弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人森本宏、同内藤秀文、同山本健司の上告趣意は、判例違反をいうが、所論
引用の判例は事案を異にし本件に適切でないから、刑訴法四〇五条の上告理由に当
たらない。
 なお、所論にかんがみ、被告人の過失行為と被害者の死亡という結果との間の因
果関係につき、職権により判断する。
 一 本件の事実関係は、原判決及びその是認する第一審判決の認定によると、次
のとおりである。
 1 被告人は、スキューバダイビングの資格認定団体から認定を受けた潜水指導
者として、潜水講習の受講生に対する潜水技術の指導業務に従事していた者である
が、昭和六三年五月四日午後九時ころ、和歌山県a町の海岸近くの海中において、
指導補助者三名を指揮しながら、本件被害者を含む六名の受講生に対して圧縮空気
タンクなどのアクアラング機材を使用して行う夜間潜水の講習指導を実施した。当
時海中は夜間であることやそれまでの降雨のため視界が悪く、海上では風速四メー
トル前後の風が吹き続けていた。被告人は、受講生二名ごとに指導補助者一名を配
して各担当の受講生を監視するように指示した上、一団となって潜水を開始し、一
〇〇メートル余り前進した地点で魚を捕えて受講生らに見せた後、再び移動を開始
したが、その際、受講生らがそのまま自分についてくるものと考え、指導補助者ら
にも特別の指示を与えることなく、後方を確認しないまま前進し、後ろを振り返っ
たところ、指導補助者二名しか追従していないことに気付き、移動開始地点に戻っ
た。この間、他の指導補助者一名と受講生六名は、逃げた魚に気をとられていたた
め被告人の移動に気付かずにその場に取り残され、海中のうねりのような流れによ
り沖の方に流された上、右指導補助者が被告人を探し求めて沖に向かって水中移動
を行い、受講生らもこれに追随したことから、移動開始地点に引き返した被告人は、
受講生らの姿を発見できず、これを見失うに至った。右指導補助者は、受講生らと
共に沖へ数十メートル水中移動を行い、被害者の圧縮空気タンク内の空気残圧量が
少なくなっていることを確認して、いったん海上に浮上したものの、風波のため水
面移動が困難であるとして、受講生らに再び水中移動を指示し、これに従った被害
者は、水中移動中に空気を使い果たして恐慌状態に陥り、自ら適切な措置を採るこ
とができないままに、でき死するに至った。
 2 右受講生六名は、いずれも前記資格認定団体における四回程度の潜水訓練と
講義を受けることによって取得できる資格を有していて、潜水中圧縮空気タンク内
の空気残圧量を頻繁に確認し、空気残圧量が少なくなったときは海上に浮上すべき
こと等の注意事項は一応教えられてはいたが、まだ初心者の域にあって、潜水の知
識、技術を常に生かせるとは限らず、ことに夜間潜水は、視界が悪く、不安感や恐
怖感が助長されるため、圧縮空気タンク内の空気を通常より多量に消費し、指導者
からの適切な指示、誘導がなければ、漫然と空気を消費してしまい、空気残圧がな
くなった際に、単独では適切な措置を講ぜられないおそれがあった。特に被害者は、
受講生らの中でも、潜水経験に乏しく技術が未熟であって、夜間潜水も初めてであ
る上、潜水中の空気消費量が他の受講生より多く、このことは、被告人もそれまで
の講習指導を通じて認識していた。また、指導補助者らも、いずれもスキューバダ
イビングにおける上級者の資格を有するものの、更に上位の資格を取得するために
本件講習に参加していたもので、指導補助者としての経験は極めて浅く、潜水指導
の技能を十分習得しておらず、夜間潜水の経験も二、三回しかない上、被告人から
は、受講生と共に、海中ではぐれた場合には海上に浮上して待機するようにとの一
般的注意を受けていた以外には、各担当の受講生二名を監視することを指示されて
いたのみで、それ以上に具体的な指示は与えられていなかった。
 二 右事実関係の下においては、被告人が、夜間潜水の講習指導中、受講生らの
動向に注意することなく不用意に移動して受講生らのそばから離れ、同人らを見失
うに至った行為は、それ自体が、指導者からの適切な指示、誘導がなければ事態に
適応した措置を講ずることができないおそれがあった被害者をして、海中で空気を
使い果たし、ひいては適切な措置を講ずることもできないままに、でき死させる結
果を引き起こしかねない危険性を持つものであり、被告人を見失った後の指導補助
者及び被害者に適切を欠く行動があったことは否定できないが、それは被告人の右
行為から誘発されたものであって、被告人の行為と被害者の死亡との間の因果関係
を肯定するに妨げないというべきである。右因果関係を肯定し、被告人につき業務
上過失致死罪の成立を認めた原判断は、正当として是認することができる。
 よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり決定する。
  平成四年一二月一七日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    橋   元   四 郎 平
            裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    味   村       治
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    三   好       達

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