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         主    文
     原判決中、上告人A1株式会社、上告人A2および上告人A3に対する
各請求に関する部分、上告人A4株式会社に対する損害金請求に関する部分をいず
れも破棄し、右破棄部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
     上告人A5の上告および上告人A4株式会社に対する建物明渡請求に関
する部分についての同上告人の上告をいずれも棄却する。
     前項に関する上告費用は、上告人A5および上告人A4株式会社の負担
とする。
         理    由
 上告人らの上告理由について。
 まず、上告人A1株式会社(以下上告人A1という。)および上告人A2に対す
る各請求についてみるに、原判決は、被上告人が、昭和三五年一二月六日上告人A
1(当時の商号D株式会社)に対し、金三、五〇〇万円を弁済期は昭和三六年一月
五日利息は一ケ月四分の割合(ただし、表面上は利息日歩四銭一厘、遅延損害金日
歩八銭二厘)の約定で貸し付け、一ケ月分の利息として金一四〇万円を天引して現
金三、三六〇万円を交付し、上告人A2は被上告人に対し上告人A1の右返還債務
を保証したこと、被上告人は、右の貸付にあたり上告人A1所有の本件建物および
上告人A2所有の本件土地につき、右上告人らとの間で上告人A1が右弁済期に債
務を弁済しないときは、被上告人の予約完結の意思表示により同土地、建物は右の
弁済にかえて被上告人に移転する旨の代物弁済の予約をそれぞれ締結し、右代物弁
済予約を原因として昭和三五年一二月七日それぞれ所有権移転請求権保全の仮登記
がなされたこと、被上告人は、右の弁済のないことを理由に右上告人両名に対し昭
和三六年六月八日本件土地、建物につき代物弁済予約の完結の意思表示をしたこと、
以上の事実を確定し、これによれば、被上告人は代物弁済予約の完結により本件土
地、建物の所有権を取得したものというべきであり、被上告人に対し、上告人A1
は本件建物につき、上告人A2は本件土地につきそれぞれ前記所有権移転請求権保
全の仮登記に基づき昭和三六年六月八日代物弁済を原因とする所有権移転登記手続
をする義務があるとして、右上告人両名に対し右の本登記手続を求める被上告人の
請求を認容しているのである。
 思うに、所有権に関する仮登記の原因たる契約が消費貸借上の債権を担保するた
めに締結された場合においては、その契約が停止条件付代物弁済契約または代物弁
済予約の形式をとつていても、本来の代物弁済を成立させるためのものではなく、
その実質は、単にその形式をかりて目的不動産から債権の優先弁済を受けることを
目的とするもので、担保権と同視すべきものであり、したがつて、右目的達成のた
め、債権者は、債務者が弁済期に債務の弁済をしないときは、目的不動産を換価処
分し、またはこれを適正に評価することによつて具体化する右物件の価額から、優
先弁済を受けるべき自己の債権額を差し引き、その残額に相当する金銭を清算金と
して債務者に支払うことを要する趣旨の債権担保契約と解するのが相当である(最
高裁判所昭和四二年(オ)第五五七号同四五年三月二六日第一小法廷判決、民集二
四巻三号、昭和四二年(オ)第一二〇〇号同四五年七月一六日第一小法廷判決参照)。
そして、かかる契約においては、停止条件成就または予約完結後であつても、債務
者は、その換価処分前または評価清算前には債務を弁済して目的不動産を取り戻し
うるのである。一方、債権者が換価処分または評価清算をして自己の債権に対する
優先弁済の目的を達するためには、目的物件につき所有権移転の本登記を得、その
占有を取得することが是認されなければならないが、このような債権者の本登記手
続ないし引渡の請求に対し、債務者が、前記清算金の支払と引換えにのみその履行
をなすべき旨を主張したときには、債権者が第三者への換価処分による売却代金を
取得したのちにのみ清算金を支払えば足りると認められる客観的な合理的理由があ
る場合をのぞき、債権者は、その引換えの要求に応じなければならないものと解す
るのが相当である。けだし、債務者が、みずから目的不動産の取戻権を失うことを
承知しながら、その時期における価額を基礎とした清算を求めている以上、右のよ
うな合理的理由のないかぎり、債権者の本登記手続等請求訴訟において、担保目的
の実現とそれに伴う清算を一挙にはかるのが公平の観念に照らし妥当であるからで
ある。
 かかる場合において、債務者が支払を受けるべき清算金の額は、本登記手続等請
求訴訟の事実審口頭弁論終結時における目的不動産の時価から債権者の有する債権
額を差し引いた残額を限度とし、後記のようないわゆる後順位債権者があるときは、
これに支払われるべき清算金を差し引いた残額と解すべきである。
 しかして、債権者が、同一の債権の担保として数個の不動産上に右のような担保
権を有し、同一訴訟手続によつてその本登記手続を請求しているときは、特段の事
情のないかぎり、各不動産の価額に準じて債権者の有する債権額を按分したうえで、
以上の配分をなすべきである。
 いま本件についてこれをみるに、本件代物弁済予約は、被上告人の上告人A1に
対する債権担保のためになされたものであることは、原審の確定するところである。
そして、本件記録に徴すれば、上告人A1および上告人A2は、被上告人の有する
権利の実体は担保権にすぎないものとして被上告人の請求を争う趣旨と解されるの
であるから、適切な釈明いかんによつては、被上告人らにおいて前記のような主張、
立証をなす余地があるにもかかわらず、原審は、この点の配慮をなすことなく、右
請求を認容しているのであつて、右に説示したところに徴し、右原審の判断には、
審理不尽の違法があるといわなければならない。
 つぎに、上告人A4株式会社(以下A4という。)および上告人A5に対する本
件建物明渡請求についてみるに、原判決は、上告人A4が本件建物を、上告人A5
が同建物中被上告人主張の売店部分をそれぞれ占有していることは当事者間に争い
がないが、被上告人が本件仮登記を得る前にすでに右上告人らが本件建物の引渡を
受けて占有していたことについてはこれを認めるに足りる証拠はなく、してみれば、
かりに右上告人らが本件建物につき賃借権を有していたとしても、被上告人が本件
建物の所有権を取得し本登記を経由した場合にはこれに対抗しえないとして、右上
告人らに対しそれぞれの占有部分の明渡を求める被上告人の請求を被上告人が所有
権取得の本登記を経由することを条件に認容しているのである。
 案ずるに、停止条件付代物弁済契約または代物弁済予約の形式をかりた債権担保
契約のある場合において、その目的不動産を第三者が賃借して引渡を受け占有して
いたとしても、その賃借権の設定およびその対抗要件の具備が、右契約に基づく所
有権移転請求権保全の仮登記のされた後であるときは、賃借人は、担保目的実現の
手段として右物件につき所有権取得の本登記を経由した債権者に対し、賃借権をも
つて対抗することができない(前掲昭和四二年(オ)第一二〇〇号同四五年七月一
六日第一小法廷判決参照)。そして、債権者がいまだ本登記を経由していなかつた
としても、右のような関係にあるときは、債権者は、あらかじめその必要があるか
ぎり、賃借人に対し本登記を経由することを条件に、その占有の排除を求めること
ができるものと解すべきである。もつとも、右の者が単なる不法占有者であるとき
は、条件成就または予約完結後であるかぎり、債権者は、その本登記を経由する前
であつても、右担保権に基づきその占有を排除することができるのである。
 しかるに、原判決は、右上告人らが賃借権を有するものであるか否かについては
確定していない。そうすると、右上告人らが賃借権を有しないとすれば、右説示に
徴し、被上告人の右上告人らに対する請求は、右のような条件を付することなく認
容されるべき筋合であつたといいうるが、条件を付した点については、右上告人ら
にとつて利益な判断であるから、この点の不当を争つて原判決を非難することは、
上告適法の理由とすることはできず、結局右上告人らのこの点に対する論旨は採用
することができない。
 さらに、上告人A4に対する損害金請求についてみるに、原判決は、上告人A4
は被上告人に対抗しうるなんらの権原なく本件建物のほとんど全部を占有している
から、同上告人は被上告人が現実に本件建物の所有権を取得した日の翌日である昭
和三六年六月九日から明渡ずみまで本件建物の賃料相当の損害金を被上告人に支払
う義務があるとし、一ケ月金四〇万円の割合による賃料相当額の損害金を求める限
度で被上告人の請求を認容しているのである。
 しかし、建物明渡請求についての判示部分で説示したように、原判決は、一方で
は、上告人A4が賃借権を有するか否かにつき事実を確定することなく、被上告人
は本登記を経ないかぎり自己の所有権取得を対抗しえないとの理由で、被上告人に
おいて本登記を経由することを条件として、右上告人に対する本件建物明渡の請求
を認容しながら、他方、損害金の請求については、右上告人は被上告人に対抗しう
るなんらの権原を有しないとするほか格別の理由を付することなく、被上告人にお
いて予約完結をした日の翌日からの損害金の請求をそのまま認容しているのである。
したがつて、原審のこの点についての判断には理由そごないしは審理不尽の違法が
あるものといわなければならず、論旨は理由がある。
 すすんで、上告人A3に対する請求についてみるに、原判決は、上告人A3は本
件建物につき昭和三六年五月二二日所有権移転請求権保全の仮登記、根抵当権設定
登記、賃借権設定の仮登記を了していることを確定し、これによれば同上告人の右
各登記は、被上告人が本件建物につき有する前記仮登記よりおくれたものであるこ
とは明らかであるから、仮登記権利者である被上告人が所有権を取得し本登記を有
するに必要な要件を具備するに至つたときは、右上告人は、その登記にかかる権利
をもつて被上告人に対抗することができない地位にあり、被上告人が右本登記手続
をなすことを承諾する義務を有するとして、右上告人に対し右の承諾を求める被上
告人の請求を認容しているのである。
 しかしながら、すでに説示したとおり、被上告人の有する代物弁済予約に基づく
権利なるものの実質は、担保権と同視すべきものであるから、かかる場合において
は、抵当権者その他目的不動産の交換価値からその有する債権について優先弁済を
受ける地位を債務者から取得した者(以下後順位債権者という。)は、目的不動産
の有する価値のうち債権者において優先弁済を受けた残余の部分については、なお
自己の債権に対して優先弁済を受けうる地位にあり、債権者の本登記手続承諾の請
求に対しては、右清算金の支払と引換えにのみ承諾義務の履行をなすべき旨を主張
しうるものと解するのが相当であり(前掲昭和四二年(オ)第五五七号同四五年三
月二六日第一小法廷判決参照)、この場合において、支払を受けるべき清算金の額
は、右本登記承諾請求訴訟における事実審口頭弁論終結時における目的不動産の時
価から債権者の有する債権額を差し引いた残額を限度とし、後順位債権者が数人あ
るときは、その優先順位に従つて順次支払を受けるものと解すべきである。
 そして、原審の確定した前記事実関係によれば、上告人A3は、右にいう後順位
債権者であるから、みずから清算金の支払を受けるべき地位にあり、その支払と引
換えにのみ承諾義務の履行をなすべき旨を主張しうるものというべきである。もつ
とも、同上告人がこの承諾を求められる原因となつた右登記中には所有権移転請求
権保全の仮登記および賃借権設定の仮登記をも含むのであるが、この各仮登記は、
いずれも一体として根抵当権の設定と併用してなされた同一債権担保の目的を有す
る債権担保契約に基づく登記とみることができるので、同上告人が右の主張をする
場合においても、これは一体として取扱われるべきものである。しかして、本件記
録に徴すれば、同上告人においても、被上告人の有する権利の実体は担保権にすぎ
ないものとして、被上告人の本登記手続承諾請求を争う趣旨と解されるのであるか
ら、適切な釈明いかんによつては、右上告人において前記のような主張、立証をな
す余地があるにもかかわらず、原審は、この点を配慮することなく、右請求を認容
しているのであつて、叙上の説示に徴し、右原審の判断には、審理不尽の違法があ
るものといわなければならない。
 以上の理由により、原判決中、上告人A1、上告人A2およびA3に対する各請
求に関する部分、上告人A4に対する損害金請求に関する部分をいずれも破棄し、
右破棄部分につき前記の諸点の審理を要するため本件を原審に差し戻すこととし、
上告人A5の上告および上告人A4に対する建物明渡請求に関する部分についての
同上告人の上告をいずれも棄却することとする。
 なお、被上告人は、上告人A4に対しても本登記手続承諾請求をしていたところ、
原審は、判決の理由中で、上告人A4は、右承諾義務を負う旨判示しながら、主文
において、この請求部分について判断していない。この点は、裁判の脱漏というべ
きであるから、原審は、右差戻部分とともにこれを審理すべきである(最高裁判所
昭和四三年(オ)第三九七号同四四年六月五日第一小法廷判決、裁判集(民事)九
五号四八一頁参照)。
 よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条、九三条に
従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎
裁判官松田二郎は退官につき署名押印することができない
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾

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