弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
原判決を破棄する。
被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人佐藤歳二ほかの上告受理申立て理由第2の1について
1本件は,石川県知事が宗教法人であるAの規則の変更を認証したところ,文
部科学大臣が第三者からの審査請求に基づき認証を取り消す裁決をしたため,Aの
責任役員である上告人らがその裁決の取消しを求める事案である。
2原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)Aの役員会は,平成17年9月11日,AとAを包括する宗教法人である
Bとの被包括関係を廃止することを主な内容とする規則の変更をすること(以下,
これを「本件規則変更」といい,変更後の規則を「新規則」という。)を決議し
た。
Aのそれまでの規則は,財務と題する第4章に22条から33条までの規定を置
いており,本件規則変更は,第4章については,24条(以下「本件規定」とい
う。)をすべて削除するというものであった。本件規定は下記のとおり定めていた
(なお,「統理」とはB統理を指す。)。
「Aが左に掲げる行為をしようとするときは,役員会の議決を経て,役員が連署
の上統理の承認を受け,更に法律で規定するものについては,法律で規定する手続
きをしなければならない。その承認を受けた事項を変更しようとするときもまた同
様とする。但し,第3号及び第4号に掲げる模様替が軽微で原型に支障のないもの
である場合及び第5号に掲げる行為が6月以内の期間に係るものである場合は,こ
の限りでない。
1基本財産及び財産目録に掲げる宝物を処分し,又は担保に供すること。
2当該会計年度内の収入で償還する一時の借入以外の借入又は保証をするこ
と。
3本殿その他主要な境内建物の新築,改築,増築,移築,除却又は著しい模様
替をすること。
4境内地の著しい模様替をすること。
5本殿その他主要な境内建物若しくは境内地の用途を変更し,又はこれらをA
の宗教目的以外の目的に供すること。」
(2)石川県知事は,Aからの申請に基づき,同年11月28日,宗教法人法
(以下「法」という。)28条1項の規定により本件規則変更を認証する旨の決定
(以下「本件認証」という。)をした。
(3)文部科学大臣は,Bほかからの各審査請求に基づき,平成18年5月16
日付けで本件認証を取り消す裁決(以下「本件裁決」という。)をした。その理由
は,本件規定が削除されたため新規則は「基本財産,宝物その他の財産の処分」に
関する規定を欠き法12条1項8号に違反するから,本件規則変更は,法28条1
項1号に掲げる要件を備えておらず,これを認証すべきでないというものであっ
た。
3原審は,上記事実関係の下において次のとおり判断し,上告人らの請求を棄
却した。
法の目的として,宗教団体が財産を所有しこれを維持運用することに資すること
が掲げられていることにかんがみると,法12条1項8号に規定する「基本財産,
宝物その他の財産の設定,管理及び処分」に係る事項は,宗教法人の本質的事項に
かかわる不可欠なものというべきであるから,その重要性に照らせば,規則におい
て二義を許さない明示的な規定をもって定めることが要求される。
本件規定が削除された後の新規則は,財産の処分に関する明示的な規定を欠く違
法な規則であるから,本件認証を取り消した本件裁決に違法はない。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
法12条1項8号によれば,宗教法人の規則には,「基本財産,宝物その他の財
産の設定,管理及び処分,予算,決算及び会計その他の財務に関する事項」を記載
しなければならない。同号にいう「基本財産,宝物その他の財産の設定,管理及び
処分」は,その文理に照らせば,「財務に関する事項」の例示であるから,宗教法
人の規則に記載するのが望ましいことはいうまでもないが,これを必ず記載しなけ
ればならないとまではいえない。
また,法23条によれば,宗教法人が例えば不動産又は財産目録に掲げる宝物を
処分し又は担保に供しようとする場合において,規則に別段の定めがないときは,
これを責任役員の定数の過半数で決し(法19条),かつ,その行為の少なくとも
1か月前にその行為の要旨を公告しなければならないとされ,これに違反した行為
は法24条の定める限りで無効とされる。したがって,規則中に財産の処分に関す
る明示的な規定を持たない宗教法人があったとしても,法23条及び24条の定め
る範囲でその財産の不当な処分が防止され,財産が保全されることとなる。このよ
うに,法は,財産の処分に関する明示的な規定を持たない規則を有する宗教法人が
存在し得ることをも予定し(なお,法52条2項7号参照),その財産の保全を図
っているものと解される。
そうすると,宗教法人の規則は,財産の処分に関する事項を明示的に定めた規定
が存在しない場合であっても,それだけでは法12条1項8号に違反するものとは
いえないと解するのが相当である。
したがって,財産の処分に関する明示的な規定を欠くことのみを理由に新規則が
同号に違反するとし,本件規則変更を認証すべきでないとした本件裁決は,違法で
ある。
5以上によれば,原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上告人らの請求
を認容した第1審判決は正当であるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官田原睦夫裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官
那須弘平裁判官近藤崇晴)

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