弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主    文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
 主文同旨
2 被控訴人
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は,控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
 1本件は,被控訴人が,控訴人との間の連帯保証契約に基づく主債務残元金2
45万円及び消費貸借契約に基づく残元金60万円合計305万円の支払を,
連帯保証人及び借主である控訴人に対して求めた事案である。その概要は,当
審における控訴人の主張を2項のとおり付加するほか,原判決「事実及び理
由」欄の「第2 事案の概要」の項に記載するとおりであるから,これを引用
する(ただし,1頁23行目から同24行目にかけて及び2頁2行目の「,利
息及び遅延損害金はなし」をそれぞれ削除する。なお,略称については,本件
貸金(1)に係る契約を「本件消費貸借契約」,本件保証債務に係る契約を「本件
保証契約」,両者を併せて「本件各契約」というほか,原判決の表示に従
う。)。
 2 当審における控訴人の主張(抗弁)
 被控訴人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業規制法」とい
う。)3条に定める登録を受けないで貸金業を営んでいる者であり,その貸付
け内容は,多重債務者らの窮迫・軽率に乗じて,「トイチ」といわれる10日
に1割という極めて高利の利息を徴求し,実質利率は更にその数倍に上るとい
うものである。本件各契約も多重債務者である控訴人の窮迫・軽率に乗じて,
それぞれその利息について,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関す
る法律(以下「出資法」という。)5条2項に定める上限金利年29.5パー
セントをはるかに超える月1割という高金利が定められているから,犯罪行為
であることは明らかである。したがって,控訴人と被控訴人との間の本件各契
約は,いずれも公序良俗に違反する契約として無効というべきである。
第3 当裁判所の判断
1 本件各契約の成立については,当事者間に争いがない。
2 そこで,本件各契約がいずれも公序良俗に違反する契約として無効である,
との当審における控訴人の主張(抗弁)の当否について判断する。
 (1) 証拠(各項の末尾に記載のもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が
認められる(当裁判所に顕著な事実及び争いのない事実を含む。)。証拠
(原審証人A)中,この認定に反する部分は,同証人が後記認定事実及び証
拠(乙6)から明らかなように,出資法に違反する違法行為を重ねてきた者
であることからすると,到底信用できない。
 ア 被控訴人は,貸金業規制法3条1項が定める登録を受けないで貸金業を
営んでいる者である。Aは,平成14年1月12日被控訴人と離婚した
が,その後本件各契約当時においても被控訴人と同居中であり,被控訴人
が貸金に関する借用書を作成する際や弁済金を受領する際に立ち会った
り,さらには被控訴人に代わって弁済金を受領するなどして被控訴人の無
登録貸金業に加担していた。他方,控訴人は,難聴を患う,昭和9年生ま
れの本件各契約当時68歳という老齢であり,貸金業者であるEからの借
受金債務約400万円を初めとして多くの債務を負っていた(甲6,乙
6,原審証人A,原審控訴人本人)。
 イ 平成14年8月29日の本件貸金(1)以前に,控訴人は,BやAから,
「控訴人の借金をBが全部払うから借りてあげてよ。組織の金が入ったら
返す」などといわれたので,これを信用し,被控訴人との間で,本件貸
金(1)の債務につき本件保証契約を締結するに至った。その際,BやAの立
会のもとで作成された金銭消費貸借契約証書(甲2)の利息の利率欄は白
地のままであったが,被控訴人から控訴人らに対して月1割の利息が要求
されたので,その旨合意された。そこで,同日,利息として35万円の天
引き後,残金315万円がBに交付され,これをBとAが分け合った。ま
た,控訴人は,Aらからいわれるがままに,被控訴人に対し,所有土地を
担保として提供し,不履行の際には被控訴人に対してこれを譲渡する旨を
記載した覚書(甲4),同土地の登記済証,実印が押印された白紙委任状
(甲5)及び印鑑登録証明書(甲3の2)を交付したばかりでなく,控訴
人の夫が所有する不動産の登記済証,同人の印鑑登録証明書,委任状等を
交付した(甲2,3の2,4,5,乙5,原審控訴人)。
 ウ 同年10月29日,控訴人は,BやAから,本件貸金(1)の10月分の利
息35万円が払えないので,被控訴人から150万円を借りて欲しい旨言
われていたので,被控訴人から本件貸金(2)である150万円を借り受け
た。その際,本件貸金(1)と同様に,Aの立会のもとで作成された金銭消費
貸借契約証書(甲1)の利息の利率欄は白地のままであったが,被控訴人
から控訴人に対して月1割の利息が要求されたので,その旨合意された。
そこで,同日,利息として15万円の天引き後,残金135万円のうち3
5万円が本件貸金(1)の利息の支払いに充当され,100万円が同年9月2
6日に被控訴人が控訴人に対して貸し付けた100万円(以下「別件貸
金」という。)の支払いに充当された。(甲1,7,原審証人A,原審控
訴人本人)。
 エ 原判決添付の別表の「当事者間に争いがない弁済」欄記載の弁済額及び
充当先は,当事者間に争いがない。これに関して,被控訴人は,平成15
年8月7日付け支払督促申立書において,本件貸金(1)及び本件貸金(2)に
対する弁済は合計75万円であった旨主張し,さらに,督促異議手続にお
ける訴状に代わる準備書面においても,上記一覧表番号11ないし16に
記載の弁済のみを主張していた。そして,控訴人は,このほかにも,平成
14年11月20日に返済として130万円をBを通じてAに交付した
が,Aは,これは控訴人,C,D及びBらの小口の借入れに対する弁済と
して受領した旨説明する。(原審証人A,原審控訴人本人)。
 オ 被控訴人は,貸金業を営むにおいて帳簿を作成しておらず,本件貸金(1)
及び本件貸金(2)に関しても同様であり,それぞれの上記契約書を入れてい
る封筒に各弁済の日付と金額がメモ書きされているにすぎない。また,上
記の弁済金についても,被控訴人は,控訴人にその受領書を一切交付しな
かった(甲8の1,2,原審証人A,原審控訴人本人)。
   なお,控訴人が,原審において,本件貸金(1)及び本件貸金(2)には利息の
割合及び利息の支払期なしとの被控訴人の主張をいずれも認める旨の陳述を
していることは明らかである。しかし,これは,被控訴人の請求が貸金元金
に限定されていたことから,あえて争わなかったにすぎないものと解される
が,そもそも上記利息に関する被控訴人の主張事実は,本訴請求においては
いうまでもなく間接事実にすぎないから,その「認める」旨の陳述をもっ
て,上記利息に関する被控訴人の主張事実について,いわゆる自白の拘束力
が生じるものでないことは当然である。したがって,当裁判所が上記のとお
り認定することに何ら問題はない。
 (2) ところで,本件のような,貸金業規制法3条1項に定める登録を受けない
貸金業者が行う出資法違反の高金利による貸金問題である,いわゆる「闇金
融」を巡っては,平成9年から10年にかけては中小零細事業者等を対象に
したいわゆる「システム金融」の問題が,また,平成13年から14年にか
けては一般消費者を対象にして10日で2ないし3割という違法金利で貸し
付けするいわゆる「都イチ金融」の問題や電柱の張り紙などに掲載した携帯
電話で融資の受付を行ういわゆる「090金融」の問題がそれぞれ発生し,
その結果,これらの被害者である多重債務者の自殺,あるいは多重債務者に
よる返済目的の財産犯罪の多発など大きな社会問題となったことは,当裁判
所に顕著である。これらの問題を受けて,その間の平成11年法155号に
よる改正で,出資法5条の高金利の処罰規定における金利は,「40.00
4パーセント」から「29.2パーセント」に引き下げられたが,これらの
問題が改善された兆しは認められなかった。そこで,平成15年7月25日
に成立した平成15年法136号は,新たに貸金業規制法42条の2の規定
を設けて,貸金業を営む者が業として行う金銭消費貸借契約において,原則
年109.5パーセントを超える利息の契約をしたときは,当該消費貸借契
約は無効としたほか,出資法5条の高金利の処罰規定の法定刑を「3年以下
の懲役若しくは300万円以下の罰金又はこれの併科」から「5年以下の懲
役若しくは1000万円以下の罰金又はこれの併科」へ,また,貸金業規制
法47条の無登録営業等に対する法定刑を「3年以下の懲役若しくは300
万円以下の罰金又はこれの併科」から「5年以下の懲役若しくは1000万
円以下の罰金又はこれの併科」へなどと引き上げたのである。他方,本件貸
金(1)及び本件貸金(2)の利息の約定は月1割であるから,その年利率は12
0パーセントになるが,いずれも貸付時において天引きがされているから,
結局,天引き後の金額を元金とする実質年利率が133.3パーセントを超
えることは計算上明らかである。この利率が,出資法5条2項が定める貸金
業者に対して刑事罰が科される上記金利年29.2パーセントをはるかに超
え,さらに同条1項が定める何人に対しても刑事罰が科される上限金利年1
09.8パーセントをも超えるものであることはいうまでもない。したがっ
て,被控訴人が上記無登録者として営む貸金業の一つである本件貸金(1)及び
本件貸金(2)は,いずれも上記改正前の行為であっても,その約11か月から
9か月前という時期からして,極めて違法性の高い犯罪行為であることに変
わりはないことになる。このような出資法違反の貸金行為は,上記のような
「闇金融」を巡る問題状況,特にそれによって引き起こされた数々の大きな
社会問題が上記平成15年法136号による改正の前後を問わずに変わりな
いことからすると,もはやそのこと自体でもって,既に公序良俗に反する行
為といっても過言ではないといわなければならない。
   これに加えて,上記認定のとおり,本件各契約当時,控訴人は老齢で難聴
の障害を持っていたこと,本件各契約は,多重債務で困っていた控訴人がB
やAの甘い言葉を簡単に信用した結果であること,特に,本件保証契約に際
し,安易に登記済証,印鑑登録証明書,白紙委任状等の重要書類を交付して
いることなどからすると,控訴人に,金銭消費貸借契約に関する知識,高金
利の借入れや連帯保証が持つ危険性に対する認識を著しく欠いていることは
明らかである。そして,控訴人は,本件各契約により現金を何ら取得したも
のではないことがうかがえる。これに対し,上記認定のとおり,被控訴人
は,控訴人との間で複数の貸付けや連帯保証を併存させているが,本件各契
約を含めてこれらについて帳簿等の記録を残していないばかりでなく,控訴
人に対し,本件各契約の詳細な契約書や弁済金に関する受取証書を一切交付
していないのである。その結果,上記認定からも明らかなように,本件各契
約の内容や弁済の経過は極めて不明確なものとなっているため,控訴人は,
自らの本件各契約の債務残額や弁済の充当関係などを的確に認識することが
できず,被控訴人から指示されるままに借入れと返済を繰り返していたこと
がうかがわれる。その意味で,上記認定のAが本件各契約で果たした役割や
控訴人とAとの関係からすると,被控訴人は,Aとともに,むしろこのよう
な不明朗な貸付け状況や控訴人の知識の乏しさに乗じて,違法な高金利によ
る利益を得ようとしていたものと推認するのが相当である。
   結局,以上を総合すると,被控訴人が,控訴人の窮迫,無思慮に乗じて犯
罪行為に該当する本件各契約を成立させたことは明らかであるから,本件各
契約は,公序良俗に反する契約として無効である,といわなければならな
い。
3 結論
以上のとおり,被控訴人の本件各契約に基づく本訴請求は,本件各契約が無
効である以上,その余の点を判断するまでもなく,いずれも理由がないことに
帰するので,これらを棄却するのが相当である。
よって,被控訴人の本訴請求を認容した原判決を取り消し,被控訴人の本訴
請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
  福岡高等裁判所第5民事部
  裁判長裁判官   中  山  弘  幸
裁判官   岩  木     宰
裁判官   伊  丹     恭

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛