弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人松下良成の上告受理申立て理由について
1本件は,第1審判決別紙物件目録記載1及び2の各土地(以下「本件各土
地」という。)につき抵当権の設定を受けていた上告人が,抵当権の実行としての
競売を申し立てたところ,本件各土地を時効取得したと主張する被上告人が,この
競売の不許を求めて第三者異議訴訟を提起した事案である。
2原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)Aは,昭和45年3月当時,平成17年3月に本件各土地に換地がされる
前の従前の土地(以下「本件旧土地」という。)を所有していた。同人は,昭和4
5年3月,被上告人に対し,本件旧土地を売却したが,所有権移転登記はされなか
った。
被上告人は,遅くとも同月31日から,本件旧土地につき占有を開始し,サトウ
キビ畑として耕作していた。
(2)Aの子であるBは,昭和57年1月13日,本件旧土地につき,昭和47
年10月8日相続を原因として,Aからの所有権移転登記を了した。
また,Bは,昭和59年4月19日,本件旧土地につき,上告人のために,第1
審判決別紙登記目録記載1の抵当権(以下「本件抵当権」という。)を設定し,同
日付けでその旨の抵当権設定登記がされた。
しかし,被上告人は,これらの事実を知らないまま,上記換地の前後を通じて,
本件旧土地又は本件各土地をサトウキビ畑として耕作し,その占有を継続した。ま
た,被上告人は,本件抵当権の設定登記時において,本件旧土地を所有すると信ず
るにつき善意かつ無過失であった。
(3)上告人は,鹿児島地方裁判所名瀬支部に対し,本件各土地を目的とする本
件抵当権の実行としての競売(以下「本件競売」という。)を申し立て,平成18
年9月29日,競売開始決定を得た。これに対し,被上告人は,本件競売の不許を
求めて本件訴訟を提起した。なお,本件競売手続については,被上告人の申立てに
より,平成20年7月31日,停止決定がされた。
(4)被上告人は,平成20年8月9日,Bに対し,本件各土地につき,所有権
の取得時効を援用する旨の意思表示をした。
3所論は,時効取得者と取得時効の完成後に抵当権の設定を受けてその設定登
記をした者との関係は対抗問題となり,時効取得者は,抵当権の負担のある不動産
を取得するにすぎないのに,これと異なり,被上告人の取得時効の援用により本件
抵当権は消滅するとした原審の判断には,法令の解釈を誤る違法があるというので
ある。
4(1)時効取得者と取得時効の完成後に抵当権の設定を受けてその設定登記を
した者との関係が対抗問題となることは,所論のとおりである。しかし,不動産の
取得時効の完成後,所有権移転登記がされることのないまま,第三者が原所有者か
ら抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了した場合において,上記不動産の時効
取得者である占有者が,その後引き続き時効取得に必要な期間占有を継続したとき
は,上記占有者が上記抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅を妨げる特段
の事情がない限り,上記占有者は,上記不動産を時効取得し,その結果,上記抵当
権は消滅すると解するのが相当である。その理由は,以下のとおりである。
ア取得時効の完成後,所有権移転登記がされないうちに,第三者が原所有者か
ら抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了したならば,占有者がその後にいかに
長期間占有を継続しても抵当権の負担のない所有権を取得することができないと解
することは,長期間にわたる継続的な占有を占有の態様に応じて保護すべきものと
する時効制度の趣旨に鑑みれば,是認し難いというべきである。
イそして,不動産の取得時効の完成後所有権移転登記を了する前に,第三者に
上記不動産が譲渡され,その旨の登記がされた場合において,占有者が,上記登記
後に,なお引き続き時効取得に要する期間占有を継続したときは,占有者は,上記
第三者に対し,登記なくして時効取得を対抗し得るものと解されるところ(最高裁
昭和34年(オ)第779号同36年7月20日第一小法廷判決・民集15巻7号
1903頁),不動産の取得時効の完成後所有権移転登記を了する前に,第三者が
上記不動産につき抵当権の設定を受け,その登記がされた場合には,占有者は,
自らが時効取得した不動産につき抵当権による制限を受け,これが実行されると自
らの所有権の取得自体を買受人に対抗することができない地位に立たされるのであ
って,上記登記がされた時から占有者と抵当権者との間に上記のような権利の対立
関係が生ずるものと解され,かかる事態は,上記不動産が第三者に譲渡され,その
旨の登記がされた場合に比肩するということができる。また,上記判例によれば,
取得時効の完成後に所有権を得た第三者は,占有者が引き続き占有を継続した場合
に,所有権を失うことがあり,それと比べて,取得時効の完成後に抵当権の設定を
受けた第三者が上記の場合に保護されることとなるのは,不均衡である。
(2)これを本件についてみると,前記事実関係によれば,昭和55年3月31
日の経過により,被上告人のために本件旧土地につき取得時効が完成したが,被上
告人は,上記取得時効の完成後にされた本件抵当権の設定登記時において,本件旧
土地を所有すると信ずるにつき善意かつ無過失であり,同登記後引き続き時効取得
に要する10年間本件旧土地の占有を継続し,その後に取得時効を援用したという
のである。そして,本件においては,前記のとおり,被上告人は,本件抵当権が設
定されその旨の抵当権設定登記がされたことを知らないまま,本件旧土地又は本件
各土地の占有を継続したというのであり,被上告人が本件抵当権の存在を容認して
いたなどの特段の事情はうかがわれない。
そうすると,被上告人は,本件抵当権の設定登記の日を起算点として,本件旧土
地を時効取得し,その結果,本件抵当権は消滅したというべきである。
5原審の前記3の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用す
ることができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官古田佑
紀の補足意見がある。
裁判官古田佑紀の補足意見は,次のとおりである。
法廷意見は,取得時効の完成後所有権移転登記をする前に,第三者が抵当権の設
定を受けその登記がされた場合,抵当権が実行されると占有者は所有権を失うこと
になることに着目して権利の対立関係を認め,第三者が譲渡を受けてその登記がさ
れた場合と同様に,登記の時から取得時効の進行を認めるものである。確かに,抵
当権の実行により占有者が所有権を失うことがあるという意味においては,第三者
が譲渡を受けて登記をした場合と共通性が認められる。
しかしながら,第三者が抵当権設定を受けた場合に,これが譲渡を受けた場合と
「比肩する」として,占有者について取得時効の進行を認めるためには,占有者の
法的状況について上記の共通性が認められるだけでは足りず,第三者の法的状況も
観察して,双方の観点から,第三者が譲渡を受けた場合と同様の状況といえるかど
うかを検討する必要がある。占有者が所有権(時効の援用によって取得される所有
権又は所有権を取得できる地位)を失うこととなるのは,抵当権により履行が担保
されている債務の不履行があって抵当権が実行された場合であるから,抵当権が設
定されても,そのことによって直ちに占有者の所有権が失われることとなるわけで
はなく,両者は併存する。第三者側からすると,第三者が不動産の譲渡を受け登記
を経た場合であれば,占有者は確定的にその所有権を失い,第三者は占有者に対し
て所有権に基づきその明渡しを求めるなど,その権利を行使して取得時効の完成を
妨げ,取得した所有権の喪失を防止できるのに対し,抵当権の設定を受けた場合は
占有者の所有権が失われることにならないところ,抵当権は債務不履行がないにも
かかわらず実行することはできないし,また占有権原や利用権原を伴うものではな
いからこれらの権原に基づいて占有を排除することもできないのであって,所有権
のように前記のような権利の消滅を防止する手段が当然には認められない。この点
は,譲渡を受けた場合と抵当権の設定を受けた場合とで大きく相違する点であっ
て,このような差があることを踏まえても,取得時効の進行に関し,なお法的状況
が同様であるといえるためには,抵当権の設定を受け登記を経た第三者において,
抵当権の実行以外に,占有者に抵当権を容認させる手段など,取得時効期間の経過
による抵当権の消滅を防止する何らかの法的な手段があることが必要と考える。こ
のような手段がないとすれば,抵当権者は,本来の権利保全の仕組みからすれば自
らにその権利を対抗できない者との関係で,防止する手段がないまま自己の権利が
消滅することを甘受せざるを得ないことになり,均衡を失するものといわざるを得
ない。法廷意見はこの点について明示的に触れるところがないが,抵当権者におい
て抵当権の消滅を防止する手段があることを前提としているものと解され,その理
解の下で法廷意見に与するものである。
なお,法廷意見は被上告人が本件旧土地を時効取得した結果抵当権が消滅する旨
判示する。この点については,従来の一般的理解に沿うものであり,また取得時効
期間の進行を認めるならばその結果としての取得時効の完成も認めることが論理的
であるという考えもあり得ないわけではなく,本件の結論に影響するものではない
ので,あえて異を唱えるものではない。しかしながら,第三者に所有権が移転され
た場合には,占有者が確定的に所有権を失うのに対して,第三者に抵当権が設定さ
れた場合には,そのような事情はないから,取得時効が完成している状態が変わる
ものではないにもかかわらず,抵当権が消滅する理由として,再び取得時効の完成
を認めることは技巧的で不自然な感を免れない。第三者が所有権を取得した場合
は,占有者が再度所有権を取得するためには改めて取得時効が完成することが必要
であるが,第三者が抵当権の設定を受けた場合は,民法397条の規定から取得時
効期間占有が継続されたこと自体によって抵当権が消滅すると解することが可能で
ある。原始取得であることをもって他の権利が当然に消滅するとはいえないのであ
って,法は所有権以外の物権について所有権の時効取得によって当然にこれが消滅
すべきものとしているとは必ずしもいえず,占有に関わらない物権については個別
に消滅するかどうかを判断すべきものとしていると見る余地があり(民法289
条,290条参照),複数の担保権が存在する場合の調整やこれらの権利の消滅を
防止する手段などに関して,そのような観点からの検討をすることが適切な場合が
あるのではないかと思われることを付言しておきたい。
(裁判長裁判官竹内行夫裁判官古田佑紀裁判官須藤正彦裁判官
千葉勝美)

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