弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士植田完治の上告理由第一点について。
 所論は、原審で被上告人は代物弁済の予約の不存在を主張したに止まり、代物弁
済の予約の無効については主張していないのであるから、これを無効と判断した原
判決は、民訴一八六条に反し、当事者の申立てざる事項につき判決をした違法があ
ると主張している。しかしながら、原審で被上告人代理人は、「本件は予謀によつ
て無智な弱い控訴人を陥穽に誘致した案件である」と述べている。上告人代理人は、
「本件消費貸借は決して控訴人の窮迫、軽卒、もしくは無経験を利用して、著しく
不当な利益を得ることを目的としたものではない」と述べ、さらにまた「控訴人は
aの株式仲買人の店に勤めていたこともあつて金銭理財に全然無智なものではない。
本件貸借の期限が極めて短いのは、期限内の利息を天引することにより控訴人の手
取金が少くなる関係上、控訴人の希望したによるものである。又当時大都市が米機
の空襲下にあつて、屡々爆撃のあつた際のこととて、不動産の交換価値も著しく低
下しており、従つて本件宅地建物は金五千円の貸金の担保としては決して十分なも
のでなかつた」とも述べている。されば、本件記録に徴し弁論の全趣旨から被上告
人は本件代物弁済の予約は公序良俗に反する無効のものであるとの趣旨の主張をし
たものと認めることができる。それ故、この無効について原判決が判断を与えたの
は当然であつて、当事者の申立てざる事項につき判断を与えたものということはで
きない。論旨は採るを得ない。
 同二点及び上告代理人弁護士稲垣利夫の上告理由第二点について。
 上告人は原審において本件土地建物の当時の価額に関し、被上告人申請の鑑定の
結果に対する反証として再鑑定の申請をしたに過ぎないものであるから、いわゆる
唯一の証拠方法とは認められないし裁判所は当事者の申出た証拠方法でも審理の経
過から見て必要のないものと判断し得る場合には、取調べなくとも差支えないので
ある。また所論のように、原審が上告人のした鑑定申請の採否につき何等の決定を
せず結審をしたとしても、その代理人である弁護士が何等の異議を述べなかつた場
合には、その申請を拠棄したものと解するを相当とする。論旨は、それ故に採るを
得ない。
 同三点及び弁護士稲垣利夫上告理由第一点について。
 所論は、原判決が本件代物弁済の予約を公序良俗に反し無効だとするには、原判
決の認めている事実の外にさらに特別事情が必要であると主張するのである。しか
し、さらに特別事情が存することは多々益々ずるわけではあるが、原審の認めた諸
事実を総合して本件代物弁済の予約を公序良俗に反し無効であると断定し得ないも
のではない。その他所論は原審の事実認定、証拠の取捨判断を非難しているが、こ
れは適法な上告理由として認め難い。それ故、論旨はすべて採ることを得ない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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