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平成13年(行ケ)第115号 審決取消請求事件(平成15年4月23日口頭弁
論終結)
          判         決
原      告   デイビッド エム ゲシュウィンド
訴訟代理人弁理士木   村   高   久
       被      告   特許庁長官 太 田 信一郎
       指定代理人   小   松       正
同          藤   内   光   武
同高   橋   泰   史
同          宮   川   久   成
同          伊   藤   三   男
          主         文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
      この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日
と定める。
          事実及び理由
第1 請求
   特許庁が平成10年審判第2639号事件について平成12年10月17日
にした審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は,昭和63年7月27日(優先権主張日1987年7月27日,米
国),名称を「狭い帯域幅のチャネルを通じて高精細度テレビジョンを伝送する方
法」とする発明について特許出願(特願昭63-507274号,以下「本件特許
出願」という。)をしたところ,平成9年10月13日,拒絶査定を受けたので,
平成10年2月24日,これに対する不服の審判の請求をした。特許庁は,同請求
を平成10年審判第2639号事件として審理した結果,平成12年10月17
日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年11
月20日,原告に送達された。
2 本件特許出願の願書に添付した明細書(平成12年3月3日付け手続補正書
による補正後のもの。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1
に記載された発明(以下「本願発明」という。)の要旨
空間的時間的特徴(STS)を有して信号の符号化を行い,前記STSのパ
ラメータ(空間,時間)は時間的な変化を有する,信号を符号化する方法。
 3 審決の理由
   審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明は,特開昭54-514
18号公報(甲6,以下「刊行物」という。)に記載された発明(以下「刊行物発
明」という。)であり,その実施例についても,当業者が容易に発明をすることが
できたものであるから,特許法29条1項3号に該当ないしは同条2項の規定によ
り特許を受けることができず,他の請求項2ないし13に係る検討をするまでもな
く,本件特許出願は拒絶すべきものであるとした。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決は,本願発明と刊行物発明の一致点の認定を誤り(取消事由1),両発
明の相違点の判断を誤った(取消事由2)結果,本願発明が刊行物発明であり,そ
の実施例についても,当業者が容易に発明をすることができたものであるとの誤っ
た判断をしたものであり,また,適法な拒絶理由通知を欠くから(取消事由3),
違法として取り消されるべきである。
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り)
  (1) 本願発明
    本願発明は,STSを有して信号の符号化を行い,STSのパラメータ
は,空間のみならず時間も時間的に変化するものであり,この方法を用いることに
より,伝送点の位相を変え,視覚的な粗さを生ずる可能性を減じ,人の目にとって
より鮮明なテレビジョン画面を表示する効果を奏する。
    本願発明においては,ソース画像からサブセットを順次選択する符号化を
行ってソース画像を伝送するが,この場合,大きいソース画像を狭い帯域のチャネ
ルに絞り込むために,ソース画像の符号化信号として選択されるサブセットが空間
的,時間的に変化するSTSを採用したものである。
    本願発明は,これに特有な信号の符号化の手法に特徴がある。この手法
は,本件特許出願の願書に添付した図面(以下,単に「図」という。)5~24に示
されており,被告の指摘する図4A~4Dは,本件明細書に本願発明の実施例として記
載されているけれども,実際は,空間的特徴のみが変化するSTSスキームの一例
を示すものにすぎず,STSのパラメータの時間が時間的に変化する構成は示され
ていないから,本願発明の実施例ではない。
  (2) 刊行物発明
    刊行物発明は,送信しようとするアナログ信号f(t)の帯域を狭くするため
に,このアナログ信号f(t)をサンプル点が主走査方向にずれた二つのアナログ信号
f1(t)及びアナログ信号f2(t)に分割して送信し,これにより帯域幅を減少させて,
現在のチャンネル帯域幅で解像度の高いテレビ画像を送信することができるように
したものである。ここで,受信側におけるアナログ信号f1(t)及びアナログ信号
f2(t)の合成は,受信側が解像度の低い従来のテレビ受像機の場合においては,表示
装置の燐光体の記憶作用により部分的に,そして,人間の目によって部分的に達成
するようにしたものである。
    刊行物には,テレビ画像の空間を時間的な変化を有して信号を符号化する
方法が記載されているけれども,そのサンプリング時間を時間的な変化を有して信
号を符号化する方法は何ら記載されていないから,本願発明の上記効果を奏さな
い。
  (3) 対比
   ア 伝送方法
     本願発明では,各フレームで伝送されるソース画像の画素位置が,ソー
ス画像の画素位置に対して時間的に変化しており,符号化のSTSのパラメータは
時間的に変化する。
     これに対して,刊行物発明においては,伝送信号の画素位置は,原画像
の画素位置を保持しているものであり,各フィールドにおいて,元の画像の画素と
同一の位置で伝送されるので,画像伝送に際しては,少なくとも,符号化のSTS
のパラメータの空間は時間的に変化しない。
   イ 再生画像
     受信側が改造された受信機である場合,本願発明においては,本件明細
書に記載された種々の手段を採用することで,ソース画像と略同一の画像を再生す
ることができる。これに対し,刊行物発明においては,基本的には,送信プロセス
と逆の処理を行うことで画像を再生する。
     受信側が普通のテレビ受信機の場合,本願発明においては,伝送信号可
変STSを用いているので,この信号をそのまま普通のテレビ受信機で受信して
も,同じチャネルを介する標準的な伝送と比較して,知覚が改善される。これに対
し,刊行物発明においては,伝送信号が可変STSを構成しないので,従前どおり
の画質のテレビ画像を受けることはできるが,本願発明のような知覚の改善は得ら
れない。
  (4) 一致点の認定手法の誤り
    本願発明が刊行物発明から容易想到であると判断するためには,本願発明
の構成が刊行物に記載されているかどうかを論じなければならないにもかかわら
ず,本件明細書の記載の一部が本願発明であるとする誤認に基づき,本件特許出願
を拒絶すべきものとする審決の判断は誤りである。
    被告は,本願発明のように概念が難解かつ抽象的な場合,その一実施例と
刊行物に記載された一実施例とを対比することにより本願発明の進歩性を判断する
ことが許されると主張する。しかしながら,本願発明の認定は,本件明細書の記載
全体に基づき行われなければならないから,図4A~4Dに記載されたものが刊行物に
記載された事項と一致することから直ちに,刊行物に本願発明と同一のものが記載
されているとする認定は誤りである。
 2 取消事由2(相違点の判断の誤り)
   上記1のとおり,本願発明と刊行物発明は,画像の伝送における基本的構成
が異なり,その効果においても差異があるから,両発明の相違点について,当業者
が適宜なし得ることとした審決の判断は失当である。
 3 取消事由3(拒絶理由通知を欠く違法)
  (1) 本願発明
    審決の理由は,本願発明が刊行物発明と同一であり特許法29条1項3号
に該当するというものであるが,この拒絶理由は,拒絶理由通知及び拒絶査定にお
いて示されていない。原告の平成10年9月24日付け手続補正書における主張
は,特許法29条2項をいう拒絶査定の理由に対する反論であって,同条1項3号
に係る主張ではないから,審決には,原告が同号に係る主張をする機会を奪った手
続的違法がある。
  (2) 請求項12に係る発明
    拒絶理由通知において,本件明細書の請求項12については,何ら拒絶理
由が通知されておらず,審判においても同様であるから,審決は,請求項12につ
いて拒絶理由を通知しない手続上の違法がある。
第4 被告の反論
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
  (1) 対比
   ア 伝送方法
     本願発明の実施例と刊行物発明の実施例とは,伝送するセルの順序が一
致していないが,セルの順序は当業者にとって適宜決定し得ることであるから,こ
れを適宜決定することにより,両実施例が一致する。したがって,刊行物発明が本
願発明における「時間的に変化するSTS」を構成していると認められる。
     刊行物発明のソース画像からサンプル画像1~8を選択し,これらサン
プル画像からフィールド1~8が得られる。テレビジョン技術の分野において,二
つのフィールドで一つのフレームが構成されること,また,一つ目のフィールドが
伝送され,次いで二つ目のフィールドが伝送されて,一つのフレームが伝送される
ことは,技術常識である。刊行物発明の実施例においても,各フィールドをまとめ
て同時に伝送することはできない。刊行物発明の実施例における画素の伝送は,画
素の空間が時間的に変化し,本願発明の実施例における画素の伝送と異なるところ
がない。
     本願発明においては,STSのパラメータが図4Aから図4Dへと時間的に
変化し,図4Dの状態になると1枚の静止画が構成され,図4Aから図4Dへと時間的変
化を繰り返すことで,静止画の繰り返しである動画像の時間的特徴を表すこととな
る。
     原告は,図4A~4Dのものが本願発明の実施例ではないと主張するが,本
件明細書には,これが本願発明の実施例であると記載されており,原告の主張は採
用し得ない。
   イ 再生方法
     本願発明と刊行物発明は,いずれも,従来のテレビ受像機と解像度の高
いテレビ受像機との両立に関するものであり,本願発明にあっても,従来のテレビ
受像機では,従来の解像度で再生される。
  (2) 一致点の認定手法の誤り
    本願発明は,その概念が難解かつ高度に抽象的であり,本願発明と刊行物
発明を直接に対比,判断することは困難である。そのため,審決は,本願発明の一
実施例と刊行物発明の一実施例とを対比,検討することにより,本願発明の進歩性
を判断したものであり,その判断手法に問題はない。
 2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について
   本願発明の一実施例と刊行物発明の一実施例とが一致する場合には,本願発
明の他の実施例のうち刊行物発明の上記実施例に類似するものは,刊行物発明に基
づいて当業者が容易に発明をすることができるから,全体として,本願発明は,当
業者にとって,刊行物発明に基づいて容易に発明をすることができたというべきで
ある。
 3 取消事由3(拒絶理由を欠く違法)について
  (1) 本願発明
    原告は,手続補正書(乙1)において,本願発明と刊行物の記載を対比し
て,刊行物には本願発明が記載されていないと主張したから,本願発明が特許法2
9条1項3号に該当しないことを主張している。原告が同号について意見を述べる
機会を与えられなかったということはできない。
    審決は,特許法29条1項3号の判断だけでなく,拒絶査定の理由である
同条2項についても判断を示し,本願発明の進歩性を否定した。本願発明に二つ以
上の拒絶理由があるとしてされた審決が違法となるのは,すべての拒絶理由が誤り
である場合のみである。仮に,審決が同条1項3号に係る拒絶理由を通知しなかっ
た点に違法があるとしても,同条2項に係る判断が違法となるわけではないから,
審決を取り消すべき違法はない。
  (2) 請求項12に係る発明
    審査,審判では,請求項12について拒絶理由を通知していないが,本願
発明が拒絶理由を有するのであるから,同一出願に係る請求項2以下の発明を含
め,全体として本件特許出願は拒絶すべきものである。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
  (1) 各発明の構成
   ア 本願発明
     本願発明の要旨は,上記第2の2記載のとおり,「空間的時間的特徴
(STS)を有して信号の符号化を行い,前記STSのパラメータ(空間,時間)
は時間的な変化を有する,信号を符号化する方法。」である。ところで,一般に,
式「F=f(x,y)」の意味は,xとyの双方が変化する場合のみならず,xのみ又はy
のみが変化する場合を含むところ,これと同様に,「STS(空間,時間)」が,
空間及び時間の双方が変化する場合に加え,その一方のみが変化する場合を含むこ
とは,その文言から一義的に明確であり,現に,後記のとおり,本件明細書(甲
2)には,空間及び時間のうち時間が変化せず空間のみが時間的に変化するもの
が,本願発明の実施例として,図4A~4Dに記載されている。したがって,空間のみ
が変化する構成も「STSのパラメータ(空間,時間)は時間的な変化を有する」
との要件を充足するのであって,「空間のみならず時間も時間的な変化を有する」
こと,すなわち,空間と時間の双方が変化することは,本願発明の必須要件ではな
い。
     次に,図4A~4Dに示されているものについては,本件明細書(甲2)に
「簡単な変化するSTSスキーム:本発明の簡単な実施例が第4A~4D図に示されて
いる。それらの各図はソース映像と宛先映像を示す。それらの映像も2×2画素の
セルとして構成されている。4つの図のおのおのは第1図に類似する点標本化スキ
ームを表す。・・・4種類の標本化は4サイクルで交番させられて,簡単な時間的
に変化するSTSを供給する」(18頁第3段落)として,本願発明の実施例であ
ることが明記され,原告も,本件訴訟の当初においては,図4A~4Dのものを本願発
明の実施例であると主張していた上,図4A~4Dの図示を参酌すると,各フレームで
伝送されるソース画像の画素位置(空間位置)は時間的に変化しているので,ST
Sのパラメータである空間及び時間のうち空間が時間的に変化するものとして,内
容的にも本願発明の実施例であるということができる。
   イ 刊行物発明
     刊行物(甲6)には,刊行物発明の実施例について,「第2c図から
2f図・・・に於いて,参照番号1乃至8は,サンプル点の8つのフイールドを示
し・・・これらフイールドが送信されるところの時間シーケンスも示している」
(7頁左下欄~右下欄)と記載されている上,まず,第2f図のソース画像から第
2c図に示されるサンプル点「1」が送信され,次に,第2d図に示されるサンプル点
「2」が送信され,更に,第2e図に示されるようにサンプル点「3」「4」と次々
にサンプル点「8」までが送信されることによって,サンプル点「1」から「8」
に対応した八つのフィールドが伝送されていることが記載されている(7頁右下欄
~8頁左上欄)。
  (2) 対比
   ア 伝送方法
     審決は,「刊行物に示される第2f図は,画像の1フレームを送るために
サンプル点を空間的に順次異ならせて送信する一つの時間シーケンスを示し,本願
図面第4A~4D図は,画像の1フレームを送るために1サンプル点を空間的に同じも
の(1サンプル点を代表して4つのサンプル点とするもの)として順次送信する一
つの時間シーケンスを示す点で,実施例においては相違する」(審決謄本5頁第3
段落)と認定する。
     そこで,この点について判断するに,本願発明の図4A~4Dに示されてい
る実施例(甲2)において,ソース画像の2×2の画素に着目すると,伝送される
画素の順序は,上記図面のとおり,A11(左上),B11(右上),C11(右下),
D11(左下)の順であるのに対し,刊行物発明の実施例(甲6)において,ソース
画像の2×2の画素に着目すると,伝送される画素の順序は,上記実施例の図面の
とおり,サンプル点「1」(左上),同「3」(右下),同「5」(右上),同
「7」(左下)の順である。したがって,本願発明の上記実施例と刊行物発明の上
記実施例とは,伝送する画素の順序が上記のとおり異なると認められる。
     他方,刊行物発明の実施例(甲6)は,上記のとおり,ソース画像から
サンプル点「1」~同「8」を選択し,これらサンプル点からフィールド1~8が
得られるものであるところ,本件明細書(甲2)には,「米国においては,各テレ
ビフレームは,はさまれた2つのテレビフィールドで構成され,その結果として1
秒間当り60フィールドが得られることになる」(3頁第1段落),「米国の商業
用テレビジョン方式においては,各1/30秒ビデオフレームが2つの1/60秒ビデオフ
ィールドに分けられる。画像の全ての偶数線は第1のフィールドに送られ,全ての
奇数線は第2のフィールドに送られる」(7頁第2段落)と記載され,これらの記
載によれば,テレビジョン技術の分野において,二つのフィールドで一つのフレー
ムが構成されること,一つ目のフィールドが伝送され,次いで二つ目のフィールド
が伝送されて,一つのフレームが伝送されることは,当業者にとって技術常識であ
ると認められるのみならず,かえって,刊行物発明の上記実施例において,伝送信
号が画素位置についてソース画像の画素位置を物理的に保持すること,すなわち,
各フィールドをまとめて同時に伝送することは,本願発明及び刊行物
発明のような,狭い帯域幅のチャネルを通じて高精細度テレビジョンを伝送する技
術分野においては実施し得ないとする当業者の技術常識に反することが明らかであ
る。そうすると,刊行物発明の実施例における画素の伝送も,画素の空間が時間的
に変化するものと認められ,この点で,本願発明の実施例における画素の伝送と異
なるところがない。
     したがって,刊行物発明の上記実施例に記載された画素の順序にしたが
ってソース画像を伝送すると,各フィールドで伝送されるソース画像の画素位置,
すなわち,STSのパラメータである空間は時間的に変化し,選択される画素も時
間的に変化しているので,上記実施例は,「時間的に変化するSTS」を構成して
いると認められる。
   イ 再生画像
     本願発明及び刊行物発明は,いずれも,信号を符号化する方法の発明で
あって,再生画像はその構成要素ではないから,両発明が再生画像又はこれを得る
方法において一致するかどうかは,特許法29条1項3号及び同条2項所定の事由
の存否に影響を及ぼさない。
  (3) 一致点の認定手法の誤り
    本願発明が刊行物発明から容易想到であると判断するためには,本願発明
の構成が刊行物に記載されているかどうかにつき認定する必要があるが,一般に,
出願された発明の一実施例と公知刊行物に記載された発明の一実施例とを対比,検
討することにより,上記の必要な認定をすることが可能である場合には,このよう
な手法を採用することに何ら問題はなく,これを採用し得ないと解すべき法的根拠
は見いだされない。
  (4) 上記のとおり,本願発明と刊行物発明の各実施例の一致点の認定の誤りに
関する原告の主張は採用することができず,他にその認定の誤りをうかがわせるに
足りる証拠はないから,両発明について,「刊行物に示される第2f図は,画像の1
フレームを送るためにサンプル点を空間的に順次異ならせて送信する一つの時間シ
ーケンスを示し,本願図面4A~4D図は,画像の1フレームを送るために1サンプル
点を空間的に同じもの(1サンプル点を代表して4つのサンプル点とするもの)と
して順次送信する一つの時間シーケンスを示す点で,実施例においては相違する」
(審決謄本5頁第3段落)とし,その余の点で一致するとした審決の一致点の認定
に誤りはない。
 2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について
  (1) 一般に,2×2画素のセルから左上を出発点とする四つの画素の伝送順序
は6通りあり,どの伝送順序を選択しても,受信側において復元が可能であり,ま
た,どの順序で伝送しても,画像の優劣に格別の差異がないことは明らかであるか
ら,刊行物の上記実施例に接した当業者が,本願発明の実施例のような順序で画素
を伝送することは,当業者に周知慣用の技術を適用することにより容易に想到し得
る構成であることは明らかである。
    このように,刊行物発明の一実施例に接した当業者にとって,本願発明の
一実施例に想到することが容易であるから,本願発明は,少なくともその一部が,
当業者にとって,刊行物発明から容易に発明をすることができるというべきであ
る。そうすると,その一部が公知刊行物から容易に想到し得る発明は,当該部分を
特許請求の範囲の減縮により除外しない限り,全体として進歩性を欠くこととなる
から,本願発明が特許法29条2項所定のものであるとする審決の判断は,正当と
いうことができる。
  (2) 原告は,本願発明と刊行物発明とを比較して,両発明が画像の伝送の基本
的構成において異なると主張するが,両発明の相違点に係る本願発明の構成は,上
記のとおり,少なくとも両発明の上記実施例について見る限り,当業者にとって,
周知慣用の技術を適用することにより採用し得る程度のものにすぎない。したがっ
て,両発明が画像の伝送の基本的構成において異なるということはできないから,
原告の主張は採用することができない。
 3 取消事由3(拒絶理由通知を欠く違法)について
  (1) 本願発明
    審決は,本願発明と刊行物発明が上記1(4)の点で相違すると認定し,相違
点に係る本願発明の構成について,「本件発明は,刊行物に記載された発明であ
り,その実施例についても,当業者が容易に発明をすることができた」(審決謄本
5頁「5 むすび」)と判断した上,本願発明は「特許法29条1項3号に該当な
いしは同法29条2項の規定により特許を受けることができない」(同上)とし
た。
    審決の上記説示の趣旨は,明確とはいい難いが,本願発明は,刊行物発明
との相違点に係る構成が設計事項であれば特許法29条1項3号に該当し,当業者
にとって容易に想到し得るものであれば同条2項に該当するから,そのいずれであ
っても,本願発明には拒絶理由があるという趣旨と解することが可能である。
    上記のとおり,本願発明は,当業者にとって,刊行物発明に基づいて容易
に発明をすることができたものというべきであるから,本願発明が特許法29条2
項に該当するとの審決の判断は正当である。そうすると,審決が同条1項3号所定
の事由について判断していることは,拒絶理由が通知されていない点で問題なしと
しないが,少なくとも,刊行物を引用した上で本願発明が同条2項に該当するとの
拒絶理由は原告に対し適法に通知されているから,同条1項3号所定の拒絶理由の
通知に係る原告の主張は,同条2項を理由とする審決の結論に影響を及ぼさない。
  (2) 請求項12に係る発明
    特許法は,49条及び51条において,一つの特許出願については,拒絶
査定又は特許査定のいずれかをすべき旨規定しており,また,二以上の請求項に係
る特許又は特許権についての特則を定める185条が49条及び51条を掲げてい
ないこと,113条及び123条1項本文は,二以上の請求項に係る特許について
は,請求項ごとに異議の申立て又は無効審判を請求することができる旨規定してい
ることにかんがみると,本件において,請求項1に係る本願発明が特許法29条2
項所定の拒絶理由を有する以上,請求項2以下に記載された発明を含め,本件特許
出願は全体として拒絶すべきものである。したがって,請求項12に係る発明につ
いて拒絶理由の通知がされていないことに原告主張の手続上の違法はない。
 4 以上のとおり,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を
取り消すべき瑕疵は見当たらない。
   よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のと
おり判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官   篠   原   勝   美
            裁判官   岡   本       岳
            裁判官   長   沢   幸   男

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勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛