弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決中上告人A1に関する部分を破棄し、右部分につき本件を大阪高
等裁判所に差し戻す。
     上告人A2、同A3の本件上告を棄却する。
     前項の上告費用は上告人A2、同A3の負担とする。
         理    由
 上告代理人山口貞夫、同能勢克男、同柴田茲行、同莇立明、同高橋清一、同石川
元也、同平田武義、同高谷昌弘、同渡辺馨、同吉原稔、同小林義和、同稲村五男の
上告理由第一章及び第二章について。
 旧教育委員会法(昭和二三年法律第一七〇号)三四条四項但書にいう「急施を要
する場合」にあたるかどうかについては、会議の招集権者である教育委員会の委員
長が、その当時における客観的情勢その他諸般の事情から、当該事件が行政措置上
急施を要する等の事情がないかどうかを考慮し、その裁量的判断によりこれを決す
ることができるものと解すべきところ(当裁判所昭和三四年(オ)第八五一号同三
六年四月二七日第一小法廷判決・民集一五巻四号九二八頁)、原審の確定したよう
な本件の緊迫した客観的情勢のもとにおいては、被上告委員会の委員長が、原判示
の臨時会を招集するにつき、事件が「急施を要する場合」にあたるものと判断し、
同法三四条四項本文の定める三日前告示の方法による招集手続に代えて、開会の約
二〇分前の告示という招集方法をとつたとしても、これを目して直ちに委員長に任
された裁量権の行使を誤つたものとすることはできない。したがつて、これと同旨
の原審の判断は相当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することが
できない。
 同第一章及び第三章について。
 所論の点に関する原審の認定判断の要旨は、次のとおりである。すなわち、旧教
育委員会法は、教育委員会の会議はこれを公開すべきものと定めていたが(三七条
一項本文)、本件免職処分を議決した前記臨時会の会議は、同規定に違反して非公
開のまま開会された。しかし、右会議においては、教員の人事に関する議案は従来
すべて秘密会で審議していたところから、委員長の開会宣言に引き続いて、開会後
わずか一、二分のうちに出席委員全員の一致で会議を秘密とする旨の議決がされ(
同条項但書)、その秘密会において本件免職処分についての審理及び議決が行われ
た。このような経過からみれば、右臨時会の一、二分間の非公開の瑕疵は軽微なも
のであつて、これに続く秘密会の開催によりその瑕疵は治癒され、本件免職処分の
議決の効力に影響を及ぼさないものと解すべきである、というのである。
 論旨は、原審の右判断には同法三七条一項の解釈適用を誤つた違法があると主張
する。
 思うに、同法は、教育行政の民主化の原理に基づき、その運営に民意を反映させ
るために、教育委員会の委員の選任について当該地方公共団体の住民による公選制
を採用し(七条以下)、委員会の会議を招集するときは法定期間前にこれを告示さ
せ(三四条四項)、その会議はこれを公開すべきものとし、出席委員の三分の二以
上の多数で議決したときに限つて秘密会を開くことができると定めている(三七条)。
これらの規定によれば、同法のもとにおける教育委員会の会議の公開は、会議の公
正な運営を確保するとともに、各委員の活動を住民の直接の監視と批判にさらし、
あわせて次期選挙の際における判断資料を得させるためのものであるという点にお
いて、重要な意義を有するものであり、これに違反して行われた議事が瑕疵を帯び
るものであることは、いうまでもない。
 しかしながら、このことから直ちに、教育委員会の会議の過程において形式上い
ささかでも右公開原則に違反するところがあれば、常にその議決の効力に影響を及
ぼすものとすることは相当でなく、具体的事案における違反の程度及び態様が当該
議案の議事手続全体との関係からみて実質的に前記公開原則の趣旨目的に反すると
いうに値いしないほど軽微であつて、その瑕疵が議決の効力に影響を及ぼすとする
には足りない場合もありうるものと解すべきである。
 本件についてみると、本件免職処分は、被上告委員会の出席委員五名の全員一致
により秘密会で審議することとされた会議において、議決されたものであるが、右
秘密会で審議する旨の議決そのものに公開違反の瑕疵があり、その瑕疵がひいて右
免職処分の議決をも違法ならしめるものであると主張されているのである。しかし、
原審の認定するところによれば、被上告委員会においては、従来人事に関する案件
はすべて秘密会で審議されていたものであつて、各委員ともこれを了知しており、
さればこそ上告人らについての人事に関する本件処分案件も出席委員全員の賛成に
より秘密会で審議することとされたというのであるから、右秘密会で審議する旨の
議決自体はいわば予定されていたところともいえるのであつて、これを公開の会議
で行うことは、その議決の公正を確保する面からは実質的にさして重要な意義を有
するものでなかつたということができる。また、原審認定の事実に徴すれば、被上
告委員会において、本件処分案件を秘密会で審議する旨の議決を全面的に非公開で
行うこととする積極的な措置をとつたものとまでは認められず、むしろ、上告人ら
旭ケ丘関係者だけが傍聴することができない状況のもとで会議が開かれたため、会
議の完全な公開がその限度でされなかつたにとどまり、右秘密会で審議する旨の議
決が全く秘密裡にされたものであるということもできないのである。以上の点をあ
わせ考えるときは、本件免職処分の議決には、その審議を秘密会でする旨の議決が
完全な公開のもとにない会議で行われたという点において形式上公開違反の瑕疵が
あるとはいえ、右処分案件の議事手続全体との関係からみれば、その違反の程度及
び態様は実質的に前記公開原則の趣旨目的に反するというに値いしないほど軽微で
あり、これをもつて右免職処分の議決そのものを取り消すべき事由とするにはあた
らないものと解するのが、相当である。
 してみると、右公開違反の瑕疵がそれに続く秘密会の開催によつて治癒されたと
する原判決の説示には是認しがたいものがあるけれども、右瑕疵が本件免職処分の
取消事由にあたらないとしたその結論は正当というべきであり、結局、原判決に所
論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 同第一章及び第四章について。
 本件免職処分に所論の瑕疵があるとの論旨は、原審において主張、判断を経てい
ない事項に関するものであるから、採用することができない。
 同第一章、第五章及び第六章について。
 原審の確定した事実関係のもとにおいては、上告人A2及び同A3の原判示の行
為が地方公務員法二九条一項一号及び二号所定の懲戒事由に該当するものであり、
これについて被上告委員会が免職処分を選択したことをもつて裁量権の行使を誤つ
たものとはいえないとした原審の認定判断は、相当として是認することができ、原
判決に所論の違法はない。論旨は、原審の認定しない事実又は独自の見解を前提と
して原判決を非難するにすぎないものであつて、いずれも採用することができない。
 同第七章について。
 本件記録及び原判決によれば、Dは、上告人A2、同A3とともに免職処分を受
け、本訴においてその取消しを求めていたが、原審係属中である昭和四〇年一〇月
二三日に死亡し、上告人A1が相続した。そして、同上告人は、昭和四二年一二月
一五日原審に対し訴訟承継の申立てをしたところ、原審は、取消訴訟の訴訟追行権
は一身専属のものであり、本件免職処分の取消しによつてDの受くべかりし給料請
求権等を同上告人が取得する関係は、取消判決の法律要件的効果ないし反射的効果
にすぎないから、同上告人が本訴を承継することはできないとして、主文において
Dに関する訴訟が終了した旨を宣言した。
 しかし、右訴訟承継を認めなかつた原審の判断は、是認することができない。D
は、本訴係属中に死亡したことにより、もはや将来にわたつて公務員としての地位
を回復するに由ないこととなつたことは明らかであるが、本件免職処分後死亡に至
るまでの間に公務員として有するはずであつた給料請求権その他の権利を主張する
ことができなかつたという法律状態は依然として存続しており、その排除、是正の
ためには遡つて右処分の取消しを必要とするのであるから、将来における公務員の
地位の回復が不可能になつたというだけでは、右処分の取消しを求める法律上の利
益ないし適格が失われるものではない(行政事件訴訟法九条、当裁判所昭和三七年
(オ)第五一五号同四〇年四月二八日大法廷判決・民集一九巻三号七二一頁参照)。
そして、右の場合、原告である当該公務員が訴訟係属中に死亡したとしても、免職
処分の取消しによつて回復される右給料請求権等が一身専属的な権利ではなく、相
続の対象となりうる性質のものである以上、その訴訟は、原告の死亡により訴訟追
行の必要が絶対的に消滅したものとして当然終了するものではなく、相続人におい
て引き続きこれを追行することができるものと解すべきである。けだし、免職処分
を取り消す判決によつて給料請求権等を回復しうる関係は、右取消しに付随する単
なる法律要件的効果ないし反射的効果ではなく、取消訴訟の実質的目的をなすもの
であつて、その訴訟の原告適格を基礎づける法律上の利益とみるべきことは前記の
とおりであるから、右利益が相続によつて承継されるものであるときは、これに伴
い原告適格も相続人に承継されると解するのを相当とするからである。そして、こ
の結論は、免職処分の取消訴訟が右給料請求権等を直接訴訟物とするものでないこ
とによつて、なんら左右されるものではない。それゆえ、Dの提起した本件訴訟は、
同人の死亡によつて当然終了するものではなく、相続人たる上告人A1においてこ
れを承継すべきものである。これと異なる見解のもとに右訴訟の終了を宣言した原
判決は違法であつて、論旨は理由がある。
 よつて、原判決中、上告人A1に関する部分を破棄し、右部分につき更に本案に
ついて審理判断させるためこれを原審に差し戻すこととし、上告人A2、同A3の
上告をいずれも棄却することとして、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条一項、
三九六条、三八四条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    坂   本   吉   勝
            裁判官    高   辻   正   己

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