弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役六月に処する。
     この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。
     右猶予期間中被告人を保護観察に付する。
     原審並びに当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、東京地方検察庁検察官検事山本清二郎作成名義の控訴趣意書
記載のとおりであるからここにこれを引用する。当審における弁護人は本件控訴を
棄却する旨の裁判を求めた。検察官の控訴趣意に対する当裁判所の判断は次のとお
りである。
 論旨は、原判決には法令の解釈適用を誤つた違法があると主張する。即ち、本件
被告人はさきに昭和三十七年四月十三日東京地方裁判所で売春防止法違反の罪によ
り懲役六月、二年間執行猶予の言渡を受けたものであるところ、右猶予期間中更に
本件犯行をなしたものであるから、被告人に対し本件について懲役刑を言い渡し、
その刑の執行猶予の言渡をするためには、必ず保護観察に付するか、補導処分に付
するかのいずれかの裁判をすべき場合であるのに、そのいずれの処分にも付するこ
となく、単純に刑の執行猶予の言渡をした原判決は、法令の解釈適用を誤つたもの
でありその誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであると主張する。
 よつて調査すると、被告人が原判決認定のような売春防止法第五条第三号前段に
触れる行為をしたことは記録上明らかでありまた被告人には検察官所論のような売
春防止法違反の罪の前科がありその刑の執行猶予中の着であることも本件記録に徴
し疑のないところである。
 しかして売春防止法第十六条には、同法第五条の罪を犯した者に対し、その罪の
みについて懲役の言渡をするときは、刑法第二十五条第二項但書の規定を適用しな
い旨の規定があり、また、同法第十九条には、第五条の罪のみを犯した者を補導処
分に付するときは刑法第二十五条の二第一項の規定を適用しない旨の規定がある<要
旨>ので、本件のように刑の執行猶予期間中の被告人に対し、売春防止法第五条の罪
のみにより懲役刑を言い渡し、その刑の執行を猶予しようとする場合は、刑
法第二十五条第二項本文の規定に従い保護観察に付するか、または売春防止法第十
七条により補導処分に付するか(この場合には保護観察に付するを要しない)のい
ずれかによるべきものであつて、そのいずれの処分にも付することなく単に刑の執
行猶予の言渡をなすことは違法であるといわねばならない。即ち原判決はこの点に
おいて法令の解釈適用を誤り、その誤が判決に影響を及ぼすことが明白であるから
論旨は理由がある。
 よつて刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十条により原判決を破棄し、同法第四
百条但書により当裁判所において更に判決をすることとする。
 原判決認定の事実(起訴状記載の公訴事実)を法律に照らすと、被告人の所為は
売春防止法第五条第三号前段に該当するので、所定刑中懲役刑を選択して被告人を
懲役六月に処し、なお被告人には前示のような売春防止法違反罪の前科がありその
執行猶予期間中さらに本件犯行を敢てしたものであるから、諸般の情状に鑑み刑法
第二十五条第二項本文第一項を適用しこの裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行
を猶予すると共に、右猶予期間中被告人を保護観察に付することとし、原審並びに
当審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文に従い全部被告人にこ
れを負担させるものとする。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 藤嶋利郎 判事 荒川省三 判事 小俣義夫)

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