弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役15年に処する。
未決勾留日数中390日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1Aとの間で,B(当時55年)に傷害を負わせることを共謀していたもの
であるが,その機会を利用して同人から金員を強取しようと企て,Cと共謀
の上,平成17年6月24日午後5時50分ころ,奈良県大和高田市a町b
番c号所在の上記B方に無施錠の南側出入口から侵入し,そのころ,同方2
階8畳洋間において,同人所有にかかる現金4000円を窃取した上,同日
午後7時ころ,同方1階2畳の間において,同人に対し,上記Cが背後から
その頸部に左腕を巻き付けて床上に引き倒した上で,その頭部を手拳で数回
殴打し,被告人がその腹部を手拳で数回殴打し,さらに,上記Cが,仰向け
に転倒した上記Bの身体に馬乗りになって胸腹部を圧迫し,その鼻口部等を
両手掌で強く圧迫し,被告人が,上記Bの両手足を電気コード等で縛りつけ
るなどの暴行を加え,その反抗を抑圧して同方1階台所にあった同人所有に
かかる現金約2620円を強取し,その際,上記一連の暴行により,そのこ
ろ,同所において,同人を窒息により死亡させ,
第2A及びCと共謀の上,他人の自動車を損壊することを企て,平成15年7
月初めころの午後9時ころ,奈良県大和高田市大字de番地D方西側所在の
E内において,同所に駐車中のF所有にかかる普通乗用自動車の運転席側ド
アミラーを同車の車体前方向に折り曲げるなどして壊し,その右後部フェン
ダー部等に石で傷を付け,さらに,その運転席側のタイヤ2本をシガーライ
ターの火を押し付けてパンクさせるなどし(損害額合計11万2910円相
当),もって他人の器物を損壊し
たものである。
(法令の適用)
1罰条
第1の所為
住居侵入の点
刑法60条,130条前段
強盗致死の点
刑法60条,240条後段
第2の所為
刑法60条,261条
2科刑上一罪の処理
第1につき,刑法54条1項後段,10条(重い強盗致死罪の刑で処断)
3刑種の選択
第1の罪につき無期懲役刑を,第2の罪につき懲役刑を選択
4併合罪
刑法45条前段,46条2項本文(無期懲役刑を選択した判示第1の刑で処
断し,他の刑を科さない。)
5酌量減軽
刑法66条,71条,68条2号,14条1項
6未決勾留日数の算入
刑法21条
7訴訟費用の不負担
刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
1本件は,被告人が,スーパー内の店舗の経営者であるAから,同店でアルバ
イトをしていた被告人の友人である共犯者Cを介して,報酬と引換えに上記店
舗の近所に住む被害者を傷害するように依頼を受け,Cとともに被害者を傷害
することを順次共謀した上で,さらにCとの間で被害者から所持金等を強奪す
ることをも共謀して,Cと共に被害者宅に侵入し,現金を盗んだ後,被害者に
暴行を加えて死亡させ,さらに現金を強取したという住居侵入,強盗致死の事
案(第1)及び,その約2年前に,A及びCと上記店舗の元従業員の自動車を
損壊することを共謀し,被告人とCが間違えて別人の自動車を損壊した器物損
壊の事案(第2)である。
2判示第1の犯行についてみると,被告人が,Cを介して,同人がアルバイト
をしていた上記店舗の経営者であるAから,同人が同店の近所に住む被害者か
らかつて嫌がらせを受けたことがあり,本件の1か月余り前の平成17年5月
20日ころにも被害者から足下につばを吐きかけられたことに腹を立てている
ことについて,報酬と引換えに被害者を襲ってしばくようにとの依頼を受け,
後に骨の一,二本を骨折させるようにとの依頼を受けて,これに応じて順次共
謀を遂げ,さらにCと被告人の間で被害者から金銭を奪うことをもくろんで,
Cとともに本件犯行に及んだというものであって,その動機は誠に短絡的かつ
自己中心的で酌量の余地など全くない。
犯行に至る経緯についてみると,被告人は,同月22日ころにAから依頼を
受けたCから誘いを受けて,被害者を自動車で拉致して地下道に連行し,そこ
で暴行を加える計画を立て,2人で被害者方や地下道を下見するなど準備を進
め,同年6月10日に上記計画を実行すべく被害者方で被害者を待ち伏せした
が,同人が外出しなかったため実行することができなかった。そして,C及び
被告人は,同月22日に改めて被害者方付近で被害者を待ち伏せたが,同人は
またも外出しなかった。そこで,C及び被告人は,被害者が外出しなければ被
害者方に立ち入って暴行を加えることに計画を変更し,本件犯行当日である同
月24日,帽子,バンダナ,軍手等を準備して被害者方付近に赴き,1時間以
上被害者を待ち伏せしたものの,同人がいったん帰宅した後再び外出する様子
がなかったため,被害者方へ立ち入って暴行を加えることを決意し,同方へ侵
入して,同方内で約1時間機会をうかがった後で被害者に対する襲撃を行った
というものである。本件は,以上のとおり,1か月余りにわたって準備を行い,
その間2度の失敗があったにもかかわらず,犯行をあきらめることなく被害者
を狙い続け,最終的には,大胆にも夕方に住宅地にある被害者方において敢行
したという計画的かつ執拗な犯行であって,極めて悪質である。
続いて,犯行の態様についてみるに,Cは,被害者方内で機会をうかがった
後,パソコンに向かっていた被害者の背後から左腕を頸部に巻き付けて床上に
引き倒した上,C及び被告人がこもごも頭部及び腹部を手拳で数回殴打し,C
が仰向けに転倒した被害者に馬乗りになってその胸腹部を強く圧迫するととも
に,被害者にCの顔を見られ,大声を出されることを恐れて,鼻口等を両手掌
で強く圧迫し,被告人が被害者の両手足を電気コード等で縛りつけるなどの暴
行を加え,その結果,被害者が呼吸運動ができなくなって窒息死したものであ
るところ,Cは,身長約180センチメートル,体重約95キログラムという
大きな体格であり,しかも柔道初段で武道の経験を有していたことなどのCと
被害者との体格差や被害者の体力等に照らせば,上記暴行は,凶器を使用した
場合に比肩しうるほどに危険性が高く,しかも執拗かつ一方的に行われたもの
といえ,非常に悪質な犯行である。
また,本件犯行後,被告人は,Cから被害者が死亡しているかもしれないと
告げられ,自らも被害者の心音等を確認して,同人が死亡しているかもしれな
いと認識したにもかかわらず,何らかの救命措置を講ずることなく,かえって
犯行現場に飛散したCの血痕をティッシュペーパー等で拭き取り,血痕が付着
した座布団等を持ち出すなどの証拠隠滅を行い,さらには被害者方の店内レジ
からさらに現金を奪い取ろうと試みており,その後も犯行時のアリバイを作出
するためにCとの間で口裏合わせを行うなどの証拠隠滅を行っていたのであっ
て,犯行後の情状も悪い。
被害者は,最も安全であるはずの自宅兼店舗でパソコンに向かっていたとこ
ろを突如背後から覆面姿のCに襲われて床上に引き倒され,体格の良いCに馬
乗りにされて胸腹部を強く圧迫された上,鼻口等を両手掌で強く圧迫されるな
どし,抵抗むなしく窒息死するに至ったものであり,被害者の受けた肉体的・
精神的苦痛は察するに余りある。被害者の遺族の怒り,悲しみは深く,その処
罰感情が厳しいのも当然である。
被告人は,Cを介してAから被害者の襲撃の依頼を受けるや,躊躇すること
なくこれを引き受け,さらには同人の襲撃後に同人方から金銭を奪うことをC
に提案しており,犯行現場においても,Cが被害者に対して同人が窒息死する
主な原因となる仰向けに倒れた同人の上に馬乗りになり,胸腹部を強く圧迫し,
その鼻口部等を両手掌で圧迫し続けている間,被害者の腹部を数回殴打し,C
の指示に従って被害者の両手足を電気コードで縛りつけるなどの実行行為の一
部を分担しているのであって,被告人の本件犯行における役割には大きなもの
があるといわざるを得ない。
以上によれば,判示第1の犯行に関する被告人の刑事責任は,極めて重大で
ある。
3判示第2の犯行についてみると,被告人は,Cを介して,Aが,解雇した上
記店舗の元従業員からAが浮気をしている旨のメールを同人の妻に送信された
り,店の取引先に取引を止めるよう働きかけられたとして立腹し,報酬と引換
えに上記元従業員を傷害するように依頼されるや,これに応じ,上記元従業員
方の下見などを行うも,その居場所がわからなかったため,さらにAの指示を
受けて上記元従業員の自動車を壊すことの指示を受けて,被告人らは,これに
基づき,別人の自動車を上記元従業員のものと勘違いして損壊したものである。
その動機は短絡的であるし,犯行態様もドアミラーを折り曲げたり,フェンダ
ーに石で傷を付けたり,タイヤをパンクさせるなど,陰湿で悪質である。そし
て,その結果,無関係の第三者に対し,約11万円余りという少なくない財産
的損害を生じさせている。
被告人は,この犯行においても,Cを介してAからの依頼を受けるや,躊躇
することなくこれを引き受けて,Cと分担して実行行為に及んでおり,その役
割は大きなものがある。
以上によれば,判示第2の犯行に関する被告人の刑事責任も,軽いものでは
ない。
4他方,以下のとおり,被告人にとって酌むことのできる事情が認められる。
まず,判示第1の犯行について,被告人は,被害者に対する暴行に関しては,
Cの指示に専ら従っており,被害者が窒息死する主な原因となった仰向けに倒
れた同人の上に馬乗りになり,胸腹部を強く圧迫し,その鼻口部等を両手掌で
圧迫し続けたことにも直接関与しておらず,この点では従たる役割であったこ
とは明らかである。
また,判示第1の犯行について,被害者の死亡は,Cが,仰向けに転倒した
被害者の上に馬乗りになって胸腹部を圧迫し,また,鼻口部等を両手掌で強く
圧迫した結果,被害者において呼吸運動ができなくなって窒息死するに至った
ものと認められ,それらの死因につながる一連の暴行は,被害者が暴れるのを
制止したり大声を出すのを妨げるために行われたもので,それ自体で骨折を招
くような強力な暴行ではなく,また被害者の死亡に向けられたものでもなく,
偶発性の高いものであり,Cにおいて,Cと被害者との体力差,Cの柔道の心
得があることなどを考慮に入れて,被害者が死亡に至らないよう細心の注意を
払うべきことを怠ったという過失的側面が極めて強いものであって,被告人ら
にとっても予期しなかった因果の経過をたどって被害者が死亡したという意外
な結果であったということができる。
さらに,判示第1の犯行は,被告人らが,報酬と引換えに被害者を襲撃して
ほしいというAからの依頼を受けた後,被害者を襲撃する際にもし同人宅に金
銭があれば奪うこととして行われたものであって,被告人らによる被害者に対
する暴行は,金銭の奪取に向けられたものではあるものの,第一次的には,同
人に対して傷害を加えることそれ自体を目的としたものであって,通常の強盗
致死罪とはやや趣を異にしている。
そして,被告人らが判示第1の被害者から強取した金銭は,合計約6620
円と比較的少額である。
加えて,被告人は,捜査段階から本件各犯行について素直に事実を認め,反
省の情を示していること,被告人にはこれまで前科がないこと,被告人の父親
は当公判廷に出廷し,被告人の指導監督を誓っていること,被告人は,弁護人
や家族を通じて,300万円を準備して,判示第1の遺族に対して被害弁償の
申出を行うなど,慰謝の措置を講じる意思を有していることなどの諸事情もま
た認められる。
5本件事案の内容,犯行態様の悪質性,結果の重大性,被告人の果たした役割
及び前記のような被告人に有利な事情を総合考慮して,被告人に対しては,酌
量減軽をした上で,主文の刑に処するのが相当であると判断した。
(求刑無期懲役)
平成18年12月6日
奈良地方裁判所葛城支部
裁判長裁判官榎本巧
裁判官大島道代
裁判官長田雅之

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