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事件番号:平成19年(ワ)第188号
事件名:損害賠償請求事件
裁判年月日:H20.12.8
裁判所名:京都地方裁判所
部:第2民事部
結果:請求棄却
判示事項の要旨:京都市において開催されたいわゆるタウンミーティングに
参加申込みをした原告らが,同タウンミーティングを主催し
た被告国及び共催者である被告京都市に対し,被告らによる
不正な抽選により落選したことで,タウンミーティングに参
加し意見を述べる権利及び平等権を侵害されたとして,又,
被告京都市によって原告A及び原告Bがその個人情報を開示
されたことからプライバシー等を侵害されたとして,国家賠
償請求をした。これに対し,被告国及び被告京都市が作為的
な抽選によって原告A及びBを落選させたことは認められる
が,原告らの本件タウンミーティングに参加し意見を述べる
権利は国家賠償法上保護された利益といえず,また,平等権
及びプライバシー権についても,国家賠償法上違法と評価さ
れる程度の侵害があったとはいえないとされた事案
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告らは,原告Aに対し,連帯して200万円及びこれに対する被告国は平
成19年2月2日から,被告京都市は同月1日から,それぞれ支払済みまで年
5分の割合による金員を支払え。
2被告らは,原告Bに対し,連帯して200万円及びこれに対する被告国は平
成19年2月2日から,被告京都市は同月1日から,それぞれ支払済みまで年
5分の割合による金員を支払え。
3被告らは,原告Cに対し,連帯して200万円及びこれに対する被告国は平
成19年2月2日から,被告京都市は同月1日から,それぞれ支払済みまで年
5分の割合による金員を支払え。
4被告らは,原告Dに対し,連帯して200万円及びこれに対する被告国は平
成19年2月2日から,被告京都市は同月1日から,それぞれ支払済みまで年
5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1事案の要旨
本件は,京都市において開催されたいわゆるタウンミーティングに参加申込
みをした原告らが,同タウンミーティングを主催した被告国及び共催者である
被告京都市に対し,被告らによる不正な抽選により落選したことで,タウンミ
ーティングに参加し意見を述べる権利を侵害されたとして,又,被告京都市に
よって原告A及び原告Bがその個人情報を開示されたことからプライバシー等
を侵害されたとして,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料200万円及びこ
れに対する訴状送達の日の翌日(被告国については平成19年2月2日,被告
京都市については同月1日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による
遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。
2争いのない事実等(以下,特に断らない限り,月日は平成17年のものであ
る)。
(1)タウンミーティングについて
タウンミーティングは,内閣の閣僚等が,内閣の重要課題について広く国
民から意見を聞き,また,国民に直接語りかけることにより,内閣と国民と
の対話を促進することを目的として,平成13年度に,小泉純一郎元内閣総
(「」。)(「」理大臣以下小泉元首相というを首長とする内閣以下小泉内閣
という)の下で始まった事業である(平成13年6月から同18年9月ま。
で174回開催。)
タウンミーティングの運営は,内閣府大臣官房タウンミーティング担当室
(以下「TM室」という)が中心となり,開催地の地方公共団体等の協力。
を得て実施され,開催テーマに応じ,関係省庁との連携も行われた。
また,タウンミーティングの開催に当たって,内閣府は,業者とタウンミ
ーティング運営業務の請負契約を締結しその運営を業者に発注してきた乙,(
A15,22。)
(2)「小泉内閣の国民対話文化力タウンミーティングイン京都(以下「文」
化力TMイン京都」という)開催に至る経緯について。
アTM室は,平成17年の夏ころ,集中的にタウンミーティングを開催す
ることを企画し,7月15日「親子タウンミーティング」シリーズの開,
催を公表した「親子タウンミーティング」は,子供の夏休み期間を利用。
,,して小学校5年生から高校生までの子供とその保護者が参加するもので
「文化力「日本21世紀ビジョン「地球環境」及び「科学技術」をテ」,」,
ーマとして,4回にわたって開催し「文化力」に関しては8月18日に,
京都市において開催されることが予定されていた(乙A1,22,乙B1
4,弁論の全趣旨。)
イTM室は,7月21日,文化力TMイン京都の開催概要及び参加者募集
の案内を公表した乙A222そこには募集対象・人員として対(,)。,,「(
象:小学5年生∼高校生(高校生以外は保護者同伴(子どもと保護者あ))
わせて200名程度」とされ,また,応募方法に関して「なお,応募者),
多数の場合は,抽選を行い,参加証の発送をもって当選者の発表に代えさ
せていただきます」とされていた。。
ウ7月22日から8月10日までの間,文化力TMイン京都の参加者の募
集が行われ,原告らは,この間に参加申込みをした。
エ8月8日,衆議院が解散されたことから,同月18日に開催が予定され
ていた文化力TMイン京都は延期されることとなり,参加申込者に対し,
その旨の通知がなされた。
オTM室は,文化力TMイン京都について,11月27日の開催を目指す
こととし,同月7日,京都市教育委員会との共催を決定し,同月11日,
同月27日に京都市において文化力TMイン京都を開催することを公表し
た。その際,参加者の募集期間を同月11日から21日までとして,新た
な参加者を募るとともに,7月22日から8月10日までの間に参加申込
みをした者に対し,開催案内を送付した(乙A3,4,5,22,乙B1
1。)
カその後,TM室は,京都市教育委員会からの要請を踏まえ,参加者の募
集期間を11月22日まで延期した。
キTM室は,11月22日,原告Aの応募受付番号(1065)及び原告
Bの応募受付番号(1069)の末尾の数字である「5」及び「9」のほ
か「7」を抽選における落選予定数字の中に入れる方法で抽選を実施し,
(以下「本件抽選」という場合がある,同月23日,抽選当選者に対し。)
,(,て参加証を抽選落選者に対して落選通知をそれぞれ発送した乙A11
12,22。)
クその結果,原告A及び原告Bは,抽選に外れ,また,原告Cの応募受付
番号は1005であり,原告Dの応募受付番号は1077であったことか
ら,同原告らも抽選に外れ,文化力TMイン京都に参加できなかった。
ケ文化力TMイン京都は,11月27日に開催された。
3争点とこれに関する当事者の主張
(1)抽選の経緯
(原告らの主張)
被告らが,原告A及び原告Bの落選を目的として,不正に本件抽選を行っ
た経緯は次のとおりである。
ア京都市教育委員会のEは,10月5日,TM室のFに対し「かつてG,
(文化庁)長官(以下「G長官」という)が出席したイベントで,大声。
を出したり,進行妨害をしたため,警察官を関与させることになった者が
応募している可能性があるので,応募者のリストを確認したい」と要請。
した。
イこれを受け,Fは,Eに対し,7月22日から8月10日までの募集期
間に申込みがあった応募者リスト(乙A7)を送付した。Eは,上記応募
者リストをチェックし,そこに原告Aと原告Bの名前があるのに気が付い
たことから,10月下旬ころ,Fに対し「これまで注意喚起していた,,
G長官の出席したイベントにおいて会場内でプラカードを掲げ,指名され
なくても大声を発するなどし,進行の妨害をしたため,警察官を関与させ
,,。」ることになった者というのはAさんでありBさんもその関係者である
と連絡するとともに,原告Aについて「過去にも同様の抗議活動をして,
,。」。いるG長官の出席したイベントでの騒ぎの中心人物であると伝えた
ウEは,11月上旬ころ,Fに対し「応募者が多くて抽選となった場合,
には,会場内で抗議活動等トラブルを起こす可能性のあるAさんとBさん
を落選とすることとしたい」と伝え,この両名を文化力TMイン京都に。
。,,,参加させないよう要請したこれを受けてFは11月22日の昼ころ
TM室のH室長,I参事官と相談した上で,原告Aと原告Bを抽選で落選
とさせることを決定し,その結果,原告Aの応募受付番号(1065)及
()「」「」び原告Bの応募受付番号1069の末尾の数字である5及び9
を本件抽選における落選数字とし,同原告らを作為的に落選させた。
,,。原告Cは応募受付番号が1005であったことから同様に落選した
エ原告Dは,従来から,甲市民会議のメンバーらとともに,再三,京都市
教育委員会への申入れや,交渉などに参加しており,その際,自己の氏名
を名のっていたことから,京都市教育委員会は,原告Dの氏名を把握して
いたといえ,文化力TMイン京都への応募者リストの中に,原告Dの氏名
があることに気が付いたはずである。そうすると,Fが,落選番号とした
「7」という数字についても,原告Dの応募受付番号が1077であった
ことから,原告Dの文化力TMイン京都への参加を阻止するために,選ば
れた数字である疑いがある。
(被告京都市の主張)
被告京都市は,次のとおり,本件抽選には関与しておらず,被告国の判断
により本件抽選が行われた。
アEは,10月5日,Fに対し「かつてG長官が出席したイベントで,,
大声を出したり,進行妨害をしたため,警察官を関与させることになった
者が応募している可能性があるので,応募者のリストを確認したい」と。
要請したことはない。Eは,文化力TMイン京都が実施されることを,会
場周辺地域に重点的に周知する手だてを講じていたところ,その手だてに
より,どのくらいの応募があったのかを把握するためや,応募者数が定員
を下回った場合に追加周知をするために,Fに対し,応募者数,住所等の
「応募状況のわかるもの」を求めたにすぎないのであって,参加者決定に
当たって,応募者リストを送付するよう依頼していない。また,Eは,追
加周知の必要性を判断するために「応募状況のわかるもの」を求めたので
あり,応募者をチェックするために求めたものでもない。
イEは,10月下旬ころ,Fに対し「これまで注意喚起していた,G長,
官の出席したイベントにおいて会場内でプラカードを掲げ,指名されなく
ても大声を発するなどし,進行の妨害をしたため,警察官を関与させるこ
とになった者というのは,Aさんであり,Bさんもその関係者である」。
と連絡したことや,11月上旬ころ,Fに対し「応募者が多くて抽選と,
なった場合には,会場内で抗議活動等トラブルを起こす可能性のあるAさ
んとBさんを落選とすることとしたい」と伝え,この両名を文化力TM。
イン京都に参加させないよう要請したことはない。EがFに報告した内容
は「京都市教育委員会主催の過去の事業において,会場内でプラカード,
を掲げ,指名されなくても大声を発するなどの行為におよび,会場が混乱
したため,京都市職員により排除され,その後,警察の事情聴取を受けた
団体があるが,A氏はこの団体の関係者である」という趣旨のものであ。
り,事実に反する報告を行っておらず,原告Bについても,原告Bが原告
Aの関係者である旨を,具体的には「原告Bが原告Aの夫であると思わ,
れる。ただし,現在も夫であるかまではわからない」と伝えたにすぎな。
い。また,Eは,Fに対し,原告A及び原告Bを文化力TMイン京都に参
加させないように,情報を提供したことはないし,同原告らを文化力TM
イン京都に参加させないよう要請したこともない。
ウEは,本件抽選当時,原告Dが,甲市民会議の関係者であることを知ら
なかったのであるから,Fに対し,原告Dを文化力TMイン京都に参加さ
せないよう働きかけたことはない。
(被告国の主張)
ア10月5日,Eから「かつてG長官が出席したイベントで,大声を出,
したり,進行妨害をしたため,警察官を関与させることになった者が応募
,。」,している可能性があるので応募者のリストを確認したいと要求され
応募者リストを送ったものである。
イ10月下旬ころ,Eから「これまで注意喚起していた,G長官の出席,
したイベントにおいて会場内でプラカードを掲げ,指名されなくても大声
を発するなどし,進行の妨害をしたため,警察官を関与させることになっ
た者というのは,Aさんであり,Bさんもその関係者である」と連絡を。
受け,その際,原告Bが原告Aの元夫であると説明された。
ウ11月上旬ころ,Eから「応募者が多くて抽選となった場合には,会,
場内で抗議活動等トラブルを起こす可能性のあるAさんとBさんを落選と
することとしたい」と伝えられた。。
()本件抽選の必要性2
(原告らの主張)
京都市教育委員会が,次のとおり,不正な方法で多くの者を参加させるこ
とがなければ,本件抽選の必要はなく,原告らは,いずれも,文化力TMイ
ン京都に参加できた。
ア文化力TMイン京都の「ホール内座席レイアウト図(乙A20)によ」
れば,総座席数は220席とされているが,関係者席として30席,記者
席12席,手話通訳席4席,親子席6席,車椅子席6席,警察席2席,児
,,,童出演者席77席がとられ一般席は83席しか残されておらずさらに
この一般席には,事前に発言を依頼した5人のために,保護者や友人らの
席を含めて9席がとられている。結局,一般席としては74席しか残って
いなかった。
イ文化力TMイン京都の参加申込者数は277名であったが,そのうち4
6名は,京都市教育委員会による「教委ダミー」であり,また,京都市教
育委員会が「当選「一応当選に」と指示して,無理矢理参加を認めさせ」
たものが78名もいたほか,一般の参加申込みとされている者の中にも,
乙小の生花関係者6名,丙小関係者8名,事前に発言依頼をした子供や保
護者・友人ら11名,市教委関係者2名とその家族など,少なく見積もっ
ても30名近くが,京都市教育委員会により動員された。これらの動員が
なければ,原告らは,いずれも,文化力TMイン京都に参加できた。
ウ上記のとおり京都市教育委員会が指示した教委ダミー46名当,「」,「
選「一応当選に」された者78名,乙小の生花関係者6名,丙小関係者」
8名,事前に発言依頼をした子供や保護者ら30名近くの者を除けば,文
,。,化力TMイン京都の一般の応募者は120名以下であったそうすると
被告国の「過去のタウンミーティングの経験等から,当選者のうち実際に
来場する歩留まり率を7割と考えていた」という主張を前提としても,想
定していた一般座席数は約100席であるから,約140名までの申込み
であれば,抽選を行わずに,全員に参加証を送ることができた。
エまた,そもそも,文化力TMイン京都の参加応募者数は,7月22日か
ら8月10日までの間における申込みの段階で,既に143名になってお
り,これ以上,新たな応募者を募集する必要はなく,仮に,追加募集する
必要があるとしても,当初の募集期間中に応募した者については,参加が
認められるべきであった。
(被告国の主張)
次のとおり,文化力TMイン京都の会場の規模及び応募状況等を踏まえれ
ば,その参加者を応募者の中から抽選で選んだことには合理性があり,抽選
を行ったこと自体が国賠法上違法であるとの原告らの主張は,その前提を欠
くものである。
ア関係者席確保の必要性について
文化力TMイン京都に限らず,タウンミーティングにおいては,総座席
数のうち,一定数の関係者席を確保する必要があるが,その席数は流動的
であり,直前まで変動することがある。これに加え,文化力TMイン京都
においては,京都の郷土文化等に興味又は関心を持ち,理解を深めていく
ために必要なイベントを行うとともに,子供たちと文化の関わり方等につ
いて,率直な意見交換を行うことを目的にしていたことから,そのような
イベントが多数開催される予定であり(太鼓「踊り「お花「お茶」の「」」」
4種類,通常想定される閣僚随行者,TM室関係者,記者等の関係者席)
以外にも,イベント関係者席の確保が必要な状況にあった。
イ抽選を行ったFは,次のとおり,当選率を設定する時点で把握しあるい
は想定していた座席数等の事情を前提に計算をし,当選率を7割として抽
選を実施する必要があると判断したものであり,そのように抽選を行うこ
との判断自体は合理的かつ適切なものであった。
(ア)11月22日午前の時点について
Fは,11月22日午前の時点で,本件抽選の必要性の有無を判断し
ているところ,次のとおり,同時点において,本件抽選の必要性が認め
られた。
a11月22日午前の時点では,Fは「当選「一応当選に」指定さ,」
れた78名,教委ダミーとされた46名,事前に発言を依頼した子供
や保護者・友人ら11名の合計135名については,関係者(一般応
募者以外の応募者)とは判断できなかった。なぜなら「当選「一,」,
応当選に」指定及び「教委ダミー」については,同日午後8時41分
に被告京都市から連絡があるまで,Fが,これらを把握することは不
可能であったし(乙A9「事前に発言を依頼した子供や保護者・友),
人ら」については,同月24日午前10時13分に被告京都市側から
連絡があるまで,Fが,これを把握することは不可能であった(乙A
13)からである。
したがってFが同月22日午前の時点において参加申込者一,,,(
般応募者)の中で関係者と判断できた者の数は,その時点での応募者
リスト(乙A19)に記載のあった「太鼓関係者」32名及び「お花
関係者」8名に限られる。なお,原告らは,参加申込者数を277名
としているが,同時点においてFが把握していた参加申込者数は,前
日である同日21日午後6時に送られてきたリスト(乙A19)に記
載のある263名である。
b上記リストは重複チェック前のものであったため,過去の他のタウ
ンミーティングにおける経験等から,10名前後の重複者が想定され
たため,一般応募者数263名から,重複が見込まれる者10名を控
除する必要があったほか,Fは,過去の他のタウンミーティングにお
ける経験等から,当選者のうち実際に来場する歩留まり率を7割に設
定した。
c上記事情からすると,11月22日午前の時点において,Fが認識
していた一般応募者数は,263名から,重複見込み10名「太鼓,
関係者」32名及び「お花関係者」8名を控除した213名であるか
ら,想定一般座席数が約100席であることを前提とすれば,歩留ま
り率を7割を考慮しても,抽選の必要性が認められた。
(イ)11月22日深夜の時点について
11月22日午後6時48分に,タウンミーティング事務局から「京
都会場参加申込者重複チェック済リスト(乙A8)が,また,同日午」
後8時41分に,Eから「タウンミーティング参加者リスト確認後のデ
ータ(乙A9)がそれぞれ提出されており,Fは,同時点において,」
新たな参加申込者やイベント関係者等を把握しているが,次のとおり,
同日深夜(午後8時41分以降)時点においても,本件抽選の必要性が
認められた。
a「タウンミーティング参加者リスト確認後のデータ(乙A9)に」
より,Fは,同日午後8時41分の時点において,京都市教育委員会
が,別枠として参加枠の確保を求めていた41名(丁小学校分」2「
「()」),「」,6名及び乙小学校分お花15名のほか当選指定74名
「一応当選に」4名,丁小の生花関係者6名の計84名を関係者と判
断できた。なお,上記(ア)a記載の太鼓関係者32名については,全
員「当選」の中に含まれており,また「お花関係者」8名について,
,()「」。はうち2名応募受付番号044が当選の中に含まれている
「事前に発言を依頼した子供や保護者・友人ら」の11名について,
Fは,同日深夜の時点において,関係者と判断することは不可能であ
ったことは上記(ア)aのとおりである。
bTM室は,当初「閣僚随行者,TM室関係者及び記者等」席を3,
0席「イベント関係者」席を80席,抽選の対象となる「その他の,
席」を100席準備することを想定していたところ,上記のとおり,
11月22日深夜の時点において,イベント関係者席は「別枠(丁小
())」,「(())」学校踊りの関係者26名別枠乙小学校お花の関係者
15名「当選』指定(太鼓関係者」32名「当選』指定(お花,『),『
関係者」4名及び「乙小学校(お花)の関係者」6名の計83名が)
使用すると見込まれたのであるが,これは,当初予定していたイベン
ト関係者用の80席にほぼ見合う数字であった。
したがって,当初100席準備することとしていた「その他の席」
に「太鼓関係者」及び「お花関係者」以外の関係者である「当選」,,
ないし「一応当選に」の指定を受けた者のうちの42名を着席させる
こととなると見込まれた(乙A9)のであり,そうすると,座席を1
0席増設して総座席数を220席としても,一般参加者用に割り当て
ることが可能と見込まれる席数は68席であった。
c一方,一般参加申込数は,参加申込者277名から,上記関係者8
4名「教委ダミー」46名及びキャンセル2名を控除した145名,
であり,一般参加申込数145名の出席歩留まり率を7割と想定すれ
ば,出席者数は102名となる。
dしたがって,出席者数は102名となり,一般参加者用に割り当て
ることが可能と見込まれる座席数は68席となるから,抽選を実施す
る必要があることは明らかであり,この場合の抽選率は66.7%と
なる。
(3)原告らの文化力TMイン京都に参加し意見を述べる権利に対する侵害の
有無(原告らに共通)
(原告らの主張)
ア原告らの,文化力TMイン京都に参加し意見を述べる権利は,参加者が
直接国政に参加し,その「生命,自由,幸福追求」に対する権利を実現さ
せ,また,自らの国政に対する意見を表明したり,閣僚や他の参加者の意
見を聞いて国政の動きを理解する権利(参政権又は表現の自由)を実現さ
,(),「,,せる上で重要な権利として表現の自由憲法21条1項生命自由
幸福追求」に対する権利(憲法13条)により保障されている。
(ア)タウンミーティングは,小泉元首相が,平成13年5月7日の所信
表明演説において「私は,積極的な「国民との対話」を通じて,国民,
の協力と支援の下に,新しい社会,新しい未来を創造していく作業に着
手します。関係閣僚などが出席するタウンミーティングを,すべての都
道府県において半年以内に実施し,また「小泉内閣メールマガジン」,
を発刊します。こうした対話を通じ,国民が政策形成に参加する機運を
盛り上げていきたいと思います」と述べて,国民に開催を約束したも。
のである。
(イ)被告国がいったん文化力TMイン京都の開催を決定し,参加者を募
集した以上は,参加希望者は上記(ア)を実現できるという「期待権」を
有しているというべきである。
イ次のとおり,被告国は,文化力TMイン京都の参加応募者名簿を京都市
教育委員会に送り「問題のある人物」の有無を京都市教育委員会にチェ,
ックさせた上で,京都市教育委員会の報告に基づき,原告A及び同原告と
「関係のある者」として原告Bを落選させるために不正な抽選を行い,被
告京都市は,一般公募の条件を無視し,これとは「別枠」に多数の参加者
を動員し,抽選の必要性を作出し,被告国(内閣府)から送られてきた応
募者名簿をチェックし,原告A及び原告Bに関する虚偽の報告をして,同
原告らを「文化力TMイン京都」に参加させないよう内閣府に要請するこ
とで,内閣府をして不正な抽選を行わしめ,故意(又は少なくとも過失)
により,違法に原告らの文化力TMイン京都に参加し,発言する機会を奪
った。このような被告らの行為は,原告らの憲法で保障された「生命,自
由,幸福追求」に対する権利(13条,表現の自由(21条1項)及び)
平等権(14条1項)を侵害するものである。
(被告国の主張)
国家賠償法上の違法性は,公務員が個々の国民に対する職務上の義務に反
して法的に保護された権利ないし利益を侵害する場合に認められるものであ
るところ,原告らの主張する,文化力TMイン京都に参加し意見を述べる権
,,,利はそもそも法的に保護された権利ないしは利益とは認められないから
そのような不確実な利益を,国賠法上の違法性を基礎づける「被侵害利益」
と解することはできない。
ア被告国は,個々の国民に対し,タウンミーティングを開催しなければな
らない義務や開催したタウンミーティングに出席させる義務を負うもので
はない。しかも,被告国は,文化力TMイン京都実施の公表段階から,応
募者多数の場合には抽選の可能性がある旨を明確に表示していたのである
から(乙A2,3,5,そもそも,応募者全員が文化力TMイン京都に)
参加した上で,会場において自己の意見等を表明する機会が保障されてい
たものではない。したがって,原告らは「文化力TMイン京都に直接参加
できる権利」を有していない。
イ原告らが文化力TMイン京都に直接参加できなかったとしても,上記の
とおり,もともと原告らに文化力TMイン京都に参加する機会が保障され
ていたわけではないから,文化力TMイン京都に参加,発言できなかった
ことをもって,原告らの表現の自由や幸福追求権が奪われたものと解する
こともできない。そもそも,タウンミーティングは,国民と政府との関係
において広報と広聴の両機能を有しているものであり,その模様は内閣府
のホームページにおいて動画配信され,議事要旨も公表されており,国民
,「」はこれらの情報を踏まえて各府省のホームページ上のご意見・ご感想
等の受付に意見表明をすることができるのであって,文化力TMイン京都
に直接参加する機会を失ったことが直ちに政府への意見表明の機会を奪う
ことにはならない。したがって,原告らの主張する憲法13条や21条1
項で保障された権利の侵害が問題となる余地はない。
ウ小泉元首相の所信表明演説における発言は,個々の国民に対し,タウン
ミーティングに参加できるといった法的権利を付与するものではない。
エ被告らは,個々の国民に対して,タウンミーティングを開催しなければ
ならない義務を負うものではなく,原告らが主張するような期待権が認め
られる法的根拠はない。しかも,文化力TMイン京都において抽選の必要
性が認められたことは,上記のとおりであり,原告らの主張する期待権な
るものは,諸権利を実現できたかもしれない(文化力TMイン京都に参加
できたかもしれない)可能性という不確実な利益にすぎない。
オ上記のとおり,原告らには,タウンミーティングに参加する権利が保障
されておらず,国家賠償法上保護されるべき権利が認められない以上,文
化力TMイン京都の参加者の抽選において,不適切な取扱いがなされたと
しても,憲法14条に違反したり,原告らに,国家賠償法上,金銭をもっ
て償うべき損害が生じたということはできない。
(被告京都市の主張)
被告京都市は,(1)における被告京都市の主張のとおり,本件抽選には関
与しておらず,被告国の判断により本件抽選が行われたのであるから,原告
らが主張する権利を侵害していない。
(4)京都市教育委員会が,原告A及び原告Bに関する情報をTM室に伝えた
ことが,プライバシー等の侵害に該当するか(原告A及び原告Bに対する権
利侵害)
(原告らの主張)
ア京都市教育委員会は,原告A及び原告Bを文化力TMイン京都に参加さ
せないように,TM室に対し,次の情報を伝えた。
(ア)原告Aは,甲市民会議のメンバーであり,この市民会議は,道徳教
,,育教育基本法改正や日の丸・君が代等への反対運動を繰り返しており
G長官を道徳教育推進の中心人物であるとし,G長官が道徳向けの副教
材「心のノート」作成会議の座長でもあったことから,度々抗議行動を
し,G長官が座長を務める「京都市道徳教育振興市民会議」の謝金に関
する住民監査請求を実施している(以下「個人情報①」という。。)
(イ)原告Aは,上記市民会議の中心メンバーであり,京都市教育相談総
合センターでの開館1周年イベント(平成16年6月開催,G長官が出
席)において,会場内でプラカードを掲げ,指名されなくても大声を発
するなどしたため,会場が騒然とし,混乱したことにより,警察まで動
員して退場させた(以下「個人情報②」という。。)
(ウ)文化力TMイン京都においても,原告Aが来場した場合,G長官に
対し,強い抗議行動を実施するものと思われ,京都市教育委員会や内閣
府に対し,タウンミーティングの運営や経費等について,後日,情報公
開請求等を行って,批判してくる可能性がある(以下「個人情報③」と
いう。。)
(エ)原告Bは,原告Aの元夫であり,民族差別を訴える本に名前が出て
おり,また,在日本大韓民国民団の支団長である(以下「個人情報④」
という。。)
イ京都市教育委員会が内閣府に伝えた上記情報は,そのうち(イ)はすべて
虚偽の情報であり,(エ)についても,原告Bが,原告Aの元夫という部分
や,在日本大韓民国民団の支団長であるという部分など,虚偽の事実が含
まれていた上に,甲市民会議の活動内容や,原告Aの市民としての活動内
容に関する事項であるから,京都市教育委員会は,原告Aの思想・信条を
理由に原告Aの文化力TMイン京都への参加を阻止しようとしたといえ,
このような京都市教育委員会の行為は,憲法19条に違反する。
また,京都市教育委員会が,住民監査請求や情報公開請求など市民の権
利として法的に認められた行為を嫌悪して,原告Aを文化力TMイン京都
に参加させないように要求したことは,原告Aの思想・信条の自由(憲法
19条)及び表現の自由(同21条1項)を侵害する。
さらに,原告Aがある団体のメンバーであることや上記のイベントでの
行動(報告内容は真実ではないが,原告Bが原告Aと「関係のある者」)
であることなどは,原告A及び原告Bの純然たる個人情報であるから,何
らの正当な目的,手続きによらず,当事者に無断で,このような情報を入
手したり,他人に知らせることは,プライバシーの侵害として,憲法13
条に違反する。
(被告京都市の主張)
被告京都市は,原告A及び原告Bのプライバシー等を侵害していない。
ア上記(1)における被告京都市の主張のとおり,EのFに対する報告の内
容は「京都市教育委員会主催の過去の事業において,会場内でプラカー,
ドを掲げ,指名されなくても大声を発するなどの行為におよび,会場が混
乱したため,京都市職員により排除され,その後,警察の事情聴取を受け
た団体があるが,A氏はこの団体の関係者である」という趣旨のもので。
あるから,Eは,事実に反する報告を行っていない。
そして,次のとおり,上記Eの報告は,原告Aのプライバシーを侵害す
るものではない。
(ア)EがFに伝えた情報は,共催者である京都市教育委員会が事業の円
滑な運営のために主催者である内閣府に提供すべき事実であるから,原
告Aのプライバシー権を侵害することにはならない。
(イ)京都市教育委員会主催の過去の事業において,会場内でプラカード
を掲げ,指名されなくても大声を発するなどの行為は,会場内という公
共の場における多数の聴衆の面前におけるものであり,私生活上の事実
に該当しないし,公共の場における多数の聴衆の面前での行為であるか
,。,,ら周知のものでもあるまた甲市民会議は社会的活動を行っており
原告Aが同団体の関係者であることは,同団体のホームページで明らか
にされている事実であるから,このような事実は,原告Aの私生活上の
事実でなく,また,周知の事実でもある。
,,(ウ)原告AはJ内閣府大臣官房長の発言や報告書が発表された直後に
自ら「自分が当該団体の関係者である」旨を新聞社に連絡し,テレビ,。
カメラの前で記者会見に参加していることから,原告Aが甲市民会議の
関係者であることが他人に知られたとしても,これにより,原告Aの私
生活上の平穏が害されるようなことはない。
(エ)Eによる原告A及び原告Bに関する情報の開示は,その相手方がT
M室の担当者であるFに限られており,TM室から他に伝播する可能性
はない。
(オ)文化力TMイン京都の参加者の半数は子供が予定されていたこと,
K文部科学大臣やG長官の出席が予定されていたことからすると,この
ような文化力TMイン京都が開催される会場において,会場内でプラカ
ードを掲げ,指名されなくても大声を発するなどの行為が行われれば,
子供たちが困惑し,ショックを受け,会場が混乱することとなり,この
ような事態が発生することのないような対応や要人警護のための対応を
求める目的のために,Eは本件情報を開示した。
イ京都市教育委員会は,TM室に対し,原告Aに関する情報を単に伝えたに
すぎず,原告Aの文化力TMイン京都への参加を阻止しようとしていたこと
はない。
ウ上記(1)における被告京都市の主張のとおり,Eは,Fに対し「原告Bが,
。,。」原告Aの夫であると思われるただし現在も夫であるかまではわからない
と伝えたにすぎない原告Aと原告Bが関係者であることなどは出版物乙。,(
B7)により明らかにされている事柄であり,京都市教育委員会は,原告A
及び原告Bに無断で,同原告らの身辺調査を行っていない。
なお,原告Aや同原告が所属する甲市民会議は,京都市教育委員会の活動
や行事に対し,種々の抗議行動などを行っているから,これらの抗議行動に
対処したり,これらの抗議行動についての話を聞いたりしていた京都市教育
委員会の職員は,原告Aのことを知っていた。そして,Eは,原告Aらに関
する記述がある著書の存在について,京都市教育委員会の中での職員同士の
会話により承知していた。
第3争点に対する判断
1争点()(抽選に至る経緯)について1
()本件の事実経過のうち,本件抽選に至る経緯について,原告ら及び被告1
国の主張と被告京都市の主張とが対立している。すなわち,被告京都市は,
①文化力TMイン京都が実施されることを,会場周辺地域に重点的に周知す
る手だてを講じていたことから,どのくらいの応募があったのかを把握する
ためや,応募者数が定員を下回った場合に追加周知をするために,10月5
日,Fに対し,応募者数,住所等の「応募状況のわかるもの」を求めたにす
ぎないのであり「かつてG長官が出席したイベントで,大声を出したり,,
進行妨害をしたため,警察官を関与させることになった者が応募している可
能性があるので,応募者のリストを確認したい」と要請したことはない,。
②10月下旬ころ,Fに対し「これまで注意喚起していた,G長官の出席,
したイベントにおいて会場内でプラカードを掲げ,指名されなくても大声を
発するなどし,進行の妨害をしたため,警察官を関与させることになった者
というのは,Aさんであり,Bさんもその関係者である」と連絡したこと。
や,11月上旬ころ,Fに対し「応募者が多くて抽選となった場合には,,
会場内で抗議活動等トラブルを起こす可能性のあるAさんとBさんを落選と
することとしたい」と伝えたことはなく,Fに報告した内容は「京都市教。,
育委員会主催の過去の事業において,会場内でプラカードを掲げ,指名され
なくても大声を発するなどの行為におよび,会場が混乱したため,京都市職
員により排除され,その後,警察の事情聴取を受けた団体があるが,A氏は
この団体の関係者であるという趣旨のものであり原告Bについても原。」,,「
告Bが原告Aの夫であると思われる。ただし,現在も夫であるかまではわか
らない」と伝えたにすぎないと主張し,証人Eは,被告京都市の上記主張。
に沿う証言をし,同趣旨の陳述書(乙B14)を提出している(以下「証人
Eの証言等」という。。)
一方,被告国は,①10月5日,Eから「かつてG長官が出席したイベ,
ントで,大声を出したり,進行妨害をしたため,警察官を関与させることに
,。」なった者が応募している可能性があるので応募者のリストを確認したい
と要求され,応募者リストを送った,②10月下旬ころ,Eから「これま,
で注意喚起していた,G長官の出席したイベントにおいて会場内でプラカー
ドを掲げ,指名されなくても大声を発するなどし,進行の妨害をしたため,
警察官を関与させることになった者というのは,Aさんであり,Bさんもそ
の関係者である」と連絡を受け,その際,原告Bが原告Aの元夫であると。
説明された,③11月上旬ころ,Eから「応募者が多くて抽選となった場,
合には,会場内で抗議活動等トラブルを起こす可能性のあるAさんとBさん
を落選とすることとしたい」と伝えられたと主張し,証人Fは,被告国の。
上記主張に沿う証言をし,同趣旨の陳述書(乙A22)を提出している(以
下「証人Fの証言等」という。。)
原告らも被告国とほぼ同じ主張をしている。そこで,上記各証言の信用性
について検討することとする。
()ア内閣府法令遵守対応室法令参与・弁護士L及び内閣府大臣官房付・弁2
護士M(以下「L参与ら」という)は,平成18年12月5日及び8日。
にかけて,Eに対し,本件抽選に関するヒヤリング調査を行ったところ,
Eは,L参与らに対し,G長官が出席したイベントにおいて,5,6人か
ら成る団体が会場内でプラカードを掲げ,中には大声を出す人がおり,G
長官の演説が妨害されたこと,団体の中には原告Aがおり,そのことはす
ぐにわかったこと,原告Bについては,原告Aの元夫であることなどをF
に伝えたと述べた旨の陳述をしている(乙A21)ところ,証拠(乙A2
1)によれば,L参与らは,平成18年に内閣府に設置された「タウンミ
ーティング調査委員会」の調査に関わり,本件抽選に関する調査に携わっ
た者であり,公平な立場から,Eに対するヒアリングを実施したものと推
測されるから,L参与らの陳述書の信用性は高いといえる。
イこれに加え,証拠(甲1,乙A15,21,乙B14)によれば,タウ
ンミーティング調査委員会が平成18年12月13日付けで作成した調査
報告書(乙A15)には,EがFに対して「参加応募者の中に,他のイ,
ベントにおいて,会場内でプラカードを掲げ,指名されなくても大声を発
するなどしたことがある者及びその者と関係があるとみられる者が応募し
ている」旨の連絡をしたとの記載があるところ,L参与らは,同月11。
日,Eを含む京都市教育委員会関係者に対し,上記記載と同一の内容が記
載された書面を提示して,間違いがないか確認し,京都市教育委員会関係
者から,間違いないとの返答を受けたことが認められる。
ウそして,Fが,11月14日ころ,文化力TMイン京都に関係して作成
した「TM京都の応募者について(取扱注意」と題する書面には,原告)
Aに関する情報として「A氏はこの市民会議の中心的メンバーであり,,
京都市教育相談総合相談センターでの開館1周年イベント…において,会
場内でプラカードを掲げ,指名されなくても大声を発するなどした「今。」
回のタウンミーティングでも,A氏が来場した場合,G長官に対する強い
抗議行動を実施するものと思われる」との記載があるほか,原告Bに関。
する情報として,黒塗り部分の後に「の元夫とされている」との記載が。
ある。
これらの証拠は,Fの証言等を基礎付けるものといえる。一方で,Eの証
言等については,その信用性を妨げる証拠は存在するが,信用性を裏付ける
客観的な証拠は見当たらない。
そうすると,Fの証言等は信用することができ,Eの証言等のうち,Fの
証言等と相反する部分は,信用し難く,採用できない。
,(,,,,()そこで上記争いのない事実と証拠甲1∼4の5620乙A33
6∼10,15,17∼24,乙B10,12,14,証人F,同E)及び
弁論の全趣旨を総合すると,本件について次の事実が認められる。
アTM室は,平成17年の夏ころ,集中的にタウンミーティングを開催す
ることを企画し,7月15日「親子タウンミーティング」シリーズの開,
催を公表した「親子タウンミーティング」は,子供の夏休み期間を利用。
,,して小学校5年生から高校生までの子供とその保護者が参加するもので
「文化力「日本21世紀ビジョン「地球環境」及び「科学技術」をテ」,」,
ーマとして,4回にわたって開催し「文化力」に関しては8月18日に,
京都市において開催されることが予定されていた。
イTM室は,7月21日,文化力TMイン京都の開催概要及び参加者募集
の案内を公表した。そこには,募集対象・人員として「対象:小学5年,(
生∼高校生(高校生以外は保護者同伴(子どもと保護者あわせて200))
)」,,,「,,名程度とされまた応募方法に関してなお応募者多数の場合は
抽選を行い,参加証の発送をもって当選者の発表に代えさせていただきま
す」とされていた。。
ウEは,8月1日,Fに対し,甲市民会議というグループの関係者が,G
長官の出席した京都市教育相談総合センターの開館1周年記念イベントに
,,,おいて会場内でプラカードを掲げ指名されなくても大声を発するなど
進行の妨害を行ったため,警察官が関与するまでに至ったことがあったこ
とから,同グループの関係者が,文化力TMイン京都に参加する可能性が
あると説明したほか,京都市教育委員会と上記関係者との間で,度々トラ
ブルが生じていることを伝えた。
エ7月22日から8月10日までの間,文化力TMイン京都の参加者の募
集が行われ,原告らは,この間に参加申込みをした。
オ8月8日,衆議院が解散されたことから,同月18日に開催が予定され
ていた文化力TMイン京都は延期されることとなり,参加申込者に対し,
その旨の通知がなされた。
カEは,10月5日,Fに対し,かつてG長官が出席したイベントで,大
声を出したり,進行妨害をしたため,警察官を関与させることになった者
が応募している可能性があるので,応募者のリストを確認したいと要請し
た。Fは,小学生を含む子供が多数参加している狭い会場で,大声を出す
などして進行を妨害されたり,警察が関与するような事態になっては大変
だと思い,主催者として,そのような者の参加の有無を把握し,場合によ
,,,,っては警備を強化するなどの対策が必要となると考え同日Eに対し
7月22日から8月10日までの募集期間に申込みがあった応募者リスト
(乙A7)を送付した。
キEは,10月下旬ころ,Fに対し,これまで注意喚起していた,G長官
の出席したイベントにおいて会場内でプラカードを掲げ,指名されなくて
も大声を発するなどし,進行の妨害をしたため,警察官を関与させること
になった者というのは,原告Aであり,原告Bもその関係者であると連絡
した。その際,Eは,Fに対し,原告Aは,甲市民会議というグループの
中心的メンバーであり,過去にも同様の抗議活動をしており,G長官の出
席したイベントでの騒ぎの中心人物であること,甲市民会議というグルー
プは,京都市道徳教育振興市民会議の謝金に関する住民監査請求をしたこ
となどを伝えた。また,この時,Eは,Fに対し,原告Bは,原告Aの元
夫であると説明したほか,在日本大韓民国民団の支団長であると伝えた。
クTM室は,文化力TMイン京都について,11月27日の開催を目指す
こととし,同月7日,京都市教育委員会との共催を決定し,同月11日,
同月27日に京都市において文化力TMイン京都を開催することを公表し
た。その際,参加者の募集期間を同月11日から21日までとして,新た
な参加者を募るとともに,7月22日から8月10日までの間に参加申込
みをした者に対し,開催案内を送付した。
ケその後,TM室は,京都市教育委員会からの要請を踏まえ,参加者の募
集期間を11月22日まで延期した。
コEは,11月上旬ころ,Fに対し,文化力TMイン京都の応募者が多数
となり,抽選になった場合には,会場内で抗議活動等トラブルを起こす可
能性のある原告A及び原告Bを落選させたいとの希望を伝えた。これを受
け,Fは,Eら京都市教育委員会から提供された情報に加え,甲市民会議
のホームページにG長官のイベントで抗議行動を行った旨が記載されてい
たことを確認するなど,自らインターネットなどを利用して情報を収集し
た上で「TM京都の応募者について(取扱注意」と題する書面(甲4の,)
3・5,20)を作成し,同月14日,TM室の定例会議で,上記Eから
の希望など,原告A及び原告Bに関する報告を行った。
サFは,同月21日夕方,同日までに集計した文化力TMイン京都の応募
者数が約260名であることが判明したことから,会場の座席数を10席
増やし,約210席にすることにした。
シFは,同月22日午前,事前に被告京都市から,開智童心太鼓・踊り・
お花の関係者などイベント参加者の概数が約80名であるとの報告を受け
ていたことや,文部科学省,内閣府,京都市教育委員会関係者及び記者等
の数を合わせると約30名に上ることから,約110席を関係者席として
確保することを決め,総座席数210席から約110席を控除した約10
0席が一般参加者の席数に当たると考えた。
また,Fは,同月21日午後6時に受領していたリスト(乙A19)に
「太鼓出演者「乙小」と記載され,被告京都市から座席確保の要請を受」
けていた者の合計40名(太鼓出演者」記載者32名「乙小」記載者8「,
名)を応募者数約260名から控除するとともに,過去の他のタウンミー
,,ティングにおける経験等から10名前後の重複応募者が想定されたため
,,。さらに10名を控除しその結果約210名を一般参加者数と想定した
そして,Fは,一般参加者数約210名について,当選率を70%とすれ
ば,当選者は約150名となり,これに他のタウンミーティングの実績値
である平均歩留まり率70%を乗ずれば,予想される一般参加者の来場数
は約105名となることから,上記一般参加者の席数約100席とほぼ見
合うと考えた。
スその上で,Fは,同月22日昼ころ,抽選の要否について,TM室のH
室長及びI参事官と相談し,原告A及び原告Bに関する京都市教育委員会
からの要望を踏まえた上で,子供たちが参加するイベントにおいて,大声
を発したりして,抗議活動が起これば,子供たちが萎縮して発言ができな
くなるなどして,イベントが進められなくなるという事態を懸念し,TM
室として,いずれにしても抽選をせざるを得ないのであれば,その抽選に
おいて,原告A及び原告Bを落選させることを決定した。
セそこで,TM室は,原告Aの応募受付番号(1065)及び原告Bの応
募受付番号(1069)の末尾の数字である「5」及び「9」のほか,ラ
ンダムに「7」を選んで,これらを落選予定数字の中に入れることにする
とともに,Eに対し,現時点で抽選の必要性があると判断したこと,その
抽選に当たって,原告A及び原告Bを落選させることを伝えた。
ソ同日午後5時,文化力TMイン京都の応募が締め切られ,Fは,募集業
務を請け負っていた業者から,同日午後6時6分ころ,同日時点での応募
者リスト(乙A6)の送付を受けたところ,応募者は296名に上った。
タその後,Fは,Eから,応募者中に必ず当選としたい者と文化力TMイ
ン京都の参加証を発送する必要がない者がいるため,最終的な応募者リス
,,,トを送って欲しいと要望されたことから同日午後6時48分Eに対し
最終的な応募者リスト(乙A7)を送付した。
また,同時刻,TM室には,上記請負業者から,重複チェック済の参加
者リスト(277人(乙A8)が送付された。)
チEは,同月22日午後8時41分,Fに対し,Fが送付した上記リスト
(乙A7)に「当選「一応当選に「教委ダミー」との記載を付したリス」」
ト(乙A9)を送付するとともに「当選「一応当選に」との記載がある,」
者については,抽選で当選させることを希望し「教委ダミー」との記載,
がある者は,名前を借りているだけで実際に参加しない者であるから,参
加証発送の必要がないと説明した。
またEは同日までにFに対し丁小学校26名分及び乙小学校お,,,,(
花)15名分について,一般参加者とは別枠で,席数確保して欲しい旨の
連絡をした。
なお,上記シ記載の「太鼓出演者」32名については,全員「当選」の
中に含まれており,また「お花関係者」8名(リスト(乙A19)に「乙
小と記載された者についてはうち2名応募受付番号044が当」),()「
選」の中に含まれていた。また,この時点までに,一般参加者2名のキャ
ンセルが出ていた。
ツ上記のとおり,同日午前から同日昼ころにかけての抽選の検討では,同
月21日の応募者の集計結果を基に抽選を検討していたところ,同月22
日分として追加された応募者は,いずれも「教委ダミー」との記載がある
者であったことから,Fは,まず,同月21日の集計結果に基づいて,そ
「」「」「」()の応募受付番号の末尾が579の3つに該当する応募者親子
を除外し,その上で,当選となった者のうち「教委ダミー」との記載があ
る応募者(親子)を除外する一方で,落選となった者のうち「当選「一」
応当選に」との記載がある応募者(親子)及びこれ以外の「お花関係者」
を当選扱いとして,最終的な当選者196名のリスト(乙A10)を作成
した。
そして,Fは,上記196名から,既に関係者として席を確保していた
「太鼓出演者」32名と「お花関係者」8又は10名を除外した結果,1
54名又は156名となり,この数字に歩留まり率7割を乗じると108
名又は109名になったことから,これは,上記一般参加者の席数約10
0席とほぼ見合うと考えた。
テその結果,Fは,同日昼ころの決定を変更する必要がないと判断し,同
日の夜,抽選結果を示すリストを請負業者に送付した。
ト文化力TMイン京都は同月27日に開催されたが,当日,甲市民会議の
メンバーは,会場前でビラ配りを行ったり,ハンドマイクで抗議行動をし
ていたほか,文化力TMイン京都の終了後には,会場を出発する大臣専用
車を囲んで,これに詰め寄るなどしていた。
()以上のとおり,本件抽選に至る経緯は,ほぼ原告らの主張どおりである4
と認められる。
すなわち,文化力TMイン京都は,内閣の閣僚等が,内閣の重要課題につ
いて広く国民から意見を聞き,また,国民に直接語りかけることにより,内
閣と国民との対話を促進することを目的とする事業の一環として行われたも
のであり,その応募方法に関して,応募者多数の場合は,抽選を行うと公表
したにもかかわらずE及びFは抽選と称して原告Aの応募受付番号1,,,(
065)及び原告Bの応募受付番号(1069)の末尾の数字である「5」
及び「9」を選んで,これらを落選予定数字の中に入れることで,原告A及
び原告Bを落選させたのであり,また,その前提として,Eは,Fに対し,
G長官の出席したイベントにおいて会場内でプラカードを掲げ,指名されな
くても大声を発するなどした者が,原告Aであることや,原告Bもその関係
者であり,原告Aの元夫であるなど,同原告らに関する情報を伝えるなどし
たものであると認められる。
そうすると,文化力TMイン京都は,その応募方法に関して「応募者多,
数の場合は,抽選を行」うとうたいながら,実際には,無作為の抽選を行っ
ていなかったことになり,被告らの行為には,公務の執行に対する信頼を傷
つける点があったことは否定できない。
しかし,本件における原告らの国家賠償請求との関係では,原告らの権利
ないしは利益が,国家賠償法上保護された利益といえるか,また,国家賠償
法上違法と評価される程度の侵害があったといえるかについて,更に検討し
なければならない。
そこで,上記認定事実を前提に,争点(2)よりも先に,争点(3)について判
断することとし,①原告らを落選させる目的で作為的になされた本件抽選に
より,原告らが侵害されたと主張する,文化力TMイン京都に参加し意見を
述べる権利は,国家賠償法上保護された利益といえるか,②本件抽選により
国家賠償法上の違法と認められる程度の平等権侵害があったといえるかにつ
いて,以下,検討を加える。
2争点()(原告らの文化力TMイン京都に参加し意見を述べる権利に対する3
侵害の有無)について
()憲法21条,13条について1
ア原告らは,原告らの文化力TMイン京都に参加し意見を述べる権利は,
参加者が直接国政に参加し,その「生命,自由,幸福追求」に対する権利
を実現させ,また,自らの国政に対する意見を表明したり,閣僚や他の参
加者の意見を聞いて国政の動きを理解する権利を実現させる上で重要な権
,,,利として憲法21条1項13条により保障されていると主張するので
まず,原告ら主張の権利が認められるか検討する。
憲法21条1項は,表現の自由,すなわち,人の内心における精神的作
用を外部に公表する精神活動の自由を保障しているところ,右にいう表現
の自由の保障とは,国民が内心における精神的作用を外部に公表すること
を公権力により妨げられないことを意味し,国民が,公権力に対し,内心
における精神的作用を外部に公表するための機会の提供など,表現の自由
をより実効化するための一定の作為を求めることができることまで意味す
るものではない。また,憲法13条についても,これは,国民の私生活上
の自由が国家権力の行使に対して保護されるべきことを規定していると解
されるのであって,公権力に対し,一定の作為を求めることができること
まで保障するものでないことは,憲法21条1項と異ならない。
,,したがって原告らが文化力TMイン京都に参加し意見を述べる権利は
憲法21条1項,13条により保障されているということはできない。
イこれに対し,原告らは,小泉元首相が所信表明演説において,国民にタ
ウンミーティングの開催を約束したと主張するが,小泉元首相の所信表明
演説における発言に,個々の国民にタウンミーティングに参加できる法的
権利を付与するという効果を認めることはできない。
,,,また原告らは被告国がいったん文化力TMイン京都の開催を決定し
参加者を募集した以上は,参加希望者は,文化力TMイン京都に参加し意
見を述べる権利を実現できるという「期待権」を有しているというべきで
あると主張する。しかし,証拠(乙A2∼5)によれば,TM室は,7月
21日に文化力TMイン京都の開催概要及び参加者募集の案内を公表した
当初から,応募者多数の場合には抽選の可能性がある旨を表示していたこ
とから明らかなとおり,文化力TMイン京都は参加希望者全員が参加でき
るものとして企画されたわけではなく,参加希望者の中で参加できない者
が生ずることは当然の前提であったのであるから,原告らの主張する期待
権は法的保護に値しないといわざるを得ない。
したがって,原告らの上記主張はいずれも理由がない。
(2)憲法14条について
原告らは,①被告国が,原告A及び原告Bを落選させるために不正な抽選
を行ったこと②被告京都市が,両原告を文化力TMイン京都に参加させない
,,よう内閣府に要請することで内閣府をして不正な抽選を行わしめたことは
(),,。原告らの平等権憲法14条を侵害すると主張するので以下検討する
アまず,原告C及び原告Dについては,被告らが意図して同原告らを落選
させたと認めるに足りる証拠はないから,被告らの行為により同原告らの
平等権が侵害されたという原告らの主張は理由がない。
イ次に,原告A及び原告Bについて検討する。
上記争いのない事実等によれば,E及びFらは,原告Aの応募受付番号
(1065)及び原告Bの応募受付番号(1069)の末尾の数字である
「5」及び「9」を選んで,これらを落選予定数字の中に入れることで,
原告A及び原告Bを落選させたのであるから,同原告らは,他の応募者と
は異なる取扱いを受けたといえる。しかし,上記(1)で判示したとおり,
そもそも,同原告らが文化力TMイン京都に参加し意見を述べる権利は,
憲法により認められているわけではなく,その余の事情を考慮しても,法
的保護に値する利益ということはできない。しかも,上記認定事実によれ
ば,E及びFらが同原告らを落選させたのは,同原告らの思想・信条等の
精神的活動を直接の理由とするのではなく,甲市民会議というグループの
関係者が,京都市教育相談総合センターの開館1周年記念イベントにおい
て,会場内でプラカードを掲げるなどして,進行の妨害を行ったことがあ
ったことを踏まえ,子供たちが参加する文化力TMイン京都において,大
声を発したりして,抗議活動が起これば,子供たちが萎縮して発言ができ
なくなるなどすることで,イベントが進められなくなるという事態を回避
するためであるから,結果的に原告Bに関する情報が間違っていたとして
も,その目的自体は正当なものといえ,憲法14条が想定するような不合
理な差別が行われたということもできない。
したがって,同原告らの上記主張は理由がない。
()そうすると,原告らの同様の権利ないしは利益を前提とする争点()に関32
する原告らの主張は,その前提を欠くから,これを判断する必要はない。
3争点()(京都市教育委員会が,原告A及び原告Bに関する情報をTM室に4
伝えたことが,権利侵害に該当するか)について
()プライバシー権について1
ア原告Aについて
原告らは,京都市教育委員会が,個人情報①ないし同③をTM室に開示
したことが,原告Aのプライバシーを侵害するとして,憲法13条に違反
すると主張するので,以下,検討する。
(ア)プライバシー該当性について
プライバシー権とは,他人に知られたくない私生活上の事実又は情報
をみだりに開示されない権利をいう。そして,個人情報①及び同②は,
原告Aが所属する団体の活動内容や原告Aの同団体を通じた活動内容に
関する情報であるところ,これらの情報については,その真偽の点をお
くとしても,本人が,自己が欲しない他者にはみだりに開示されたくな
いと考えるのは自然なことであり,そのことへの期待は保護されるべき
である。したがって,個人情報①及び同②は,原告Aのプライバシーに
係る事実又は情報として法的保護の対象となるというべきである。
しかし,証人Fによれば,個人情報③はFないしEの意見・推測にす
ぎないところ,意見や推測については,原告Aの私生活上の事実又は情
報ということはできない。したがって,個人情報③は,原告Aのプライ
バシーに係る事実又は情報ということはできず,法的保護の対象となら
ない。
(イ)プライバシー侵害の有無について
個人情報①及び②は,原告Aのプライバシーに係る事実又は情報とし
て法的保護の対象となるというべきであるが,プライバシーに該当する
情報を開示することがプライバシー侵害として不法行為を構成するため
には,同情報が,一般人の感受性を基準にして私生活上の平穏を害する
ような態様で開示されることが必要であり,その判断に当たっては,プ
ライバシーに該当する情報の内容,開示の目的やその態様等を総合的に
考慮すべきである。
これを本件についてみるに,個人情報①及び同②は,原告Aが所属す
る団体の活動内容や原告Aの同団体を通じた活動内容に関する情報であ
るが,証拠(甲30∼33,証人F,原告A本人)によれば,甲市民会
議の活動内容は,同団体のホームページで公開されていること,原告A
は,同団体が京都市道徳教育振興市民会議という団体宛に作成した文書
に,甲市民会議の連絡先として,自己の名称及び電話番号を記載するこ
とを許可していることが認められる。これらの事実からすれば,原告A
は,自己が同団体の一員として,同団体を通じて活動していることなど
を世間に伏せているわけではないから,個人情報①及び同②は,他者に
知られたくないと感ずる程度が低い情報とするのが相当である。次に,
上記認定事実によれば,EがFに対して原告Aに関する情報を開示した
のは,文化力TMイン京都には,多数の子供や,G長官などの関係閣僚
の出席が予定されていたため,京都市教育相談総合センターの開館1周
年記念イベントにおいて生じたような事態が生ずれば,子供たちが困惑
し,ショックを受け,会場が混乱することとなるため,このような事態
が発生することのないような対応をTM室に求めるためであり,その目
的は正当なものといえる。さらに,京都市教育委員会は,文化力TMイ
ン京都の共催相手である被告国のTM室に対し,自己が保有していた情
報を開示したのであるから,共催者の内部において情報を共有したにす
,。ぎないのであり情報を外部に開示した場合とは態様を大きく異にする
また,本件全証拠を検討しても,被告京都市が相当性を逸脱するような
方法・態様で個人情報①及び同②を収集したということもできない。
以上の諸事情を総合考慮すれば,個人情報①及び同②が,一般人の感
受性を基準にして私生活上の平穏を害するような態様で開示されたとい
うことはできないから,京都市教育委員会がこれらをTM室に開示した
ことにより,原告Aのプライバシーが違法に侵害されたということはで
きず,原告らの上記主張は理由がない。
イ原告Bについて
,,,原告らは京都市教育委員会が個人情報④をTM室に開示したことが
原告Bのプライバシーを侵害するとして,憲法13条に違反すると主張す
るので,以下,検討する。
(ア)プライバシー該当性について
個人情報④は,真偽の点をおくとしても,原告Bの婚姻関係や同人の
社会活動に係わる事項に関する情報であるところ,これらの情報につい
ては,本人が,自己が欲しない他者にはみだりに開示されたくないと考
,。えるのは自然なことでありそのことへの期待は保護されるべきである
したがって,個人情報④は,原告Bのプライバシーに係る事実又は情報
として法的保護の対象となるというべきである。
(イ)プライバシー侵害の有無について
次に,プライバシー侵害の有無について検討するに,証拠(甲26,
29,原告B本人,原告A本人)によれば,本件当時,原告Bは原告A
の夫であり,また,原告Bはかつて在日本大韓民国民団の支団長を務め
たことはなかったのであるから,個人情報④は真実に反する情報であっ
たと認められる。しかし,EがFに対して原告Bに関する情報を開示し
たのは,上記認定説示のとおり,文化力TMイン京都には,多数の子供
や,G長官などの関係閣僚の出席が予定されていたため,京都市教育相
談総合センターの開館1周年記念イベントにおいて生じたような事態が
生ずれば,子供たちが困惑し,ショックを受け,会場が混乱することと
なるため,このような事態が発生することのないような対応をTM室に
求めるためであり,その目的自体は正当なものといえるし,文化力TM
イン京都の共催者内部において情報を共有したにすぎないのであり,情
報を外部に開示した場合とは態様を大きく異にする。また,本件全証拠
を検討しても,被告京都市が相当性を逸脱するような方法・態様で個人
情報④を収集したということもできない。
以上の諸事情を総合考慮すれば,個人情報④が,一般人の感受性を基
準にして私生活上の平穏を害するような態様で開示されたということは
,,できないから京都市教育委員会がこれをTM室に開示したことにより
原告Bのプライバシーが違法に侵害されたということはできない。した
がって,原告らの上記主張は理由がない。
()憲法19条,21条1項について2
原告らは,京都市教育委員会は,原告Aの思想・信条を理由に原告Aの文
化力TMイン京都への参加を阻止しようとしたのであり,このような京都市
教育委員会の行為は,憲法19条に違反すると主張する。しかし,上記認定
説示のとおり,EがFに対して原告A及び原告Bに関する情報を開示したの
は,同原告らの思想・信条等の精神的活動を直接の理由とするのではなく,
甲市民会議というグループの関係者が,京都市教育相談総合センターの開館
1周年記念イベントにおいて,会場内でプラカードを掲げるなどして,進行
の妨害を行ったことがあったことを踏まえ,同様の事態が文化力TMイン京
都において生じないように対応するためである。したがって,京都市教育委
員会が,原告Aの思想・信条を理由に原告Aの文化力TMイン京都への参加
を阻止しようとしたということはできない。
また,原告らは,京都市教育委員会が,住民監査請求や情報公開請求など
市民の権利として法的に認められた行為を嫌悪して,原告Aを文化力TMイ
ン京都に参加させないようにTM室に要求したことは,原告Aの思想・信条
の自由(憲法19条)及び表現の自由(憲法21条1項)を侵害すると主張
する。しかし,前判示のとおり,京都市教育委員会は,原告Aが住民監査請
求や情報公開請求などをすることを嫌悪して,原告Aに関する情報をTM室
に開示したということはできない。
したがって,原告らの上記主張はいずれも理由がない。
第4結論
よって,原告らの本件請求は,争点()について判断するまでもなく,理由2
がないから,いずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
京都地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官吉川愼一
裁判官上田卓哉
裁判官森里紀之

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