弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 弁護人木村美根三の控訴趣意は別紙記載のとおりである。
 原判決が証拠に引用した被告人の司法警察員及び検察官に対する各第一、二回供
述調書中の被告人の供述記載によれば原判示犯罪事実のごとく被告人は参議院議員
選挙の立候補者に当選を得しめる目的を以て投票竝選挙運動方を依頼する報酬であ
るの情を知りながら金千五百円を受領した事実を認めることが出来る。しかして右
判決は其の事実認定の証拠として被告人の右自白の外原審第二回公判調書中の証人
Aの供述記載を挙げているのであつて同調書によればAはB党に所属し同党C支部
副幹事長をやつていて県会議員であり昭和二十五年六月四日施行の参議院議員選挙
ではB党からD地方区としてE、全国区としてFの両名を立候補せしめ其の当選を
得せしめるため選挙運動に参加したが同年五月下旬頃Gを通じて貸借関係もない被
告人に現金千五百円をやつた事実を認定しうるのであるから原審は被告人の自白を
唯一の<要旨>証拠として右犯罪事実を認定したものではない。もつとも右証人の供
述自体では被告人が投票並選挙運動方を依頼する報酬であるの情を知りなが
ら金員を受領した事実を直接認定することは出来ないけれども自白を補強すべき証
拠は必ずしも自白にかかる犯罪組成事実の全部に亘つて、もれなく之を裏付けする
ものでなければならないものではなく、自白にかかる事実の真実性を保障しうるも
の換言すれば其の事実が架空のものでないことを推認しうるものであれば足りると
解すべきであるから右証人の供述記載により被告人が参議院議員選挙日の数日前に
選挙運動者AからGを通じ金千五百円を受領した事実が認められ被告人の自白が架
室の事実に関するものでないことは明らかであるから右証人の供述は被告人の自白
の補強証拠として十分であるといわねばならない。よつて此の点に関する論旨は理
由がない。
 なお所論は前記被告人の自白調書は取調官の誘導強迫に基くものであるから任意
性を欠くので証拠とすることが出来ないのに証拠としている違法があるというので
あるが原審第二回公判調書の記載によれば被告人は取調官より右供述調書を全部読
み聴かせられた上自分で署名押印した事実を認められるのであつて、仮りに自白に
先立ち誘導的質問があつたとしても必ずしも自白の任意性を喪失するものと断ずる
は早計である。記録を通覧するに本件につき右自白調書が取調官の誘導ないし強迫
の下に作成された状況の存しないことを窮知しうるのであるから原審が其の任意性
を認めて断罪の資料に供したのは洵に相当であつて所論のような違法は存しない。
論旨は理由がない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十六条に基き本件控訴を棄却すべきものとして主文の
とおり判決する
 (裁判長裁判官 大野正太郎 裁判官 松村美佐男 裁判官 檀崎喜作)

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