弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役30年に処する。
未決勾留日数中390日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1Aとの間で,B(当時55年)に傷害を負わせることを共謀していたもの
であるが,その機会を利用して同人から金員を強取しようと企て,Cと共謀
の上,平成17年6月24日午後5時50分ころ,奈良県大和高田市a町b
番c号所在の上記B方に無施錠の南側出入口から侵入し,そのころ,同方2
階8畳洋間において,同人所有にかかる現金4000円を窃取した上,同日
午後7時ころ,同方1階2畳の間において,同人に対し,被告人が背後から
その頸部に左腕を巻き付けて床上に引き倒した上,被告人がその頭部を手拳
で数回殴打し,上記Cがその腹部を手拳で数回殴打し,さらに,被告人が,
仰向けに転倒した上記Bの身体に馬乗りになって胸腹部を圧迫し,その鼻口
部等を両手掌で強く圧迫し,上記Cが,上記Bの両手足を電気コード等で縛
りつけるなどの暴行を加え,その反抗を抑圧して同方1階台所にあった同人
所有にかかる現金約2620円を強取し,その際,上記一連の暴行により,
そのころ,同所において,同人を窒息により死亡させ,
第2A及びCと共謀の上,他人の自動車を損壊することを企て,平成15年7
月初めころの午後9時ころ,奈良県大和高田市大字de番地D方西側所在の
E内において,同所に駐車中のF所有にかかる普通乗用自動車の運転席側ド
アミラーを同車の車体前方向に折り曲げるなどして壊し,その右後部フェン
ダー部等に石で傷を付け,さらに,その運転席側のタイヤ2本をシガーライ
ターの火を押し付けてパンクさせるなどし(損害額合計11万2910円相
当),もって他人の器物を損壊し
たものである。
(法令の適用)
1罰条
第1の所為
住居侵入の点
刑法60条,130条前段
強盗致死の点
刑法60条,240条後段
第2の所為
刑法60条,261条
2科刑上一罪の処理
第1につき,刑法54条1項後段,10条(重い強盗致死罪の刑で処断)
3刑種の選択
第1の罪につき無期懲役刑を,第2の罪につき懲役刑を選択
4併合罪
刑法45条前段,46条2項本文(無期懲役刑を選択した判示第1の刑で処
断し,他の刑を科さない。)
5酌量減軽
刑法66条,71条,68条2号,14条1項
6未決勾留日数の算入
刑法21条
7訴訟費用の不負担
刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
1本件は,スーパー内の店舗でアルバイトをしていた被告人が,その経営者で
あるAから,報酬と引換えに上記店舗の近所に住む被害者を傷害するように依
頼を受けてこれに応じ,被告人の友人であるCとともに被害者を傷害すること
を順次共謀した上で,さらにCとの間で被害者から所持金等を強奪することを
も共謀して,Cと共に被害者宅に侵入し,現金を盗んだ後,被害者に暴行を加
えて死亡させ,さらに現金を強取したという住居侵入,強盗致死の事案(第
1)及び,その約2年前に,A及びCと上記店舗の元従業員の自動車を損壊す
ることを共謀し,被告人及びCが間違えて別人の自動車を損壊した器物損壊の
事案(第2)である。
2判示第1の犯行についてみると,被告人がアルバイトをしていた上記店舗の
経営者であるAから,同人が同店の近所に住む被害者からかつて嫌がらせを受
けたことがあり,本件の1か月余り前の平成17年5月20日ころにも被害者
から足下につばを吐きかけられたことに腹を立てていることについて,報酬と
引換えに被害者を襲ってしばくようにとの依頼を受け,後に骨の一,二本を骨
折させるようにとの依頼を受けた被告人が,これを引き受けて共謀を遂げ,C
を引き込んだ上で順次共謀を遂げ,さらに被告人とCの間で被害者から金銭を
奪うことをもくろんで,Cとともに本件犯行に及んだというものであって,そ
の動機は誠に短絡的かつ自己中心的で酌量の余地など全くない。
犯行に至る経緯についてみると,同月22日ころにAから依頼を受けた被告
人は,友人のCを誘い入れ,被害者を自動車で拉致して地下道に連行し,そこ
で暴行を加える計画を立て,2人で被害者方や地下道を下見するなど準備を進
め,同年6月10日に上記計画を実行すべく被害者方で被害者を待ち伏せした
が,同人が外出しなかったため実行することができなかった。そして,被告人
及びCは,同月22日に改めて被害者方付近で被害者を待ち伏せたが,同人は
またも外出しなかった。そこで,被告人及びCは,被害者が外出しなければ被
害者方に立ち入って暴行を加えることに計画を変更し,本件犯行当日である同
月24日,帽子,バンダナ,軍手等を準備して被害者方付近に赴き,1時間以
上被害者を待ち伏せしたものの,同人がいったん帰宅した後再び外出する様子
がなかったため,被害者方へ立ち入って暴行を加えることを決意して,同方へ
侵入して,同方内で約1時間機会をうかがった後で被害者に対する襲撃を行っ
たというものである。本件は,以上のとおり,1か月余りにわたって準備を行
い,その間2度の失敗があったにもかかわらず,犯行をあきらめることなく被
害者を狙い続け,最終的には,大胆にも夕方に住宅地にある被害者方において
敢行したという計画的かつ執拗な犯行であって,極めて悪質である。
続いて,犯行の態様についてみるに,被告人は,被害者方内で機会をうかが
った後,パソコンに向かっていた被害者の背後から左腕を頸部に巻き付けて床
上に引き倒した上,被告人及びCがこもごも頭部及び腹部を手拳で数回殴打し,
被告人が仰向けになった被害者に馬乗りになってその胸腹部を強く圧迫すると
ともに,被害者に被告人の顔を見られ,大声を出されることを恐れて,鼻口部
等を両手掌で強く圧迫し,Cが被害者の両手足を電気コード等で縛りつけるな
どの暴行を加え,その結果,被害者が呼吸運動ができなくなって窒息死したも
のであるところ,被告人は,身長約180センチメートル,体重約95キログ
ラムという大きな体格であり,しかも柔道初段で武道の経験を有していたこと
などの被告人と被害者との体格差や被害者の体力等に照らせば,上記暴行は,
凶器を使用した場合に比肩しうるほどに危険性が高く,しかも執拗かつ一方的
に行われたものといえ,非常に悪質な犯行である。
また,本件犯行後,被告人は,暴行中に被害者がぐったりとしているのに気
づいて,同人の心音等を確認して,同人が死亡しているかもしれないと認識し
たにもかかわらず,何らかの救命措置を講ずることなく,かえって犯行現場に
飛散した被告人の血痕をティッシュペーパー等で拭き取り,血痕が付着した座
布団等を持ち出すなどの証拠隠滅を行い,さらには被害者方の店内レジからさ
らに現金を奪い取ろうと試みており,その後もAの指示に従って,Aとの間で
やり取りした携帯電話のメールや発着信履歴を消去したり,犯行時履いていた
靴とは別の靴を警察に提出しようとするなどの証拠隠滅を行っていたのであっ
て,犯行後の情状も悪い。
被害者は,最も安全であるはずの自宅兼店舗でパソコンに向かっていたとこ
ろを突如背後から覆面姿の被告人らに襲われて床上に引き倒され,体格の良い
被告人に馬乗りにされて胸腹部を強く圧迫された上,鼻口部等を両手掌で強く
圧迫されるなどし,抵抗むなしく窒息死するに至ったものであり,被害者の受
けた肉体的・精神的苦痛は察するに余りある。被害者の遺族の怒り,悲しみは
深く,その処罰感情が厳しいのも当然である。
被告人は,Aから被害者の襲撃の依頼を受けるや,主体的にCを共犯者とし
て本件犯行に引き込んだ上,被害者に対して,同人が窒息死する主な原因とな
る仰向けに倒れた同人の上に馬乗りになり,胸腹部を強く圧迫し,同人の鼻口
部等を両手掌で圧迫し続けるなどの暴行を加えるなど,本件犯行の実行行為に
関して,最も主要な役割を果たしたものであることは明らかである。
以上によれば,判示第1の犯行に関する被告人の刑事責任は,極めて重大で
ある。
3判示第2の犯行についてみると,被告人は,Aが,解雇した上記店舗の元従
業員からAが浮気をしている旨のメールを同人の妻に送信されたり,店の取引
先に取引を止めるよう働きかけられたとして立腹し,報酬と引換えに上記元従
業員を傷害するように依頼されるや,これに応じ,Cを共犯者に引き込んだ上
で,上記元従業員方の下見などを行うも,その居場所がわからなかったため,
さらにAの指示を受けて上記元従業員の自動車を壊すことの指示を受けて,被
告人らは,これに基づき,別人の自動車を上記元従業員のものと勘違いして損
壊したものである。その動機は短絡的であるし,犯行態様もドアミラーを折り
曲げたり,フェンダーに石で傷を付けたり,タイヤをパンクさせるなど,陰湿
で悪質である。そして,その結果,無関係の第三者に対し,約11万円余りと
いう少なくない財産的損害を生じさせている。
被告人は,この犯行においても,Aの依頼を受けるや,主体的にCを共犯者
として犯行に引き込んだ上で,Cと分担して実行行為に及んでおり,その役割
は大きなものがある。
以上によれば,判示第2の犯行に関する被告人の刑事責任も,軽いものでは
ない。
4他方,以下のとおり,被告人にとって酌むことのできる事情が認められる。
まず,判示第1の犯行について,被害者の死亡は,被告人自身が,仰向けに
転倒した被害者の上に馬乗りになって胸腹部を圧迫し,また,鼻口部等を両手
掌で強く圧迫した結果,被害者において呼吸運動ができなくなって窒息死する
に至ったものと認められ,それらの死因につながる一連の暴行は,被害者が暴
れるのを制止したり大声を出すのを妨げるために行われたもので,それ自体で
骨折を招くような強力な暴行ではなく,また被害者の死亡に向けられたもので
もなく,偶発性の高いものであり,被告人において,被告人と被害者との体力
差,被告人の柔道の心得があることなどを考慮に入れて,被害者が死亡に至ら
ないよう細心の注意を払うべきことを怠ったという過失的側面が極めて強いも
のであって,被告人らにとっても予期しなかった因果の経過をたどって被害者
が死亡したという意外な結果であったということができる。
また,判示第1の犯行は,被告人らが,報酬と引換えに被害者を襲撃してほ
しいというAからの依頼を受けた後,被害者を襲撃する際にもし同人宅に金銭
があれば奪うこととして行われたものであって,被告人らによる被害者に対す
る暴行は,金銭の奪取に向けられたものではあるものの,第一次的には,同人
に対して傷害を加えることそれ自体を目的としたものであって,通常の強盗致
死罪とはやや趣を異にしている。
そして,被告人らが判示第1の被害者から強取した金銭は,合計約6620
円と比較的少額である。
加えて,被告人は,捜査段階から本件各犯行について素直に事実を認め,反
省の情を示していること,被告人にはこれまで前科がなく,上記Aの営む上記
店舗でアルバイトをしながら,大学生として生活してきたこと,被告人の母親
が当公判廷に出廷し,被告人の指導監督を誓っていること,被告人は,弁護人
や家族を通じて,判示第1の遺族に対して300万円を準備して被害弁償の申
出を行うなど,慰謝の措置を講じる意思を有していることなどもまた認められ
る。
5本件事案の内容,犯行態様の悪質性,結果の重大性,被告人の果たした役割
及び前記のような被告人に有利な事情を総合考慮して,被告人に対しては,酌
量減軽をした上で,有期懲役刑の上限である懲役30年に処するのが相当であ
ると判断した。
(求刑無期懲役)
平成18年12月6日
奈良地方裁判所葛城支部
裁判長裁判官榎本巧
裁判官大島道代
裁判官長田雅之

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