弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
    一 上告人の上告に基づき、原判決中上告人の請求に関する部分を次のと
おり変更する。
     1 被上告人は、上告人に対し、金二四七〇万円及び内金二三五〇万円
に対する平成五年一月一〇日から、内金一二〇万円に対する平成六年一〇月七日か
ら各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
     2 上告人のその余の請求を棄却する。
    二 本件附帯上告を棄却する。
    三 訴訟の総費用はこれを二分し、その一を上告人の、その余を被上告人
の負担とする。
         理    由
 上告代理人西口徹、同安部井上の上告理由のうち違約金の支払に係る損害に関す
る原審判断の違法をいう点について
 一 上告人の本件請求は、被上告人が上告人に対してした本件建物についての仮
差押命令の申立て及び訴えの提起が不法行為に当たり、これにより上告人は本件建
物の転売契約を履行することができなくなり、買主に違約金として支払った三〇〇
〇万円、得べかりし転売利益八四七九万円(強制競売による買受代金四五二一万円
と転売代金一億三〇〇〇万円との差額)及び弁護士費用一九〇万円の損害を被った
と主張し、うち八六六九万円及び遅延損害金の支払を被上告人に対して請求するも
のである。
 二 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 被上告人は、本件建物及びその敷地を所有していたが、本件建物について強
制競売の申立てがされ、上告人が、昭和六一年八月二六日、代金を四五二一万円と
する本件建物についての売却許可決定を受けた。被上告人は、右売却許可決定の内
容を知り、執行抗告を申し立てたが抗告を棄却され、さらに最高裁判所に抗告した
が抗告を却下された。上告人は、同六二年六月一日、代金四五二一万円を納付して、
本件建物の所有権及びその敷地についての法定地上権を取得した。
 2 上告人は、昭和六二年六月二日、Dとの間で、本件建物(法定地上権付き)
を代金一億円で売り渡す旨の売買契約を締結し、Dから手付金二〇〇〇万円を受領
した。
 3 被上告人は、上告人が本件建物の所有権を取得した後も本件建物を上告人に
明け渡すことを拒むなどして上告人と争っていたが、自らの主張が法律上認められ
ないことを知りながら、上告人による本件建物の利用や取引を妨害する意図をもっ
て、(一) 昭和六三年七月一八日、上告人に対する本件建物の賃料債権を被保全権
利として、本件建物について仮差押命令の申立てをし、これにより仮差押命令が発
せられて本件建物に仮差押えの登記がされ、(二) 平成元年七月六日、上告人に対
して、本件建物の所有権移転登記の抹消登記手続等を求める訴えを提起し、これに
より本件建物に所有権抹消の予告登記がされた。
 4 本件建物に右3(一)の仮差押えの登記がされたため、上告人がDに対して売
買契約を履行することが事実上不可能になったので、上告人とDは、平成元年六月
七日、売買契約を合意解除し、上告人は、Dに対して違約金として三〇〇〇万円を
支払った。
 5 上告人とDは、同日、一年以内に右仮差押命令が取り消されることを条件と
して、本件建物(法定地上権付き)を代金一億三〇〇〇万円で売り渡す旨の条件付
売買契約を締結した。しかし、右条件が成就しないばかりか、翌月には右3(二)の
予告登記もされるに至ったため、上告人は、右条件付売買契約の履行をすることが
できなかった。
 6 被上告人は、右3(一)(二)の仮差押命令の申立て及び訴えの提起をした時点
においては、上告人が転売の意思をもって本件建物を取得、保有していること及び
転売がされた場合には上告人が少なくとも一三五〇万円の利益を得ることを知るこ
とができた。
 三 原審は、右事実関係の下において、被上告人のした右二3(一)(二)の仮差押
命令の申立て及び訴えの提起は上告人に対する不法行為に当たるから、被上告人は、
上告人に対して、転売利益相当額一三五〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌
日である平成五年一月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延
損害金並びに弁護士費用相当額二一〇万円及びこれに対する訴え変更申立書送達の
日の翌日である平成六年一〇月七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合によ
る遅延損害金を支払う義務があると判断し、上告人の請求を右の限度で認容し、そ
の余を棄却すべきものとした。
 四 しかしながら、原審の右判断は、被上告人が上告人に対して更に一〇〇〇万
円の損害賠償義務を負うことを認めなかった点において、是認することができない。
その理由は、次のとおりである。
 1 上告人は、違約金として支払った三〇〇〇万円についての損害の賠償も求め
ているところ、原審の確定したところによれば、上告人には、転売利益及び弁護士
費用相当額の損害のほかに、Dから受領した手付金二〇〇〇万円と同人に違約金と
して支払った三〇〇〇万円の差額に相当する一〇〇〇万円の損害が発生したことが
明らかである。
 2 原審の確定したところによれば、被上告人は、不法行為をした時点において、
本件建物の競売による買受代金が四五二一万円であることを知っており、また、上
告人が転売の意思をもって本件建物を取得、保有していること及び転売がされた場
合には上告人が少なくとも一三五〇万円の利益を得ることを知ることができたとい
うのであるから、被上告人は、自らの不法行為によって、上告人が転売契約を履行
できずに一〇〇〇万円程度の違約金を負担せざるを得なくなることをも知ることが
できたというべきである。そうすると、被上告人には、上告人に生じた右一〇〇〇
万円の損害も賠償する義務がある。
 3 これと異なる原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は
判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は右の限度で理由があり、原判決は
破棄を免れない。そして、原審の確定したところによれば、上告人の請求は、原審
が認容した部分の外に、一〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である
平成五年一月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を
認容すべきである。
 上告代理人西口徹、同安部井上のその余の上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は採用することができ
ない。
 被上告人の附帯上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は採用することができ
ない。
 よって、上告人の上告に基づき原判決中上告人の請求に関する部分を主文第一項
のとおり変更し、本件附帯上告を棄却することとし、民訴法四〇八条、三九六条、
三八六条、三八四条、九六条、八九条、九二条に従い、裁判官全員一致の意見で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    尾   崎   行   信
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    大   野   正   男
            裁判官    千   種   秀   夫

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