弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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    主    文
1 本件控訴に基づき,原判決中主位的請求に係る部分を次のとおり変更
する。
 (1) 控訴人は,被控訴人に対し,714万2462円及びこれに対す
る平成10年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
 (2) 被控訴人のその余の主位的請求を棄却する。
2 本件附帯控訴を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを2分し,その1を控訴人の負
担とし,その余を被控訴人の負担とする。
4 この判決は,第1項(1)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人(控訴の趣旨)
(1) 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 被控訴人の各請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
 2 被控訴人(附帯控訴の趣旨)
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) (主位的請求)控訴人は,被控訴人に対し,1897万6092円及
びこれに対する平成6年3月21日から支払済みまで年5分の割合によ
る金員を支払え。
(3) (予備的請求)控訴人は,被控訴人に対し,1897万6092円及
びこれに対する平成10年11月1日から支払済みまで年5分の割合に
よる金員を支払え。
(4) 訴訟費用は,第1,2審とも控訴人の負担とする。
(5) (2)(3)項につき,仮執行宣言
第2 事案の概要等
 1(1) 事案の概要は,以下のとおり原判決を補正し,次項2のとおり当審にお
ける主張を追加・補足するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第2 
事案の概要」欄(2頁2行目から7頁22行目まで)に記載のとおりであ
るから,これを引用する。
   ア 原判決2頁10行目の「以下」の前に「床面積合計129.17平方
メートル。」を加える。
   イ 同15行目の「20条」の次に「(本件契約当時のもの。関係法令に
つき以下同じ。)」を加える。
   ウ 同17行目の「同法施行令38条1項」を「同法36条に基づき定め
られた同法施行令36条1項は『建築物の構造設計に当たっては,その
用途,規模及び構造の種別並びに土地の状況に応じて柱,はり,床,壁
等を有効に配置して,建物全体が,これに作用する自重,積載荷重,積
雪,風圧,土圧及び水圧並びに地震その他の振動及び衝撃に対して,一
様に構造耐力上安全であるようにすべきものとする。』と,同38条1
項」に改める。
   エ 3頁10行目の「本件建物の敷地(」の次に「329.57平方メー
トル。」を加える。 
  (2) 原審は,本件建物に不同沈下が生じたのは,控訴人が建物敷地に地盤対
策を行うことなく基礎を築いたためであるとして,不法行為に基づく損害
賠償請求権(主位的請求)に基づいて,補修工事費用948万8183円
及び調査費用60万1402円の合計1008万9585円の損害及びこ
れに対する平成6年3月21日(本件建物引渡日の翌日)から支払済みま
で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の請求を認め,その余の損害
(補修工事費用,代替住居確保の費用,慰謝料,弁護士費用)の賠償請求
は認めず,予備的請求も棄却した。
  (3) そこで,これを不服とした控訴人が,第1の1記載のとおり控訴し,被
控訴人が,第1の2記載のとおり附帯控訴したものである。
2 当審における追加・補足主張
 (控訴人)
 (1) 過失相殺
ア 控訴人は,被控訴人から本件建物の南側に庭の盛土をすることを知ら
されておらず,また,玄海国定公園内であるため宅地を造成するときに
は福岡県への届出が義務づけられている(自然公園法13条)のに,そ
の届出もなかったため,これを考慮しないで,基礎工事を行ったもので
ある。工事代金もその程度の額しか受領していない。被控訴人は,本件
建物建築後に,その2.5倍もの応力がかかる庭の盛土等をするのであ
れば,予め控訴人に知らせ,予算を上積みして,基礎工事の強化を依頼
すべきであったのに,これをしなかったものであり,控訴人が本件の基
礎工事を行ったのはやむを得ないことである。損害賠償額の算定に際し
ては,これら地盤沈下に関する被控訴人側に起因する諸事情を考慮して
過失相殺すべきである。責任の割合は,鑑定の結果によれば,控訴人1
に対し被控訴人2.5というべきである。
イ 本件建物の基礎にひび割れが生じたのは,被控訴人が庭の盛土を完了
させた平成7年5月10日以降である。平成7年春にひび割れがあった
とする甲31号証(問い合わせ回答書)は,問い合わせと回答内容に矛
盾があり信用性はない。
 (2) 損益相殺
 本件建物を建築するに際して地盤沈下を防ぐための基礎工事をする必要
があったとすると,本件契約ではそのような基礎工事は予定されていなか
ったから,控訴人が地盤沈下を防止するための基礎工事を含む補修工事費
用を賠償すると,被控訴人はその基礎工事分(62万円。乙14号証)を
不当に利得することになるから,これを損益相殺すべきである。
 (3) 瑕疵担保責任の除斥期間
 本件契約では,基礎(地盤)の瑕疵担保責任は引渡日から2年となって
いる(甲1。15条3項)。控訴人は,平成6年3月20日,本件建物を
被控訴人に引き渡しており,被控訴人が本件訴訟を提起した平成11年1
1月16日には,すでに基礎(地盤)の瑕疵担保責任は消滅していた。よ
って,控訴人は基礎(地盤)の瑕疵担保責任を負わない。
 (被控訴人)
 (1) 過失相殺
ア 控訴人は,被控訴人から本件建物の南側に庭の盛土をすることを知ら
されていなかったし,工事代金も少額であったと弁解するが,建物の基
礎を設計施工する者は,建築基準法20条(建物の安全な構造の確
保),同法施行令38条1項(「建築物の基礎は建築物に作用する荷重
及び外力を安全に地盤に伝え,かつ,地盤の沈下又は変形に対して構造
耐力上安全なものとしなければならない」)の性能基準を充たす設計施
工を行うべき責任がある。また,住宅金融公庫の仕様書に基づく本件建
物については,「建築業者は,敷地地盤の状態については工事計画上支
障の内容地盤調査を実施するか,あるいは近隣の地盤に関する情報資料
などにより検討」(3-1-1)して,地盤対策を検討する責任を負っ
ているのであるから,上記弁解は許される訳がない。
  自然公園内において造成工事に許可が必要であるからといって,造成
工事を予測する必要がないというのは論理の飛躍である。実際に,本件
建物の周辺で5から10メートルの擁壁を築いている宅地は多数あるの
であり,自然公園内であるから造成が行われにくいと判断することはで
きない。  本件契約締結前に,被控訴人は控訴人と一緒に,本件土地
を開発したエメラルド観光開発株式会社(以下「エメラルド観光」とい
う。)の事務所を訪ねて,エメラルド観光の営業部長に設計図面を持参
して説明したことがあったが,その際,控訴人は本件土地に関する情報
を得ようとしなかった。設計は,控訴人が依頼した一級建築士のAが行
ったものである。両者とも,本件土地の調査が不十分であったというべ
きである。
イ 被控訴人が行った庭の盛土は,「敷地の利用として通常のものでしか
ない。庭の造成やその工事に伴うトラック等の振動は,基礎工事に際し
て地盤対策(杭工事)さえ十分であれば不同沈下の原因となりえないも
のである」(鑑定書)。また,そもそも,被控訴人が庭の盛土を行うよ
り前の平成7年の春ころ,既に本件建物の基礎にひび割れが生じていた
ものである(甲31)。
 (2) 工事期間中の代替住居確保費用
 本件補修工事の中には,風呂場の浴槽撤去工事や洗面台撤去工事,水道
管,ガス管付け直し工事なども含まれており,少なくともこれらの工事を
している時期(2週間程度)は,本件建物で通常の家庭生活を送るのは困
難である。近辺にウイークリーマンションはない上,子供の通学のことを
考えると,校区内に借家を借りるしかなく,借家は1か月単位で賃借せざ
るを得ないので,1か月の賃料8万円,仲介手数料8万円,引越費用62
万7290円の合計79万7290円の費用を要する。
 基礎杭打ち工事期間中(約1か月)も,本件建物で通常の家庭生活を送
るのは困難である。上記合計1か月半の転居のために2か月間借家を借り
ると,賃料16万円,仲介手数料8万円,引越費用62万7290円の合
計86万7290円の費用を要する。
 (3) 調査費用(当審で追加した主張)
   被控訴人は,本件建物の不同沈下の現象と原因を解明するため,本件書
証として多数の意見書を提出したが,そのために一級建築士に合計62万
2185円(甲38の1から7)を,日本地研株式会社に60万9000
円(甲33の1,2)を支払った。
 (4) 損益相殺
   補修工事を行うことによって,本来本件契約で被控訴人が負担すべきで
あった杭工事代金を被控訴人が不当に利得するという不公平が生じるとす
れば,それを是正するために杭工事費用相当額40万円を損益相殺すれば
足りる。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,被控訴人の主位的請求については,714万2462円及び
これに対する平成10年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきであり,予備的請求は原
審同様棄却すべきであると判断する。その理由は,原判決の「事実及び理
由」中の「第3 判断」欄(7頁23行目から15頁末行まで)に記載のと
おり(ただし,次のとおり補正する。)であるから,これを引用し,当審に
おける追加・補足主張等について,次項2以下のとおり判断する。
(1) 8頁2行目から20行目までを次のとおり改める。
 「(1) 本件敷地を含む一帯は,エメラルド観光が,1970年ころか
ら,元は山林であったものを別荘地として数次に分けて開発を行って
きたものである。玄海国定公園内であるため,できるだけ自然な形で
開発し,取付け道路も最小限の地形変更になるように自然な地形に合
わせて作られた。本件敷地の区域は,初期に開発されたものである。
なお,本件敷地は,国定公園の特別地域であるため,工作物の新築や
土地の形状変更等には県知事の許可が必要とされている(自然公園法
13条3項)。
    被控訴人は,平成4年秋ころ,自宅の建築用地として本件敷地の購
入を考え,平成5年3月ころ,エメラルド観光からこれを購入した。
その際,エメラルド観光の関連会社との間で建築工事請負契約を締結
しない場合には,建築工事費の3パーセントをエメラルド観光に支払
うことが条件になっていた。
    被控訴人は,建築工事の請負業者をどこにするか検討したが,エメ
ラルド観光の関連会社では坪当たり60万円から70万円程度と高
く,また,積水ハイムでは気に入った間取りが取れなかった。そこ
で,被控訴人は,父親がかって解体工事を依頼し,誠実な人柄である
という印象を抱いていた,同じ町に住む控訴人に相談したところ,請
負代金も安かったことなどから,控訴人に建築を依頼することになっ
た。
    被控訴人は,建築資金の蓄えがなかったので,請負代金を全額住宅
金融公庫の融資で賄いたい意向をもっており,その年収(公務員であ
る。)で融資を受けられる上限に近い2090万円(延べ床面積12
9.17平方メートルなので,坪当たり約53万円となる。)を請負
代金(照明器具,カーテン,浄化槽の代金を含む。)とする旨合意し
(甲1),住宅金融公庫は請負代金の8割しか融資しないことから,
住宅金融公庫への提出書類には請負代金を2650万円と水増しして
記載し,その融資を得た。なお,工事に着工するころになって,道路
使用料64万5460円が必要なことが分かったが,被控訴人は蓄え
がなかったことなどから,控訴人がこれを負担することとなった。
    控訴人は,個人で仕事をしている,いわゆる大工であったから,設
計・監理は一級建築士のAに依頼し,Aに4枚の図面(配置図,平面
図,立面図,矩形図)を作成してもらうなどして平成5年9月20日
建築確認(甲3)を取ってもらい,建物の(布)基礎工事は,20年
来一緒に仕事をしているBに依頼し,請負代金2090万円の中から
両者へ報酬を支払った。建築資材について見積書等の書面も作成され
ず,住宅金融公庫融資住宅の仕様書に基づくことが合意され,その他
は控訴人に任せられたが,控訴人は地盤の許容地耐力の計算などはで
きない。
    なお,被控訴人は,請負契約締結前に,控訴人と一緒にエメラルド
観光の事務所を訪ねて,営業部長に図面を示して設計内容の説明を
し,エメラルド観光の関連会社に建築を頼まないので,建築工事費の
3パーセントをエメラルド観光に支払うことを約束したが,その際,
本件敷地の地質について話題が及ぶことはなかった。
   (甲1,3,12,乙1,4,被控訴人,控訴人,当審被控訴人第5
回準備書面) 
  (2)ア 本件敷地は,南側に海を望む緩い傾斜地の中腹にある。本件敷
地の北側は東西に走る取付け道路に接しているが,その道路の北側
は雑木が一部伐採された地山が存在し,本件敷地の西側隣接地内境
界付近には,30年以上経ったと見られる木の切り株が存在し,取
付け道路部分のみ山を削り取った外観を有している(乙2)。平成
5年当時,本件敷地の地表は凸凹であり,草や小木が生えていて,
1メートル前後の大きな石が数個露出しており,機械で均した様子
はなく,歩いてみると硬く感じられた。
     控訴人とAは,いずれもこれらの外観から本件敷地を地山だと判
断した。控訴人は,露出していた石をクレーンとトラックで搬出
し,地表を整地して砂利を敷き均し,その上に本件建物の布基礎を
築いた。
   (甲3,4,5の②から⑨,8,17,18,乙1,4,証人C,証
人A,被控訴人,控訴人)
   イ 平成11年7月に行われた本件敷地の地質調査(スウェーデン式
サウンディング試験)によれば,本件敷地は,粘土(本件建物の南
西部分)又は砂混じり粘土(その他の部分)を主とする地盤であ
り,その強度は,表層部は全体が換算N値が3以上であったが,本
件建物の南西端付近の地層には,深さ1.25メートルから3.2
5メートルの間に換算N値が2以下の層が存在し(その内,1.7
5メートルから3.25メートルの間では換算N値が0.7であ
る。),本件建物南中央付近の地層にも,深さ0.75メートル及
び1.75メートルに換算N値が1.5の層が存在することが認め
られ,本件建物の南西部分は,換算N値が2以下の極軟弱地盤粘土
層が存在するということができる。
    (甲8,証人C,鑑定の結果)」
(2) 9頁8行目の「平成7年春ころまでには,」から10行目末尾まで
を,次のとおり改める。
 「控訴人は,本件建物を建築して半年ほど経ったころ,被控訴人から木製
建具(1階便所の開き戸と2階の廊下から和室に入る戸。いずれも,本件
建物西側中央部である。)の開け閉めができなくなったという不具合の連
絡を受けたので,被控訴人方を訪問してこれらを調整した。不具合の原因
は建具のそりなどであった。」
(3) 同11行目から12行目にかけての「原告は,平成7年6月ころ本件
敷地南側に階段状(2段)の庭を造成した。」を次のとおり改める。
 「被控訴人は,平成7年4月24日から5月10日ころにかけて,本件建
物の基礎工事を担当(下請け)したBに依頼して,150万円近くの費用
を投じて,本件敷地南側の斜面に2段のコンクリート擁壁を土留めとして
設け,擁壁の中に盛土して庭を造成したほか,本件建物西側も一部盛土
し,また駐車場にコンクリートを打つなどした。」
(4) 同16行目の「原告は,」の前に次のとおり加え,22行目の「乙
4」を「乙1,4,10」に改める。
 「控訴人は,木製建具を調整した後大分(2年程)経ってから,被控訴人
から2度にわたってアルミサッシの不具合(1回目は1階和室の縁側1か
所,2回目は1階和室の縁側,風呂場,2階和室の南側の3か所。いずれ
も,本件建物の南西部分である。)の連絡を受けたので,その都度被控訴
人方を訪問してこれらを調整した。控訴人は,2回目のアルミサッシの調
整(平成10年10月25日ころ浴室排水パイプ継ぎ目折損に気づく半年
前ころ)の際,被控訴人から,南側基礎の中央部に最大9ミリメートル前
後のひび割れ(上にいくほど割れが大きい)が入っているのを指摘され,
アルミサッシの不具合の原因は地盤沈下であると判断した。
  なお,被控訴人は,庭を造成する前に南側基礎のひび割れが生じていた
と主張し,これに副う証拠(甲14,31,被控訴人)もある。しかしな
がら,甲14の被控訴人作成の陳述書及び被控訴人本人の供述は,入居後
すぐアルミサッシの不具合が生じた,そして,平成6年の夏ころに南側基
礎に幅1センチメートル位の大きな亀裂があるのに気付いた,そこで,エ
メラルド観光の営業部長及び建築部長に相談したところ,『これはひど
い』と言われたので,基礎工事を行ったBを呼んで見て貰ったら心配ない
と言われた,というものであり,甲31のエメラルド観光建築部長作成の
問い合わせ回答書には,庭の造成前の平成7年春ころ,被控訴人からの点
検依頼により,南側基礎の大きなひび割れを確認した旨記載されている
が,Bは,平成10年11月ころ控訴人から南側基礎のひび割れを聞いて
初めてこれを知ったと述べていること(乙18),アルミサッシ等の不具
合の調整経過について,控訴人は建築後数年経ってからであったと具体的
に供述していること,本件建物の不同沈下は平成11年4月と平成13年
10月を比較すると徐々に進行していることが分かるが,平成10年10
月に補修した時9ミリメートルのひび割れであったこと(甲8)に照らす
と,建築した年に既に同程度のひび割れが生じていたというのは不自然で
あること,甲14と甲31とでは,エメラルド観光の建築部長等がひび割
れを確認した時期が食い違っている上,ひどいひび割れと言われて控訴人
に何ら連絡をしなかったというのも不自然であることなどに照らすと,被
控訴人の主張に副う上記証拠はいずれも採用し難い。」
(5) 13頁3行目から4行目にかけての「庭の造成による盛土も計算上本
件建物の荷重と同程度の影響を与えている」を,次のとおり改める。
 「庭の造成時の本件建物南側及び西側の盛土のほか,本件建物西側の駐車
場のコンクリート打ちなどによる荷重が本件建物南西部分の地盤の沈下に
与える影響は,本件建物自体の荷重のそれの2.5倍程度(責任割合に直
結するものではない。)になる」
(6) 13頁9行目の「また,」から15行目までを削る。
(7) 14頁7行目の「及び」から18行目の「不履行」までを「法上の過
失」に改める。
(8) 15頁23行目の「・弁護士費用」を削る。
2 工事期間中の代替住居確保費用について
 被控訴人は,補修工事中の住居移転の必要性を立証するため意見書(甲3
7)を提出したが,工事期間中の一時期,風呂,水道,ガスが使用できない
ことがあるとしても,「多少の不便は生じると思うが,移転しなくても工事
は可能である」とする原審鑑定結果を左右するものとはいえないから,代替
住居確保費用を損害として認めることはできない。
3 調査費用について
   証拠(甲38の1から7,甲39)によれば,本件建物の不同沈下の現象
と原因を解明するため,本件書証として多数の意見書を提出したが,そのた
めに(株)Cアメニティデザイン一級建築士事務所に対し,平成12年9月
ころから平成16年5月ころまで,合計62万2185円を,日本地研株式
会社に対し,平成15年ころ,60万9000円をそれぞれ支払ったことを
認めることができ,これらは本件建物の不同沈下と相当因果関係がある損害
と認められる。
4 損益相殺について
   本件敷地に本件建物を建築するに際しては,地盤沈下を防ぐため基礎工事
として杭工事をする必要があったところ,本件請負契約ではその工事は予定
されていなかったから,控訴人が鋼管杭圧入工法等による補修工事費用を賠
償すると,被控訴人は本来本件契約において負担すべきであった杭工事費用
相当額を不当に利得することになる。よって,これを損益相殺すべきである
が,証拠(甲40,乙14)を総合すると,本来負担すべきであった杭工事
費用相当額として50万円を認めるのが相当である。
5 過失相殺について
 (1) 引用にかかる原判決認定の事実(当審で補正後のもの)によれば,以
下のような事情が認められる。
   建築物の基礎は,建築物に作用する荷重及び外力を安全に地盤に伝え,
かつ,地盤の沈下又は変形に対して構造耐力上安全なものとしなければな
らない(建築基準法施行令38条1項)。控訴人は,住宅金融公庫の仕様
書に基づいて本件建物の建築を請け負ったのであるから,「敷地地盤の状
態については,工事計画上支障のないように,地盤調査を実施するか,あ
るいは近隣の地盤に関する情報資料等により検討」(仕様書3-1-1)
しなければならない義務を負っている。本件敷地はその一部地中に極軟弱
地盤が存在していたものであるが,本件敷地のような海岸近くの丘陵地の
開発地であれば,局所的に変化のある地盤が含まれることはどこでも見ら
れることであるから,控訴人が地盤調査をしなかったのは上記義務違反が
あると認めるべきである。しかしながら,平成11年6月成立した「住宅
の品質確保の促進等に関する法律」施行後は,住宅においても地盤調査を
行うことが一般的になってきたものの,本件建物の設計が行われた平成5
年当時においては,多くは設計者の経験と勘に頼っていた実情であったこ
と(鑑定の結果),本件敷地の北側には地山があったことや本件敷地及び
付近の外観などから,控訴人が現地を見て地山と判断したことも根拠のな
い判断ではないこと,本件建物の不同沈下に与えた影響は,本件建物の荷
重よりも被控訴人が後に行った庭の盛土等の荷重の方が大きく,約2.5
倍(これが責任割合に直結するものではないことは前記した。)であるこ
と,本件敷地の地盤の性状の情報については,所有者である被控訴人やそ
の前所有者であり開発者であるエメラルド観光が控訴人に提供すべき立場
にあるが,これらの者から控訴人に対し何ら情報提供はなかったこと,請
負契約に際し,念のため地盤調査をし,その結果によっては基礎工事とし
て杭工事も行うことになるとすれば,請負代金額が増加することになる
が,これは資金の蓄えがなかった被控訴人の請負代金額を極力低く抑えた
いという意向に副うものではないから,控訴人として提案しにくい状況に
あったことなど,諸般の事情を総合考慮して,本件建物の不同沈下による
損害を公平に分担させるには,民法722条2項を類推適用して,弁護士
費用を除いた全損害額から4割を減じた金額とするのが相当である。
 (2) 本件建物の不同沈下による損害額は,原審認定の1008万9585
円(補修工事費用948万8183円及び調査費用60万1402円)の
ほか当審で追加認定した調査費用合計123万1185円の合計1132
万0770円から損益相殺の50万円を控除した残額1082万0770
円となる。
   この金額について,4割の過失相殺をすると,649万2462円にな
る。
   本件訴訟経過,認容額等を考慮すると,控訴人が負担すべき弁護士費用
としては65万円が相当である。
6 遅延損害金について
  不法行為による損害賠償債務は,不法行為に基づく損害発生と同時に遅滞
に陥るところ(最高裁昭和37年9月4日判決・民集16巻9号1834
頁),本件のように不十分な基礎工事により建物の不同沈下という結果に起
因する損害が発生したような場合は,客観的に同損害が発生したときに遅滞
に陥るというべきであり,これを本件に即していえば,本件建物の不同沈下
が明確になったのは遅くとも平成10年4月1日(控訴人が2回目のアルミ
サッシの調整をしたころ。浴室排水パイプ継ぎ目折損に気づいた平成10年
10月25日ころの半年前ころ)というべきである。 
7 以上によれば,被控訴人の主位的請求は,714万2462円及びこれに
対する上記平成10年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合に
よる遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余の主位的請求及び
予備的請求は理由がない。
 8 よって,上記判断と一部異なる原判決は相当でないから,本件控訴に基づ
き,原判決を変更し,附帯控訴を棄却することとして,主文のとおり判決す
る。
 福岡高等裁判所第1民事部
          裁判長裁判官  簑   田   孝   行
             裁判官  駒   谷   孝   雄
             裁判官  岸 和 田   羊   一

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〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
時給 当社規定による
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シフトは週40時間以上
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