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平成17年(行ケ)第10383号 審決取消請求事件
平成18年2月27日判決言渡,平成18年2月13日口頭弁論終結
     判    決
 原 告      ガラスリソーシング株式会社
 訴訟代理人弁理士 入交孝雄
 被 告      特許庁長官 中嶋誠
 指定代理人    岡田孝博,長谷川一郎,大橋康史,青木博文
     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
     事実及び理由
 本判決においては,審決や書証等を引用する場合に,公用文の表記法に従い,あ
るいは,本文中に指定した略称を用いた箇所がある。また,「瓶」「びん」「ビ
ン」については,「瓶」の表記に統一した。
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が不服2004-4147号事件について平成17年1月5日にした審
決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 本件は,原告が,名称を「廃ガラス破砕粒からなる透水性地盤改良用資材」とす
る発明につき特許出願をしたが拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をした
ところ,発明の進歩性の欠如(特許法29条2項),先願明細書記載の発明との同
一(同法29条の2)を理由に,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,
同審決の取消しを求めた事案である。
 前記特許出願の願書に添付された明細書(甲5)の記載によれば,「本発明は,
一般廃棄物,産業廃棄物として産出される瓶ガラス,板ガラス,あるいは陶磁器な
どのガラス質の廃棄物を原料として,新たな用途に再生する技術に関するものであ
り,具体的には土木建築用の地盤改良用資材,あるいは耕地,畑地の土壌の通水性
を向上する透水性地盤改良用資材に関するものである。」(段落【0001】),
「解決しようとする問題点は,ガラス瓶などのガラス質廃棄物をその形態や成分組
成,色合いなどに応じた選別を必要とせず,これらのガラス質の特性を活用して有
効に利用できる用途を創出し,そのため,これらのガラス質廃棄物を有効利用でき
る用途に適合した形態を確認し,また,その形態に加工する低コストで大量生産可
能な製造方法を創出することにある。」(段落【0005】)とされている。
1 特許庁における手続の経緯
 (1) 本願発明(甲5)
 発明の名称:「廃ガラス破砕粒からなる透水性地盤改良用資材」
 出願番号:特願2000-141184号
 出願日:平成12年5月15日
 (2) 本件手続(甲4,9)
 拒絶査定日:平成16年1月28日
 審判請求日:平成16年3月2日(不服2004-4147号)
 審決日:平成17年1月5日
 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
 審決謄本送達日:平成17年1月27日
2 本願発明の要旨(請求項1ないし5のうち請求項1のみを記載する。以下,請
求項1の発明を「本願発明」という。)
【請求項1】
 瓶ガラス,板ガラス,あるいは陶磁器などのガラス質原料を破砕して細粒化した
ガラス粒からなる透水性地盤改良用資材。
3 審決の理由の要点
 審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,①本願発明は,刊行物1(特
開平8-246437号公報,本訴甲1)に記載の発明(以下「刊行物1発明」と
いう。)及び刊行物2(特開平11-319791号公報,本訴甲2)に記載の技
術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29
条2項の規定により特許を受けることができず,また,②先願(特願平10-32
0095号,特開2000-144748号公報,本訴甲3)の願書に最初に添付
された明細書(以下「先願明細書」という。)に記載の発明と同一であるから,同
法29条の2の規定により特許を受けることができない,というものである。
 (1)特許法29条2項違反についての審決の判断
 「刊行物1には以下の発明が記載されていると認められる。
 『空隙を有するように部分接着して,軟弱地盤の圧密強化や液状化防止に役立
つ,棒状透水性ブロックからなる地盤排水材料を得るための無機発泡体であって,
自動車窓ガラスやビール,酒,ジュース等の飲料水用ガラス瓶および調味料用ガラ
ス瓶等の廃ガラスを利用して得た発泡ガラスビーズからなる,無機発泡体。』」
 「本願発明と,刊行物1発明とを対比すると,・・・両者は,『瓶ガラスなどの
ガラス質原料を利用した,透水性地盤改良用資材。』の点で一致し,以下の点で相
違している。
 相違点:『資材』が,本願発明は,ガラス質原料を破砕して細粒化したガラス粒
であるのに対し,刊行物1発明は,ガラス質原料を利用して得た発泡ガラスビーズ
からなる無機発泡体である点
 上記相違点について検討する。
 刊行物2には,・・・ガラス瓶等の廃棄ガラスから製造したガラスカレットを,
道路舗装材,埋め戻し材,舗装ブロックの敷砂等の建設用資材として使用すること
が記載されており,刊行物1記載の無機発泡体を刊行物2記載のガラスカレットに
替えて本願発明を当業者がなす点に格別困難性は認められず,本願発明が奏する作
用効果も,当業者が予期し得る程度のものであって,格別のものとはいえない。」
 (2) 特許法29条の2違反についての審決の判断
 「先願明細書には以下の発明が記載されていると認められる。
 『地盤に透水性層を形成するために利用される原料である,瓶ガラスや板ガラス
等のガラス廃材を粉砕したガラス質粉末。』」
 「本願発明と,上記先願明細書記載の発明とを対比すると,先願明細書記載の発
明の『ガラス廃材』,『粉砕』,『ガラス質粉末』,及び『原料』は,本願発明の
『ガラス質原料』,『破砕』,『細粒化したガラス粒』,及び『資材』にそれぞれ
相当するから,両者は,同一である。」
 (3) 審決のむすび
 「したがって,本願発明は,上記刊行物1,2記載の発明に基づいて当業者が容
易に発明をすることができたものであり,あるいは,上記先願明細書記載の発明と
同一であり,しかも,本願発明の発明者が,上記先願の発明者と同一であるとも,
また,本願出願時に,その出願人が上記先願の出願人と同一であるとも認められな
いので,特許法29条2項,あるいは,同法29条の2の規定により特許を受ける
ことができない」
第3 原告の主張(審決取消事由)の要点
 審決は,特許法29条2項についての対比及び判断を誤り(取消事由1),ま
た,同法29条の2についての対比及び判断を誤ったものである(取消事由2)か
ら,取り消されるべきである。
1 取消事由1(特許法29条2項についての対比及び判断の誤り)
 (1) 審決が,刊行物1発明の「軟弱地盤の圧密強化や液状化防止」は本願発明の
「地盤改良」に相当すると認定したのは,誤りである。
 本願発明における「地盤改良」は破砕したガラス粒が堆積して透水性が発揮され
ることによりもたらされるものであるのに対し,刊行物1発明の「軟弱地盤の圧密
強化や液状化防止」は「空隙を有するように部分接着して,軟弱地盤の圧密強化や
液状化防止に役立つ,棒状透水性ブロック」という構造物の機能によりもたらされ
るものである。審決は,このような両発明の構造上の相違や,透水性の由来を考慮
することなく,単に「軟弱地盤の圧密強化や液状化防止」「地盤改良」という文言
のみを対比したものであって,不当である。
 (2) 審決が,刊行物1発明と本願発明は「瓶ガラスなどのガラス質原料を利用し
た,透水性地盤改良用資材」という点で一致し,本願発明の「資材」はガラス粒で
あるのに対して,刊行物1発明の「資材」は無機発泡体である点で相違すると認定
したのは,誤りである。
 本願発明は,ガラス破砕粒が堆積した状態で有する透水性を利用して,廃ガラス
材について透水性地盤改良用資材という新たな用途を創出したものである。これに
対して,刊行物1発明は,ガラス質原料による無機発泡体(ガラスビーズ)を「空
隙を有するように部分接着」させて「棒状透水性ブロック」をなすことにより初め
て透水性を取得するものであって,無機発泡体自体が堆積した状態で透水性を有す
るものではなく,「空隙を有するように部分接着」された構造を欠く限り,透水性
を得ることはできない。したがって,両発明は,個々のガラス粒ないし無機発泡体
の形態のみならず,透水性を有する「集合体」なるものの形態・構造において相違
するのである。このような発明の本来の構成における相違を無視し,透水性を備え
るという作用効果の共通性のみを挙げても,意味のないことであり,両発明の一致
点及び相違点についての審決の認定は誤りである。
 (3) 審決が,刊行物1発明と本願発明との相違点に関し,刊行物2の記載を引用
して本願発明の進歩性を否定したのは,誤りである。
 ア 審決は,刊行物2には「ガラス瓶等の廃棄ガラスから製造したガラスカレッ
トを,道路舗装材,埋め戻し材,舗装ブロックの敷砂等の建設用資材として使用す
ることが記載されて」いるとしている。しかし,刊行物2には,「このような状況
から,ガラスカレットの用途開発へのさまざまなアプローチがなされているが,そ
の中で道路舗装材,埋め戻し材,・・・舗装ブロックの敷砂等の建設用資材・・・
として使用することができれば,比較的大量の再利用が可能なことから,ガラスカ
レットのこの分野での利用開発が目下急ピッチで試みられている。」(段落【00
04】)と記載されているにすぎないのであって,具体的内容を伴った技術開示が
されているとはいえない。すなわち,廃ガラス材を上記の用途に用いることの可能
性を指摘し,あるいは単なる願望を記述したにとどまるのであり,技術的には今後
の課題とされているのである。
 イ また,刊行物1発明の無機発泡体を刊行物2記載のガラスカレットに替える
とすると,ガラスカレットを「空隙を有するように部分接着」してなす棒状透水性
ブロックが得られるのであって,ガラス破砕粒からなる透水性地盤改良用資材であ
る本願発明には至らない。
 あるいはまた,「空隙を有するように部分接着」する構造を無視して,刊行物1
発明の無機発泡体を刊行物2記載のガラスカレットに替えるとすれば,刊行物1発
明における透水性の由来は失われてしまうから,透水性を確保することができず,
やはり本願発明には至らない。
2 取消事由2(特許法29条の2についての対比及び判断の誤り)
 (1) 審決が,先願明細書に「地盤に透水性層を形成するために利用される原料で
ある,瓶ガラスや板ガラス等のガラス廃材を粉砕したガラス質粉末」が記載されて
いると認定したのは,誤りである。
 先願明細書の【請求項3】には「ガラス質廃材粉末に発泡材を添加し,熱処理し
て砕石状になったガラス質発泡体」と記載され,また,段落【0015】には,
「ガラス質発泡体による透水性層とローム質土による難透水性層を順次積層させる
ことで,このガラス質発泡体による透水性層が排水性を促進する部分として安定し
た地盤が得られ」と記載されている。このように,先願明細書の記載において透水
性層を形成するのはガラス質発泡体なのであって,ガラス質粉末の状態で透水性層
を形成するものではない。したがって,審決が,先願明細書に記載の発明における
「ガラス質粉末」を「地盤に透水性層を形成するために利用される原料」であると
したのは,誤りである。
 (2) 審決が,先願明細書に記載の発明と本願発明とを対比して,前者の「ガラス
廃材」「粉砕」「ガラス質粉末」「原料」は,後者の「ガラス質原料」「破砕」
「細粒化したガラス粒」「資材」にそれぞれ相当すると認定して,両発明は同一で
あると判断したのは,誤りである。
 先願明細書に記載の発明における「原料」は「地盤に透水性層を形成するために
利用される原料」であるところ,上記のとおり地盤に透水層を形成するのはガラス
質発泡体であって,ガラス質粉末の透水性は不明である。他方,本願発明における
「資材」は「破砕」して「細粒化したガラス粒」であって,その透水性を利用する
ことに技術的意義があるのであるから,このような技術的意義の相違を無視し,単
に各用語を羅列して対比するのは,技術的根拠を欠くものである。
 従来における廃ガラス材の処理は,他の資材に混入して処分するなどの,いわば
希釈材や無害物としての処理であったのに対し,本願発明は,ガラス破砕粒の性質
を利用することによって新たな有用性を見い出したものである点に特徴がある。原
告は,ガラス破砕粒の特性を確認し,ガラス破砕粒が天然砂以上に透水性に優れて
いることを突き止めたものである。
 しかるに,審決は,上記のような本願発明の技術的意義を考慮せず,両発明に関
する用語を単に羅列して対比し,両発明は同一であると判断したものであり,同判
断は技術的根拠を欠くものである。
 
第4 被告の反論の要点
 審決には,特許法29条2項についての対比及び判断に誤りはなく,また,同法
29条の2についての対比及び判断にも誤りはない。
1 取消事由1(特許法29条2項についての対比及び判断の誤り)に対して
 (1) 審決が,刊行物1発明の「軟弱地盤の圧密強化や液状化防止」は本願発明の
「地盤改良」に相当すると認定したことに,誤りはない。
 本願発明のガラス粒は,それ自体が単体として透水性を有するものではなく,複
数のガラス粒の集合体,あるいは,ガラス粒を含む複数の粒状物の集合体が,透水
性という作用を有するものであり,本願発明における「地盤改良」も,これらの集
合体の透水性により達成されるものである。一方,刊行物1発明の「無機発泡体」
も,それらの集合体,すなわち,無機発泡体を空隙を有するように部分接着して得
られる棒状透水性ブロックが透水性を有するものであり,同発明における「軟弱地
盤の圧密強化や液状化防止」は,「無機発泡体」の集合体により達成される作用で
ある。したがって,刊行物1発明の「軟弱地盤の圧密強化や液状化防止」は,本願
発明の「地盤改良」に相当する。 
 (2) 審決が,刊行物1発明と本願発明とは「瓶ガラスなどのガラス質原料を利用
した,透水性地盤改良用資材」という点で一致し,本願発明の「資材」はガラス粒
であるのに対して刊行物1発明の「資材」は無機発泡体である点で相違すると認定
したことに,誤りはない。
 審決は,本願発明の「ガラス粒」と刊行物1発明である「・・・棒状透水性ブロ
ックからなる地盤排水材料を得るための無機発泡体であって,・・・発泡ガラスビ
ーズからなる,無機発泡体」とを対比し,「無機発泡体」の集合体である棒状透水
性ブロックが,「透水性地盤」を形成するためのものであると認定したものであ
る。すなわち,本願発明の「ガラス粒」と刊行物1発明の「無機発泡体」とは,そ
れらの集合体,あるいは,それを含む複数の粒状物の集合体が透水性を備える点で
共通する。
 そして,「資材」という用語は,「ある物を作るもととなる材料」(広辞苑第五
版)を意味するものであるから,本願発明の「ガラス粒」も刊行物1発明の「無機
発泡体」も「資材」であることは明らかである。
 したがって,本願発明と刊行物1発明とを対比すれば,「瓶ガラスなどのガラス
質原料を利用した,透水性地盤改良用資材」という点で一致し,本願発明の「資
材」はガラス粒であるのに対して,刊行物1発明の「資材」は無機発泡体である点
で相違する。
 (3) 審決が,刊行物1発明と本願発明との相違点に関し,刊行物2の記載を引用
して本願発明の進歩性を否定したことに,誤りはない。
 刊行物2の記載(段落【0004】)によれば,少なくとも,ガラスカレットを
「建設用資材あるいは砕石の一部代用として使用すること」が強く示唆されている
から,この記載に接した当業者であれば,ガラスカレットを建設・土木の技術分野
における資材として用いることは,ごく自然に想起し得ることである。
 そして,刊行物1発明の「無機発泡体」と刊行物2記載の「ガラスカレット」と
は,廃ガラスを利用する点,及び,建設・土木の技術分野に用いられる点で共通
し,しかも,刊行物2には,ガラスカレットを,道路舗装材,埋戻し材,舗装ブロ
ックの敷砂等の建設用資材として使用することが示唆されている。
 したがって,刊行物1発明の「無機発泡体」を刊行物2記載の「ガラスカレッ
ト」に替えて,本願発明の構成に至ることは,当業者が容易になし得たものであ
る。
2 取消事由2(特許法29条の2についての対比及び判断の誤り)に対して
 (1) 審決が,先願明細書に「地盤に透水性層を形成するために利用される原料で
ある,瓶ガラスや板ガラス等のガラス廃材を粉砕したガラス質粉末」が記載されて
いると認定したことに,誤りはない。
 先願明細書に記載の発明における「ガラス質粉末」は,ガラス質発泡体を製造す
るための原料であり,製造されたガラス質発泡体は,地盤に透水性層を形成するた
めに利用されるものである。したがって,先願明細書には,「地盤に透水性層を形
成するために利用される原料である,・・・ガラス質粉末」が記載されている。
 (2) 審決が,先願明細書に記載の発明と本願発明とを対比して,前者の「ガラス
廃材」「粉砕」「ガラス質粉末」「原料」は,後者の「ガラス質原料」「破砕」
「細粒化したガラス粒」「資材」にそれぞれ相当すると認定して,両発明は同一で
あると判断したことに,誤りはない。
 先願明細書に記載の発明における「ガラス質粉末」は,瓶ガラスや板ガラス等の
「ガラス廃材」を「粉砕」したものであって,ガラス質発泡体を製造するための原
料であり,製造されたガラス質発泡体は,地盤に透水性層を形成されるために利用
される。一方,本願発明の「細粒化したガラス粒」は,瓶ガラスや板ガラス等の
「ガラス質原料」を「破砕」したものであり,集合体となることによって,透水性
を備えるものである。したがって,先願明細書に記載の発明における「原料」と本
願発明の「資材」とは,透水性の作用を奏するものに利用される点で一致し,先願
明細書に記載の発明の「ガラス廃材」「粉砕」「ガラス質粉末」「原料」は,本願
発明の「ガラス質原料」「破砕」「細粒化したガラス粒」「資材」にそれぞれ相当
する。
第5 当裁判所の判断
1 本件においては,まず,発明の同一性が問題となっている取消事由2(特許法
29条の2についての対比及び判断の誤り)について判断する。
 (1) 審決が,先願明細書に「地盤に透水性層を形成するために利用される原料で
ある,瓶ガラスや板ガラス等のガラス廃材を粉砕したガラス質粉末」が記載されて
いると認定した点について
 ア 先願明細書(甲3)には,次の内容が記載されている。
 「【請求項3】瓶ガラスや板ガラス等のガラス廃材を粉砕したガラス質廃材粉末
に発泡材を添加し,熱処理して砕石状になったガラス質発泡体による透水性層と,
ローム質土による難透水性層を順次積層させることを特徴としたガラス廃材利用の
軽量混合土の施工法。」
 「【0015】請求項3記載の本発明によれば,ガラス質発泡体はガラス質廃材
を利用して製造するものであり,資源のリサイクル有効活用により安価な製造コス
トで得られ,再資源化に際しても環境汚染への心配がなく,環境保全に適するとと
もに,ガラス質発泡体による透水性層とローム質土による難透水性層を順次積層さ
せることで,このガラス質発泡体による透水性層が排水性を促進する部分として安
定した地盤が得られ,しかも,ガラス質発泡体による透水性層は軽量化が実現でき
るので,変形係数が小さく,地震等の周辺地盤の変形に破壊することなく,追随す
ることができる。」
 イ 以上によれば,先願明細書には,①「ガラス質発泡体」を透水性層として地
盤に形成すること,②「ガラス質発泡体」は,「瓶ガラスや板ガラス等のガラス廃
材を粉砕したガラス質廃材粉末に発泡材を添加し,熱処理して砕石状」にして製造
されることが記載されている。すなわち,「瓶ガラスや板ガラス等のガラス廃材を
粉砕したガラス質廃材粉末」は,透水性層となる「ガラス質発泡体」の原料である
ことが記載されているものである。
 したがって,先願明細書には,「地盤に透水性層を形成するために利用される原
料である,瓶ガラスや板ガラス等のガラス廃材を粉砕したガラス質粉末」が記載さ
れているものと認められる。
 ウ 以上に対し,原告は,先願明細書の記載において透水性層を形成するのはガ
ラス質発泡体であって,ガラス質粉末の状態で透水性層を形成するものではないか
ら,審決の上記認定は誤りであると主張する。
 しかし,ガラス質粉末の状態のままで利用する場合であれ,ガラス質粉末を加工
してガラス質発泡体の状態にして利用する場合であれ,ガラス質粉末を原料として
地盤に透水性層を形成するために利用するという点では異ならないのであるから,
先願明細書の記載において透水性層を形成するのがガラス質発泡体であることをも
って審決の前記認定を誤りであるとすることはできず,原告の前記主張は採用する
ことができない。
 (2) 審決が,先願明細書に記載の発明と本願発明とを対比して,前者の「ガラス
廃材」「粉砕」「ガラス質粉末」「原料」は,後者の「ガラス質原料」「破砕」
「細粒化したガラス粒」「資材」にそれぞれ相当すると認定して,両発明は同一で
あると判断した点について
 ア 本願発明の要旨は,「瓶ガラス,板ガラス,あるいは陶磁器などのガラス質
原料を破砕して細粒化したガラス粒からなる透水性地盤改良用資材」である(前記
第2・2参照)。
 これと,先願明細書に記載の発明である「地盤に透水性層を形成するために利用
される原料である,瓶ガラスや板ガラス等のガラス廃材を粉砕したガラス質粉末」
とを対比させると,先願明細書に記載の発明の「瓶ガラスや板ガラス等のガラス廃
材を粉砕したガラス質粉末」は,本願発明の「瓶ガラス,板ガラス,あるいは陶磁
器などのガラス質原料を破砕して細粒化したガラス粒」に相当する。
 そこで,先願明細書に記載の発明の「地盤に透水性層を形成するために利用され
る原料である,・・・ガラス質粉末」が本願発明の「・・・ガラス粒からなる透水
性地盤改良用資材」に相当するか否かについて検討するに,「資材」とは,「ある
物を作るもととなる材料」を意味する用語である(広辞苑第五版)から,先願明細
書に記載の発明の「地盤に透水性層を形成するために利用される原料であ
る,・・・ガラス質粉末」は,本願発明の「・・・ガラス粒からなる透水性地盤改
良用資材」に相当するものと解するべきである。
 イ 以上に対して,原告は,先願明細書に記載の発明においてガラス質粉末自体
の透水性は不明であり,ガラス質粉末を加工して透水性層の形成に利用するのに対
し,本願発明は,細粒化したガラス粒の透水性を利用することに技術的意義がある
のであり,かかる技術的意義の相違を無視し,単に各用語を羅列して対比するの
は,技術的根拠を欠くものであると主張する。
 そこで検討するに,確かに,本願明細書(甲5)の発明の詳細な説明には,「ガ
ラス瓶などの廃棄物は,・・・カレットとして各種の再生原料とするが,このカレ
ットを更に微細に破砕して10数mm~0.042以下の大きさにわたって破砕さ
れたままの形態についてその形状を見ると,・・・比較的鈍角の形状となり,ま
た,適宜分別することにより粒度の揃った細粒とすることが出来る。」(段落【0
008】),「これらのガラス粒は砂と異なり,・・・砂の場合に目詰まりの原因
となるシルトや粘土分を含有しておらず,透水性を要求される用途には好適であ
る。また,これらのガラス粒は溶融して形成されたガラス質の組織のため,組織内
に水分を含まず,表面の濡れ性も乏しいと云う特性があり,層状に堆積した状態で
水分を加えても粒子表面が濡れるのみで粒子の間隙に水分を保持し難く,堆積層の
下部から速やかに排水されると云う特性がある。」(段落【0009】)との記載
がある。すなわち,本願明細書の発明の詳細な説明には,細粒化したガラス粒の透
水性を利用することが記載されている。
 しかし,特許の要件を審理する前提としてされる特許出願に係る発明の要旨の認
定は,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができな
いとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に
照らして明らかであるなど,発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特
段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである(最高裁
昭和62年(行ツ)第3号平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123
頁)。そして,本願明細書の特許請求の範囲の【請求項1】には「瓶ガラス,板ガ
ラス,あるいは陶磁器などのガラス質原料を破砕して細粒化したガラス粒からなる
透水性地盤改良用資材」と記載されているところ,同記載の技術的意義が一義的に
明確に理解することができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であること
が発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情は認めること
ができないから,本願発明の要旨を認定するに当たって発明の詳細な説明の記載を
参酌することは許されないというべきである。
 そこで,前記認定の本願発明の要旨を前提として,原告の前記主張について検討
するに,本願発明においては,ガラス粒をどのように用いて透水性を持たせるかに
ついての限定はないのであるから,本願発明における「ガラス粒からなる透水性地
盤改良用資材」が,ガラス粒をそのままの状態で堆積させて地盤改良に用いるもの
であると限定して解することはできない。したがって,仮に,先願明細書に記載の
発明における「ガラス質粉末」自体に透水性がなく,これを加工することによって
透水層の形成に用いるものであるとしても,この点をもって,本願発明との相違点
ということはできず,審決における本願発明と先願明細書に記載の発明との対比及
び同一性の判断に誤りはなく,原告の前記主張は,採用することができない。
2 結論
 以上のとおり,原告主張の審決取消事由2(特許法29条の2についての対比及
び判断の誤り)は理由がないから,その余について判断するまでもなく,原告の請
求は棄却されるべきである。
  知的財産高等裁判所第4部
        裁判長裁判官
                   塚   原   朋   一
           裁判官
                   田   中   昌   利
           裁判官
                   清   水   知 恵 子

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激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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