弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人Aの負担とする。
         理    由
 被告人B本人の上告趣意第一点は憲法三八条三項違反を主張するが、原審は被告
人Bの自白の外に、これを補強するに足りる他の証拠をもつて判示犯罪事実を認定
し有罪の言渡をしたものであることは、記録及び原判文に徴し明白であるから、所
論違憲の主張は前提を欠き採るを得ない。(なお所論同被告人の自白調書につき、
被告人不知の間に、被告人の供述しない不利益な供述がほしいままに書き加えられ
たことを認めるに足りる資料はないから、この点の主張もまた失当である。)
 同第二点は違憲をいう点もあるが、実質は単なる法令違反、事実誤認、再審請求
事由の存在及び量刑不当の主張をいでず、すべて刑訴四〇五条の上告理由に当らな
い。
 右被告人の弁護人岸達也の上告趣意第一点ないし第三点は単なる法令違反及び事
実誤認、第四点及び第五点は単なる法令違反、第八点は量刑不当の主張であつて、
いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 同第六点は憲法違反及び判例違反を主張するが、判例違反の主張は判例を具体的
に指摘しない不適法な主張であるのみならず、仮に所論の如く被告人の勾留中糧食
の差入を禁止した違法があるとしても、その勾留中の自白の任意性はそれらの事由
とは関係なく、その自白をした当時の情況に照らして判断すべきであり(昭和二八
年七月一〇日第二小法廷判決、刑集七巻七号一四七四頁参照)、記録によれば所論
自白調書につき供述の任意性を疑うに足りる事由は少しも認められないから、違憲
の主張は前提を欠き採るを得ない。
 同第七点は憲法違反及び判例違反を主張するが、所論は原審の訴訟手続の違法を
主張するに過ぎず、毫も原判決が所論引用の大法廷判例と相反する判断をしたこと
を主張するものでなく、加之、右大法廷判例は懲役刑の執行猶予を言い渡した第一
審判決を控訴審が書面審理のみにより破棄しみずから実刑の言渡をする場合と刑訴
四〇〇条但書違反の有無に関する判例であつて所論の点に適切を欠き、所論判例違
反の主張は前提を欠き採るを得ず、また控訴審が同三九三条一項又は二項の規定に
よる事実の取調をした上同四〇〇条但書により直ちに判決をする場合には、弁護人
は右事実取調の結果に基いて弁論をすることができるに止まり(同三九三条四項)、
同四〇四条により同二九三条を準用して被告人及び弁護人をして意見を陳述させ、
また刑訴規則二五〇条により同二一一条を準用して被告人又は弁護人に最終に陳述
する機会を与えなければならないものでないことは、昭和二五年四月二〇日第一小
法廷判決、刑集四巻四号六四八頁、同年一〇月一二日第一小法廷決定、刑集四巻一
〇号二〇八七頁、同二七年二月六日大法廷判決、刑集六巻二号一三四頁の趣旨とす
るところであるから、控訴審の手続に刑訴二九三条、刑訴規則二一一条の規定の準
用があることを前提とする所論は失当であるのみならず記録を精査するも原裁判所
が刑訴三九三条四項の規定により弁護人が事実の取調の結果に基いて弁論をなす権
利の行使を妨げたと認めるべき形跡はないから、原審の訴訟手続には何ら所論の如
き違法の点はなく、違憲の主張は前提を欠き採るを得ない。
 被告人A本人の上告趣意は単なる法令違反、事実誤認及び量刑不当の主張をいで
ず、すべて刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(なお所論同被告人の自白調書に
つき、被告人不知の間に、被告人の供述しない不利益な供述がほしいままに書き加
えられたことを認めるに足りる資料はないから、この点の主張もまた失当である。)
 右被告人の弁護人石高栄次郎の上告趣意第一点は単なる法令違反、第二点は量刑
不当の主張であつて、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四一四条、三八六条一項三号、被告人Aに対し更に同一八一条により裁
判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
  昭和三六年七月五日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助

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