弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人赤塚宋一、同松葉謙三、同石坂俊雄、同村田正人、同中村亀雄、同福
井正明、同渡辺伸二、同伊藤誠基、同谷口彰一の上告理由について
 河川の管理についての瑕疵の有無は、道路その他の人工公物の管理の場合とは異
なり、過去に発生した水害の規模、発生の頻度、発生原因、被害の性質、降雨状況、
流域の地形その他の自然的条件、土地の利用状況その他の社会的条件、改修を要す
る緊急性の有無及びその程度等諸般の事情を総合的に考慮し、河川管理における財
政的、技術的及び社会的諸制約の下での同種・同規模の河川の管理の一般水準及び
社会通念に照らして是認し得る安全性を備えていると認められるかどうかを基準と
して判断すべきであると解するのが相当である(最高裁昭和五三年(オ)第四九二
号、第四九三号、第四九四号同五九年一月二六日第一小法廷判決・民集三八巻二号
五三頁、最高裁昭和五七年(オ)第五六〇号同六〇年三月二八日第一小法廷判決・
民集三九巻二号三三三頁、最高裁昭和六三年(オ)第七九一号平成二年一二月一三
日第一小法廷判決・民集四四巻九号一一八六頁参照)。そして、既に改修計画が定
められ、これに基づいて現に改修中である河川については、右計画が全体として前
示の見地からみて格別不合理なものと認められないときは、その後の事情の変動に
より当該河川の未改修部分につき水害発生の危険性が特に顕著となり、当初の計画
の時期を繰り上げ、又は工事の順序を変更するなどして早期の改修工事を施行しな
ければならないと認めるべき特段の事由が生じない限り、右部分につき改修がいま
だ行われていないとの一事をもって河川管理に瑕疵があるとすることはできないと
解すべきである(前掲昭和五九年一月二六日第一小法廷判決参照)。
 原審の適法に確定した事実関係によれば、(1) 志登茂川(以下「本件河川」と
いう。)は溢水しやすい河川特性を有していたが、古くから農業用水として利用さ
れてきたため、その流域が農業地帯であり、河水が農業用水として利用されている
ことを基本とする治水理念の下に管理されてきた。すなわち、洪水を防ぐ目的で大
規模な築堤をし、あるいは河幅を拡張するのは、費用と労力を要するばかりでなく、
右拡張の分だけ農地を取り潰さざるを得なくなるのに対し、水田地帯に溢水流を湛
水させるのであれば、それが一定水深で、かつ一定時間である限り、稲の収穫にと
ってさしたる障害にはならないから、あえて築堤や河幅の拡張をせずに無堤地帯か
ら溢水させ、本川の減水とともに溢水流を川に再流入させるという治水理念が採用
されてきた、(2) しかしながら、昭和四六年に二度にわたって洪水の被害を受け
たことを契機として、昭和四七年度から本件河川につき中小河川改修事業としての
全体計画を策定し実施するものとされ、右全体計画は昭和四七年六月に確定され、
本件河川の改修工事は以後これによって進められた、(3) 右全体計画において、
本件河川の今井橋、横川合流点、毛無川合流点をそれぞれ基準点として一〇〇年確
率及び三〇年確率による計画高水流量が定められたが、それによれば、一〇〇年確
率では、今井橋で毎秒四〇〇立方メートル、横川合流点で毎秒五三〇立方メートル、
毛無川合流点で毎秒六六〇立方メートル、三〇年確率では、今井橋で毎秒三〇〇立
方メートル、横川合流点で毎秒三一〇立方メートル、毛無川合流点で毎秒三九〇立
方メートルとされた。そして、前田川合流点付近から毛無川合流点までの四三二〇
メートルについて河道の直線化、河幅の拡張、堤防の整備、平野井堰及び今井井堰
の改築、橋梁の架け替え等が計画された、(4) 右全体計画の第一期計画は、昭和
四七年から同四九年まで事業費を三億円として前田川合流点付近から横川合流点ま
での三一〇〇メートルの区間を対象とするものであり、流下能力を増すために平野
井堰の改築が計画され、そのための地質調査、構造物の設計がされた。また、平野
井堰の上流部の河幅の拡張が計画され、用地買収の交渉が行われたが、これは予定
どおりには達成できなかった、(5)しかし、昭和五〇年以降、農業用水の水利権者
等との調整が行われ、平野井堰の改築が施工され、また、その上流の用地買収も実
施され、さらに、昭和五一年、五二年に上流に向かって用地買収、護岸工事、橋梁
の架け替えが実施された。平野井堰から前田川合流点まで流下能力毎秒一五〇立方
メートルを確保する工事は昭和五七年に完成したが、この間に要した事業費は五七
億四一〇〇万円であった。続いて、全体計画で定めた毎秒三〇〇立方メートルを確
保すべく毛無川合流点から上流に向けて改修工事にかかり、昭和六〇年度から同六
二年度まで事業費約一一億四四〇〇万円をかけて用地買収等を行い、現在も改修を
継続している、というのである。
 右事実によれば、本件河川は前示の判断基準にいう既に改修計画が定められ、こ
れに基づいて現に改修中の河川というべきである。論旨は、本件水害が発生した昭
和四九年七月当時、本件河川につき前記全体計画に基づく改修工事は着手されてい
なかったから、本件河川は改修中の河川には当たらない旨主張するが、前記事実に
よれば、本件河川については昭和四七年六月に全体計画が確定され、昭和四七年か
ら同四九年にかけて、その第一期計画に基づき、対象となった区間につき改修工事
が具体的に計画され、その実施に必要な用地の買収交渉が行われていたのであるか
ら、本件河川は改修計画に基づき現に改修中の河川というべきである。
 そうすると、本件河川については、前示の判断基準により、前記全体計画が格別
不合理なものと認められないときは、前示のような特段の事由が生じない限り、そ
の管理に瑕疵があったとすることはできないというべきである。
 原判決は本件河川の管理瑕疵の有無を判断するについて右の判断基準によったも
のであって、その判断方法は正当である。そして、前記全体計画が合理的なもので
あり、本件河川について当初の計画の時期を繰り上げるなどして早期に改修工事を
施行しなければならない特段の事由が生じたものとは認められないとした原審の認
定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、正当として是認すること
ができる。また、本件河川の改修計画は遅くとも昭和四〇年には実施されるべきで
あり、前記全体計画は緊急性に反する旨の上告人らの主張を排斥した原審の認定判
断も正当として是認することができる。論旨は、違憲をいう点を含め、独自の見解
に立って原判決を論難するか、又は原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認
定を非難するものにすぎず、採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意
見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    木   崎   良   平
            裁判官    藤   島       昭
            裁判官    中   島   敏 次 郎
            裁判官    大   西   勝   也

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