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平成26年4月16日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成25年(ネ)第10113号損害賠償請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成25年(ワ)第23243号)
口頭弁論終結日平成26年3月19日
判決
控訴人X
被控訴人株式会社リコー
訴訟代理人弁護士田中昌利
同澤田将史
主文
1控訴人が当審において追加した主位的請求に係る訴えを却下する。
2控訴人の予備的請求についての本件控訴を棄却する。
3当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2主位的請求
被控訴人は,控訴人に対し,199万4200円及びこれに対する昭和5
6年6月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
予備的請求
本件を東京地方裁判所に差し戻す。
第2事案の概要
本件は,考案の名称を「カツター装置付きテープホルダー」とする考案に係
る実用新案権を有していた控訴人が,被控訴人の製造販売した製品が上記考案
の技術的範囲に属するものであったとして,被控訴人に対し,債務不履行に基
づく損害賠償の一部請求として199万4200円及び遅延損害金の支払を求
めた事案である。
原審は,上記請求に係る当事者,請求の趣旨及び請求原因は,控訴人が従前
提起し,訴権の濫用に当たる不適法な訴えとして却下された前訴のそれと同一
であるとして,前訴の既判力又は信義則違反により,上記請求に係る訴えを却
下した。
控訴人は,これを不服として控訴し,当審において,上記実用新案権侵害の
不法行為に基づく損害賠償の一部請求として199万4200円及び遅延損害
金の支払を求める請求を追加し,この請求を主位的請求とし,原審における上
記請求を予備的請求とした。なお,控訴人は,原審において,上記請求は,損
害賠償請求権406億8948万円の一部請求である旨主張していたが,当審
において,損害賠償請求権305億1711万円の一部請求である旨主張を変
更した。
1前提事実
前提事実は,原判決2頁11行目の後に行を改めて次のとおり付加するほか,
原判決の「事実及び理由」の第2の1に記載のとおりであるから,これを引用
する。
「実用新案登録請求の範囲
巻回テープ類を保持する本体1に固定刃2を有する引出口3を形成し,該
引出口3には固定刃2と共に,引出したテープT類を剪断する可動刃4を回
動自在に設けたカツター装置付テープホルダーにおいて,操作摘み9を有す
る可動刃4の緩挿軸8に幅裁断用切刃7を固着し,軸8と引出口3の間に一
対の案内ロール5,6を装架した構造。」
2当事者の主張
当事者の主張は,次のとおり当審における主張を付加するほか,原判決の「
事実及び理由」の第2の2に記載のとおりであるから,これを引用する。
当審における控訴人の主張
ア原判決別紙イ号侵害物目録,ロ号侵害物目録及びハ号侵害物目録の変更
について
原判決別紙イ号侵害物目録,ロ号侵害物目録及びハ号侵害物目録を,以
下のとおり,変更する。
原判決イ号侵害物目録1枚目6行目の「除外ないし排除ないし削除し
た後の」を「切り離して削除した後の」と,同目録2枚目1行目の「本
件考案の構成要件は」を「実用新案登録請求の範囲の記載に基づいた,
本件考案の構成要件は」とそれぞれ改める。
原判決ロ号侵害物目録1枚目7行目の「記載を」を「記載を含む全部
の記載を」と改める。
原判決ハ号侵害物目録1枚目6行目の「除外ないし排除ないし削除し
た後の」を「切り離して削除した後の」と,同目録2枚目1行目の「本
件考案の構成要件は」とあるのを「実用新案登録請求の範囲の記載に基
づいた,本件考案の構成要件は」とそれぞれ改める。
イ主位的請求(不法行為に基づく損害賠償請求)について
原判決別紙イ号侵害物目録記載のイ号侵害物,同ロ号侵害物目録記載の
ロ号侵害物及び同ハ号侵害物目録記載のハ号侵害物(いずれも前記アによ
る目録変更後のもの。以下,これらを併せて「被控訴人各侵害物」という。
)は,本件考案の技術的範囲に属するから,被控訴人による被控訴人各侵
害物の製造販売は,本件実用新案権侵害の不法行為を構成する。
そこで,控訴人は,被控訴人に対し,不法行為に基づく損害賠償請求権
305億1711万円の一部請求として,イ号侵害物については,昭和4
7年3月から昭和56年6月13日までの間に製造販売した12万082
5台のうち当初の7台に係る37万3800円,ロ号侵害物については,
上記期間に製造販売した6万8325台のうち当初の6台に係る32万0
400円,ハ号侵害物については,昭和47年2月から昭和56年6月1
3日までの間に製造販売した7万8525台のうち当初の5台に係る13
0万円の合計199万4200円及びこれに対する昭和56年6月14日
(本件実用新案権の存続期間満了日の翌日)から支払済みまで民法所定の
年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
ウ予備的請求(債務不履行に基づく損害賠償請求)について
前記イのとおり,被控訴人による被控訴人各侵害物の製造販売は,本
件実用新案権侵害の不法行為を構成し,被控訴人は,控訴人に対し,不
法行為から生じた債務である199万4200円及びこれに対する昭和
56年6月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延
損害金の支払債務を負っている。
そして,被控訴人は,上記支払債務の履行を遅滞しているから,控訴
人に対し,同額の債務不履行に基づく損害賠償債務を負っている。
そこで,控訴人は,被控訴人に対し,予備的に,債務不履行に基づく
損害賠償請求権305億1711万円の一部請求として199万420
0円(その内訳は前記イと同じである。)及びこれに対する昭和56年
6月14日(本件実用新案権の存続期間満了日の翌日)から支払済みま
で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
原判決は,控訴人の予備的請求に係る訴えは,前訴の既判力により又
は信義則に反し許されないから,不適法である旨判断したが,以下のと
おり,上記判断は誤りである。
まず,原判決別紙イ号製品目録,ロ号製品目録及びハ号製品目録記載
の被告各製品(以下「被控訴人各製品」という。)は,「複写機」であ
るのに対し,被控訴人各侵害物は,「カッター装置付きテープホルダー
」である点で,両者は異なる。
控訴人が「複写機」である被控訴人各製品が本件考案の技術的範囲に
属すると主張し続けることは,前訴の既判力の客観的範囲内のものであ
り,訴権の濫用に当たるが,控訴人は,「カッター装置付きテープホル
ダー」である被控訴人各侵害物が本件考案の技術的範囲に属すると主張
することは,前訴の既判力の客観的範囲外のものであって,訴権の濫用
に当たらないというべきである。
次に,控訴人は,本件において,複写機が本件考案の技術的範囲に属
するか否かについての判断を求めていないから,控訴人の予備的請求は,
前訴の請求及び主張の蒸し返しに当たらず,信義則に反するものではな
いというべきである。
原判決は,この点に関し,最高裁平成10年6月12日第二小法廷判
決(民集52巻4号1147頁参照。以下「平成10年最高裁判決」と
いう。)を引用して,控訴人の予備的請求に係る訴えは,信義則に反し,
許されない旨判断しているが,本件においては,被控訴人が前訴の第1
審の第1回口頭弁論期日において「請求の減縮に対し…」と陳述したこ
とにより,全部請求(406億8948万円)を前提として,減縮後の
請求にかかる一部請求(199万4200円)について承認(民法14
7条)したという特段の事情があるから,本件については,平成10年
最高裁判決は適用されない。
以上によれば,控訴人の予備的請求に係る訴えは,適法であるという
べきであるから,原判決の上記判断は誤りである。
当審における被控訴人の主張
ア控訴人は,従前から,本件実用新案権の侵害を主張し,被控訴人に対し,
不法行為に基づく損害賠償請求権に基づく請求をしてきたが,度重なる過
去の判決により,訴訟物が同一であるとの指摘が繰り返された。控訴人は,
本件訴訟の原審において,債務不履行に基づく損害賠償請求権を主張した
が,債務不履行としての的確な主張はなく,従前同様の不法行為に関する
主張をしただけであり,当審の主張もこの点では変わりはない。
次に,控訴人は,当審において,イ号侵害物について,原審で主張した
「昭和47年3月から同56年6月13日までの間に被控訴人が製造販売
した「16万1100台」のうち当初の7台で,37万3800円」を「
昭和47年3月から同56年6月13日までの間に被控訴人が製造販売し
た「12万0825台」のうち当初の7台で,37万3800円」と,ロ
号侵害物について,原審で主張した「昭和47年3月から同56年6月1
3日までの間に被控訴人が製造販売した「9万1100台」のうち当初の
6台で,32万0400円」を「昭和47年3月から同56年6月13日
までの間に被控訴人が製造販売した「6万8325台」のうち当初の6台
で,32万0400円」と,ハ号侵害物について,原審で主張した「昭和
47年2月から同56年6月13日までの間に被控訴人が製造販売した「
10万4700台」のうち当初の5台で,130万円」を「昭和47年2
月から同56年6月13日までの間に被控訴人が製造販売した「7万85
25台」のうち当初の5台で,130万円」とそれぞれ変更し,製造販売
台数を減少させる主張をしている。
しかしながら,控訴人の原審における主張と当審における主張とでは,
製造販売期間,対象(イ号侵害物につき「当初の7台」,ロ号侵害物につ
き「当初の6台」,ハ号侵害物につき「当初の5台」)及びその金額がい
ずれも同一であり,当審における主張に係る製造販売台数は原審における
主張に係る製造販売台数に包含されるものといえるから,原審及び当審に
おいて,請求対象とする侵害物件は,全く同じである。
以上によれば,当審において,控訴人が予備的請求であるという債務不
履行に基づく損害賠償請求権は,主位的請求である不法行為に基づく損害
賠償請求権にほかならないものであり,主位的請求と予備的請求は同一で
あるというべきである。
そうすると,控訴人が当審で追加した主位的請求に係る訴え及び予備的
請求に係る訴えは,前訴の請求に係る訴えと同一であるから,前訴の確定
判決の既判力により,いずれも不適法として却下されるべきである。
イ仮にイ号侵害物に係る「当初の7台」,ロ号侵害物に係る「当初の6台
」,ハ号侵害物に係る「当初の5台」が原審と当審とで異なる部分を指す
ものであるとしても,金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した者が残部
請求の訴えを提起することは,原則として許されない旨の平成10年最高
裁判決の趣旨に照らし,控訴人の主位的請求に係る訴えは,信義則に反す
るものであって,不適法として却下されるべきである。
また,控訴人の予備的請求に係る債務不履行に基づく損害賠償請求が不
法行為に基づく損害賠償請求と一応異なるものであるとしても,控訴人が
債権の発生原因として主張する事実関係が不法行為と全く同一であって,
控訴人の予備的請求に係る訴えは,前訴の実質的な蒸し返しというべきで
あるから,平成10年最高裁判決の趣旨に照らし,信義則に反するもので
あって,不適法として却下されるべきである。
第3当裁判所の判断
1主位的請求について
証拠(乙25の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,前訴で対象とされ
た原判決別紙イ号製品目録,ロ号製品目録及びハ号製品目録記載の被控訴人各
製品と控訴人主張に係る被控訴人各侵害物とは同一の製品であることが認めら
れる。
そして,控訴人の前訴請求は,本件実用新案権侵害の不法行為に基づく損害
賠償請求権406億8948万円の一部請求として199万4200円及び遅
延損害金の支払を求めるものであるのに対し(前記前提事実),控訴人が当
審で追加した不法行為に基づく損害賠償請求請求は,本件実用新案権侵害の不
法行為に基づく損害賠償請求権305億1711万円の一部請求として199
万4200円及び遅延損害金の支払を求めるものであり,被控訴人各侵害物に
係る全体の製造販売台数も前訴請求のものよりも少ないが,その製造販売期間,
請求対象(イ号製品ないしイ号侵害物につき「当初の7台」,ロ号製品ないし
ロ号侵害物につき「当初の6台」,ハ号製品ないしハ号侵害物につき「当初の
5台」)及び請求金額は,いずれも前訴請求と同一である。
そうすると,控訴人が当審で追加した不法行為に基づく損害賠償請求に係る
訴えは,当事者,請求の趣旨及び請求原因が前訴のそれと同一であり,前訴に
おいて,その訴えが信義則に反し,訴権の濫用に当たる不適法なものであるこ
とを理由に訴えを却下する旨の判決が確定していることから,その既判力によ
り,不適法な訴えとして却下されるべきものである。
2予備的請求について
控訴人の予備的請求は,被控訴人による被控訴人各侵害物の製造販売が本件
実用新案権侵害の不法行為を構成し,その不法行為から生じた債務の履行遅滞
による損害賠償請求権に基づくものであって,控訴人が当審で追加した不法行
為に基づく損害賠償請求(主位的請求)に係る損害賠償請求権と同一の請求権
に基づくものといえる。
そうすると,控訴人の予備的請求に係る訴えは,前記1と同様の理由により,
前訴の確定判決の既判力により,不適法な訴えとして却下されるべきものであ
る。
なお,控訴人は,原審で主張した被控訴人の製造販売に係る被控訴人各侵害
物の目録を,当審において前記第2の2ア記載のとおり変更したが,控訴人
の主張に係る被控訴人各侵害物が上記目録の記載変更の前後を通じて同一であ
ることは,その趣旨に照らして明らかであり,また,上記目録変更後の被控訴
人各侵害物が前訴で対象とされた同一の製品であることは,前記1のとおりで
あるから,当審における上記目録の変更は,上記判断を左右するものではない。
3結論
以上のとおり,控訴人が当審において追加した主位的請求に係る訴え及び予
備的請求(原審における請求)に係る訴えは,いずれも不適法である。
したがって,控訴人の主位的請求に係る訴えを却下することとし,また,控
訴人の予備的請求に係る訴えを却下した原判決は相当であるから,本件控訴を
棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官富田善範
裁判官大鷹一郎
裁判官田中芳樹

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