介契約による手数料として被控訴人自らが
取得したものであるから,被控訴人は,控訴人の理事長としての任務に背き,自己の利益
を図り,かつ,控訴人に被控訴人自らが取得した手数料相当額の損害を加えたものといわ
なければならない。すなわち,被控訴人は,控訴人に対し不法行為責任を免れない。
  ウ 被控訴人の主張につき,以下に判断を補足する。
   (ア)a 被控訴人は,自動販売機の設置業者であり,本来メーカーから振り込まれる売
上手数料を受け取り,その一部を被控訴人と設置先との契約に基づき設置先へ支払うべ
きところ,このような方法では設置先である控訴人に入金されるのが遅れるため,本件で
は,控訴人に対する好意で,自販機業者から直接控訴人の口座に手数料が振り込まれる
ようにしたものであり,被控訴人が自販機業者から受領した手数料は,被控訴人に当然帰
すべき業務手数料である旨主張する。
     b しかし,被控訴人は,本件各設置契約の交渉及び締結に当たっては,控訴人
の理事長として行動していたのであるから,控訴人のため,すなわち控訴人の利益になる
ようにするため,各自販機業者と控訴人との間に第三者を介在させず,上記イで認定した
ように控訴人において各自販機業者が支払う意思のある設置にかかる手数料全額を取得
することができるようにするべき義務があったのであり,そのような義務に反して自分が各
自販機業者と控訴人との間に介在してその仲介手数料の名の下に各自販機業者が支払
う設置に関する手数料の一部の額に相当する金員を得ることは,控訴人の承諾(すなわち
理事長としての義務の一部の免除)がなければ許されなかったというべきところ,被控訴人
がそのような承諾を得ていないことは,被控訴人の主張自体から明らかである。したがっ
て,各自販機業者と控訴人との間に被控訴人が仲介業者として介在し得ることを前提とす
る被控訴人の前記主張は,そもそも,採用することができない。
   (イ)a 控訴人は,被控訴人が自動販売機の設置業者であることを知っていたし,他
方,本件各設置契約は,控訴人の理事会の承認を得ている上,控訴人の収支に何らの迷
惑もかけていないのであり,被控訴人が,本件各仲介契約に基づき自販機業者から手数
料を取得したことが不法行為になることはない旨主張する。
     b しかし,仮に,控訴人が,被控訴人が自動販売機の設置業者であることを知っ
ていたとしても,本件では控訴人が被控訴人に対し各自販機業者との本件各設置契約締
結の仲介ないし委託をした事実の主張立証がないのみならず,その知っていたことの一事
をもって被控訴人が控訴人において取得することが可能であった手数料の一部を控訴人
に取得させないで自らがその一部の額に相当する金員の仲介手数料を取得する根拠とは
なし得ない。
 また,被控訴人は,控訴人の理事会に対し,被控訴人と自販機業者との間で本件各仲
介契約を締結したこと,しかも,控訴人が取得し得た手数料の全額を控訴人に収受させな
いで,かえって,その手数料の一部の額に相当する金員を被控訴人が仲介手数料として
取得することを説明した形跡は全く見当たらないのであって,控訴人の理事会は,本件各
設置契約により控訴人が取得する手数料が控訴人が取得し得た手数料の全額ではなく,
その一部の額にとどめられたものであることを認識しないまま本件各設置契約の締結を承
認したと認められるから,本件各設置契約についての控訴人の理事会の承認はいわば瑕
疵があるものということができ,このような理事会の承認があったことを根拠として,被控訴
人の行為を正当化することはできない。
 そのほか,上記のとおり,被控訴人が本件各仲介契約を締結して控訴人が取得し得た自
動販売機設置手数料の全額を控訴人に収受させず,その一部の額に相当する金員を仲
介手数料として取得したことにより,控訴人の収入の増加を妨げ,その分控訴人の収支を
悪化させたことは明らかであるから,控訴人の収支に何らの迷惑もかけていない旨の被控
訴人の言い分は,失当というほかはない。
 以上のとおり,被控訴人の上記aの主張も採用の限りでない。
 (2) 被控訴人の被った損害(争点(2))について
  ア 控訴人は,被控訴人の不法行為により,以下のとおり,合計107万7475円の損
害を被ったと認められる。
   (ア) 被控訴人が取得した仲介手数料と同額の得べかりし設置手数料67万7475円
      控訴人は,被控訴人が,控訴人が取得し得た設置手数料全額を控訴人に収受さ
せないで,その手数料の一部の額に相当する金員(合計67万7475円)を本件各仲介契
約による仲介手数料として各自販機業者から取得したことにより,これと同額の損害を被っ
たと認められる。
   (イ) 弁護士費用相当の損害40万円
      控訴人は,被控訴人が任意に上記(ア)の損害金を支払わないため,弁護士に委
任して本件訴訟を遂行し,そのため,弁護士報酬及び訴訟遂行のため弁護士に支払うべ
き実費等を支出しなければならなかったところ,本件訴訟が事実の調査に相当の労力を要
し,また,法律判断にも微妙な点がある比較的困難な訴訟であることなどの本件にあらわ
れた一切の事情を考慮すると,弁護士費用相当の損害としては,合計40万円(報酬相当
分30万円,訴訟遂行のため弁護士に支払うべき実費等相当分10万円)が相当であると
認められる。
  イ そうすると,被控訴人は,控訴人に対し,上記損害金107万7475円及びこれに対
する不法行為の後である平成12年8月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金を支払うべき責任があるといわなければならない。
 2 よって,控訴人の不法行為損害賠償請求は全部理由があり認容すべきところ,原判
決中これと結論を異にする控訴人敗訴部分は不当であり,本件控訴は,理由があるから
原判決中控訴人敗訴部分を取り消し,その部分に係る不法行為損害賠償請求を認容する
こととし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条2項,61条を,仮執行の宣言につき同
法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所第9民事部
     裁判長裁判官  雛 形 要 松
          裁判官  小 林   正
          裁判官  萩 原 秀 紀

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