弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主      文
            原告の請求をいずれも棄却する。
            訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
(請求の趣旨)
1 第1事件
(1) 被告が平成12年9月28日付けでした東京都青少年の健全な育成に関する条
例8条の規定に基づき原告の発行に係る雑誌「DOS/V USER(ドスブイ・ユ
ーザー)」(DVD&CD-ROM付き雑誌)平成12年9月号及び「遊ぶインターネ
ット」(DVD&CD-ROM付き雑誌)平成12年10月号を青少年にとって不健全
な図書類として指定した処分を取り消す。
(2) 被告が平成12年11月2日付けでした東京都青少年の健全な育成に関する条
例8条の規定に基づき原告の発行に係る雑誌「DOS/V USER(ドスブイ・ユ
ーザー)」(CD-ROM付き雑誌)平成12年10月号及び「遊ぶインターネット」
(DVD&CD-ROM付き雑誌)平成12年11月号を青少年にとって不健全な図書
類として指定した処分を取り消す。
2 第2事件
 被告が平成12年12月1日付けでした東京都青少年の健全な育成に関する条例
8条の規定に基づき原告の発行に係る雑誌「DOS/V USER(ドスブイ・ユー
ザー)」(CD-ROM付き雑誌)平成12年11月号及び「遊ぶインターネット」
(CD-ROM付き雑誌)平成12年12月号を青少年にとって不健全な図書類として
指定した処分を取り消す。
3 第3事件
 被告が平成12年12月21日付けでした東京都青少年の健全な育成に関する条例
8条の規定に基づき原告の発行に係る雑誌「DOS/V USER(ドスブイ・ユー
ザー)」(CD-ROM付き雑誌)平成12年12月号及び「遊ぶインターネット」
(DVD&CD-ROM付き雑誌)平成13年1月号を青少年にとって不健全な図書類
として指定した処分を取り消す。
(被告の答弁)
1 本案前の答弁
本件訴えをいずれも却下する。
2 本案の答弁
 主文第1項と同旨
第2 事案の概要
 本件は,被告が,原告の発行に係る雑誌「DOS/V USER(ドスブ
イ・ユーザー)」及び「遊ぶインターネット」(いずれも,DVDとCD-ROM
又はCD-ROM付き)について,東京都青少年の健全な育成に関する条例8条の規
定に基づき,青少年にとって不健全な図書類として指定したことに対し,原告が,
上記条例の規定は憲法21条1項等に反して違憲であり,また,上記指定はその手続に
瑕疵があり違法であるなどと主張して,上記指定の取消しを求めている事案であ
る。
1 法令等の定め
(1) 東京都青少年の健全な育成に関する条例(昭和39年東京都条例第181号。
ただし,平成13年3月30日条例第30号による改正前のもの。以下「都青少年条例」と
いう。)の定め
ア 条例の目的
 この条例は,青少年の環境の整備を助長するとともに,青少年の福祉を
阻害するおそれのある行為を防止し,もって青少年の健全な育成を図ることを目的
とする(1条)。
イ 図書類の定義
 都青少年条例において,図書類とは,販売若しくは頒布又は閲覧若しく
は観覧に供する目的をもって作成された書籍,雑誌,文書,図画,写真,ビデオテ
ープ及びビデオディスク並びにコンピュータ用のプログラム又はデータを記録した
シー・ディー・ロムその他の電磁的方法による記録媒体並びに映写用の映画フィル
ム及びスライドフィルムをいう(2条2号)。
ウ 図書類等の販売等の自主規制
 図書類の発行,販売又は貸付けを業とする者は,図書類の内容が,青少
年に対し,性的感情を刺激し,又は残虐性を助長し,青少年の健全な成長を阻害す
るおそれがあると認めるときは,相互に協力し,緊密な連絡の下に,当該図書類を
青少年に販売し,頒布し,若しくは貸し付け,又は観覧させないように努めなけれ
ばならない(7条)。
エ 不健全な図書類の指定
 知事は,「販売され若しくは頒布され,または閲覧若しくは観覧に供さ
れている図書類又は映画等で,その内容が,青少年に対し,著しく性的感情を刺激
し,またははなはだしく残虐性を助長し,青少年の健全な成長を阻害するおそれが
あると認められるもの」を,青少年の健全な育成を阻害するものとして指定するこ
とができる(8条1項1号)。
 上記の指定は,指定するものの名称,指定の理由その他必要な事項を告
示することによってこれを行わなければならず(同条2項),知事は,上記の指定を
したときは,直ちに関係者にこの旨を周知しなければならない(同条3項)。
オ 不健全な図書類の指定の手続
 知事は,上記の指定をしようとするときは,東京都青少年健全育成審議
会(以下「都審議会」という。)の意見を聞かなければならない(15条1項)。
 また,知事は,都審議会の意見を聞く場合において,都青少年条例7条に
規定する自主規制を行っている団体があるときは,必要に応じ,当該団体の意見を
聞かなければならない(同条2項)。
カ 不健全な図書類の指定の効果
a 図書類の販売又は貸付けを業とする者及びその代理人,使用人その他
の従業者並びに営業に関して図書類を頒布する者及びその代理人,使用人その他の
従業者(以下「販売業者等」という。)は,都青少年条例8条の規定により知事が指定
した図書類(以下「指定図書類」という。)を青少年に販売し,頒布し,又は貸し付
けてはならない(9条1項)。
また,何人も,青少年に指定図書類を閲覧させ,又は観覧させないよ
うに努めなければならない(同条2項)。
bそして,9条1項の規定に違反して青少年に指定図書類を販売し,頒布
し,又は貸し付けた者に対し,都青少年条例17条所定の関係公務員は,警告を発す
ることができ(18条1項1号,2項),上記の警告に従わず,なお,都青少年条例9条1項
の規定に違反した者は,30万円以下の罰金又は科料に処せられる(25条)。
(2) 「東京都青少年の健全な育成に関する条例第5条,第8条及び第14条の規定
に関する認定基準」(昭和39年総青健第29号知事決定。ただし,平成13年生都協青
第第199号知事決定による改正前のもの。以下「都認定基準」という。)の定め
    第2「第8条による指定に関する認定基準」において,都青少年条例8条1項
1号の規定する「著しく性的感情を刺激する」と認められるものとは,原則として次
のとおりとする。
ア 図書類(ビデオテープ及びビデオディスク並びにコンピュータ用のプロ
グラム又はデータを記録したシー・ディー・ロムその他の電磁的方法による記録媒
体を除く。)の指定に関する認定基準(同基準第2(1))
(ア) 男女の肉体の全部又は一部を露骨に表現し,卑わいな感じを与える
もの
(イ) 性的行為を露骨に表現し,又は容易に連想させ,卑わいな感じを与
えるもの
(ウ) 医学的,民俗学的その他学術的内容であっても,性に関する描写,
表現が青少年に対し性的劣情を刺激するもの
(エ) 前記のほか,素材,描写,表現等が前記(ア)から(ウ)までと同程度
に卑わいな感じを与えるもの
イ コンピュータ用のプログラム又はデータを記録したシー・ディー・ロム
その他の電磁的方法による記録媒体の指定に関する認定基準(同基準第2(3))
(ア) 男女の肉体の全部又は一部を露骨に表現し,卑わいな感じを与える
もの
(イ) 動作が性的行為を露骨に表現し,若しくは容易に連想させ,卑わい
な感じを与えるもの又はせりふ,説明,口上,歌曲等言語が著しく卑わいな感じを
与えるもの
(ウ) 記録されたプログラムを実行することにより,擬似的に著しく卑わ
いな体験をさせるもの
(エ) 医学的,民俗学的その他学術的内容であっても,性に関する描写,
表現が青少年に対し,性的劣情を刺激するもの
(オ) 前記のほか,素材,描写,表現等が前記(ア)から(エ)までと同程度
に卑わいな感じを与えるもの
(3) 東京都行政手続条例(平成6年東京都条例第142号。以下「都行政手続条
例」という。)の定め
ア 不利益処分の定義
 都行政手続条例において,不利益処分とは,行政庁が,条例等に基づ
き,特定の者を名あて人として,直接に,これに義務を課し,又はその権利を制限
する処分をいう(2条1項4号)。
イ 不利益処分をしようとする場合の手続
 行政庁は,不利益処分をしようとする場合には,不利益処分の内容等に
従い,都行政手続条例第3章の定めるところにより,当該不利益処分の名あて人とな
るべき者について,13条1項1号のイないしハのいずれかに該当するときは聴聞によ
る,同項1号イないしハのいずれにも該当しないときは弁明の機会の付与による,意
見陳述のための手続を執らなければならならない(13条1項)。
ウ 不利益処分の理由の提示
 行政庁は,不利益処分をする場合には,原則として,その名あて人に対
し,同時に,当該不利益処分の理由を示さなければならず(14条1項),また,不利
益処分を書面でするときは,上記理由は,書面により示さなければならない(同条
3項)。
2 前提となる事実
(1) 当事者
  原告は,雑誌の編集・発行等を目的とする株式会社である。
(争いのない事実)
(2) 「DOS/V USER」及び「遊ぶインターネット」について
ア 「DOS/V USER」は,原告が平成5年4月から発行している月刊
誌であり,その発行部数は約23万部である。
(甲11)
 ページ数は表紙等を含めて約210ページであり,その内容は,紙面の大部
分がパソコン関連の情報及び広告であり,付録としてCD-ROMが2枚付いている
(ただし,そのうちの1枚がDVDである場合もある)。
(争いのない事実)
イ 「遊ぶインターネット」は,原告が平成7年2月から発行している月刊誌
であり(ただし,平成12年4月号までは,雑誌名が「遊ぶWindows」であっ
た。),その発行部数は約10万部である。
(甲11)
 ページ数は表紙等を含めて約90ページである。その内容は,「DOS/
V USER」とほぼ同様であり,付録としてCD-ROMとDVDが付いている
(ただし,CD-ROMだけの場合もある)。
(争いのない事実)
(3) 本件における不健全な図書類の指定
ア 平成12年9月28日付けの不健全な図書類の指定(以下「本件指定1」とい
う。)について
a 被告は,平成12年9月18日,出版倫理協議会(社団法人日本書籍出版協
会,社団法人日本雑誌協会,社団法人日本出版取次協会及び日本書店商業組合連合
会により構成されている。)加盟社に,首都圏新聞即売懇談会,東京都古書籍商業
協同組合及び東京都貸本組合連合会の加盟社を加えた都青少年条例7条に規定する自
主規制団体(以下「本件自主規制団体」という。)との間で,都青少年条例15条2項の
規定に基づき,諮問候補図書類に関する打合せ会(以下「打合せ会」という。)を
行った。
  本件自主規制団体は,上記打合せ会において,被告に対し,「DOS
/V USER」平成12年9月号(以下「本件図書1」という。)及び「遊ぶインタ
ーネット」平成12年10月号(以下「本件図書2」という。)を都審議会への諮問候補
誌とされたい旨の意見を述べた。
(弁論の全趣旨)
b 被告は,同年9月21日,上記aの意見を踏まえ,都審議会に対し,都青
少年条例15条1項の規定に基づき,本件図書1及び本件図書2を同条例8条1項に規定す
る不健全な図書類に指定すべきか否かについて諮問した。
  そして,都審議会は,同日,被告に対し,本件図書1及び本件図書2を
不健全な図書類に指定することが適当である旨を答申した。
(争いのない事実)
c 被告は,同月28日,上記bの答申を受け,都青少年条例8条1項及び2項
の規定に基づき,東京都公報に登載するという方法で告示することにより,本件図
書1及び本件図書2を同条1項に規定する不健全な図書類に指定した。
  告示された指定の理由は,上記各図書のいずれについても,「著しく
性的感情を刺激し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがある。」というもので
あった。
(争いのない事実)
d 被告は,同日付けで,都青少年条例8条3項の規定に基づき,本件指定
1で指定された指定図書類の発行所等(原告を含む。),新刊書店,古書店,雑誌委
託販売店(コンビニエンスストア),ブックレンタル店,雑誌自動販売業者,学校及
び他道府県区市町村等の関係団体等(以下,これらを併せて「関係者」という。)1万
3316名に対し,郵便により本件指定1がされたことを周知した。
(争いのない事実)
イ 平成12年11月2日付けの不健全な図書類の指定(以下「本件指定2」とい
う。)について
a 被告は,平成12年10月23日,本件自主規制団体との間で,都青少年条
例15条2項の規定に基づき,打合せ会を行った。
  本件自主規制団体は,上記打合せ会において,被告に対し,「DOS
/V USER」平成12年10月号(以下「本件図書3」という。)及び「遊ぶインタ
ーネット」平成12年11月号(以下「本件図書4」という。)を都審議会への諮問候補
誌とされたい旨の意見を述べた。
(弁論の全趣旨)
b 被告は,同年10月26日,上記aの意見を踏まえ,都審議会に対し,都
青少年条例15条1項の規定に基づき,本件図書3及び本件図書4を同条例8条1項に規定
する不健全な図書類に指定すべきか否かについて諮問した。
  そして,都審議会は,同日,被告に対し,本件図書3及び本件図書4を
不健全な図書類に指定することが適当である旨を答申した。
(争いのない事実)
c 被告は,同年11月2日,上記bの答申を受け,都青少年条例8条1項及び
2項の規定に基づき,東京都公報に登載するという方法で告示することにより,本件
図書3及び本件図書4を同条1項に規定する不健全な図書類に指定した。
  告示された指定の理由は,上記各図書のいずれについても,「著しく
性的感情を刺激し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがある。」というもので
あった。
(争いのない事実)
d 被告は,同日付けで,都青少年条例8条3項の規定に基づき,本件指定
2に係る関係者1万3267名に対し,郵便により本件指定2がされたことを周知した。
(争いのない事実)
ウ 平成12年12月1日付けの不健全な図書類の指定(以下「本件指定3」とい
う。)について
a 被告は,平成12年11月20日,本件自主規制団体との間で,都青少年条
例15条2項の規定に基づき,打合せ会を行った。
  本件自主規制団体は,上記打合せ会において,被告に対し,「DOS
/V USER」平成12年11月号(以下「本件図書5」という。)及び「遊ぶインタ
ーネット」平成12年12月号(以下「本件図書6」という。)を都審議会への諮問候補
誌とされたい旨の意見を述べた。
(弁論の全趣旨)
b 被告は,同年11月24日,上記aの意見を踏まえ,都審議会に対し,都
青少年条例15条1項の規定に基づき,本件図書5及び本件図書6を同条例8条1項に規定
する不健全な図書類に指定すべきか否かについて諮問した。
  そして,都審議会は,同日,被告に対し,本件図書5及び本件図書6を
不健全な図書類に指定することが適当である旨を答申した。
(争いのない事実)
c 被告は,同年12月1日,上記bの答申を受け,都青少年条例8条1項及び
2項の規定に基づき,東京都公報に登載するという方法で告示することにより,本件
図書5及び本件図書6を同条1項に規定する不健全な図書類に指定した。
  告示された指定の理由は,上記各図書のいずれについても,「著しく
性的感情を刺激し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがある。」というもので
あった。
(争いのない事実)
d 被告は,同日付けで,都青少年条例8条3項の規定に基づき,本件指定
3に係る関係者1万3208名に対し,郵便により本件指定3がされたことを周知した。
(争いのない事実)
エ 平成12年12月21日付けの不健全な図書類の指定(以下「本件指定4」とい
い,本件指定1ないし本件指定4を併せて「本件各指定」という。)について
a 被告は,平成12年12月13日,本件自主規制団体との間で,都青少年条
例15条2項の規定に基づき,打合せ会を行った。
  本件自主規制団体は,上記打合せ会において,被告に対し,「DOS
/V USER」平成12年12月号(以下「本件図書7」という。)及び「遊ぶインタ
ーネット」平成13年1月号(以下「本件図書8」といい,本件図書1ないし8を併せて
「本件各図書」という。)を都審議会への諮問候補誌とされたい旨の意見を述べ
た。
(弁論の全趣旨)
b 被告は,平成12年12月14日,上記aの意見を踏まえ,都審議会に対
し,都青少年条例15条1項の規定に基づき,本件図書7及び本件図書8を同条例8条1項
に規定する不健全な図書類に指定すべきか否かについて諮問した。
  そして,都審議会は,同日,被告に対し,本件図書7及び本件図書8を
不健全な図書類に指定することが適当である旨を答申した。
(争いのない事実)
c 被告は,同月21日,上記bの答申を受け,都青少年条例8条1項及び2項
の規定に基づき,東京都公報に登載するという方法で告示することにより,本件図
書7及び本件図書8を同条1項に規定する不健全な図書類に指定した。
  告示された指定の理由は,上記各図書のいずれについても,「著しく
性的感情を刺激し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがある。」というもので
あった。
(争いのない事実)
d 被告は,同日付けで,都青少年条例8条3項の規定に基づき,本件指定
4に係る関係者1万3160名に対し,郵便により本件指定4がされたことを周知した。
(争いのない事実)
(4) その後の原告の対応
 出版倫理協議会の「出版倫理協議会の自主規制についての申し合わせ」
は,都青少年条例8条1項の規定に基づく指定を連続3回受けた雑誌については,発行
者において,その次の号から,「18歳未満の方々には販売できません」という字句
を印刷した,幅3センチメートル以上5センチメートル未満の薄いブルー又はグリー
ンの帯紙を付けることとし,帯紙のないものについては,取次店は取り扱わないこ
ととする,また,取次店は上記帯紙のついた第1回目の現品を小売店に送品するに当
たり,定期部数を再確認するため必要部数の申し込みを受けることとし,申し込み
のない小売書店への送品は一切行わないこととすると定めている。 
(争いのない事実)
 「DOS/V USER」及び「遊ぶインターネット」は,本件指定1ない
し本件指定3により,連続3回の指定を受けたため,原告は,平成12年12月1日付け
で,出版倫理協議会から,上記の各雑誌について,上記申し合わせのとおり取り扱
う旨の通知を受けた。
(争いのない事実)
 そこで,原告は,「DOS/V USER」及び「遊ぶインターネット」
について,取次店を通さずに読者へ直接販売することとし,「DOS/V USE
R」平成13年1月号に,その旨を掲載した。
(甲2の5,証人大串)
3 当事者の主張
(原告の主張)
(1) 被告の本案前の主張について
ア 都青少年条例8条の規定により不健全な図書類の指定を受けると,同条例
9条1項により,販売業者等が,東京都において,青少年に対し,当該指定図書類を
販売又は貸付けすること等を禁止されるものであるから,本件各指定が,行政事件
訴訟法3条2項の規定する処分に当たることは明らかである。
イa これに対し,被告は,本件各指定は,本件各図書を不健全な図書類と
して指定し告示したものであって,特定の個人に対して向けられたものではなく,
不特定多数人を対象とする一般処分にすぎないので,抗告訴訟の対象となる行政処
分にはあたらない旨主張する。
  しかし,本件訴訟は,都青少年条例8条1項に規定する不健全な図書類
の定義規定あるいは都認定基準の制定という,法規範の定立行為の取消しを求めて
いるのではない。被告が,原告に対し,上記アのとおり本件各図書を青少年に対し
販売すること等を禁止した,都青少年条例8条1項の規定や都認定基準に基づいて行
われた被告の処分の取消しを求めているのである。
b また,被告は,本件各指定が特定の個人に向けられたものでないこと
は,同条例8条3項の規定が,不健全な図書類を指定したときは直ちに関係者に周知
しなければならないと規定していることからも明らかであると主張する。
  しかし,上記規定が「周知」しなければならないとしたのは,既に出
版・販売後の雑誌を対象としていることから,処分の効果を十全ならしめるための
伝達手段として定められているだけのことであって,本件各指定に処分性がないこ
とを裏付けるものではない。
c さらに,被告は,最高裁平成11年12月14日第三小法廷判決・裁判所時
報1258号1頁が,宮崎県における青少年の健全な育成に関する条例(以下「宮崎県青
少年条例」という。)に基づく有害な図書類の指定が処分性を有することを前提と
していることについて,宮崎県青少年条例と都青少年条例の違いを指摘したうえ,
都青少年条例は,不健全な図書類の指定については,同条例18条1項1号,2号による
関係公務員の警告に従わなかった場合の刑事手続によってのみその不服を争わせる
という立法政策をとったものである旨主張する。
  しかし,宮崎県青少年条例にも刑罰の定めはあるのであるから,被告
の主張によれば,宮崎県青少年条例においても,刑罰の発動を待って不服を争わせ
れば足り,抗告訴訟は認められないとの結論になったはずであるところ,最高裁は
そのようには判断せず,訴えを却下しなかったものである。
  確かに都青少年条例は,指定と刑罰の間に関係公務員からの警告とい
う手続を定めているが,それによって,なぜ都青少年条例の場合だけ,刑事手続に
よってのみ不服を争うべきだということになるのか不明である。
  このように,上記最高裁判決からいっても,本件各指定は行政事件訴
訟法3条2項にいう処分に該当することは明らかである。
(2) 都青少年条例8条1項,9条の違憲性
ア 憲法21条1項(事前抑制の禁止),同条2項(検閲の禁止)違反
a 都青少年条例8条1項,9条の規定は,憲法21条1項の規定する事前抑制
の禁止及び憲法21条2項の規定する検閲の禁止に反するから,違憲である。
b 検閲の概念について,判例は,「行政権が主体となって,思想内容等
の表現物を対象とし,その全部または一部の発表の禁止を目的として,対象とされ
る一定の表現物につき網羅的一般的に,発表前にその内容を審査した上,不適当と
認めるものの発表を禁止すること」(最高裁昭和59年12月12日大法廷判決・民集38巻
12号1308頁)と定義している。
  これによるならば,都青少年条例の規制は発表後の規制であるから,
検閲に該当しないことになる。
  しかし,この判例の検閲概念については,その対象とするところが狭
すぎるという観点から,学説は総じて批判的であって,思想・情報の受領時を基準
として,受領前の抑制や,思想・情報の発表に抑止的効果を及ぼすような事後規制
も検閲の問題と考えるべきであり,その意味で,都青少年条例の規制もこれに該当
するというべきである。
  仮に,判例のように,検閲概念を狭く理解したとしても,「憲法21条
2項前段の「検閲」の絶対的禁止の趣旨は,同条1項の表現の自由の保障の解釈に及
ぼされるべきものであり,たとえ発表された後であっても,受け手に入手されるに
先立ってその途を封ずる効果をもつ規制は,事前の抑制としてとらえられ,絶対的
に禁止されるものではないとしても,その規制は厳格かつ明確な要件のもとにおい
てのみ許されるものといわなければならない」(有害図書の自動販売機への収納を禁
止処罰する岐阜県青少年保護育成条例(以下「岐阜県青少年条例」という。)に関
する最高裁平成元年9月19日第三小法廷判決・刑集43巻8号785頁における伊藤正己裁
判官の補足意見(以下「伊藤補足意見」という。))のである。
c 被告は,上記2(4)のとおり,出版倫理協議会による自主規制により,
不健全な図書類の指定を連続3回受けることが当該雑誌の廃刊につながる事実を十分
に認識しつつ,それを前提として出版社に対し次号以降の雑誌の内容を規制してい
るのである。これはまさに,被告が指定後の出版の事前規制を意図して不健全な図
書類の指定をしているものにほかならないから,憲法21条の定める事前抑制の禁止
に違反しているものである。
  すなわち,都青少年条例の規制は,指定された後に当該指定図書類の
入手を困難にするものである。しかし,指定の効果として,取次業者が同一雑誌の
次号の取扱いを拒否したり,1回の指定でも全国一斉に販売を中止するコンビニエン
スストアがあるなど,その後の出版及び出版物の流通に対して事前の抑制としての
意味を持っていることは明らかであり,被告もそれを認識したうえで不健全な図書
類の指定を行っているのである。被告は単行本については不健全な図書類の指定の
対象としていないが,これは,単行本は,「3回連続による事実上の廃刊」という効
果が期待できないからである。
d 伊藤補足意見は,先に引用した部分に続けて,「本件条例による規制
は,個別的指定であると包括的指定であるとをとわず,指定された後は,受け手の
入手する途をかなり制限するものであり,事前抑制的性格を持っている。しかし,
それが受け手の知る自由を全面的に閉ざすものではなく,指定を受けた有害図書で
あっても販売の方法は残されていること,のちにみるように指定の判断基準が明確
にされていること,規制の目的が青少年の保護にあることを考慮にいれるならば,
その事前抑制的性格にもかかわらず,なお合憲のための要件を満たしているものと
解される。」とするが,これに対しては,その事案へのあてはめ方について「ゆき
すぎ」等の批判がある。
  伊藤補足意見は,同意見の他の部分にある「有害図書とされるものが
一般に価値がないか又は極めて乏しい」という価値判断を前提にしているが,本件
各図書の大部分は,パソコン関係の情報であり,それは普遍的な価値を有してい
る。また,伊藤補足意見は,合憲の理由として,岐阜県青少年条例においては指定
の判断基準が明確にされていることを挙げているが,都青少年条例は岐阜県青少年
条例と比較しても,あるいは絶対的にみても,漠然かつ不明確であり,伊藤補足意
見の考え方によっても,本件においては違憲との判断が下されるものである。
イ 憲法21条1項違反
a より制限的でない他の選び得る手段のテスト
(a) 本件各図書の大部分を構成しているパソコン関係の情報が,青少
年にとっても「不健全」なものではなく,「健全」なものであることは疑いがな
い。その意味で,本件各図書中には,仮に「不健全」な部分があったとしても,
「不健全」な部分と「健全」な部分の両方があるともいうことができ,そうであれ
ば,本件各図書に関する知る権利は,①青少年が「不健全」な部分を知る権利,②
青少年が「健全」な部分を知る権利,③成人が「不健全」な部分を知る権利,④成
人が「健全」な部分を知る権利の4つに整理される。
  都青少年条例及び他の道府県の同種の青少年条例は,青少年が「不
健全」な情報を知ることによる弊害を避けるため,①の知る権利を制約するという
ものであるが,仮にその規制目的を是認するとしても,そのためには,①の知る権
利のみを制約すべきであって,それ以外の②ないし④の知る権利を制約する目的
は,都青少年条例にはないし,その制約を正当化できる理由もない。
  しかしながら,本件各図書への指定により,18歳未満の青少年は,
本件各図書の「健全」な部分を知ることができなくなり,②の知る権利が完全に侵
害されるという問題があり,また,都青少年条例8条1項による不健全な図書類の指
定の効果により,取次業者が当該指定図書類を取り扱わなくなったり,コンビニエ
ンスストアなどが指定図書類の販売を全面的に中止するため,成人は,本件各図書
の「健全」な部分も「不健全」な部分も知る権利(③及び④)を有しているにもかか
わらず,それを行使できなくなり,成人の知る権利が侵害されるという問題が生じ
る。この2つの問題は,指定図書類中に「健全」な部分と「不健全」な部分の両方が
存在する場合には,必ず生じるものである。
  このような場合,上記②ないし④の知る権利を侵害することは許さ
れず,それを規制する立法はすべて違憲であるとの立論も考えられるところである
が,それでは「不健全」な部分が主たる図書でありながら,わずかでも「健全」な
部分を抱き合わせにすることにより,法を潜脱することも可能となり,不健全な図
書類の規制という目的を是認する立場からは受入れられない。
  そこで,法の規制目的は正当であることを前提としつつ,規制目的
達成に必要な範囲を超えて人権を制約することを回避する方策が必要とされること
となるが,この場合の合憲性判定基準としては,いわゆる「より制限的でない他の
選び得る手段のテスト」が適当である。
  同テストは,裁判所が法令の合憲性審査を行うときに,法目的その
ものが実質的に正当であっても,規制方法ないし規制違反に対する制裁の面におい
て,その法目的を達成するより徹底的でない方法,あるいはより制限的でない他の
選び得る手段を採用することができたとの指摘をして,法令を違憲と判断する手法
であり,このテストは,表現の自由や信教の自由といった個人の精神的自由への公
権力による規制問題において適用されることになるとされている。
  そして,本件においても,この判定基準を適用すべきことは,以下
で述べるとおりである。
(b) 不健全な図書類を規制する目的を是認しつつ,目的達成に必要な
範囲でのみ規制をする手段として合理的なのが,分量的基準による規制である。
  分量的基準とは,問題となる図面・写真等が書籍・雑誌に占める割
合や問題となる映像がビデオテープ等に連続して描写される時間を基準として,構
成要件を定めているものを指すが,分量的基準によって都青少年条例8条1項の規定
を運用することは,以下の点で合理的である。
ⅰ 分量的基準は,基準として明確である。
ⅱ 青少年が不健全な図書類により悪影響を受け得ることを前提とし
ても,不健全な部分の分量に比例して,その影響の程度も変わることは容易に理解
できる。そうだとすると,行政の比例原則からしても,一定の分量的基準で線を引
くのは合理的である。
ⅲ 読者がある図書を認識する場合には,仮にその一部に不健全な部
分があったとしても,それが全体に占める割合が小さく,かつ当該図書にその不健
全な部分とは無関係な支配的価値や評価が容易に見出せる場合には,その図書を
「不健全」と関連づけて認識することはない。
  これは,医学書や歴史書の一部に不健全な部分(性器についての描
写等)があった場合などや,「週刊現代」「週刊ポスト」「フライデー」等を初めと
する一般週刊誌が数ぺージの女性の裸体の写真を掲載しても,一般人がそれらを
「不健全」と結び付けて認識せず,単なる30代から40代の男性サラリーマンを主た
る読者とする週刊誌としか認識しないのと同じである。逆に,「週刊現代」「週刊
ポスト」「フライデー」等に毎号のように掲載されている女性の裸体の写真が,そ
れらの雑誌のベージ数の大部分を占めたとしたならば,一般人は誌名の如何にかか
わらず,それを「不健全」と結び付けて認識することになる。
  このように「不健全」と結び付けて認識されない図書について
は,都青少年条例が「不健全」から遠ざけさせようとしている十代の青少年は,そ
もそも「不健全」に触れる目的でそれらにアクセスしようとは考えない。他の目的
あるいはきっかけで入手して,不健全な部分をたまたま目にすることがあったとし
ても,それは,それを目的として入手した場合に比して青少年に与える影響は小さ
い。
  原告は,本件各図書に読者カードを添付し,毎号アンケート調査
を行っているが,そのうち,本件図書2の読者カード約800通のうち200通を無作為抽
出して,購入動機を調べると,第1位は,「フリーソフト777本」というパソコン動
作改善等のための無料ソフトの記事あるいはCD-ROM等があることで,これが
圧倒的多数を占めている。第2位は,アダルトビデオの紹介があることとなっている
が,その数は1位と格段の開きがあり,アダルトビデオ紹介部分を目的として本件各
図書を購入する者は1割強でしかない。
  また,同じ読者アンケートで,読者の年齢分布を調査すると,読
者は18歳以上が圧倒的であり,この意味でも,本件各図書を不健全な図書類として
指定する必要がないことがわかる。
ⅳ 被告は,不健全な図書類を選定するにあたり「青少年が手にとり
やすいような状況で図書が販売されていること」を重視しているようであるが,不
健全な図書類の青少年に与える影響を考えれば,衆人環視のもとでの書店店頭での
立ち読みと,プライベートな空間での読書,視聴とでは,その影響力には格段の違
いがあり,立ち読みの可能性を,図書販売を規制する理由とするのは無茶である。
  まして,本件各図書にあっては,青少年にとって不健全とされ得
る部分がCD-ROM又はDVDに収録されていて,立ち読みによる青少年への悪
影響は発生し得ない。表紙を見ても,パソコン雑誌であることしか分からず,パソ
コンを所持しない者は最初から敬遠する雑誌である。青少年が不健全な部分がある
ことを期待して手にとる雑誌でもない。
  この点が,表紙を含む誌面に大々的に「不健全」が現れている,
不健全な図書類の指定を受けた他の図書などとは決定的に異なるところである。そ
して,この違いを合理的かつ明確な基準を示しつつ,妥当な解決を示すことができ
るのが,分量的基準なのである。
(c) 都青少年条例と同種の条例において,分量的基準により構成要件
を定めている道府県は,北海道,岩手県,宮城県,群馬県,茨城県,福井県,愛知
県,三重県,岐阜県,和歌山県,奈良県,京都府,大阪府,岡山県,佐賀県,長崎
県,熊本県,宮崎県,鹿児島県,沖縄県の合計20道府県に及ぶ(「平成4年版都道府
県青少年保護条例集」監修総務庁青少年対策本部による。)。
  このうち,宮城県,京都府,大阪府及び沖縄県においては,ビデオ
テープ等については,問題となる映像の連続描写時間が3分を超えることを構成要件
として定めており,このような現実に運用されている実績も踏まえれば,具体的な
分量の程度については,これらの府県の条例にあるように,映像については問題と
なる映像の連続描写時間が3分を超えないという基準を設けることが合理的である。
(d) しかるに,被告は,このようにより制限的でない他の選び得る手
段があるにもかかわらず,それを採用せず,そのため,本来制約されるべきでない
青少年が本件各図書の「健全」な部分を知る権利,成人が本件各図書の「健全」な
部分及び「不健全」な部分の両方について知る権利を侵害することになったのであ
るから,都青少年条例8条1項の規定は違憲無効である。
b 立法の前提となる事実の欠缺
(a) 上記の「より制限的でない他の選び得る手段」のテストは,いわ
ゆる手段審査のテストであるから,条例の制定目的は正当であることを仮の前提と
している。
  しかし,都青少年条例8条1項,9条の制定目的は,その前提となる立
法事実を欠いており,その意味でも違憲である。
(b) 被告は,「有害図書が一般に思慮分別の未熟な青少年の性に関す
る価値観に悪い影響を及ぼし,青少年の健全な育成にとって有害であることは既に
社会共通の認識になっている。」とする岐阜県青少年条例に関する上記最高裁平成
元年9月19日第三小法廷判決を引用して,立法事実が存在する旨主張する。
  しかし,この引用は,被告が自らに都合のよい部分だけを抜き出し
たものであり,引用の仕方として不当である。
  すなわち,上記最高裁判決は,上記引用部分の「有害図書」を形容
する文言として「本条例の定めるような」という一節を入れているのである。そし
て,この引用部分の前の項では,ていねいに,岐阜県青少年条例だけでなく,岐阜
県青少年保護育成条例施行規則や岐阜県告示も含め,自動販売機収納が禁止されて
いるところまでの規定の構造をすべて説明して,それを受けて「本条例の定めるよ
うな」としているのである。
  このように,上記最高裁判決は,「卑わいな姿態若しくは性行為を
被写体とした写真又はこれらの写真を掲載する紙面が編集紙面の「過半」を占める
と認められる」(岐阜県青少年条例6条2項)雑誌を対象としているのである。すなわ
ち,「紙面の「過半」が不健全な図書は,青少年に有害であることが社会共通の認
識になっている」と述べているにすぎないのであって,本件各図書のように,仮に
不健全な部分があるとしても,それは当該雑誌が提供する情報のごく一部でしかな
く,当該雑誌には他に支配的な価値があり,かつ,誌面には不健全な部分がなく,
購入しても特別の機器なしには再生することもできない媒体が添付されているにす
ぎないケースについては,上記最高裁判決は何も述べていないのである。
  そして,上記最高裁判決は,被告が引用した部分に続けて,自動販
売機による有害図書の販売は,売手と対面しないため心理的に購入が容易であるこ
と,昼夜を問わず購入ができること,購入意欲を刺激しやすいこと,自販機業者に
おいて指定がなされるまでの間に当該図書の販売を済ませることも可能であること
など,自動販売機特有の事情にかんがみたうえで,岐阜県青少年条例の規定の仕方
も合理的であると述べており,まさに,自動販売機により販売された当該商品の特
徴にかんがみたうえでの判旨であることが分かる。
  このように,上記最高裁判決の引用に基づく被告の主張には理由が
ない。
(c) また,岐阜県青少年条例に関する上記最高裁判決から既に14年が
経過している事実も忘れてはならない。
  A教授の意見書(甲31。以下「A意見書」という。)によれば,日本
性教育協会の全国調査では,18歳の男女で「性交経験がある」と答えた者の割合
は,1984年には男子22パーセント,女子12パーセントであったものが,1999年には
男子39パーセント,女子33パーセントとなり,この15年間に大きな変化があった事
実が指摘されている。
  同様に,A意見書は,高校生を対象としたアダルトビデオ視聴体験
についても,激増の傾向にあることも指摘している。
  そして,A意見書は,「現代は,高度情報化社会化が急速に進み,
そのためもあって,性に対する国民(特に青少年層)の性行動,性意識,性規範が劇
的に変化しているのであり,このような情報化社会においては,もっぱら隠ぺいを
目的とするいわゆる「猥褻物」規制立法は,ほとんど意味を失っているのであ
る。」と結論付けている。
  このような事情の変化を無視し,それを補うなんらの論理も根拠も
提供できない被告の主張には,意味も価値もない。
(d) さらに,性情報の多いほうが,現実の性行動は少なくてすむとい
う見解もある。
  すなわち,A意見書は,「アダルトビデオを模倣したというのは,
性非行少年らが責任の軽減を図っての「弁解」である可能性が高い」などと指摘
し,規制推進派が唱える,子供に性的情報を与えることは,子供の精神の健全な発
達を阻害し,性についての誤った価値観を与え,性非行や性倒錯を促進するという
論拠に真っ向から異を唱えている。そして,「青少年が接触する性情報・性表現の
量と,性非行や(現実)の性行動とは逆比例する」との事実が観察されると述べてい
る。
ウ 憲法31条違反(構成要件の明確性の欠如)
a 都青少年条例8条1項は,その文言が漠然かつ不明確ゆえ憲法31条に違
反し,無効である。
  憲法31条は罪刑法定主義の要請から,刑罰法規に明確性を求めてい
る。これは,国民に事前の告知を与えてその自由を保障するとともに,法規の執行
者である行政の恣意を排除する必要があるからである。特に精神的自由を規制する
立法は,精神的自由の人権上の優越的地位からして,制約は必要最小限に止められ
なければならないばかりでなく,その規定が明確に定められていなければ,本来合
法的に行うことのできる表現行為も処罰の不安から差し控えてしまう萎縮効果が大
きく,憲法31条の明確性はいっそう強く要請される。
  都青少年条例8条1項の規定で問題となるのは「著しく性的感情を刺激
し」「青少年の健全な成長を阻害するおそれ」との文言であるが,これらは,それ
自体多義的であり,はなはだ不明確であるといわざるを得ない。東京都にもその認
識があったようで,第2,1(2)のとおり都認定基準を定めている。
b(a) しかし,まず,都認定基準は,国民がこれを容易に知ることはで
きない。すなわち,都認定基準は,現在公刊されている図書にはその記載はなく,
都のインターネットホームページにおいても都青少年条例しか掲載されておらず,
下位規範にあたる都認定基準の有無も分からない。
   このように,都認定基準の明確性及びその法的根拠はさておくとし
ても,それが国民に基準として告知されていないのであるから,罪刑法定主義を定
める憲法31条違反であることは明らかである。
(b) また,仮に上記の点をおくとしても,都認定基準は,明確性の要
件を満たしておらず,違憲である。
  すなわち,明確性の判断基準としては,一般的には「通常の判断能
力を有する一般人の理解において,具体的場合に当該行為がその適用を受けるもの
かどうかの判断を可能ならしめる基準が読みとれるかどうか」(最高裁昭和50年9月
10日大法廷判決・刑集29巻8号489頁)という基準によって決せられるとされる。
  しかし,都認定基準は,他の道府県で行われている例と比較して
も,はるかに漠然かつ不明確な規定であるといわざるを得ず,これについて,立法
技術の限界を理由とすることはできない。
  したがって,都認定基準の存在を考慮しても,都青少年条例8条1項
の規定は,憲法31条に反する。
エ 憲法14条違反
a 都青少年条例の不健全な図書類に対する規制は,他の道府県の規制に
比して,漠然かつ不明確であり,大きな萎縮効果を生じさせ,より表現の自由を制
限している点で,憲法14条1項に反し,違憲である。
b 各地方自治体において,規制の有無,態様等が異なることにつき,最
高裁昭和33年10月15日大法廷判決・刑集12巻14号3305頁は,売春の規制に関する事
案において,「憲法が94条で,地方の実情に即して法的に規律する趣旨で条例制定
権を認めている以上,各地方公共団体の条例内容に差異が生じてもそれは憲法の予
定するところであり,憲法14条1項違反の問題は生じない」旨判示している。
  確かに,憲法が各地方公共団体ごとに条例制定権を認めている以上,
条例による人権制約について地域ごとに差異が生じたとしても,それだけで,直ち
に憲法14条1項に違反するわけではない,との主張は理解できるが,それは,この判
旨がいうように「地方の実情に即して」異なる態様の規制をすることが合理的と認
められる場合であることが前提である。また,人権といっても様々であるから,人
権の種類ごとにその制約の差異の合理性を吟味する必要がある。さらに,制約の差
異が合理性を認められるのは,当該地方の実情に即して規制をすることにあるか
ら,その規制の効果が他の地域にまで及ぶとしたならば,それについては別の考慮
が必要である。
  このような観点で検討すると,次のようなことがいえる。
 第1に,本件で問題となるのが表現の自由という優越的地位を占める人
権であるから,他の経済的自由などの場合とは違い,単に憲法94条が地方公共団体
ごとに条例制定権を認めているというだけでは地域ごとに制約態様,制約基準を異
ならせることが合理的であるということはできず,それを根拠づける立法事実が必
要である。
 第2に,地方の実情に即して異なる実態があるかという点であるが,そ
もそも,長野県を除く全国46都道府県で不健全な図書類を規制する青少年条例が設
けられているところからみても,地域ごとの実情に違いはないというのが,各都道
府県の一致した認識ではないかと考えられる(長野県では,条例は制定されていない
が,不健全な図書類規制のための強力な行政指導を行っている。)。また,図書類の
大部分は,首都圏に本社をもつ大手出版杜が発行しており,それらが寡占状態にあ
る取次会杜を通して,全国一律に流通される昨今の事情をみると,不健全な図書類
なるものの流通,頒布の程度について,地域ごとに差があるとは思われない。ある
地域の青少年には激しい不健全な図書類を見せてもよいが,ある地域の青少年には
そうでもない,というほどに地域ごとにその制約態様を異ならせる必要は考えつか
ないし,異ならせるべきとの主張も見当たらない。
 第3に,既に指摘したとおり,東京都による不健全な図書類の指定によ
り,取次会社が次号から取次を拒否したり,全国展開しているコンビニエンススト
アが全国で一斉にその取扱いを中止するのである。規制の対象は当該地方公共団体
内で販売等されている図書類であるとしても,その規制の効果は全国に及ぶのであ
る。他の地域にも規制の効果が及ぶのであれば,地域ごとの実情に即してという理
由は成立しない。
c なお,本件では,情報の発信源が一元化されつつあり,かつ情報の流
通も全国一元化されているという現代の状況の中で,全国有数の出版社である原告
が全国で一律に発行している図書,いわばナショナルな情報について地域ごとにロ
ーカルな規制をして,異なる制約をもたらすことが合理的か否かが問われており,
これは,憲法21条や31条の議論では出てこない観点である一方,憲法94条の条例制
定権の限界という重要な憲法上の問題にも関連する。
  そのため,本件においては,憲法14条違反についても別個に検討され
るべきである。
(3) 本件各指定の都青少年条例違反
ア 本件各図書は都青少年条例8条1項の規定する不健全な図書類に該当しな
いこと
a 本件各図書の紙面には,都青少年条例8条1項の規定に該当する部分は
存在しない。該当可能性があるのは,本件各図書に添付されたCD-ROM又はD
VDの内容であるが,仮に形式的に該当する部分があったとしても,上記(2)イaの
とおり,都青少年条例8条1項は分量的基準に従って解釈すべきであり,また,映像
については,問題となる映像の連続描写時間が3分を超えるか否かという基準による
べきである。
b 本件各図書に添付されたCD-ROMあるいはDVD中には,いわゆ
るアダルトビデオの一部を紹介している部分があるが,その画像は「SAMPL
E」の表示や,編集のための時間表示が画面中に現れ,当該アダルトビデオ自体の
画面とは異なり,紹介のための画像であることが分かるものである。そして,それ
らは,1本のビデオにつき30秒から40秒程度であり,問題となり得る描写が連続3分
を超えるものはない。
  したがって,分量的基準によるならば,本件各図書は,いずれも都青
少年条例8条1項の規定する不健全な図書類には該当しないものである。
イ 都青少年条例15条1項違反
a 都青少年条例15条1項は,同条例8条の規定により不健全な図書類の指
定をするときは,都審議会の意見を聞かなければならない旨規定しているが,これ
は,同条例8条の規定による不健全な図書類の指定が,出版側の表現の自由や読者側
の知る権利という非常に高いレベルの保障を要求される基本的人権を制約すること
から,行政庁のみの判断だけではなく,行政庁とは距離をおいた審議会において,
識者からの様々な意見により,行政庁の恣意性,独善性を排除することを目的とし
たものである。
  そして,都青少年条例では,同審議会の意見を聞くことは,指定の必
要要件とされている。
b 都審議会の審議の形骸化
 しかし,本件各図書に係る都審議会の審議は,以下の各事実にかんが
みるならば,都の担当者の恣意的かつ独善的な提案を,実質的な議論,検討を経ず
に,短時間のうちに例外なしに追認するためのものにすぎず,実際上まったく無意
味な手続である。
 そのため,形式的に本件各図書の指定と同趣旨の意見の審議会の議事
が存在していたとしても,それは都青少年条例15条1項の要件を満たすものではない
から,本件各図書に対する指定は違法である。
(a) 例えば,平成12年1月20日(第476回)から同年9月21日(第486回)ま
での11回分の都審議会の議事録によれば,その間,図書において合計105件(うちC
D-ROM付きは24件),ビデオ等について合計37件の指定について,都審議会は意
見を述べている。
  ところが,実に,都担当者が用意してきた候補図書等すべてについ
て,すべての審議委員がひとつの例外もなく,直ちに賛成している。都審議会に先
立って行われる扱いとなっている都青少年条例15条2項の規定に基づく自主規制を行
っている団体からの意見聴取では,賛否が分かれた図書も複数あり,都の担当者は
その事実も都審議会委員に告げているが,それらも含めて都審議会では多数決にな
ったケースはもちろんなく,意見が分かれて議論になったこともない。
  しかも,議事録記載の図書の回覧時間やビデオ等の再生時間と,指
定を受ける図書あるいはビデオの本数等を考慮すると,審議委員は当該図書やビデ
オを一瞥したにすぎず,「審議委員が実際に見なかった,とまでは言い切れな
い。」という程度のものでしかない。
  このように,開示された議事録の記載からも,審議会が,都担当者
の判断を単に追認するだけの無意味な機関になっていることが分かる。
(b) 都審議会は,実際は,都の担当者が自らの公務員としての権力を
背景として,恣意的かつ独善的な運用を行い,都の担当者の意のままに操られてい
るだけである。
  すなわち,原告が指定を受けた「DOS/V USER」と「遊ぶ
インターネット」は,同様の編集方針で,長期にわたって多部数を出版販売してき
たものである。そして,被告は,これらの2雑誌をずっと購入してきたのであるにも
かかわらず,これらの雑誌が,ある時期を境に突然,不健全な図書類の指定を受け
るということは,被告が恣意的に運用しているとしか考えられない。
  また,上記の2雑誌と類似する雑誌として,「ウインドウズ・パワ
ー」(株式会社アスキー。約14万部)と「Windows100%」(株式会社晋遊社。約22万
部)があり,いずれも,原告発行の上記の2雑誌同様に,CD-ROMを添付し,無
料ソフトの提供等を主な内容としており,アダルトビデオの紹介も行っている。紹
介しているビデオ等の本数,1本あたりの引用時間等も原告発行の上記の2雑誌と同
様である。しかし,「ウインドウズ・パワー」,「Windows100%」とも,都青少年条
例による不健全な図書類の指定は受けていない。「ウインドウズ・パワー」は,平
成12年9月号においては,従前と同様に「最新人気AVムービー紹介」のコーナーがあ
り,アダルトビデオの内容紹介(動画)を行っていたのに対し,同年10月号において
は,何の説明もなく,突如としてそのコーナーもアダルトビデオの紹介もやめてい
る。同様に,「Windows100%」は,平成12年10月号までは,「AVキネマシアター」の
コーナーで,アダルトビデオの内容紹介(動画)を行っていたのに対し,同年11月号
では,そのコーナーが突然消失し,動画によるアダルトビデオの内容紹介を廃止し
た。これは不可解であり,この突然の変更がなされた時期が,本件各図書に対する
指定が被告内部で検討されていた時期と一致することにかんがみるならば,原告に
対しては何の前触れもなく被告は不健全な図書類の指定をしたが,「ウインドウ
ズ・パワー」及び「Windows100%」に関しては,被告は,各発行会社に対し,従前の
ままでは不健全な図書類の指定を受ける旨の情報を事前に提供し,それを受けて各
会杜が,編集方針を変更したことを容易に推認することができる。これは,都の担
当者の恣意的運用を如実に物語るものである。
c(a) 本件各図書は,いずれも誌面上には不健全な部分はなく,問題と
なり得るのは,それぞれ別個の,独立したビデオ作品のサンプル版であって,1本の
長編作品の一部分だけを見たということとは異なるのであるから,都青少年条例
15条1項でいう「審議会の意見」とは,個別のコンテンツに対する意見である。そし
て,個別の作品ごとに不健全か否かの判断は当然に異なる。
   そうすると,審議会において,その他のコンテンツについては視聴
させていない以上,それらについては,同条例15条1項の要件を満たしておらず,本
件訴訟において,同条例8条1項に該当すると主張することは許されない。
(b) これに対し,被告は,意見を求められた図書類等について,どの
程度視聴し,審議すべきかは,審議会自らが合理的に決すべき事項というべきであ
る旨主張する。
  しかし,これは実態とはまったく異なる。実際には,どのコンテン
ツを視聴するかについて,審議会委員の意見はまったく聞かず,都の担当者が指定
した部分のみを早送りを交えて見ているにすぎない。
  これは,例えば,平成12年12月14日に開催された都審議会(第
489回)の議事録の記述からも明らかである。ここでは,どのコンテンツを見るか等
についての審議はまったく存在せず,都の担当者が指定したものだけを,途中,早
送りも交えて見ているにすぎない。また,議事録の記載をそのまま信用するとして
も,11冊の図書を審査する時間が,CD-ROM及びDVDの視聴時間を含めて
も,最大32分間でしかない。
  このような運用は,そもそも,被告が指定したコンテンツ以外を理
由として,審議会が指定の可否を判断するなどということがあり得ないことも意味
している。
(4) 本件各指定の都行政手続条例13条違反
ア 都行政手続条例13条は,不利益処分をしようとする場合には,行政庁は
当該不利益処分の名あて人となるべき者について,意見陳述のための手続を執らな
ければならないと規定しているが,これは,憲法31条の保障する権利を具体化した
ものである。
  しかるに,以下のとおり,本件各指定に当たっては,行政手続について
適正な手続的処遇を受ける原告の権利が侵害されており,その意味でも本件各指定
は違法である。
イ 本件各指定が不利益処分に該当すること
都行政手続条例は,行政手続法をほとんどなぞる形で構成されており,
都行政手続条例2条1項4号の規定する不利益処分の定義も,行政手続法2条1項4号の
規定する不利益処分の定義と全く同一である。そして,いずれにおいても,不利益
処分の定義は,上記条例及び法律の各「第3章 不利益処分」の項が適用されるか否
かを画する意味を有している。そのため,行政手続法についての解釈と都行政手続
条例の解釈は同様に考えられる。
行政手続法の解釈では,同法2条1項4号の規定する「名あて人」につい
て,不利益処分の内容が書面に記載されている場合には,相手方が特定されて表示
されているのが通例であり,そこでは,表示された者が「名あて人」となるとされ
ており,また,「特定の者を名あて人とし」とは,当該不利益処分の内容としての
「義務を課し,又は権利を制限する」という法的効果が,その者について生じるこ
とを意味すると解されている。
本件各指定では,原告を名あて人として通知書が作成され(甲1の1ないし
4),原告に義務を課し又は原告の権利を制限する処分がなされているから,本件各
指定は,対物処分ではなく,原告に対する不利益処分である。
ウ 弁明の機会(都行政手続条例13条1項2号)が付与されていないこと
 本件各指定に当たっては,原告に弁明の機会は付与されず,不健全な図
書類に指定した旨の通知が一方的に原告に送達されたのみである。
 本件は,被告が,パソコン雑誌の付録にも都青少年条例を適用した最初
の事例であるうえ,不健全な図書類に該当するか否かは,わいせつ概念と同様に高
度に微妙な判断を要するものであって,上記のように,他の同種雑誌については,
被告から当該出版社に対し,情報を意図的に流した事実も存在したことにも照らす
と,被告が原告に対し弁明の機会を付与しなかったことを正当化する理由はない。
 この弁明の機会の付与は,憲法31条が保障する重要な権利であり,本件
のような新しいケースで,かつ微妙な判断が要求される場合には,原告の弁明の内
容如何によっては,被告の判断が変更される可能性も十分にあった。
 なお,東京都における不健全な図書類の指定は,一般に,当該図書類の
発売から1か月近くたった後にされていることや,被告は,実際には,指定による販
売自粛や出版社の自主的判断を重視していることからすれば,本件各指定が同条2項
1号の規定する「公益上,緊急に不利益処分をする必要がある」ときに該当するとは
いえない。
 このように,この手続の瑕疵は極めて重大であり,本件各指定は違法,
違憲である。
(5) 本件各指定が理由の提示を欠くこと
ア 都青少年条例8条2項は,同条1項の指定をする場合には,指定の理由をも
告示すべき旨を定め,また,都行政手続条例14条は,不利益処分をする場合には,
その理由を提示すべきことを定めているが,本件各指定は,理由の提示を欠いてお
り,取り消されるべきである。
イ そもそも法が行政処分において理由を提示すべきとする趣旨は,処分庁
の判断の慎重さ,合理性を担保してその恣意性を抑制するとともに,処分の理由を
相手方に知らせて不服申立の便宜を与えるところにある(行政手続法8条,14条も参
照)。
  この点についてはこれまでに多くの判例が積み重ねられ,それらを踏ま
えて,理由提示の最低限の要求として,①理由の提示は,単に根拠法条を示すだけ
では足りず,いかなる事実関係に基づき,いかなる法規を適用して処分がなされた
かを明らかにするものでなければならない,②処分根拠となる事実に関しては,処
分の名あて人にとって十分理解し得る程度に詳しく示さなければならない,③処分
理由は,その記載自体から,名あて人の知り得るところとならなければならず,名
あて人がたまたま理由を知り得たかどうかは,理由の提示にあたって考慮されては
ならない,ことが求められている。
  しかるに,本件各指定に係る通知書には「指定理由」欄はあるものの,
複数の図書を指定しているにもかかわらず,「著しく性的感情を刺激し,甚だしく
残虐性を助長し,青少年の健全な育成を助長するおそれがある。」と根拠規定であ
る都青少年条例8条1項1号の条文の一部をそのまま引用しているだけである(甲1の
1ないし4)。
  これでは,原告としては,本件各図書が,「著しく性的感情を害し」
「甚だしく残虐性を助長し」又は「青少年の健全な育成を助長するおそれがある」
のいずれに該当するのか,それが当該図書のどの部分なのかを理解することは不可
能である(なお,都青少年条例8条1項の上記3つの概念の論理的関係も明確ではな
い。)。したがって,上記①の点は満たしていない。
  上記②の点に則していえば,本件では,少なくとも,本件各図書のどの
部分が,どのような意味で都青少年条例8条1項の規定に該当するか否かが,上記通
知書の記載から,原告が十分理解できるものでなければならない。しかし,上記通
知書の記載では,本件各図書中の文書部分が問題となっているのか,それともCD
-ROMの内容が問題となっているのかすら不明である。まして,どのビデオサン
プルが,どのような意味で問題となっているのかを理解することは不可能である。
したがって,上記②の点も満たしていない。
  また,上記③の点については,本件では,その後原告が都審議会議事録
を閲覧することにより,指定の対象となる理由が多少は明らかになったものの,こ
れは原告がたまたま知り得た事実でしかないから,上記③で的確に指摘されている
ように,それは理由提示が十分であったか否かの要素として考慮されてはならな
い。したがって,上記③の点も満たしていない。
  このように本件各指定には,理由の提示について瑕疵があることは,明
らかである。
ウこれに対し,被告は,本件各図書が都青少年条例8条1項の規定する不健
全な図書類に該当することは客観的にみて明らかである旨主張する。
  しかし,本件各指定の通知書を見る限りでは,本件各図書の誌面の部分
が問題なのか,CD-ROM及びDVD部分が問題なのか,あるいはどのコンテン
ツが問題とされているのか,理解しようがない。
  「DOS/V USER」及び「遊ぶインターネット」は,いずれも,
パソコン関連の諸情報や講座,パソコン関係の広告が大部分を占めている。付録の
CD-ROM等についても,その内容の大部分は,様々な無料ソフト等を読者に提
供し,読者はそれをダウンロードして使用できるというものである。本件各図書は
類書の中でもトップクラスの部数であるし,月刊誌という類型で比較しても,多部
数の雑誌であった。このように広く販売されている多部数の雑誌について,販売開
始から7年以上あるいは5年以上経過したのち,突然被告から不健全な図書類である
として指定されても困惑するのが当然である。ましてや,これらの雑誌のどの部分
がどのような意味で指定の対象となるかなど分かるはずもない。
(6) 本件各指定が権限ゆ越ないし権限濫用であること
ア 本件各指定は,「青少年に対し,著しく性的感情を刺激し,青少年の健
全な成長を阻害するおそれがあると認められる」か否かについての判断行為を前提
にするものであるから,いわゆる覊束裁量行為であると考えられる。
  そして,行政裁量行為は,権限のゆ越・濫用が認められる場合に違法と
なるところ,裁量行為が,その根拠となる条例等の許容する目的を超えて,別の目
的を指向又は考慮する結果,社会通念上著しく妥当性を欠くに至るときには,その
裁量行為は,憲法あるいは条理から導き出された行政法上の一般原則に基づき,権
限ゆ越ないし権限濫用があるものとして,違法なものとされる。
イ 本件各指定は,指向又は考慮すべきでない目的を指向又は考慮した結
果,社会通念上著しく妥当性を欠いたものであるというべきであり,権限ゆ越ない
し権限濫用にわたる違法なものである。
  すなわち,都青少年条例8条による指定の効果は,販売業者等に対し,指
定された図書類を青少年に販売し,頒布し又は貸し付けることを禁止すること(同
条例9条1項)以外にないから,本件各指定にあたり,被告が,青少年に対する指定
図書類の販売,頒布又は貸付け等の機会を封じること以外の効果の発生を目的にし
た場合には,同条例が規定する効果を超過した目的を指向,考慮したものとして,
本件各指定は違法なものになるというべきである。
  ところで,本件各指定の後,それに伴う関係諸団体の自主規制が発効し
たため,原告は,「DOS/V USER」及び「遊ぶインターネット」を一般市
場で流通させることが不可能となった。そして,被告は,特定の図書類に対する連
続3回の不健全な図書類の指定が,その図書類の青少年に対する販売,頒布,貸付け
の機会を奪うのみならず,組織化された民間の自主規制を通じて,その図書類につ
いて,一般的に「事実上流通できなくする」事実上の効果をもたらすものであるこ
とを知悉しつつ,そうした事実上の効果を目的として本件各指定を行ったものであ
る。これは,かかる民間諸団体による自主規制が存在せず,事実上の廃刊という効
果が期待できない単行本については,被告は購入もせず,全く調査の対象にしてい
ないことからも明らかである。
  このように,本件各指定は,都青少年条例が許容する以上の目的(上記各
雑誌を,一般雑誌としての流通から排除する目的)を指向又は考慮してなされたもの
である。この点において,本件各指定は,社会通念上著しく妥当性を欠いたものと
いうほかなく,権限ゆ越ないし権限濫用により違法であって,取消しを免れない。
(被告の主張)
(1) 本案前の主張(本件各指定が取消訴訟の対象とならないこと)
ア 行政事件訴訟法3条2項によれば,処分の取消しの訴えの対象となる処分
とは「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とされているところ,これ
は行政庁の法令に基づく行為すべてを意味するのではなく,そのうち当該行為によ
って直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められて
いるものをいい,行政庁の当該行為が特定個人の具体的な権利義務に直接変動を与
えるものでなければならない。
  また,行政庁の行う行為のうち,不特定多数の者を対象とするいわゆる
一般処分は,法令の制定行為と同様に,通常は抽象的一般的な規範の定立という性
質を有するにすぎないものであって,このような一般処分は抗告訴訟の対象となる
行政処分ではない。
イ 本件各指定は,いずれも被告が都青少年条例8条1項及び2項の規定に基づ
き,東京都公報に登載するという方法で告示することにより,本件各図書を不健全
な図書類として指定したものであり,本件各指定は特定の個人に向けられたもので
はない。このことは,同条3項の規定が,不健全な図書類を指定したときは直ちに関
係者に「周知」しなければならないと定めている文言からも明らかである。原告に
対する通知(甲1の1ないし4)も,同項に基づく関係者への周知のひとつとしてなさ
れたものである。
  確かに,都青少年条例8条の規定により不健全な図書類として指定される
と,販売業者等は指定図書類を青少年に対して販売し,頒布し又は貸し付けてはな
らない旨の規制を受けることになるが(同条例9条),これは指定図書類を青少年に
対して販売し,頒布し又は貸し付けようとする不特定多数の者を対象とするいわゆ
る一般処分にすぎず,図書の発行者など特定の個人に向けられたものではない。た
とえ,当該規制に反して,指定図書類の販売行為等を行う者があっても,その行為
は,原告に対しなんら法的影響を及ぼすものではない。
  また,当該規制に反して販売行為等を行った者に対して,別途,関係公
務員は,同条例18条の規定に基づき,警告書を交付する方法で警告を発することが
できるが,当該警告に従わず,なお,同条例9条1項の規定に違反した者のみが刑罰
の対象となるにすぎない(同条例25条)。このような都青少年条例の規定の仕方を
みると,不健全な図書類の指定は,一定の図書類を指定するのみで,特定の者を対
象として行われるものではなく,販売業者等の守るべき一般的な心得を示すに止ま
り,それ以上に個々人に対して具体的な権利義務を形成するなどの法的効果を生じ
させるものではないというべきである。そして,その指定後の販売行為等をした者
に対して警告を発し,その警告に従わずなお販売行為等を行った者のみを刑罰の対
象としていることからすると,同条例は,指定の段階ではなく,その後に予定され
る手続である警告を経て,なお,警告に従わず販売行為等を行なった者がある場合
に,その者に対し公訴が提起され刑事事件に至った段階で,その不服を争わせると
いう立法政策を採ったものと解されるのである。
  本件のように,行政担当者による指定行為が行われるものであっても,
それが条例,規則などによる一般的な規範の定立と同様に一般的規制の一端を担う
ものであるものについては,条例がどういう図書類に一般的規制をかけるかを条例
そのものに定めるかあるいは行政担当者に決定させるかの違いがあるのみであり,
一般的規制の一端をたまたま行政に担わせているにすぎないのである。このような
場合には,刑罰に先行する前段階の行政担当者の指定行為の処分性は否定されるも
のというべきである。
  以上のとおり,被告の行った本件各指定は,特定の個人に向けられた行
為ではなく不特定多数の者に対するいわゆる一般処分の域を出るものではないので
あるから,行政事件訴訟法3条2項にいう処分には当たらない。
ウ 宮崎県青少年条例に基づく有害な図書類の指定が争われた上記最高裁平
成11年12月14日第三小法廷判決は,有害な図書類の指定が処分性を有することを前
提としているが,宮崎県青少年条例と都青少年条例を比較すると,知事が有害ない
し不健全な図書類を指定し,告示すると,販売業者等が,指定図書類を青少年に対
して販売し,頒布し又は貸し付けてはならないとされることは,いずれの条例にお
いても同様であるが,宮崎県青少年条例においては,有害な図書類の指定に反し
て,当該図書類を販売し,頒布し又は貸付けを行った場合には,その販売業者等は
刑罰を受けることになるのに対し,都青少年条例においては,この段階において,
不健全な図書類の指定に反して,販売行為等を行ったとしても,その販売業者等
は,刑罰等の制裁を受けない。このように,宮崎県青少年条例においては,有害な
図書類の指定と刑罰が密接に結びついているということができるが,都青少年条例
においては,不健全な図書類の指定と刑罰は直接には結び付いていない。そうする
と,上記最高裁判決で争われた宮崎県青少年条例に基づく有害な図書類の指定が抗
告訴訟の対象となる処分であるとしても,本件とは事案を異にするものというべき
である。
(2) 都青少年条例8条1項,9条の違憲性の主張について
ア 憲法21条1項(事前抑制の禁止),同条2項(検閲の禁止)違反の主張に
ついて
a 憲法21条2項にいう検閲とは,「行政権が主体となって,思想内容等の
表現物を対象とし,その全部又は一部の発表の禁止を目的として,対象とされる一
定の表現物につき網羅的一般的に,発表前にその内容を審査した上,不適当と認め
るものの発表を禁止することをその特質として備えるものを指す」と解されている
(上記最高裁昭和59年12月12日大法廷判決)。
  しかるに,東京都における不健全な図書類の規制の制度は,既に発表
された図書類について,その内容が,青少年に対し,著しく性的感情を刺激し,又
は甚だしく残虐性を助長し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認めら
れるときに,知事は不健全な図書類の指定をすることができ(都青少年条例8条
1項),同指定によって,販売業者等が指定図書類を青少年に対して販売し,頒布
し,又は貸し付けることを禁じるもの(同条例9条)であって,当該図書類の発表以前
に同図書類を審査して,その発表を禁止するわけではなく,また,本件各指定によ
っても,青少年以外の者に対して,指定図書類を購入する途が開かれているのであ
るから,同制度は憲法21条2項にいう検閲には当たらない。
  すなわち,岐阜県青少年条例等で採用されているいわゆる包括指定方
式は,問題となる紙面等が条例に定める分量以上であれば,それが店頭に陳列され
た時点で直ちに個別指定したのと同様の効果が発生し,販売業者等が販売行為を継
続すれば,行政当局は警告措置を講ずることなく,直ちに,罰則を適用することが
できるというものである。これに対し,都青少年条例が採用する指定方式は,店頭
に陳列されている特定の図書類について,青少年の健全な成長を阻害するおそれが
あるか否かという観点から,被告が,その内容を個別具体的に精査し,第三者機関
である都審議会の意見を聞いたうえで,都青少年条例8条1項に規定する要件に該当
する図書類についてのみ,不健全な図書類として指定をする個別指定方式である。
そして,指定の後に,条例に規定する違反行為があった場合には,関係公務員が違
反者に警告を発し,その警告後においてもなお違反行為が継続した場合に,その違
反者を刑罰の対象とする方式であり,指定から刑事手続に至るまでに,警告という
行為が介在するものである。このように都青少年条例の指定の方式は,憲法が禁じ
る事前抑制禁止という面にも十分配慮した方式である。
  したがって,都青少年条例の指定の方式が憲法21条2項の検閲に当た
る,あるいは同条1項の事前抑制の禁止に違反する旨の原告の主張は理由がない。
b なお,不健全な図書類として連続3回指定された場合に,次号(4回目)
以降は雑誌に所定の帯紙を付さないものは取次店にて取り扱わない旨の自主規制が
存在すること自体は,被告において当然に認識しているが,そのことと不健全な図
書類の個別の指定行為とは別異の問題である。
  すなわち,都青少年条例の適用にあたっては,関係業者の自主規制を
尊重して運用しているが,これは同条例の趣旨にかなうものである。この観点から
すれば,都青少年条例及び都認定基準に該当する場合は,原則として,不健全な図
書類としての指定を行うが,その後自主規制措置が執られれば,その指定を行わな
い場合もあることは当然である。しかし,その場合に執られる自主規制措置は,不
健全な図書類の指定の結果であるにすぎず,事前規制の意図とは関係のないことで
ある。
イ 憲法21条1項(より制限的でない他の選び得る手段のテスト等)違反の主
張について
a 「より制限的でない他の選び得る手段のテスト」について
(a) 不健全な図書類の規制については,それが青少年に向けられてい
る限りにおいては,表現の自由の制約に関する合憲性審査基準は,通常の場合ほど
厳格性を要求されないものである。
  確かに,一般に,国民の有する表現の自由が民主主義の根幹を支え
る重要な人権であることは他言を要しないところであるが,青少年は,一般に精神
的に未熟であって,提供される知識や情報を選別して自ら人格形成に資するものを
吸収していく能力に乏しいから,偏ったあるいは正確性を欠く興味本位の情報にさ
らされた場合には,その被る悪影響は成人の場合に比して著しいものがある。その
ため,青少年を対象とする表現行為を,成人を対象とする場合と同様に認めること
は,表現の自由の重要性を考慮に入れても相当でない。この見地からすれば,表現
の自由が一般に優越的地位を有する人権であるとはいえ,それが青少年に向けられ
ている限りにおいては,その表現の自由の制約に関する合憲性判断の審査基準(よ
り制限的でない他の手段が存するときは他の手段によらなければならない等の基
準)は,通常の場合ほど厳格性を要求されないものというべきである。
  すなわち,一般に青少年の思慮分別能力は成人に比して劣っている
との認識に基づいて,現行法のそれぞれの局面において,青少年は保護を受ける反
面,能力を制限されているのであるから,表現の制約に関する合憲性の判断基準に
ついても,成人に対する表現行為の規制の場合に要求される厳格な基準は適用され
ないと解すべきである。
(b) 原告は,本件各図書に関する知る権利を,①青少年が「不健全」
な部分を知る権利,②青少年が「健全」な部分を知る権利,③成人が「不健全」な
部分を知る権利,④成人が「健全」な部分を知る権利の4つに分類したうえで,上記
②ないし④の知る権利の侵害を避けるため,より制限的でない他の選び得る手段の
テストであるところの分量的基準によるべきであると主張する。
  しかし,不健全な図書類の指定後にあっても,都青少年条例9条によ
り,青少年に対して指定図書類を販売すること等が禁じられるのみであって,成人
に対してこれを販売すること等はなんら制限されていないのであるから,成人に対
する権利侵害の観点から都青少年条例の違憲性を論じる意味はない。被告は,この
観点から,図書類が青少年にとって不健全か否かの基準について主張しているので
ある。
(c) 分量的基準は,不健全な部分の量を表す評価にすぎず,図書類が
不健全であるか否かということに関しては,分量的基準は全く機能しないのであ
り,結局のところは,当該図書類の内容が青少年の健全な育成を阻害するおそれの
ある不健全なものであるかどうかに尽きるのである。
  すなわち,不健全な部分が一定以内の量であっても当該図書類が全
体として不健全でないとはいえず,一冊の書籍の場合,登載されている写真の一部
がわいせつ性を有するときは,他の部分がなんらわいせつ性を有しないとしても,
それらが一体のものとして編綴されているときは,全体として書籍そのものがわい
せつ性を持つに至るというべきであるから,本件各図書の一部が不健全であれば,
全体として不健全と認識されることになるのである。
  したがって,不健全な図書類を規制する基準として,分量的基準が
合理的である旨の原告の主張は理由がない。
b 立法事実論について
(a) 上記a(a)のとおり,青少年は,一般的に精神的に未熟であっ
て,提供される知識や情報を選別して自ら人格形成に資するものを吸収していく能
力に乏しいから,偏ったあるいは正確性を欠く興味本位の情報にさらされた場合に
は,その被る悪影響は成人の場合に比して著しいものある。このことから,青少年
は,人権の主体であると同時に保護の対象でもあり,青少年の精神的未熟さに由来
する害悪から保護される必要がある。
  青少年の有するこのような特徴から,青少年を対象とする表現行為
に対する制約の憲法適合性の判断においては,表現行為が成人に向けられている場
合とは異なり,通常の場合ほど厳格性を要求されていないと解されているのであ
り,そうだとすると,立法事実についても,成人を対象とする通常の場合とは異な
り,緩和されたもので足りるというべきである。
  そうであるとすれば,有害図書類が青少年の健全な育成に有害であ
ることについて,厳格な科学的証明がなされていないからといって,都青少年条例
に立法事実が欠けているとはいえない。
(b) そして,岐阜県青少年条例に関する上記最高裁平成元年9月19日第
三小法廷判決が判示するとおり,著しく性的感情を刺激し,又は著しく残忍性を助
長する内容の図書が,一般に思慮分別の未熟な青少年の性に関する価値観に好まし
くない影響を及ぼし,性的な逸脱行為や残虐な行為を容認する風潮の助長につなが
るものであり,青少年の健全な育成にとって有害であることの認識は,既に社会共
通の認識になっているのであり,このような社会共通の認識,すなわち不健全な図
書類が青少年の健全な育成にとって有害であるという社会共通の認識が,都青少年
条例の立法事実として存在するのである。
  また,総務庁青少年対策本部(なお,青少年対策本部は,中央省庁等
再編により,現在は内閣府に設置される。)が平成10年9月に委託調査機関を通じて
実施した調査報告によれば,保護者が考えている青少年の犯罪,非行の主な原因と
して,「テレビ,新聞,雑誌などのマスコミ(メディア)の影響」が多く挙げらてい
る。この調査によるまでもなく,さまざまなメディアに性や暴力に関する情報が氾
濫していることは公知の事実であって,生活環境の整備という地方公共団体に課さ
れた責務を果たすうえからも,青少年の健全な育成に影響を与えるおそれのある不
健全な図書類を規制する必要性は存在するのである。
(c) 以上のとおり,不健全な図書類が青少年の健全な育成に有害であ
ることについて,科学的証明まではないものの,そのことゆえ都青少年条例に立法
事実が欠けているとはいえず,同条例の制定目的について,立法事実を欠いている
旨の原告の主張は理由がない。
ウ 憲法31条(構成要件の明確性)違反の主張について
a 一般に法規は,規定の文言の表現力に限界があるばかりでなく,その
性質上,多かれ少なかれ抽象性を有するものである。特に,不健全な図書類の規制
に関しては,青少年の健全な育成を阻害するおそれのある図書類を規制の対象とす
るというその立法趣旨から,ある程度の抽象的文言を使用せざるを得ない事情が存
在する。
  また,その規制対象が青少年に向けられている表現の自由に限って
は,明確性の理論もある程度緩やかに解することが許容されること,憲法31条の規
定は刑事手続に関する一般原則であり,当然には行政手続に及ぶわけではないこ
と,都青少年条例においては,指定と刑事罰との間に関係公務員の警告が介在し,
指定と刑事罰とは直接連動しないことを考え併せれば,都青少年条例8条1項の規定
が,その文言が漠然かつ不明確ゆえ憲法31条に違反するとまではいい得ない。
b また,都青少年条例の具体的運用となる基準として,都認定基準が設
けられ,同条例8条1項の抽象的文言を補い,その内容を明らかにしている。
  かつ,都認定基準は,「東京都青少年健全育成関連条例の解説」(東京
都生活文化局女性青少年部青少年課編集,平成12年3月31日発行)にも登載されてお
り,同冊子は,東京都及び区市町村の公立図書館に所蔵され,一般に公開されてい
るのであるから,同冊子により,一般人も都認定基準の内容を知り得るのであっ
て,いわゆる萎縮的効果の発生の危惧も少ない。
c したがって,都青少年条例8条1項の文言が漠然かつ不明確ゆえに憲法
31条に違反する旨の原告の主張は理由がない。
エ 憲法14条違反の主張について
原告は,都青少年条例に基づく規制が,他の道府県の規制に比して,漠
然かつ不明確であり,大きな萎縮効果を生じさせ,より表現の自由を制限している
点で,憲法14条1項に反し,違憲である旨主張する。
しかし,規制の漠然かつ不明確性については,憲法21条及び31条との関
係において議論されるべきものであり,憲法14条1項との関係において問題とされる
べきものは,もっぱら条例制定権に基づく地域的差異の問題についてであると考え
られる。そして,条例による規制が地域的差異を生ずるということが問題であると
すれば,憲法が各地方公共団体の条例制定権を認める以上,地域によって差異を生
ずることは当然に予想されることであるから,かかる差異は憲法みずから容認する
ところであると解すべきである。
したがって,都青少年条例による規制が,憲法14条に違反するとの原告
の主張は理由がない。
(3) 本件各指定の都青少年条例違反の主張について
ア 本件各図書が都青少年条例8条1項の規定する不健全な図書類に該当する
こと
a 本件各図書は,以下のとおり,いずれも都青少年条例8条1項1号の要件
に該当するものである。
  なお,原告は同号の該当性判断について,分量的基準を用いるべきで
ある旨主張するが,これが失当であることは,上記(2)イaのとおりである。
b(a) 本件図書1(「DOS/V USER」平成12年9月号,甲2の1)関

ⅰ 本件図書1は,誌面112頁(表紙及び裏表紙を除く。)並びにDVD
及びCD-ROMで構成されている。
  このうち,本件図書1の誌面に関し,都青少年条例8条1項1号に規
定する不健全な部分は存在しないものの,本件図書1に付属するDVD及びCD-R
OMの収録内容の一部に不健全な部分が存在することから,被告は,本件指定1をし
たものである。
  すなわち,本件図書1に付属するDVDには,「マルチアングルム
一ビー」及び「禁断のアダルトムービー100連発」と題するコンテンツ中に,アダル
トビデオのダイジェスト版の映像が104タイトル,時間にして約80分間,また,同C
D-ROMには,「フルサイズ!アダルトムービーDX」と題するコンテンツ中に,
同内容の映像が10タイトル,時間にして約14分間収録されていることが認められ,
いずれも都青少年条例8条1項1号の要件に該当するものである。同映像は,動画及び
音声で構成される一体となった映像であり,かつ,上記のとおり極めて長時間,多
数に及ぶことから,以下,その一例を挙げて説明する。
ⅱ 上記DVDに収録される「マルチアングルムービー」と題するコ
ンテンツ中の「禁断のアダルト映像」は,ベッドで男優が女優の胸を愛撫し,下着
を脱がせ,同女の局部を愛撫し,また,女優が男優の性器を口唇愛撫した後,様々
な体位による性交等の性戯の場面が,種々のカメラアングルから直接的,かつ,露
骨に演じられ,最後は男優が女優の胸に射精するところまで,卑わいな声とともに
性交を見せ場としているものである。同DVD映像における性交の描写は,モザイ
ク処理が施されているが,DVD映像特有の高画質,高音質とあいまって,男女の
性交等の性戯の場面が時間にして約5分間,かなり明確に写しだされていることが認
められる。
ⅲ 上記一例をはじめ,同DVD及びCD-ROM中に収録されてい
るアダルトビデオ映像(別表1の1及び2のうち○印を付したもの)が,第2,1(2)イ
の都認定基準のうち,(ア)男女の肉体の全部又は一部を露出し,卑わいな感じを与
えるもの,かつ,(イ)動作が性的行為を露骨に表現し,若しくは容易に連想させ,
卑わいな感じを与えるもの又はせりふ,説明,口上,歌曲等言語が著しく卑わいな
感じを与えるものに該当し,都青少年条例8条1項1号に規定する「著しく性的感情を
刺激し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがある」と認められるものであるこ
とから,同DVD及びCD-ROMを含む本件図書1を不健全な図書類として指定し
た。
(b) 本件図書2(「遊ぶインターネット」平成12年10月号,甲2の2)関係
ⅰ 本件図書2は,誌面80頁(表紙及び裏表紙を除く。)並びにDVD及
びCD-ROMで構成されている。
  このうち,本件図書2の誌面に関し,都青少年条例8条1項1号に規
定する不健全な部分は存在しないものの,本件図書2に付属するDVD及びCD-R
OMの収録内容の一部に不健全な部分が存在することから,被告は,本件指定1をし
たものである。
  すなわち,本件図書2に付属するDVDには,「マルチストーリー
搭載ムービー」,「最新AVムービー」,「超A級女優マルチアングルスペシャ
ル」及び「鮮烈!インディーズAV」と題する各コンテンツ中に,アダルトビデオの
ダイジェスト版ともいうべき映像が55タイトル,時間にして約40分間,また,同C
D-ROMには,「特選!大人のコーナー」と題するコンテンツ中に,「アダルトD
VDダイジェスト」及び「DVDムービー体験」をはじめとして,アダルトビデオ
のダイジェスト版ともいうべき映像が12タイトル,時間にして約8分間収録されてい
ることが認められ,いずれも都青少年条例8条1項1号の要件に該当するものである
が,同映像は,動画及び音声で構成される一体となった映像であり,かつ,上記の
とおり極めて長時間,多数に及ぶことから,以下,その一例を挙げて説明する。
ⅱ 上記DVDに収録される「最新AVムービー」と題するコンテン
ツ中の「α」というタイトルのアダルトビデオ映像では,男優と女優の性交のクラ
イマックスシーンのみの場面が直接的,かつ,露骨に演じられ,卑わいな声ととも
に性交を見せ場としているものであり,その映像は,モザイクの処理は施されてい
るが,DVD映像特有の高画質,高音質とあいまって,男女の性交場面が約40秒,
かなり明確に描写されていることが認められる。
ⅲ 上記一例をはじめ,同DVD及びCD-ROM中に収録されてい
るアダルトビデオ映像(別表2の1及び2のうち○印を付したもの)が,上記の都認定
基準のうち,(ア)男女の肉体の全部又は一部を露出し,卑わいな感じを与えるも
の,かつ,(イ)動作が性的行為を露骨に表現し,若しくは容易に連想させ,卑わい
な感じを与えるもの又はせりふ,説明,口上,歌曲等言語が著しく卑わいな感じを
与えるものに該当し,都青少年条例8条1項1号に規定する「著しく性的感情を刺激
し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがある」と認められるものであることか
ら,同DVD及びCD-ROMを含む本件図書2を不健全な図書類として指定した。
(c) 本件図書3(「DOS/V USER」平成12年10月号,甲3の1)関

ⅰ 本件図書3は,誌面112頁(表紙及び裏表紙を除く。)及びCD-R
OMで構成されている。CD-ROMは,DISC:1(実用編)及びDISC:2(映像
編)の2枚である。
  このうち,本件図書3の誌面に関し,都青少年条例8条1項1号に規
定する不健全な部分は存在しないものの,本件図書3に付属するCD-ROM2枚の
うち,DISC:2(映像編)の収録内容の一部に不健全な部分が存在することから,
被告は,本件指定2をしたものである。
  すなわち,本件図書3に付属するDISC:2(映像編)には,「ノン
ストップアダルトムービー」,「AV撮影現場に突入」,「AV特ダネNew
s」,「DVDムービー体験」,「美女写真館」,「ゴージャス姉妹の激似ムービ
ー入手」,「禁断のインターネット」,「ロングアダルトムービー」及び「フルサ
イズ!アダルトムービーDX」と題する各コンテンツ中に,アダルトビデオのダイジ
ェスト版ともいうべきビデオ映像だけでも28タイトル,時間にして約70分間収録さ
れていることが認められ,いずれも都青少年条例8条1項1号の要件に該当するもので
あるが,同映像は,動画及び音声で構成される一体となった映像であり,かつ,上
記のとおり極めて長時間,多数に及ぶことから,以下,その一例を挙げて説明す
る。
ⅱ 上記DISC:2(映像編)に収録される「フルサイズ!アダルトムー
ビーDX」中の「β」というタイトルのアダルトビデオ映像では,男優が女優の性
器を愛撫したり,性交等の性戯の場面が直接的,かつ,露骨に演じられ,卑わいな
声とともに性交そのものを見せ場としているものであり,特に,同ビデオ映像にお
ける性交の描写は,いわゆる薄消しで,明確とまではいえないとしても,男女の性
交等の性戯の場面が時間にして約2分50秒,かなり明確に映し出されていることが認
められる。
ⅲ 上記一例をはじめ,同DISC:2(映像編)中に収録されているア
ダルトビデオ映像(別表3のうち○印を付したもの)が,上記の都認定基準のうち,
(ア)男女の肉体の全部又は一部を露出し,卑わいな感じを与えるもの,かつ,(イ)
動作が性的行為を露骨に表現し,若しくは容易に連想させ,卑わいな感じを与える
もの又はせりふ,説明,口上,歌曲等言語が著しく卑わいな感じを与えるものに該
当し,都青少年条例8条1項1号に規定する「著しく性的感情を刺激し,青少年の健全
な成長を阻害するおそれがある」と認められるものであることから,同DISC:2
(映像編)を含む本件図書3を不健全な図書類として指定した。
(d) 本件図書4(「遊ぶインターネット」平成12年11月号,甲3の2)関係
ⅰ 本件図書4は,誌面80頁(表紙及び裏表紙を除く。)並びにDVD及
びCD-ROMで構成されている。
  このうち,本件図書4の誌面に関し,都青少年条例8条1項1号に規
定する不健全な部分は存在しないものの,本件図書4に付属するDVD及びCD-R
OMの収録内容の一部に不健全な部分が存在することから,被告は,本件指定2をし
たものである。
  すなわち,本件図書4に付属するDVDには,「快楽!マルチアン
グル(その1~その4)」,「最新AVムービー」,「マルチアングルコスプレスペシ
ャル」,「今月も元気!インディーズAV」と題する各コンテンツ中に,アダルトビ
デオのダイジェスト版ともいうべき映像が58タイトル,時間にして約40分間,ま
た,同CD-ROMには「特選!大人のコーナー」と題するコンテンツ中に,アダル
トビデオのダイジェスト版ともいうべき映像が12タイトル,時間にして約6分間収録
されていることが認められ,いずれも都青少年条例8条1項1号の要件に該当するもの
であるが,同映像は,動画及び音声で構成される一体となった映像であり,かつ,
上記のとおり極めて長時間,多数に及ぶことから,以下,その一例を挙げて説明す
る。
ⅱ 上記DVDに収録される「今月も元気!インディーズAV」と題す
るコンテンツ中の「γ」というタイトルのアダルトビデオ映像は,黒人の男優が二
人かがりで日本人の女優をベッドに押さえつけ,一人が女優の口を手で塞ぎ,声を
静めさせながら,もう一人が,性交するというレイプシーンが直接的,かつ,露骨
に演じられ,卑わいな声とともに性交そのものを見せ場としているものであり,同
DVDにおける映像は,モザイク処理はあるものの,DVD映像特有の高画質,高
音質とあいまって,男女の性交場面が約37秒,かなり明確に描写されていることが
認められる。
ⅲ 上記一例をはじめ,同DVD及びCD-ROM中に収録されてい
るアダルトビデオ映像(別表4の1及び2のうち○印を付したもの)が,上記の都認定
基準のうち,(ア)男女の肉体の全部又は一部を露出し,卑わいな感じを与えるも
の,かつ,(イ)動作が性的行為を露骨に表現し,若しくは容易に連想させ,卑わい
な感じを与えるもの又はせりふ,説明,口上,歌曲等言語が著しく卑わいな感じを
与えるものに該当し,都青少年条例8条1項1号に規定する「著しく性的感情を刺激
し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがある」と認められるものであることか
ら,同DVD及びCD-ROMを含む本件図書4を不健全な図書類として指定した。
(e) 本件図書5(「DOS/V USER」平成12年11月号,甲2の3)関

ⅰ 本件図書5は,誌面112頁(表紙及び裏表紙を除く。)及びCD-R
OMで構成されている。CD-ROMは,DISC:1(実用編)及びDISC:2(映像
編)の2枚である。
  このうち,本件図書5の誌面に関し,都青少年条例8条1項1号に規
定する不健全な部分は存在しないものの,本件図書5に付属するCD-ROM2枚の
うち,DISC:2(映像編)の収録内容の一部に不健全な部分が存在することから,
被告は,本件指定3をしたものである。
  すなわち,本件図書5に付属するDISC:2(映像編)には,「フル
サイズ!アダルトムービーDX」,「ノンストップアダルトムービー」,「AV撮影
現場に突入」,「DVDタイトル紹介」,「禁断のインターネット」と題する各コンテ
ンツ中にアダルトビデオのダイジェスト版ともいうべき映像が27タイトル,時間に
して約70分間収録されていることが認められ,いずれも都青少年条例8条1項1号の要
件に該当するものであるが,同映像は,動画及び音声で構成される一体となった映
像であり,かつ,上記のとおり極めて長時間,多数に及ぶことから,以下,その一
例を挙げて説明する。
ⅱ 上記DISC:2(映像編)に収録される「フルサイズ!アダルトムー
ビーDX」と題するコンテンツ中の「δ」のアダルトビデオ映像は,多数の男優が集
団で女優を押さえつけ,性交を強いるなど,性戯の場面が直接的,かつ,露骨に演
じられ,卑わいな声とともに性交及び射精そのものを見せ場としているものであ
り,特に,同ビデオ映像における性交等の描写は,モザイクが薄く,明確とまでは
いえないとしても,男女の性器が約1分,かなり明確に描写されていることが認めら
れる。
ⅲ 上記一例をはじめ,同DISC:2(映像編)中に収録されているアダル
トビデオ映像(別表5のうち○印を付したもの)が,上記の都認定基準のうち,(ア)
男女の肉体の全部又は一部を露出し,卑わいな感じを与えるもの,かつ,(イ)動作
が性的行為を露骨に表現し,若しくは容易に連想させ,卑わいな感じを与えるもの
又はせりふ,説明,口上,歌曲等言語が著しく卑わいな感じを与えるものに該当
し,都青少年条例8条1項1号に規定する「著しく性的感情を刺激し,青少年の健全な
成長を阻害するおそれがある」と認められるものであることから,同DISC:2(映像
編)を含む本件図書5を不健全な図書類として指定した。
(f) 本件図書6(「遊ぶインターネット」平成12年12月号,甲3の3)関係
ⅰ 本件図書6は,誌面80頁(表紙及び裏表紙を除く。)及びCD-RO
Mで構成されている。CD-ROMは,DISC:1(素材スペシャル3000),DIS
C:2(カンタン年賀状作成)及びDISC:3(大人のCD-ROM)の3枚である。
  このうち,本件図書6の誌面に関し,都青少年条例8条1項1号に規
定する不健全な部分は存在しないものの,本件図書6に付属するCD-ROMの収録
内容の一部に不健全な部分が存在することから,被告は,本件指定3をしたものであ
る。
  すなわち,本件図書6に付属するDISC:3(大人のCD-ROM)
には,「2000年ベストAVムービー60連発」,「超鮮明!DVDムービー体験」及び
「完全保存版!AV100年史20世紀のアダルトベスト版」と題する各コンテンツ中
に,アダルトビデオのダイジェスト版ともいうべき映像が60タイトル,時間にして
約40分間収録されていることが認められ,いずれも都青少年条例8条1項1号の要件に
該当するものであるが,同映像は,動画及び音声で構成される一体となった映像で
あり,かつ,上記のとおり極めて長時間,多数に及ぶことから,以下,その一例を
挙げて説明する。
ⅱ 上記DISC:3(大人のCD-ROM)に収録される「2000年ベス
トAVムービー60連発」と題するコンテンツ中の「ε」というタイトルのアダルトビ
デオ映像は,女優が男優の性器を口唇愛撫する場面のアップや,性交等の性戯の場
面が直接的,かつ,露骨に演じられ,卑わいな声とともに,性交そのものを見せ場
としているものであり,特に,右ビデオ映像における性交等の描写は,モザイクの
薄い消し方で,とりわけ男優の性器が約4秒間,かなり明確に描写されていることが
認められる。
ⅲ 上記一例をはじめ,同DISC:3(大人のCD-ROM)中に収録
されているアダルトビデオ映像(別表6のうち○印を付したもの)が,上記の都認定
基準のうち,(ア)男女の肉体の全部又は一部を露出し,卑わいな感じを与えるも
の,かつ,(イ)動作が性的行為を露骨に表現し,若しくは容易に連想させ,卑わい
な感じを与えるもの又はせりふ,説明,口上,歌曲等言語が著しく卑わいな感じを
与えるものに該当し,都青少年条例8条1項1号に規定する「著しく性的感情を刺激
し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがある」と認められるものであることか
ら,同DISC:3(大人のCD-ROM)を含む本件図書6を不健全な図書類として指
定した。
(g) 本件図書7(「DOS/V USER」平成12年12月号,甲2の4)
関係
ⅰ 本件図書7は,誌面112頁(表紙及び裏表紙を除く。)及びCD-
ROMで構成されている。CD-ROMは,DISC:1(実用編)及びDIS
C:2(映像編)の2枚である。
  このうち,本件図書7の誌面に関し,都青少年条例8条1項1号に規
定する不健全な部分は存在しないものの,上記CD-ROM2枚のうちのDIS
C:2(映像編)に収録される映像の一部に不健全な部分が存在することから,被告
は,本件指定4をしたものである。 上記映像は,動画及び音声で一体となった映像
であり,かつ,極めて長時間,多数に及ぶことから,以下,その一例を挙げて説明
する。
ⅱ 上記DISC:2(映像編)に収録される「フルサイズ!アダルト
ムービーDX」と題するコンテンツ中の「ζ」というタイトルの映像では,男優と
女優の性交の場面,口内に男優の射精を受けた女優の口許を強調する場面,また,
女優が男優の性器を口唇愛撫し,口内に射精を受けたり,仰臥した男優の顔に馬乗
り座りになった女優の性器を男優が口唇愛撫するなどの場面が,時間にして約4分
30秒間,直接的,かつ,露骨に演じられ,卑わいな声とともに性交等の性戯そのも
のを見せ場としているものであり,特に,当該ビデオ映像における性交等の描写
は,モザイク処理がなされてはいるが,男女の性交や性戯の場面,また,とりわけ
男優の性器がかなり明確に描写されている。
ⅲ 上記一例をはじめ,同DISC:2(映像編)中に収録されている
アダルトビデオ映像(別表7のうち○印を付したもの)が,上記の都認定基準のう
ち,(ア)男女の肉体の全部又は一部を露出し,卑わいな感じを与えるもの,かつ,
(イ)動作が性的行為を露骨に表現し,又は容易に連想させ,卑わいな感じを与えるも
の又はせりふ,説明,口上,歌曲等言語が著しく卑わいな感じを与えるものに該当
し,都青少年条例8条1項1号に規定する「著しく性的感情を刺激し,青少年の健全な
成長を阻害するおそれがある」と認められるものであることから,同DISC:2
(映像編)を含む本件図書7を不健全な図書類として指定した。
(h) 本件図書8(「遊ぶインターネット」平成13年1月号,甲3の4)関

ⅰ 本件図書8は,誌面80頁(表紙及び裏表紙を除く。)並びにDVD
及びCD-ROMで構成されている。
  このうち,本件図書8の誌面に関し,都青少年条例8条1項1号に規
定する不健全な部分は存在しないものの,上記DVD及びCD-ROMに収録され
る映像の一部に不健全な部分が存在することから,被告は,本件指定4をしたもので
ある。
  上記映像は,動画及び音声で一体となった映像であり,かつ,極
めて長時間,多数に及ぶことから,以下,その一例を挙げて説明する。
ⅱ 上記DVDに収録される「最新AVムービー」と題するコンテン
ツ中の「η」というタイトルのアダルトビデオ映像は,マット状のベッドの上で,
ローションまみれになった男優と女優が,互いに相手の性器を口唇愛撫する場面や
性交等の性戯の場面が,時間にして約40秒間,直接的,かつ,露骨に演じられ,卑
わいな声とともに性交そのものを見せ場としているものであり,同DVD映像にお
ける性交等の描写には,モザイク処理が施されているが,DVD映像特有の高画
質,高音質ともあいまって,男女の性交等の性戯の場面,とりわけ男優の性器など
がかなり明確に描写さている。
ⅲ 上記一例をはじめ,同DVD及びCD-ROM中に収録されてい
るアダルトビデオ映像(別表8の1及び2のうち○印を付したもの)が,上記の都認定
基準のうち,(ア)男女の肉体の全部又は一部を露出し,卑わいな感じを与えるもの,
かつ,(イ)動作が性的行為を露骨に表現し,又は容易に連想させ,卑わいな感じを与
えるもの又はせりふ,説明,口上,歌曲等言語が著しく卑わいな感じを与えるもの
に該当し,都青少年条例8条1項1号に規定する「著しく性的感情を刺激し,青少年の
健全な成長を阻害するおそれがある」と認められるものであることから,同DVD
及びCD-ROMを含む本件図書8を不健全な図書類として指定した。
イ 都青少年条例15条1項違反の主張について
a 都青少年条例8条によれば,不健全な図書類の指定は,図書類を単位と
して行うことを前提にしており,同条例15条は,この指定をするときは,都審議会
の意見を聞かなければならないと定めているから,図書類を単位として,都審議会
の意見を聞けば足りるものと解される。
  また,同条例15条は,知事が同条例8条の規定による不健全な図書類の
指定をしようとするときには,都審議会の意見を聞かなければならないと定めてい
るものの,これに拘束されるとは定めていない。これによれば,被告が不健全な図
書類の指定をする場合には,都審議会の意見を聞く必要はあるものの,その意見を
聞いた以上は,自己の責任において,不健全な図書類の指定をすべきか否かを決定
しなければならないのであり,その際,都審議会の意見と知事の意見が異なること
もあり得るが,その場合には,知事は自己の責任で都審議会の意見を採用せずに自
らの見解に従い指定をすべきか否かを決定することになる。そうすると,知事は,
都審議会の意見とは別の理由,根拠に基づき,不健全な図書類の指定をすることが
できるというべきことになる。
  次に,都青少年条例15条は,知事が都審議会の意見を聞かなければな
らない事項について定めるのみで,その審議の程度について定めているわけではな
い。知事から意見を求められた都審議会が,これに対する意見を述べるにあたり,
意見を求められた図書類について,どの程度視聴し,審議すべきかは,都審議会自
らが合理的に決すべき事項というべきであり,必ずしも当該図書類の隅々にわたり
視聴を尽くさなければならないことまで,都青少年条例で義務づけているわけでは
ない。
  以上によれば,被告は,都青少年条例8条1項の規定による不健全な図
書類の指定をしようとする場合には,当該図書類について,都審議会の意見を聞く
必要はあるが,当該図書類について,不健全な図書類として指定すべきか否かの意
見を聞けば足りるのであって,それ以上に,当該図書類の細部にわたって,個別事
項ごとに意見を聞かなければならないということはできない。したがって,都青少
年条例15条は,指定に当たりすべてのコンテンツに示される作品を視聴し,そのす
べてについて意見を求めることまで求めるものではないから,原告の主張は理由が
ない。
b 都審議会において審議委員が視聴したコンテンツは,本件各図書それ
ぞれにつき1ないし2つであるが,これらは本件各指定の理由となる事実の一部にす
ぎない。すなわち,各審議会において付議の対象となっていたのは,問題となって
いるすべてのコンテンツであり,会議の効率性等から,その一部を実際に視聴した
にすぎないのである。そうであるとすれば,各審議会で実際に視聴していない各コ
ンテンツに係る被告の主張は,理由の差替え(追加)に当たらないものである。
  また,仮に理由の差替え(追加)にあたるとしても,要件事実の同一性
が損なわれない限り,理由の差替え(追加)は許容されると解されるところ,本件で
問題となっている各コンテンツは,いずれも都審議会で実際に視聴したものと同じ
ような「著しく性的感情を刺激し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがある」
事実であるから,要件事実の同一性を害するものと評価することはできず,そうで
あるとすれば,,理由の差替え(追加)が許容されるというべきである。
(4) 本件各指定の都行政手続条例13条違反の主張について
ア 原告は,本件各指定が都行政手続条例2条1項4号の規定する不利益処分に
当たることを前提に,本件各指定に際して,同条例13条1項2号に定める弁明の機会
が付与されなかったから,手続に違法がある旨主張する。
しかし,上記(1)のとおり,本件各指定はそもそも処分性を有しないもの
であり,都行政手続条例の規定する「処分」(同条例2条1項2号)にも当たらないもの
であるが,仮に,本件各指定が同号の処分に当たるとしても,以下に述べるとお
り,同条例2条1項4号にいう不利益処分には当たらないので,原告の主張はその前提
において誤っている。
イ 都行政手続条例2条1項4号は,不利益処分を,「行政庁が,条例等に基づ
き,特定の者を名あて人として,直接に,これに義務を課し,又はその権利を制限
する処分をいう。」と定義している。
  上記規定は,行政手続法2条1項4号が規定する不利益処分の定義とほぼ同
一であるところ,同法の同規定は次のように解されている。
  「名あて人」とは,不利益処分が規律の対象としている形式的な相手方
をいう。当該不利益処分により,社会的・経済的に不利益を被る者とは必ずしも一
致しない。「特定の者」を名あて人としない処分は,その処分の内容としての「義
務を課し,又はその権利を制限する」という法的効果を受ける者が存在する場合で
あっても,行政手続法2条1項4号にいう「不利益処分」には該当せず,同法第3章
(不利益処分)の規定は適用されない。
  このようなカテゴリーに属するものとしては,理論上の「一般処分」な
いし「対物処分」が考えられ,これらは個別処分の束とも観念できるものである
が,個々の相手方の個性を意識しないものであり,特定の者を名あて人とする不利
益処分には当たらない。
  以上の行政手続法の解釈は,規定の文言がほぼ同一である都行政手続条
例にも妥当するといい得る。
ウ 都青少年条例8条2項は,同条1項の規定による不健全な図書類の指定は,
指定するものの名称,指定の理由その他必要な事項を告示することによってこれを
行わなければならないと規定する。さらに,同条3項は,知事は,前2項の規定によ
り指定したときは,直ちに関係者にこの旨を周知しなければならないと規定する。
  被告は東京都公報で告示することにより本件各指定を行ったが,東京都
公報の記載内容は,同条例8条1項の規定により,青少年の健全な育成を阻害するも
のとして指定すること,及び指定対象となる図書類の①指定番号,②種類,③名
称,号刊及び発行所等,④指定理由であり,同告示には,原告を含め特定の名あて
人の記載は存しない。
  以上のとおり,本件各指定は,東京都公報に登載することによる告示に
よって行われたものであって,対物処分の域を出るものではなく,特定の者を名あ
て人としてなされたものではない。
  なお,原告は,本件各指定が原告を名あて人とする不利益処分に当たる
根拠として,原告に対する通知(甲1の1ないし4)を挙げるが,これは,同条例8条
3項の規定に基づき,本件各指定がなされたことを関係者に周知するためになされた
単なるお知らせにすぎない。
エ 以上のとおり,本件各指定は都行政手続条例が定める不利益処分に当た
らないので,同条例13条1項2号に定める弁明の機会が付与されていないから手続に
違法があるとの原告の主張は理由がない。
オ なお,行政手続について,憲法31条による法定手続の保障が及ぶと解す
べき場合があるとしても,行政手続は,行政目的に応じて多種多様であり,行政処
分の相手方に事前の告知,弁解,防御の機会を与えるかどうかは,行政処分により
制限を受ける権利利益の内容,性質,制限の程度,行政処分により達成しようとす
る公益の内容,程度,緊急性等を総合考慮して決定されるべきものであって,常に
必ずそのような機会を与えることを必要とするというものではないから,本件各指
定に当たってこれが必要であるということはできない。
(5) 本件各指定は理由の提示を欠くとの主張について
ア 本件各指定は,上記(1)のとおり,そもそも「処分」ではないし,仮に処
分といえるとしても,上記(4)のとおり,特定の者を名あて人として行った不利益処
分には当たらないから,不利益処分について定めた行政手続条例14条に違反すると
の原告の主張はその前提において誤っている。
イ 都青少年条例8条2項は,不健全な図書類の指定は,指定の理由を告示す
ることによって行わなければならないと規定するので,以下において,本件各指定
に係る告示が上記の要件を充たしているか否かを検討する。
a 本件各指定は,都青少年条例8条2項に基づく告示により実施され,告
示の内容として,同項が規定している「指定理由」について,「著しく性的感情を
刺激し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがある。」との記載がされた。上記
の記載内容は,同条例8条1項1号の規定とほぼ同様の内容であるから,ここで検討す
べき点は,都青少年条例8条1項1号の根拠規定を示すだけで,同条2項の要求する理
由付記として足りるというべきであるか否かということになる。
b 最高裁平成4年12月10日第一小法廷判決・判例時報1453号116頁は,公
文書の非開示決定が理由付記の要件を欠き違法であるとして争われた事件である
が,同判決は,理由付記に関し,どの程度の理由を付記すべきかについては,処分
の性質と理由付記を命じた各法令の趣旨・目的に照らして判断すべきであるとした
うえで,「単に非開示の根拠規定を示すだけでは,当該公文書の種類,性質等とあ
いまって開示請求者がそれらを当然に知り得るような場合は別として,本条例7条
4項の要求する理由付記としては十分でないといわなければならない。」と判示し
た。
  この判決によれば,当該文書の種類,性質等とあいまって開示請求者
が非開示の理由を当然に知り得るような場合には,単に非開示の根拠規定を示すだ
けで足りると解される。
  これを本件についてみると,本件各図書には程度や量の差こそあれ,
いずれもアダルトビデオの映像が本件各図書に付属するCD-ROM若しくはDV
Dに収録され,さらに,その映像は,動画及び音声で一体となり,極めて長時間,
多数に及んでいることが認められる。
  上記のような映像は,客観的にみて,それ自体が都青少年条例8条1項
1号にいう「青少年に対し著しく性的感情を刺激し」,「青少年の健全な成長を阻害
するおそれがあると認められるもの」であることは一見して明白に判断できるもの
であるといわざるを得ない。
  したがって,本件各指定においては,条例の根拠規定を示すだけで理
由付記として足りる場合に該当するといえるので,都青少年条例8条2項に基づく理
由付記についても,原告の主張には理由がない。
(6) 本件各指定が権限ゆ越ないし権限濫用であるとの主張について
原告が問題とする関係団体の自主規制は,被告が都青少年条例に基づき本
件各図書を不健全な図書類と指定することによって発生する法的効果ではなく,自
主規制という言葉からも明らかなとおり,関係団体で実施されている事実上の措置
にすぎない。被告が本件各指定によって実現しようとした目的は,青少年の健全な
育成を図ることであって(同条例1条),これを超える目的は有していない。
都の担当者が上記自主規制を認識していることは,青少年の健全育成の担
当者として当然のことであり,このことをもって,本件各指定に当たり,被告が
「DOS/V USER」及び「遊ぶインターネット」を一般流通市場から排除す
ることを真の目的としていたという原告の主張は,こじつけというほかない。
したがって,本件各指定が権限ゆ越ないし権限濫用に当たるとの主張も失
当である。
4 争点
 以上によれば,本件の争点は,次のとおりである。
(1) 都青少年条例8条の規定による不健全な図書類の指定は,行政事件訴訟法
3条2項の規定する処分に当たるか否か。            (争点1)
(2) 都青少年条例8条1項,9条の規定は,憲法の次の各条項に違反するか否か
                                 (争点
2)
ア 憲法21条1項(事前抑制の禁止),2項(検閲の禁止)
イ 憲法21条1項(より制限的でない他の選び得る手段のテスト等)
ウ 憲法31条(構成要件の明確性)
エ 憲法14条
(3) 本件各指定は,次の点で都青少年条例に適合しているか否か。
                                 (争点
3)
ア 本件各図書は同条例8条1項の定める不健全な図書類に該当するか。
イ 本件各指定に当たり,同条例15条1項の違反があったか。
(4) 本件各指定は都行政手続条例13条に違反するか否か。     (争点
4)
(5) 本件各指定は理由の提示を欠くものとして違法か否か。    (争点
5)
(6) 本件各指定が権限ゆ越ないし権限濫用に当たるか否か。    (争点
6)
第3 当裁判所の判断
1争点1について
(1)ア 東京都においては,青少年の環境の整備を助長するとともに,青少年の
福祉を阻害するおそれのある行為を防止し,もって青少年の健全な育成を図ること
を目的として,都青少年条例が制定されている(同条例1条参照)。
   同条例は,不健全な図書類の販売等の規制について,図書類の発行,販
売又は貸付けを業とする者は,図書類の内容が,青少年に対し,性的感情を刺激
し,又は残虐性を助長し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認めると
きは,相互に協力し,緊密な連絡の下に,当該図書類を青少年に販売し,頒布し,
若しくは貸し付け,又は観覧させないように努めなければならない(7条)と定め
て,図書類の発行者等の自主規制を促す規定を置くと同時に,「販売され若しくは
頒布され,または閲覧若しくは観覧に供されている図書類又は映画等で,その内容
が,青少年に対し,著しく性的感情を刺激し,またははなはだしく残虐性を助長
し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの」については,
知事において,青少年の健全な育成を阻害するものとして指定することができる旨
を定めている(8条1項1号)。
イ 上記の指定に当たっては,前記のとおり,都認定基準が設けられてお
り,それによれば,都青少年条例8条1項1号の規定する「著しく性的感情を刺激(す
る)」と認められるものとは,原則として次のとおりとするとされている。
a 図書類(ビデオテープ及びビデオディスク並びにコンピュータ用のプ
ログラム又はデータを記録したシー・ディー・ロムその他の電磁的方法による記録
媒体を除く。)の指定に関する認定基準(同基準第2(1))
(ア) 男女の肉体の全部又は一部を露骨に表現し,卑わいな感じを与え
るもの
(イ) 性的行為を露骨に表現し,又は容易に連想させ,卑わいな感じを
与えるもの
(ウ) 医学的,民俗学的その他学術的内容であっても,性に関する描
写,表現が青少年に対し性的劣情を刺激するもの
(エ) 前記のほか,素材,描写,表現等が前記(ア)から(ウ)までと同程
度に卑わいな感じを与えるもの
b コンピュータ用のプログラム又はデータを記録したシー・ディー・ロ
ムその他の電磁的方法による記録媒体の指定に関する認定基準(同基準第2(3))
(ア) 男女の肉体の全部又は一部を露骨に表現し,卑わいな感じを与え
るもの
(イ) 動作が性的行為を露骨に表現し,若しくは容易に連想させ,卑わ
いな感じを与えるもの又はせりふ,説明,口上,歌曲等言語が著しく卑わいな感じ
を与えるもの
(ウ) 記録されたプログラムを実行することにより,擬似的に著しく卑
わいな体験をさせるもの
(エ) 医学的,民俗学的その他学術的内容であっても,性に関する描
写,表現が青少年に対し,性的劣情を刺激するもの
(オ) 前記のほか,素材,描写,表現等が前記(ア)から(エ)までと同程
度に卑わいな感じを与えるもの
ウ 知事は,上記の指定をしようとするときは,都審議会の意見を聞かなけ
ればならならず(都青少年条例15条1項),また,都審議会の意見を聞く場合におい
て,都青少年条例7条に規定する自主規制を行っている団体があるときは,必要に応
じ,当該団体の意見を聞かなければならないものとされている(同条2項)。
  そして,知事の都青少年条例8条1項の規定に基づく指定は,「指定する
ものの名称,指定の理由その他必要な事項」を告示することによって行われる(同
条2項)。
  なお,知事は,上記の指定をしたときは,直ちに関係者にこの旨を周知
しなければならないものとされている(同条3項)が,指定に先立って,図書類の発
行,販売又は貸付けを業とする者の意見等を聞くべき旨の規定は設けられていな
い。
エ 都青少年条例8条1項の規定に基づく知事の指定がされると,販売業者等
は,当該指定図書類を青少年に販売し,頒布し,又は貸し付けてはならず(9条
1項),また,何人も,青少年に当該指定図書類を閲覧させ,又は観覧させないよう
に努めなければならないこととなる(同条2項)。
  そして,前記9条1項の規定に違反して青少年に指定図書類を販売し,頒
布し,又は貸し付けた者に対しては,都青少年条例17条所定の関係公務員は,警告
を発することができ(18条1項1号,2項),上記の警告に従わず,なお,都青少年条例
9条1項の規定に違反した者は,30万円以下の罰金又は科料に処せられる(25条)こと
とされている。
(2) (1)によれば,知事が同条例8条1項の規定に基づいて行う不健全な図書類
の指定は,当該図書類を発行,販売又は貸付けする者等の主観的な事情は斟酌され
ず,専ら対象となる図書類の内容が同項1号及び都認定基準の定めるものであるか否
かの点に着目して認定判断がされるものであり,指定の方法も,「指定するものの
名称,指定の理由その他必要な事項」を告示することによって行われることからす
れば,その性格は,当該図書類を対象として行われるいわば対物的な処分であっ
て,特定の個人又は団体を名あて人として行われるものではないと解するのが相当
である。
(3) ところで,原告のように雑誌の発行を行う者は,一般に,当該書籍を制作
し,これを,取次店を経由し又は自ら直接読者に販売する方法によって流通におく
ことを予定しているものであるところ,自らの発行にかかる雑誌が都青少年条例8条
1項の規定に基づく不健全な図書類の指定を受けた場合,当該指定図書類について,
これを青少年に対して販売,頒布及び貸し付けてはならないとの制限が生じること
によって,もともと自由であった当該雑誌の流通販売が一定の範囲で制約されると
いう法的な不利益が生じることは明らかである。
  そうであるとすれば,本件各指定は,行政事件訴訟法3条2項所定の取消訴
訟の対象となる処分に当たるというべきであり,本件各図書を発行する原告にはそ
の取消しを求める利益があるものと解される。
(4) したがって,被告の本案前の主張は理由がない。
2 争点2について
(1) 憲法21条1項(事前抑制の禁止),2項(検閲の禁止)関係の主張について
ア 原告の憲法21条2項(検閲の禁止)違反の主張について
a 憲法21条2項にいう検閲とは,行政権が主体となって,思想内容等の表
現物を対象とし,その全部又は一部の発表の禁止を目的として,対象とされる一定
の表現物につき網羅的一般的に,発表前にその内容を審査したうえ,不適当と認め
るものの発表を禁止することを,その特質として備えるものを指すと解するのが相
当である(上記最高裁昭和59年12月12日大法廷判決,最高裁昭和61年6月11日大法廷
判決・民集40巻4号872頁参照)。
b これに対し,都青少年条例8条,9条の規定による規制は,既に発表さ
れている図書類を対象とするものであって,当該発表済みの図書類が同条例8条1項
各号の要件に当たる場合に,これを不健全な図書類として指定し,これにより,販
売業者等において当該指定図書類を青少年に対して販売すること等が禁止されると
いう効果が生じるものである。ちなみに,同条例8条1項の不健全な図書類の指定に
ついての審査の対象となる図書類は,雑誌類が発売された後において,都の担当者
が書店やコンビニエンスストア等で購入したものである(甲32の2ないし3,乙22,
証人鵜沢)。
  また,仮に都青少年条例8条の規定による不健全な図書類の指定があっ
たとしても,販売業者等において青少年以外の者に当該指定図書類を販売すること
等が禁止されるわけではない。
c このように,都青少年条例による規制は,当該図書類の発表前にその
内容を審査して,その発表を禁止するものではないから,憲法21条2項の規定する検
閲に当たると解することはできない。
イ 原告の憲法21条1項(事前抑制の禁止)違反の主張について
a(a) 都青少年条例8条の規定により不健全な図書類の指定を受けると,
販売業者等が当該指定図書類を青少年に販売すること等が禁止されるから,それ以
後は,受け手において当該指定図書類を入手する途が制限されることになり,その
意味で,上記指定には事前抑制的な性格が存するということができる。
(b)ⅰ しかし,青少年は,一般的にみて,精神的に未熟であって,提
供される知識や情報を自ら選別して自己の人格形成に資するものを取得していく能
力を十分に有しているわけではなく,偏ったあるいは正確性を欠く興味本位の情報
にさらされた場合には,その影響を受け易いから,成人と同等の知る自由を保障さ
れる前提を欠くばかりでなく,むしろ,青少年の知る自由に一定の制約を加えて,
青少年の精神的未熟さに由来する害悪から保護されるべき必要性が存するというべ
きである。そうであるとすると,ある表現が受け手として青少年に向けられている
場合には,その表現の自由の制約に関する憲法適合性の判断については,成人に対
する表現の規制に関するような厳格な審査基準は適用されないものと解するのが相
当である。
   そして,都青少年条例は,上記のような観点から,青少年の福祉
を阻害するおそれのある行為を防止することなどにより,青少年の健全な育成を図
ることを目的としているものであり(1条),同条例8条,9条の規定も,この目的を
達するために,青少年を有害な図書類から遠ざけようとするものである。
ⅱ また,都青少年条例8条の規定により不健全な図書類の指定がされ
たとしても,販売業者等において青少年以外の者に当該指定図書類を販売すること
等が禁止されるわけではない。
ⅲ さらに,都青少年条例においては,不健全な図書類の指定に違反
して,販売業者等が青少年に指定図書類を販売するなどしても,これにより直ちに
刑罰が適用されるのではなく,まず関係公務員が警告を発し,その警告後において
もなお違反行為が継続した場合に,初めて刑罰が適用されることとなっている。
  このような方式は,いわゆる包括指定方式,すなわち,問題とな
る紙面等が予め知事が定める一定の分量以上であれば,それが店頭に陳列された時
点で個別指定したのと同様の効果が発生し,販売業者等が販売行為を継続すれば,
行政当局は警告を発することなく,直ちに刑罰を適用することができるという方式
に比べると,事前抑制的な側面にも一定の配慮を加えているということができる。
ⅳ 以上のほか,都青少年条例8条1項1号の規定が,後述のとおり,不
明確であるとはいえないことも踏まえて総合的にみると,同条例8条の規定による不
健全な図書類の指定に事前抑制的な側面があるとしても,これをもって憲法21条1項
の規定に違反するということはできないというべきである。
b 原告は,出版倫理協議会による自主規制との関係で,被告が出版の事
前規制を意図して不健全な図書類の指定をしているものであるから,憲法21条の規
定する事前抑制の禁止に違反する旨主張する。
(a) 確かに,証拠(甲23,25)及び弁論の全趣旨によれば,都の担当
者は,第2,2(4)のとおりの出版倫理協議会の自主規制があり,そのため,特定の雑
誌類が都青少年条例8条の規定による不健全な図書類の指定を連続して3回受ける
と,当該雑誌類は事実上流通が困難になることを認識していたことが認められる。
  しかし,都青少年条例は,図書類の発行,販売等を業とする者は,
不健全な図書類を青少年に販売等しないよう努めなければならない旨規定し(7
条),また,都審議会に指定の諮問をする場合には,必要に応じ自主規制団体の意
見を聞くべきものと規定するなど(15条2項),同条例自体が関係業者による自主規
制を前提としているのであるから,都の担当者が上記出版倫理協議会の自主規制の
存在及び内容を知っているのは,その職責に照らすと当然というべきであって,こ
れだけで直ちに,被告において,連続3回指定された雑誌について,次号以降の雑誌
の内容を規制する意図のもとに不健全な図書類の指定をしているなどと認めること
はできない。
(b) 原告は,その主張の根拠として,民間諸団体による自主規制が存
在せず,事実上の廃刊という効果が期待できない単行本については,被告が全く調
査の対象にしていないことを指摘する。
  しかし,証人関口の供述によると,被告において単行本を不健全な
図書類の指定の調査対象にしていないのは,現在の担当部署の人的状況では,単行
本にまで手が回らないためであることが認められるのであって,自主規制の存否と
は関係がない。
(c) 他に,被告が出版の事前規制を意図して不健全な図書類の指定を
していることを認めるに足りる証拠はない。
(d) 以上のとおり,この点に関する原告の主張は理由がない。
ウ したがって,原告の憲法21条1項(事前抑制の禁止),2項(検閲の禁
止)違反の主張は,いずれも理由がない。
(2) 憲法21条1項(より制限的でない他の選び得る手段のテスト等)関係の主
張について
ア より制限的でない他の選び得る手段のテストについて
a 原告は,本件各図書に関する知る権利を,①青少年が「不健全」な部
分を知る権利,②青少年が「健全」な部分を知る権利,③成人が「不健全」な部分
を知る権利,④成人が「健全」な部分を知る権利の4つに分類したうえ,規制が許さ
れるのは上記①の権利のみであって,上記②ないし④の権利を制約することは許さ
れないから,かかる場合の合憲性判定基準としては,より制限的でない他の選び得
る手段のテストであるところの分量的基準によるべきである旨主張する。
b(a) しかし,表現行為が青少年に向けられている場合には,その表現
の自由の制約に関する憲法適合性の判断について,成人に対する表現の規制に関す
るような厳格な審査基準は適用されないものと解すべきことは,上記(1)イa(b)ⅰ
で述べたとおりであるから,都青少年条例8条,9条の合憲性審査基準として,直ち
により制限的でない他の選び得る手段のテストによるべきであるということはでき
ない。
(b)ⅰ ところで,不健全な図書類の指定をすることにより,青少年に
とっては,上記①の権利(青少年が「不健全」な部分を知る権利)ばかりでなく,
上記②の知る権利(青少年が「健全」な部分を知る権利)も制約されることは否め
ないが,これは,それぞれを含む部分が一体となった書籍等については,やむを得
ないものというべきである。
 ⅱ 原告は,不健全な図書類の指定により,成人の有する上記③の権
利(成人が「不健全」な部分を知る権利)及び④の知る権利(成人が「健全」な部
分を知る権利)も制約される旨主張するが,不健全な図書類に指定されたとして
も,販売業者等が成人に当該指定図書類を販売することはなんら制限されないもの
である。
   この点,原告は,不健全な図書類に指定された場合には,取次業
者やコンビニエンスストアなどが当該指定図書類を扱わなくなる旨指摘するが,こ
れは自主規制ないしコンビニエンスストアなどの自主的判断によるものであって,
上記指定の効果とはいえない。
   そして,仮に不健全な図書類の指定によって,成人の有する上記
③及び④の知る権利が事実上なんらかの制約を受けることになったとしても,これ
は青少年保護の観点から必要とされる規制に伴って付随的に生じるものにすぎず,
やむを得ないものというべきである。
(c)ⅰ 原告は,不健全な図書類を規制する目的を是認しつつ,目的達
成に必要な範囲でのみ規制をする手段は,分量的基準による規制が合理的であると
主張する。
   しかし,ある図書類が青少年にとって不健全なものであるか否か
は,当該図書類中の不健全な部分の量の多寡のみによって決せられるべきものでな
く,分量的基準を採用している他の道府県の青少年保護条例においても,分量的基
準に基づく,みなし規定ないし知事による包括指定の規定のほか,知事が分量的基
準によることなく,個別的に有害ないし不健全な図書類を指定することができる旨
の規定も併せて設けられているところである(甲6,15,16の1,乙14)。
 原告は,不健全な部分の全体に占める割合が小さければ,当該図
書類は「不健全」と結び付けて認識されることはないから,青少年は「不健全」な
部分に触れる目的でこれにアクセスしようとは考えないと主張するが,不健全な部
分の全体に占める割合が小さいとしても,それを目的に青少年が当該図書類を購入
することも十分想定されることであり,かかる図書類から青少年を遠ざける必要性
が存しないということはできない。
 ちなみに,証拠(甲2の1ないし4,甲3の1ないし4)によると,本
件各図書の誌面には,目次等で,付属のCD-ROMないしDVDの内容を説明す
る箇所があり,そこでアダルト系のコンテンツが含まれていることが分かるように
なっており,また,甲7によると,本件図書2の読者アンケートでは,その1割強がア
ダルトビデオ紹介部分を目的として当該図書を購入したことが認められる。
ⅱ また,原告は,CD-ROMやDVDの場合の具体的な分量的基
準として,問題となる映像の連続描写時間が3分を超えるか否かによるべきである旨
主張する。
 しかし,この基準を本件各図書に添付されたCD-ROMやDV
Dに当てはめてみると,証拠(甲2の1ないし4,甲3の1ないし4)によれば,これら
のCD-ROM等のそれぞれには,そのほとんどが3分を超えないものの,後記のと
おり,問題となるコンテンツが多数含まれており,その合計時間は相当長くなって
いることが認められる。このような場合,個々のコンテンツの映像の連続描写時間
が3分を超えていないからといって,これらのコンテンツの存在が青少年の接近動機
とならないと認めることが合理的とは解されない。
 現に,分量的基準により有害図書類を包括的に定めるとともに,
知事による有害図書類の個別指定の規定をも設けている他の道府県の青少年保護条
例においても,知事による個別指定の規定が設けられている。
 そうであるとすれば,原告が具体的に主張する分量的基準が必ず
しも合理的であるとはいい難い。
ⅲ 以上のことからすると,都青少年条例が不健全な図書類の指定要
件として分量的基準を採用していないとしても,これが不合理であるとはいえな
い。
(d) 以上の点からすると,都青少年条例8条の規定が不健全な図書類の
指定基準として分量基準を採用していないからといって,憲法21条1項の規定に違反
するということはできないから,原告の上記主張は理由がない。
イ 立法の前提となる事実の欠缺の主張について
a 表現行為が青少年に向けられている場合には,その表現の自由の制約
に関する憲法適合性の判断について,成人に対する表現の規制に関するような厳格
な審査基準は適用されないものと解すべきことは,既に述べたとおりであり,著し
く性的感情を刺激し,又は著しく残忍性を助長する内容の図書類が,一般に思慮分
別の未熟な青少年の性に関する価値観に好ましくない影響を及ぼし,性的な逸脱行
為や残虐な行為を容認する風潮の助長につながるものであって,青少年の健全な育
成にとって有害であることについての社会共通の認識があれば足りるものと解する
のが相当である。
  証拠(乙21)及び弁論の全趣旨によると,当時の総務庁青少年対策本
部が平成10年9月に委託調査機関を通じて実施した調査報告によれば,保護者が考え
ている青少年の犯罪ないし非行の主な原因としては,「テレビ,新聞,雑誌などの
マスコミの影響があるから」が最も多く挙げられていること,少年を非行に駆り立
てる悪い社会的環境としては,約36パーセントの者がポルノ雑誌,アダルトビデオ
などの自動販売機を,約11パーセントの者がインターネットのアダルト番組を挙げ
ていることが認められ,これらの事実に照らしても,著しく性的感情を刺激する内
容の図書類が,上記のとおり青少年の健全な育成にとって有害であり,とりわけ,
著しく性的感情を刺激する内容の情報がCD-ROM等の電磁的方法による記録媒
体に記録されている場合には,その写実性等に照らし,一般の図書類に比べ,青少
年の健全な育成にとってより有害であるとの社会共通の認識があるということがで
きる。
b これに対し,甲22及び31(A教授の論稿,A意見書)には,性非行少
年が非行の原因として「アダルトビデオを模倣した。」というのは,少年らが責任
の軽減を図ってする「弁解」である可能性が高い,青少年が接触する性情報・性表
現の量と,性非行や現実の性行動とは逆比例するとの事実が観察される等の記述が
あることが認められるが,かかる記述の存在をもってしても,上記aのような社会
共通の認識が存することを否定するものとはいえない。
c 以上のとおり,都青少年条例8条1項,9条の規定の制定目的について,
立法の前提となる事実が欠けているということはできないから,原告の主張は理由
がない。
ウ したがって,原告の憲法21条1項(より制限的でない他の選び得る手段の
テスト等)違反の主張は,いずれも理由がない。
(3) 憲法31条(構成要件の明確性)関係の主張について
アa 都青少年条例の規定をみると,同条例8条1項1号は,不健全な図書類と
して指定する要件として,「その内容が,青少年に対し,著しく性的感情を刺激
し,またははなはだしく残虐性を助長し,青少年の健全な成長を阻害するおそれが
あると認められるもの」と規定しているが,青少年の健全な育成を阻害するおそれ
のある図書類を規制の対象としようとする場合,その要件の一部に,ある程度の抽
象的・評価的な概念を含む文言を使用することは避けられないものであり,これら
が含まれているからといって,上記の条例の文言自体が必ずしも不明確で漠然とし
ているとまではいえない。
b そして,証拠(甲5,乙22)及び弁論の全趣旨によると,上記規定の具
体的運用となる基準として,第2,1(2)のとおり,その認定基準を相当程度に具体的
事実に即して定めた都認定基準が設けられており,都認定基準は,「東京都青少年
健全育成関連条例の解説」(東京都生活文化局女性青少年部青少年課編集,平成12年
3月31日発行)に登載されており,同冊子は東京都及び区市町村の公立図書館に所蔵
され,一般に公開されていることが認められる。
c さらに,都青少年条例においては,販売業者等が不健全な図書類の指
定に違反して当該指定図書類を販売等した場合にも,直ちに刑事罰が科せられるわ
けではなく,関係公務員の警告を受けたにもかかわらず,なお違反行為を継続した
場合に刑事罰が科せられる仕組みとなっており,不健全な図書類の指定と刑事罰の
適用との間には警告の手続が介在されている。
イ 上記アの各点を総合的にみると,都青少年条例8条1項1号の規定が漠然か
つ不明確であって,憲法31条に違反するとまでいうことはできないというべきであ
る。
ウ したがって,この点に関する原告の主張は理由がない。
(4) 憲法14条関係の主張について
ア 原告は,都青少年条例の不健全な図書類に対する規制は,他の道府県の
規制に比して,漠然かつ不明確であり,大きな萎縮効果を生じさせるものであるか
ら,憲法14条1項に違反する旨主張する。
 しかし,規制文言の漠然かつ不明確性が,他の道府県の規制との比較の
観点から憲法14条1項違反の問題を生じ得るものであるか否かはともかく,都青少年
条例の規制文言が,他の道府県の条例に比べて,より漠然かつ不明確で,大きな萎
縮効果を生じさせるものであることを認めるに足りる証拠はない。
 むしろ,上記(2)アb(c)ⅰのとおり,分量的基準により包括的に有害な
いし不健全な図書類を定めている条例においても,知事による個別指定の途を残し
ており,しかも,同所掲記の証拠によれば,その個別指定の要件も,都青少年条例
8条1項1号とほとんど同じであることが認められる。
イ 原告は,都青少年条例による規制対象や各地域の実情等に照らすと,有
害ないし不健全な図書類の規制が各地域によって異なるのは不合理である旨主張す
るが,都青少年条例による規制が,同種の規制を定めている他の道府県の条例と比
較して,より漠然かつ不明確で,大きな萎縮効果を生じさせるものであること認め
られないことは,上記アのとおりである。
  また,この点をおくとしても,憲法が各地方公共団体の条例制定権を認
めている以上,地域によって規制の内容にある程度の差異を生ずることは,憲法自
体が容認するところであると解するのが相当であり,原告の主張する諸事情を考慮
したとしても,都青少年条例による規制が憲法14条1項に違反するとは解されない。
 なお,原告の指摘する取次会社やコンビニエンスストアの扱いは,取次
会社等の自主規制ないし自主的判断による事実上のものであって,不健全な図書類
の指定の効果ではないから,この点を取り上げて,都青少年条例の規制が地方の実
情に即していないとか,他の道府県の規制との平等性を欠くと論じるのは相当とは
いえない。
ウ したがって,都青少年条例による規制が憲法14条1項に違反するというこ
とはできないから,原告の主張は理由がない。
3 争点3について
(1) 本件各図書の都青少年条例8条1項該当性について
アa 本件図書1について
 証拠(甲2の1,甲41,49,53,乙15,25,29)によると,本件図書1に
付属するDVD及びCD-ROMに収録されているコンテンツのうち,別表1の1及
び2の○印を付したものには,いずれも,第2,3の被告の主張(3)アb(a)ⅱ記載の
内容の男女の性交等の場面が映し出されていることが認められる。
 そして,これらの内容はいずれも,都青少年条例8条1項1号にいう「著
しく性的感情を刺激し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがある」と認められ
るから,これらを含む本件図書1もまた,同項の規定する不健全な図書類に該当する
というべきである。
b 本件図書2について
 証拠(甲2の2,甲42,50,乙16,26)によると,本件図書2に付属する
DVD及びCD-ROMに収録されているコンテンツのうち,別表2の1及び2の○印
を付したものには,いずれも,上記被告の主張(3)アb(b)ⅱ記載の内容の男女の性
交等の場面が映し出されていることが認められる。
 そして,これらの内容はいずれも,都青少年条例8条1項1号にいう「著
しく性的感情を刺激し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがある」と認められ
るから,これらを含む本件図書2もまた,同項の規定する不健全な図書類に該当する
というべきである。
c 本件図書3について
 証拠(甲3の1,甲43,乙17)によると,本件図書3に付属するCD-R
OMに収録されているコンテンツのうち,別表3の○印を付したものには,いずれ
も,上記被告の主張(3)アb(c)ⅱ記載の内容の男女の性交等の場面が映し出されて
いることが認められる。
 そして,これらの内容はいずれも,都青少年条例8条1項1号にいう「著
しく性的感情を刺激し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがある」と認められ
るから,これらを含む本件図書3もまた,同項の規定する不健全な図書類に該当する
というべきである。
d 本件図書4について
 証拠(甲3の2,甲45,51,乙18,27)によると,本件図書4に付属する
DVD及びCD-ROMに収録されているコンテンツのうち,別表4の1及び2の○印
を付したものには,いずれも,上記被告の主張(3)アb(d)ⅱ記載の内容の男女の性
交等の場面が映し出されていることが認められる。
 そして,これらの内容はいずれも,都青少年条例8条1項1号にいう「著
しく性的感情を刺激し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがある」と認められ
るから,これらを含む本件図書4もまた,同項の規定する不健全な図書類に該当する
というべきである。
e 本件図書5について
 証拠(甲2の3,甲45,54,乙19,30)によると,本件図書5に付属する
CD-ROMに収録されているコンテンツのうち,別表5の○印を付したものには,
いずれも,上記被告の主張(3)アb(e)ⅱ記載の内容の男女の性交等の場面が映し出
されていることが認められる。
 そして,これらの内容はいずれも,都青少年条例8条1項1号にいう「著
しく性的感情を刺激し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがある」と認められ
るから,これらを含む本件図書5もまた,同項の規定する不健全な図書類に該当する
というべきである。
f 本件図書6について
 証拠(甲3の3,甲46,55,乙20,31)によると,本件図書6に付属する
CD-ROMに収録されているコンテンツのうち,別表6の○印を付したものには,
いずれも,上記被告の主張(3)アb(f)ⅱ記載の内容の男女の性交等の場面が映し出
されていることが認められる。
 そして,これらの内容はいずれも,都青少年条例8条1項1号にいう「著
しく性的感情を刺激し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがある」と認められ
るから,これらを含む本件図書6もまた,同項の規定する不健全な図書類に該当する
というべきである。
g 本件図書7について
 証拠(甲2の4,甲47,56,乙23,32)によると,本件図書7に付属する
CD-ROMに収録されているコンテンツのうち,別表7の○印を付したものには,
いずれも,上記被告の主張(3)アb(g)ⅱ記載の内容の男女の性交等の場面が映し出
されていることが認められる。
 そして,これらの内容はいずれも,都青少年条例8条1項1号にいう「著
しく性的感情を刺激し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがある」と認められ
るから,これらを含む本件図書7もまた,同項の規定する不健全な図書類に該当する
というべきである。
h 本件図書8について
 証拠(甲3の4,甲48,52,57,乙24,28,33)によると,本件図書8に
付属するDVD及びCD-ROMに収録されているコンテンツのうち,別表8の1及
び2の○印を付したものには,いずれも,上記被告の主張(3)アb(h)ⅱ記載の内容
の男女の性交等の場面が映し出されていることが認められる。
 そして,これらの内容はいずれも,都青少年条例8条1項1号にいう「著
しく性的感情を刺激し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがある」と認められ
るから,これらを含む本件図書8もまた,同項の規定する不健全な図書類に該当する
というべきである。
イ なお,原告は,都青少年条例8条1項の該当性判断においても,分量的基
準によるべきである旨主張するが,分量的基準を採用していない同項が憲法21条1項
に違反するものでないことは,上記2(2)アのとおりであるから,上記主張は採用で
きない。
 また,本件各図書には,青少年の健全な育成を阻害するおそれのないパ
ソコンに関する情報等も含まれているものではあるが,上記アのとおり,本件各図
書に添付されたDVDないしCD-ROMに収録されているコンテンツには,「著
しく性的感情を刺激し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがある」と認められ
るコンテンツが多数含まれており,その合計時間は相当長くなっていることに照ら
すと,これらのDVDないしCD-ROMと一体となっている本件各図書全体が不
健全な図書類に当たるというべきである。
ウ したがって,本件各図書は,いずれも都青少年条例8条1項1号の規定する
不健全な図書類に該当するものということができる。
(2) 都青少年条例15条1項違反の有無について
ア 原告は,都審議会の審議は形骸化しており,都の担当者の恣意的かつ独
善的な提案を追認するためのものにすぎなくなっている旨主張する。
a 原告は,その理由として,平成12年1月20日(第476回)から平成12年9月
21日(第486回)までの11回の都審議会において,都の担当者が用意してきた候補図書
等すべてについて,すべての審議委員が例外なく賛成していることを挙げる。
  しかし,都の担当者は,予め調査した図書類について,本件自主規制
団体との間で打合せ会を行い,その意見を聞いたうえで都審議会に諮問しているも
のであり,このような事前の絞り込みがされていることに照らすと,上記のような
事実があったからといって,これにより直ちに都審議会の審議が形骸化しているな
どということはできない。
  むしろ,証拠(甲8の1及び4,甲25,乙43,証人鵜沢)によると,本件
各図書が諮問されたそれぞれの都審議会においても,都の担当者の説明に対して,
委員から種々の質問が出たり,様々な意見交換がされていること,都の担当者は,
打合せ会において不健全な図書類に指定することに反対意見が出たことも紹介した
うえ,なぜ都審議会に諮問したかという理由についても説明していることが,それ
ぞれ認められる。
  これらの審議会の状況に照らすと,審議が形骸化しているとか,都審
議会が都の担当者の判断を単に追認するだけの無意味なものとなっていると認める
ことはできない。
b 原告は,不健全な図書類の指定制度が都の担当者によって恣意的かつ
独善的に運用されていることの根拠として,「DOS/V USER」と「遊ぶイ
ンターネット」は,同様の編集方針のもとに長期にわたって出版販売してきたにも
かかわらず,突然,不健全な図書類の指定を受けたことを挙げるが,そのことだけ
から,直ちに都の担当者による運用が恣意的であるということはできない。
  また,原告は,「ウインドウズ・パワー」及び「Windows100%」につい
て,被告がこれらの雑誌の発行会社に対し,従前のままでは不健全な図書類の指定
を受ける旨の情報を事前に提供していた旨主張し,証人大串はこれに沿う供述をす
るほか,「テックジャイアン」についても同様のことがあった旨供述する(甲11及
び27にも同趣旨の記載がある。)。しかし,これらの供述は,伝聞ないし推測にす
ぎないうえ,反対趣旨の証人鵜沢の供述や,「ウインドウズ・パワー」について
は,その後の平成14年1月30日付け及び同年2月27日付けの各東京都公報によって,
不健全な図書類に指定されていること(乙37,38,証人大串)に照らしても,これ
を信用することはできない。
  他に上記主張事実を認めるに足りる証拠はない。
c 以上のとおりであるから,原告の主張は理由がない。
イ 原告は,都審議会の意見はCD-ROMないしDVDに収録されている
個別のコンテンツに対する意見でなければならないから,都審議会で視聴していな
いコンテンツについて,被告は都青少年条例8条1項に該当すると主張することは許
されない旨主張する。
a しかし,都審議会の運営については,都青少年条例24条が定足数及び
表決数を定め,都審議会運営要領3(1)が,図書類についての審議方法として,「指
定することが適当と考えられる図書類があったときは,当該図書類を審議会の当日
提出して,委員の意見によって決定する。」旨を,同運営要領4が,会議の公開につ
いての定めを設けている(同運営要領「会議」細則においても,会議の公開につい
て定められている。)ほかは,格別の規定はない。そうであるとすると,意見を求
められた図書類について,どの程度視聴し,審議すべきかは,都審議会の合理的な
裁量に委ねられているものと解するのが相当である。
  そして,証拠(甲8の1及び4,甲25,乙43,証人鵜沢)によると,本件
各図書が諮問されたそれぞれの都審議会においては,限られた時間内に,相当多数
の図書類について審議することが予定されていたこと,そのため,CD-ROMな
いしDVDについては,本件各図書を含め諮問された各図書類に付属するCD-R
OM等の中から,代表的なコンテンツを視聴し,視聴したコンテンツ以外にも同様
のコンテンツが当該CD-ROM等に収録されている旨の説明がされたうえで,意
見交換がされたことが,それぞれ認められる。
  このような運営方法は,都審議会の合理的な裁量の範囲内ということ
ができるから,問題となる個別のコンテンツすべてについて視聴していなかったと
しても,不適当であるとか違法であるなどということはできないし,また,都審議
会は,実際に視聴しなかったコンテンツの存在をも踏まえたうえで意見を述べたも
のということができる。
b また,都青少年条例8条1項は図書類を単位として不健全な図書類の指
定をする建前をとっていることからすると,都審議会の意見も図書類ごとに聞けば
足りるのであって,各図書類に付属するCD-ROM等に収録された問題となる個
々のコンテンツすべてについて,個々的に意見を聞くことまでは要求されていない
と解するのが相当である。
c 以上のとおりであるから,原告の上記主張は理由がない。
ウ したがって,本件各指定に当たり都青少年条例15条1項違反があった旨の
原告の主張は理由がない。
4 争点4について
 原告は,本件各指定は,不利益処分をしようとする場合には,行政庁は当該
不利益処分の名あて人となるべき者について,意見陳述のための手続を執らなけれ
ばならないとの都行政手続条例13条の規定が履践されていないから違法であると主
張する。
 しかし,前記1記載のとおり,都青少年条例8条の規定による不健全な図書類
の指定は,当該図書類を対象として行われるいわば対物的な処分であって,特定の
個人又は団体を名あて人として行われるものではないと解すべきであるから,本件
各指定がいずれも原告を名あて人としてされたものであることを前提として,都行
政手続条例13条違反をいう原告の上記主張は,その前提において誤りがあるといわ
ざるを得ない。
 したがって,この点に関する原告の主張は理由がない。
5 争点5について
(1) 原告は,都青少年条例8条2項は,同条1項の指定をする場合には,指定の
理由をも告示すべき旨を定め,また,都行政手続条例14条は,不利益処分をする場
合には,その理由を提示すべきことを定めているにもかかわらず,本件各指定は,
理由の提示を欠いているから,取り消されるべきであると主張する。
(2) しかし,都青少年条例8条の規定による不健全な図書類の指定は,当該図
書類を対象として行われるいわば対物的な処分であって,特定の個人又は団体を名
あて人として行われるものではないと解すべきであるから,本件各指定がいずれも
原告を名あて人としてされたものであることを前提として,都行政手続条例14条違
反をいう原告の上記主張は,前記4において述べたところと同様に,その前提におい
て誤りがあり,この点に関する原告の主張は理由がない。
(3) また,前記のとおり,都青少年条例8条2項は,同条1項の指定をする場合
には,「指定するものの名称,指定の理由その他必要な事項」を告示すべき旨を定
めている。
 そして,証拠(乙3,6,9,12)によると,本件各図書については,いずれ
も,東京都公報による告示において,指定理由として,「著しく性的感情を刺激
し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがある。」旨の記載がされていたことが
認められる。
 これらの記載内容は,都青少年条例8条1項1号の規定の文言の一部とほぼ同
じであるが,その記載内容から,本件各図書が同条例8条1項1号のいずれの部分に該
当するものとして指定されたものであるかが明らかにされており,本件各指定がい
わば対物的な処分であって,その方法も処分の名あて人など特定人を対象とするも
のではなく告示の方法によってされることが予定されていることからすれば,同条
2項所定の「指定の理由」の告示は,上記の程度に処分の理由が明らかにされるこ
とをもって足りるものと解される。
(4) したがって,これらの点に関する原告の主張は理由がない。
6 争点6について
(1) 原告は,本件各指定は,指定された本件各図書を青少年に販売する等の機
会を奪うばかりでなく,「DOS/V USER」及び「遊ぶインターネット」の
各雑誌そのものを,流通市場から排除する目的でされたものであるから,権限のゆ
越ないし権限濫用に当たる旨主張する。
(2)ア 本件各指定の際,都の担当者は,出版倫理協議会の自主規制があり,そ
のため,特定の図書類が都青少年条例8条の規定による不健全な図書類の指定を連続
して3回受けると,当該図書類は事実上流通が困難になることを認識していたこと
は,上記2(1)イbのとおりである。
 しかし,都青少年条例自体が関係業者による自主規制を前提としてお
り,都の担当者が上記自主規制の存在及び内容を認識しているのは,その職責上当
然であることも,前述したとおりであり,これだけで直ちに,本件各指定が青少年
の健全な育成を図るという目的(同条例1条)にとどまらず,上記各雑誌を流通市場
から排除することを目的としてされたものであると認めることは困難である。
 また,被告が単行本を不健全な図書類の指定の調査対象にしていないこ
とと,自主規制の存否とが無関係であることも,同所で述べたとおりである。
イ 他に,本件各指定が上記各雑誌を流通市場から排除する目的でされたも
のであることを認めるに足りる証拠はない。
(3) したがって,原告の権限ゆ越ないし権限濫用の主張は,その前提を欠くも
のであるから,理由がない。
第4 結論
以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却し,訴訟
費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとお
り判決する。
   東京地方裁判所民事第2部
        裁判長裁判官    市  村  陽  典
           裁判官    石  井     浩
           裁判官    丹  羽  敦  子

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