弁護士法人ITJ法律事務所

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主         文
 1 原判決中被控訴人Bに関する部分を取り消す。
 2 被控訴人Bは,控訴人に対し,929万5923円及びこれに対する平成12年2月2
9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 3 控訴人のその余の控訴を棄却する。
 4 訴訟費用は,第1,2審を通じ,控訴人と被控訴人Bとの間においては,控訴人に
生じた費用の3分の1と被控訴人Bに生じた費用を被控訴人Bの負担とし,控訴人
と被控訴人A及び同J株式会社との間においては,控訴人に生じたその余の費用
と被控訴人A及び同J株式会社に生じた費用を控訴人の負担とする。
 5 この判決は,主文第2項に限り,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人
  (1) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
  (2) 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して929万5923円及びこれに対する平成
12年2月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  (3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
  (4) 仮執行宣言
 2 被控訴人B
  (1) 本件控訴を棄却する。
  (2) 控訴費用は控訴人の負担とする。
 3 被控訴人J株式会社
  (1) 本件控訴を棄却する。
  (2) 控訴費用は控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
 1 本件は,控訴人所有の原判決別紙株式目録記載の株券(以下「本件株券」といい,
本件株券が表章する株式を「本件株式」という。)が何者かに窃取され,その後,
C,被控訴人A,被控訴人Bが順次これを取得し,被控訴人Bにおいて被控訴人J
株式会社に本件株券を預託し,本件株式の売付を委託し,被控訴人J株式会社は
同売付を執行し,第三者が本件株式を善意取得したため,控訴人はその所有権を
喪失したことにつき,C及び被控訴人らには不法行為があったとして,C及び被控
訴人らに対し,本件株券の所有権を喪失した当時の時価相当額929万5923円
及びこれに対する不法行為日以降である平成12年2月29日から支払済みまで民
法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。
 原審は,控訴人のCに対する請求は(擬制自白により)理由があるとして認容した
ものの,被控訴人Bについては同人の行為と被控訴人Bの善意取得に伴って発生
する控訴人の損害との間に相当因果関係を認めることは困難である等として,被
控訴人Bについては本件株式を善意取得したとして,被控訴人J株式会社につい
ては不法行為の成立を認めることはできないとして,被控訴人らに対する請求をい
ずれも棄却したところ,控訴人が控訴した。
 2 前提事実,争点及び当事者の主張は,以下のとおり原判決を付加訂正するほか,
原判決の「第2 事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。
 3 原判決の付加訂正
   原判決3頁14行目冒頭から同26行目末尾までを以下のとおり改める。
  「ア 被控訴人Aの善意取得の不可及び不法行為責任
    (ア) 本件株券が盗まれた当時,日時,場所を異にして盗難に遭った時価総額2
億円を超える多数の上場株式の株券が,C,被控訴人Aを通じて被控訴人
Bのもとへ持ち込まれるに至ったが,本件株券を含むこれらの株券盗難後,
被控訴人Bに至る以前の段階において,暴力団組員であるC及びこのこと
を承知していた可能性が高い被控訴人A等により本件株券が善意取得され
たことを認める余地はない。
 それにもかかわらず,被控訴人Aは,故意に又は少なくとも過失により自
己が無権利者であることに気づかず漫然と本件株券を売却した結果,当該
第三者の善意取得により控訴人の本件株券に対する所有権を喪失させた
のであるから,被控訴人Aの行為は不法行為を構成するというべきである。
    (イ) (当審における新主張)
      また,仮に,被控訴人Bが被控訴人Aから本件株券を善意取得したとしても,
それは,C及び同人から本件株券の処分委託を受けた被控訴人Aが故意
ないし過失により無権限で本件株券を処分した違法行為に基づく結果であ
るから,被控訴人Aの行為は不法行為に該当する。そして,これにより被控
訴人が被った損害は,被控訴人Bが善意取得した時点である平成12年2
月28日の本件株式の時価額(1株当たり938円)である938万円となる。」
第3 当裁判所の判断
1 本件の経緯について
  (1) 上記(引用にかかる原判決)前提事実,証拠(甲4,7の3,7の8,12,13,乙1,
2,3の1ないし9,4ないし6,7の1ないし12,8ないし10,12ないし15,16の1
の1ないし1の4,16の2・3,17の1・2,18の1の1ないし1の11,18の2・3,1
9,21の1・2,22の1の1ないし1の4,22の2・3,24,26の1の1ないし1の4,
26の2・3,27,28,29の1ないし4,30,31の1・2,32の1・2,33,34,36な
いし39,41ないし45,丙1ないし4,原審証人D,原審被控訴人B本人,当審調
査嘱託)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
 ア 被控訴人Bは,豊富な資金を有し,熊本市内において貸金業を営む有限会社H
産業(以下「H産業」という。)の代表者であり,同社は電車やバス等にも広告
を出すなど,熊本市内では相当知名度の高い存在である。金融業者として被
控訴人Bが債権保全のために用いる主な手法は,融資に当たり顧客等の所
有不動産を担保に取るというものであった。
 イ被控訴人Bは,平成8年5月16日,被控訴人J株式会社において口座を開設し,
平成9年6月12日にトレジャリーノート1万口を購入し,同年8月25日にこれ
を売却した。その後は平成11年10月8日に至って,Kの株式1000株及びL
の株式5株の各株券を持ち込み保護預かりとし,同年11月8日にKの株式
を,同月22日にLの株式を売却するなどした。
  ウ Dは,平成10年11月ころから,被控訴人J株式会社における被控訴人Bの担
当者となった。Dは前任者からの引き継ぎに際し,被控訴人Bについて,金融
会社の社長で資産家であり大変忙しいので会うことが難しい旨を聞いた。
 エ被控訴人Bは,H産業が昭和60年代初めころ,建設業等を営む有限会社I産業
に対して融資をしたことから,同社を経営する被控訴人Aと知り合った。
 オ 被控訴人Aは,平成12年1月ころ,知人のC(当時の氏は「E」であり,暴力団組
員であった。)から株券の購入者を紹介してくれないかと依頼され,何度か被
控訴人Bにその旨を伝えた。その際,被控訴人Aは被控訴人Bに対し,Cの氏
名は伏せつつ,その意向として,当該株券はF関係の政治資金が絡む裏金に
よって購入されたものであるため,多少安くても証券会社を通さず早急に処分
したいという趣旨の説明をしたが,被控訴人Bは,株取引の経験が乏しいこと
から,当初はこれを断っていた。
しかし,被控訴人Bは,被控訴人Aから重ねて依頼されたため,被控訴人J株
式会社及びM株式会社に対し,知人から株券を購入する場合の注意点を問
い合わせた。その結果,偽造,盗難,紛失等の事故株券でないかどうかに注
意するよう助言され,さらにDからは,被控訴人J株式会社においてこの点を
調査するためには本来株券の提出を受けなければならないが,そうでなくても
株券の記番号が分かれば調べられる範囲で調べる旨の説明を受けた。
   カ被控訴人Aは,平成12年2月4日ころ,Cと共にN株式会社ほか複数の銘柄に
及ぶ株券を持参してH産業の事務所を訪ね,被控訴人Bに対し,再度株券の
購入を依頼した。その際,被控訴人Aが,被控訴人Bに対し,株券の持ち主は
Cである旨を告げたところ,被控訴人Bは,Cとは面識がないので同人から株
券を購入することはできないが,被控訴人Aからであれば,当該株券が事故
株券でないかどうかを調査した上,時価の70パーセント程度の代金で購入し
てもよいと答え,上記調査のため持参した株券を預けるように申し入れた。し
かし,被控訴人A側から株券は現金と引換でなければ渡せないとしてこれを拒
絶されたため,被控訴人Bは,Cが持ち込んだ株券(同種株券が複数枚あるも
のについては,うち1枚。)のコピーを取り(株券をコピーする方式については
以下同じ。),これらをD及びM株式会社に宛ててファクシミリ送信し,上記の
調査を依頼した。
   キDは,被控訴人Bからファクシミリで受信した株券について,事故株券照合シス
テムを用いて調査し,数日後,被控訴人Bに対し,調べた範囲では事故株券
の届出はなかった旨回答した。なお,上記事故株券照合システムは,官報に
掲載された①除権判決済みの株券及び②公示催告中の株券,並びに③日本
証券業協会を通じて登録される盗難等株券について事故(偽造を除く)の有無
を確認し,各営業店から照会があった日の翌日に結果が判明する仕組みとな
っている。
 ク 被控訴人Bは,上記の調査結果を踏まえて,平成12年2月15日,被控訴人A
からN株式会社ほか複数の銘柄に及ぶ株券を預かり,これらを被控訴人J株
式会社に預託した。
 そして,被控訴人J株式会社は,現物を受託した株券すべてについて上記の
調査を実施した。
   ケ 被控訴人Bは,平成12年2月16日,H産業の事務所において被控訴人Aから
N株式会社ほか7銘柄の株券を代金4600万円で買い受けた。
 被控訴人Aは,被控訴人Bから受領した上記売買代金相当の現金を同行し
たCにその場で交付し,被控訴人Bは,その様子を写真撮影した。なお,撮影
されたCの人相風体は,一見して暴力団組員という身分に沿うものであった。
   コ 被控訴人J株式会社は,同日,上記調査の結果,受託した株券が事故株券に
は該当しない旨を確認した上,被控訴人Bの委託を受けて,このうちN株式会
社等の株式を第三者に売却したが,特に問題は生じなかった。
 なお,被控訴人BがM株式会社を通じて売却した他の株式も,特に問題は
生じなかった。
   サ 被控訴人Bは,平成12年2月24日,被控訴人Aから持ち込まれた株式会社O
の株券等のコピーを取り,これらをDに宛ててファクシミリ送信した。
   シ 被控訴人Bは,平成12年2月28日,本件株券ほか複数の銘柄に及ぶ株券の
コピーを取り,これらをDに宛ててファクシミリ送信し,上記カと同様の調査を依
頼した。
 そして,被控訴人Bは,同日,Dから上記調査結果の回答を待つことなく,被
控訴人Aとの間で,本件株券ほか3銘柄の株券を代金1200万円で,また株
式会社Oほか3銘柄の株券を代金1800万円で各買い受け,現金で代金を支
払った上,引渡しを受けた本件株券等を被控訴人J株式会社に預託して,当
該株式の売却を委託した。
 なお,被控訴人Aは,受領した上記売買代金を全額そのままCに交付した。
   ス 被控訴人J株式会社は,現実に受託した株券について上記クと同様の調査を
実施し,平成12年2月29日,事故株券には該当しない旨の回答を受けた
上,本件株式等を第三者に売却した(本件株券の売却価額は929万5923
円である。)。
なお,本件株券の表面には株券発行会社名が,また裏面には株主名(当該
時点における株主名は原告である。)が,それぞれ表示されてはいるものの,
いずれについても住所や電話番号といった連絡先の記載はなく,名義書換代
理人の表示もない。
   セ その後,被控訴人Bは,平成12年3月6日(代金2000万円,1銘柄),同月8
日(代金400万円,2銘柄)及び同月10日(代金1400万円,9銘柄)にも被
控訴人Aから株券を買い受けたが,基本的には従前同様,各売買契約締結
前の段階で,被控訴人Aから持ち込まれた株券の写しをDに宛ててファクシミ
リ送信し調査を依頼した上,売買契約締結時ころに代金を現金で支払って株
券の引渡しを受けた。
   ソ 被控訴人Bは,平成12年3月13日,被控訴人Aとの間で9銘柄の株券を代金
1億5000万円で買い受ける旨の契約書を作成したが,当該売買の対象とな
る株券については,あらかじめDから,被控訴人J株式会社に預けてもらう株
券であれば,そのときにきちんと調査するので現物を持参してもらえばよく,フ
ァックスしてもらう必要はない旨告げられていたことから,調査のため事前に
株券の写しをファクシミリ送信することはしないまま,売買契約書を作成した。
 また,1億5000万円の代金のうち,被控訴人Bが用意できたのは6000万
円にとどまったが,同月10日に6000万円の現金を支払った時点で,代金未
払分を含む株券の引渡しを受け,未払代金については,うち2000万円を同
月13日に支払うにとどまった。
 タ 被控訴人J株式会社は,平成12年3月13日の午後,熊本支店とは別の支店を
通じ,売却のため被控訴人Bから受託した株券の中から盗難株券が発見され
た旨の情報を初めて把握し,その旨を被控訴人Bにも伝えた。
なお,上記一連の過程において,被控訴人J株式会社が本件株券の発行会
社又は名義書換代理人に問い合わせをしたことはなく,被控訴人Bに対し,本
件株券の入手経路を問い質したこともなかった。
  (2) 上記(1)のシ及びス認定事実に関し,被控訴人Bは,原審において2月28日にD
に調査を依頼し,その日にDから回答をもらった旨供述し,証人Dも原審におい
て調査の依頼を受けた日に回答をすることがないわけではない旨の供述をす
る。
 しかし,当審における調査嘱託の回答によれば,事故株券照合システムの運
営業務を行っていた株式会社Pは,当日23時までに受け付けた照会(株式事故
情報照会電文)に対し,夜間バッチで処理を行い,その結果を翌営業日の朝8時
半以降に株式事故情報回答電文として配信しており,即日回答は行っていない
ことが認められるから,被控訴人B及びDの上記供述は採用しない。
 2 被控訴人Aの善意取得の可否及び不法行為責任の有無について
  (1) 上記1認定のとおり,被控訴人Aは,被控訴人BがCと直接取引をすることを望
まなかったため,同被控訴人の意向を受けて,Cと被控訴人Bとの取引の間に当
事者として介在することになったもので,本件株券の売買においても,被控訴人
Bから受領した売買代金をそのまま被控訴人AのCに対する売買代金の支払に
充当したものであることが認められる。
 したがって,本件株券の売買においては,被控訴人Aは単なる仲介人(紹介
者)にすぎず,実質的にはCと被控訴人Bとの間の売買であったと認めるのが相
当であるから,被控訴人Aにおいて善意取得を認める余地はないというべきであ
る。
  (2) そこで,被控訴人Aの上記関与について不法行為が成立するか否か判断する。
 上記のとおり,被控訴人Aは,本件株券の買主を紹介するという仲介人的立場
にあったところ,株券の占有者は適法な所持人と法律上推定されることを考慮す
ると,被控訴人J株式会社のように株式の委託販売等を業とするものであればと
もかく,一般人が知人から依頼を受けて株券の買主を紹介する場合において
は,売主が株券の正当な所持人であるか否かを調査すべき一般的注意義務が
あるとまではいえないから,盗難株券の売買の仲介行為が盗難株券の所有者に
対する関係で不法行為となるのは,原則として売主が株券の正当な所持人では
ないことを認識しながらあえて加担したという場合に限られるというべきである。
 しかしながら,被控訴人Aが,CあるいはGが本件株券の正当な所持人でない
ことを認識していたと認めるに足りる証拠はない。
 したがって,控訴人の被控訴人Aに対する請求は理由がない。
 3 被控訴人Bの善意取得の可否及び不法行為責任の有無について
  (1) 上記1,2認定のとおり,被控訴人Bは,被控訴人Aから購入する形をとっている
が,実質的にはCと被控訴人Bとの間の取引であるから,同被控訴人の善意取
得の可否については,これを前提に判断する。
 被控訴人Bは,被控訴人Aから,①本件株券はF関係の政治資金絡みの裏金
によって購入されたもので,②その所持者が多少安くても証券会社を通すことな
く早急に処分したがっているので,これを購入して欲しいという趣旨の話を持ち込
まれたことが切っ掛けとなって,Cとの取引を開始したものであることは上記1認
定のとおりである。
 上記①,②のような話は,それ自体得体の知れないうさんくさいものであって,
通常人であれば相当警戒すべき性質をもった取引であることが十分認識できる
ものである。
 また,被控訴人Bは,上記1認定のとおり,本件売買に先立ち2回ほどCと会っ
ており,Cの風体からして暴力団組員であるかそれに近い立場の人物であること
を十分認識していたものと認められる。そして,Cの身分からすると,F関係の政
治資金がらみの裏金によって購入されたものという本件株券の由来に関する被
控訴人Aの上記説明について容易に疑義を抱くことができたはずであるし,ま
た,窃盗グループと結託した盗難株券の売り捌きの可能性を警戒すべき取引で
あることを十分認識できるものであった。
 したがって,被控訴人Bは,Cが株券の正当な所持人でないことを容易に知り
得たと認めるのが相当である。
  (2) 以上のとおり,被控訴人Bは,Cが株券の正当な所持人でないことを容易に知り
得たものであるところ,それにもかかわらず,被控訴人BがCと取引を開始してい
るが,被控訴人BがCとの取引を開始するに至ったのは,上記1認定のとおり,
被控訴人J株式会社のDから,事故株券照合システムによればCから持ち込ま
れたN株式会社他数銘柄の株券について事故株券の届出はなかった旨の回答
を受けたためである。
 しかしながら,上記1認定のとおり,事故株券照合システムにおいて事故株券
であることが判明するものは,除権判決済の株券,公示催告中の株券及び日本
証券業協会を通じて登録される盗難株券に限られるのであるから,事故株券照
合システムを利用した確認方法も,盗難株券か否かの確認方法としては必ずし
も十分なものとはいえない。
 したがって,事故株券照合システムを利用した結果,事故株券に該当しないと
いう回答結果が得られたとしても,それのみをもって,Cが株券の正当な所持人
でないという上記疑いを否定するに足りる十分な調査を尽くしたとは言えないと
いうべきである。
  (3) 上記のとおり,被控訴人Bは,事故株券照合システムを利用して事故株券でな
いことを確認したのみでは,Cが株券の正当な所持人でないことを容易に知り得
なかったとすることができないところ,本件売買においては,上記1認定のとお
り,被控訴人Bは,本件株券を含む数銘柄の株券についてDに対し事故株券の
届出がないか調査を依頼したものの,その回答すら待たずに取引を行ったもの
である。
 そして,他に被控訴人Bが,上記疑いを否定するために必要な調査を尽くした
と認めるに足りる証拠はない。
 したがって,被控訴人Bには重過失があるというべきである。
 なお,株券の占有者は適法な所持人と法律上推定されること,上記1認定のと
おり,本件売買に先立って行われたN株式会社を含む数銘柄の株券について事
故株券の届出がなく,売却においても問題は生じなかったことが認められ,ま
た,平成12年2月24日にDに調査を依頼した株券についても事故株券の届出
がなかったことが窺えるが,これらの事情を考慮しても,本件売買については,
上記結論は左右されない。
 よって,本件株券を善意取得したとの被控訴人Bの主張は理由がない。
  (4) 上記のとおり,被控訴人Bは,本件株券を善意取得したとはいえないのであるか
ら,被控訴人Bは本件株券に関しては無権利者であり,注意義務を尽くせば自
己が無権利者であることを知り得る状況にあったと認められる。それ故,被控訴
人Bは,かかる株券を証券会社に売り付け委託して第三者をして善意取得させ
て,本件株券の真の所有者の権利を侵害することのないようにすべき注意義務
があったと解すべきところ,上記1認定のとおり,被控訴人Bは,必要な注意義務
を十分尽くさないまま,本件売買後,被控訴人J株式会社に対し本件株券の売り
付けを委託し,その結果,本件株券を第三者に善意取得させ,控訴人に本件株
券の所有権を失わせたものであるから,被控訴人Bの上記行為は不法行為に
該当する。
 そして,上記1認定のとおり,本件株券が第三者に売却された際の売却価額は
929万5923円であったから,同額をもって控訴人の損害と認めるのが相当で
ある。
 したがって,控訴人の被控訴人Bに対する請求は理由がある。
 4 被控訴人J株式会社の不法行為責任の有無について
  (1) 株券の譲渡は,株券の交付によって行われることを要するところ,株券の占有者
は適法な所持人であると法律上推定され,株券取得者は悪意又は重過失がな
い限り,その権利取得が保護されるなど株券の流通促進が制度上図られている
ため,証券取引所で行われる取引の場合には,株券の所持人が真の権利者で
なかった場合でも,買受人については善意取得が成立し,株券を盗取されるなど
した真の権利者が権利を喪失する蓋然性が高いといえる。
 そして,証券会社は,証券取引所での取引を独占的に認められ(証券取引法2
8条),株券の売買を業として取り次ぎ,証券取引に携わる専門的知識も有して
いるのであるから,株券の売買の取次を受託するにあたっては,真の権利者の
保護のために,委託者が真の権利者であるか否かについて一般的な調査義務
を負っていると解すべきであり,上記注意義務の懈怠があった場合には,権利を
喪失した真の権利者は,証券会社に対し,民法709条による不法行為責任を問
うことができると解すべきである。
 もっとも,株券の占有者は適法な所持人であると法律上推定されることは上記
のとおりであるし,証券会社としては,株価が時々刻々と変動することに照らして
も,多数の売買を迅速に処理すべき要請もあることからすると,上記証券会社の
調査義務は,委託者との従前の取引の経緯,取引の態様,取引額,委託者の言
動等に照らし,委託者の権利性に疑問を生じさせるような具体的な事情が認め
られる場合において,上記具体的な事情の内容や程度に応じた調査義務を尽く
すことをもって足りると解すべきである。
 したがって,証券会社としては,当該取引において,上記のような委託者の権
利者としての属性につき疑念を差し挟むような具体的な事情があったにもかか
わらず,何らそれに応じた調査義務を尽くすことなく漫然と株券の取次を行い,そ
の結果,第三者をして株券を善意取得させ,真の権利者の権利を喪失させたよ
うな場合には,真の権利者に対し,過失による不法行為責任を免れないものと
いうべきである。
  (2) 上記1認定のとおり,被控訴人Bは,豊富な資金を有し,手広く金融業を営むH
産業の代表者であり,被控訴人J株式会社との取引も平成8年5月から行ってい
たものであること,被控訴人Bは,Cと取引をする以前から被控訴人J株式会社
に対し株券の保護預りや売却をするなどしていたこと,被控訴人BがCから買い
受けて被控訴人J株式会社に持ち込んだ株券の種類及び価額は,従前の取引
と比較すると格段に大きなものではあったが,被控訴人Bの上記職種からする
と,知人からある程度の数量に上る株券を購入したとしても格別不自然ないし不
可解なものとはいえないこと,被控訴人Bが本件株券を持ち込むに際し,特に異
常な言動が見られた形跡はないこと,本件株券が持ち込まれる以前の段階にお
いて,被控訴人Bが持ち込んだ株券については,その売却の前後を通じて事故
情報が把握されることはなかったことが認められることを考慮すると,本件株券
が持ち込まれた際に,被控訴人J株式会社が被控訴人Bの権利者としての属性
につき疑念を差し挟むような具体的な事情があったとはいえない。
 そして,被控訴人J株式会社が,被控訴人Bから受託した本件株券の売却を執
行するに当たり,事前に本件株券が事故株券に該当しない旨の事故株券照合
システムによる調査結果を確認している以上,被控訴人Bの権利者としての属
性を確認するために必要な調査を尽くしたものというべきである。
 したがって,控訴人の被控訴人J株式会社に対する請求は理由がない。
第4 結論
   よって,以上と結論を異にする原判決を変更することとし,主文のとおり判決する。
    名古屋高等裁判所民事第3部
        裁判長裁判官   青   山   邦   夫
           裁判官   坪   井   宣   幸
           裁判官   田   邊   浩   典

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