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裁判例


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       主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,補助参加によって生じた費用を含め,原告の負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
 被告が,中労委平成9年(不再)第16号不当労働行為再審査申立事件につき,平成15年9月17日付けでした命
令を取り消す。
第2 事案の概要
 愛知県地方労働委員会(以下「愛労委」という。)は,被告補助参加人(以下「補助参加人組合」又は「JR東海
労」という。)が原告会社を被申立人として申し立てた不当労働行為救済申立事件(愛労委平成6年(不)第8号事
件,以下「本件初審」という。)について,中津川運輸区のa首席助役が,平成6年9月16日及び同月24日,補助
参加人組合員であったbに対してした発言は,補助参加人組合からの脱退を慫慂することにより同組合への支配介入を
するものであり不当労働行為に当たるとして,「被申立人(原告会社)は,申立人ジェイアール東海労働組合(補助参
加人組合)名古屋地方本部中津川運輸区分会(以下「JR東海労中津川分会」という。)の組合員に対し,申立人(補
助参加人組合)からの脱退を慫慂することによって,同組合の運営に支配介入してはならない。」との救済命令(以下
「初審命令」という。)を発した。原告会社は,初審命令のうち補助参加人組合の申立てを棄却した部分を除く部分を
不服として,被告に対し再審査を申し立てたところ(中労委平成9年(不再)第16号事件。以下「本件再審査」とい
う。),被告は,同再審査申立てを棄却する旨の命令(以下「本件命令」という。)を発した。本件は,原告会社が被
告に対し本件命令の取消しを求めた事案である。
1 争いのない事実等(証拠等により認定した事実は,当該証拠等を文章中及び文末の括弧内に記載した。)
(1) 当事者等
ア 原告会社
 原告会社は,日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)が昭和62年4月1日に分割民営化された際,東海地方を中心
に旅客鉄道輸送を営むこと等を目的として発足した株式会社であり,肩書地に本社,名古屋市に東海鉄道事業本部をそ
れぞれ置いている。原告会社の従業員数は,本件初審結審時(平成8年12月10日),約2万2600名であった。
原告会社には,鉄道事業を担当する事業本部として,東海鉄道事業本部(以下「鉄道事業本部」という。)と新幹線鉄
道事業本部がある。鉄道事業本部は,在来線の旅客輸送等を担当し,静岡市に静岡支社,津市に三重支店,飯田市に飯
田支店を置いている。
 また,鉄道事業本部には,非現業部門として,管理部,運輸営業部,車両部,工務部がある。このうち管理部には総
務課,人事課,経理課が,運輸営業部には管理課,営業課,運送課,保安課,運用課が,車両部には管理課,車両課,
検修課が,工務部には管理課,保線課,施設課,電力課,信号通信課がある。さらに,鉄道事業本部には,現業機関と
して,駅,事業管理所,運輸区等がある。
イ 労働組合
 補助参加人組合は,平成3年8月11日,東海旅客鉄道労働組合(以下「東海労組」という。)から分離して組織さ
れた労働組合である。補助参加人組合の組合員数は,本件初審結審時(平成8年12月10日),約980名であっ
た。
 なお,東海労組は,平成5年3月15日,東海鉄道産業労働組合と組織統合し,新たに東海旅客鉄道労働組合(以下
「JR東海ユニオン」という。)を結成した。
 原告会社には,補助参加人組合,JR東海ユニオンのほか,国鉄労働組合(以下「国労」という。)等の労働組合が
ある。
(2) 中津川運輸区の状況
ア 中津川運輸区の概要
 中津川運輸区は,中央本線名古屋・塩尻間の列車の運転,車掌等の業務を行う鉄道事業本部の現業機関である。中津
川運輸区の従業員数は,平成6年12月1日当時,161名(日本貨物鉄道株式会社からの出向者27名を含む。)で
あった。
 中津川運輸区では,区長1名のほか,助役19名,運転士,車掌等が配置され,助役のうち担当を指定された助役
は,その指定された担当に応じて,首席助役,事務助役,指導助役,営業助役,運転助役,検修助役と呼ばれていた。
そして,中津川運輸区の指揮命令系統は,下図のとおりであった。
区長-助役┬事務主任---事務係
     ├主任車掌---車掌
     ├主任運転士--運転士
     └車両技術主任-車両技術係-車両係
イ 中津川運輸区における労働組合の状況
 中津川運輸区では,平成3年8月27日,補助参加人組合の結成に伴い,JR東海労中津川分会が結成された。JR
東海労中津川分会の結成当初の組合員数は31名であったが,同6年12月1日当時には,24名に減少した。(乙2
2,弁論の全趣旨)
 中津川運輸区には,労働組合の組織として,JR東海労中津川分会のほか,東海ユニオン及び国労の各下部組織があ
り,平成6年12月1日当時のJR東海労中津川分会以外の組合員数は,JR東海ユニオンの下部組織が133名,国
労の下部組織が4名であった(乙22,弁論の全趣旨)。
(3) 研修制度及び昇進試験等
ア リーダー研修制度
 原告会社は,平成5年度から,リーダー研修制度を発足させた。リーダー研修制度は,若手の従業員の中から受講希
望者を募集し,第一次試験として筆記試験を行い,第二次試験として鉄道事業本部の面接試験を行い,更に本社の面接
試験によって選抜を行い,技術,専門両分野にわたる高度な研修を実施して,将来の管理者候補を育成しようというも
のである。平成6年度リーダー研修試験には,中津川運輸区からb(なお,bは,当時,JR東海労中津川分会の青年
婦人部長であった。)ほか6人が受験し,そのうち2名が第一次試験に合格したが,bは不合格であった。中津川運輸
区長c(以下「c区長」という。)は,平成6年度のリーダー研修試験の第二次試験終了後である平成6年7月下旬こ
ろ,bら受験者全員に激励の手紙を出した。
イ 昇進試験の概要
 原告会社では,昇進規程に基づき,毎年昇進試験が実施されていた。昇進試験のうち,昇進試験(A)は昇職(上位
の職名への変更を伴う昇進)のための試験であり,昇進試験(B)は昇格(職名は変わらず等級のみが上がる)のため
の試験である。
 鉄道事業本部の主任運転士昇進試験は昇進試験(A)に該当し(なお,主任運転士2級から1級への昇進試験は昇進
試験(B)に該当する。),その選考内容は,筆記試験,面接試験及び人事考課とされ,面接試験は筆記試験の合格者
を対象に行っていた。昇進試験の最終合否は,筆記試験,面接試験及び人事考課の内容を総合勘案して決定されてい
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た。
ウ 面接試験練習の概要
 中津川運輸区では,平成6年当時,c区長,a首席助役及びd指導助役が,主任運転士昇進試験の筆記試験合格者に
対する面接試験練習を実施していた。面接試験練習は,c区長らが,a首席助役らが作成し事前に受験希望者に配付し
た面接試験練習資料(甲13,14の1ないし7)に沿って,面接試験練習対象者に適宜質問し,解答を求めるという
もので,面接試験練習対象者ごと個別に行われていた。面接試験練習は,区長室で行われることもあった。また,面接
試験練習は,概ね,c区長らが勤務時間内,面接試験練習対象者が勤務時間外の時間帯に行われていた。そして,面接
試験練習では,「会社の経営理念」,「経常利益の前年度比較」,「新幹線の買取理由」などのほか,時事問題につい
て質問が行われていた。
(4) 本件面接試験練習
 bは,平成6年度主任運転士昇進試験の筆記試験に合格し,面接試験日が平成6年9月26日に行われることになっ
た。
 a首席助役は,平成6年9月16日午後1時ころから,区長室において,c区長同席のもと,bに対し,主任運転士
昇進試験のための面接試験練習を実施した(以下「本件第1回面接試験練習」という。)。
 また,a首席助役は,平成6年9月24日午後2時30分ころから,区長室において,d指導助役とともに,bに対
し,主任運転士昇進試験のための面接試験練習を実施した(以下「本件第2回面接試験練習」といい,本件第1回,第
2回面接試験練習を合わせて「本件面接試験練習」という。)。
(5) bは,平成6年度主任運転士昇進試験で不合格となった。bは,平成7年8月ころまで,補助参加人組合の各
種行事に参加していたが,同年10月下旬に同7年度主任運転士昇進試験で不合格となった後,同8年1月25日,同
組合を脱退し,同8年度の主任運転士昇進試験に合格した。(乙36,39,46,72【30ないし34頁】,弁論
の全趣旨)
(6) 本件訴えに至る経緯
ア JR東海労中津川分会は,平成6年10月27日,同分会の掲示板に以下の内容の「声明」と題する掲示物(以下
「本件掲示物」という。)を掲出した(乙53,60【52頁】,70【106,107頁】)。
「          声   明
 中津川運輸区管理者による不当労働行為の全容が明らかとなった。業務研究発表会(9/14)当日に於いて,数度
の面接試験練習の場で,あるいは助役会の席上で,応急処置競技会打ち上げの酒席で,更には管理者自から加入・脱退
届の用紙を手に持って,区長が主席助役が,そして他の多くの助役達が,あらゆる機会を通じて,自尊心をくすぐり,
将来への不安を煽り,「転勤」の脅しをかける等々・・・従来にも増して陰湿にして巧妙なキタナイ手口をもって不当
労働行為を働らき,分会組織の破壊を行なってきた。
 『不当労働行為で上げられぬよう気を付けてやる必要がある』と述べたある管理者の言葉を裏付けるように,一様に
あからさまな表現を避け,ことば巧みにそゝのかしを行ない,現場長自からが陣頭指揮に立ってきたその全ての言動を
我々は掌握している。
 どのように言葉を選んで用いようとも,どのような理由づけをしようとも管理者が労働組合に介入し,脱退を促す行
為は全て不当労働行為である。管理者との間の20才以上もの年令差を考えるならば,「赤子の手をひねる」も同然の
このような行為は,社会通念上に於いても到底許されることではない。恥を知るべきである。
 我々は過去に行なわれた不当労働行為に対し,管理者の猛省を促してきた処である。しかるに,2度ならず3度まで
も違法と承知の上で法を犯す者を「管理者」として認めることはできない。明かるく働らきやすい職場を創る為にもこ
の様な行為を断じて許すものではない。
 我々は,我々の忠告に対し反省の色を見せることもなく,今なお不法行為を続ける中津川運輸区管理者の実態を社会
的に明らかにしていくことゝする。と同時に,今回の組織破壊攻撃に関わった全ての管理者に対し,組合員一丸となっ
て大きな怒りをもって追及行動を展開し,その責任を問うものである。
                          以 上
                   JR東海労中津川運輸区分会」
イ c区長は,平成6年10月31日,JR東海労中津川分会執行委員長e(以下「e分会長」という。)に対し,本
件掲示物の内容は事実に反し,かつ,管理者に対する誹謗に当たるとして,本件掲示物を撤去するよう指示した。しか
し,e分会長がこれを拒否したため,本件掲示物は,平成6年11月中旬ころまで,分会掲示板に掲出されていた。(
乙60【52ないし54頁】,70【106,107頁】)
ウ 本件初審申立て
 補助参加人組合は,平成6年12月21日,愛労委に対し,原告会社を被申立人として,①c区長らが,fに対し,
昇進試験の面接試験練習等において,補助参加人組合からの脱退を慫慂する発言を行ったこと,②a首席助役らが,昇
進試験の面接試験練習等において,bに対し,補助参加人組合からの脱退を慫慂する発言を行ったこと,③c区長が,
e分会長に対し,本件掲示物を撤去するよう強要したことがそれぞれ不当労働行為に当たるとして,「被申立人(原告
会社)は,管理者及び組合員たる現場長や助役らをして,申立人(補助参加人組合)組合員に対し,同組合からの脱退
を慫慂させること,同組合員らの活動を妨害したり活動方針に介入させること,並びに東海旅客鉄道労働組合(JR東
海ユニオン)に加担させることなどによって,申立人(補助参加人組合)の運営に支配介入してはならない。」との命
令及びポストノーティスを求める本件初審申立てをした。
エ 本件初審命令
 愛労委は,平成9年5月1日付けで,a首席助役が,本件面接試験練習において,bに対し,補助参加人組合からの
脱退を慫慂する発言を行ったことが不当労働行為に当たるとして,原告会社に対し,「被申立人(原告会社)は,JR
東海労中津川分会の組合員に対し,申立人(補助参加人組合)からの脱退を慫慂することによって,同組合の運営に支
配介入してはならない」と命じ,補助参加人組合のその余の申立てを棄却するとの初審命令を発した。
オ 本件再審査申立て及び本件命令
 原告会社は,平成9年5月15日,初審命令のうち補助参加人組合の申立てを棄却した部分を除く部分を不服として
被告に対し,本件再審査申立てをした。被告は,平成15年9月17日付けで,本件再審査申立てを棄却する旨の本件
命令を発した。
カ 原告会社は,平成15年11月18日,本件命令の取消しを求め,当裁判所に本件訴えを提起した。
2 争点及び当事者の主張
(1) a首席助役は,本件面接試験練習において,bに対し,補助参加人組合からの脱退を慫慂する発言をしたか(
争点1)。
【被告及び補助参加人組合の主張】
ア(ア) a首席助役は,平成6年9月16日の本件第1回面接試験練習において,bに対し,「40代でこうありた
いなら自分が今どうすべきか考えなければいけない。私の同期でも組合の役員をやっている者もいる。組合で生きてい
くなら別だが,そうでなければ考えた方がよい。」と述べた。
(イ) a首席助役は,平成6年9月24日の本件第2回面接試験練習において,bに対し,「動労の助士廃止で,も
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っと会社と歩み寄り話合いをしていれば,現在の運転士の待遇はもっと良いものになっていたと私は思う。反対,反対
ばかりでは良くない。」,「私は,多治見機関区時代,動労青年部で頑張っていたが,現在では首席助役をしている。
現在頑張れば,それ以前のことは会社は問わない。」と述べた。
イ 前記ア(ア)(イ)のa首席助役のbに対する各発言は,平成6年9月当時,補助参加人組合が新幹線「のぞみ
号」の安全対策問題を取り上げて,原告会社の安全に対する姿勢を批判し,リニア開発の即時中止,α新駅建設の見直
しを原告会社に求める運動を展開し,同時に,原告会社と補助参加人組合との間に多数の訴訟,救済命令申立て等が生
じていたという労使関係の下,a首席助役の職制上の立場や本件面接試験練習の場で行われたことを踏まえると,補助
参加人組合にとどまることは昇進において不利益となることを示唆し,また,原告会社に批判的な組合に所属していな
ければ昇進の道が開けることをほのめかしたものであり,もって補助参加人組合からの脱退を慫慂する発言をしたとみ
るのが相当である。
ウ ところで,本件命令は,b名義の陳述書(甲3,乙21,以下「b陳述書」という)及びその基となったとされる
ノート(以下「bノート」という。甲4の1及び2,乙37,38はそのコピーである)に基づいて,前記ア(ア)(
イ)のa首席助役の発言の存在を認定しているところ,b陳述書及びbノートは,次のとおり,形式的証拠力及び実質
的証拠力のいずれも備えるものである。
(ア) bは,平成7年2月7日,本件初審第1回調査期日に補助参加人組合補佐人として出席したところ,原告会社
の主張(本件初審における平成7年2月7日付け被申立人(原告会社)準備書面(1)。甲36)において,自らの報
告内容がすべて否定されていることに憤激していた。補助参加人組合は,平成7年2月7日,e分会長,同中津川分会
副執行委員長g(以下「g副分会長」という。),同中津川分会書記長h(以下「h分会書記長」という。),b,i
のほか,補助参加人組合名古屋地方本部執行委員jで,中津川分会地労委プロジェクト(以下「地労委プロ」という。
)を結成した。地労委プロでは,本件初審における今後の対応を相談し,e分会長とbが反論の陳述書を作成して愛労
委に提出することにした。そこで,bは,平成7年2月25日及び同年3月2日,陳述書の原稿作りのため,a首席助
役らから脱退慫慂を受けたことを書き留めたノート(bノート)をJR東海労中津川分会事務所に持ってきた。地労委
プロのメンバーは,bノートをコピーし(当該コピーが甲4の1及び2,乙37,38であり,bノートの原本はbに
返された),これを基に補助参加人組合名古屋地方本部執行委員k(以下「k地本執行委員」という。)がワープロで
打ち直し陳述書の体裁を整えたb陳述書(甲3,乙21)を作成した。b陳述書は,k地本執行委員がbに見せて了承
を取った後,平成7年3月8日,愛労委に提出された。したがって,bノート及びb陳述書は,bの意思に基づき作成
されたものである。
 なお,e分会長及びg副分会長は,原告会社が本件初審及び本件再審査において,執拗にb陳述書の真正な成立を否
定するので,b陳述書がbノートに基づき作成されたことを証明するため,平成8年8月25日,bに念書を作成して
もらった(丙3,以下「b念書」という。)。b念書には,b陳述書の記載内容が全て事実であることが記載され,b
の署名押印がされている。
(イ) そして,b陳述書の記載内容は,表題等を一部補足した部分があるもののbノートに記載されている内容とほ
ぼ同内容であり,c区長がbを酒席に誘っているくだりや,bとa首席助役が面接試験練習の日程調整をするやりとり
など具体的で当事者にしか知り得ない事実に関する記載が含まれるとともに,全体として極自然であり,bノート及び
b陳述書が信用性に欠けるとはいえない。他方,a首席助役の本件再審査における供述は,具体性に欠け信用すること
ができない。
【原告会社の主張】
ア(ア) c区長,a首席助役及びd指導助役は,本件第1回面接試験練習において,bに対し,面接試験練習資料(
甲13,14の1ないし7)に基づき,それぞれ質問をした。
 その質問内容は,「原告会社の経営理念は何か」,「経常利益は前年度と比べてどうなったか」,「原告会社の関連
会社にはどのような会社があるか」,「ヤミ米とは何か」,「PKOとは何か」,「新型『しなの』に383系車両が
導入されたが,その特徴点は何か」,「原告会社で展開している東西交流キャンペーンの対象となる都市はどこか」,
「新幹線の買取時期,価格,買取理由」などというもので,原告会社社員及び社会人としての常識の有無を試すための
質問だけであった。a首席助役がbに対し,【被告及び補助参加人組合の主張】ア(ア)のような発言をした事実はな
い。
(イ) a首席助役及びd指導助役は,本件第2回面接試験練習において,bに対し,本件第1回面接試験練習と同様
に原告会社社員及び社会人としての常識の有無を試すための質問のみをしており,【被告及び補助参加人組合の主張】
ア(イ)のような発言をした事実はない。
イ 本件初審命令及びこれを是認した本件命令は,bノートとb陳述書の記載内容がほぼ同じであるなどとした上で,
bノートの内容が信用できるとしてa首席助役がbノートないしb陳述書に記載された発言をした旨認定している。
 しかしながら,bノートの原本の存否は全く不明であり,その写しとされる甲4の1及び2,乙37,38は偽造文
書である可能性が高い。bノート及びb陳述書は,作成者に対し,作成の経緯,方法,根拠となる資料の有無,その客
観性等について質問等を行い検証する手続がされていない伝聞証拠にすぎず,しかも,記載内容も当事者本人しか知り
得ない事実が記載されているともいえない。したがって,bノートとb陳述書に記載されている内容が同一であるから
といって,当該記載内容が真実であることにはならない。むしろ,bノートは,本件初審において,原告会社提出の準
備書面に対する反論のために補助参加人組合の主張を整理した文書にすぎず,何らかの意図の下に作為的に記載された
ものというべきであり,真実を記載したものではない。また,b陳述書には,JR東海労中津川分会組合員で,かつ本
件初審において補助参加人組合の補佐人であったbの署名押印がないことからも明らかなとおり,bには作成名義人と
なる意思がなく,むしろその内容が真実に反することからbが作成名義人となることを拒否したものと容易に推認でき
る文書である。なお,b念書は,bがb陳述書を確認しながら作成したものか不明であるし,同念書に記載された「日
時,場所を書き留めたメモを基に事実を書いた原稿」がbノートであるかも不明である。
 これに対し,a首席助役は,本件再審査において,本件面接試験練習におけるbに対する補助参加人組合からの脱退
慫慂発言を否定する供述をしているところ,その供述は極めて詳細かつ明瞭であり,具体性・一貫性があり,信用性が
高い。
(2) a首席助役が,本件面接試験練習において,bに対し,補助参加人組合からの脱退を慫慂する発言をしたと認
められる場合,その事実を原告会社に帰責させることができるか(争点2)。
【被告及び補助参加人組合の主張】
ア 助役は,国鉄時代には利益代表者として非組合員に指定されて組合員資格を有していなかったが,原告会社発足
後,組合員資格を有するようになった。しかし,助役の職務権限は,国鉄時代と何ら変わっておらず,原告会社の利益
代表者といえる。特に,首席助役は,単なる末端管理者ではなく,区長の職務代行者として,管理者を統括し,運輸区
全体や運輸区に所属する社員を管理する権限が与えられており,社員管理や人事考課に強い権限を持っている。仮に助
役が原告会社の利益代表者でなくても,助役は原告会社の労務管理について直接又は間接に関与する職制であり,その
言動は利益代表者と同様に原告会社に帰責される。
 したがって,a首席助役の本件面接試験練習におけるbに対する補助参加人組合からの脱退慫慂発言は,原告会社に
帰責される。
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イ 末端ないし下級の管理者の行為を不当労働行為として,使用者に帰責するための要件としては,常に共謀を要する
わけではなく,使用者の直接の関与が明確に認定できない場合には,使用者の組合に対する日頃の態度,行為者の会社
組織内での地位等に照らして,当該行為が使用者の意を受けた行為といえるかにより判断すべきである。
 これを本件についてみるに,本件面接試験練習は,a首席助役らが中心となり面接試験練習の参考資料を作成し,配
布していること,原則としてc区長らの勤務時間内に行われたこと,その実施に当たり当直助役がbに対し区長室に行
くよう述べていることなどに照らすと,本件面接試験練習は原告会社の指導育成の一環としてみるのが相当である。ま
た,中津川運輸区では,首席助役ら各助役は,指揮命令系統のとおりそれぞれの業務に関して区長の業務命令を伝える
立場にあった。中津川運輸区には,平成6年12月当時,161名の従業員が所属しており,c区長が1人でこれら多
数の従業員について,その業務遂行の適否や能力等を的確に判断することは困難であり,c区長の職務を補佐する立場
にあったa首席助役を始めとする助役の報告が不可欠であった。そして,主任運転士昇進試験においては,所属現場長
である区長から報告される人事考課を勘案して合否が決定されていたところ,中津川運輸区の人事考課の査定は,c区
長及びa首席助役ら各助役が行っていた。このように,a首席助役ら各助役は,c区長の業務命令を伝える立場にある
とともに,主任運転士への昇進試験で考慮される人事考課の査定を区長とともに行う立場にあり,現場の従業員にとっ
て,人事に強い影響力を持つと受け止められていた。さらに,本件面接試験練習が行われた当時,原告会社と補助参加
人組合との間には多くの紛争事案があり,原告会社は,新幹線「のぞみ号」の安全対策問題を取り上げ,原告会社の安
全に対する姿勢を批判し,リニア開発の即時中止,α新駅の建設見直しを求める運動を展開する補助参加人組合を嫌悪
していた。
 このように原告会社と補助参加人組合が緊張関係にある中,a首席助役は,本件面接試験練習において,bに対し,
補助参加人組合にとどまることは昇進において不利益となることを示唆し,また,原告会社に批判的な同組合に所属し
ていなければ昇進の道が開ける旨ほのめかす脱退慫慂と認められる発言を行った。a首席助役の当該発言は,人事に一
定の影響力を有する者がその職場における立場を利用し,勤務時間内に原告会社の指導育成の一環として行った行為と
みることができ,原告会社の意を体して行った不当労働行為として原告会社に帰責することができる。
【原告会社の主張】
ア 使用者の利益代表者に当たらない下級職制その他の従業員の組合脱退慫慂と受け取れる発言は,当然に使用者の不
当労働行為と評価することはできず,使用者又は利益代表者との間に意思の連絡,疎通がある場合に初めて,その者の
発言を使用者の不当労働行為として問擬することができるというべきである。
 この点に関し,首席助役の職務内容は,社内規程等に定めがなく,就業規則に定める原告会社の指揮命令系統の中で
も助役の上位に位置付けられているわけでもなく,助役の一人にすぎない。a首席助役も,中津川運輸区の助役の一人
として,防犯防災に関する事項,安全衛生管理に関する事項,設備要求に関する事項,業務研究活動における指導等の
自らの業務を行いながら,他の助役が行っている業務の取りまとめなどをし,必要に応じて他の助役に指示を与える業
務を行っていたにすぎない。さらに,a首席助役は,他の助役と同様,c区長に対し社員の勤怠管理・執務状況の報告
を行うが,社員の人事上の評価は行っておらず,昇進を含め社員の人事考課には一切関与していなかった(なお,中津
川運輸区においては,平成6年9月当時,昇進試験の人事考課の査定は,現場長たるc区長のみが行っていた。)。a
首席助役の職務権限は前記のとおりであり,更に組合員資格を有していたこと,出退社も時間的に拘束され,時間外労
働について超過勤務手当が支払われていたことなどからすれば,a首席助役が現業機関における末端管理者の一人にす
ぎなかったことは明らかである。
 そうだとすると,現業機関における末端管理者にすぎないa首席助役の行為を原告会社へ帰責させるためには,原告
会社の代表者,上級管理職ら利益代表者とa首席助役との間に意思の連絡があり,原告会社がa首席助役の発言を事前
に了知していたことが必要であるが,このような事実はない。
イ また,面接試験練習は,管理者が昇進試験等を受験する部下社員のうち希望者に対して行うものであって,社員の
個人的利益のため,試験場慣れさせることや質問に対する答えを整理して相手方に伝える技術を覚えさせるとともに,
過去の実例から予想される出題傾向を伝えることによって,少しでも多くの部下が合格することを期待する管理者の親
心から手助けとしてされているものである。したがって,管理者には,このような面接試験練習を行う職務上の義務が
あるわけではなく,部下社員もこれを受けなければならない職務上の義務があるわけではない。部下社員は,このよう
な面接試験練習を受けなかったことを理由に,人事考課の評価を下げられたり,面接試験を受けられなかったりするな
どの不利益を受けるものではない。なお,社員教育として行われる管理者の部下社員に対する指導・育成は,原告会社
が鉄道事業者として負っている安全安定輸送という至上命題実現のため,社員に担当職務を完遂させるべく必要な知識
・技術を取得させることを目的とするものであって,管理者はこれを行う職務上の義務が,部下社員はこれに従わなけ
ればならない職務上の義務があり,それぞれの勤務時間中に行われるものである。しかし,面接試験練習は上記社員教
育には当たらないし,原告会社の諸規定,労使協定等における定めもされていない。
 中津川運輸区においては,主としてc区長,a首席助役及びd指導助役が昇進試験の面接試験練習を行っていたが,
職務上の義務として行われる部下社員に対する指導育成とは異なり,部下社員に対し強制したことはなく,部下社員の
希望により,希望者の勤務時間外に好意で行っていたにすぎない。本件面接試験練習も,bの申出に基づいて,c区長
ないしa首席助役とbとの間で事前に日程調整した結果実施されたものであり,当直助役の指示や業務命令で行われた
ものではない。さらに,c区長以下中津川運輸区の管理者は,主任運転士昇進試験の合否決定に関与しておらず,面接
試験練習を受けることが合否や人事考課上の評価に影響することはない。なお,面接試験練習は,管理者ができる限り
勤務時間内で,希望者の希望する時間に,都合のつく者で実施していたが,これは面接試験練習を申し出た社員の希望
する時間が,自らの乗務前後の勤務時間外であったため,日勤を主とした勤務体系である管理者の勤務時間内に該当す
ることが多かったことによるものである。
 したがって,本件面接試験練習は,末端管理者の個人的行為にすぎず,社員教育の指導育成の一環として行われてい
たとはいえないから,a首席助役の発言を原告会社に帰責することはできない。
(3) 本件命令にその他の違法があるか(争点3)。
【原告会社の主張】
ア 本件命令は,認定事実のうち本件初審命令の認定した事実を改めるとして記載した部分以外について,本件初審命
令の認定した事実を引用している。しかし,中労委命令において初審命令の記載を引用することは許されず,本件命令
には,本件初審命令の認定した事実を引用した部分について被告がどのような事実を認定したか不明となっており,理
由不備の違法がある。
イ 本件命令により是認された本件初審命令は,今後禁止される「慫慂」の行為者(代表者に限るのか,それとも利益
代表者も含まれるのか。利益代表者が含まれるとすれば,どのような範囲の,どのような職務を担当する者に限るの
か)・方法(直接行うのか,第三者を介入させるのか)・手段(利益誘導を行うか,精神論に終始させるのか)などに
ついて何ら特定しておらず,行政処分としての特定性に欠ける違法がある。
 また,本件命令により是認された本件初審命令は,脱退慫慂を行う者を特定していないところ,原告会社が本件初審
命令及びこれを是認した本件命令を遵守するためには全社員の行動を常時監視することが必要となる。このようなこと
は社会通念上不可能であり,結局本件初審命令及びこれを是認した本件命令は,不可能な行為を原告会社に対し命じた
違法がある。
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 仮に本件命令により是認された本件初審命令が,いわゆる抽象的不作為命令と解されるとしても,原告会社が将来同
種の不当労働行為を繰り返す危険はなく,本件初審命令及びこれを是認した本件命令もこのような危険の存在を認定し
ておらず,違法である。
ウ 本件における補助参加人組合の救済命令申立ては,「原告会社は,管理者及び組合員たる現場長や助役らをして,
補助参加人組合の組合員らに対し,補助参加人組合からの脱退を慫慂させること,・・・によって,補助参加人組合の
運営に支配介入してはならない」との内容であったのに,本件命令により是認された本件初審命令は,脱退慫慂を行う
者を特定していない。これは,申立人である補助参加人組合の請求する救済以上のものを認容しているのであって,労
働委員会規則43条1項に違反する。また,本件命令により是認された本件初審命令は,申立人である補助参加人組合
の請求する救済以上のものを認容しているが,そのような必要性はなく違法である。
 なお,労働委員会規則43条1項に規定される申立主義は,審査の対象のみならず,救済の内容ないし限度にも及ぶ
と解するのが相当である。そして,労働委員会の裁量権は,申立人が請求する救済の範囲内における裁量と解するのが
相当である。
【被告及び補助参加人組合の主張】
ア 被告が,本件命令の認定事実について初審命令の認定事実を引用した部分について理由不備があるとはいえない。
イ 本件初審命令は,その理由も併せて読めばその命令の趣旨を具体的なものと判断できるから,内容が特定されてい
ないとか抽象的不作為命令であるとはいえないし,不可能な行為を命ずるものでもない。
ウ 不当労働行為の救済手続は,いわゆる申立主義が採られ,審査の対象については,不当労働行為を構成する具体的
事実(労働委員会規則32条2項3号)に限定され,申立てがない事実について命令を出すことはできない。しかしな
がら,救済の内容ないし限度については,専門的行政機関による是正措置であることから,労働委員会に幅広い裁量が
認められている。本件初審命令及びこれを是認した本件命令は,命令を発した理由の中で,どのような場面で,どのよ
うな立場の者が,どのような行為を行ったことが不当労働行為に当たるかを示しており,これを併せ読めば,命令の対
象となる行為,行為者等は明らかになる。したがって,本件命令で是認された本件初審命令は,労働委員会において裁
量権の範囲を逸脱しておらず,原告会社の補助参加人組合員に対する脱退慫慂よる支配介入のない状況に回復するとい
う目的に沿うものである。
第3 当裁判所の判断
1 前提事実
 証拠(文章中,文末に掲記したもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる(なお,当事者間に争い
のない事実は,文末に証拠等を掲記しない)。
(1) 補助参加人組合と原告会社との労使関係
ア 東海労組結成の経緯
 国鉄は,昭和39年ころから赤字経営となり,以後も赤字を累積し,国鉄改革が大きな政治問題,社会問題になるに
至った。第二次臨時行政調査会の答申を受けた国鉄再建監理委員会は,昭和60年7月,国鉄の分割・民営化を柱とす
る国鉄改革に関する意見を答申した。これを受けた政府・運輸省・国鉄などは,国鉄の再建計画の策定に着手した。そ
の結果,日本国有鉄道改革法等の立法がされ,国鉄は,昭和62年4月1日,6つの旅客鉄道会社と1つの貨物鉄道会
社を中心に分割民営化された。原告会社は,東海地方を中心に旅客鉄道輸送を営むこと等を目的として発足した前記旅
客鉄道会社の1つである。
 ところで,国鉄には,国労,国鉄動力車労働組合(以下「動労」という。),鉄道労働組合(以下「鉄労」という。
),全国施設労働組合(以下「全施労」という。)などの労働組合があった。このうち国労については,同労組の国鉄
改革に対する方針に反対する組合員が脱退し,真国鉄労働組合(以下「真国労」という。)を結成した。動労,鉄労,
全施労及び真国労は,昭和61年7月18日,国鉄分割・民営化後の一企業一組合を展望して,国鉄改革労働組合協議
会(以下「改革協」という。)を組織した。そして,改革協の指導の下,発足が予定されている各JR会社毎に国鉄改
革協が組織された。設立が予定されていた原告会社の下にも,昭和61年10月26日,東海国鉄改革協議会(以下「
東海改革協」という。)が結成された。改革協を組織していた動労,鉄労,全施労及び真国労は,昭和62年2月,他
労組を加えて,全日本鉄道労働組合総連合(以下「JR総連」という。)を結成した。これに併せて,JR各社毎の改
革協も他労組などを加えて単一組合を結成した。東海改革協は,昭和62年3月7日,東海鉄道労連を結成し,さら
に,同年9月13日,東海労組を結成した。そして,東海労組は,結成と同時にJR総連に加盟した。(乙27,59
【5,7ないし11頁】,弁論の全趣旨)
イ 補助参加人組合結成の経緯
 東海鉄道労連は,動労の副委員長であったlが中央執行委員長に就任し,さらに,同人は,東海労組結成後も,引き
続き中央執行委員長に就任し,労使協力体制を作り上げていった。ところが,東海労組内では,「スト権議論」などを
通じて次第に,JR総連の下での結束を重視するlを支持する者と,飽くまで会社との協調を訴える者との間で軋轢が
生じるようになった。そして,lは,平成3年8月11日,東海労組が原告会社の御用組合にされようとしているとし
て,原告会社において真の対等・協力関係に立った健全な労使関係を基礎に,原告会社の発展,国鉄改革の遂行と組合
員の雇用の安定・労働条件の向上を図ることなどを標榜して,東海労組を脱退し補助参加人組合(JR東海労)を結成
した。(乙11,12,15,27,28,60【8ないし12頁】,61【21ないし55,96ないし104頁】
,62【82,85,86,89,90頁】,63【125ないし139頁】)
ウ 補助参加人組合の活動
 補助参加人組合は,組合結成後,鉄道輸送における安全問題を労働組合の取り上げるべき最重要課題の一つとして位
置付け,とりわけ平成4年以降は新幹線「のぞみ号」の安全対策問題を取り上げて,原告会社の安全管理に対する姿勢
を批判し,同社に対し,安全対策が図られるまで新幹線「のぞみ号」の運行を中止すべきとの要求をした。また,補助
参加人組合は,平成5年ころから,原告会社に対し,同社が進めるリニア開発の即時中止,α新駅建設の見直しを求め
る運動を展開した。さらに,補助参加人組合は,原告会社が補助参加人組合員らに対してした懲戒処分,配転や原告会
社が職場に監視カメラを設置したことなどが不当であるとの批判をするなど,原告会社の施策に対し批判的な態度・行
動をとっていた。(乙16,27,33ないし35,弁論の全趣旨)
エ 原告会社と補助参加人組合間の訴訟等
 補助参加人組合及びその組合員と原告会社との間には,本件初審申立時において,裁判所に9件の訴訟事件(仮処分
事件を含む)が係属し,また,地方労働委員会には7件の救済命令申立事件が係属しており,その他刑事告発が2件,
弁護士会人権侵害救済事件が2件あった。前記訴訟の中には,lらが,原告会社副社長mら4名に対し,同人及び同社
から送られた組合幹部の策謀により東海労組委員長としての権利を侵されたこと,原告会社の組織破壊により東海労組
がJR総連から脱退したことなどにより,名誉・社会的信用,団結権を侵害されたとして,合計3億円の損害賠償請求
を求める訴訟もあった。(乙15,27,28,乙59【59ないし64頁】,丙6,弁論の全趣旨)
オ 中津川運輸区における配転及び昇進試験
 補助参加人組合結成以降,中津川運輸区から他区所へ転勤となった運転士3名(平成3年10月1名,同5年10月
2名)は,すべて補助参加人組合員であり,いずれも本人の意思に反する転勤であった。
 また,原告会社においては,補助参加人組合結成の平成3年8月から同7年4月までの間,各等級毎にそれぞれ8回
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の昇進試験が実施された。補助参加人組合結成当初のJR東海労中津川分会員31名中,補助参加人組合結成前には3
5名(2回合格者4名を含む)が合格していたのが,同組合結成後の合格者は10名(脱退者4名を含む)となった。
また,補助参加人組合結成当初のJR東海労中津川分会員31名の6等級(主任2級)と7等級(主任1級)の合格率
(合格数を延受験回数で除した数値)は,補助参加人組合結成前(試験回数は4回)は約48パーセントであったの
が,同組合結成後(試験回数4回)は約17パーセント(脱退者4名を除くと12パーセント)と低下した。
 なお,JR東海労中津川分会を脱退した4名は,脱退後にそれぞれ脱退した年の昇進試験に合格している。
 (乙22,29,59【55ないし57頁】,60【21ないし28頁】)
(2) 区長,首席助役の地位・権限等
ア 中津川運輸区の区長は,平成6年9月当時,c区長であった。c区長は,中津川運輸区の現場の長(トップ)とし
て,同区における業務運営(社員管理,職場管理等)を行う,原告会社の利益代表者の地位にあった。また,中津川運
輸区の首席助役は,平成6年9月当時,a首席助役であった。首席助役は,原告会社が就業規則,鉄道係員服務及び職
制規定で定める運輸区の職制にはないが,区全体の業務運営を統括する区長の職務を補佐する立場にあり,現場の業務
運営(社員管理,職場管理等)を区長とともに行っており,区長に次ぐ,いわゆるナンバー2の地位にあったものであ
る。この社員管理には,社員の指導・育成も含まれる。ところで,原告会社における昇進試験の最終的な合否は,筆記
試験,面接試験,人事考課の内容を総合的に見て,所属の人事課が決定することになっていた。この人事考課について
は,最終的には区長が行っていたが,その基礎となる職員の勤怠管理・執務状況の報告については首席助役を含む各助
役が行っていた。このようなことから,中津川運輸区の社員は,a首席助役が,同区の人事考課の査定に強い影響力を
行使する力を有していると考えていた。(甲11【25ないし27頁】,17,18,21,乙95【2,3,25な
いし28頁】,乙96【9頁】,弁論の全趣旨)
イ 中津川運輸区では,区長と助役とで構成されている助役会なる組織があり,毎朝区長室に集まり,10分ないし3
0分程度ミーティングを行い,指示事項,連絡事項等を区長及び助役の間で周知徹底し,同区の業務運営(社員管理,
職場管理等)にあたっていた(乙31,70【103ないし105頁】,71【86ないし91頁】,弁論の全趣旨)

2 争点1(a首席助役は,本件面接試験練習において,bに対し,補助参加人組合からの脱退を慫慂する発言をした
か)について
(1) bノート,b陳述書,b念書の各形式的証拠力について
ア bノート(甲4の1及び2,乙37,38)は写しを原本として提出しているところ,弁論の全趣旨によれば,当
該ノートの写しは,複写機により複写されたものであると認められる一方,その形態からみて複写の過程で記載内容が
改ざんされた形跡はうかがわれないことが認められる。そうだとすると,bノート(甲4の1及び2,乙37,38)
と内容,筆跡が同一の原本が存在すると認めるのが相当である。
イ ところで,弁論の全趣旨によれば,当審で原告会社が提出した平成16年8月19日付けのb作成の陳述書(甲3
7)はb自身が作成した文書であると認められる。また,前記のとおり真正に成立したと認められる甲37号証の筆跡
とb念書(丙3)の筆跡とを比較対照すると,b念書はbが作成した文書であると認めることができる。このようにb
が作成した文書であると認められる甲37号証,丙3号証の各筆跡とbノート(甲4の1及び2,乙37,38)の筆
跡を比較対照すると,bノート(甲4の1及び2,乙37,38)の筆跡はbのものであると認めることができ,そう
だとすると,bノート(甲4の1及び2,乙37,38)については原本の存在とその成立を認めることができるとい
うべきである。
ウ 次に,b陳述書(甲3,乙21)は,証拠(乙45,72【12ないし17頁】,73【30ないし33頁】,9
7【50ないし56,64,65,75ないし78頁】)及び弁論の全趣旨によれば,bノートを基に,k地本執行委
員が作成したものと認められ,同執行委員作成の文書として形式的証拠力を有するというべきである。
(2) bノート,b陳述書,b念書の各実質的証拠力について
ア bノート,b陳述書,b念書の各作成の経緯等
 証拠(甲36,37,乙1,18,19,21,22,36ないし40,41の1及び2,同45,72【12ない
し17頁】,73【30ないし33頁】,97【50ないし56,64,65,75ないし78頁】,丙3,5)及び
弁論の全趣旨によれば,bノート,b陳述書,b念書の各作成の経緯等は,以下のとおりであることが認められる。
(ア) bノート
 補助参加人組合は,本件初審申立書において,a首席助役がbに対し,本件第1回面接試験練習において,「①私と
もっと話し合う機会が欲しい,②40代でこうありたい(例えば助役)なら自分は,今どうするべきか考えなくてはい
けない,③もっと視野を広く,いろんな意見を聞いて欲しい,④組合で生きていくなら別だが」と述べ,また,本件第
2回面接試験練習において,「私は,多治見機関区時代,動労青年部で頑張っていたが,現在は首席助役をしている,
現在頑張ればそれ以前のことは会社は問わない」と述べたと主張した。これに対し,原告会社は,本件初審における平
成7年2月7日付け準備書面(1)で上記事実を否認した。なお,bは,平成7年2月7日,本件初審第1回調査期日
に補助参加人組合の補佐人として出席した。
 e分会長,g副分会長,h分会書記長,j地本執行委員,bらは,平成7年2月7日,地労委プロを結成し,本件初
審における今後の対応を相談し,e分会長とbが反論の陳述書を作成して愛労委に提出することになった。bは,平成
7年2月25日,陳述書の原稿作りのため,自ら体験した事実を記載したノートを地労委プロに持参した。さらに,b
は,平成7年3月2日,fとのやりとりを補充するため,これに関する事実を記載したノートを地労委プロに持参し
た。これらbが地労委プロに持参したノートは複写され,原本はbに返された。当該複写されたものがbノート(甲4
の1及び2,乙37,38)である。
(イ) b陳述書
 地労委プロからbノートを受領したk地本執行委員は,bノートに記載された事実をワープロで打ち直し,陳述書と
しての体裁を整えた文書を作成した。これが,b陳述書(甲3,乙21)である。
(ウ) b念書
 原告会社は,愛労委において,b陳述書(甲3,乙21)にb自身の署名捺印がないことから,同陳述書には形式的
証拠力も実質的証拠力もないとして争った。そこで,g副分会長は,平成8年8月25日,中津川市内の「β」という
喫茶店で,bと会い,原告会社は,b陳述書に書いてある内容はでたらめであると述べていると言った。これに対し,
bは,b陳述書(甲3,乙21を指す)は,日時,場所を書きとめたメモを基に,bが書いた原稿(bノートを指す)
をk地本執行委員がワープロで作成したものであること,内容は全て事実であると述べた。g副分会長は,bの言い分
が真実なら,その旨念書に記載してほしいと述べたところ,bはこれに応じ,書面を作成し,当該書面に署名捺印をし
た。これが,b念書(丙3)である。
 なお,g副分会長は,中労委の本件再審査の場で,b念書の作成の経過,内容,存在について証言している(乙97
【54頁】)。
イ bノート,b陳述書,b念書の各記載内容
(ア) bノート
 bノート(甲4の1及び2,乙37,38)は,①bが,平成6年7月下旬ころ,c区長からリーダー研修試験に関
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する手紙を受け取った件から始まり,同年9月24日に実施された本件第2回面接試験練習までの間,c区長,a首席
助役らとbの間で生じた事項,そこで交わされた会話等について記載された部分(甲4の1,乙37)と,②bとfに
関する出来事が記載された部分(甲4の2,乙38)とから成っているが,その記載内容は極めて具体的かつ詳細なも
ので,不自然,不合理な点は窺われない。のみならず,bノートの記載内容は,c区長からbに宛てた手紙(乙18,
19)という客観的証拠や本件掲示物が同年10月27日に掲出されたこととも矛盾するところはなく,上記1(1)
のとおり,補助参加人組合が,原告会社と対立する関係にあったこととも整合し,その作成時期,作成経緯に照らして
みても,bが体験した事実がありのまま記載されたものと認められる。
(イ) b陳述書
 b陳述書(甲3,乙21)は,前記(1)ウのとおり,bノートを基に,k地本執行委員が作成したものと認められ
るところ,bノートと同様の事実が記載されている。
(ウ) b念書
 b念書(丙3)は,「陳述書(甲第12号証,愛労委での提出の書証番号,当審では甲3,乙21号証に当たる)
は,日時,場所を書きとめたメモを基に,私が事実を書いた原稿をk氏にワープロにて作成してもらったものであり,
内容については全て事実です」と記載されている。
ウ 前記ア,イのbノートの作成の経緯及び記載内容が極めて具体的かつ詳細なもので,不自然,不合理な点は窺われ
ず,客観的証拠とも整合し矛盾がないことに照らすと,bノートには実質的証拠力があると認めるのが相当である。ま
た,b陳述書も,前記イのとおりbノートと同様の事実が記載されており,bノートが実質的証拠力を有する以上,実
質的証拠力を有しているというべきである。さらに,b念書も,前記ア,イのとおり,bノート,b陳述書が事実を記
載した文書であるという内容のものであること,b念書はbが補助参加人組合を脱退後に作成した文書であること,b
陳述書作成の経緯が事実に合致していること等に照らすと,bノート,b陳述書同様に実質的証拠力を有していると認
めるのが相当である。
エ 原告会社の反論について
(ア) これに対し,原告会社は,bノート及びb陳述書がbの意思に基づくものであるとしても,これらは伝聞証拠
である上,bがb陳述書に押印しなかったのは,内容が真実に反することを認識していたからであるとして,b陳述書
及びこれと同内容のbノートには実質的証拠力がないと主張する。
 しかしながら,bノート及びb陳述書が伝聞証拠であったとしても,伝聞証拠の一事を捉えて実質的証拠力がないと
いうことにはならない。bノートは,前記(1)イで判示したとおり,原本の存在とその成立が認められる文書であ
り,b自身が認識した事実を記載したものであるので,実質的証拠力を有しているというべきである。また,b陳述書
は,確かに,k地本執行委員がbノート或いはbから聴き取った内容を陳述書の形式にまとめたものであるが,bノー
トに実質的証拠力がある以上,これと同内容のb陳述書に実質的証拠力がないということはできない。確かにb陳述書
にbの押印はないが,愛労委における手続に補助参加人組合の代理人として弁護士が関与していたことをうかがわせる
証拠はなく,単に失念したとしても不自然ということはできず(弁護士が関与した訴訟手続においても,押印のない準
備書面や陳述書が提出されることがまま見受けられるところである),仮にbの意思により押印されなかったとして
も,bが,愛労委で証人となることに消極的だったのと同様,原告会社からの報復を恐れ押印をためらったからである
と考えられるところであり(乙96【10ないし12頁】参照),b陳述書にbの押印がないからといって,その基と
なったbノートの実質的証拠力までもが否定されるものではない。以上によれば,原告会社の上記主張は理由がない。
(イ) また,原告会社は,bの平成16年8月19日付け陳述書(甲37)を提出し,b念書には実質的証拠力がな
いと主張する。すなわち,前記陳述書(甲37)には,b念書について,補助参加人組合を脱退していたものの,e分
会長から作成を求められ,この件にこれ以上関わりたくないという一心で,証拠としては提出しないとの約束の下,ろ
くに考えもせず,指示されたまま書いたものであることが記載されていると主張する。
 しかし,b念書には,「陳述書(甲第12号証)」とあるとおり,証拠として提出されることを想定して作成された
ものであると考えるのが不自然ではないこと,その作成時に愛労委でb陳述書に押印がないことが問題とされていたこ
と(乙97【54ないし56,79頁】,丙4,5,弁論の全趣旨)に照らすと,e分会長から,bの立場を考慮し
て,証拠として提出するかは慎重に検討する旨の話があったかはともかくとして,証拠として一切使用しないとの約束
があったとか,虚偽の事実が記載されているということはできないこと(bの陳述書(甲37)もbノートの内容の真
実性自体には何ら触れていない),bが当該陳述書(甲37)を作成したのは本件面接試験練習が行われてから約10
年後であること,bは平成8年1月25日補助参加人組合を脱退し,同8年度の主任運転士昇進試験に合格し,同10
年6月からは鉄道事業本部運輸営業部運用課に勤務し,同16年7月には同課係長に昇進するなど原告会社と協力的な
立場にいること(前記争いのない事実等(5),甲37,弁論の全趣旨)に照らすと,b念書に実質的証拠力がないと
の原告会社の主張を採用することはできない。
(3) a首席助役の発言内容等
 前記のとおり真正に成立し,しかも実質的証拠力を有していると認められる甲4号証の1及び2,乙21,37,3
8号証,丙3号証,弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 当時,JR東海労中津川分会の組合員であったbは,平成6年9月16日12時53分に勤務を終了して,次仕業
(仕事)の確認をしたところ,勤務表に区長面談と書いてあり,当直助役より区長面談に行くように言われた。bは,
面接試験(主任運転士昇進試験第二次)の練習かなと思い,区長室へ行った。区長室には,c区長とa首席助役がい
た。bは,面接試験練習は,もう少し勉強してからの方がよいと思い,「もう少し勉強してから来ます」と言うと,c
区長は「何を言っとるA試験(職名の変わる昇進試験で第一次は筆記,第二次は面接)の面接はもうあんたとn,f君
の3名だけだ。本社から先に面接をした人達の面接態度が悪いという,おしかりを受けた。面接練習を最低3回はやら
ないと面接試験に行かせんぞ」と言って,bを,同区長とa首席助役の前の椅子に着席させた。こうして,同日午後1
時ころから3時ころまでの間,本件第1回面接試験練習が行われた。
イ 本件第1回面接試験練習において,c区長は,bに対し,「のぞみ」についてどう思うか,「のぞみ」を走らす時
期が早かったと思うか質問した。bが,「のぞみ」を走らすのが早かったと答えたところ,c区長は,「『のぞみ』を
走らすのが早かったとはおかしいではないか。主任運転士とは,運転士を指導しなければならない。その指導する者が
会社の考えと違うことを言うようでは主任にはなれない。」と発言した。
 bは,c区長との前記やりとりの中で,bの所属するJR東海労がのぞみ号の安全問題等を社会的に問題にしている
ためにその組合員である自分の考えを聴き出そうというねらいがあるのではないか,また,JR東海労に所属したまま
では主任運転士にはなれないと言っているように感じた。
ウ また,本件第1回面接試験練習において,a首席助役は,bに対し,c区長同席のもと,「40代でこうありたい
(例えば助役)なら,自分が今どうすべきか考えなければいけない。私の同期でも組合の役員をやっている者もいる。
組合で生きていくなら別だがそうでなければ考えた方がよい」と述べた。
 bは,a首席助役の前記発言を聞き,このままでJR東海労に止まっていては,40代で助役にはなれず,昇進試験
にも合格しないと受け取った。
エ bは,平成6年9月24日午後2時30分ころから約2時間,区長室で,a首席助役及びd指導助役から,本件第
2回面接試験練習を受けた。a首席助役は,その際,bに対し,「動労の助士廃止でもっと会社と歩み寄り,話合いを
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していれば,現在の運転士の待遇はもっと良いものになっていたと私は思う。反対,反対ばかりでは,よくない」等と
述べた。bは,a首席助役の前記発言を,bが所属しているJR東海労を批判していると感じた。また,a首席助役
は,bに対し,「私は多治見機関区時代,動労青年部で頑張っていたが,現在は首席をしている。現在頑張れば,それ
以前のことは会社は問わない」と述べた。bは,a首席助役の前記発言を,JR東海労で頑張っていると将来はない
が,組合を変われば,以前JR東海労の組合員であったという過去は問わず,将来を保障するという意味に受け取っ
た。
オ なお,a首席助役は,前記認定事実に反する供述(甲11【17,21,22,51頁】)をするが,前記認定事
実に照らし,採用することができず,他に前記認定を左右するに足りる証拠は存在しない。
(4) a首席助役の発言の法的評価
 c区長は中津川運輸区の現場の長として,同区における業務運営(社員管理,職場管理等)を行っていたところ,a
首席助役は,同区のナンバー2として区長の職務を補佐する地位にあったこと,a首席助役は,同区の社員からは,同
区の人事考課の査定について強い影響力を有しているものと考えられていた(前記1(2))。このような地位にある
a首席助役が,区長同席のもと,区長室における主任運転士昇進試験の面接試験練習という場で,前記(3)のとおり
JR東海労からの脱退を慫慂しているとみうる言動をし,b自身も所属する補助参加人組合からの脱退を慫慂されてい
ると受け取った本件にあっては,a首席助役の前記(3)の発言は,bが当時所属していた補助参加人組合からの脱退
を慫慂したものと認めるのが相当であり,当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。
3 争点2(a首席助役の補助参加人組合からの脱退を慫慂する発言を原告会社に帰責させることができるか)につい

(1) 原告会社の主張
 a首席助役が,本件面接試験練習において,bに対し,補助参加人組合からの脱退を慫慂する発言をしたとしても,
現業機関における末端管理者にすぎないa首席助役の行為を原告会社へ帰責させるためには,原告会社の代表者,上級
管理職ら利益代表者との間に意思の連絡があり,原告会社がa首席助役の発言を事前に了知していたことが必要であ
る。しかるに,本件においては,このような事実は存在せず,また,本件面接試験練習は,末端管理者の個人的行為に
すぎず,社員の指導育成の一環として行われていたとはいえないから,a首席助役の発言を原告会社に帰責することは
できない。
(2) 本件面接試験練習の位置づけ
ア 確かに,本件全証拠を検討するも,主任運転士昇進試験を受けるために面接試験練習が義務づけられていたとか,
面接試験練習を受けないことが試験の合否に影響を及ぼすと認めるに足りる証拠は存在しない。
イ しかしながら,前記争いのない事実等,前記1(2),2(3)によれば,①本件面接試験練習は,原告会社の昇
進試験に合格することを目的として,区長及び首席助役が概ねその勤務時間中に,原告会社の施設(区長室等)を利用
して,a首席助役が中心となって作成し事前に受験希望者に配付した面接試験練習資料に基づき行っていたものである
こと(争いのない事実等(3)ウ),②主任運転士昇進試験においては,人事考課も考慮されるところ,c区長は区業
務全般の管理及び運営を行う者として,社員の人事考課の査定を行っていたこと(前記1(2)),③a首席助役は,
中津川運輸区のナンバー2としてc区長を補佐し,同区長に対し人事考課の査定の基礎となる社員の勤怠管理・執務状
況の報告を行っていたこと,このため,一般社員は,a首席助役のことを人事考課について強い影響力を持つ人物と考
えていたこと(前記1(2)),④bは,平成6年9月16日,勤務終了後,当直助役から区長面談に行くよう指示を
受けて,本件第1回面接試験練習に臨んだこと,c区長は,その際,bに対して,「本社から先に面接をした人達の面
接態度が悪いというおしかりを受けた。面接練習を最低3回はやらないと面接試験に行かせんぞ。」と発言したこと(
前記2(3))がそれぞれ認められる。これらの認定事実に照らすと,本件面接試験練習は,単に社員の個人的利益の
ためになされたc区長,a首席助役らの個人的行為にすぎないということは困難であり,社員の指導育成としての側面
をも有していたと解するのが相当である。
(3) 原告会社と補助参加人組合との労使関係等
 また,原告会社と補助参加人組合との労使関係等は,前記1(1)によれば,①補助参加人組合は,そもそも東海労
組が原告会社の御用組合にされようとしていると批判して同組合から分離結成された組合であること,②補助参加人組
合は,結成当初から原告会社との間で,争議権問題,新幹線「のぞみ号」の安全問題等で原告会社と対立し,批判的な
行動・態度をとり,多数の訴訟(この中には補助参加人組合結成の契機ともなったl問題・JR総連脱退問題に関する
訴訟も含まれている。),救済命令申立て事件等が係属していたこと,③中津川運輸区においては,平成6年9月当
時,JR東海労中津川分会所属の組合員が原告会社から昇進試験及び配転で差別を受けているのではないかとうかがわ
せるような状況が存在したことが認められる。これらの認定事実から,原告会社が,平成6年9月当時,補助参加人組
合を嫌悪していたことを推認することができ,当該推認を覆すに足りる証拠は存在しない。
(4) 本件面接試験練習の行われた状況,a首席助役の発言等
 前記1(2),2(3)によれば,①c区長は,中津川運輸区の現場の長として同区における業務運営(社員管理,
職場管理等)を行う原告会社の利益代表者の地位にあったものであること,②a首席助役はc区長を補佐し,現場の業
務運営を区長とともに行っている中津川運輸区のナンバー2であること,③c区長は毎朝a首席助役らと助役会を開
き,そこで指示事項,連絡事項の周知徹底を図っていたこと,④c区長は,本件第1回面接試験練習に立ち会い,自ら
bに対しのぞみ号を走らせるのが早かったのか否かについて質問していること,当該質問は,当時のぞみ号を営業運転
することに批判的な態度をとっていた補助参加人組合の方針について,bの考えを聴くものと解されること,⑤a首席
助役の前記2(3)で認定した組合からの脱退慫慂発言(本件第1回面接試験練習)は,c区長同席のもと,c区長の
前記質問に続いてなされていること,⑥a首席助役の本件第2回面接試験練習での組合からの脱退慫慂と評価できる発
言は,区長室で行われたことがそれぞれ認められる。
(5) 当裁判所の判断
 前記(2)ないし(4),取り分け,①原告会社は,本件面接試験練習が実施されたころ,補助参加人組合を嫌悪し
ていたと推認できること,②c区長は毎朝a首席助役らと助役会を開き,そこで指示事項,連絡事項の周知徹底を図っ
ていたこと,⑧a首席助役のbに対する組合脱退慫慂と評価することができる第1回面接試験練習での発言は,c区長
同席のもと,c区長の補助参加人組合の方針に対するbの考えを聴く質問に続いてなされたものであること,④本件面
接試験練習は,単に社員の個人的利益のためになされた個人的行為にすぎないということは困難であり,社員の指導育
成としての側面をも有していたと解されるところ,2回とも区長室で行われたこと,⑤a首席助役は中津川運輸区のナ
ンバー2として区長を補佐して現場の業務運営を区長とともに行っており,同区の社員からも社員の人事考課の査定に
強い影響力を有する人物であると考えられていたこと等に照らすと,a首席助役と原告会社ないしその利益代表者との
間には,bに対する組合脱退慫慂行為について,意思の連絡があるか,少なくとも,a首席助役は原告会社又はその利
益代表者の意を体して,bに対し,補助参加人組合からの脱退を慫慂したものと推認するのが相当であり,他にこの認
定を覆すに足りる証拠はない。
 以上によれば,前記2で認定したa首席助役の本件面接試験練習におけるbに対する補助参加人組合からの脱退慫慂
発言を,原告会社に帰責させるのが相当であり,原告会社はこれに対して不当労働行為責任を負うというべきであり,
前記(1)の原告会社の主張は理由がなく,採用することができない。
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20060605143803.txt
4 争点3(本件命令にその他の違法があるか)について
(1) 原告会社は,中労委命令において初審命令の記載を引用することは許されないから,本件初審命令の認定した
事実を引用した部分について被告がどのような事実を認定したか不明となっており,理由不備の違法があると主張す
る。
 しかしながら,労働委員会の救済命令について定める労働組合法は,「労働委員会は,審問の手続を終わったとき
は,事実の認定をし,この認定に基いて,申立人の請求にかかる救済の全部若しくは一部を認容し,又は申立を棄却す
る命令を発しなければならない。この事実の認定及び命令は,書面によるものとし,その写を使用者及び申立人に交付
しなければならない」(同法27条4項)と定め,また,労働委員会規則は,「命令書には,次の各号に掲げる事項を
記載し,会長が署名又は記名押印しなければならない。4号 理由(認定した事実及び法律上の根拠)」(同規則43
条2項柱書,4号)と定めるのみで,いずれも事実認定の記載方法について何ら具体的な定めを設けていない。また,
使用者及び申立人は,地労委の命令の交付を受けているから,中労委命令において地労委命令の認定した事実が引用さ
れていても,中労委命令の認定判断を理解することについて支障はない。
 したがって,中労委命令において初審命令の記載を引用することは許されないものではなく,これを理由にして本件
命令に理由不備の違法があるとの原告会社の主張は理由がなく,採用することができない。
(2) また,原告会社は,本件命令により是認された本件初審命令は,今後禁止される「慫慂」の行為者・方法・手
段などについて何ら特定しておらず,行政処分としての特定性に欠ける違法があり,これを履行することは社会通念上
不可能であること,仮に本件命令により是認された本件初審命令が,いわゆる抽象的不作為命令と解されるとしても,
原告会社が将来同種の不当労働行為を繰り返す危険はないことに照らし,本件命令は違法であると主張する。
 しかしながら,本件初審命令及びこれを是認した本件命令は,理由も含めた命令全体から判断すれば,原告会社に対
し,区長や助役らをして,面接試験練習等において,補助参加人組合に所属することにより昇進試験等について不利益
を受けることを示唆するなどして,補助参加人組合からの脱退を慫慂してはならない旨命じたものと判断することがで
き,本件初審命令及びこれを是認した本件命令によって禁止される事項は特定されているといえ,これを遵守すること
が社会通念上不可能であるということはできない。
 また,前記判示した原告会社と補助参加人組合との労使関係,本件脱退慫慂行為の態様,地労委及び中労委における
原告会社の態様等にかんがみれば,たとえbが補助参加人組合を脱退したとしても,原告会社が,将来再び区長や助役
らをして,面接試験練習等において,補助参加人組合員に対し,同組合に所属することにより昇進試験等について不利
益を受けることを示唆するなどの脱退慫慂に及ぶことを繰り返すおそれがあると認められ,将来予想される同種の不当
労働行為をあらかじめ禁止した本件初審命令及びこれを是認した本件命令に違法はなく,この点でも原告会社の主張は
採用することができない。
(3) さらに,原告会社は,本件初審命令及びこれを是認した本件命令は,申立人である補助参加人組合の請求する
救済以上のものを認容しており,労働委員会規則43条1項に違反する上,およそそのような命令を発令する必要もな
いと主張する。
 しかしながら,労働委員会には,労働者の権利保護という目的達成のため,広範な裁量権が与えられており,救済命
令についても,その裁量によって,申立ての趣旨に反しない限り,不当労働行為がなかったと同じ状態に回復するため
に適当な処分を命じることができると解するのが相当である。これを本件についてみるに,前記(2)で判示したとお
り,本件初審命令及びこれを是認した本件命令は,理由も含めた命令全体から判断すると,原告会社に対し,区長や助
役らをして,面接試験練習等において,補助参加人組合員に対し,同組合に所属することにより昇進試験等について不
利益を受けることを示唆するなどして,補助参加人組合からの脱退を慫慂してはならない旨命じたものと判断すること
ができ,補助参加人組合の申立ての趣旨に反するとはいえず,むしろ申立の趣旨に沿う適切妥当な救済ということがで
きる。したがって,この点に関する原告会社の主張も理由がなく,採用することができない。
(4) 以上検討したとおり,原告らが主張する本件命令のその他の違法はいずれも理由がない。
第4 結語
 以上によれば,本件面接試験練習におけるa首席助役のbに対する発言を不当労働行為と認定してなされた本件命令
は相当である。よって,原告会社の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第36部
裁判長裁判官 難波孝一
裁判官 増永謙一郎
裁判官 知野明
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