弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
         理    由
 本件抗告理由は次のとおりである。
 一 本件競売申立債権者Aの抗告人に対する債権額は金千万円で、これに先立つ
債権は順位第一番の抵当権により担保せられる中小企業金融公庫の抗告人に対する
元利金五百四十万円の貸金で右合計千五、六百万円の債権に対し本件競売目的物件
の最低競売価額は合計金二千百二十八万三千円である。よつて本件競売物件を個々
に競売すれば順位第一番及び競売申立債権者の弁済に充当して余剰を生ずる筈であ
る。然るにこれを一括競売に付したのは違法である。
 二 本件競売の競売期日の公告には民事訴訟法第六五八条第五号所定事項の執行
吏の氏名の記載を欠いている。よつて民事訴訟法第六七二条第四号に当るから原決
定は取消さるべきものである、というにある。
 右に対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 抗告理由第一点について、記録に徴すると本件競売手続においては昭和三十八年
五月二十二日本件競売不動産の最低競売価額を二千百二十八万三千円として競売期
日の公告があり、右競売期日の公告に基いて同年六月十四日不動産を一括競売に付
されたところ東日出光が右不動産を最高価二千二百五十万一千円にて競買の申出を
なし、同月十八日同人に競落許可決定が言渡されたことが明かである。しかるとこ
ろ記録中の本件各不動産登記簿謄本(五〇丁ないし八五丁)によると、本件各不動
産を共同担保として中小企業金融公庫が金五百万円の貸金債権につき第一順位の抵
当権を、本件競売申立人Aが千万円を元本極度額とする手形貸付等の債権につき第
二順位の根抵当権を、株式会社日本商興が金五百万円を元本極度額とする手形割引
債権につき第三順位の根抵当権を、Bが元本極度額五百万円の手形貸付等債権につ
き第四順位の根抵当を有していることが認められる。従つて右抵当債権を合算すれ
ば元本のみで本件競売不動産全部の最低競売価額を超えることが明白である。され
ば競売裁判所が右不動産を一括競売に付したことは適当であつて抗告人主張の如き
違法はない。 抗告理由第二点について、記録に徴すると本件競売のなされた昭和
三十八年六月十四日の競売期日公告には競売を為すべき執行吏の氏名の記載がない
ことは明らかで、右は競売法第二九条、民事訴訟法第六五八条第五<要旨>号の要件
を満していないものというべきである。しかし右民訴法第六五八条第五号に具備す
べき要件として規定する、「競売期日の場所、日時及び競売を為すべき執行
吏の氏名並に住所」のうち執行吏の氏名並に住所だけを欠いても競売期日の公告は
有効と解するのが相当である。蓋し同条第五号に所謂「競売期日の場所、日時」を
欠くときは競買の申出を為そうとする一般公衆竝に利害関係人に対して競売の期日
の公告を欠くに等しい結果となるのみならず、利害関係人は競売期日に出頭するこ
とを得ない結果(民訴法六五八条十号参照)その権利の行使を妨げられること勿論
であるが、「競売を為すべき執行吏の氏名並に住所」については、そもそも競売期
日は執行吏によつて開かれることは法律の規定するところであり(民訴法六五九条
二項)而も執行吏の職務執行の区域は所属地方裁判所の管轄区域とされているので
あるから(執行吏等手続規則三条)、競売を為すべき執行吏は当該競売裁判所所属
の執行吏であることは自明のことであつて、その「氏名住所」を誤り乃至は誤つて
之を掲げないこと自体は何等手続の公正を妨げず又競買の申出を為そうとする者又
は利害関係人に対し何等不利益乃至損害を与えることがない(民訴六八〇条一項参
照)点に鑑みれば、「執行吏の氏名竝に住所」は「期日の場所、日時」とは異な
り、期日の公告に欠くべからざる木質的なものとは考えられないからである。従つ
て此は民訴法六七二条四号による異議の理由乃至同法六八一条二項による抗告の理
由ともなり得ないと解すべきである。従つて此点の抗告人の主張も亦理由ないもの
である。
 以上の次第で本件抗告を棄却すべきものと認め主文のとおり決定する。
 (裁判長判事 鈴木忠一 判事 谷口茂栄 判事 加藤隆司)

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