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         主    文
     原判決を左のとおり変更する。
     控訴人Aの訴を却下する。
     控訴人Bの請求を棄却する。
     訴訟費用は控訴人らの負担とする。
     本件につき東京地方裁判所が昭和三五年四月二二日付で為した強制執行
停止決定を取消す。
     前項に限り仮に執行することができる。
         事    実
 控訴人ら訴訟代理人は、「原判決を取消す。被控訴人らの控訴人に対する東京地
方裁判所昭和二六年新(ユ)第二九号建物収去土地明渡調停事件につき昭和二八年
一月二二日同裁判所で成立した調停調書の執行力ある正本に基く強制執行はこれを
許さない。訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人らの負担とする。」との判決を
求め、控訴人らが本訴で執行力の排除を求めるのは右調停調書の調停条項二項后段
即ち期限到来による家屋収去、土地明渡を定めた部分であると附陳し、被控訴人ら
訴訟代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用、認否は控訴人ら訴訟代理人
が「(一)本件債務名義たる調停調書には調停条項として原判決別紙記載のとおり
の記載がある。右調停条項中二項后段以外に給付を定めた部分は全部履行済みであ
る。(二)右調停条項二項前段所定の賃貸借は従前から主張のとおり建物の所有を
目的とした通常の賃貸借であつて、七年とある期間は右賃貸借の期間として定めら
れたものであるからこれは借地法第一一条の適用によつて定めなかつたものと看做
されるのである。(三)被控訴人らの后記(2)の主張事実はこれを否認する。」
と述べ、新らたな証拠として、甲第八ないし第一一号証を提出し、当審証人CDの
各証言を援用し、被控訴人ら訴訟代理人が「(1)控訴人ら主張の前記(一)の事
実は認めるが、(二)の事実は否認する。(2)本件調停調書の調停条項二項后段
は単に明渡の猶予期間を定めたものに過ぎない。仮にしからずとしても、それは一
時使用のための賃貸借の期間を定めたものである。なお右調停条項二項前段に「被
告B」とあるは「被告A」の記載の誤りであり同項后段所定の建物収去、土地明渡
の義務を負うのは「被告両名」即ち本訴の被控訴人A、Bの両名である。」と述
べ、前示甲号各証の成立を認めたほか原判決事実摘示のとおりであるからこれをこ
こに引用する。
         理    由
 一、 被控訴人ら先代Eを原告とし、控訴人両名を被告とする建物収去、土地明
渡訴訟事件が調停に附され控訴人ら主張の調停事件として昭和二八年一月二二日調
停が成立し、その調停調書の調停条項として原判決別紙記載のとおり記載があるこ
とは、当事者間に争がない。ところで控訴人らの本訴請求は右調停条項二項后段の
記載が控訴人両名に対する債務名義たることを前提としてその執行力の排除を求め
るものであるから先づ此の点について検討する。
 原審証人Fの供述、成立に争のない甲第一号証(本件調停調書)、甲第六号証、
乙第二号証の各記載と、本件調停成立当時控訴人Aは控訴人Bの父として両名共本
件家屋に居住しており、両名共訴訟事件竝に調停事件の当事者となつていた事実、
竝に后段認定の本件調停の成立するに至つた事情とを総合して考えれば、本件調停
調書第二項后段にいう「被告」とは「被告等」の意味であり即ち控訴人両名共に調
停において収去明渡の義務(又は控訴人Aは退去明渡義務)を負担したものと解す
るのが事の成行として自然であり且つ当事者双方の意思に合致するものと認められ
るのである。然るに同条二項后段には前述の如く「被告」とのみあつて文面上は独
り控訴人Bをのみ指す如く表示されているから、本来は民訴法第一九四条に則り右
<要旨>調停調書の更正決定によつて控訴人Aに対してその債務名義たらしむべきも
のと解される。然し民訴法第一九四条により裁判書の更正決定を為し得る裁
判所は当該裁判を為した裁判所(其の時期を問わない)か乃至は当該裁判に対する
上訴の繋属する上訴裁判所(その事件の繋属中に限る)に限られると解すべきとこ
ろ、本件調停によつて第一審は終了し(従つてこれについて第二審なる観念はな
く)、本件は右調停調書の執行力の排除を目的とする所謂請求異議訴訟の第二審で
あるから、先に所謂当該裁判に対する上訴の繋属する上訴裁判所に該当しないこと
勿論であり、従つて当裁判所としては法律上本件調停調書について上訴審として更
正決定を為す権限を有しない。(のみならず本件記録によれば右調停裁判所たる東
京地方裁判所は被控訴人の右趣旨の更正決定申立を却下したため現に被控訴人から
控訴人Aを被告として同一目的の債務名義を得るため新に訴の繋属していることが
窺われるのである)。そして債務名義の解釈には、当該債務名義(執行文を含む)
以外の資料を参照することは許されない蓋し債務名義を執行する執行機関は、当該
債務名義の記載のみによつて、これに表示されている給付義務の主体乃至内容を解
釈することが許されるのみだからであるから前示の如く最早更正決定によることを
得ない以上、本件調停調書以外の資料を用いて前記二項后段を控訴人Aに対する債
務名義をも成すものとの解釈を導き出すことは許されないものといわなければなら
ない。以上の如くであるから控訴人らが本訴の対象とする本件調停条項二項后段は
控訴人Bに対してのみ債務名義たるものであつて、控訴人Aに対しては債務名義と
ならないものというべく、従つて請求異議によつて右二項后段の執行力の排除を訴
求するについての当事者適格を有するのは控訴人Bのみであり、控訴人Aはこれを
有しないものといわなければならない。よつて控訴人Aの本件訴はこれ以上判断す
るまでもなく不適法として却下すべきものである。
 二、 進んで控訴人Bの本訴請求の本案について判断する。
 (一) まず控訴人Bは、本件調停条項二項前段は建物所有を目的とした通常の
賃貸借を定めたものであつて、所定の七年の期間は借地法第一一条の適用によりこ
れを定めなかつたものと看做されるべきだと主張する。よつて案ずるに、(1)本
件調停条項二項前段には所定の一五坪七合五勺の土地の使用関係が賃貸借であるこ
とを明示するような記載は全くない。のみならず調停条項一項において所定の二〇
坪八合の土地(右一五坪七合三勺はその一部)についてのEと控訴人B間の従来の
賃貸借を本件調停成立の日を以つて合意解除している事実及び同二項后段で同項前
段所定の期間が到来したときは控訴人B(同所にいう「被告」は控訴人Bを指すも
のと解すべきことは前述のとおり)は所定の建物を収去してその敷地をEに明渡す
べき旨決められている事実に照らすと、前記二項前段が前記一五坪七合三勺の土地
についての賃貸借契約を締結したものとは一層認め難くなる。(2)そこで本件調
停が成立するに至つた事情について検討するに、成立に争のない甲第一、第六号
証、第七号証(原本の存在につき争なし)、乙第一、第二号証の各記載並びに原審
証人(承継前)G、F、Dの各証言、原審における控訴人A本人尋問の結果並びに
弁論の全趣旨を総合すると次のとおり認められる。即ち前記Eは薬剤士であつて戦
前から東京都港区a町b番地のc宅地四二坪九合四勺を所有し同地上に建物を所有
して薬局を経営していたが、戦災によつて右建物が焼失した。そこで終戦后建物を
再築して薬局を再開すべく計画していたが、昭和二一年頃同所附近一帯に土地区画
整理が施行されることになつたので同人はそれが施行済になるまで建物の再築を見
合わせることにした。ところがその頃昵懇にしていた控訴人Aから、「田舎に疏開
させている妻を東京に呼びたいから右宅地を半年ほど貸してくれないか。半年も経
てば何処か他の処を見付けて移るから。」と頼まれ、気が進まなかつたが、被控訴
人G(Eの妻)の説得もあつたので昭和二二年一月一日頃控訴人Aの子控訴人Bを
借地人として右宅地の一部一六坪五合を、期間一年但し右期間内であつてももし土
地区画整理実施の上は直ちに返還する、賃料は一ケ月一三二円との特約で賃貸する
ことにした。そこで控訴人Aは右借地上に木造トタン葺平家建一棟建坪一四坪七合
五勺(以不これを本件建物という)を建築しここに家族と共に居住するようになつ
たが、右宅地附近の土地区画整理の施行が延びるにつれ、右賃貸借は前同様の特約
を以つて二度ほど更新されてきた。昭和二四年一一月いよいよ土地区画整理が実施
になり前記宅地の換地予定地は前同所同番地回号のうちの四〇坪一合二勺の部分に
指定され、そのうちの二〇坪八合の部分は控訴人Bの賃借地として指定されたので
控訴人Aは右二〇坪八合の土地上に本件建物を移築した。しかしEは右換地予定地
の指定により前記賃貸借は当然に終了したものとして控訴人らに対し本件建物の収
去並びに右二〇坪八合の土地の明渡を請求して控訴人らと紛争を生じ、昭和二六年
九月弁護士Fを訴訟代理人として右請求貫徹のため訴を東京地方裁判所に提起し、
他方控訴人らも弁護士D、同Cに依頼して応訴した。しかし右事件は同年中に調停
に廻され、二〇数回の調停期日を重ねた末昭和二八年一月二〇日ようやく前示の如
き調停条項により本件調停の成立をみた。なお調停成立の際Eは、七年間の期間が
経つたら同人の建物を前記二〇坪八合(尤もそのうちの三坪六合は右調停の結果昭
和二八年二月末日までにEに返還されることになつた)の土地の方まで拡張すると
言つた。以上のとおり認められる。以上(1)(2)に認定したところを総合すれ
ば本件調停条項二項前段は新らたに土地賃貸借契約を締結したものとみることはで
きず、寧ろ、前記一項の合意解除によつて発生した控訴人Bの借地返還義務につき
右借地中の一五坪七合三勺の部分の明渡猶予期間及びその間同控訴人が地主Eに賠
償すべき損害金を「使用料」の名において定めたものと解するのが相当である。本
件調停条項四項には、控訴人らがEに対し連帯して示談金五万円を支払う旨を、ま
た、同六項はEが本件土地の隣地(当時E占有)を将来他人に賃貸又は譲渡するこ
とある場合は控訴人に対して優先的に売渡すべき旨をそれぞれ決めているが、かよ
うな決めのある事実は、前記二項前段を前叙の如く解することの妨げとなるもので
はない。原審及び当審証人D、当審証人C、原審における控訴人A、Bはいずれは
前記調停条項二項前段は賃貸借を決めたものである旨或いは調停委員から七年の期
間は無効と聞かされ、そのように思つて本件調停に応じた旨供述するが、少くとも
その点につき相手方E側が了解していなかつたことは右各供述によつても明白であ
り、前叙の如き調停条項そのものについての考察の結果並びに本件調停成立に至つ
た事情に鑑みると右各供述は採用するを得ない。なお原審証人Gの証言により、E
の作成したものと認められる甲第二号証の一ないし三の各記載によると、Eが前記
調停条項二項前段の約定に基づくものとして控訴人らから受け取つた金員の領収証
帳のうち、昭和二八年度分については何ら注目すべき記載はないが、昭和二九年度
分及び昭和三〇年度分のものについてはいずれもその表紙に「賃貸料領収証」と記
載され、また「賃貸料ハ保証金ノ有無ニ不拘毎月末日限リ比領収証ト共ニ無相違御
持参可有之特約也」との記載がある。しかし昭和二八年分の領収証帳に右の如き記
載のない点及び本件調停条項二項前段の解釈の前提として認定した前叙の事実によ
れば、昭和二九年度及び昭和三〇年度の右領収証帳における「賃貸料」なる記載は
法律に明るくない素人のEが猶予期間に対する使用料(損害金)と賃料との観念を
明確に意識しないで常識的用語に従つたものと認め得るから、右の如き記載のある
ことは何等前段認定の妨となり得ない。他に以上の判断を覆すに足りる証拠はな
い。右のとおりであるから控訴人Bの前記主張は採用することを得ない。
 (二) 次に控訴人Bは、Eは昭和二八年末頃控訴人らに対し本件調停条項二項
前段所定の土地を新らたに賃貸したと主張する。右主張に添う証拠としては前示甲
第二号証の二、三における前示の「賃貸料」なる記載のみであつて他にこれを認め
るに足る適確な証拠のないところ、右記載の趣旨は既に前示認定のとおりであるか
ら右主張も亦採り得ない。
 (三) さいごに、控訴人Bの、Eの詐欺を理由とする合意解除の取消の主張に
ついて案ずるに、原審及び当審証人D、当審証人C、原審における控訴人A本人の
各供述によれば本件調停成立に至る調停期日の折衝の過程においてE側では控訴人
側に対し前記四〇坪一合二勺の土地で薬局開設の意向を有すること、そのための建
物を建築するには控訴人らの占有している前記二〇坪八合の部分も必要とすること
等をE側の事情として述べたことが認められるが、原審証人Fの証言並びに前叙認
定の本件調停成立に至るまでの事情を併せ考えると、控訴人Bが本件調停条項一項
において前示の如く賃貸借の合意解除をすることに応じたのはE側から前示のよう
な事情説明があつたからではなく、右のように合意解除するのでなければ調停の成
立は覚束なく、さればといつて訴訟に移行しても勝訴の見込が必ずしも充分ではな
かつたことによるものと認められる。されば本件調停の成立に当りE側から控訴人
側に対し前示のように述べられたことを前提とする前記主張もこれ以上の判断を加
えるまでもなく失当のものである。
 (四) 以上のとおり控訴人Bが本件調停条項二項後段に対する請求異議の事由
とする主張はいずれも認め得ないから同人の本訴請求は失当であつて棄却を免れな
い。
 三、 よつて民訴法三八六条、三八四条に則る趣旨において原判決を変更し、訴
訟費用の負担について同法九六条九三条一項強制執行停止決定の取消及び仮執行の
宜言につき同法五六〇条五四八条一、二項をそれぞれ適用して主文のとおり判決す
る。
 (裁判長判事 鈴木忠一 判事 加藤隆司 判事 宮崎富哉)
<記載内容は末尾1添付>

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