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判決言渡平成19年2月8日
平成18年(行ケ)第10438号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成19年1月25日
判決
原告株式会社星野リゾート
訴訟代理人弁理士曾我道照
同曾我道治
同岡田稔
同坂上正明
被告株式会社雅裳苑
訴訟代理人弁理士牛木護
同清水榮松
同吉田正義
同松浦康次
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2005−89118号事件について平成18年8月22日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,被告が商標権者である後記商標登録について,原告が無効審判を請
求したところ,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,原告がその取消し
を求めた事案である。
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
ア被告は,次のとおりの内容を有する登録第4820549号商標(以下
「本件商標」という。甲1)の商標権者である。
(商標)
(指定役務)
第45類
「婚礼(結婚披露を含む)のための施設の提供」。
(出願日)平成15年12月24日
(登録日)平成16年11月26日
イ本件商標につき,原告から平成17年9月8日付けで商標登録の無効審
判請求がなされ,同請求は無効2005−89118号事件として係属し
たところ,特許庁は,同事件を審理の上,平成18年8月22日「本件,
審判の請求は,成り立たない」旨の審決をし,その謄本は平成18年9。
月1日原告に送達された。
(2)審決の内容
審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,原告の使用する「ホテルブレストンコート」及び
「HotelBlestonCourt」の文字から成る商標(以下「引用商標」という。
甲127の1∼3参照。その内容は下記のとおり)は,ブライダル界におい。
ては「ホテルブレストンコート」の一連一体のものとしてある程度知られて
いるとしても,その略称「ブレストン」が取引者・需要者間に広く認識され
ているということはできず,本件商標と引用商標とは,相紛れるおそれのな
い非類似の商標であり,その出所について混同を生ずるおそれはないなどと
して,本件商標は,商標法(以下「法」という)4条1項15号及び同項。
8号のいずれにも違反しない,としたものである。

・商標登録第4127013号(甲127の1)
〔商標〕
・商標登録第4127014号(甲127の2)
〔商標〕
・商標登録第4127015号(甲127の3)
〔商標〕
〔商標公報発行日〕平成10年5月21日(以上3件共通)
〔出願日〕平成7年4月10日(同上)
〔登録日〕平成10年3月20日(同上)
〔商標権者〕株式会社星野リゾート(同上)
〔指定役務〕(同上)
第42類
「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,飲
食物の提供,美容,理容,入浴施設の提供,写真の撮影,オフセ
,ット印刷,グラビア印刷,スクリーン印刷,石版印刷,凸版印刷
気象情報の提供,求人情報の提供,結婚又は交際を希望する者へ
の異性の紹介,婚礼(結婚披露を含む)のための施設の提供,葬。
儀の執行,墓地又は納骨堂の提供,一般廃棄物の収集及び処分,
産業廃棄物の収集及び処分,庭園又は花壇の手入れ,庭園樹の植
樹,肥料の散布,雑草の防除,有害動物の防除(農業、園芸又は
林業に関するものに限る,建築物の設計,測量,地質の調査,。)
,デザインの考案,電子計算機のプログラムの設計、作成又は保守
医薬品、化粧品又は食品の試験、検査又は研究,建築又は都市計
画に関する研究,公害の防止に関する試験又は研究,電気に関す
る試験又は研究,土木に関する試験又は研究,農業、畜産又は水
産に関する試験、検査又は研究,著作権の利用に関する契約の代
理又は媒介,通訳,翻訳,施設の警備,身辺の警備,個人の身元
又は行動に関する調査,あん摩、マッサージ及び指圧,きゅう,
,柔道整復,はり,医業,健康診断,歯科医業,調剤,栄養の指導
家畜の診療,保育所における乳幼児の保育,老人の養護,編機の
貸与,ミシンの貸与,衣服の貸与,植木の貸与,計測器の貸与,
コンバインの貸与,祭壇の貸与,自動販売機の貸与,消火器の貸
与,超音波診断装置の貸与,展示施設の貸与,電子計算機(中央
処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路、磁
気ディスク、磁気テープその他の周辺機器を含む)の貸与,布団。
の貸与,ルームクーラーの貸与,宿泊施設の利用に関する情報の
提供,医療情報の提供,多目的ホールの提供,婚礼(結婚披露を
含む)のための施設の利用に関する情報の提供,宴会のための施。
設の提供,公害に関する環境の調査,非破壊検査、非破壊検査機
器の研究、開発,電子計算機のプログラム設計、作成又は保守の
助言,特許の先行技術の調査,ガス漏れの警備,工業所有権に関
する相談,検眼(下線は判決が付記)」
(3)審決の取消事由
しかしながら,以下に述べるとおり,審決は,法4条1項15号,4条1
項8号該当性について事実を誤認し,法の解釈を誤ったから,違法として取
り消されるべきである。
ア法4条1項15号該当性についての判断の誤り(取消事由1)
(ア)審決は,原告(請求人)提出にかかる証拠からは,原告ホテルは,
単に「ブレストン」と略称されて取引者・需要者間に広く認識されて
いるとはいえず「ブレストン」の称呼を生ずる本件商標とは非類似の,
商標であり,また役務の提供場所が異なることにより,出所の混同を
生ずるおそれはない,と判断している。
しかし,法4条1項15号の「他人の業務に係る…役務と混同を生ず
るおそれ」があるか否かは,引用商標の略称である「ブレストン」が
広く認識されていることを直接の要件とするものではなく,また,一
般的出所の混同について規定する法4条1項11号に定める商標の類
似を要件とするものでもないのであって,本件商標と引用商標の構成,
提供役務の特殊性,引用商標が「ブレストン」と略称され認識されて
いる事実又はその蓋然性等を含め,具体的な取引実情を斟酌して判断
されるべきである。しかるに,審決は,引用商標が「ブレストン」と
略称されている事実又は略称されることの蓋然性について,証拠全体
から見た総合判断をせず,原告提出の証拠を誤って評価したものであ
る。
また引用商標は,必ずしも著名でなくとも,周知であれば十分であ
り,その周知度も全国的であることを要しない。しかるに審決は,引
用商標の略称である「ブレストン」の周知性が,個別の証拠によって
は単独で証明できないことにとらわれ,原告の経営するホテルが「ホ,
テルブレストンコート」の一連の表示で,ある程度知られているとこ
ろまで認めながら,混同を生ずるおそれがあるほど周知であるか否か
については何ら精査していない。すなわち,仮に引用商標の略称が周
知であることが認められないとしても,引用商標が周知であり,略称
される蓋然性があったり,略称されている事実がある場合には,混同
するおそれを認めるに十分である。
(イ)審決は「甲第69ないし第89号証として提出された「証明書」,
は,定型文によるものであり,証明者が何を根拠に証明しているのか
も明らかでなく,…(15頁32行∼33行)とする。」
しかし,これらの証明書は当該証明者が証明内容を確認の上,その知
り得る情報に基づいて作成されたものであり,記載されている内容に
ついて責任をもって証明しているのである。例えば,証明者のうち,
長野県商工会議所連合会(甲69)は,通商産業大臣の認可を経て設
立された公益法人であって,長野県内20の商工会議所を会員とし,
長野県内における商工業に関する調査研究,資料及び情報の収集,及
びこれら情報の提供を事業内容とし,公的立場から,長野県内におけ
る経済取引の実情を最も知り得る団体である。また,日本ブライダル
事業振興協会(甲70)は,国内のホテル・結婚式場および婚礼に直
接係わる企業等545社によって構成される我国唯一の業界団体であ
って,婚礼に関わる業界の実情を最も熟知している団体である。
したがって,かかる公的機関,業界団体による証明の客観性は十分担
保されているのであって,審決の上記認定は誤りである。
なお「略称」とは簡略化した名前で呼ぶことであり,需要者・取引,
者が選択的に使用し,定着していくものであって,ホテル・結婚式場
のように品格と信用を大切にする事業者が,自ら広告において略称を
使用することはない。そして,略称は,取引の中での呼称,電子メー
ル・ファックス等比較的略式の取引文書等において使用されるもので
あり(甲108∼120,必ずしも,広告等において外形的に表彰さ)
れていないからといって,略称されていないとは言えない。
(ウ)審決は「…甲第108ないし第117号証が請求人ホテルの利用,
者からの電子メールの写しであるとしても,その発信先が明らかでな
く客観性に乏しく,誰にでも容易に作成できるものである。…(15」
頁下1行∼16頁3行)とする。
しかし,審判官を欺いて虚偽の資料を提出し,自己に有利な審決を得
たとしても,そのような行為は詐欺の行為として処罰の対象にもなり
かねず,そのような危険を冒してまで原告が自己の不利益に繋がる行
為をしようはずもない。そもそも,電子メールは,現在における主要
な通信手段として一般に用いられており,審決の理由は何ら根拠のな
いものである。
(エ)審決は「…甲第118ないし第120号証はインターネットのホ,
ームページの写しと認められるものの,わずか数人の投稿者による口
コミ情報にすぎない。…(16頁3行∼5行)とする。」
しかし,これから役務の提供を受けようとする需要者にとって,実
際に役務の提供を受けた体験者からの役務の内容や質に関する情報は,
提供役務の採択に当たって重要な判断材料となることは一般的に認め
られるところである。また,周知性に関する判断は資料の数にとらわ
れず媒体となる資料の質にも着目すべきところ,甲119∼120は
わが国有数の検索サイトYahooのウェディングに関する掲示板であり,
そのような口コミ情報において紹介された情報は,多くの需要者の記
憶に留まり,引用商標中「ブレストン」に着目して取引に資する場合,
も少なくない。なお,需要者が引用商標を「ブレストン」と略称して
いる事実は,結婚準備クチコミ情報サイト「WeddingPark(甲132」
の1∼5)の記載に照らしても明らかである。
(オ)審決は「…甲第91ないし第107号証は,第三者である旅館又,
はホテルによるインターネットのホームページの写しと認められ,これ
ら旅館又はホテルが中庭を有していることが認められるとしても,請求
人ホテル又は引用商標とは直接関係しないものであり,これが請求人ホ
テル又は引用商標が単に「ブレストン」と略称されることの根拠となる
ものでもない(16頁8行∼12行)とする。。」
しかし,上記甲91∼107は,引用商標が使用される役務について,
「コート(Court」の文字が多用されることを示すことにより,引用)
商標において「コート(Court」が「ブレストン(Bleston」に比し,))
て明らかに印象が薄く,識別力が極めて弱いため省略される蓋然性が大
きいことを示したものであり,引用商標中「Bleston(ブレストン」,)
の文字が強く看者の注意を惹く蓋然性を示したものである。
(カ)審決は,「…引用商標は,…「ホテルブレストンコート」又は
「HotelBlestonCourt」の一連一体のものとして認識し把握されてい
るものであるから「ホテルブレストンコート」の一連の称呼を生ずる,
ものというべきである。…「ホテル」又は「Hotel」の文字部分が役務
の質,内容等を表示するものであって,自他役務の識別標識の観点か
らは識別力がないものとして,引用商標が「ブレストンコート」と称
呼されることがあるとしても,単に「ブレストン」と称呼されること
はないというべきである(16頁下6行∼17頁2行)とする。。」
しかし「ホテル」が役務の質,内容等を表示することは明らかであ,
る。また,業界内における認識(甲69∼89,需要者が現に引用商)
標を「ブレストン」と略称し認識している事実やその蓋然性があるこ
と(甲119∼120)に照らし,引用商標が「ブレストン」と称呼
されることはないということはできない。
(キ)審決は,一般の需要者が引用商標を「Bleston」又は「ブレスト
ン」と略称している事実,又は略称される蓋然性を顕著に示すインタ
ーネットにおける取引の実情を十分に考慮していない。
すなわち,本件商標の役務の提供を受ける主要な需要者は,20代
から30代のいわゆるインターネット世代の若者である。しかるに,
商品の販売や役務の提供に関する情報をインターネットにおける各種
検索サイトを通じて入手することは日常的に行われており,その際,
文字入力の手間を省いたり,曖昧検索を行うための検索文字入力手法
として,例えば(ブレストン結婚式)のように,対象文字列の前方,
一致入力により行い,まさに「ブレストン」と略称していることは一
般に見受けられるところである。
(ク)審決は「…一般に,役務はその提供者から直接提供を受け,比較,
的地域が限定されることが多く,本件商標が使用されている役務の提
供地が新潟県の信濃川河口に近い場所であるのに対し,引用商標のそ
れは軽井沢であって,地域・環境が異なるものであり,…(17頁1」
7行∼20行)とするが,以下に照らし,誤りである。
①第1に「一般に,役務はその提供者から直接提供を受け,比較的,
地域が限定されることが多く」との認定は,本件商標の指定役務で,
ある「婚礼(結婚披露を含む)のための施設の提供」には当てはま。
らない。確かに,同じ地域に居住する者同士が結婚する場合は,居
住地に近い施設を選ぶことが多いであろうが,カップルが離れたと
ころに居住している場合,例えば,一方が新潟県,他方が東京都で
あれば,双方の参列者の便宜を考慮し,その中間地点に存在する施
設で式を挙げることは,通常行われており,居住する地域で挙式す
ることにこだわらずに結婚式場を選択する需要者は多数存在する。
特に,本件商標の指定役務の提供を受ける主要な需要者は,上記
(キ)で述べたとおり,20代から30代の,インターネットに慣れ
親しんでいる世代であり,全国どこからでも結婚式場の情報を入手
できる者であるから,なおさら特定の地域に拘泥することはない。
さらに原告は,新潟をはじめ,東京,大阪,名古屋,前橋,金沢,
福岡に常設のウェディングサロンを開設し,定期的に説明会を開催
し,全国レベルで需要者に情報を提供している。
②第2に,本件商標が使用されている役務の提供地と引用商標のそれ
は「地域・環境が異なる」との認定も,誤りである。まず,本件商,
標の指定役務を提供する施設が所在する新潟県と,引用商標のそれ
が所在する長野県とは,地理的に近接しており,また,両県は,信
越地方と総称され,人的および経済的に結びつきが強い地域である。
さらに,前記のとおり,原告は,新潟県にも常設のウェディングサ
ロンを開設し,定期的に説明会を開催し,原告施設の情報を提供し
ている。これは「婚礼(結婚披露を含む)のための施設の提供」,。
に付随する役務であり,本件商標が使用されている役務の提供地と
同一の地域で提供されている。
(ケ)審決は「…本件商標も…この種業界においてはある程度知られて,
いる…(17頁20行∼21行「…本件商標はブライダル業界にお」),
いてはある程度知られている…(16頁32行∼33行)とする。」
しかし,被告提出に係る証拠は,すべて自社で内容を準備したもの
であり,客観的な知名度を示すものは何ら含まれていないから,これ
らの証拠によっては,本件商標がブライダル業界においてある程度知
られているとは到底いえない。また,上記認定は,本件商標の周知性
について「ある程度」と述べるにとどまり,引用商標の周知性の程度,
との差異について,何ら考慮していない。すなわち,ホテル・結婚式
場のように,サービス自体の質を通じて取引者・需要者に与えるイメ
ージ性が最も重視される業界にあっては,自己のホテル・結婚式場自
体の評価を高めることに重点を置き,役務の提供を通じて,自己の商
標が,取引者・需要者の間に徐々に浸透して認識され,周知性を獲得
するに至ることが,むしろ本来的な周知性獲得の経路であるから,広
告宣伝の量よりも取引者・需要者の評価が,商標の周知度を直接的に
示すものである。しかるに,電子メールや,結婚準備クチコミ情報サ
イト「WeddingPark」等において原告の経営する施設が高い評価を得
ていること(甲108∼120,132の1∼5,乙90∼92)にも
照らせば,引用商標の周知性の程度が,本件商標のそれより格段に高
いことが明らかであるから,出所の混同を生ずるおそれは大きい。
(コ)審決は「…本件商標がその指定役務について使用された場合,こ,
れに接する取引者・需要者がその構成中の「BLESTON」又は「ブレスト
ン」の文字に注目して引用商標ないしは請求人ホテルを連想,想起す
るようなことはなく,…(17頁21行∼24行)とする。」
しかし「HotelBlestonCourt」を構成する文字中「Hotel」の文,,
字部分が役務の質,内容等を表示するものであることは明らかである。
また引用商標が使用される役務との関連においては,需要者は「Cour,
t」の文字が中庭又は邸宅を意味すると理解するのが自然であり,少な
くとも「Court」の文字は役務の提供施設の内容等を暗示する,きわめ
て識別力の弱い語ということができる。
現に,審査の段階では,本件商標は引用商標と類似するとされ,法4
条1項11号に該当するとして一旦は拒絶理由通知が出されている(甲
127の1∼4。そして,いわゆる法4条1項11号にいうところの一)
般的出所の混同を生じなくとも,同項15号に規定する出所の混同につ
いては,取引の実情等個々の実態を十分考慮して判断すべきである。
そもそも,原告は,自ら運営する軽井沢の代表的な施設である軽井沢
高原教会での挙式をコーディネートし,それは,ブレストンコートスタ
イル(BlestonCourtStyle)とも指称され(甲32∼40,旧近衛)
公爵邸や邸宅風のゲストハウスをパーティー会場として提供し,軽井沢
の自然の中でゲストを招いて挙式・披露宴をとり行うという点,またゲ
ストも含め宿泊可能である点で,旧来の挙式スタイルとは一線を画する
ものであり,新しいウェディングスタイルとして注目を集め,今日の邸
宅風ウェディングスタイルに先鞭を付け,需要者にも広く支持されてき
たところである(甲4∼31。)
一方,被告が提供する役務の内容を仔細にみると「敷地内にある独,
立型のチャペル,邸宅とともに,1日2組様限定の貸切です。ハウスウ
ェディングの魅力を最大限に生かして,すべてのゲストに温かく,そし
ておふたりの気持ちが伝わるパーティーを一緒に実現「ブレストンの」
建築デザインは,ビバリーヒルズの高級邸宅がモチーフ」とあるように,
原告提供の役務とは,婚礼施設の提供という点において共通するばかり
でなく「邸宅風ウェディングスタイル」という点でも酷似する。そし,
て,引用商標中「Court」の意味するところは「邸宅」である。
そうであれば,引用商標中「コート(Court」の文字部分は,役務,)
の提供内容を表す語として記述的であり,仮に特定の意味が把握できな
いとしても,該文字は,日本人が慣れ親しんだ英語であるのに対し,
「ブレストン(Bleston」の文字が独創性のある造語であることに鑑)
みれば,看者の注意を惹く部分は「Bleston」であり,取引者・需要者
は引用商標を「Bleston」と略称する蓋然性があるというべきである。
したがって,取引者・需要者が本件商標の構成中「BLESTON」又は
「ブレストン」の文字に注目して引用商標ないしは原告ホテルを連想,
想起するようなことはない,との認定は誤りである。
イ法4条1項8号該当性の判断の誤り(取消事由2)
審決は「…請求人ホテルは一連一体のものとして認識し把握されるも,
のであり,単に「ブレストン」と略称されて取引者・需要者間に広く認識
されているものとはいえない…(17頁下8行∼下6行)とする。」
しかし,上記ア(ア)∼(ウ)のとおり,原告ホテルは「ブレストン」と略
称されて広く認識されており(甲69∼89,108∼120,本件商)
標は,かかる他人の著名な略称を含む商標であるから,本件商標は,法4
条1項8号に該当し,商標登録を受けることができないものである。
2請求原因に対する認否
請求原因(1),(2)の各事実は認めるが,同(3)は争う。
3被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1)取消事由1に対し
ア原告は,甲69∼89の証明書は,当該証明者が証明内容を確認の上,
その知り得る情報に基づいて証明していると主張する。しかし「ホテル,
ブレストンコート」が著名であるとか「ブレストン」が広く認識されて,
いることの事実は,客観的な証拠によって証明されなければならず,単に
定型文による証明書によって証明できる性質のものではない。甲69∼8
9として提出された証明書は,単に「使用された結果,需要者が何人かの
業務に係る商品であるかを認識できるに至っている商標であることを証明
する」という旨の抽象的な証明内容しか記載されていないため,引用商。
標が「ブレストン」と略称され業界内で広く知られていることの事実を立
証するに足る証拠力を有さない。
また原告は,略称は,取引の中での呼称,電子メール,ファックス等比
較的略式の取引文書等において使用されるものであり,必ずしも,広告等
において外形的に表彰されていないからといって,略称されていないとは
言えないと主張する。しかし,原告が提出した各種雑誌に掲載された広告
中には,略称するものは見当たらず,原告主張の電子メール等,比較的略
式な取引文書等に使用されている略称も見当たらない。
イ原告は,審判官を欺いて虚偽の資料を提出し,自己に有利な審決を得た
としても,そのような行為は詐欺の行為として処罰の対象にもなりかねず,
そのような危険を冒してまで原告が自己の不利益に繋がる行為をしようは
ずもないと主張する。しかし,審決は,甲108∼117について虚偽の
証拠と判断しているものではなく,発信先が明らかでなく客観性に乏しく,
だれにでも容易に作成できるものであると判断しているに過ぎない。
ウ原告は,甲118∼120につき,周知性に関する判断は資料の数にと
らわれず媒体となる資料の質にも着目すべきと主張する。しかし,原告は,
甲118∼120の掲示板画面を実際に見た需要者の数や当該需要者が引
用商標を「ブレストン」と略称しているという事実等の具体的根拠を何ら
提示していない。そのため,甲118∼120は,単にわずか数人の需要
者が引用商標をたまたま「ブレストン」と略称したという事実を立証しよ
うとするものに過ぎず,資料の質としても,周知性の立証に資するような
ものではない。
エ原告は,甲91∼107につき「Court(コート」の文字が識別力を,)
欠く又は極めて弱い文字であることを示す証拠であると主張する。しかし,
審決が説示するとおり,これらの証拠は原告ホテル又は引用商標とは直接
関係しないものであり,原告ホテル又は引用商標が単に「ブレストン」と
略称されることの根拠となるものでもない。
,,オ原告は「ホテル」が役務の質,内容等を表示することは明らかであり
また審決が業界内における認識(甲69∼89,需要者が現に引用商標)
を「ブレストン」と略称している事実やその蓋然性があること(甲119
∼120)を看過して引用商標が「ブレストン」と称呼されることはない
としたのは誤りである,と主張する。
しかし「ホテル」が役務の質や内容を表示するとしても,原告が各種,
広告等において引用商標を「ホテルブレストンコート」という一連の表示
で使用しているという取引の実情を考慮すると,そのことが引用商標が
「ホテルブレストンコート」として一連の称呼を生ずるとの認定を否定す
る根拠とはなり得ない「ホテル」が宿泊施設等の提供に係る役務の普通。
名称であって「ホテル」のみでは識別力を有しないことと,引用商標が,
現に取引者・需要者間において一連一体のものとして把握されるか否かと
は直接関係ないことである。さらに,上記アで述べたとおり,証明書(甲
69∼89)によって引用商標が「ブレストン」と略称されている事実も
認めがたい。
カ原告は,本件商標の役務の提供を受ける主要な需要者は,20代から3
0代のいわゆるインターネット世代の若者であり,インターネットにおけ
る各種検索サイトを用いる際,文字入力の手間を省いたり,曖昧検索を行
うための検索文字入力手法として,例えば(ブレストン結婚式)のよ,
うに,対象文字列の前方一致入力により行うことは一般に見受けられると
ころであると主張するが,仮にそのような検索文字入力方法が採られてい
るとしても,引用商標が「ブレストン」と略称される蓋然性を示すもので
もないし,略称されている事実を示すものでもない。
キ(ア)原告は,審決の「一般に,役務はその提供者から直接提供を受け,
比較的地域が限定されることが多く」との認定は,本件商標の指定役,
務である「婚礼(結婚披露を含む)のための施設の提供」には当ては。
まらない,例えば,一方が新潟県,他方が東京都であれば,双方の参列
者の便宜を考慮し,その中間地点に存在する施設で式を挙げることは,
通常行われている,また,インターネットや原告が開設する常設のウェ
ディングサロン等により,全国どこからでも結婚式場の情報を入手可能
である,などと主張する。
しかし,カップルが離れたところに居住している場合には,どちらか
の居住地に近い施設を選ぶか,あるいは,国内・海外のリゾート地など
にある施設を選ぶのが一般的であり,双方の居住地から離れたところに
存在する施設を選択して式を挙げる場合は,その施設のある場所が,例
えば,リゾート地であるとか,カップルにとって思い入れの強い地であ
るとか,挙式を思い出深いものに演出するその場所由来の付加価値があ
る場合である。また,審決でいう「比較的地域が限定されることが多
く」とは,婚礼施設の提供を受けられる地域が比較的限定されることが
多いということであって,当該役務に関する情報提供を受けられる地域
が限定されると認定しているわけではない。
(イ)原告は,審決が,本件商標が使用されている役務の提供地と引用商
標のそれは「地域・環境が異なる」と認定したのも誤りである,本件商
標の指定役務を提供する施設が所在する新潟県と,引用商標のそれが所
在する長野県とは,地理的に近接しており,また,両県は,信越地方と
総称され,人的および経済的に結びつきが強い地域であるし,さらに,
原告は,新潟県にも常設のウェディングサロンを開設し,定期的に説明
会を開催し,原告施設の情報を提供している,と主張する。
しかし,長野県と新潟県とは,県境の一部が接しており信越地方と呼
ばれることはあるが,人的にも経済的にも結びつきが強い地域ではない。
両県は首都圏とは人的・経済的に結びつきが強いが,首都圏の住民のう
ち著名な地名である軽井沢で結婚式を挙げたいと思う人は少なからず存
在するとしても,新潟市で結婚式を挙げたいと思う人は稀でしかない。
また原告は,新潟県を初め国内数カ所に常設のウェディングサロンを開
設し,原告施設に関する情報を提供しているようであるが,実際に婚礼
施設たるホテルが存在する場所は長野県の軽井沢のみであって,新潟県
でないことに変わりはない。
ク原告は,被告提出に係る証拠は,すべて自社で内容を準備したものであ
り,客観的な知名度を示すものは何ら含まれていないから,これらの証拠
によっては,本件商標がブライダル業界においてはある程度知られている
とは到底いえない,引用商標の周知性の程度は,本件商標のそれより格段
に高く,出所の混同を生ずるおそれは大きい,と主張する。
しかし,自社で内容を準備した証拠によっては客観的な知名度が示され
ないと解するならば,原告が提出した証拠についても,結婚情報誌の広告
から証明書の内容に至るまですべて自社で内容を準備したものであるのだ
から,引用商標の周知性が認定されるはずもなく,まして,引用商標の周
知性の程度が本件商標のそれより格段に高いともいえるはずがない。
ケ(ア)原告は,引用商標中「Court」の文字部分は「中庭,邸宅」を意,
味し,役務の提供内容を表す語として記述的であるから「Bleston」,
の文字が独創性のある造語であることに鑑みれば「Bleston」の文字,
部分が看者の注意を惹くと主張する。
しかし「Court」は「中庭,邸宅」以外にも「テニスなどのコート,,
裁判所」など種々の意味を包含する英単語であり「Court」が有する,
意味として「中庭,邸宅」が取引者・需要者に一般的なものとして浸透
しているといえるわけではない。そうすると,引用商標に接した需要者
が「Court」の文字部分から役務の質・内容等に関する特定の意味を,
一義的に認識するとはいえず「Court」の文字部分が直ちに役務の提,
供内容を表す語として取引者・需要者に把握されるということはできな
い。
(イ)また原告は,被告が提供する役務の内容と原告提供の役務とは,婚
礼施設の提供という点において共通するばかりでなく「邸宅風ウェデ,
ィングスタイル」という点でも酷似する,と主張する。
しかし,原告が主張する「邸宅風ウェディングスタイル」は,多くの
事業者により広く一般的に提供されている結婚式スタイルである。原告
が提供する役務は,軽井沢という国内有数のリゾート地に依存した婚礼
施設の提供であるという特殊性があり,このような国内リゾート地での
挙式は一般的に「リゾートウェディング」と称され,通常の挙式とは一
線を画して情報提供等されることが多い。
(2)取消事由2に対し
原告は,原告ホテルは「ブレストン」として略称されて広く認識されてい
ると主張する。しかし,原告提出の証拠によってもそのような事実は認めら
れず「ブレストン」が法4条1項8号に規定する著名な略称に当たらない,
ことは明らかである。
第4当裁判所の判断
1請求の原因(1)(特許庁における手続の経緯,(2)(審決の内容)の各事実)
は,いずれも当事者間に争いがない。
2取消事由1(法4条1項15号該当性についての判断の誤り)につき
(1)法4条1項15号の規定は,周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわ
ゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリュージョン)を
防止し,商標の自他識別機能を保護することによって,商標を使用する者の
業務上の信用の維持を図り,需要者の利益を保護することを目的とするもの
であるから,同号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるお
それがある商標」には,当該商標をその指定役務等に使用したときに,当該
役務等が他人の役務等に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみ
ならず,当該役務等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な
営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係
にある営業主の業務に係る役務等であると誤信されるおそれがある商標を含
むものと解するのが相当である。そして,この場合,同号にいう「混同を生
ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表
示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定役務等と他人の業務に
係る役務等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度,役務等の取
引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定役
務等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合
的に判断されるべきものである(最高裁平成12年7月11日第三小法廷判
決・民集54巻6号1848頁参照。)
そこで,上記の観点から,本件商標登録が法4条1項15号の規定に違反
するものであるかどうかについて検討する。
(2)本件商標と引用商標との類似性の程度
本件商標の構成は,前記第3の1(1)アにおいて掲げたとおりのものであ
って,その態様をみると,中央に大きく目立つ態様で「BLESTON」の文字を
書し,その上段に「B」と「N」の文字に挟まれるように小さく書した「HARB
ORPARKAVENUE」の文字を配し,さらに最下段に小さな「ハーバーパーク
アヴェニュー」の文字を書し続けてこれより大きな「ブレストン」の文字を
配した構成から成るものである。そして,本件商標は,構成文字全体から
「ハーバーパークアヴェニューブレストン」の称呼を生ずるほか,上記構成
に照らし「BLESTON」の文字部分が看者の注意を強く引くことから「ブレ,,
ストン」の文字とも相俟って,単に「ブレストン」の称呼をも生ずるもので
ある。
他方,引用商標の構成は「ホテルブレストンコート」又は「HotelBl,
estonCourt」の文字から成るものであるから,上記のように「ハーバー,
パークアヴェニュー「HARBORPARKAVENUE」の文字も含まれ,各種の大」
きさの文字が組み合わされており需要者がその全体から装飾的な印象を受け
ると認められる本件商標とは,外観の点で非類似であるというべきである。
また「ホテル「Hotel」の語は日常的に使用される普通名詞であり,本,」
件指定役務についての識別力が極めて弱い。そこで「ブレストンコート」,
又は「BlestonCourt」の部分について検討すると,片仮名の「ブレストン
コート」は同じ大きさの文字で一体的に表されているが,英文字の「Blesto
n」と「Court」との間には一文字分ほどの間隔が設けられている。しかるに,
株式会社小学館「小学館ランダムハウス英和大辞典(甲90)によれば,」
英単語の「コート(Court」の語には,裁判所,中庭,陳列場,豪壮な邸)
宅,路地,テニスなどのコート,宮殿等多くの語義があり,英国やアイルラ
ンドで用いられる「中庭,邸宅」との語義は,我が国において必ずしも広く
知られているということはできず,本件指定役務の取引者・需要者において
も「コート(Court」の語が中庭,邸宅の意味の普通名詞として受け取ら,)
れるということはできない。このことは,株式会社リクルート「住宅情報ナ
ビ(2005年(平成17年)7月13日現在のもの〔甲107)にお」〕
いて「コート(Court」の語が「中庭」を意味するものと記載されている,)
としても,結婚披露を含む婚礼のための施設に係る需要者の認識について参
考になるものではない以上,何ら変わりはない。そうすると,たとえ「ブレ
ストン(Bleston」の語が造語であるとしても「コート(Court」の語と),)
識別力においてさほどの強弱があるということはできず,また「ブレスト,
ンコート」という8音の称呼は,省略を要するほど冗長なものということも
できないから「ブレストンコート(BlestonCourt」はホテルの名称を表,)
示する一体不可分の表象として把握されるというのが自然である。
このことは,被告が提供する役務の内容が「邸宅風ウェディングスタイ
ル」であったとしても,上記のように,本件指定役務の取引者・需要者にお
いても,一般に「コート(Court」の語が中庭,邸宅の意味の普通名詞と)
して受け取られるということはできない以上,何ら左右されるものではない。
さらに,上記に照らせば,引用商標の「ホテル」からはホテルの観念が生
じ「ブレストンコート」からは何らの観念も生じないというべきである一,
方,本件商標の「ブレストン」からも何らの観念も生ぜず「ハーバーパー,
クアヴェニュー「HARBORPARKAVENUE」という部分から「港の公園の」
道」という引用商標にはない観念が生じるものであるから,引用商標と本件
商標とは,観念の点でも非類似というべきである。
また,後記(3)に説示するとおり,引用商標は,本件指定役務の取引者・
需要者において長野県や首都圏等において需要者の間にある程度知られてい
るものと推認することができるに止まるものであるし,また,本件指定役務
が婚礼(結婚披露を含む)のための施設の提供であることから,その需要。
者が役務の提供者を選択するに当たっては,結婚式を人生の一大イベントと
位置づけ,希望する挙式の種類,価格,施設が提供する食事,会場施設等の
各種サービス等に応じた挙式内容等の綿密な吟味を行うのが一般の実情であ
ると考えられる。
以上によれば,本件商標と引用商標とは,外観,称呼,観念において類似
せず,その具体的取引状況に照らしても,非類似の商標と認めるのが相当で
ある。
(3)引用商標の周知著名性
証拠(甲4∼67)によれば,原告ホテルに関する広告宣伝記事が,株式
会社リクルート「ゼクシィ「ゼクシィ関東版(1996年(平成8年)」」
5月号〔甲40,1997年(平成9年)5月号〔甲39,1998年〕〕
(平成10年)9月号〔甲4,2000年(平成12年)11月号〔甲4〕
1,2001年(平成13年)2月号〔甲5〕を初めとする各種結婚情報〕
誌や,信濃毎日新聞(平成14年1月1日付け〔甲66,上毛新聞(平〕)
成14年5月24日付け〔甲67)等において掲載されていること,これ〕
らの各記事は,原告ホテルを「ホテルブレストンコート「ホテルブレ,」,
ストンコート」又は「HotelBlestonCourt」の表示の下に,軽井沢高原教
会等で行う挙式をサポートし,結婚披露パーティ等の会場として各種サービ
スを提供するものとして広告宣伝したものであること,他方,原告ホテルが
「ブレストン」と略称されて広告宣伝されているものは見当たらないこと,
がそれぞれ認められる。
これらによれば,原告ホテルが「ホテルブレストンコート」又は「ブレ,
ストンコート」として,軽井沢を中心とする長野県等や首都圏において需要
者の間にある程度知られているものと推認することができるものの,それを
超えた周知著名性を有しているとは認められず,また原告ホテルが,本件商
標の指定役務について,需要者の間に「ブレストン」と略称されて広く認識
されていると認めることもできない。
以上のことは,上記各種結婚情報誌や新聞等に,原告の指摘する調査報告
書(甲68,証明書(甲69∼89,インターネットで表示される各ペ))
ージ(甲91∼106,118∼120,122∼126,128,需要)
者からの電子メール(甲108∼117)等を含む本件各証拠をすべて検討
しても,何ら左右されない。そして,その理由は,後記(5)イ∼サに説示す
るとおりである。
(4)以上によれば,本件商標と引用商標とは非類似の商標であり,引用商標
の周知著名性の程度も軽井沢を中心とする長野県等や首都圏においてある程
度知られているという程度に過ぎない。しかるに本件商標の指定役務の需要
者は,上記(2)に説示したとおり,結婚式を人生の一大イベントと位置づけ
て,希望する挙式の種類,価格,施設が提供する食事,会場施設等の各種サ
ービス等に応じた挙式内容等の綿密な吟味を行うのが実情であるから,同指
定役務の需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断す
れば,仮に引用商標の「ブレストン」の部分が造語的なものであり,本件商
標の指定役務と原告の業務に係る役務が関連するものであって地域的にも需
要者が重なり合う部分があるとしても,両者において法4条1項15号の
「混同を生ずるおそれ」があるとはいえないと解するのが相当である。
(5)原告の主張に対する補足的説明
ア原告は,法4条1項15号の「他人の業務に係る…役務と混同を生ずる
おそれ」があるか否かは,引用商標の略称である「ブレストン」が広く認
識されていることを直接の要件とするものではなく,また,一般的出所の
混同について規定する法4条1項11号に定める商標の類似を要件とする
ものでもないのであって,本件商標と引用商標の構成,提供役務の特殊性,
引用商標が「ブレストン」と略称され認識されている事実又はその蓋然性
等を含め,具体的な取引実情を斟酌して判断されるべきである,しかるに,
審決は,引用商標が「ブレストン」と略称されている事実又は略称される
ことの蓋然性について,証拠全体から見た総合判断をせず,原告提出の証
拠を誤って評価したものである,と主張する。
しかし,上記(1)に説示したとおり,法4条1項15号の文言に直接明
文で掲げられていないとしても「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該,
商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性等の要素を
考慮して総合的に判断されるべきものである。また,上記(3)に説示した
とおり,原告ホテルが,本件商標の指定役務について,証拠全体から見た
総合判断としても,下記イ∼サの説示に照らせば,需要者の間に「ブレス
トン」と略称されて広く認識されていると認めることはできない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
イ次に原告は,引用商標は,必ずしも著名でなくとも,周知であれば十分
であり,その周知度も全国的であることを要しない,しかるに審決は,原
告ホテルが「ホテルブレストンコート」の一連の表示で,ある程度知ら,
れているところまで認めているところ,引用商標が周知であり,略称され
る蓋然性があったり,略称されている事実がある場合には,混同するおそ
れを認めるに十分である,と主張する。
しかし,周知度が全国的であることを要しないとしても,上記(3)に説
示したとおり,そもそも原告ホテルは,軽井沢を中心とする長野県等や首
都圏において需要者の間にある程度知られているものと推認することがで
きるに止まり,それを超えた周知著名性を有していると認めることができ
ないのであり,上記(2)のとおり本件商標と引用商標が類似しないことな
ど既に判示した事情を総合すると,引用商標が「ブレストン」と略称され
る蓋然性があったり実際に略称されたことが過去にあったかどうかにかか
わらず,法4条1項15号の「混同を生ずるおそれ」があるということは
できない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
ウ次に原告は,調査報告書(甲68)や証明書(甲69∼89)を提出し,
特に証明書(甲69∼89)は,当該証明者が証明内容を確認の上,その
知り得る情報に基づいて作成されたものであり,記載されている内容につ
いて責任をもって証明しており,その証明者は,例えば長野県商工会議所
連合会(甲69,日本ブライダル事業振興協会(甲70)といった公的)
機関,業界団体が含まれており,証明の客観性は十分担保されている,と
主張する。
そこで検討するに,まず調査報告書(甲68)は「ブレストンコー,
ト」についての聞き取り調査であるが,その対象者は,長野市,上田市,
佐久市及び小諸市に居住する20∼35歳の男女450名であるに過ぎな
い。
また上記証明書(甲69∼89)は,不動文字で「証明書商標:ホ,
テルブレストンコート上掲商標は,…株式会社星野リゾートが「宿泊
施設の提供,婚礼(結婚披露を含む)のための施設の提供」にかかる施設
の名称として,平成7年4月23日より現在に至るまで継続して使用して
きたものであって,取引業者及び需要者間において,直ちに上記株式会社
星野リゾートの提供する役務であることを認識し得るほどに夙に著名にな
り,さらに引き続き著名度を高めて現在に至っているものであり,またこ
れが「ブレストン」と略称され,広く認識されていることを証明しま
す」と予め記載されたものに記名押印がなされたものに過ぎず「ホテ。,
ルブレストンコート」が著名になっていること,これが「ブレストン」
と略称され広く認識されているという抽象的な結論のみが述べられている
に過ぎず,広く認識されるようになった地理的範囲も,営業規模や広告宣
伝の状況等の具体的根拠も,平成7年4月23日から現在に至るまで使用
してきた,という以外何ら述べられていない。
そうすると,その内容自体からして,これらの調査報告書(甲68,)
各証明書(甲69∼89)が,法4条1項15号にいう「混同を生ずるお
それ」を判断するに際し,これを肯定する証拠とまで認めることは困難で
ある。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
エ次に原告は「略称」とは簡略化した名前で呼ぶことであり,需要者・,
取引者が選択的に使用し,定着していくものであって,ホテル・結婚式場
のように品格と信用を大切にする事業者が,自ら広告において略称を使用
することはなく,また略称は,取引の中での呼称,電子メール,ファック
ス等比較的略式の取引文書等において使用されるものであり(甲108∼
120,必ずしも,広告等において外形的に表彰されていないからとい)
って,略称されていないとは言えない,と主張する。
しかし,一般に「略称」が,需要者,取引者が選択的に使用し,定着し
ていく側面があり得るとしても,これを超えて,ホテル・結婚式場のよう
な事業者の場合は自ら広告において略称を使用することはないとまで言い
切ることは困難というべきである。また原告の特定の顧客が電子メール,
ファックス等において原告の経営するホテルを「ブレストン」と呼んだこ
とがあった(甲108∼120)としても,引用商標が需要者の間に「ブ
レストン」と略称されて広く認識されていると認められるかどうかはまた
別の問題であるし,その判断に当たり,広告等において「ブレストン」と
外形的に表象されていないことについては,表示の使用主体自らの表示の
使用態様にかかる重要な事実である以上,これを斟酌できないということ
はできない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
オ次に原告は,審決が「…甲第108ないし第117号証が請求人ホテ,
ルの利用者からの電子メールの写しであるとしても,その発信先が明らか
でなく客観性に乏しく,誰にでも容易に作成できるものである。…(1」
5頁下1行∼16頁3行)としたのに対し,審判官を欺いて虚偽の資料を
提出し,自己に有利な審決を得たとしても,そのような行為は詐欺の行為
として処罰の対象にもなりかねず,そのような危険を冒してまで原告が自
己の不利益に繋がる行為をしようはずもない,と主張する。
しかし,審決は,電子メール(甲108∼117)の発信先が明らかで
ないことの問題点を指摘したに過ぎないし,発信先が明らかでない電子メ
ールの内容が証拠力として高いものと評価されないのはやむを得ないとい
うべきである。また,この点を措いて電子メールの内容を検討しても,上
記メールは原告とその顧客との間の宿泊の申し込み等のやりとりに過ぎず,
結婚披露を含む婚礼のための施設の提供に係る需要者の認識について参考
となるものとはいえない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
カ次に原告は,わが国有数の検索サイトYahooのウェディングに関する掲
示板(甲119∼120)などの口コミ情報において紹介された情報は,
多くの需要者の記憶に留まり,また需要者が引用商標を「ブレストン」と
略称している事実は,結婚準備クチコミ情報サイト「WeddingPark(甲」
132の1∼5)の記載に照らしても明らかである,と主張する。
しかし,わが国有数の検索サイトYahooのウェディングに関する掲示板
(甲119∼120)などの口コミ情報において紹介された情報が,多く
の需要者の目にとまることは認められるとしても,本件商標の指定役務の
需要者は,上記(2)に説示したとおり,結婚式を人生の一大イベントと位
置づけて,希望する挙式の種類,価格,施設が提供する食事,会場施設等
の各種サービス等に応じた挙式内容等の綿密な吟味を行うのが一般的実情
であるから,結婚式場等を具体的に選定する際に,口コミ情報において紹
介された情報が果たす役割は,自ずと限定されたものとならざるを得ない
というべきである。そうすると,かかる口コミ情報において原告ホテルが
何度か「ブレストン」と呼称されたことがあったとしても,そのことから
当然に,引用商標が需要者の間に「ブレストン」と略称されて広く認識さ
れているとまで認められることにはならない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
キ次に原告は,旅館又はホテルのインターネットのホームページ(甲91
∼107)は,引用商標が使用される役務について「コート(Court」,)
の文字が多用されることを示すことにより,引用商標において「コート,
(Court」が「ブレストン(Bleston」に比して明らかに印象が薄く,))
識別力が極めて弱いため省略される蓋然性が大きいことを示したものであ
り,引用商標中「Bleston(ブレストン」の文字が強く看者の注意を惹,)
く蓋然性を示したものである,と主張する。
しかし,単に旅館又はホテルにおいて中庭を有する甲91∼107の施
設があったとしても,そのことから当然に,婚礼・結婚披露のための施設
につき「コート(Court」の文字が多用されることを示したことにはな)
らず,引用商標において「コート(Court」が「ブレストン(Blesto,)
n」に比して印象が薄く,識別力が弱いため省略される蓋然性が大きい)
ことを示したことにもならないというべきである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
ク次に原告は「ホテル」が役務の質,内容等を表示することは明らかで,
あり,また,業界内における認識(甲69∼89,需要者が現に引用商)
標を「ブレストン」と略称し認識している事実やその蓋然性があること
(甲119∼120)に照らし,引用商標が「ブレストン」と称呼される
ことはないということはできない,と主張する。
確かに上記(2)で説示したとおり「ホテル(Hotel」の語は日常的に,)
使用される普通名詞であり,本件指定役務についての識別力が極めて弱い
ものというべきであるが,そのことは,審決の結論に影響を及ぼすもので
はない。また証明書(甲69∼89)が,法4条1項15号にいう「混同
を生ずるおそれ」を判断する際,これを肯定する方向に斟酌できないこと
は上記ウに説示したとおりであり,インターネットのページ(甲119∼
120)等に記載された口コミ情報も,その果たす役割が自ずと限定され
たものとならざるを得ないことも上記カに説示したとおりであるから,こ
れらを含めた本件全証拠に照らして総合判断しても,原告ホテルが需要者
の間に「ブレストン」と略称されて広く認識されていると認めることはで
きない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
ケ原告は,審決は,一般の需要者が引用商標を「Bleston(ブレスト
ン」と略称している事実,又は略称される蓋然性を顕著に示すインター)
ネットにおける取引の実情を十分に考慮していない,すなわち,本件商標
の役務の提供を受ける主要な需要者は,20代から30代のいわゆるイン
ターネット世代の若者であり,各種検索サイトを使用する際,文字入力の
手間を省いたり,曖昧検索を行うための検索文字入力手法として,例えば,
(ブレストン結婚式)のように,対象文字列の前方一致入力により行い,
まさに「ブレストン」と略称していることは一般に見受けられるところで
ある,と主張する。
しかし,上記クに説示したとおり,そもそも原告ホテルが需要者の間に
「ブレストン」と略称されて広く認識されているとは認められないのであ
るから,引用商標が「ブレストン」と略称される蓋然性があったり,実際
に略称されたことがあったかどうかにかかわらず,法4条1項15号の
「混同を生ずるおそれ」があるということはできない。また,20代から
30代の若者が,各種検索サイトを使用する際,文字入力の手間を省いた
り,曖昧検索を行うための検索文字入力手法として,例えば(ブレスト,
ン結婚式)のように,対象文字列の前方一致入力により行っていること
があるとしても,かかる個別検索の便宜から行われる事項と,引用商標が
需要者の間に「ブレストン」と略称されて広く認識されていると認められ
るかどうかという事項とは別の問題というほかない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
コ次に原告は,被告提出に係る証拠は,すべて自社で内容を準備したもの
であり,客観的な知名度を示すものは何ら含まれていないから,これらの
証拠によっては,本件商標がブライダル業界においてはある程度知られて
いるとは到底いえない,電子メールや,結婚準備クチコミ情報サイト「We
ddingPark」等において原告の経営する施設が高い評価を得ていること
(甲108∼120,132の1∼5,乙90∼92)にも照らせば,引用
商標の周知性の程度が,本件商標のそれより格段に高いことが明らかと主
張する。
しかし,証拠(乙3∼85,93∼131)によれば,被告施設に関す
る広告宣伝の記事が,株式会社リクルート「ゼクシィ新潟版」2004年
(平成16年)2月号∼2006年(平成18年)12月号(乙3∼18,
93∼105)を始めとする各種結婚情報誌や,新潟日報(平成16年1
1月23日,25日付け〔乙83)等において掲載され,新潟総合テレ〕
ビ(平成15年11月∼平成17年10月)等において被告施設のテレビ
コマーシャルがなされていること(乙84∼85,がそれぞれ認められ)
る。これらによれば,本件商標を使用する被告施設が,新潟市等の新潟県
内において需要者の間にある程度知られているものと認めることができる
から,引用商標の周知性の程度が本件商標のそれより格段に高いというこ
とはできず,また仮に引用商標の周知性の程度が本件商標のそれより高い
としても,引用商標が需要者の間に広く認識されているものでなく法4条
1項15号にいう「混同を生ずるおそれ」は認められないとの上記認定判
断を左右するものではない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
サさらに原告は,引用商標が使用される役務との関連においては,需要者
は「Court」の文字が中庭又は邸宅を意味すると理解するのが自然であ,
り,少なくとも役務の提供施設の内容等を暗示する,きわめて識別力の弱
い語ということができると主張する。しかし,本件商標の指定役務の需要
者は,結婚式という人生に普遍的な行事を行おうとする一般人というべき
であって,かかる一般の日本人が「Court」の文字が中庭又は邸宅を意,
味すると通常理解するのが自然とまでは言い難く,上記(2)の説示に照ら
しても,原告のかかる主張を採用することはできない。
(6)したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
3取消事由2(法4条1項8号該当性の判断の誤り)について
原告は,原告ホテルは「ブレストン」と略称されて広く認識されており(甲
69∼89,108∼120,本件商標は,かかる他人の著名な略称を含む)
商標であるから,本件商標は,法4条1項8号に該当し,商標登録を受けるこ
とができないと主張する。しかし,原告ホテルが「ブレストン」と略称されて
広く認識されていると認めることができないことは,上記2の説示に照らして
明らかであるから,原告の上記主張はその前提を欠き,失当である。
したがって,原告主張の取消事由2も理由がない。
4結論
以上によれば,本件商標が法4条1項15号及び法4条1項8号に該当しな
いとした審決の判断に誤りはない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから棄却することとして,主文のとお
り判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官田中孝一

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