弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴はいずれも之を棄却する。
         理    由
 検察官若林虎之助の控訴趣意、弁護人逸見惣作の控訴趣意並びに同人陳述した被
告人名義の控訴趣意は別紙記載のとおりである。
 弁護人の控訴趣意について
 しかしながら記録を調査すると証第一号乃至第六号はいずれもAから押収された
ものであることは、原審第一回公判調書の記載により明かであり、また証第七号
(一九五一年一月二十日附B党C地区委員会名義の「もう少しだ、頑ばれ」と題す
るちらし一葉)及証第八号(一九五〇年四月二十五日附D一葉)は、いずれも原審
第四回公判において検察官から証拠として取調べの請求があつたもので、弁護人は
之に対し右証第七号がB党C地区委員会名義のちらしであること反証第八号がB党
の機関紙Dであることに関し別段争つた形跡もなく、之が証拠調を為すことに何等
異議がなかつたことは明らかである。されば証拠として提出されたものの成立につ
き争なき以上証第七、八号のごときは一般に頒布されがちのものであるから検察官
が如何にして之を入手したかの点について特に調査するの必要はない。従つて右証
拠のうち証第一号及証第七号を罪証に引用した原判決は洵に相当で所論のごとき採
証の法則に違反した違法はない、論旨は理由がない。
 被告人名義の控訴趣意二について
 B党機関紙「D」及其の後継紙並びに同類紙の発行停止処分が昭和二十五年六月
二十六日附及び同年七月十八日附連合国最高司令官の指令に基くものであること及
び「E」紙が右「D」の後継紙として発行停止処分されたことは、原判決挙示の各
官報号外抄本並びに法務府特別審査局長より盛岡地方検<要旨>察庁検事正宛のB党
機関紙D後継紙発行停止処分に関する件回答書謄本により明白である。しか
して「右E」紙が「D」の後継紙であると認定し其の発行停止を命ずる最終的な権
限は連合国最高司令官に属し日本裁判所に存しないと認むべきである。何となれば
わが国が「ポツダム」宣言を受諾し降伏文書の調印により、わが国の国家統治機関
は勿論、司法裁判所の権能が連合国最高司令官の制限下におかれている現状にあつ
ては同司令官の指令は当然わが国の司法裁判所を拘束するものであると解すべきが
至当であるからである。従つて此の点につき何等の判断を示さかつた原判決は相当
で何等の違法はない。所論は独自の見解に基く主張であつて採用に値しない。論旨
は理由がない。
 同上四について
 所論は被告人は「E」紙が「D」の後継紙であることを認識していなかつたと主
張するのであるが、原審第四回公判調書中証人Fの供述記載によれば、被告人は
「E」紙が「D」の後継紙であることを十分認識していたことが認められる、その
他記録を精査するも原判決には事実誤認を疑うに足る事由はない。論旨は理由がな
い。
 同上一、三について
 苟も前段の説示事実を認識し、宣伝、播布を目的として一般人に普及する為にす
る一切の行為が、いわゆる発行行為に含まれるものと解すべきであつて被告人が
「D」の後継紙である「E」紙を原判示記載の者等に配付頒布したことは原審第二
回公判調書中証人A、同G、同H、同I、同Jの各供述記載により明白であるから
被告人の右所為は明かに連合国最高司令官の日本国政府に対する指令の趣旨に反す
る行為にして占領目的に有害な行為と認むべきものである。従つて原判決には所論
のような法令の解釈を誤り事実を認定した違法は毫も存しない。論旨は理由がな
い。
 同上五について
 「E」紙が「D」の後継紙であるとの最終決定は連合国最高司令官の権限に属
し、日本の裁判所に之を審査する権能のないことは前段説明のとおりであるから前
顕官報号外抄本並びに特審局長の回答書謄本等により苟も「E」紙が「D」の後継
紙と認定されたことやその発行を停止する旨連合国最高司令官の指令のあつた事実
を認定した以上証拠説明としては十分であると認める。原判決には所論のような違
法は毫も存しない。論旨は理由がない。
 同上六について
 その内容自体被告人の独断に帰し適法な控訴理由として判断を与うべき事項に属
しないものと認めるので採用しない。
 検察官の控訴趣意について
 記録を精査し、所論の事情を参酌し被告人の犯情、経歴、年齢、生立、身分関係
その他諸般の情状を総合して考察するに原審の被告人に対する科刑は洵に相当にし
て量刑不当であるとは認めることはできない、論旨は理由がない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十六条に従い、各控訴を棄却すべきものとし主文のと
おり判決する。
 (裁判長裁判官 大野正太郎 裁判官 松村美佐男 裁判官 蓮見重治)

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