弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決中予備的請求に係る上告人ら敗訴部分を破棄し、右部分につき本
件を高松高等裁判所に差し戻す。
     上告人らのその余の上告を棄却する。
     前項に関する上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人田村裕の上告理由について
 一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 原判決別紙不動産目録記載の土地(以下「本件土地」という。)は、Dの所
有であった。
 2 Dは、昭和五八年二月一日付け目筆証書によって、本件土地の北一五〇坪を
上告人A1の所有地とし、南一八六坪を被上告人及び上告人A2の折半とする旨の
遺言(以下「D遺言」という。)をした。
 3 Dは、昭和五八年四月一日死亡し、その法定相続人は、妻であるE、長男で
ある被上告人、二男である上告人A3、三男である上告人A1及び四男である上告
人A2である。
 4 右Dの相続人らは、昭和五八年八月一四日、D遺言が存在することを知らず
に、本件土地をEが単独で相続する旨の遺産分割協議(以下「本件遺産分割協議」
という。)をした。上告人ら及び被上告人は、各自が法定の相続分を有することを
前提に、Dから生前本件土地をもらったと信じ込んでいるEの意思を尊重するとと
もに、Eの単独所有にしても近い将来自分たちが相続することになるとの見通しか
ら、Eに本件土地を単独で相続させる旨の本件遺産分割協議をした。
 5 Eは、昭和五八年八月二七日付け公正証書によって、財産全部を被上告人に
相続させる旨の遺言(以下「E遺言」という。)をした。
 6 本件土地につき、本件遺産分割協議に基づき、Eを所有名義人とする昭和五
八年九月二六日受付所有権移転登記がされた。
 7 Eは、昭和五九年一月七日死亡し、その法定相続人は、上告人ら及び被上告
人である。
 8 本件土地につき、作幸技遺言に基づき、被上告人を所有名義人とする昭和五
九年二月二一日受付所有権移転登記がされた。
 9 上告人A3は、昭和五九年一一月ころ、D遺言の遺言書を発見した。上告人
らは、同じころ、E遺言の内容を知り、同六〇年二月七日、被上告人に対し遺留分
減殺請求をした。
 二 上告人らは、主位的請求として、D遺言の趣旨により本件土地につき上告人
A1は一一一〇分の四九五、同A2は一一一〇分の三〇七の共有持分を取得したと
主張して、被上告人に対し、本件土地につき右割合による更正登記手続を求め、予
備的請求として、本件遺産分割協議の成立を否認するとともに、仮に成立したとし
ても要素の錯誤により無効であると主張して、被上告人に対し、本件土地がDの遺
産であることの確認及び本件土地につき上告人らの持分各一六分の三とする更正登
記手続を求めた。被上告人は、上告人らの右主張を争い、本件土地は本件遺産分割
協議によりEが相続したと主張した。
 原審は、前記一の事実関係に基づいて次の判断を示し、上告人らの予備的請求の
うち本件土地の更正登記手続請求につき上告人らの持分を各八分の一とする限度で
認容すべきものとし、主位的請求及びそのほかの予備的請求を棄却すべきものとし
た。
 1 上告人らは、法定の相続分を有することを知りながら、Dから生前本件土地
をもらったと信じ込んでいるEの意思を尊重するとともに、Eの単独所有にしても
近い将来自分たちが相続することになるとの見通しから、本件遺産分割協議をした
のであるから、上告人らが当時D遺言の存在を知っていたとしても、本件遺産分割
協議の結果には影響を与えなかったということができる。したがって、上告人らが
D遺言の存在を知らなかったからといって本件遺産分割協議における上告人らの意
思表示に要素の錯誤があるとはいえない。
 2 本件土地は、本件遺産分割協議によりEが単独で相続したから、上告人らの
主位的請求及び予備的請求のうち本件土地がDの遺産であることの確認を求める部
分は理由がない。
 3 上告人らが本件E遺言についてした遺留分減殺請求により、上告人らは本件
土地につき各八分の一の持分を有することになるので、予備的請求のうち更正登記
手続請求は右の限度で理由がある。
 三 しかしながら、原審の右1の判断は是認することができない。その理由は、
次のとおりである。
 相続人が遺産分割協議の意思決定をする場合において、遺言で分割の方法が定め
られているときは、その趣旨は遺産分割の協議及び審判を通じて可能な限り尊重さ
れるべきものであり、相続人もその趣旨を尊重しようとするのが通常であるから、
相続人の意思決定に与える影響力は格段に大きいということができる。ところで、D
遺言は、本件土地につきおおよその面積と位置を示して三分割した上、それぞれを
被上告人、上告人A1及び同A2の三名に相続させる趣旨のものであり、本件土地
についての分割の方法をかなり明瞭に定めているということができるから、上告人
A1及び同A2は、D遺言の存在を知っていれば、特段の事情のない限り、本件土
地をEが単独で相続する旨の本件遺産分割協議の意思表示をしなかった蓋然性が極
めて高いものというべきである。右上告人らは、それぞれ法定の相続分を有するこ
とを知りながら、Dから生前本件土地をもらったと信じ込んでいるEの意思を尊重
しようとしたこと、Eの単独所有にしても近い将来自分たちが相続することになる
との見通しを持っていたという事情があったとしても、遺言で定められた分割の方
法が相続人の意思決定に与える影響力の大きさなどを考慮すると、これをもって右
特段の事情があるということはできない。
 これと異なる見解に立って、右上告人らがD遺言の存在を知っていたとしても、
本件遺産分割協議の結果には影響を与えなかったと判断した原判決には、民法九五
条の解釈適用を誤った違法があり、ひいては審理不尽の違法があって、右違法が判
決に影響を及ぼすことは明らかであるから、この趣旨をいう論旨は理由がある。
 四 D遺言の内容は特定の遺産を特定の相続人に相続させる趣旨のものではなく、
D遺言が存在することによって上告人らが本件土地につき各主張に係る共有持分を
取得するとはいえないというべきであるから、上告人らの主位的請求は主張自体理
由がないというべきである。したがって、右主位的請求を棄却した原審の判断は、
結論において是認することができる。
 五 よって、原判決のうち予備的請求に係る上告人ら敗訴部分を破棄し、右部分
につき錯誤の成否について更に審理を尽くさせるため原審に差し戻し、上告人らの
その余の上告を棄却することとし、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九
五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    味   村       治
            裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    三   好       達
            裁判官    大   白       勝

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛