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平成28年2月17日判決言渡
平成27年(行コ)第215号各所得税更正処分取消等,各更正の請求拒否通知
処分取消請求控訴事件
主文
1本件各控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人らの負担とする。
第2事案の概要
1本件は,他の出資者らと共に組合契約を締結して民法上の組合を組成した上,
同組合の業務執行者に組合員による出資金及び金融機関からの借入金により
購入した航空機を航空会社に対し賃貸させ,これにより利益を図るという航空
機リース事業に参加していた被控訴人らが,同事業の清算の際に,それぞれ①
上記借入金の一部について,金融機関から債務の免除を受けたことによって得
た経済的利益(以下「本件ローン債務免除益」という。)及び②上記業務執行
者に対して支払うべき手数料の一部について,上記業務執行者から債務の免除
を受けたことによって得た経済的利益(以下「本件手数料免除益」といい,本
件ローン債務免除益と併せて「本件各免除益」という。)が発生したことにつ
いて,それぞれ各処分行政庁から,本件各免除益がいずれも雑所得又は不動産
所得に該当するとして更正処分又は更正をすべき理由がない旨の通知及び過
少申告加算税賦課決定を受けたため,本件各免除益はいずれも一時所得に該当
すると主張して,控訴人に対し,これらの処分の全部又は一部の取消しを求め
た事案である。
原審が被控訴人らの請求をいずれも認容したので,控訴人が各控訴した。
関係法令の定め,前提事実,控訴人が主張する更正等の根拠と適法性並びに
争点及び当事者の主張の要旨については,下記2のとおり原判決を補正し,下
記3のとおり控訴人の当審における主張を加えるほかは,原判決の「事実及び
理由」中の「第2事案の概要」の1ないし4に記載のとおりであるから,こ
れを引用する。
2原判決の補正
(1)原判決4頁8行目から同9行目にかけての「Aの関連会社である」を「A
の関連会社であって,本件について業務執行者として指名された」に改める。
(2)同頁20行目の「BInc.」を「カナダ法人であるBInc.」に改める。
(3)原判決6頁14行目の「平成10年4月24日,」の次に「フランス法
に基づいて設立された金融機関であるCD支店」を加える。
(4)原判決7頁21行目の「平成14年5月頃,」の次に「英国における大
手旅行会社傘下のチャーター便航空会社であるE」を加える。
(5)原判決11頁9行目の「平成19年3月5日,」の次に「Aの子会社で
あるFLimitedに対し,」を加える。
(6)原判決13頁8行目の「原告G通知処分」を「被控訴人H通知処分」に
改める。
3控訴人の当審における主張
(1)本件ローン債務免除益は,不動産所得に該当する。
(2)そもそも所得税法26条の不動産所得には,不動産等の貸付けの対価た
る性質を有するもの又はこれに代わるものに限らず,不動産等の貸付業務の
遂行により生ずべき付随収入も含まれると解すべきである。そして,その具
体的な判断をするに当たっては,本体を成す貸付業務の遂行との関連性の強
さを考慮すべきである。
本件ローン債務免除益の元となる債務の発生原因は,本件航空機を購入す
るために必要となった本件借入金である。本件組合は,本件航空機を貸し付
けることによって本件組合事業を営んでいたのであるから,本件ローン契約
に基づく本件借入金の借入れ(経済的利益)は,本件組合事業(航空機の貸
付業務)を営むに当たり必要不可欠の行為であった。したがって,本件借入
金に係る返済債務は,本件航空機の貸付業務の遂行と密接に関連して発生し
たものであるから,本件ローン債務免除益もまた,不動産等の貸付業務の遂
行と強い関連性が認められる。
また,本件ローン債務免除益のうち,ノン・リコース条項の適用によって
生じた部分(417万4562.71ドル)は,そもそもノン・リコース条
項が本件航空機の売却代金が下落したときのリスクヘッジの手段として設
定されたものであって,本件航空機の売却代金が本件借入金の元本を下回り,
ノン・リコース条項が適用されることによって利益を得る(それ以上の追加
負担を回避する。)ということは,本件組合事業の仕組み上,当然に予定さ
れた結果であるといえる。よって,ノン・リコース条項の適用によって生じ
た経済的利益は,本件組合事業に係る収益構造に不可分一体のものとして組
み込まれていると評価できる。
そして,本件ローン債務免除益のうち,本件ローン債務免除行為によって
生じた部分(300万ドル)についていうならば,本件各組合員は,本件ロ
ーン債務免除行為がされるであろうこと(すなわち,本件ローン債務免除益
を確実に得られるであろうこと)を前提として,本件組合事業の終了(本件
組合の解散)に同意したものであるし,このような同意がなければ,本件融
資銀行も本件ローン債務免除行為をしなかったことが推認される。このよう
に,本件ローン債務免除行為が,本件組合事業(航空機の貸付業務)の終了
という重大な意思決定を行うに当たっての前提事情とされていたことなど
を考慮すれば,本件ローン債務免除行為を本件組合事業から切り離して評価
することは妥当でなく,本件ローン債務免除行為は本件組合事業と密接に関
連してされたものといえる。よって,上記300万ドルの返還債務の免除と
いう経済的利益もまた,不動産等の貸付業務の遂行により生ずべき付随収入
に含まれると解すべきである。
(3)以上のことから,本件ローン債務免除益は,不動産所得に該当するとい
うべきであるから,これを主位的に主張し,雑所得に該当する旨を予備的に
主張することとする。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,被控訴人らの請求をいずれも認容すべきものと判断する。その
理由は,下記2のとおり原判決を補正し,下記3のとおり控訴人の当審におけ
る主張に対する判断を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3当
裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。
2原判決の補正
(1)原判決20頁13行目の「不動産所得,」を削る。
(2)同頁15行目から同16行目にかけての「一時所得に該当するか否か,」
を次のとおり改める。
「不動産所得(控訴人の主位的主張),一時所得(被控訴人らの主張),又は
雑所得(控訴人の予備的主張)のいずれに該当するかが問題となる。雑所得
に該当するためには,不動産所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得
であることが要件となり(所得税法35条1項),一時所得に該当するため
には,除外要件との関係で,不動産所得に該当しないことが要件となること
から(同法34条1項),本件ローン債務免除益については,まず,控訴人
の主位的主張に係る不動産所得に該当するか否かを検討すべきことになる
が,この点については,後記3記載のとおり,不動産所得に該当しないもの
と認められる。次いで,一時所得に該当するか否かについて判断するために
は,」
(3)原判決29頁1行目の「一時所得に該当しないこと」を「不動産所得及
び一時所得のいずれにも該当しない所得であること」に改める。
3控訴人の当審における主張に対する判断
(1)控訴人は,当審において,本件ローン債務免除益についての主張を変更
し,主位的には不動産所得に該当すると主張し,雑所得に当たるとの従前の
主張を予備的なものとした。
(2)この点について,控訴人は,本件各更正処分等に対する不服申立手続に
おいて,本件ローン債務免除益は雑所得に当たるとしてきた(被控訴人I請
求に対して,日野税務署長がした被控訴人I更正処分だけは不動産所得に該
当するとしていたが,その異議申立棄却決定及び審査請求棄却裁決では,雑
所得とされている。)。また,第1審の訴訟手続においても同様であり,原
判決20頁13行目から同15行目まででは,本件ローン債務免除益が不動
産所得以外の所得であることは当事者間に争いがないと判示している。
ところが,控訴人は,当審に至って,主位的主張として本件ローン債務免
除益は不動産所得に該当すると主張を変更したのであるが,理由附記が求め
られる根拠が処分適正化機能と争点明確化機能にあることからすると,この
ような理由の差し替えないし主張の変更が望ましいものでないことは明ら
かである。しかも,控訴審においてそれをするのは,手続保障原則に照らし
ても適切なものとはいい難いというべきである。
他方,最高裁昭和56年7月14日第三小法廷判決・民集35巻5号90
1頁は,明確な留保を付した上ではあるが,理由の差し替えを認めている。
これは,その理由の差し替えを認めても,納税者が課税処分を争うについて
格別の不利益を受けるものではない場合に,新たな主張をすることが許され
るとしたものと解される。本件については,本件ローン債務免除益をめぐる
事実関係に変わりはなく,その所得区分が争われていたところ,被控訴人ら
はこれを一時所得と主張し,控訴人は雑所得と主張していたところ,控訴人
がその主張を主位的に不動産所得に変更するというものであるから,上記判
例に照らすと,このような主張変更が許されないとまではいえない。
また,控訴人は,本件ローン債務免除益が不動産所得に該当しない旨の主
張をしていたものであるが,上記主張が法律の解釈適用についての見解の陳
述であって,法律適用の前提となる事実に関する陳述でないことを考えると,
控訴人の上記主張変更は,裁判上の自白の撤回には当たらないというべきで
ある。
さらに,本件ローン債務免除益をめぐる事実関係に変わりはなく,その所
得区分についての適用法律の解釈ないし見解の変更であって,時機に後れた
攻撃防御方法で訴訟の完結を遅延させることとなるとは認められない。
そこで,以下,控訴人の主位的主張について検討する。
(3)控訴人は,所得税法26条の不動産所得には,不動産等の貸付けの対価
たる性質を有するもの又はこれに代わるものに限らず,不動産等の貸付業務
の遂行により生ずべき付随収入も含まれると主張する。
しかしながら,租税法律主義の原則に照らすと,租税法規はみだりに規定
の文言を離れて解釈すべきものではないというべきところ(最高裁平成22
年3月2日第三小法廷判決・民集64巻2号420頁),同条1項は,「不
動産所得とは,不動産,不動産の上に存する権利,船舶又は航空機の貸付け
による所得をいう。」と定めており,また,所得税法施行令94条1項2号
は,不動産所得を生ずべき業務の全部又は一部の休止,転換又は廃止その他
の事由により当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類
するものについて,その業務の遂行により生ずべき不動産所得に係る収入金
額に代わる性質を有するものは,不動産所得に係る収入金額とすると定めて
いる。これらの規定によれば,不動産所得とは,賃貸人が賃借人に対して一
定の期間,不動産等を使用収益させる対価として受け取る利益又はこれに代
わる性質を有するものと解するのが相当である。
そして,本件ローン債務免除益は,本件融資銀行が本件借入金の残債務を
免除したという本件ローン債務免除行為によって発生したものであるとこ
ろ,本件融資銀行は,本件航空機の賃借人ではなく,本件航空機を使用収益
していたわけではない。確かに,本件ローン契約に基づく本件借入金の借入
れが本件組合事業(航空機の貸付業務)を営むに当たり必要な行為であった
ことは認められるし,本件借入金に係る返済債務が本件航空機の貸付業務の
遂行と関連して発生したということもできるが,本件ローン債務免除益は,
本件組合が行っていた営利を目的とする継続的行為である本件航空機の賃
貸自体によって発生したものではないし,本件航空機を使用収益させる対価
又はこれに代わる性質を有するものでもないから,本件ローン債務免除益を
不動産所得に該当するものということはできない。
また,控訴人は,本件ローン債務免除益のうち417万4562.71ド
ルは,ノン・リコース条項の適用によって生じたと主張し,ノン・リコース
条項の適用によって生じた経済的利益は,本件組合事業に係る収益構造に不
可分一体のものとして組み込まれていると評価できると主張する。しかし,
ノン・リコース条項の適用によって生じる法的効果は,被控訴人ら本件各組
合員が,本件ローン契約によって生じた本件借入金債務の弁済について,そ
の個人財産をもって責任を負わないということである。他方,本件ローン債
務免除行為は,本件組合が本件融資銀行に対して負っていた債務を免れさせ
るものであるから,本件ローン債務免除益がノン・リコース条項の適用と直
接に結び付いているわけではない。したがって,このことを理由に上記41
7万4562.71ドルに係る免除益が不動産所得に該当するといえるもの
ではない。
(4)よって,控訴人の上記主張は採用できない。
4以上のとおりであるから,当裁判所の上記判断と同旨の原判決は相当であっ
て,本件各控訴はいずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第12民事部
裁判長裁判官杉原則彦
裁判官山口均
裁判官渡邉和義

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