弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件訴えのうち,原告らが義務付けを求める各訴え及び差止めを求める各訴
えをいずれも却下する。
2原告らのその余の訴えに係る請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,全事件を通じ,原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1A事件
()被告東京入国管理局長が平成16年4月22日付けで原告aに対してし1
た出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく原告aの異議の申出は理由
がない旨の裁決を取り消す。
()被告東京入国管理局主任審査官が平成16年4月22日付けで原告aに2
対してした退去強制令書発付処分を取り消す。
()被告東京入国管理局長が,平成16年4月30日付けで原告bに対して3
した出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく原告bの異議の申出は理
由がない旨の裁決を取り消す。
()被告東京入国管理局主任審査官が平成16年4月30日付けで原告bに4
対してした退去強制令書発付処分を取り消す。
()被告東京入国管理局長が平成16年4月30日付けで原告cに対してし5
た出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく原告cの異議の申出は理由
がない旨の裁決を取り消す。
()被告東京入国管理局主任審査官が,平成16年4月30日付けで原告c6
に対してした退去強制令書発付処分を取り消す。
2B事件
()原告aが東京入国管理局主任審査官により平成16年4月22日付けで1
発付された退去強制令書の執行を受けない地位にあることを確認する。
()原告bが東京入国管理局主任審査官により平成16年4月30日付けで2
発付された退去強制令書の執行を受けない地位にあることを確認する。
()原告cが東京入国管理局主任審査官により平成16年4月30日付けで3
発付された退去強制令書の執行を受けない地位にあることを確認する。
()法務大臣は,原告aに対し,定住者の在留資格を付与せよ。4
()法務大臣は,原告bに対し,定住者の在留資格を付与せよ。5
()法務大臣は,原告cに対し,定住者の在留資格を付与せよ。6
3C事件
()処分行政庁は,東京入国管理局主任審査官が平成16年4月22日付け1
で発付した原告aに対する退去強制令書の執行をしてはならない。
()処分行政庁は,東京入国管理局主任審査官が平成16年4月30日付け2
で発付した原告bに対する退去強制令書の執行をしてはならない。
()処分行政庁は,原告cに対する東京入国管理局主任審査官が平成16年3
4月30日付けで発付した退去強制令書の執行をしてはならない。
第2事案の概要
,,本件は中華人民共和国国籍を有する外国人夫婦及びその子である原告らが
被告東京入国管理局長によって平成16年4月22日及び30日付けで原告ら
の出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。ただし,特記しない限
り,平成16年法律第73号による改正前のものをいう。)49条1項に基づく
異議の申出について理由がないとする旨の各裁決につき,在留特別許可を付与
しなかったことが,憲法14条等の趣旨に反し,また,比例原則に違反するか
,,,ら裁量権の逸脱・濫用がある違法があるとして各取消しを求めるとともに
上記各裁決に引き続きなされた各退去強制令書発付処分の各取消しを求め(A
事件,さらに,その後原告a及び原告bの子である原告cに生じた事故によ)
り,本邦において同原告の治療を継続する必要が生じたとして,この事情を直
接反映して本邦に在留するため,A事件が認容されないことに備え,まず,原
告らに対する各退去強制令書の執行を受けない地位にあることの確認を求める
とともに,原告らに定住者の在留資格を付与することの義務付けを求め(B事
件,当該確認等を求める訴訟が奏功しないことも慮って,各退去強制令書の)
執行の差止めを求めた(C事件)事案である。
1前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実)
()当事者1
ア原告a(以下「原告父」という。)は,▲年▲月▲日,中華人民共和国(以下
「中国」という。)において出生した中国国籍を有する外国人である。原告父
は,日本人であるdの子である(甲6,51,乙5。)
イ原告b(以下「原告母」という。)は,▲年▲月▲日,中国において出生し
た中国国籍を有する外国人である(乙2。)
ウ原告c(以下「原告子」という)は,平成▲年▲月▲日,本邦で出生。
した中国国籍を有する外国人である(乙3。)
()原告父の入国及び在留状況2
ア原告父は,昭和55年5月13日,新東京国際空港に到着し,東京入国
管理局成田支局入国審査官から入管法(ただし,平成元年法律第79号に
よる改正前のもの)4条1項16号,出入国管理及び難民認定法施行規則
(ただし,平成2年法務省令第15号による改正前のもの)2条3号所定
の在留資格在留期間180日とする上陸許可を受け本邦に上陸した乙,,(
5。)
イ原告父は,在留期間更新許可を繰り返し得て,本邦における在留を継続
し,昭和57年4月1日,在留資格を入管法(ただし,上記アと同じ)4
条1項16号,出入国管理及び難民認定法施行規則(ただし,上記アと同
じ)2条1号に変更する許可申請をし,同年6月4日に同許可を得て,以
降同在留資格に基づいて更新許可を繰り返し得て,本邦における在留を継
続した(乙5。)
ウ原告父は,平成元年11月1日,東京入国管理局において,法務大臣に
対し,永住許可申請をしたが,法務大臣は,平成2年2月2日,同申請を
不許可とする処分を行い,そのころ,原告父に対してその旨通知した(乙
5。)
そこで,原告父は,平成3年4月6日,法務大臣に対し,在留期間更新
許可申請を行い,同日,入管法別表第1所定の在留資格「日本人の配偶者
等,在留期間3年の在留期間更新許可を受け,また,平成6年4月22」
日,東京入国管理局において,法務大臣に対し,在留期間更新許可申請を
,,()。行い同年9月6日在留期間1年の在留期間更新許可を受けた乙5
エ原告父は,平成8年4月23日,東京入国管理局において,法務大臣に
対し,在留期間更新許可申請をしたが,法務大臣は,同年8月19日原告
父の上記申請を不許可とする処分をした(乙5。)
オ原告父は,平成8年5月3日を超えて不法残留をした事実,及び平成7
年9月27日,仙台地方裁判所において○,○の罪名により○の刑の宣告
を受け,平成8年4月3日確定した事実により,入管法24条4号ロ(不
法残留)及びリ(刑罰法令違反者)の該当者として退去強制手続がとられ
たが,平成9年7月2日,法務大臣からの入管法別表第1に定める在留資
格「日本人の配偶者等,在留期間1年とする在留特別許可を受けた(乙」
5,11の3。)
原告父は,平成11年6月24日,東京入国管理局において,在留期間
更新許可申請を行い,同年12月1日,在留期間1年の在留期間更新許可
を受け,また,平成12年6月27日,東京入国管理局において,在留期
間更新許可申請を行い,同年7月21日,在留期間1年の在留期間更新許
可を受けた(乙5。)
カ原告父は,平成13年6月27日,東京入国管理局において,法務大臣
に対し,在留期間更新許可申請をしたが,法務大臣は,平成14年1月1
6日,上記申請を不許可処分とし,そのころ,原告父に対してその旨通知
した(乙5。)
()原告母の入国並びに原告母及び原告子の在留状況3
,,,ア原告母は平成8年▲月に日本人であるeと結婚し同年11月27日
新東京国際空港に到着し,東京入国管理局成田空港支局入国審査官から入
管法別表第1所定の在留資格「日本人の配偶者等,在留期間6月とする」
上陸許可を受け,本邦に上陸した(乙7の1・2。しかし,原告母は,)
在留期限である平成9年5月27日を超えて現在に至るまで在留資格更新
等の手続を行っておらず,不法に残留している(乙7の2。)
イ原告母は,平成9年▲月にeと離婚し,原告父と原告母は,平成10年
▲月▲日,婚姻届をした(乙7の3。)
ウ原告子は,平成11年▲月▲日に出生し,同年12月8日,東京入国管
理局において,法務大臣に対し,在留資格取得許可申請をし,同日,入管
法別表第1に定める在留資格「定住者,在留期間1年の在留期間更新許」
可を受け,平成12年11月20日,東京入国管理局において,法務大臣
に対し,在留期間更新許可申請をし,同月27日,在留期間1年の在留期
間更新許可を受けた(乙8の1∼3。)
エ原告子は,平成13年11月20日,東京入国管理局において,法務大
臣に対し,在留期間更新許可申請をしたが,法務大臣は,平成14年1月
16日,上記申請に対して不許可とする処分をし,そのころ,原告子に対
しその旨通知した(乙8の2。)
()原告父に対する退去強制手続4
ア東京入国管理局横浜支局入国審査官は,平成14年10月3日及び同月
9日,原告父に係る違反審査をし,その結果,同月9日,原告父が入管法
24条4号ロに該当する旨の認定をし,原告父にその旨通知したところ,
原告父は,同日,特別審理官による口頭審理を請求した(乙15から17
まで。)
イ東京入国管理局特別審理官は,平成15年5月22日,原告父に係る口
頭審理をし,その結果,同日,上記アの入国審査官の認定に誤りがない旨
の判定をし,原告父に対してその旨通知したところ,原告父は,同日,法
務大臣に対し,異議の申出をした(乙19から21まで。)
ウ法務大臣から権限の委任を受けた被告東京入国管理局長は,平成16年
3月31日,原告父の上記イの異議の申出について理由がない旨の裁決を
し,被告東京入国管理局主任審査官に対してその旨通知した(乙22,2
3。)
被告東京入国管理局主任審査官は,同年4月22日,原告父に対して上
記裁決を通知するとともに,原告父に対して退去強制令書発付処分をし,
同日,その旨原告父に対して通知した(乙24,25。)
()原告母に対する退去強制手続5
ア原告母は,平成10年6月9日,東京入国管理局に出頭し,本邦におけ
る在留を希望するとともに,不法残留の事実を申告した(乙26。)
イ東京入国管理局入国審査官は,平成12年5月29日及び同年11月6
日,原告母に対する違反審査を行い,その結果,平成12年11月6日,
原告母が入管法24条4号ロに該当する旨の認定をし,同日,原告母に対
してその旨通知したところ,原告母は,同日,特別審理官による口頭審理
を請求した(乙33から35まで。)
ウ東京入国管理局特別審理官は,平成13年10月23日,原告母に対す
る口頭審理を行い,その結果,上記イの入国審査官の認定に誤りがない旨
判定し,同日,原告母に対してその旨通知したところ,原告母は,同日,
法務大臣に対して異議の申出をした(乙36から38まで。)
エ法務大臣から権限の委任を受けた被告東京入国管理局長は,平成16年
,,3月31日原告母の上記ウの異議の申出には理由がない旨の裁決を行い
同日,被告東京入国管理局主任審査官にその旨通知した。
被告東京入国管理局主任審査官は,同年4月30日,原告母に対して上
記裁決を通知するとともに,原告母に対して退去強制令書発付処分をし,
同日,原告母に対してその旨通知した(乙41,42。)
()原告子に対する退去強制手続6
ア東京入国管理局入国審査官は,平成14年11月13日及び平成15年
4月24日,原告子に係る違反審査をし,その結果,同日,原告子が入管
法24条4号ロに該当する旨の認定をし,原告子の法定代理人である原告
母に対してその旨通知したところ,原告母は原告子の法定代理人として,
同日,特別審理官の口頭審理を請求した(乙47から49まで。)
イ東京入国管理局特別審理官は,平成15年5月22日,原告子に係る口
頭審理をし,その結果,同日,上記アの入国審査官の認定に誤りがない旨
の判定をし,原告子の法定代理人である原告母に対してその旨通知したと
ころ,原告母は原告子の法定代理人として,同日,法務大臣に対して異議
の申出をした(乙19,50,51。)
ウ法務大臣から権限の委任を受けた被告東京入国管理局長は,平成16年
,,3月31日原告子の上記イの異議の申出には理由がない旨の裁決(以下
原告父原告母及び原告子に対する各裁決を併せて本件各裁決という。),「」
を行い,同日,被告東京入国管理局主任審査官にその旨通知した。
被告東京入国管理局主任審査官は,同年4月30日,原告母に対して原
告子に係る裁決を通知するとともに,原告子に対して退去強制令書発付処
分をし(以下,原告父,原告母及び原告子に対する各退去強制令書発付処
分を併せて「本件各退令発付処分」という。),同日,原告母に対してその旨
通知した(乙52から55まで。)
2争点
本件における争点は,次のとおりであり,これらについて摘示すべき当事者
の主張は,後記第3「争点に対する判断」において記載するとおりである。
()A事件関係1
本件各裁決の適法性(在留特別許可を巡る裁量権逸脱又は濫用の有無)
()B事件関係2
ア本件各退去強制令書の執行を受けない地位の確認の訴え(以下「本件各
確認の訴え」という)について。
(ア)訴えの適法性(本案前の争点)
(イ)原告らが上記地位にあるか否か(本案の争点)
イ在留資格付与義務付けの訴え(以下「本件各義務付けの訴え」という。)に
ついて
(ア)訴えの適法性(本案前の争点)
(イ)義務付けの訴えの実体要件充足性(本案の争点)
()C事件関係3
ア本件各退去強制令書の執行の差止を求める訴え(以下「本件各差止めの訴
え」という。)の適法性(本案前の争点)
イ差止めの訴えの実体要件充足性(本案の争点)
第3争点に対する判断
1争点()(本件各裁決の適法性(A事件関係)1)
()本件各裁決に関する被告東京入国管理局長の裁量について1
ア法務大臣は,退去強制手続の対象となった外国人が退去強制対象者(入
管法24条各号のいずれかに該当すると認められ,同法49条1項の規定
による異議の申出に理由がないと認めるときであっても,その者の在留を
特別に許可することができる(同法50条1項柱書。この在留特別許可)
は,同法49条4項の適用については,異議の申出が理由がある旨の裁決
とみなされるから(同法50条3項,法務大臣から在留特別許可をした)
旨の通知を受けた主任審査官は,直ちにその外国人を放免しなければなら
ない。
入管法50条1項に規定する法務大臣の権限は地方入国管理局長に委任
することができ(同法69条の2,同法施行規則61条の2第10号,)
本件においては被告東京入国管理局長がその委任を受けているため,上の
段落において法務大臣の権限として述べたことはすべて被告東京入国管理
局長に妥当する。
,,前記前提事実()及び()において摘示した事実関係によれば原告らは23
入管法24条4号ロの退去強制事由に各該当し,かつ,出国命令対象者に
該当しない外国人であると認められる。本件各裁決に関しては,入管法5
0条1項3号(その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると「
認めるとき,現行入管法50条1項4号)に基づく在留特別許可が問。」
題となるところ,この在留特別許可についての法務大臣ないしその権限の
委任を受けた地方入国管理局長(以下「法務大臣等」という。)の判断の性格
について,まず検討する。
イ国際慣習法上,国家は外国人を受け入れる義務を負わず,特別の条約が
ない限り,外国人を自国内に受け入れるかどうか,また,これを受け入れ
る場合にいかなる条件を付するかは,国家がその立法政策に基づき自由に
決定することができる。我が国の憲法においても,外国人に対し,本邦に
入国する自由又は在留する権利(引き続き在留することを要求し得る権利
を含む)を保障したり,その入国又は在留を許容することを義務付けた。
りしている規定は存在しない。入管法50条1項3号も「その他法務大,
臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」と規定するだけで
あって,文言上その要件を具体的に限定するものはなく,法務大臣が考慮
すべき事項を掲げるなどしてその判断を羈束することもしていない。そし
て,こうした判断の対象となる外国人は,退去強制対象者であって,既に
本来的には我が国から退去を強制されるべき地位にある。さらに,外国人
の出入国管理は,国内の治安と善良な風俗の維持,保健・衛生の確保,労
働市場の安定等の国益の保持を目的として行われるものであって,その性
質上,広く情報を収集し,その分析を踏まえて,時宜に応じた的確な判断
を行うことが必要であり,高度な政治的判断を要求される場合もあり得る
ところである。
上に述べたところによれば,入管法50条1項3号に基づき在留特別許
可をするか否かの判断は,法務大臣等の極めて広範な裁量にゆだねられて
いるのであって,法務大臣等は,我が国の国益を保持し出入国管理の公正
を図る観点から,その外国人の在留状況,特別に在留を求める理由の当否
のみならず,国内の政治・経済・社会の諸事情,国際情勢,外交関係,国
際礼譲等の諸般の事情を総合的に勘案してその許否を判断する裁量を与え
られているというべきである。そうすると,同号に基づき在留特別許可を
するか否かに係る法務大臣等の判断が違法となるのは,その判断が全く事
実の基礎を欠き,又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである
など,法務大臣等に与えられた裁量権を逸脱し又はそれを濫用した場合に
限られることとなる。
なお,原告らは,いわゆる比例原則等の判断基準を色々と述べるもので
あるが,法務大臣等の裁量は上記のように極めて広範であって,原告らの
主張する判断基準がそのまま妥当するものではなく,違法となるのは上記
の限度にとどまるものというべきである。
以下,この観点から本件について検討する。
()原告らの生活状況等の各事情2
前記前提事実のほか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実
を認めることができる。
ア原告父の身上
(ア)原告父は,▲年▲月▲日中国黒竜江省で日本人dと中国人fの間の
子として産まれ,姉が2人,兄が2人,弟が1人,異母兄が1人の合計
7人きょうだいである(甲51,原告父本人。)
(イ)原告父は,中国黒竜江省で育ち,高校卒業後に国営の会社に就職し
て稼働していた。dは,▲年▲月▲日にfが死亡すると,本邦への帰国
準備を進め,同年5月13日,原告父及び原告父の兄と弟とともに本邦
に帰国した(甲51,原告父本人。)
,,,,なお原告父のきょうだいは異母兄を除きその後に日本に入国し
現在異母兄のみが中国黒竜江省で生活し,その他のきょうだいは,本邦
で生活しており,姉のうち1人を除いたきょうだいは日本国籍を取得し
ている(甲6,乙29,原告父本人。)
(ウ)原告父は,本邦入国後,dの実家がある山形に住んだが,その後,
兄弟らとともに東京の印刷会社に就職し,東京での生活を開始した(甲
51。)
原告父は,日本人であるgと知り合い,昭和57年▲月▲日,同女と
の婚姻届をし,同女との間で,昭和▲年▲月▲日に長女hが,昭和▲年
▲月▲日に長男iが産まれたが,gとは平成4年▲月▲日に協議離婚し
た(甲4,5,乙6の1,29,61。)
(エ)原告父は,平成5年▲月▲日,中国人であるjとの間の婚姻届をし
たが,平成9年▲月▲日に同女と離婚した(乙6の2・3,29。)
,,()。(オ)原告父と原告母は平成10年▲月▲日婚姻届をした乙7の3
イ原告母の身上及び原告らの生活
(ア)原告母は,▲年▲月▲日中国山東省において出生し,1996年に
,(,)。,日本人のeと知り合い結婚した甲52原告母本人原告母には
,,,()。両親姉妹がいるがいずれも中国において生活をしている乙34
(イ)原告母は,平成8年11月27日に本邦に入国後,山形県南陽市に
ある夫のeの家においてe及び同人の母と生活をしたが,平成9年5月
にはeの家を出て,東京において中国料理店においてアルバイトをして
生活をするようになり,同年▲月にはeと離婚した(甲52,乙34,
原告母本人。)
(ウ)原告母は,平成9年8月終わりころ,友人の紹介で原告父と知り合
い,同年10月ころから同居を始め,平成10年▲月▲日には,婚姻届
をした(甲51,52,乙7の3,34,43,原告母本人。)
(エ)原告母は,平成11年▲月▲日に原告子を出産し,平成12年4月
ころから,原告子を新宿区の保育園に通わせていたが,原告子を同年7
月30日から同年10月8日までの間,再入国手続を経た上で中国に出
国させたり,同年12月9日から平成13年6月4日までの間中国に出
国させたりしていたこともあり上記保育園は退園することとなった乙,(
8の2,28,34,原告母本人。)
(オ)原告父は,平成10年4月から約半年間,新宿区αでクラブを経営
し,同店においては原告母も稼働していたほか,平成12年3月ころか
ら,再び新宿区αにおいてクラブを経営し,当時平均して毎月約60万
円の収入を得ていたが,原告父が逮捕されたことにより廃業せざるを得
なかった(乙16,36。)
(カ)原告母は,原告父が平成12年9月に逮捕後,知人の紹介によりパ
ート等を行って生活をしていた(甲52。原告父は,現在,兄弟の援)
助やアルバイトによって生活をしている(甲51。)
ウ原告父の犯罪歴等
(ア)原告父は,昭和58年5月22日に○容疑により起訴猶予処分とな
った(乙10。)
(イ)原告父は,昭和61年7月24日,同月▲日に東京都豊島区所在の
駐車場前路上において(略)したとの容疑で起訴され,同年9月19,
日,東京地方裁判所において,○の罪名により○に処する旨の判決の宣
告を受け,同判決は自然確定した(乙9,11の1。)
(ウ)原告父は,新宿簡易裁判所において,平成4年4月10日,○,○
の罪名により○に処せられた(略式(乙9。))
(エ)原告父は,金銭を貸した者が返済に応じないことから,共犯者らと
共謀の上,平成▲年▲月▲日に(略)したとして,同年8月8日,東京
地方裁判所において,○の罪名により○に処する旨の判決を宣告され,
同判決は自然確定した(乙11の2。)
(オ)原告父は,平成▲年▲月▲日から▲日ころにかけて,被害者3名か
ら(略)したほか(略)をしたこと等により,平成7年9月27日,,
仙台地方裁判所において,○,○の罪名により○に処する旨の判決を宣
告された。原告父は,上記判決を不服として控訴をしたが,控訴棄却と
なり,平成8年4月3日に判決が確定し(略)執行が終了した(以,。
上につき,乙9,11の3,29。)
(カ)原告父は(略)しようと企て,同知人と共謀の上,平成▲年▲月,
▲日,被害者らに対して(略)したとして,平成14年7月1日,東京
高等裁判所において,○の罪名により○に処する旨の判決を宣告され,
自然確定を経て同年▲月▲日に刑の執行が終了した(乙9,11の4・
5。)
エ原告子の被害の概要
(ア)原告子(当時5歳)は,平成16年6月▲日,○加害者によって,
(略)から約11.6メートル下の植え込みに転落させられ,頭部打撲
・血腫全身打撲・擦過傷右橈骨骨折両下腿湿疹の傷害を負った甲,,,(
45。)
(イ)原告子は,平成16年8月,東京都児童相談センター治療指導課医
師によりPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断され,また,抗う
つ状態にあると診断された(甲9。)
()各事情の検討3
ア原告父の本邦における在留状況
原告父は,前記前提事実()及び前記()ウのとおり,昭和55年5月122
3日に本邦入国後,昭和58年5月22日に○で起訴猶予となり,また昭
和61年9月19日に○,平成4年4月10日に○,○,平成6年8月8
日に○,平成8年4月3日に○,○,平成14年7月1日に○の各罪名に
より罰せられている。その犯罪態様は悪質であり,かつ,更生の機会を与
えられながらも,繰り返し犯罪行為に及んでおりその在留状況は極めて悪
質である。
,,,ことに前記前提事実()エ及びオ並びに前記()ウによると原告父は22
平成6年8月8日に○の罪名により○に処する刑の宣告を受け,さらに,
平成▲年▲月▲日には○,○を敢行し,そのために平成8年4月3日に○
に処する旨の判決が確定し,同年8月19日に原告父の在留期間更新許可
申請が不許可となり,入管法24条4号ロ(不法残留)及び同号リ(刑罰
法令違反者)に該当するとして退去強制手続がとられていたが,最終的に
は在留特別許可が付与され,本邦における在留の継続が認められたもので
あった。
このように,当局は,原告父を退去強制手続により本国へ送還する姿勢
,,,()を示した上で在留特別許可を付与したものであったが原告父は略
(乙9,前記()ウ(カ)のとおり,3年後の平成▲年▲月▲日には,○)2
に及んだものであって,これらの事実関係からすれば,原告父の犯罪性向
は顕著であり,遵法精神が著しく欠如しているといわざるを得ない。
イ原告父の中国残留邦人の子としての地位,特別永住者との比較
(ア)原告らは,原告父が中国残留邦人の子であるところ,日本国との平
和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法
(以下「特例法」という。)所定の特別永住者と同様に退去強制事由が制限
されるべきこと,日本政府は中国残留邦人及びその家族の本邦における
永住を認め,その家族問題を解決する国際的な義務を負っており,外国
人一般と退去強制手続において同じ取扱いをするべきではなく,在留特
別許可を与えるべきであったと主張する。
しかしながら,原告父が,中国残留邦人であるdの子であり,同人と
ともに本邦に帰国し,以降24年間にわたり本邦に居住して生活をして
いるという点については,原告父の在留特別許可を付与するか否かの判
断に当たり,積極的に付与すべきとする有力な事情の一つとなるとはい
えるものの,更に中国残留邦人の子孫である外国人という地位を根拠と
して,当然に入管法24条の解釈に当たり,特例法所定の特別永住者と
同様の取扱いをしなければならないというものではないし,同事情のみ
を根拠として,在留特別許可を付与しなければ,前記()で述べた法務1
大臣等の裁量権の逸脱又は濫用になるというものでもない。
(イ)また,原告らは,昭和59年法律第45号による改正前の国籍法の
経過措置として規定された国籍法附則5条1項により,上記改正時に一
(()定の年齢昭和40年1月1日から同法の施行日昭和60年1月1日
の前日までに生まれた者)にある中国残留邦人の子に限り届出のみで日
本国籍取得可能であり,その他の中国残留邦人の子は,同附則により国
籍を取得できないことをとらえて不合理な差別であって憲法14条1項
,,に違反することから原告父を日本人と同様に取り扱うべきであるとか
原告父には日本国国籍取得者に準じる者として退去強制を著しく制限す
ることが憲法14条の要請であるとして,在留特別許可を与えるべきで
あったとも主張する。
,「」「」しかしながら原告らの主張する年齢による差別が社会的身分
によるものに該当するかという問題はさておくとしても,憲法14条1
項は,合理的理由のない差別を禁止するものであるところ(最高裁昭和
39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁参照,上記附)
則は,改正後の国籍法の施行日において20歳に達している者が,20
年以上にわたり外国人として成育してきたことに着目すれば,生活の本
拠の存在,日本国籍の取得の結果重国籍となるか否かによって,我が国
との統合性の強弱に差異があることから,日本国籍を一律に届出によっ
て取得させることが適当ではないとの趣旨で,年齢による区別をしたも
のであり,憲法14条1項が禁止する合理的理由のない差別であるとは
いえない。詰まるところ,これらの事情の意味するところは,上記(ア)
と同様である。
ウ原告らの本邦に在留する家族との関係
(ア)原告らは,原告らを退去強制させることが,原告ら家族並びに本邦
で居住する原告父の実子及び原告父のきょうだいによって構成される家
族関係の離散を招くような結果になるとして,市民的及び政治的権利に
関する国際規約(以下「国際人権B規約」という。)17条,児童の権利に
関する条約3,9,10,11条に違反するものであると主張する。
しかしながら,前記()のとおり,外国人を自国内に受け入れるか否1
か,また受け入れる場合にいかなる条件を付すかは,国際慣習法上,当
該国家が自由にこれを決することができるのが原則であるところ,国際
人権B規約13条が外国人に対して法律に基づく退去強制手続をとるこ
とを容認していると解されることからすれば,国際人権B規約において
も,上記国際慣習法上の原則が前提とされているものであり,国際人権
B規約に基づく権利は,入管法に基づく外国人在留制度の枠内において
のみ保障されるにとどまるものといえる。また,児童の権利に関する条
約は,個々の具体的権利を規定しているものとはいえず,また,同条約
9条4が退去強制措置を前提として規定しているように,上記国際慣習
,,法上の原則が前提とされているものであり児童の権利に関する条約も
入管法に基づく外国人在留制度の枠内においてのみ保障されるにとどま
るものであるといえる。したがって,原告らが主張する家族関係に係る
主張は,在留特別許可を付与するか否かの判断要素の一つとして斟酌す
れば足りるといえる。
(イ)原告父は,昭和55年5月13日,その兄及び弟,そしてdととも
に本邦に入国し,その後,兄弟とともに就職して東京で共同生活をした
時期があり,その後,原告父のきょうだいらは,異母兄を除き,本邦に
入国して本邦における永住を予定しており,さらに,そのうちの姉一人
を除く全員が既に日本国籍を取得している(前記()ア(イ)。しかし2)
ながら,証拠(甲6,51)によると,dは,昭和▲年▲月に死亡して
おり,日本に在住する原告父のきょうだいも,原告父とは独立した家族
生活を送っていて,原告父との間の付き合いは,年に数回程度の墓参り
の際に会うというものであったと認められる。また,証拠(甲4,5,
原告父本人)によると,原告父とgとの間の二人の子は,いずれも本邦
で永住を予定し,日本国籍を取得したと認められるものの,同証拠によ
っても,原告父と二人の子との間の関係は,時折会ったり,連絡を取り
。,あうという程度であったと認められるにすぎないこのことからすれば
原告父が本邦から強制送還された場合に,きょうだい又は前妻との間の
実子と本邦において会うことが困難になるという事情については,原告
父に在留特別許可を付与するに当たって,特段考慮すべき事情とはいえ
ない。
エ原告子の治療の必要性
,,原告らは本件各裁決後に原告子が高所から転落させられる被害に遭い
本邦において治療を継続する必要性があり,そもそも,日本国政府の入管
行政の厳しさが原告子の養育環境の悪化を招いたことから,上記事件を招
いたといえ,被告らにおいて,原告子に対し,その埋め合わせをするよう
な配慮をなすべきであって,また,被告らが被害に遭った子供の心理的,
経済的,社会的保障の義務を果たすべきであるとし,原告子に対して在留
特別許可を付与しなかった判断には,被告東京入国管理局長の裁量権の逸
脱又は濫用があると主張する。
しかしながら,原告子が上記被害に遭ったのは,本件各裁決及び本件各
退令発付処分がなされてから相当期間経過した後であり,また,○に原告
子が高所から転落させられたという態様からすれば,本件各裁決及び本件
各退令発付処分時における在留特別許可の付与の判断において,考慮対象
に含まれるべきものであるといえないことは明らかであり,同事実が本件
各裁決及び本件各退令発付処分の違法を構成することはない。
なお,同事実については,後記のB事件及びC事件において更に検討す
ることとする。
オまとめ
以上を要約するならば次のとおりとなる。
まず,原告父の本邦における在留状況は極めて悪質であるといわざるを
得ず,繰り返し犯罪行為を行い,更生の機会が与えられていたにもかかわ
らず,なお犯罪行為に及ぶなど,犯罪性向や規範意識の著しい欠如がみら
れる。
他方,原告父及び原告母は,中国において出生し,教育を受けて成育し
た者であり(前記前提事実(),前記()ア及びイ,中国には,原告父の12)
異母兄が生活をしているほか,原告母の両親,姉,妹が生活をしているこ
と(同,原告父及び原告母はいずれも中国においても稼働する能力があ)
るといえること(同)からすれば,原告父及び原告母が本国に帰国した場
合にその生活に特段の支障が生じるとはいえない。
,,(),さらに原告子は本邦で出生した者であるところ前記前提事実()1
中国に帰国した場合には,中国と本邦との間の言語,文化,慣習等の違い
により,帰国当初は環境に順応するため,精神的,肉体的な負担を強いる
ことになることは予想できるものの,原告子は,本件各裁決当時5歳にな
る直前であって,いまだ可塑性に富む年齢であり,中国に帰国して時間の
経過とともに十分順応し得る可能性があることを併せ考慮すれば,本国で
の生活によって特段の支障が生じるとはいえない。
とすれば,原告父が中国残留邦人の子であること,本邦において長期間
在留することによって生活の基礎を築いてきたこと,原告父のきょうだい
や日本人の実子が本邦で居住していることを考慮しても,原告らに在留特
別許可を付与しないとの被告東京入国管理局長の判断において,全くの事
実の基礎を欠いているとか,社会通念上著しく妥当性を欠いていることが
明らかであるなど,その与えられた裁量権の範囲を逸脱又は濫用したもの
であるとは認められないから,本件各裁決は適法である。
2争点()ア(ア)(本件各確認の訴えの適法性(B事件関係)2)
()被告らは,本件各確認の訴えにつき,職権で取り消されるべき退去強制1
令書発付処分によって,退去強制手続がされようとしている場合には,当該
退去強制令書の執行の差止めの訴えの提起が可能であり,あえて,本件確認
の訴えを提起することが,当事者間の紛争解決にとって必ずしも適切なもの
とはいえないとし,確認の利益を欠き不適法であると主張する。
()原告らは,A事件に係る請求が認容されないことに備えて,本件各裁決2
後の事情である被害によって生じた原告子の治療の必要性を原告らの在留を
基礎付ける事情として主張する手立てとして,本件各確認の訴えを提起した
ものである。そして,上記事情をA事件において争うことができないのは,
前述のとおりである。
とはいえ,被告らが指摘するように,一定の不利益処分がなされることが
当然に予想できる場合,当該処分の違法を主張してその効力を予防的に争う
場合には,差止めの訴えによる方が,より直截的であるといえよう。
しかしながら,退去強制令書の執行を差し止めようとするならば,主任審
査官には当該退去強制令書の前提となる裁決に従って当該退去強制令書を執
行すべき義務があることから,当該裁決の効力を有しないものとするか又は
排除しなければならないところ,当該裁決の取消し又は無効確認以外の方法
(例えば,職権による取消し又は撤回の義務付け)に疑義がないではないと
いうべきであるから,上記1のとおり,本件各裁決の取消し又は無効確認が
認められない以上,いわゆる補充性を理由として,公法上の法律関係の確認
の訴えとみられる本件各確認の訴えの利益がないと解することは相当とはい
えない。ただし,その地位の確認(本案の判断)に当たっては,本来より直
截的であるはずの差止めの訴えの要件(行政事件訴訟法37条の4)をも勘
案しながら,十分慎重な吟味を要するというべきである。
3争点()ア(イ)(原告らが本件各退去強制令書の執行を受けない地位にある2
か否か(B事件関係)。)
()原告らは,原告子が被害者であり,本邦において経過観察や心理的ケア1
を継続する必要があるところ,犯罪被害者等基本法4条に基づき,国は原告
子を日本国内において安定した経過観察や心理的ケアを受けさせる責務を負
担しており,法務大臣は,本件各退令発付処分を撤回等すべきであるから,
,,,原告子は退去強制令書の執行を受けない地位にあり原告父及び原告母も
原告子との家族の一体性を確保するために,退去強制令書の執行を受けない
地位にあると主張する。
,,,,()アしかしながらまず犯罪被害者等基本法4条の規定は条文の文言2
,,規定の位置からすれば同法の抽象的な原理・理念を定めたものにすぎず
個々の犯罪被害者等が同条を根拠に国に対して施策を求める具体的な権利
を定めたものではないと解するのが相当であり,同条から直ちに国に具体
的義務が発生するとはいえない。
イそこで,次に,本邦において原告子に対して治療を継続する具体的必要
性があるか否かについて検討するに,これに関係する事実として,原告子
の症状,治療内容,本邦と中国における当該症状に対する治療環境等に関
して,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
(ア)東京都児童相談センター治療指導課医師は,平成16年8月ころ,
原告子を深刻なPTSDと診断したがその診断においては乳幼児0,,(
歳から3歳まで)のPTSD基準として提唱されている基準によったも
のであり,PTSDの程度についての判断理由としては診断基準のすべ
ての項目に該当することのみを挙げている。平成16年8月当時の本邦
における子供のPTSD治療の研究は,アメリカ合衆国における症例報
。(,告等を受けながら手探りで始めているという状態にある以上につき
甲9)
(イ)原告子の平成17年6月当時のPTSD及び抗うつ状態としての症
状は,トイレが怖い,エレベーターが怖い,骨折のことを思い出すと怖
い,時折,寝ているときに突然泣き出す,布団を頭からかぶせるとパニ
ックになる,暗いところに入るとパニックになるというものであり,保
育園の園長が,他の園児に「悪い人と一緒に行っちゃいけないよ」と。
話したところ,高所から落とされた経験を涙ながらに話し出したり,保
育園での散歩中,他の園児に「高いところから落とされた」と話すとい
う症状もみられた(甲42。)
(ウ)医師及び児童福祉司による当時の原告子の症状(上記(イ))に対す
る治療は,家庭での怖い体験が起きないよう,保育園などを利用した規
則正しい生活を維持し,不安感を与えないようにすることや,2週間に
1度臨床心理士による心理療法としてプレイセラピーを行い,1か月に
1度30分程度,EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)による
心理療法を行うというものであったが,それらの効果としては,ここに
来てようやく上向きになってきているという状態である(甲42。)
(エ)中国においては,平成17年3月当時,チベットを除く各省の市及
び一部の県に精神科施設が置かれ,また,中国精神医学学会に,児童・
思春期精神医学の特別委員会があるほか(乙91,北京においては,)
心理療法を実施する複数の医療機関があり(乙92の1∼4,児童の)
心理療法を専門に取り扱う医療機関もある(乙92の4。)
ウ上記イの認定事実を基に判断する。
原告子は,東京都児童相談センターの医師から深刻なPTSDであると
診断され,平成17年6月ころにも同症状が残存しているとして,治療は
2週間に1度のプレイセラピーによる心理療法や医師によって1か月に1
度,30分程度の心理療法が行われているが,これらの治療によって原告
子の症状にどのような治療効果が発現しているのかは必ずしも明らかでは
ない。また,本邦における上記各治療を中断することによって,原告子の
症状が具体的にどのように変化するかなど,原告子が上記各治療の中断に
よって,いかなる損害を被るのかについても不確定といわざるを得ない。
さらに,本邦における子供のPTSDに関する研究は,他国の研究発表を
参考にして,治療方法を模索している段階であり,国際的にみても必ずし
も先進的であるとはいえないのであって,日本における子供に対するPT
SDの医療水準が中国における医療水準と比較して,特に優れているとい
うことはできない。この点,児童相談センターの医師及び児童福祉司は,
原告子が中国に移住した場合に予想される問題について,生活環境の変化
や中国において子供のPTSD治療が十分に行われているという情報がな
いことから,治療を継続できなくなる危険があること,このまま成長した
場合には原告子が神経質になったり,獲得できる能力を獲得できなくなる
危険性があること,同じような体験をすると他の者に比べて深刻な影響が
残ることを挙げている(甲42。しかし,同意見は,生活環境の変化等)
によるPTSDの患者に対する一般的な影響可能性について述べているも
のにすぎず,また,中国における子供のPTSD治療に係る確定的な知見
に基づいて述べられているとは認められないことからすれば,具体的な論
拠に基づくものとはいえない。他に原告子の症状に対する治療を行う上で
本邦でなければできない治療法があるなどといった事情に関する主張・立
証がなく,上記イ(エ)の事実にも照らせば,原告子が中国に帰国した場合
に本邦において受けていた治療と同程度の治療を受けられる可能性がない
とはいえず,また,その帰国による影響もやはり不確定であるといわざる
を得ない。
とすれば,原告子が中国に帰国した場合に,原告らが主張するような安
,,定した生活において経過観察や心理的ケアを継続することが少なくとも
本邦における場合と比較して著しく困難になり,原告子の成長過程に甚大
な影響を及ぼすおそれがあるとまではいえない。
そうであるとすれば,本件各裁決及び各退令発付処分が適法であるにも
かかわらず,その執行を受けない地位を確認しなければならないほど,原
告子の治療の必要性が意味をもつものではないといわざるを得ない。
4争点()イ(ア)(本件各義務付けの訴えの適法性(B事件関係)2)
()原告らの本件各義務付けの訴えは,そもそも在留特別許可を付与される1
ことが当然の前提となっており,そのためには,本件各裁決の取消し若しく
は無効又はその効力を排除することが必要となるところ,これらがいずれも
認められないことは,既に検討したとおりであるから,原告らの本件各義務
付けの訴えは,この点において不適法な訴えともいい得るが,この点をひと
まずおいて,原告らの「重大な損害を生ずるおそれ(行政事件訴訟法37」
条の2第1項)に関する主張について検討する。
その主張内容は,前記3()と基本的には同内容であって,原告らは,原1
告子が被害に遭い,重傷を負ったことが原因でPTSDとなり,現在児童相
談センターの医師,児童福祉司による経過観察や心理的ケアがなされている
ところ,今後も本邦において経過観察及び心理的ケアを続ける必要があり,
仮に原告子に対する退去強制令書が執行され,原告子が中国に送還された場
合には,安定した生活において経過観察や心理的ケアを継続することが著し
く困難になり,原告子の成長過程に及ぼす影響が甚大であるとして,原告子
に対する退去強制令書の執行により原告子に「重大な損害を生ずるおそれが
ある」というものである。
()しかしながら,前記3()での検討を踏まえれば,原告子に対する退去強22
制令書が執行されることにより,原告子に「重大な損害を生ずるおそれがあ
る」とは認められず,原告らの本件各義務付けの訴えは,その余の点を判断
するまでもなく,要件を欠いた不適法な訴えであるといえる。
5争点()ア(本件各差止めの訴えの適法性(C事件関係)3)
前記2()で指摘したように,本件各裁決の効力を有しないものとする又は2
排除する方法に疑義があり,かつ,本件においては,原告らにおいて,そもそ
もその手当てを講じていないことから,これだけで本件各差止めの訴えが不適
法であるともいえるが上記4と同様にこの点をひとまずおいて原告らの重,,「
大な損害を生ずるおそれ(行政事件訴訟法37条の4第1項)に関する主張」
について検討しても,これもまた上記4と同様であって,原告子に対
する退去強制令書が執行されることにより,原告子に「重大な損害を生ずるお
それがある」とは認められず,原告らの本件各差止めの訴えは,その余の点を
判断するまでもなく,要件を欠いた不適法な訴えであるといえる。
第4結論
よって,原告らの本件各義務付けの訴え及び本件各差止めの訴えは,不適法
な訴えであるから,これらをいずれも却下することとし,その余の訴えに係る
請求はいずれも理由がないから,これらをいずれも棄却することとし,訴訟費
用について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項本文を適用し
て,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官大門匡
裁判官吉田徹
裁判官小島清二

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