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平成29年6月15日判決言渡
平成24年(行ウ)第259号相続税更正処分取消等請求事件
主文
1P1税務署長が平成23年2月18日付けで原告P2の相続税につい
てした更正処分のうち納付すべき税額5億7830万4100円を超え
る部分を取り消す。
2P1税務署長が平成23年12月12日付けでした原告P2の相続
税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を取
り消す。
3原告P2のその余の請求並びに原告P3及び同P4の各請求をいずれ
も棄却する。
4訴訟費用は,原告P2に生じた費用の100分の99と被告に生じた
費用の300分の99を同原告の負担とし,原告P3に生じた全費用と
被告に生じた費用の3分の1を同原告の負担とし,原告P4に生じた全
費用と被告に生じた費用の3分の1を同原告の負担とし,その余の全費
用を被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1P1税務署長が平成23年2月18日付けで原告P2の相続税についてした
更正処分のうち納付すべき税額5億1418万2200円を超える部分を取
り消す。
2主文2項同旨
3P1税務署長が平成23年2月18日付けで原告P3の相続税についてした
更正処分のうち納付すべき税額5億3537万2000円を超える部分を取
り消す。
4P1税務署長が平成23年12月12日付けでした原告P3の相続税に係る
更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
5P1税務署長が平成23年2月18日付けで原告P4の相続税についてした
更正処分のうち納付すべき税額5億6872万9700円を超える部分を取
り消す。
6P1税務署長が平成23年12月12日付けでした原告P4の相続税に係る
更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,平成21年○月○日に死亡したP5(以下「亡P5」という。)の
相続人である原告ら(以下,原告P2を「原告P2」と,原告P3を「原告P
3」と,原告P4を「原告P4」という。)が,亡P5の死亡により開始した
相続(以下「本件相続」という。)について共同でした相続税の申告(以下「本
件申告」という。)につき,本件相続により取得した財産(以下「本件相続財
産」という。)のうち,別紙1「物件目録」記載の各不動産(以下「本件各不
動産」といい,同別紙の「順号」欄の区分に従ってそれぞれ「甲土地」などと
いい,「順号」欄Fの土地及び建物を併せて「Fマンション」という。)の評
価額が過大であったなどとして二度にわたり更正の請求をそれぞれしたとこ
ろ,P1税務署長が当初の請求(以下「本件第1次各更正の請求」という。)
に対しては各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)を,再度の請求(以
下「本件第2次各更正の請求」という。)に対しては更正をすべき理由がない
旨の各通知処分(以下「本件各通知処分」といい,本件各更正処分と併せて「本
件各処分」という。)をそれぞれしたため,本件各処分がいずれも違法である
として,被告を相手に,本件各更正処分のうち上記各請求記載の納付すべき税
額を超える部分の各取消し及び本件各通知処分の各取消しを求める事案であ
る。
2関係法令等の定め
別紙2「関係法令等の定め」のとおり。同別紙で定める略称等は,以下にお
いても用いることがある。
3前提事実(当事者間に争いがないか,証拠により容易に認められる事実。以
下,証拠番号は特記なき限り枝番号を含む。)
(1)当事者
原告らは,いずれも亡P5の子である。原告らのほかに,亡P5の相続人
はいない。
(2)本件相続
平成21年○月○日,亡P5が死亡し,原告らは,本件各不動産を含むP
5の財産(本件相続財産)を本件相続により取得した。
(3)本件申告
原告らは,平成22年10月15日,本件相続に係る相続税(以下「本件
相続税」という。)について,別紙3「課税処分等の経緯」の「申告」欄記
載のとおり,本件申告を共同でした(甲1)。
(4)本件第1次各更正の請求及び本件各更正処分
ア原告らは,平成22年11月18日,本件申告において,本件各不動産
のうち,甲土地,乙土地,丙土地,A土地,B土地,D土地,G土地及び
H土地の各評価額(以下,「評価額」というときは,特記なき限り相続税
評価額を指す。)が過大である誤りがあったとして,別紙3「課税処分等
の経緯」の「第1次各更正の請求」欄記載のとおり各更正の請求(本件第
1次各更正の請求)をした(甲2)。
イP1税務署長は,平成23年2月18日付けで,本件第1次各更正の請
求につき,D土地,G土地及びH土地については原告らの主張する評価額
を全部認め,甲土地,丙土地及びA土地については本件申告の申告書に記
載された評価額が適正なものであるとしてこれを認めず,乙土地及びB土
地については原告らの主張する評価額は認められないものの,本件申告の
申告書に記載された評価額には誤りがあるとして是正した評価額を基に,
原告らに対し,別紙3「課税処分等の経緯」の「原処分1(更正処分)」
欄記載のとおり本件各更正処分をした(甲3,弁論の全趣旨)。
(5)本件各更正処分に係る異議申立て及び棄却決定
ア原告らは,平成23年3月24日,本件各更正処分を不服として,P1
税務署長に対し,別紙3「課税処分等の経緯」の「第1次各異議申立て」
欄記載のとおり各異議申立てをした(甲4)。
イP1税務署長は,平成23年6月17日付けで,上記アの各異議申立て
を棄却する旨の各決定をした(甲5)。
(6)審査請求
原告らは,平成23年7月14日付けで,上記(5)イの決定を不服として,
国税不服審判所長に対し,別紙3「課税処分等の経緯」の「審査請求」欄の
とおり各審査請求をした(甲6)。
(7)本件第2次各更正の請求及び本件各通知処分
ア原告らは,平成23年10月13日,甲土地から丙土地まで,A土地か
らE土地まで,Fマンション及びG土地の各評価額が過大であるとして,
別紙3「課税処分等の経緯」の「第2次各更正の請求」欄記載のとおり各
更正の請求(本件第2次各更正の請求)をした(甲7)。
イP1税務署長は,平成23年12月12日付けで,原告らに対し,本件
第2次各更正の請求につき,更正をすべき理由がないとして,本件各通知
処分をした(甲8)。
(8)本件各通知処分に係る異議申立て
ア原告らは,平成24年1月16日,本件各通知処分を不服として,P1
税務署長に対し,別紙3「課税処分等の経緯」の「第2次各異議申立て(み
なす審査請求)」欄のとおり各異議申立てをした(甲9)。
イP1税務署長は,平成24年1月25日,上記アの各異議申立てを受け,
国税通則法(ただし,平成26年法律第69号による改正前のもの。)9
0条1項に基づき,原告らの異議申立書を国税不服審判所長に送付し,そ
の旨を原告らに通知した。
これにより,原告らが本件各通知処分に対する審査請求をしたものとみ
なされた(同条3項)。
(9)裁決
国税不服審判所長は,平成24年6月14日付けで,上記(6)及び(8)の各
審査請求のうち,第1次各更正の請求及び第2次各更正の請求を下回る部分
の取消しを求める部分を不適法として却下し,その余の部分を棄却する旨の
裁決をした(甲10)。
(10)本件訴えの提起
原告らは,平成24年12月11日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。
4本件各処分の根拠及び適法性に関する被告の主張
本件各処分の根拠及び適法性に関する被告の主張は,後記5に掲げるほか,
別紙4「本件各処分の根拠及び適法性」記載のとおりである。なお,後記の争
点以外の相続税額の算定について原告らは争っていない。
5争点及びこれに関する当事者の主張
本件の主たる争点は,甲土地,乙土地,丙土地,A土地,D土地,E土地及
びFマンション(以下「本件各係争不動産」という。)の本件各処分における
各評価額が相続開始時の時価を上回っているかどうかである。この点に関する
当事者の主張の要旨は以下のとおりである。
(被告の主張の要旨)
(1)税負担は,国民の間の担税力に即して公平に配分されなければならないと
ころ(租税公平主義),相続税は,人が相続により取得した財産を対象とし
て,当該財産に担税力を認めて課税するものであるから(相続税法(ただし,
平成22年法律第6号による改正前のもの。以下同じ。)11条の2参照),
同法22条にいう「時価」とは,客観的な交換価値,すなわち,不特定多数
の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額
をいうと解すべきである。
対象財産の客観的な交換価値は必ずしも一義的に確定されるものではな
く,これを個別に評価するとすれば,評価方法等により異なる評価額が生じ,
課税庁の事務負担が重くなり,課税事務の迅速な処理が困難となるおそれが
あるため,課税実務上は,財産評価の一般的な基準として評価通達が定めら
れている。評価通達は路線価方式又は倍率方式を採用しているところ,路線
価方式又は倍率方式は,土地の正常な取引価格を反映するものといえるから,
評価通達による土地の評価をもって時価とすることには合理性が認められ
る。そうすると,評価通達の定めによることが明らかに対象財産の客観的な
交換価値とはかい離した結果を導くことになり,そのため実質的な租税負担
の公平を著しく害し,法の趣旨に反することになるなど,評価通達に定める
評価方式によらないことが正当として是認されるような特別の事情がない
限り,評価通達に基づいて評価すべきである。
そして,相続税の課税処分の取消訴訟においては,当該課税処分が評価通
達等の定めに従って相続財産の価額を評価してしたものであることを国が
主張立証した場合には,その相続財産の評価額は時価,すなわち客観的交換
価値を適正に評価したものと事実上推認することができるというべきであ
り,この場合には,納税者において,評価通達を適用することが特に不合理
であると認められる特別の事情を主張立証しなければならない。また,その
立証の程度は,単に,評価通達に定める評価方式により算定した評価額を下
回る不動産鑑定評価が存在するだけでは足りず,評価通達に定める方式によ
った評価額が客観的な交換価値を上回り,評価通達に基づいて相続財産の評
価を行うことが納税者間の公平等の見地に照らしても著しく不適当である
というような特別の事情があることを主張立証することが必要である。
(2)本件各係争不動産を評価通達に従って評価した結果は,別紙5-1から同
5-8までのとおりである。そうすると,本件各処分における本件各係争不
動産の各評価額は,評価通達の定めに従って決定された本件各係争不動産の
価額を上回らないから,原告らにおいて,評価通達を適用することが特に不
合理である特別の事情を主張立証しなければならない。
しかし,別紙6「特別の事情に関する当事者の主張」の「被告の主張」欄
のとおり,原告らが本件各係争不動産について主張する事情は,評価通達に
定める評価方式によらないことが正当として是認されるような特別の事情
には当たらない。また,原告らの行った鑑定評価には問題がある。
(原告らの主張の要旨)
(1)評価通達に定められた評価方式の合理性は争わない。
(2)しかし,別紙6「特別の事情に関する当事者の主張」の「原告らの主張」
欄のとおり,本件各処分における丙土地の評価額は,評価通達の適用の誤り
があり,評価通達に従って決定された価額を上回っているし,丙土地を含む
本件各係争不動産には,評価通達によっては適正な時価を算定することがで
きない特別の事情がある。また,原告らが行った本件各係争不動産の鑑定に
よれば,本件各処分における本件各係争不動産の各評価額は,いずれも客観
的な交換価値を上回っている。したがって,本件各係争不動産の各評価額は,
適正な時価を上回っている。
第3当裁判所の判断
1総論
(1)相続税法22条は,相続等により取得した財産の価額を当該財産の取得の
時における時価によるとしているが,ここにいう時価とは当該財産の客観的
な交換価値をいうものと解される(最高裁判所平成22年7月16日第二小
法廷判決・裁判集民事234号263頁参照)。
ところで,相続税法は,地上権等を除き,財産の評価の方法について直接
定めてはいないが,これは,財産が多種多様であり,時価の評価が必ずしも
容易なことではなく,評価に関与する者次第で個人差があり得るため,納税
者間の公平の確保,納税者及び課税庁双方の便宜,経費の節減等の観点から,
評価に関する通達により全国一律の統一的な評価の方法を定めることを予
定し,これにより財産の評価がされることを前提とする趣旨であると解する
のが相当である。そして,国税庁長官は,上記の趣旨を踏まえ,評価通達を
定め,これに従って実際の評価が行われている。
相続税法の上記趣旨に鑑みれば,評価対象の不動産に適用される評価通達
の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有
するものであり,かつ,当該不動産の価額がその評価方法に従って決定され
た場合には,上記価額は,その評価方法によっては適正な時価を適切に算定
することができない特別の事情の存しない限り,相続時における当該不動産
の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るものではないと推認する
のが相当である。
なお,評価額が不動産鑑定評価額を上回るという事実は,上記特別の事情
を推認させる一つの事情となり得るが,これをもって,直ちに上記特別の事
情があるということはできない。また,上記特別の事情は,評価額を争う納
税者において主張立証すべきものと解される。
(2)本件において,評価通達が一般的な合理性を有することは当事者間に争い
がなく,また,評価通達の内容等に鑑みれば,評価通達が一般的な合理性を
有すると認められる。また,被告の主張する本件各係争不動産の各評価額は,
評価通達に従って決定されたものと認められる。したがって,以下では本件
各係争不動産に評価通達によっては適正な時価を算定することができない
特別の事情が存するのかどうかを中心に検討する。
2甲土地について
(1)原告らは,甲土地は123区画と多数の画地に分かれている地積現況約1
万3271㎡の広大な宅地であり,その利用形態も様々で,権利関係が入り
組んでいるところ,評価通達ではこのような場合に広大地補正はできず,各
区画の個別的事情を十分に反映できないなど,評価通達によっては適正な時
価を算定することができない特別の事情が存在する旨主張する。
しかし,広大地補正は,都市計画法に規定する開発行為により,土地の区
画形質の変更をした際に,道路や公園等の公共公益的施設用地として,いわ
ゆるつぶれ地が生じることから,このような事情による減価を評価額に反映
させるために設けられた補正項目であって(評価通達24-4参照),甲土
地のように既に宅地として造成されているのであれば,広大地補正をする必
要はない。また,各区画の権利関係等の個別的事情は,貸宅地や貸家建付地
としての評価方法(評価通達25,26)によって,評価額に反映されてい
るということができるし,その他の個別的事情も評価通達に定める各補正項
目によって反映されているということができる。したがって,これらの事情
が評価通達によっては適正な時価を算定することができない特別の事情に
該当するとはいえない。
また,原告らは,評価通達25及び同26に定める方法では,都市部の低
額の地代の底地に関して客観的な交換価値を大きく上回ると主張し,これと
同趣旨を述べる文献も存在するが(甲22,23,39,90),上記によ
っては,借地権価額等控除する評価通達25及び同26に定める評価方法が
不合理ということはできず,また評価通達による借地権割合では適正な時価
を算定することができないということもできない。原告らの主張する事情が
評価通達によっては適正な時価を算定することができない特別の事情とい
うことはできない。
(2)また,原告らは,評価通達の評価方式は1区画ごとに売却することを前提
としているが,そのような方法では何年かかるか分からない上,虫食い状の
土地だけが売れ残る可能性があるなど,甲土地は一括売却するしかないので
あって,これもまた評価通達によっては適正な時価を算定することができな
い特別の事情に該当する旨主張する。
しかし,甲土地は区画ごとに宅地として利用されているのであり,甲土地
の全てを早期に売却せざるを得ない合理的な理由は見当たらないから,原告
らが主張するように一括売却するしかないとはいえないし,甲土地の最有効
使用は各区画を宅地として利用することであるから,これらが評価通達によ
っては適正な時価を算定することができない特別の事情に当たるとは認め
られない。
(3)したがって,甲土地につき,評価通達によっては適正な時価を算定するこ
とができない特別の事情があるとは認められない。
3乙土地について
(1)原告らは,乙土地につき,地積実測2152.42㎡のうち,約1670
㎡は平均斜度25度,高低差約14mと推定される法地,急峻ながけ地であ
ることを,評価通達によっては適正な時価を算定することができない特別の
事情として主張する。
しかし,原告らの主張する法地が存在するという事実は,広大地補正の中
で適正に考慮されており,上記特別の事情ということはできない。広大地補
正は,上記2のとおり,開発行為による減価を反映させるなどするために設
けられた補正項目であり,その補正率は,収集した鑑定評価事例を基に,1
㎡当たりの鑑定評価額が正面路線価に占める割合と評価対象地の地積との
関係を統計学的に分析した上で,評価の簡便性等に配慮して定められたもの
であり,また,その鑑定評価(開発法)は,評価対象地の形状,道路との位
置関係など,土地の個別要因に基づいて最も経済的かつ合理的となるような
開発想定図を作成し,それに基づき鑑定評価額を算出するという方法である
(乙1)。そうすると,広大地補正における補正率は,土地の個別要因を考
慮した上で定められているものであるから,がけ地が存在することもまた,
広大地補正率の算定過程において既に考慮されているということができる。
加えて,乙土地の周辺もがけ地であることからすると,がけ地であることが
正面路線価に反映されているとも考えられる。
(2)また,原告らは,近隣地域内・同一需給圏内に取引事例比較法で採用でき
る取引事例が存在しないことも,評価通達によっては適正な時価を算定する
ことができない特別の事情に該当する旨主張する。
しかし,平成20年10月から平成21年12月までの間で,P6市の住
宅地における面積が1000㎡を超える土地取引事例は9件実在しており
(乙24),原告らの上記主張はその前提を誤るものである。
(3)したがって,乙土地につき,評価通達によっては適正な時価を算定するこ
とができない特別の事情があるとは認められない。
4丙土地について
証拠(甲13)によれば,丙土地は,戸建住宅に囲まれた住宅街の中にある
相当不整形な土地であり,建築基準法上の道路と接道していないことが認めら
れる。
この点,被告は,評価通達に従い,丙土地が市街化区域内にあることから宅
地に比準して評価することとした上で,不整形地補正及び無道路地補正をして
おり,上記の各事情は,これらの補正によって適正に評価されていると主張す
る。このうち,丙土地が不整形地であることは,不整形地補正(評価通達20)
によって適切に反映されていると認められるが,丙土地が無道路地であること
は,無道路地補正(評価通達20-2)によっても十分に考慮できていないと
いわざるを得ない。すなわち,評価通達20-2によれば,無道路地補正は,
実際に利用している路線の路線価に基づき,不整形地補正をした価額から10
0分の40の範囲内で,通路開設費用相当額を控除する方法で行うこととなっ
ているところ,計算によれば丙土地の通路開設費用相当額は912万6600
円であり,これは丙土地の不整形地補正後の価格である549万8612円す
ら上回る金額であり(別紙5-3),その100分の40をはるかに超える金
額となっている。このように,丙土地を実際に宅地として使用するためには,
建築基準法等で定める接道義務を満たすために相当多額の費用を要し,現実的
には雑種地として利用するしかないにもかかわらず,評価通達に定める無道路
地補正では評価額に十分反映することができない。評価通達上は,丙土地が市
街化区域内にある以上,宅地に比準して評価せざるを得ないから(乙40),
宅地に比準して評価したことをもって評価通達の適用を誤ったとはいえない
が,上記のとおり,評価通達では接道義務を満たしていないことを十分に反映
することができず,これは評価通達によっては適正な時価を算定することがで
きない特別の事情ということができる。
したがって,丙土地につき,評価通達によっては適正な時価を算定すること
ができない特別の事情があると認められる。そして,本件全証拠によっても,
本件各処分における丙土地の評価額が,適正な時価を上回らないと認めるに足
りる証拠はない。
5A土地について
原告らは,A土地につき,評価通達によっては適正な時価を算定することが
できない特別の事情として,A土地の位置や形状によれば,最終的には4区画
の宅地として売却することになるが,2回以上に分けて西から東へ順次宅地造
成をした上で売却するしかなく,しかも,最初に売却した区画の左隣の区画に
つき,許可を得て宅地造成工事を行えるのは,最初に売却した区画の土地上に
建物が建築され,完了検査が済んだ時点以降に限られることから,市場参加者
が開発業者に限られることを主張する。
しかし,A土地の最有効使用は,4区画に分筆した上で,各区画を宅地とし
て利用することであって,原告らの主張を前提としても,順次西から東へ宅地
造成工事を行い,これをそれぞれエンドユーザーに売却することは可能である。
早期に一括して売却しなければならない合理的な理由も見当たらないから,市
場参加者が開発業者に限られるとはいえず,原告らの主張を採用することはで
きない。
したがって,A土地につき,評価通達によっては適正な時価を算定すること
ができない特別の事情があるとはいえない。
6D土地について
原告らは,D土地につき,市街化調整区域内の雑種地であり,青空駐車場や
資材置場程度に利用するしかなく,また,うち約540㎡は法面となっている
ことを,評価通達によっては適正な時価を算定することができない特別の事情
として主張する。
D土地については,評価通達82のただし書に従い,固定資産税評価額に国
税局長の定める倍率を乗じて計算するという倍率方式によって評価されてい
る。ここで,固定資産税評価額は,地方税法388条1項に基づき定められた
固定資産評価基準(以下「評価基準」という。乙34)によって算定されると
ころ,評価基準は,総務大臣が地方財政審議会の意見を聴いた上で(同条2項)
定めたものであり,その内容等に鑑みても,土地の適正な時価を評価するもの
として一般的な合理性を有するものと解される。したがって,評価基準によっ
て算定された固定資産税評価額もまた,これによっては適正な時価が算定する
ことができない特別の事情がない限り,適正な時価を上回るものではないと推
認されるというべきである。そこで,原告らの主張する上記事情が,評価基準
によっては適正な時価を算定することができない特別の事情に当たるのかを
検討する。
評価基準は,雑種地につき,土地の位置,利用状況等を考慮し,付近の土地
に比準してその価額を求めるものとしており,固定資産税評価額の算定に当た
り,雑種地であることは既に考慮されているといえる。実際に,D土地の1㎡
当たりの固定資産税評価額(1万6320円)の算定方法をみても,固定資産
税を算定するために主要な街路について付設された路線価(3万2200円)
に基づき,画地計算法に定める奥行価格補正(0.96)や不整形地補正(0.
88)をした上で,雑種地補正率(0.6)を乗じて算定されているところ(乙
35),D土地近隣の普通住宅地区にある標準地における路線価が1㎡当たり
5万0400円であること(乙35)からすると,その路線価や雑種地補正に
おいて,D土地が市街化調整区域内の雑種地であるという事情は既に考慮され
ているということができる。また,法地が存在するという事情は,宅地造成が
必要であるという点でその評価額を減少させるものであるが,雑種地補正は,
宅地造成が必要であるという事情をも含めてされたものであると解される。そ
うすると,D土地につき,評価基準によっては適正な時価を算定することがで
きない特別の事情は認められない。
したがって,D土地につき,評価通達によっては適正な時価を算定すること
ができない特別の事情があるとは認められない。
7E土地について
原告らは,E土地のうち約440㎡が平均斜度約45度,高低差約10mの
がけ地で,兵庫県の急傾斜地崩壊対策工事の対象であり,同工事が完了すれば,
面積にして約40%の部分について宅地造成をすることが許されず,また,そ
の余の斜面部分についても宅地として使用することに相当の法的制限が加え
られるし,平坦な部分もその接する道路部分よりも低いことから建築できる住
宅が限られるとして,これらが評価通達によっては適正な時価を算定すること
ができない特別の事情に当たると主張する。
しかし,がけ地が存在するという事情は,がけ地補正(評価通達20-4)
によって既に考慮されている。確かに,証拠(甲37,38)によれば,E土
地は兵庫県の公共事業である急傾斜地崩壊対策工事の対象であって,上記工事
の完了後は,E土地の利用に一定の制約が生じることは認められるが,いかな
る範囲にいかなる制約が課されるかは明らかとはいえず,原告らの主張するよ
うにE土地の約40%について宅地造成が許されなくなると認めるに足りる
証拠はなく,本件相続の開始時における評価額の算定に当たり,上記事情をが
け地が存在することとは別に評価すべきであるということはできない。そうす
ると,結局のところ,原告らの主張する事情は,がけ地が存在することによる
ものといえ,上記のがけ地補正によって適正に考慮されているということがで
きる。
なお,原告らは,E土地のうち約440㎡ががけ地であって,約350㎡が
がけ地であるとしたがけ地補正では不十分であるとも主張しているが,本件申
告の申告書に添付された土地調査確認書(乙38)によれば,E土地のがけ地
部分は約350㎡であると認められる。原告らが実施したE土地の鑑定書(甲
16)には,がけ地部分が約440㎡である旨の記載があるが,これは上記工
事の計画に基づくものと解され,評価の時点においてがけ地部分の面積が約4
40㎡であったということはできないから,これを前提とする原告らの主張は
採用できない。
したがって,E土地につき,評価通達によっては適正な時価を算定すること
ができない特別の事情があるとはいえない。
8Fマンションについて
(1)原告らは,Fマンションの建物部分が主建物及び附属建物の計2棟からな
るやや特異的な設計であり,管理規約上一体処分が定められており,管理費
月額が非常に高額であることが評価通達によっては適正な時価を算定する
ことができない特別の事情に該当する旨主張する。
家屋の評価額は,家屋の固定資産税評価額に1.0を乗じて計算した金額
によって算出することとなっている(評価通達89)。上記6のとおり,固
定資産税評価額は,評価基準によって算定されるものであり,評価基準に一
般的な合理性が認められることから,原告らの主張する上記事情が評価基準
によっては適正な時価を算定することができない特別の事情に該当するか
を検討することとなる。
評価基準において,家屋は再建築費を基準として評価することとされてい
るところ(乙34),再建築価格方式において,原告らの主張する管理費月
額が高額であるといった事情は考慮されない。しかし,管理費や修繕積立金
は区分所有者が他の区分所有者に対して有する債権であること(建物の区分
所有に関する法律7条1項参照)からすると,これを建物の価値に含めるこ
とは困難であるから,当該建物の客観的な交換価値とは無関係の事情といわ
ざるを得ない。そうすると,これが評価基準によっては適正な時価を算定す
ることができない特別の事情に当たるということはできず,その他,特異的
な設計であることなども評価基準によっては適正な時価を算定することが
できない特別の事情に当たるとは認められない。
(2)原告らは,Fマンションの敷地部分につき,評価通達によっては適正な時
価を算定することができない特別の事情を主張しておらず,これがあるとも
認められない。
(3)したがって,Fマンションにつき,評価通達によっては適正な時価を算定
することができない特別の事情があるとは認められない。
9本件各処分の適法性
(1)本件各係争不動産の価額
ア丙土地を除く本件各係争不動産の価額
本件各係争不動産につき,評価通達に従って算出した場合の評価額は,
別紙5-1から5-7までのとおりであると認められ,それぞれ下記の価
額となる。上記説示のとおり,丙土地を除く本件各係争不動産については,
評価通達によっては適正な時価を算定することができない特別の事情が
あるとは認められないから,評価通達により算定された各評価額が適正な
時価を上回るものではないということができる。そうすると,丙土地を除
く本件各係争不動産については,下記の価額を適正な時価と認めることが
相当である。
(ア)甲土地6億1881万7630円
(イ)乙土地1億9458万6624円
(ウ)丙土地329万9168円
(エ)A土地6579万1790円
(オ)D土地2678万4384円
(カ)E土地3296万1576円
(キ)Fマンション4083万1166円
イ丙土地の価額
上記説示のとおり,丙土地については,評価通達によっては適正な時価
を算定することができない特別の事情があると認められる。そこで,丙土
地の適正な時価を検討するに,不動産鑑定評価(甲13)による評価額は
220万円であり,本件全証拠を総合しても,丙土地の適正な時価が同額
を下回ることをうかがわせる事情は認められない。他方,上記鑑定には,
建物を建築できない土地として二重の減価をしていると推定されることな
ど(乙14の3)の問題点があり,丙土地の適正な時価が同額であるとは
認められないものの,同額を上回る時価を認めるに足りる証拠がない以上,
丙土地を取得した原告P2の関係では丙土地の評価額を同原告が主張する
220万円と認めるのが相当である。
さらに,丙土地を取得しなかった原告P3及び原告P4においても,丙
土地の時価を220万円と主張している以上,同原告らに不利益となる点
においても同額を上回らないことを認める趣旨として,全体として同原告
らに利益となるよう丙土地の時価を同額と評価するのが相当である。
(2)原告らの納付すべき本件相続税の額について
そこで,丙土地の価額を原告らの主張する220万円として原告らの納付
すべき本件相続税の額を検討すると,本件各係争不動産の価額以外の相続税
額の算定については争いがないから,別紙10「丙土地の価額を220万円
とした場合の原告らの納付すべき相続税額」のとおりとなり,原告P2が5
億7830万4100円,原告P3が5億9973万7300円,原告P4
が6億4640万8400円となる。
(3)まとめ
以上によれば,原告P2の納付すべき本件相続税の額は,本件各更正処分
における納付すべき相続税額を下回っており,原告P2の各請求は,本件各
更正処分のうち納付すべき相続税額5億7830万4100円を超える部
分の取消し及び本件各通知処分の取消しを求める限度で理由がある。
他方,原告P3及び原告P4の納付すべき本件相続税の額は,いずれも本
件各更正処分における納付すべき相続税額を下回ることはないと認められ
る。したがって,原告P3及び原告P4の各請求は,いずれも理由がない。
第4結論
よって,原告P2の請求は本件各更正処分のうち納付すべき税額5億7830
万4100円を超える部分の取消し及び本件各通知処分の取消しを求める限度で
理由があるから,その限度でこれを認容し,原告P2のその余の請求並びに原告
P3及び原告P4の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主
文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第7民事部
裁判長裁判官山田明
裁判官岩佐圭祐
裁判官安藤巨騎は,転補のため署名押印できない。
裁判長裁判官山田明
(別紙2)
関係法令等の定め
第1相続税法の定め
相続により取得した財産の価額は,当該財産の取得の時における時価による
(22条)。
第2財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)の定め(乙1,40)
1評価通達7-2
土地の価額は,次に掲げる評価単位ごとに評価することとし,土地の上に存
する権利についても同様とする。
(1)宅地は,1画地の宅地(利用の単位となっている1区画の宅地をいう。)
を評価単位とする。
(2)~(7)(略)
2評価通達8
地積は,課税時期における実際の面積による。
3評価通達11
宅地の評価は,原則として,次に掲げる区分に従い,それぞれ次に掲げる方
式によって行う。
(1)市街地的形態を形成する地域にある宅地路線価方式
(2)(1)以外の宅地倍率方式
4評価通達13
路線価方式とは,その宅地の面する路線に付された路線価を基とし,評価通
達15(奥行価格補正)から同20-5(容積率の異なる2以上の地域にわた
る宅地の評価)までの定めにより計算した金額によって評価する方式をいう。
5評価通達14
路線価は,宅地の価額がおおむね同一と認められる一連の宅地が面している
路線(不特定多数の者の通行の用に供されている道路をいう。)ごとに設定す
る。
路線価は,路線に接する宅地で次に掲げる全ての事項に該当するものについ
て,売買実例価額,公示価格,不動産鑑定士等による鑑定評価額,精通者意見
価格等を基として国税局長がその路線ごとに評定した1㎡当たりの価額とす
る。
(1)その路線のほぼ中央部にあること。
(2)その一連の宅地に共通している地勢にあること。
(3)その路線だけに接していること。
(4)その路線に面している宅地の標準的な間口距離及び奥行距離を有するく
形又は正方形のものであること。
6評価通達15
一方のみが路線に接する宅地の価額は,路線価にその宅地の奥行距離に応じ
て奥行価格補正率を乗じて求めた価額にその宅地の地積を乗じて計算した価
額によって評価する。
7評価通達20
不整形地(三角地を含む。)の価額は,次の(1)から(4)までのいずれかの方法
により評価通達15(奥行価格補正)から18(三方又は四方路線影響加算)
までの定めによって計算した価額に,その不整形の程度,位置及び地積の大小
に応じ,地区区分及び地積区分に応じた不整形地補正率を乗じて計算した価額
により評価する。
(1)~(4)(略)
8評価通達20-2
無道路地の価額は,実際に利用している路線の路線価に基づき評価通達20
(不整形地の評価)の定めによって計算した価額からその価額の100分の4
0の範囲内において相当と認める金額を控除した価額によって評価する。この
場合において,100分の40の範囲内において相当と認める金額は,無道路
地について建築基準法その他の法令において規定されている建築物を建築す
るために必要な道路に接すべき最小限の間口距離の要件(以下「接道義務」と
いう。)に基づき最小限度の通路を開設する場合のその通路に相当する部分の
価額(路線価に地積を乗じた価額。以下「通路開設費用相当額」という。)と
する。
9評価通達20-3
次に掲げる宅地(不整形地及び無道路地を除く。)の価額は,評価通達15(奥
行価格補正)の定めにより計算した1㎡当たりの価額にそれぞれ次に掲げる補
正率を乗じて求めた価額にこれらの宅地の地積を乗じて計算した価額によっ
て評価する。
(1)間口が狭小な宅地間口狭小補正率
(2)奥行が長大な宅地奥行長大補正率
10評価通達20-4
がけ地等で通常の用途に供することができないと認められる部分を有する宅
地の価額は,その宅地のうちに存するがけ地等ががけ地等でないとした場合の
価額に,その宅地の総地積に対するがけ地部分等通常の用途に供することがで
きないと認められる部分の地積の割合に応じて,がけ地補正率を乗じて計算し
た価額によって評価する。
11評価通達21
倍率方式とは,地方税法381条の規定により土地課税台帳若しくは土地補
充課税台帳に登録された基準年度の価格又は比準価格(以下「固定資産税評価
額」という。)に国税局長が一定の地域ごとにその地域の実情に即するように
定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する方式をいう。
12評価通達21-2
倍率方式により評価する宅地の価額は,その宅地の固定資産税評価額に地価
事情の類似する地域ごとに,その地域にある宅地の売買実例価額,公示価格,
不動産鑑定士等による鑑定評価額,精通者意見価格等を基として国税局長の定
める倍率を乗じて計算した金額によって評価する。
13評価通達24-4
その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地で都
市計画法4条12項に規定する開発行為を行うとした場合に公共公益的施設
用地の負担が必要と認められるもの(以下「広大地」という。)の価額は,原
則として,次に掲げる区分に従い,それぞれ次により計算した金額によって評
価する。
(1)その広大地が路線価地域に所在する場合
その広大地の面する路線の路線価に,評価通達15(奥行価格補正)から
同20-5(容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価)までの定め
に代わるものとして次の算式により求めた広大地補正率を乗じて計算した
価額にその広大地の地積を乗じて計算した金額
(算式)
広大地補正率=0.6-0.05×広大地の地積/1000㎡
(2)(略)
14評価通達25
宅地の上に存する権利の目的となっている宅地の評価は,次に掲げる区分に
従い,それぞれ次に掲げるところによる。
(1)借地権の目的となっている宅地の価額は,自用地としての価額から評価通
達27の定めにより評価したその借地権の価額を控除した金額によって評
価する。
(2)~(5)(略)
15評価通達26
貸家(評価通達94に定める借家権の目的となっている家屋)の敷地の用に
供されている宅地の価額は,次の算式により計算した価額によって評価する。
(算式)
自用地としての価額-自用地としての価額×借地権割合×評価通達94に定
める借家権割合×賃貸割合
16評価通達27
借地権の価額は,その借地権の目的となっている宅地の自用地としての価額
に,当該価額に対する借地権の売買実例価額,精通者意見価格,地代の額等を
基として評定した借地権の価額の割合が概ね同一と認められる地域ごとに国
税局長の定める割合を乗じて計算した金額によって評価する。
17評価通達82
雑種地の価額は,原則として,その雑種地と状況が類似する付近の土地につ
いて評価通達の定めるところにより評価した1㎡当たりの価額を基とし,その
土地とその雑種地との位置,形状等の条件の差を考慮して評定した価額に,そ
の雑種地の地積を乗じて計算した金額によって評価する。
ただし,その雑種地の固定資産税評価額に,状況の類似する地域ごとに,そ
の地域にある雑種地の売買実例価額,精通者意見価格等を基として国税局長の
定める倍率を乗じて計算した金額によって評価することができるものとし,そ
の倍率が定められている地域にある雑種地の価額は,その雑種地の固定資産税
評価額にその倍率を乗じて計算した金額によって評価する。
18評価通達89
家屋の価額は,その家屋の固定資産税評価額に1.0を乗じて計算した金額
によって評価する。
(別紙4)
本件各処分の根拠及び適法性
1評価通達による本件各係争不動産の評価
評価通達に従って評価した場合の本件各係争不動産の評価額は,別紙7「本
件各係争不動産に係る被告主張額等一覧表」の「被告主張額」欄のとおりであ
り,その合計額は,9億8307万2338円となる。
2評価通達による本件各係争不動産以外の財産について
本件相続財産には,本件各係争不動産以外に,土地,家屋,有価証券,現金
預貯金,家庭用財産及びその他の財産(貸付金や未収入金など)がある。これ
らの評価通達の定める方式により算出された適正な時価は,別紙8「本件各係
争不動産以外の財産に係る被告主張額等一覧表」の「被告主張額」欄記載のと
おりであり,本件各係争不動産以外の財産の価額の合計は,33億0282万
4012円となる。
3本件相続財産の価額
本件各係争不動産の価額は,上記1のとおり,その合計額は9億8307万
2338円となるところ,同不動産の原告ら各人の取得額は,それぞれ,原告
P2が3億0735万1709円,原告P3が3億0405万2539円,原
告P4が3億7166万8090円となる。
また,本件各係争不動産以外の財産の価額は,上記2のとおり,その合計額
は33億0282万4012円であり,同財産の原告ら各人の取得額は,それ
ぞれ,原告P2が9億9425万9353円,原告P3が12億1934万7
255円,原告P4が10億8921万7404円となる。
そうすると,原告らが取得した本件相続財産の価額は,別紙9「相続税の課
税価格及び税額の計算明細書」の「取得財産の価額」欄のとおり,原告P2が
13億0161万1062円,原告P3が15億2339万9794円,原告
P4が14億6088万5494円となる。
4相続時精算課税適用財産の価額について
原告P4は,亡P5から平成16年8月19日に贈与により取得した現金3
500万円につき相続税法21条の9に規定する相続時精算課税制度の適用を
受けているため,同額を,同法21条の15の規定により相続税の課税価格に
加算する必要があり,また,平成19年1月19日にも亡P5から大阪市α×
番地○等に所在する家屋を贈与により取得しており,同家屋についても相続税
法21条の9第3項の規定により同制度の適用を受ける財産となるから,同家
屋の贈与税の課税価格の計算の基礎に算入された価額27万0900円につい
ても相続税の課税価格に加算しなければならない。
したがって,別紙9「相続税の課税価格及び税額の計算明細書」の「相続時
精算課税適用財産」欄のとおり,原告P4の相続税の課税価格に加算される相
続時精算課税適用財産の価額は3527万0900円である。
5債務及び葬式費用の金額について
相続税法13条及び14条の規定により算出される本件相続財産(上記3)
から控除すべき債務及び葬式費用の総額は,別紙9「相続税の課税価格及び税
額の計算明細書」の「債務・葬式費用」欄のうち「各人の合計」欄のとおり,
3億0905万7598円である。
6原告らの納付すべき税額
(1)本件相続税の総額
ア本件相続税に係る課税価格
(ア)原告P2の課税価格
原告P2の本件相続税に係る課税価格は,上記3のとおり算出した本
件相続に係る取得財産の価額13億0161万1062円から,上記5
の債務及び葬式費用のうち同人が負担することが確定していると認めら
れる2916万1314円を控除した12億7244万9000円(1
000円未満の端数切捨て)となる(別紙9「相続税の課税価格及び税
額の計算明細書」の「課税価格」欄のうち「原告P2」欄の金額)。
(イ)原告P3の課税価格
原告P3の本件相続税に係る課税価格は,上記3のとおり算出した本
件相続に係る取得財産の価額15億2339万9794円から,上記5
の債務及び葬式費用のうち同人が負担することが確定していると認めら
れる2億0493万0331円を控除した13億1846万9000円
(1000円未満の端数切捨て)となる(別紙9「相続税の課税価格及
び税額の計算明細書」の「課税価格」欄のうち「原告P3」欄の金額)。
(ウ)原告P4の課税価格
原告P4の本件相続税に係る課税価格は,上記3のとおり算出した本
件相続に係る取得財産の価額14億6088万5494円に上記4の相
続時精算課税適用財産3527万0900円を加算した価額から,上記
5の債務及び葬式費用のうち同人が負担することが確定していると認め
られる7496万5953円を控除した14億2119万円(1000
円未満の端数切捨て)となる(別紙9「相続税の課税価格及び税額の計
算明細書」の「課税価格」欄のうち「原告P4」欄の金額)。
(エ)課税価格の合計額
したがって,原告らの課税価格の合計額(上記(ア)から(ウ)までの合計
額)は,40億1210万8000円となる(別紙9「相続税の課税価
格及び税額の計算明細書」の「課税価格」欄のうち「各人の合計」欄の
金額)。
イ遺産に係る基礎控除
本件相続税の総額を計算する場合において,相続税法15条の規定によ
り,上記ア(エ)の課税価格の合計額から控除する金額は,5000万円と1
000万円に亡P5の相続人の数である3を乗じて得た金額との合計額8
000万円である。
ウ本件相続税の総額
本件相続税の総額は,上記ア(エ)の課税価格の合計額から上記イの基礎控
除額を控除した金額を,原告らが法定相続分に応じて取得したとした場合
におけるその各取得金額(1000円未満の端数切捨て)につき,相続税
法16条に定める税率を乗じて計算した金額を合計した金額18億250
5万3000円となる(別紙9「相続税の課税価格及び税額の計算明細書」
の「相続税の総額」欄のうち「各人の合計」欄の金額)。
(2)原告P2の納付すべき税額
原告P2の相続税額は,相続税法17条の規定により,相続税の総額18
億2505万3000円(上記(1)ウ)に,同人の相続税に係る課税価格12
億7244万9000円(上記(1)ア(ア))が課税価格の合計額40億121
0万8000円(上記(1)ア(エ))のうちに占める割合を乗じた5億7881
万9629円となる。
そして,同人には,当該相続税額から控除される相続税法19条ないし2
0条の2に規定する事由は認められないため,同相続税額の100円未満の
端数を切り捨てた金額5億7881万9600円が同人の納付すべき税額と
なる(別紙9「相続税の課税価格及び税額の計算明細書」の「納付すべき税
額」欄のうち「原告P2」欄の金額)。
(3)原告P3の納付すべき税額
原告P3の相続税額は,相続税法17条の規定により,相続税の総額18
億2505万3000円(上記(1)ウ)に,同人の相続税に係る課税価格13
億1846万9000円(上記(1)ア(イ))が課税価格の合計額40億121
0万8000円(上記(1)ア(エ))のうちに占める割合を乗じた5億9975
万3497円となる。
そして,同人には,当該相続税額から控除される相続税法19条ないし2
0条の2に規定する事由は認められないため,同相続税額の100円未満の
端数を切り捨てた金額5億9975万3400円が同人の納付すべき税額と
なる(別紙9「相続税の課税価格及び税額の計算明細書」の「納付すべき税
額」欄のうち「原告P3」欄の金額)。
(4)原告P4の納付すべき税額
原告P4の相続税額は,相続税法17条の規定により,相続税の総額18
億2505万3000円(上記(1)ウ)に,同人の相続税に係る課税価格14
億2119万円(上記(1)ア(ウ))が課税価格の合計額40億1210万80
00円(上記(1)ア(エ))のうちに占める割合を乗じた6億4647万987
4円となる。
そして,同人の上記4で述べた平成19年において本件被相続人から贈与
を受けた財産について課せられた贈与税5万4000円に相当する金額を原
告P4の相続税額から控除し(相続税法21条の15第3項,別紙9「相続
税の課税価格及び税額の計算明細書」の「税額控除」欄のうち「原告P4」
欄の金額),100円未満の端数を切り捨てた金額6億4642万5800
円が同人の納付すべき税額となる(同別紙の「納付すべき税額」欄のうち「原
告P4」欄の金額)。
7本件各処分の適法性について
上記のとおり,原告P2の納付すべき相続税額は5億7881万9600円,
原告P3の納付すべき相続税額は5億9975万3400円,原告P4の納付
すべき相続税額は6億4642万5800円である。
そして,本件各処分に係る原告らの納付すべき相続税額は,それぞれ,原告
P2が5億7842万5100円,原告P3が5億9935万4800円,原
告P4が6億4326万9500円であり,いずれも上記金額を下回っている
から、本件各処分は適法である。
(別紙10)
丙土地の価額を220万円とした場合の原告らの納付すべき相続税額
1本件相続財産の各価額及び原告らの取得財産の価額
(1)本件各係争不動産の各価額
ア甲土地6億1881万7630円
イ乙土地1億9458万6624円
ウ丙土地220万円
エA土地6579万1790円
オD土地2678万4384円
カE土地3296万1576円
キFマンション敷地部分1967万8466円
同建物部分2115万2700円
(2)本件各係争不動産以外の財産の価額
本件各係争不動産以外の財産の価額の合計額は,33億0282万4012
円であり,同財産に係る原告ら各人の取得額は,それぞれ,原告P2が9億9
425万9353円,原告P3が12億1934万7255円,原告P4が1
0億8921万7404円である(別紙11「相続税の課税価格及び税額の計
算明細書(丙土地を220万円とした場合)」の「上記以外の財産」欄の「合
計」欄)。
(3)本件相続財産に係る原告らの各取得財産の価額
原告ら各人が,それぞれ取得する本件相続財産の価額は,同別紙の「取得財
産の価額」欄のとおり,原告P2が13億0051万1894円,原告P3が
15億2339万9794円,原告P4が14億6088万5494円となる。
2相続時精算課税適用財産の価額
原告P4は,亡P5から平成16年8月19日に贈与により取得した現金3
500万円につき相続税法21条の9に規定する相続時精算課税制度の適用
を受けているため,同額を,同法21条の15の規定により相続税の課税価格
に加算する。
また,同人は,平成19年1月19日にも亡P5から大阪市α×番地○等に
所在する家屋を贈与により取得しており(乙9),同家屋についても相続税法
21条の9第3項の規定により同制度の適用を受ける財産となるから,同家屋
の贈与税の課税価格の計算の基礎に算入された価額27万0900円につい
ても相続税の課税価格に加算される。
したがって,原告P4の相続税の課税価格に加算される相続時精算課税適用
財産の価額は,3527万0900円である(同別紙の「相続時精算課税適用
財産」欄の「原告P4」欄)。
3債務及び葬式費用の金額
相続税法13条及び14条の規定により算出される本件相続財産から控除
すべき債務及び葬式費用の総額は,3億0905万7598円であり,そのう
ち,原告ら各人が負担することが確定した債務及び葬式費用の金額は,それぞ
れ,原告P2が2916万1314円,原告P3が2億0493万0331円,
原告P4が7496万5953円である(同別紙の「債務・葬式費用」欄)。
4原告ら各人が納付すべき本件相続税額
(1)本件相続税の総額
ア本件相続税に係る課税価格
(ア)原告P2の課税価格
原告P2の本件相続税に係る課税価格は,原告P2の取得財産の価
額13億0051万1894円から,前記3の債務及び葬式費用のう
ち同人が負担することが確定した2916万1314円を控除した1
2億7135万円(1000円未満の端数切捨て)となる(同別紙の
「課税価格」欄のうち「原告P2」欄)。
(イ)原告P3の課税価格
原告P3の本件相続税に係る課税価格は,原告P3の取得財産の価
額15億2339万9794円から,前記3の債務及び葬式費用のう
ち同人が負担することが確定した2億0493万0331円を控除
した13億1846万9000円(1000円未満の端数切捨て)と
なる(同別紙の「課税価格」欄のうち「原告P3」欄)。
(ウ)原告P4の課税価格
原告P4の本件相続税に係る課税価格は,原告P4の取得財産の価
額14億6088万5494円に前記2の相続時精算課税適用財産の
価額3527万0900円を加算した価額から,前記3の債務及び葬
式費用のうち同人が負担することが確定した7496万5953円を
控除した14億2119万円(1000円未満の端数切捨て)となる
(同別紙の「課税価格」欄のうち「原告P4」欄)。
(エ)課税価格の合計額
したがって,原告らの課税価格の合計額は,40億1100万90
00円となる(同別紙の「課税価格」欄のうち「各人の合計」欄)。
イ遺産に係る基礎控除
相続税法15条の規定により,前記ア(エ)の課税価格の合計額から控除
する金額は,5000万円と1000万円に亡P5の相続人の数である3
を乗じて得た金額との合計額8000万円である(同別紙の「遺産に係る
基礎控除額」欄)。
ウ本件相続税の総額
相続税の総額は,前記ア(エ)の課税価格の合計額から前記イの基礎控除
額を控除した金額を,原告らが法定相続分に応じて取得したとした場合に
おけるその各取得金額(1000円未満の端数切捨て)につき,相続税法
16条に定める税率を乗じて計算した金額を合計した金額18億2450
万4000円となる(同別紙の「相続税の総額」欄のうち「各人の合計」
欄の金額)。
(2)原告P2の納付すべき税額
原告P2の相続税額は,相続税法17条の規定により,相続税の総額18
億2450万4000円(前記(1)ウ)に,同人の相続税に係る課税価格1
2億7135万円(前記(1)ア(ア))が課税価格の合計額40億1100万9
000円(前記(1)ア(エ))のうちに占める割合を乗じた5億7830万41
52円となる。
そして,同人には,当該相続税額から控除される相続税法19条ないし2
0条の2に規定する事由は認められない(同別紙の「税額控除」欄のうち「原
告P2」欄)ため,同相続税額の100円未満の端数を切り捨てた金額5億
7830万4100円が同人の納付すべき税額となる(同別紙の「納付すべ
き税額」欄のうち「原告P2」欄)。
(3)原告P3の納付すべき税額
原告P3の相続税額は,相続税法17条の規定により,相続税の総額18
億2450万4000円(前記(1)ウ)に,同人の相続税に係る課税価格1
3億1846万9000円(前記(1)ア(イ))が課税価格の合計額40億11
00万9000円(前記(1)ア(エ))のうちに占める割合を乗じた5億997
3万7364円となる。
そして,同人には,当該相続税額から控除される相続税法19条ないし2
0条の2に規定する事由は認められない(同別紙の「税額控除」欄のうち「原
告P3」欄)ため,同相続税額の100円未満の端数を切り捨てた金額5億
9973万7300円が同人の納付すべき税額となる(同別紙の「納付すべ
き税額」欄のうち「原告P3」欄)。
(4)原告P4の納付すべき税額
原告P4の相続税額は,相続税法17条の規定により,相続税の総額18
億2450万4000円(前記(1)ウ)に,同人の相続税に係る課税価格1
4億2119万円(前記(1)ア(ウ))が課税価格の合計額40億1100万9
000円(上記(1)ア(エ))のうちに占める割合を乗じた6億4646万24
84円となる。
そして,同人の前記2で述べた平成19年において亡P5から贈与を受け
た財産について課せられた贈与税5万4000円に相当する金額を原告P
4の相続税額から控除し(相続税法21条の15第3項,同別紙の「税額控
除」欄のうち「原告P4」欄),100円未満の端数を切り捨てた金額6億
4640万8400円が同人の納付すべき税額となる(同別紙の「納付すべ
き税額」欄のうち「原告P4」欄)。

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