弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中、上告人らの敗訴部分を破棄する。
     右部分について被上告人の控訴を棄却する。
     控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 平成七年(オ)第五二七号事件上告代理人増井和男、同鈴木健太、同河村吉晃、
同山元裕史、同喜多剛久、同赤西芳文、同塚本伊平、同巖文隆、同近藤秀樹の上告
理由並びに同年(オ)第五二八号事件上告代理人堀家嘉郎、同小林昭、同香山仙太
郎、同前堀克彦、同竹村繁、同後藤廣生、同大東弘の上告理由第一及び第二につい

 一 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 被上告人は、昭和三一年五月九日に出生し、大韓民国国籍を有する者であり、
昭和四七年五月三一日、我が国に永住することの許可を受け、京都市a区内に所有
する建物において妻と居住していた。
 2 被上告人は、外国人登録法(昭和六二年法律第一〇二号による改正前のもの。
以下同じ。)が定める在留外国人についてのいわゆる指紋押なつ制度の撤廃を求め
る運動に積極的に参加していたが、昭和六〇年二月八日、Dとともに、京都市E区
役所を訪れ、外国人登録証明書を汚損したとして、同法六条一項に基づき、それぞ
れ外国人登録証明書の引替交付を申請し(以下「本件申請」という。)、被上告人
及びDは、その際、京都市の職員であるFから同法一四条一項に従って外国人登録
証明書、外国人登録原票及び指紋原票に指紋を押なつするように求められたが、い
ずれもこれを拒否した。
 3 京都府太秦警察署のG司法巡査は、昭和六〇年四月一八日、E区役所の職員
から被上告人の右の指紋押なつ拒否の事実を聞き込み、また、京都府舞鶴西警察署
に勤務するH巡査部長は、同月一九日、I委員会発行の「J」第三号を入手したが、
これには、同年二月八日に京都、大阪等において被上告人及びDを含む合計一八名
が外国人登録法に定める指紋押なつを拒否した旨が記載されていた。右の両警察署
から連絡を受けた京都府桂警察署は、同年五月から被上告人に対する捜査を開始し、
昭和六一年二月三日、a区長に対し、本件申請に際しての被上告人の指紋押なつの
有無等について照会して、a区長から、同月一四日付けの回答書を得た。右の回答
書には本件申請に際して被上告人が指紋押なつをしなかった旨が記載され、被上告
人作成の外国人登録証明書交付申請書及び被上告人の外国人登録原票の各写しが添
付されていた。桂警察署に勤務するK警部補は、同月一九日、被上告人の指紋押な
つ拒否の状況についてFから事情聴取した。
 4 桂警察署では、被上告人から事情を聴取することとし、同署に勤務するL巡
査部長らは、昭和六一年二月二四日、同年三月一〇日、同月二四日、同年四月二日、
同月九日の五回にわたり、被上告人に対して桂警察署への任意出頭を求めた。しか
し、被上告人は、勤め先であるM地方本部に出動するなどしてこれに応じなかった。
同年三月一五日には、N弁護士が、桂警察署を訪ねて同署に勤務するO警部に対し、
弁護人選任届(被上告人がN弁護士外二名の弁護士を外国人登録法違反被疑事件に
関する弁護人に選任する旨を内容とするもの)、被上告人作成の陳述書(被上告人
が指紋押なつを拒否した理由等を記載したもの)、P大学名誉教授Q外四名作成の
保証書五通(被上告人が逃亡するおそれがないことを保証する旨を内容とするもの)
等を提出した。N弁護士が右の弁護人選任届等を提出した様子は、地元の新聞紙上
で報道された。
 5 桂警察署は、被上告人を逮捕する方針を固め、O警部が、昭和六一年四月一
七日、京都地方裁判所裁判官に対し、逮捕状を請求した。右の請求に当たっては、
K警部補作成の捜査報告書(捜査の端緒、捜査の経緯等に関するもの)、L巡査部
長ら作成の捜査報告書(被上告人に対する呼出しの状況等に関するもの)、前記の
桂警察署のa区長に対する照会書及び同区長からの回答書等の資料が添付された。
右の逮捕状の請求を受けた京都地方裁判所和田真裁判官は、同日、逮捕状を発付し
た。K警部補は、同月一八日午前七時三三分、右逮捕状により被上告人を逮捕した
(以下「本件逮捕」という。)。被上告人は、桂警察署において、写真の撮影、指
紋の採取等をされ、L巡査部長によって取り調べられた後、同日午後一時四〇分、
京都地方検察庁検察官に送致された。被上告人は、同地方検察庁において取調べを
受けた後、同日午後六時三九分、釈放された。
 二 本件訴訟は、被上告人が、平成七年(オ)第五二七号事件上告人国(以下「
上告人国」という。)及び同第五二八号事件上告人京都府(以下「上告人京都府」
という。)に対し、本件逮捕状の請求及びその発付が違法であることを理由として
国家賠償法一条一項に基づき本件逮捕によって被上告人が被った損害の賠償を請求
するものであり、原審は、右事実関係の下において、次の理由で、本件の逮捕状の
請求及びその発付はいずれも違法であり、逮捕状を請求した司法警察員及びこれを
発付した裁判官に故意又は過失も認められるとして、被上告人の本件損害賠償請求
を一部認容した。
 1 被上告人は、桂警察署から五回にわたって任意出頭するように求められなが
ら出頭しなかったが、右の不出頭には、いずれも正当な理由がなかったというべき
である。
 2 しかし、被上告人には、次のとおり、逃亡又は罪証隠滅のおそれがなく、逮
捕の必要がなかったものと認められる。
 (一) 被上告人が逃亡又は罪証隠滅の意思を有していたと認めることはできな
いし、被上告人は、逃亡のおそれが認められるような生活状態にはなかった。また、
桂警察署は、逮捕状を請求した時までに、既に被上告人が指紋押なつをしなかった
ことを立証するために十分な証拠を入手しており、被上告人が罪証隠滅を企図した
としても、その余地はなかったというべきである。
 (二) 指紋押なつを拒否した者に対する宣告刑は、おおむね罰金一万円ないし
五万円であることによると、動機、組織的背景等の事実は刑の量定にほとんど影響
を及ぼしていないと推測され、仮に右の事実が罰金額の多寡に何らかの影響を与え
ているとしても、その程度の影響しか持ち得ない事実の解明のために被上告人の身
柄を拘束することは明らかに均衡を失するものであり、本件における右の事実は、
罪証隠滅の対象にはならないというべきである。
 3 O警部の本件逮捕状の請求は、被上告人を逮捕する必要がないのにされたも
のであることが明白である。O警部が逮捕の必要があると判断したことは著しく合
理性を欠いて、違法であり、O警部は、逮捕の必要がないことを知り、又は知り得
べきであったから、上告人京都府は、本件逮捕によって被上告人が被った損害を賠
償すべき責任を負う。
 4 本件においては、通常の裁判官が合理的に判断すれば、明らかに被上告人を
逮捕する必要がないと判断し、逮捕状を発付しなかったというべきである。和田裁
判官は、逮捕状の請求を受けた裁判官に許される裁量を著しく逸脱し、法が裁判官
の職務の遂行上遵守すべきことを要求している基準に著しく違反したものである。
和田裁判官は逮捕状の発付が違法であることを知り得べきであったから、上告人国
は、本件逮捕によって被上告人が被った損害を賠償すべき責任を負う。
 三 しかしながら、原審の右二の2ないし4の判断は、いずれも是認することが
できない。その理由は、次のとおりである。
 1 司法警察職員等は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由及び
逮捕の必要の有無について裁判官が審査した上で発付した逮捕状によって、被疑者
を逮捕することができる(刑訴法一九九条一項本文、二項)。一定の軽微な犯罪に
ついては、被疑者が定まった住居を有しない場合又は正当な理由がなく刑訴法一九
八条の規定による出頭の求めに応じない場合に限って逮捕することができるとされ
ているから(刑訴法一九九条一項ただし書)、裁判官は、右の軽微な犯罪について
は、更にこれらの要件が存するかどうかも審査しなければならない。ところで、逮
捕状の請求を受けた裁判官は、提出された資料等を取り調べた結果(刑訴規則一四
三条、一四三条の二)、逮捕の理由(逮捕の必要を除く逮捕状発付の要件)が存す
ることを認定できないにもかかわらず逮捕状を発付することは許されないし(刑訴
法一九九条二項本文)、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸
般の事情に照らし、被疑者が逃亡するおそれがなく、かつ、罪証を隠滅するおそれ
がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなけれ
ばならないのである(刑訴法一九九条二項ただし書、刑訴規則一四三条の三)。な
お、右の罪証隠滅のおそれについては、被疑事実そのものに関する証拠に限られず、
検察官の公訴を提起するかどうかの判断及び裁判官の刑の量定に際して参酌される
事情に関する証拠も含めて審査されるべきものである。
 そして、右の逮捕状を請求された裁判官に求められる審査、判断の義務に対応し
て考えると、司法警察員等においても、逮捕の理由がないか、又は明らかに逮捕の
必要がないと判断しながら逮捕状を請求することは許されないというべきである。
 2 本件における事実関係によれば、本件逮捕状の請求及びその発付の当時、被
上告人が外国人登録法一四条一項に定める指紋押なつをしなかったことを疑うに足
りる相当な理由があったものということができ、さらに、右の罪については、一年
以下の懲役若しくは禁錮又は二〇万円以下の罰金を科し、あるいは懲役又は禁錮及
び罰金を併科することとされていたのであるから(同法一八条一項八号、二項)、
刑訴法一九九条一項ただし書、罰金等臨時措置法七条一項(いずれも平成三年法律
第三一号による改正前のもの)に規定する罪に該当しないことも明らかであって、
本件においては被上告人につき逮捕の理由が存したということができる。
 そこで、逮捕の必要について検討するに、本件における事実関係によれば、被上
告人の生活は安定したものであったことがうかがわれ、また、桂警察署においては
本件逮捕状の請求をした時までに、既に被上告人が指紋押なつをしなかったことに
関する証拠を相当程度有しており、被上告人もこの点については自ら認めていたの
であるから、被上告人について、逃亡のおそれ及び指紋押なつをしなかったとの事
実に関する罪証隠滅のおそれが強いものであったということはできないが、被上告
人は、L巡査部長らから五回にわたって任意出頭するように求められながら、正当
な理由がなく出頭せず、また、被上告人の行動には組織的な背景が存することがう
かがわれたこと等にかんがみると、本件においては、明らかに逮捕の必要がなかっ
たということはできず、逮捕状の請求及びその発付は、刑訴法及び刑訴規則の定め
る要件を満たす適法なものであったということができる。
 3 右のとおり、本件の逮捕状の請求及びその発付は、刑訴法及び刑訴規則の定
める要件を満たし、適法にされたものであるから、国家賠償法一条一項の適用上こ
れが違法であると解する余地はない。
 4 そうすると、右と異なり、上告人らは被上告人に対して国家賠償法一条一項
に基づき本件逮捕により被上告人が被った損害を賠償する責任を負うものとした原
審の判断は、前記の各法令の解釈適用を誤ったものであり、この違法は原判決の結
論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、その余の上告理由につ
いて判断するまでもなく、原判決中上告人らの敗訴部分は破棄を免れない。そして、
被上告人の本件損害賠償請求はすべて理由がないとした第一審判決は正当であるか
ら、右部分に対する被上告人の控訴を棄却すべきである。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    根   岸   重   治
            裁判官    河   合   伸   一
            裁判官    福   田       博

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