弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中、原判決添付図面表示の104 105 ハ 42 104の
各点を順次直線で結んだ範囲内の土地が被上告人の所有であることを確認した部分
を破棄し、右破棄部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
     上告人のその余の部分に関する上告を棄却する。
     前項に関する上告費用は、上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人萬谷亀吉、同山下義則、同伊藤芳生の上告理由第四点について。
 所論の点に関する原審の判断は、その確定した事実関係に照らし、正当として是
認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の認定にそわない事
実関係に基づき原判決を非難するものであつて、採用することができない。
 同第一点ないし第三点について。
 原審が確定したところによれば、上告人所有の東京都文京区ab丁目)c番d境
内地一七八八平方メートルと被上告人所有の同所b丁目c番e宅地五七・九八平方
メートルとの境界は原判示のとおりであつて、主文第一項記載の土地(以下「本件
係争部分」という。)は、右上告人所有地の地域内にあり、上告人の所有に属する
ものであつたが、被上告人は、昭和二〇年九月頃訴外Dから当時同人所有であつた
本件c番eの土地ほか一筆の土地を賃借し、本件係争部分を右賃借地の一部として
占有してきたところ、右c番eの土地ほか一筆の土地はDから国に物納され、被上
告人は昭和二六年五月七日国から右二筆の土地の払下を受けその所有権を取得した
ので、爾後本件係争部分を右払下を受けた土地の一部であると信じて、所有の意思
をもつて善意で平穏かつ公然に占有してきたというのである。原審は、右事実関係
のもとにおいて、右占有のはじめに被上告人に過失はなかつたとして、被上告人は
右昭和二六年五月七日から一〇年の経過とともに本件係争部分の所有権を時効によ
り取得したものであると判断した。しかしながら、被上告人が前示のような経緯で
国から本件c番eの土地ほか一筆の土地の払下を受けその所有権を取得するととも
に本件係争部分を右払下を受けた土地の一部であると信じたとしても、右払下を受
けるにあたつてその払下土地の境界を隣接地所有者や公図等について確認する等の
調査をしないでそう信じたとすれば過失がなかつたとはいえないから、原審が被上
告人においてそのような調査した等具体的事実を確定することなく被上告人の右占
有の開始につき過失はなかつたとし、被上告人が本件係争部分の所有権を時効によ
り取得したと判断したことは、審理不尽、理由不備の違法があるものというべきで
ある。したがつて、その余の点について判断するまでもなく、論旨は理由がある。
 それゆえ、原判決中、本件係争部分が被上告人の所有であることを確認した部分
は破棄を免れず、右破棄部分につきさらに審理を尽させるため本件を原審に差し戻
すこととし、その余の部分に関する上告は理由がないから、これを棄却することと
する。
 よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁
判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    坂   本   吉   勝
            裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    高   辻   正   己

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