弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告は孰れも之を棄却する。
         理    由
 弁護人小野謙三、同井本台吉、同長野潔上告趣意
 第一点について。
 原判決挙示の証拠たる原審第二回公判調書中証人Aの供述記載こよると同人は判
示B百貨店の商事部の部員として商品の販売もしており、同部の主任である被告人
Cに話をして本件チューブの取引を進行せしめたものであり該取引のことが領置に
かかる手帳に書いてあるが、そういう証拠が見つかると店のために悪いと思つてそ
の部分を破つたことが認められ、同じく証人Dの原審公延における供述内容による
と同人が右Aを取調べるとAは本件の取引は右商事部の主任の被告人Cの命令を受
けて会社のためにやつたと述べたことが認められ、同じくEの提出した始末書中の
記載によると同人が判示チューブを右商事部に売渡したことが認められる。而して
右の証拠内容を考量し更に之に原判決挙示の全証拠を綜合すると被告人の為した判
示取引がすべて被告会社の業務に関して行われ被告人Cの個人的な取引として行わ
れたものでないことが認められる。従つて原判決は所論事実を証拠によつて認定し
たものであるから原判決には所論理由不備の違法を蔵しない。論旨は理由がない。
 第二点について。
 原判決挙示の証拠内容は論旨第一点に対する説明において述べたようなものであ
つて、更に詳細にその内容を検討綜合すると被告人Cは判示取引を判示会社の商事
部の主任として同会社のために行い、自己個人の利益の為に行つたのではないこと
が確認せられる。果して然らば被告人Cの判示違反行為の経済的責任は当然被告人
会社に帰することとなるから其の事実が特に判文に明示せられていなくても原審の
認めた本件事実内容に<要旨第一>は何等の消長を来さないのである。物価統制令第
四十条に所謂法人の従業員の違反行為が当該法人の業務に関するとは該
行為が法人の業務に関連して具体的に行われ、その経済上の影響が当然法人に及ぶ
ことを内容とするものと解するを相当とする。原審が証拠によつて認定したところ
は之と同様の内容を有するのであり、所論の様に当該違反行為が一般的又は外形上
当該法人の業務に属するものと見られるだけの内容を有するにすぎたいものではな
い。即ち当該違反行為の経済的責任が法人に帰するとの所論事実は既に所謂業務に
関するとの事実中に包含せられているから、判決においては単に右違反行為が法人
の業務に関する旨を明示すれば足り右所論事実は之を説示するを要しない。従つて
原判決は本件における罪となるべき事実を説示するにおいて何等欠くるところがな
いばかりでなくその事実を証明するに十分な証拠を挙示している。即ち原町決の理
由は事実並に証拠の両方面において備わつており、所論違法は一も原判に存しな
い。論旨は理由がない。
 第四点について。
 巡査は明治十四年司法省布達甲第五号、同年司法省達丙第十三号及び明治十六年
司法省達丁第九号に基いて、<要旨第二>同布達及び達に所謂警部を代理して司法警
察官としての職務を取ることができる。而して右布達及び達の発せられ
た時期には警部のみ存して今日所謂警部補は存しなかつたからその所謂警部中には
今日所謂警部の外今日所謂警部補をも包含するものと解することができる。しかも
一般的に謂つて警部を代理することのできる者はその補佐官たる警部補をも代理し
得るものと解し得られる。従つて今日においては巡査は右法令に基いて警部補をも
代理し得るものと解するを相当とする。従つて所論聴取書は孰れも法令に基いて適
正に形成せられた有効の書類である。さればこれを断罪の資料に供した原判決には
所論採証法則の無規又は証拠とすべからざる書類を証拠に採用したとの違法は存し
ない。論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長刑事 佐伯顯二 判事 久礼田益喜 判事 仁科恒彦)

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