弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1 被告Y1は,茨木市に対し,金81万7800円並びに内金3万0800円に
対する平成13年3月24日から支払済みまで年5分の割合による金員,内金41
万4000円に対する平成13年7月14日から支払済みまで年5分の割合による
金員及び内金37万3000円に対する平成13年7月20日から支払済みまで年
5分の割合による金員を支払え。
2 原告の被告Y1に対するその余の請求及びその余の被告らに対する請求をいず
れも棄却する。
3 訴訟費用は,原告に生じた費用の3分の1と被告Y1に生じた費用の3分の2
を被告Y1の負担とし,原告及び被告Y1に生じたその余の費用並びに被告Y2,
被告Y3,被告Y4,被告Y5及び被告Y6に生じた費用を原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告Y1,被告Y2及び被告Y3は,茨木市に対し,連帯して金25万521
5円及びこれに対する平成13年3月24日から支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
2 被告Y1,被告Y2及び被告Y4は,茨木市に対し,連帯して金41万400
0円及びこれに対する平成13年7月14日から支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
3 被告Y1,被告Y2及び被告Y5は,茨木市に対し,連帯して金37万300
0円及びこれに対する平成13年7月20日から支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
4 被告Y1,被告Y2及び被告Y6は,茨木市に対し,連帯して金28万304
5円及びこれに対する平成13年10月17日から支払済みまで年5分の割合によ
る金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,茨木市の住民である原告が,茨木市長が必要性がないにもかかわらず茨
木市職員らをA協会(以下「協会」という。)主催の外国旅行(以下「本件各旅
行」という。)に随行させた上,同市職員らの旅費を公金から支出したことにより
同市が損害を被ったとして,支出負担行為(以下「本件各支出負担行為」とい
う。)を決裁した同市長Y1及び公金支出命令(以下「本件各公金支出命令」とい
う。)を専決した同市主務課長Y2に対し,地方自治法(平成14年法律第4号に
よる改正前の地方自治法。以下「法」という。)242条の2第1項4号前段に基
づき,同市に代位して,不法行為に基づく損害賠償を請求するとともに,本件各旅
行に随行した同市職員であるY3,Y4,Y5及びY6がそれぞれ不当に利得を得
たことにより同市が損失を
被ったとして,同市職員らに対し,同号後段に基づき,同市に代位して,不当利得
返還を請求した住民訴訟である。
1 前提事実(争いのない事実及び証拠より容易に認定できる事実)
(1) 当事者
ア 原告は,茨木市の住民である(争いがない)。
イ 被告ら
(ア) 被告Y1は,茨木市の市長の地位にある者である(争いがない)。
(イ) 被告Y2は,平成13年3月当時茨木市の自治振興課長の地位に,同年4月
以降市民活動推進課長の地位にある者であり(甲1),主務課長として,本件各公
金支出命令をいずれも専決し,資金前渡職員として前渡受取金(以下「本件各旅
費」という。)を受け取り,本件各旅費を被告Y3,被告Y4,被告Y5及び被告
Y6に交付した者である(争いがない)。
(ウ) 被告Y3,被告Y4,被告Y5及び被告Y6(以下4名をまとめて「被告市
職員ら」という。)は,いずれもそれぞれ本件各旅費を受領して本件各旅行に随行
した茨木市職員である(争いがない)。本件各旅行時,被告Y3は,茨木市教育委
員会社会教育部社会体育課指導主事兼茨木市立市民プール兼務,茨木市立市民体育
館長兼茨木市立中条市民プール場長(在任期間平成11年4月1日~平成13年3
月31日(丙11)),被告Y4は,茨木市教育委員会生涯学習部スポーツ振興課
主事(在任期間平成13年4月1日~平成14年3月31日(丙12)),被告Y
5は,市民生活部市民活動推進課主事(在任期間平成13年4月1日~現在(丙1
3)),被告Y6は,市民生活部市民活動推進課主査(在任期間平成13年4月1
日~現在(丙10)
)の地位にあった。
(2) 茨木市の国際施策
ア 姉妹・友好都市提携
 茨木市は,昭和55年にアメリカ合衆国ミネソタ州ミネアポリス市(以下「ミネ
アポリス市」という。)と姉妹都市提携し,昭和60年には,中華人民共和国安徽
省安慶市(以下「安慶市」という。)と友好都市提携を行った(丙1)。
イ 茨木市総合計画(第3次)
 茨木市は,茨木市総合計画(第3次)(丙1)を策定している。茨木市は,同計
画の中で,国際交流や国際協調の波を受けて,国レベルの交流に加えて自治体間の
交流や地域レベル,市民レベルの生活に密着した交流を進め,相互理解を深めると
ともに国際的感覚を養うために,交流活動の推進のみならず,交流活動の体制づく
り,交流活動拠点の形成などの施策を充実していくことを宣言している(丙1)。
ウ 茨木市平成12年度施政方針
 茨木市は,平成12年度施政方針の中で,ミネアポリス市と提携20周年,安慶
市とは提携15周年を迎えたことから,協会との連携を図りながら記念事業等を実
施し,両市との友好親善をさらに深めていくことを宣言している(丙2)。
エ 茨木市平成13年度施政方針
 茨木市は,平成13年度施政方針の中で,姉妹・友好都市との友好親善を深めて
いくこと及び協会との連携を深めて諸事業を開催することを宣言している(丙
3)。
(3) 本件各旅行の予定等について
ア 本件各旅行の主催者
 本件各旅行を主催したのは,いずれも茨木市ではなく,協会である(争いがな
い)。
イ 本件各旅行の予定日程及び参加予定者等
(ア) 茨木市スポーツ親善訪中団(以下「スポーツ訪中団」という。)
 別紙茨木市スポーツ親善訪中団日程及び別紙茨木市スポーツ親善訪中団名簿のと
おりである(争いがない)。
(イ) 茨木市少年サッカーチーム(以下「少年サッカーチーム」という。)
 別紙茨木市少年サッカーチーム日程及び別紙茨木市少年サッカーチーム名簿のと
おりである(争いがない)。
(ウ) 茨木市キャンプ交流訪問団(以下「キャンプ訪問団」という。)
 別紙茨木市キャンプ交流訪問団日程及び別紙茨木市キャンプ交流訪問団名簿のと
おりである(争いがない)。
(エ) 茨木市民親善訪中団(以下「親善訪中団」という。)
 別紙茨木市民親善訪中団日程及び別紙茨木市民親善訪中団名簿1のとおりである
(争いがない)。
 参加人と安慶市人民政府副市長は,平成12年(2000年)11月25日,安
慶市が親善訪中団を受け入れること及び親善訪中団滞在中安慶市ができるだけ便宜
を図ること等を内容とする議定書を作成した(丙14)。
ウ 本件各旅行の目的
(ア) スポーツ訪中団
 スポーツ訪中団は,「中国の国技である卓球と活躍著しい水泳のスポーツ交流に
よって,安慶市の中学生と親善試合を行うとともに,今日の中国を実地に見聞し
て,日中の友好を深めること」を目的とする(甲1)。
(イ) 少年サッカーチーム
 少年サッカーチームは,「ミネアポリス市で行われる国際青少年サッカー大会
『2001年USA杯』に参加し,世界の仲間との交流を深め」,「全員がホーム
ステイを経験し,両市(裁判所注:ミネアポリス市及び茨木市を指す)市民の交流
をより深めること」を目的とする(甲1)。
(ウ) キャンプ訪問団
 キャンプ訪問団は,「姉妹都市・ミネアポリス市でサマーキャンプに参加し,ア
メリカの青少年と交流を深め,両市(裁判所注:ミネアポリス市及び茨木市を指
す)市民の交流をより深めること」を目的とする(甲1)。
(エ) 親善訪中団
 親善訪中団は,「友好都市・安慶市及び中国の諸都市を訪問し,表敬訪問や市内
施設の見学等を通じて,両市(裁判所注:安慶市及び茨木市を指す)の交流を深め
ること」を目的とする(甲1)。
(4) 本件各旅費の支出
ア スポーツ訪中団派遣随行旅費
 スポーツ訪中団派遣随行旅費25万5215円について,被告Y1は,平成13
年3月9日,市長としてこれにかかる支出負担行為を決裁し,被告Y2は,同月1
9日までに,自治振興課長としてこれにかかる支出命令を専決するとともに,同日
ころ,被告Y3に対し,資金前渡職員として同旅費を支給した(甲1)。
イ 少年サッカーチーム派遣随行旅費
 少年サッカーチーム派遣随行旅費41万4000円について,被告Y1は,平成
13年6月22日,市長としてこれにかかる支出負担行為を決裁し,被告Y2は,
同年7月6日までに,市民活動推進課長としてこれにかかる支出命令を専決すると
ともに,同日ころ,被告Y4に対し,資金前渡職員として同旅費を支給した(甲
1)。
ウ キャンプ訪問団随行旅費
 キャンプ訪問団随行旅費37万3000円について,被告Y1は,平成13年7
月5日,市長としてこれにかかる支出負担行為を決裁し,被告Y2は,同月12日
までに,市民活動推進課長としてこれにかかる支出命令を専決するとともに,同日
ころ,被告Y5に対し,資金前渡職員として同旅費を支給した(甲1)。
エ 親善訪中団派遣随行旅費
 親善訪中団随行旅費28万3045円について,被告Y1は,平成13年10月
2日,市長としてこれにかかる支出負担行為を決裁し,被告Y2は,同月9日まで
に,市民活動推進課長としてこれにかかる支出命令を専決するとともに,同日こ
ろ,被告Y6に対し,資金前渡職員として同旅費を支給した(甲1)。
(5) 監査請求
 原告ほか2名が,平成13年12月25日,茨木市監査委員に対し,本訴請求の
趣旨と同旨の措置を求めて監査請求をしたところ,同委員は,平成14年2月12
日,同請求を棄却した(争いがない)。
2 争点
 本件の争点は,以下の2点である。
(1) 随行の不必要性及び非公務性
(2) 費用額の不適正
3 争点についての当事者の主張
(1) 随行の不必要性及び非公務性
ア 随行の不必要性
(原告の主張)
(ア) 本件各旅行には,旅行会社の担当者等が随行するところ,これらの者
がいれば旅行は円滑に進むことからすれば,あえて被告市職員らが参加者に随行し
案内しなければならない必要性はない。
(イ) 本件各旅行において,その見学先の大半は公共施設ではなく,観光地中心で
あるところ,被告市職員らがこれらの観光地にまで随行する必要性は全くない。
(被告ら及び被告ら参加人の主張)
(ア) 被告市職員らが,本件各旅行の訪問先において,先方の担当者と活動
内容の調整等を行う必要があるから,被告市職員らには本件各旅行に随行するべき
必要性が認められる。
(イ) 派遣先である姉妹都市・友好都市において先方から種々の便宜が図られた
り,先方の行政関係者との交流が予定されているところ,被告市職員らがこれらに
対応する必要がある。そこでは,単に当該派遣に関する事項について打ち合わせを
するのみならず,従前の交流活動や今後の交流のあり方等についても協議を行って
いるのである。
(ウ) 本件各旅行のうち,参加者が未成年や,高齢者である場合には,参加者の安
全に特に配慮する必要があり,そのためには被告市職員らが随行する必要がある。
イ 随行の非公務性
(原告の主張)
(ア) 本件各旅行は,いずれも,茨木市ではなく任意団体たる協会が民間交
流,スポーツ交流を名目に主催した旅行であり,協会が自らの目的意思に従いその
日程を任意に設定したものであるから,これに被告市職員らが随行することは公務
ではない。
(イ) 本件各旅行は,茨木市の姉妹都市との交流を名目にしているものの,その本
質は民間団体たる協会の私的目的のためになされる外国旅行,スポーツ試合観光が
中心であって,これに随行することは公務とはいえない。
(ウ) 国際交流は,地方自治上必要な事務ではないから,被告市職員らが国際交流
を目的とした本件各旅行に随行することは公務ではない。
(エ) 市の財政危機を考えると,本件各旅行への随行については,茨木市の
公務としての不可欠性が必要であると考えられるところ,本件各旅行は,協会が主
催した茨木市民の任意の旅行にすぎないことからすれば,そのような不可欠性は存
在しない。
(被告ら及び被告ら参加人の主張)
(ア) 協会は,茨木市や各種団体が中心となって設立されたものであり,そ
の目的は他の都市との交流などにある。社会全般にわたって国際化が進展する現状
に鑑みれば,市民が外国諸都市に訪問する機会を市が与えることは,市の施策とし
て何ら不合理ではない。したがって,本件各旅行への随行は,茨木市の施策である
国際交流推進の一環としてなされたものであって公務といえる。
(イ) 本件各旅行の目的地である茨木市の姉妹都市・友好都市においては,先方の
担当者から種々の便宜を受けることがあり,また先方の行政関係者との交流も予定
されていることから,被告市職員らがこれに対応する必要がある。
(ウ) 被告市職員らが公共施設や都市景観などを視察することにより,国際理解を
広めるなど被告市職員らの資質を向上させることができ,今後の事務,市行政に活
かすことができる。かかる市職員の研鑽・研修は地方公共団体が当然行うべき事項
であるから,被告市職員らが本件各旅行に随行することも研鑽・研修という公務の
一環である。
(エ) 被告市職員が,本件各旅行に随行することにより,市民がより積極的
に姉妹都市等への派遣事業の募集に応募するようになるという効果もあり,ひいて
は地域の国際化を促進できるものであるから,被告市職員の随行は国際交流促進事
務としての公務である。
(2) 費用額の不適正
(原告の主張)
 本件各旅行は,いずれも旅行会社が関与して旅費などを設定しているところ,茨
木市が市職員に対して支給した本件各旅費は,その旅行内容に照らしてみれば不必
要な支度料が計上されているなど過大であって,支出の適正さを欠いている。
(被告ら及び被告ら参加人の主張)
 本件各旅費は,いずれも茨木市職員旅費条例18条に基づき,国家公務員等の旅
費に関する法律に準じて計算され,交付されたものであり,何ら違法不当な点はな
い。
第3 当裁判所の判断
1 事実認定
(1) 協会について
ア 設立等
 協会は,昭和55年に市や各種団体が中心となってB協会という名称で設立され
たものであり,昭和61年にその名称を現在の名称に変更した(弁論の全趣旨)。
イ 目的及び事業内容
 協会は,茨木市と姉妹及び友好都市並びにその他の都市との交流を通じて,都市
相互間における市民文化の向上につとめ,市民相互の理解と連帯を密にし,友好・
親善の促進をはかり,市民福祉の向上と世界平和に寄与することを目的とし,都市
相互間の経済,文化,教育,福祉,スポーツ,観光,都市建設等の交流事業並びに
都市相互間の青少年及び市民団体等の人的交流事業を行う(丙4)。
ウ 事務所の所在等
 協会の事務所は,茨木市役所内に置いており,事務局は茨木市役所市民生活部に
置いている(丙4)。
エ 市との人的関係
 協会の会則(丙4)によれば,協会の顧問は,茨木市議会議長及び茨木市選出の
大阪府議会議員が就任し,参与は,茨木市議会副議長,茨木市助役,茨木市教育委
員会委員長及び茨木市農業委員会会長が就任することとされている(丙4)。
オ 経営
 協会は,会員から徴収した会費及び茨木市からの補助金を財源として活動してい
る(丙4,被告Y6)。
(2) 本件各旅行の訪問内容等について
ア スポーツ訪中団
(ア) スポーツ訪中団の訪問内容は以下のとおりである(丙5,丙11)。
 a 平成13年3月24日
 スポーツ訪中団は,関西国際空港を出発し,上海国際空港に到着し,同空港で
は,安慶市対外友好合作服務中心主任等の出迎えを受けた。その後,一行は,上海
テレビ塔等上海市内を見学した。
 b 平成13年3月25日
 スポーツ訪中団は,安慶迎賓館で昼食を取った後,迎江寺を見学し,安慶市体育
館等において下見及び練習を行った。その後,一行は,安慶市長を表敬訪問し,安
慶市迎賓館において,安慶市長,副市長等の臨席のもと,安慶市政府の歓迎宴会を
受けた。歓送迎会の後,就寝時間が過ぎても廊下で騒いだり等する生徒がいたた
め,大友スポーツ訪中団団長が注意した。
 c 平成13年3月26日
 スポーツ訪中団は,午前から夕刻に至るまで,安慶市体育館等において,親善試
合を行った。その後,一行は,安慶・茨木友好交流センターを見学した。
 d 平成13年3月27日
 スポーツ訪中団は,午前中,安慶市体育館等において親善試合を,安慶市内にお
いて見学,買い物を行い,午後には,安慶市第一中学校との交流,閉幕式を行い,
夜には,安慶市人大常委会主任等の臨席のもと歓送会に参加した。
 e 平成13年3月28日
 スポーツ訪中団は,南京に移動し,南京大虐殺記念館,中山陵,明孝陵を見学し
た。
 f 平成13年3月29日
 スポーツ訪中団は,蘇州に移動し,虎丘,寒山寺,シルク研究所,拙政園を見学
し,続いて上海市内に移動して土産物等を購入した。
 g 平成13年3月30日
 スポーツ訪中団は,上海国際空港を出発し,関西国際空港に到着,その後,茨木
市役所来庁者駐車場にて解散した。同市役所では,教育長等の出迎えを受けた。
(イ) その際,被告Y3が行った事務は以下のとおりである(丙5,丙11)。
 a 被告Y3は,安慶市外事弁公室C副主任,外事弁公室D主任,E副主任らと
日程等について,打ち合わせをした。
 b 被告Y3は,安慶・茨木友好交流センター見学の際には人民対外友好協会F
副会長と交流のあり方等について,安慶市体育館見学の際には同体育館長らと体育
館のあり方や選手の育成方法等について,意見交換をした。
 c 被告Y3は,安慶市長表敬訪問及び安慶市第一中学校訪問の際,茨木市側の
司会進行を務めた。
 d 被告Y3は,夜間に選手が騒いだ件につき,安慶市政府関係者等に茨木市と
してお詫びをした。
 e 被告Y3は,選手らが練習,試合を行っている間に,安慶市体育館,安慶市
遊泳学校のプールを見学した。
 f 被告Y3は,選手らに対し,列車乗車時に注意事項を説明し,夜間に騒いだ
選手らに対しては,厳しく注意をした。また,南京大虐殺について選手らに指導を
行った。
 g 被告Y3は,訪中の間,随時,団員の健康状態等を茨木市に報告した。
 h 被告Y3は,交流の様子や各公共施設等につき写真撮影を行った。
(ウ) スポーツ訪中団の中国側の主催者は,安慶市体育運動委員会,安慶市人民政
府外事弁公室であり,「秩序冊」と題する書面には「中国安慶市日本茨木市青少年
体育友好比賽」との記載がある(丙5)。
 安慶市外事弁公室は,安慶市における国際関係事務を取り扱う部署であり,安慶
市の一機関である(被告Y6)。
(エ) スポーツ訪中団として,訪中した構成員は,別紙茨木市スポーツ親善訪中団
名簿のとおりである(丙5)。
イ 少年サッカーチーム
(ア) 少年サッカーチームの訪問内容は,別紙茨木市少年サッカーチーム派遣団報
告書のとおりである(丙6,丙12)。
(イ) その際,被告Y4が行った事務は以下のとおりである(丙6,丙12)。
 a 被告Y4は,ミネアポリス姉妹都市協会第一副会長G,USA杯事務局ホー
ムステイコーディネーターのH,USA杯大会事務局I,少年サッカーチーム監
督,コーチらと,USA杯の進行等について打ち合わせを行った。
 b 被告Y4は,G副会長,以前コーチをしていたJ及びKと交流のあり方等に
ついて意見交換をした。
 c 被告Y4は,体調が悪いという選手のホームステイ先を添乗員と共に訪問
し,様子をうかがった。
 d 被告Y4は,随時,選手らの健康状態や安全に配慮し,茨木市に連絡を取っ
ていた。
 e 被告Y4は,交流の様子や各公共施設等につき写真撮影を行った。
(ウ) ミネアポリス姉妹都市協会は,ミネアポリス市と茨木市の姉妹都市提携をき
っかけに,両市間の交流活動を推進するために設立された民間の団体である(丙1
0)
(エ) 少年サッカーチームとして,訪米した構成員は,別紙茨木市少年サッカーチ
ーム名簿のとおりである(丙6)。
ウ キャンプ訪問団
(ア) キャンプ訪問団の訪問内容は以下のとおりである(丙7,丙13)。
 a 平成13年7月20日
 キャンプ訪問団は,茨木市市民会館前に集合し,関西国際空港からシアトルを経
由して空路ミネアポリス国際空港に到着した。一行は,リンデイルピースガーデン
において,ホストファミリーと対面し,ホストファミリーらと共に,メトロドーム
へメジャーリーグ観戦に出かけた。
 一行は,ミネアポリス国際空港では,ミネアポリス姉妹都市協会の関係者である
L,リンデイルピースガーデンでは,同協会会長のMの出迎えを受けた。一行のう
ち,子供をメトロドームへ引率したのは,L,M及びホストファミリーであり,被
告Y5及び添乗員のNは,ミネアポリス市内のマーケットホテルに宿泊した。
 b 平成13年7月21日
 キャンプ訪問団の子供たちは,終日ホストファミリーと交流していた。
 c 平成13年7月22日
 キャンプ訪問団は,午前中にリンデイルピースガーデンに集合し,午後,キャン
プ場であるロングレイク自然保護センターへ到着し,その後アメリカの子供らと共
にキャンプ活動を行った。
 d 平成13年7月23日ないし同月26日
 キャンプ訪問団は,アメリカの子供らと共に終日キャンプ活動を行った。
 e 平成13年7月27日
 キャンプ訪問団は,午前中にキャンプ終了式を行って,ロングレイク自然保護セ
ンターを出発し,夕刻,マーケットホテルにおいて,フェアウエルパーティーを行
った。同パーティーには,ホストファミリー及びMのほか,ミネアポリス姉妹都市
協会第一副会長G及び同協会理事のOが同席した。
 f 平成13年7月28日
 キャンプ訪問団は,午前中にロサンゼルスに移動し,午後からディズニーランド
観光を行った。
 g 平成13年7月29日
 キャンプ訪問団は,午前中にロサンゼルス国際空港を出発し,関西国際空港へ向
かった。
 h 平成13年7月30日
 キャンプ訪問団は,午後,関西国際空港に到着し,夕刻茨木市役所に到着し,同
所において解散した。
(イ) その際,被告Y5が行った事務は以下のとおりである(丙7,丙13)。
 a 被告Y5は,随時,日程進行等につき,L,M,O及びキャンプ場責任者で
あるPらと打ち合わせをした。
 b 被告Y5は,ミネアポリス姉妹都市協会副会長であるQと,平成15年実施
予定のテニス交流訪問団派遣等について,意見交換を行った。
 c 被告Y5は,茨木市議会視察団と一緒にアメリカ最大級のショッピングモー
ルであるモール・オブ・アメリカにでかけ,夜には,同視察団らとともに,ミシシ
ッピ川に花火を見に出かけた。
 d キャンプ訪問団がディズニーランド観光をした際,6名の子供が集合時刻に
遅刻したため,被告Y5は,既に集合している子供らを添乗員のNに任せ,自ら
は,遅刻した子供らに注意を与えた上で宿泊先のホテルまで同行した。
 e キャンプ訪問団がロサンゼルス国際空港から飛行機に乗った際,被告Y5
は,騒いでる子供らに対し,他の客の迷惑にならないように注意をしたほか,随
時,子供らに対し注意事項を告げていた。
 f 被告Y5は,アメリカ人の子供からの連絡で,キャンプ訪問団の子供が泣い
ているのを発見し,同人を被告Y5の部屋に泊めることとしたり,体調が悪いキャ
ンプ訪問団の子供を,リバーウッド・ヘルスケアセンターという24時間体制の病
院に連れて行くなど,随時,キャンプ訪問団の安全に配慮し,また子供らの健康状
態を市に報告した。
 なお,被告Y5は,アメリカ人の子供が緊急要件を伝えに来た際,何を言ってい
るのか状況がよく分かっていなかった。
 g 被告Y5は,随時,交流の様子や,施設内部等の写真撮影を行った。
(ウ) キャンプ訪問団の企画は,ロングレイクコンサーべーションセンタ-の主催
するコンサーべーションリーダーシップスクールのうち,ジュニアナチュラリスト
セッションのセッション2に参加したものである(甲1)。
(エ) キャンプ訪問団として,訪米した構成員は,別紙茨木市キャンプ交流訪問団
名簿のとおりである(丙7)。
エ 親善訪中団
(ア) 親善訪中団の訪問内容は別紙茨木市民親善訪中団報告書のとおりである(丙
8,丙10,被告Y6)。
(イ) その際,被告Y6が行った事務は以下のとおりである(丙8,丙10,丙1
5,被告Y6)。
 a 被告Y6は,その中国語会話能力を活かし,親善訪中団の参加者が減ったこ
とを安慶市側に詫びるなど,日程及びその変更並びに次回以降の訪問等について,
安慶市外事弁公室のF副主任,R副主任らと打ち合わせをした。
 b 被告Y6は,安慶市副市長,黄梅劇学校長,副秘書長,体育委員会副主任,
教育委員会主任らと,教育制度や学校経営,外国資本の誘致等について意見を交換
した。
 c 被告Y6は,安慶市政府への表敬訪問の際,訪問団員の紹介,茨木市からの
贈り物等をした。
 d 被告Y6は,安慶市立安慶茨木友好天象館,安慶市体育館,安慶迎賓館,友
好交流センター,歩行街(安慶市内の繁華街)等を視察した。
 e 被告Y6は,中山陵において,階段を上りきれなかったS及びTの2名を安
全な場所に引率し一緒に待機するなど構成員の健康や安全管理に配慮し,また構成
員の健康状態等を市役所に報告した。
 f 被告Y6は,交流の様子や各公共施設等につき写真撮影を行った。
 g 被告Y6は,帰国後,親善訪中団に随行した経験を活かして,茨木市作成の
安慶市パンフレットを改訂した。
オ 親善訪中団の中国滞在中には,安慶市外事弁公室管轄下の安慶市中国旅行社が
安慶市政府の一機関として手配を行い,安慶市外事弁公室職員が,随行した(被告
Y6)。
カ 親善訪中団として,訪中した構成員は,別紙茨木市民親善訪中団名簿2のとお
りであり,当初の予定よりも減っていた(甲1,丙8,被告Y6)。
(3) 市長に対する復命
 被告市職員らは,それぞれ,参加人茨木市長あてに,本件各旅行について,旅行
の内容,見聞した知識,先方との交流活動の内容等を復命した(丙5ないし丙
8)。
2 争点に対する判断
2の1 争点(1) 随行の不必要性及び非公務性について
(1) 判断基準
ア 普通地方公共団体の事務について
 現代においては,通信・交通手段の発達により,人・物・情報・金融等の国際化
が飛躍的に進展しており,国と国,企業と企業,住民と住民の相互依存関係が深ま
る中で,我が国にも,学術・文化・スポーツ・経済など様々な分野で諸外国との交
流を進め,信頼関係を強めるとともに国際社会の一員として世界に貢献していくこ
とが求められている。
 この点,国際社会における国家としての存立に関わる外交事務は,国,就中内閣
の専権であって地方自治体がこれを行う権限を有しないことはいうまでもないが
(憲法73条2号3号参照),普通地方公共団体が,資金面,人材面,その他の方
法で住民の国際交流を援助することは,上記のように国際化の進展している現状に
おいては,住民の福祉を増進する住民に身近な事務といえるから(法1条の2参
照),「自治事務」(法2条8項)に該当するというべきである。
 そして,普通地方公共団体が住民の国際交流を援助する場合,その目的を適切に
達成・実現するためには,目まぐるしく変化する国際情勢,さらには住民の国際化
レベル等諸般の事情をしん酌して有効かつ適切な具体的判断を下す必要があるか
ら,普通地方公共団体には,国際交流援助の方法選択等につき合理的な裁量の権限
があるというべきであり,普通地方公共団体自らが住民参加の国際交流行事を主催
することはもちろん,住民の国際交流を目的とした他団体が主催する住民参加の旅
行について職員を随行させることも,合理的必要がある場合には公務として許され
る場合があるというべきである。
 そして,他団体が主催する住民参加の旅行に職員を派遣随行させる合理的必要が
あるか否かは,普通地方公共団体の施策方針,旅行の主催者の性質等を踏まえつ
つ,判断するべきである。
イ 市の施策方針,旅行の主催者の性質等の検討
(ア) 市の施策方針
 前記第2の1(2)で認定したように,茨木市は,本件各旅行の派遣先であるミネア
ポリス市と姉妹都市提携し,安慶市と友好都市提携を行い,両市等国外諸都市と自
治体レベル,市民レベルでの国際交流を行うことをその施策方針としている。
(イ) 旅行の主催者の性質
 前記第2の1(3)ア,第3の1(1)で認定したように,本件各旅行を主催したのは
協会である。協会は,茨木市が中心になって設立されたものであって,茨木市から
補助金を受け,その事務所等も茨木市役所内に置かれ,茨木市との人的関係も密接
であるとは認められるものの,茨木市が市同士ではなく市民同士の交流推進のため
に協会を設立したという経緯に照らしてみれば,あくまで茨木市とは別個の任意団
体であるものと認められる。
(ウ) 規範
 以上によれば,茨木市は市民レベルでの海外交流を推進する施策を採っており,
しかも,協会は茨木市と密接な関係をもちながらも茨木市民の国際交流を推進する
任意団体であることが認められる。
 そして,このように,国際施策を推進する普通地方公共団体が普通地方公共団体
と密接な関係をもった国際交流目的の任意団体主催の住民参加旅行にその職員を随
行させるすることは,住民の国際感覚を養成したり,国際的視点に立った施策を行
い,ひいては住民の福祉を増進させる効果を有する場合もあることから,一律に違
法であると解するべきではなく,旅行の趣旨,目的及び内容にかんがみて想定され
る相手方の対応に照らし,儀礼等の観点から職員の随行が必要と認められるときに
は,職員の随行も公務性を有するものといえ,これに要する費用の支出も適法とい
うべきである。そして,旅行の趣旨,目的及び内容を検討するに当たっては,実際
の旅行内容,随行職員が実際に果たした役割等客観的事情も重要な間接事実になる
というべきである。
ウ あてはめ(本件各旅行の検討)
(ア) スポーツ訪中団
a 旅行の趣旨,目的及び内容等
(a)旅行の趣旨,目的
 前記第2の1(3)ウ(ア)のとおり,スポーツ訪中団は,卓球と水泳の
スポーツ交流によって,安慶市の中学生と親善試合を行うとともに,今日の中国を
見聞して,もって日中の友好を深めることを目的としていた。
(b)旅行の内容
 前記1(2)アのとおり,スポーツ訪中団は,安慶市において3日間ほど滞在し,中
国安慶市日本茨木市青少年体育友好比賽に参加して水泳,卓球の競技を行ったほ
か,迎江寺,安慶・茨木友好交流センター等安慶市内を見学した。また,その後南
京において1日間,南京大虐殺記念館,中山陵,明孝陵等を見学し,蘇州において
1日間,虎丘,寒山寺,シルク研究所,拙政園を見学し,また,本邦出国日及び帰
国日には,上海市内も見学した。
(c)随行市職員の果たした役割
 前記1(2)ア記載のとおり,被告Y3は,安慶市外事弁公室担当者と打ち合わせを
行うとともに,人民対外友好協会副会長,体育館長等と意見交換を行い,選手らの
管理に配慮し,交流の様子や施設を写真撮影していたものである。
b 相手方の実際の対応
 前記(2)アのとおり,スポーツ訪中団が行ったスポーツ交流の親善試合の安慶市側
の主催者は,安慶市の機関である安慶市人民政府外事弁公室であって,安慶市側で
は,市長,副市長及び安慶市人大常委会主任等が表敬訪問及び歓送迎会に臨席して
スポーツ訪中団をもてなし,安慶市外事弁公室職員がスポーツ訪中団の日程調整等
に参加するなど,安慶市政府の職員がスポーツ訪中団に対応していた。
 ただし,平成13年3月28日の午前7時の安慶迎賓館出発のために,同日安慶
市外事弁公室E副主任らと被告Y3が打ち合わせをした以降,スポーツ訪中団の南
京市内見学,蘇州市内見学に安慶市政府の職員が対応した事実は認められない(丙
5,丙11参照)。
c 検討
(a)以上のとおり,スポーツ訪中団は,安慶市政府機関主催のスポーツ交流とし
て親善試合を行うほか,安慶市政府への表敬訪問や,安慶市と茨木市の友好親善の
証として安慶茨木友好交流センターの訪問を行っており,スポーツ訪中団の安慶市
滞在中は,市長を始めとする安慶市政府の職員が同行,応対している。そして,上
記のような安慶市政府の対応は,スポーツ訪中団の趣旨,目的及び内容からみて,
スポーツ訪中団の計画時から想定されていたものであったことは明らかである。
 このように,安慶市滞在中に,市長を始めとする安慶市政府の職員の同行,応対
が想定される以上,安慶市と友好都市提携を行っている茨木市としては,儀礼上の
観点から,同市職員が随行して安慶市政府職員に対応することが必要と判断するこ
とには一定の合理性があるから,被告Y3が,スポーツ訪中団の安慶市滞在中に随
行したことは公務性を有するものというべきである。
また,スポーツ訪中団は,本邦出国日及び帰国日に上海市内を見学している。し
かし,上記上海市内見学2日間は,中国への入国後あるいは中国からの出国前の航
空機ないし列車の乗り継ぎの時間を利用してされたものとみることもでき,本邦出
国日及び帰国日に上海市内を見学したことをもって,同出国日及び帰国日に,被告
Y3がスポーツ訪中団に随行したことについて公務性を否定することはできない。
 一方,南京市内を見学した平成13年3月28日と蘇州市内を見学した同月29
日の両日については,その訪問先は中山陵,虎丘等旧跡観光地であって,安慶市と
は関連性を有していないものであるし,また,安慶市政府等の職員がスポーツ訪中
団の世話をしたという事実もうかがわれない。また,スポーツ訪中団について,安
慶市の職員が安慶市以外の都市まで同行,応対するという対応が想定されていたと
も認められない。そうである以上,茨木市職員である被告Y3において安慶市政府
等の職員に対応するために随行する必要を認めることはできない。
 したがって,被告Y3のスポーツ訪中団への随行中,南京市内見学と蘇州市内見
学については,旅行の趣旨,目的及び内容にかんがみて想定される相手方の対応に
照らし,儀礼等の観点から随行が必要とは認められず,公務性を有するということ
はできない。
(b)原告は,スポーツ訪中団が安慶市以外の都市を観光しており観光目的である
こと,旅行会社の添乗員等が随行するから,あえて被告Y3がスポーツ訪中団に随
行することはおよそ必要ではなく,全行程について公務に当たらないと主張する。
 しかし,スポーツ訪中団において安慶市を出発した後に同市以外の都市を観光し
たとしても,そのことにより,同団の目的が全部観光であることになったり,安慶
市滞在中に被告Y3が随行する必要がなくなったりするものではない。
 また,スポーツ訪中団には,茨木市体育協会副会長,茨木市水泳連盟理事及び添
乗員が同行しており,スポーツ訪中団参加者に対する注意,管理等はこれらの者で
も十分にまかなえるということもできる。しかし,スポーツ訪中団の安慶市滞在
中,安慶市政府の職員が同行,応対している以上,これに対する対応は,儀礼上の
観点からみて,添乗員はもちろん,茨木市体育協会副会長や茨木市水泳連盟理事と
いう民間団体の役員では不足であって,茨木市の職員であることが必要と考えるこ
とにも合理性があることは前示のとおりである。
(c)他方,被告ら及び被告ら参加人は,被告Y3がスポーツ訪中団に随行するこ
とにより,資質を向上させ,今後の市行政に活かすことができ,また市職員が随行
することで姉妹都市等への派遣事業に市民が多数参加しやすくなるとの主張をし,
全行程について被告Y3による随行は公務として必要であるという。
 しかし,被告Y3が,体育館長等を担当している事実は認められるものの,本件
全証拠によっても,被告Y3がスポーツ訪中団に随行したことにより市行政に具体
的貢献があったとか市民が参加しやすくなったということを具体的に認めることは
できず,被告ら及び被告ら参加人の主張は,抽象的に一般論を言うに過ぎない。
 また,被告ら及び被告ら参加人は,目的地である安慶市においては,先方の担当
者から種々の便宜を受けることがあり,また先方の行政関係者との交流も予定され
ていることから,市職員である被告Y3がこれに対応する必要があると主張する。
しかし,南京市内見学1日及び蘇州市内見学1日について,安慶市の職員が応対し
たのであれば安慶市と茨木市の友好関係にかんがみれば当然市長への復命がなされ
てしかるべきところ,そのような記載は全くなく,さらに自らの旅行の正当性を立
証するために裁判所に提出された陳述書にもそのような言及が全くない。したがっ
て,スポーツ訪中団が安慶市を出発した後には安慶市の職員等が応対していたとは
認め難いから,この点に関する被告ら及び被告ら参加人の主張は,南京市内見学及
び蘇州市内見学の各
行程についてはその前提を欠き失当である。
(イ) 少年サッカーチーム
a 旅行の趣旨,目的及び内容等
(a)旅行の趣旨,目的
 前記第2の1(3)ウ(イ)のとおり,少年サッカーチームは,国際青少年サッカー大
会2001年USA杯に参加し,世界の仲間との交流を深め,全員がホームステイ
を経験し,ミネアポリス市及び茨木市市民の交流をより深めることを目的としてい
た。
(b)旅行の内容
 前記1(2)イのとおり,少年サッカーチームの日程は,ミネアポリス市において,
USA杯及び交流試合が5日間,ホームステイ泊が7日間,ロサンゼルスにおいて
ディズニーランド観光が1日間というものであった。なお,平成7月19日には,
ミネアポリス市庁舎において,表敬訪問が行われた。
(c)随行市職員の果たした役割
 前記1(2)イのとおり,被告Y4は,ミネアポリス姉妹都市協会関係者,USA杯
大会事務局関係者と打ち合わせ,意見交換をし,また,選手らの健康状態等に配慮
した。
b 相手方の実際の対応
 前記1(2)イのとおり,少年サッカーチームに応対したのは,ミネアポリス姉妹都
市協会副会長,USA杯事務局職員,元サッカーコーチなど,先方の任意団体の関
係者等民間人である。
c 検討
(a)以上のとおり,USA杯自体は,ミネアポリス市によって企画されたものと
は認め難く,また,ミネアポリス市において少年サッカーチームに応対したのは,
同市の任意団体の関係者等民間人であった。そして,上記のようなミネアポリス市
における応対状況は,少年サッカーチームの趣旨,目的及び内容からみて,同チー
ムの計画時から想定されていたものであったと認められる。そうだとすると,いか
に茨木市とミネアポリス市が姉妹都市の提携をしているとはいえ,少年サッカーチ
ームは,民間同士の交流として行われ相手側も民間人が応対するのであるから,あ
えて茨木市側が市職員を随行させなければならない儀礼上の必要があったと認める
ことはできない。
 また,少年サッカーチームにはUサッカークラブ部長(職業は教諭),Uサッカ
ークラブ監督(職業は市職員),旅行会社添乗員が同行しており,被告Y4が果た
した役割の中に,これらの者で賄えなかったものがあるとも認めがたい。
 したがって,被告Y4による少年サッカーチームへの随行は,ディズニーランド
観光に止まらず,旅行の趣旨,目的及び内容にかんがみて想定される相手方の対応
に照らし,必要があったとは考えられないから,随行に公務性を認めることはでき
ない。
(b)被告ら及び被告ら参加人は,被告Y4が少年サッカーチームに随行すること
により,資質を向上させ,今後の市行政に活かすことができ,また市職員が随行す
ることで姉妹都市等への派遣事業に市民が多数参加しやすくなるとの主張をし,被
告Y4による随行は公務として必要であるという。
 しかし,被告Y4が被告ら参加人に復命をしたことは認められるものの,本件全
証拠によっても,被告Y4が少年サッカーチームに随行したことにより市行政に具
体的貢献があったことや,市民が参加しやすくなったということを具体的に認める
ことはできず,被告ら及び被告ら参加人の主張は,抽象的に一般論をいうにすぎな
い。
(c)また,少年サッカーチームは,平成13年7月19日に,ミネアポリス市を
表敬訪問しており,この表敬訪問には,ミネアポリス市長,市議会議長が応対した
ものと認められる。しかし,この表敬訪問には,茨木市から助役,秘書課参事及び
ビューティー茨木が,茨木市議会から議員3名及び議会事務局総務課長が参加して
おり,市の代表団及び市議会の代表団の公的性質と少年サッカーチームの私的性質
の相違にかんがみれば,上記表敬訪問の際に,茨木市の代表団や茨木市議会の代表
団に随行する他の市職員に加えてさらに被告Y4が少年サッカーチームに随行しな
ければならない儀礼上の必要があったものとは考えられない。したがって上記表敬
訪問の点をもって,直ちに被告Y4の少年サッカーチームへの随行が公務として必
要であったとするこ
とはできない。
(ウ) キャンプ訪問団
a 旅行の趣旨,目的及び内容等
(a)旅行の趣旨,目的
 前記第2の1(3)ウ(ウ)のとおり,キャンプ訪問団は,サマーキャンプに参加し,
アメリカの青少年と交流を深め,ミネアポリス市及び茨木市市民の交流をより深め
ることを目的ととしていた。
(b)旅行の内容
 前記1(2)ウのとおり,キャンプ訪問団の旅行内容は,メジャーリーグ観戦,キャ
ンプ活動6日間,ディズニーランド観光である。
(c)随行市職員の果たした役割
 前記1(2)ウのとおり,被告Y5は,ミネアポリス姉妹都市協会関係者やキャンプ
場責任者と打ち合わせや,今後の交流訪問団派遣等について意見交換を行った。ま
た,キャンプ訪問団の子供たちに対し,適宜注意を与えるとともに,健康等の管理
を行った。
b 相手方の実際の対応
 前記1(2)ウのとおり,現地においてキャンプ訪問団が参加するキャンプの企画を
立案実行したのは,ロングレイクコンサーべーションセンタ-という組織であり,
ミネアポリス市ではない。また,キャンプ訪問団の応対に当たったのは,ミネアポ
リス都市姉妹都市協会の関係者であって,ミネアポリス市の職員ではない。
c 検討
(a)以上のとおり,キャンプ訪問団は,ミネアポリス市ではなくロングレイクコ
ンサーべーションセンタ-の企画したキャンプに参加したものであって,その旅行
内容も,キャンプや観光であって公的色彩もない。キャンプ訪問団のミネアポリス
市滞在中に応対したのも,ミネアポリス市の職員ではなくミネアポリス姉妹都市協
会関係者やキャンプ場責任者という民間人であった。そして,上記のようなミネア
ポリス市における応対状況は,キャンプ訪問団の趣旨,目的及び内容からみて,同
団の計画時から想定されていたものであったと認められる。そうだとすると,いか
に茨木市とミネアポリス市が姉妹都市の提携をしているとはいえ,キャンプ訪問団
は,民間同士の交流として行われ相手側も民間人が応対するのであるから,あえて
茨木市側が市職員を
随行させなければならない儀礼上の必要があったと認めることはできない。
 また,被告Y5の行った事務は,次回以降の派遣に関する打ち合わせを除き,随
行した旅行会社添乗員により賄うことができるものと認められる。そして,次回以
降のキャンプ訪問団派遣に関する打ち合わせは,わざわざそのためだけに現地に赴
かずとも通信手段を用いればやりとりできるような内容のものというべきである。
 したがって,被告Y5によるキャンプ訪問団への随行は,ディズニーランド観光
に止まらず,全体として,旅行の趣旨,目的及び内容にかんがみて想定される相手
方の対応に照らし,必要があったとは考えられないから,随行に公務性を認めるこ
とはできない。
(b)被告ら及び被告ら参加人は,被告Y5がキャンプ訪問団に随行することによ
り,資質を向上させ,今後の市行政に活かすことができ,また市職員が随行するこ
とで姉妹都市等への派遣事業に市民が多数参加しやすくなるとの主張をし,被告Y
5による随行は公務として必要であるという。
 しかし,被告Y5がミネアポリスとの国際交流を担当している事実及び被告Y5
が被告ら参加人に復命をした事実は認められるものの,本件全証拠によっても,被
告Y5がキャンプ訪問団に随行したことにより市行政に具体的貢献があったこと
や,市民がキャンプ訪問団に参加しやすくなったことを具体的に認めることはでき
ず,被告ら及び被告ら参加人の主張は,抽象的に一般論をいうにすぎない。
(エ) 親善訪中団
a 旅行の趣旨,目的及び内容等
(a)旅行の趣旨,目的
 前記第2の1(3)ウ(エ)のとおり,親善訪中団は,安慶市及び中国の諸都市を訪問
し,表敬訪問や市内施設の見学を通じて,安慶市及び茨木市の交流を深めることを
目的としていた。
(b)旅行の内容
 前記1(2)エのとおり,親善訪中団の訪問先は,安慶市において友好天象館,体育
館,安慶茨木友好交流センターを見学したほか,上海市において豫園,安慶市にお
いて菱湖公園,歩行街,迎江寺,黄梅劇学校,天柱山,南京市(1日間)において
南京博物館,明孝陵,中山陵,蘇州市(1日間)において虎丘斜塔,寒山寺,シル
ク博物館,拙政園を見学した。
 また,親善訪中団は,安慶市政府代表訪問を行い,副市長らと会見した。
(c)随行市職員の果たした役割
 前記1(2)エのとおり,被告Y6は,安慶市外事弁公室職員らと打ち合わせをする
とともに,安慶市副市長らと意見交換をし,また安慶市政府表敬訪等問の際には,
茨木市や協会からの贈り物を届けた。また,被告Y6は,親善訪中団の団員の健康
等に配慮した。
b 相手方の実際の対応
 前記1(2)エ及び前提事実によれば,親善訪中団は安慶市と茨木市の議定書に基づ
いて派遣されたものであること,安慶市外事弁公室職員が,親善訪中団の世話をし
ていたこと,安慶市政府の一機関である安慶市中国旅行者が現地での旅行の手配を
していたことが認められる。
c 検討
(a)以上のとおり,親善訪中団は安慶市と茨木市の議定書に基づいて派遣された
ものあって,観光地等である豫園等,安菱湖公園,歩行街,迎江寺,黄梅劇学校,
天柱山,明孝陵,中山陵,虎丘斜塔,寒山寺,シルク博物館,拙政園を見学するだ
けでなく,友好天象館,体育館,安慶茨木友好交流センターを見学し,安慶市政府
の表敬訪問も行っている。親善訪中団に対しては,安慶市政府の職員が応対し,中
国滞在中全期間にわたり同行しており,被告Y6は,安慶市外事弁公室職員らと打
ち合わせをするとともに安慶市副市長らと意見交換をしている。そして,上記のよ
うな安慶市政府の対応は,親善訪中団が安慶市と茨木市の議定書に基づいて派遣さ
れたものであることを始めとする同団の趣旨,目的及び内容からみて,親善訪中団
の計画時から想定さ
れていたものであったことは明らかである。
 このように,親善訪中団の中国滞在中全期間にわたり,安慶市政府の職員の同
行,応対が想定される以上,安慶市と友好都市提携を行い前記議定書を取り交わし
ている茨木市としては,儀礼上の観点から,同市職員が,その全行程について随行
して安慶市政府の職員に対応することが必要と判断することには一定の合理性があ
るから,被告Y6が親善訪中団に随行したことは公務性を有するものというべきで
ある。
(b)なお,親善訪中団は平成13年10月21日に南京市内見学,同月22日に
蘇州市内見学をしており,これは安慶市とは関連性を有しないように思われる。し
かし,上記南京市内見学及び蘇州市内見学には,安慶市政府の職員が応対しており
(安慶市外事弁公室のVが南京市内見学の際に同行し,蘇州市内見学の際には白酒
を差し入れている(丙8)),そうである以上,茨木市側としても儀礼上,市職員
を同行させて安慶市政府の職員に対応することが必要と判断することには一定の合
理性がある。このように,茨木市職員の随行の必要性に関してみれば,親善訪中団
の行程は,安慶市政府の職員の応対なしに安慶市以外の地を見学観光する場合とは
全く異なっていたものというべきである。
(c)原告は,親善訪中団が安慶市以外の都市を観光しており観光目的であるこ
と,協会の関係者が団長として親善訪中団に参加していることから,あえて被告Y
6が親善訪中団に随行することは公務として必要ではないと主張する。
 しかし,親善訪中団が安慶市以外の都市を観光したとしても,そのことにより,
同団の目的が全部観光になったり,同団に被告Y6が随行する必要がなくなるもの
ではない(同団に対しては,安慶市以外の都市においても安慶市政府の職員が対応
しているから,なおさらである。)。
 また,協会の関係者が団長として親善訪中団に参加しているとしても,同団の中
国滞在中全期間にわたり,安慶市政府の職員の同行,応対がある以上,これに対す
る応対は,儀礼上の観点からみて,協会の関係者という民間団体の役員では不足で
あって茨木市の職員であることが必要と考えることにも合理性があることは前示の
とおりである。
2の2 争点(2) 費用額の不適正について
 原告は,本件各旅行は,いずれも旅行会社が関与して旅費などを設定しているこ
と,本件各旅費は,その旅行内容に照らしてみれば不必要な支度料が計上されてい
るなど過大であるとして,費用額が不適正であると主張する。
 しかし,旅行会社が関与して旅費を設定したことから直ちに費用が不適正に高額
であるとすることはできない。そして,支度料を含む本件各旅費は,いずれも茨木
市職員旅費条例18条に基づき,国家公務員等の旅費に関する法律に準じて計算さ
れ,交付されたものと認められること(甲1)からすれば,この点に関する原告の
主張を採用することはできない。
2の3 小括
 以上より,被告Y3のスポーツ訪中団への随行のうち南京市内見学及び蘇州市見
学にあてられた部分,被告Y4の少年サッカーチームへの随行全体及び被告Y5の
キャンプ訪問団への随行全体は公務ではない。したがって,これらにかかる各公金
支出は違法であり,その余の支出は適法である。
 なお,スポーツ訪中団派遣随行旅費にかかる支出のうち,違法となる南京市内見
学及び蘇州市内見学にあてられた部分の額は,宿泊料6万9600円(1万160
0円×6泊)及び日当2万6600円(3800円×7日)(甲1)のうち,宿泊
2泊分及び日当2日分の合計に相当する3万0800円である。
1万1600円×2+3800円×2=3万0800円
3 被告らの責任
(1) 被告Y1
 被告Y1は,市長として,支出負担行為をなす権限を有するところ(法149条
6号,232条の3),上記2で判断したように,被告Y3のスポーツ訪中団への
随行のうち南京市内見学及び蘇州市見学にあてられた部分,被告Y4の少年サッカ
ーチームへの随行全体及び被告Y5のキャンプ訪問団への随行全体にかかる各公金
支出は違法であるから,これらの公金支出にかかる各支出負担行為もまた違法であ
る。
(2) 被告Y2
 上記2で判断したように,被告Y3のスポーツ訪中団への随行のうち南京市内見
学及び蘇州市見学にあてられた部分,被告Y4の少年サッカーチームへの随行及び
被告Y5のキャンプ訪問団への随行にかかる各公金支出は違法であるから,被告Y
2が専決した本件各支出命令のうち,スポーツ訪中団派遣随行旅費にかかる支出命
令(以下「支出命令1」という。)のうち南京市内見学及び蘇州市見学にあてられ
た部分,少年サッカーチーム派遣随行旅費にかかる支出命令(以下「支出命令2」
という。)及びキャンプ訪問団随行旅費にかかる支出命令(以下「支出命令3」と
いう。)もまた違法である。もっとも,被告Y2は,支出命令を専決した職員であ
るから,法243条の2第1項後段により,故意又は重大な過失による法令違反が
認められるときに限
り責任を負う。そこで以下,スポーツ訪中団派遣随行旅費,少年サッカーチーム派
遣随行旅費及びキャンプ訪問団随行旅費にかかる違法な支出命令の専決に際して被
告Y2に故意又は重大な過失があるかを検討する。
ア スポーツ訪中団派遣随行旅費
(ア) 事実認定
a 支出命令1の専決に際しては,被告Y2に別紙茨木市スポーツ親善訪中団日
程,別紙茨木市スポーツ訪中団名簿,支出負担行為書(負担行為番号049365
1),旅行目的等が記載された説明書面,及び支出命令書用紙(支出命令番号01
0537292)が添付されていた(甲1,弁論の全趣旨)。
b 説明書面には,「1 目的」として,「中国の国技である卓球と活躍著しい水
泳のスポーツ交流によって,安慶市の中学生と親善試合を行うとともに,今日の中
国を実地に見聞して,日中の友好を深めることを目的とする。」との記載がある
(甲1)。
c 支出命令用紙(支出命令番号010537292)には,支出科目として「総
務費」「総務管理費」「国際交流費」「国際交流事業」との記載がある(甲1)。
(イ) 判断
 茨木市は市民レベルでの国際交流を推進していたこと,同市は安慶市と友好都市
関係にあったこと,スポーツ少年団は親善試合と実地見学を通じて日中の国際交流
をはかることを目的として派遣されることが記載された説明書面が被告Y2に供さ
れていたこと,支出命令用紙に支出科目として「総務費」「総務管理費」「国際交
流費」「国際交流事業」との記載があったことからすれば,被告Y2において,被
告Y3のスポーツ訪中団への派遣随行が違法であり支出命令1が違法となると判断
するのは困難であったというべきであるから,被告Y2には,違法な支出命令1を
専決するにつき故意も重大な過失も認められない。
 なお,この点,被告Y2に供された別紙茨木市スポーツ親善訪中団日程には,旅
行内容に「南京市内見学」及び「蘇州市内見学」が含まれる旨の記載がある(甲
1)が,上記認定事実のもとでは,旅行先の一部が観光地であることによって,随
行派遣の公務性必要性が失われるかどうか等の判断は市職員にとっては必ずしも容
易でないことからすれば,かかる事実をもって被告Y2が支出命令1を専決したこ
とにつき直ちに重過失があるとはいえない。
 他に,被告Y2が違法な支出命令1を専決するにつき故意又は重大な過失を有し
ていたことを証明するに足りる証拠はない。
イ 少年サッカーチーム派遣随行旅費
(ア) 事実認定
a 支出命令2の専決に際しては,被告Y2に別紙茨木市少年サッカーチーム日
程,別紙茨木市少年サッカーチーム名簿,支出負担行為書(負担行為番号0127
949),旅行目的等が記載された説明書面,及び支出命令書用紙(支出命令番号
010109673)が添付されていた(甲1,弁論の全趣旨)。
b 説明書面には,「1 目的」として,「ミネアポリス市で行われる国際青少年
サッカー大会『2001年USA杯』に参加し,世界の仲間との交流を深めます。
また,全員がホームステイを経験し,両市市民の交流をより深めることを目的とし
ます。」との記載がある(甲1)。
c 支出命令用紙(支出命令番号010109673)には,支出科目として「総
務費」「市民活動推進費」「国際交流費」「国際交流事業」との記載がある(甲
1)。
(イ) 判断
 茨木市は市民レベルでの国際交流を推進していたこと,同市はミネアポリス市と
姉妹都市関係にあったこと,少年サッカーチームはミネアポリス市において少年市
民レベルでの国際交流を目的として派遣されることが記載された説明書面が被告Y
2に供されていたこと,支出命令用紙に支出科目として「総務費」「市民活動推進
費」「国際交流費」「国際交流事業」との記載があったことからすれば,被告Y2
において,被告Y4の少年サッカーチームへの派遣随行が違法であり支出命令2が
違法となると判断するのは極めて困難であったというべきであるから,被告Y2に
は,違法な支出命令2を専決するにつき故意も重大な過失も認められない。
 なお,この点,被告Y2に供された別紙茨木市少年サッカーチーム日程には,旅
行内容にディズニーランド観光が含まれる旨の記載がある(甲1)が,上記認定事
実のもとでは,旅行先の一部が観光地であることによって,随行派遣の公務性必要
性が失われるかどうか等の判断は市職員にとっては必ずしも容易でないから,かか
る事実をもって被告Y2が支出命令2を専決したことにつき直ちに重過失があると
はいえない。
 他に,被告Y2が違法な支出命令2を専決するにつき故意又は重大な過失を有し
ていたことを証明するに足りる証拠はない。
ウ キャンプ訪問団随行旅費
(ア) 事実認定
a 支出命令3の専決に際しては,被告Y2に別紙茨木市キャンプ交流訪問団日
程,別紙茨木市キャンプ交流訪問団名簿,支出負担行為書(負担行為番号0154
482),旅行目的等が記載された説明書面,及び支出命令書用紙(支出命令番号
010133396)が添付されていた(甲1,弁論の全趣旨)。
b 説明書面には,「1 目的」として,「姉妹都市・ミネアポリス市でサマーキ
ャンプに参加し,アメリカの青少年と交流を深め,両市市民の交流をより深めるこ
とを目的とする。」との記載がある(甲1)。
c 支出命令用紙(支出命令番号010133396)には,支出科目として「総
務費」「市民活動推進費」「国際交流費」「国際交流事業」との記載がある(甲
1)。
(イ) 判断
 茨木市は市民レベルでの国際交流を推進していたこと,同市はミネアポリス市と
姉妹都市関係にあったこと,キャンプ訪問団はミネアポリス市において少年市民レ
ベルでの国際交流を目的として派遣されることが記載された説明書面が被告Y2に
供されていたこと,支出命令用紙に支出科目として「総務費」「市民活動推進費」
「国際交流費」「国際交流事業」との記載があったこと,別紙茨木市キャンプ交流
訪問団日程にはミネアポリス市表敬訪問との記載があったことからすれば,被告Y
2において,被告Y5のキャンプ訪問団への派遣随行が違法であり支出命令3が違
法となると判断するのは困難であったというべきであるから,被告Y2には,違法
な支出命令2を専決するにつき故意も重大な過失も認められない。
 なお,この点,被告Y2に供された別紙茨木市キャンプ訪問団日程には,旅行内
容にディズニーランド観光が含まれる旨の記載がある(甲1)が,上記認定事実の
もとでは,旅行先の一部が観光地であることによって,随行派遣の公務性必要性が
失われるかどうか等の判断は市職員にとっては必ずしも容易でないから,かかる事
実をもって被告Y2が支出命令3を専決したことにつき直ちに重過失があるとはい
えない。
 他に,被告Y2が違法な支出命令3を専決するにつき故意又は重大な過失を有し
ていたことを証明するに足りる証拠はない。
(3) 随行職員
 被告Y3,被告Y4及び被告Y5は,いずれも,職務命令である出張命令を受け
て本件各旅行にそれぞれ随行したものと認められる(弁論の全趣旨)。
 ところで,地方公務員法の規定によれば,地方公共団体の職員は,上司の職務上
の命令に忠実に従わなければならないものとされており(同法32条),上司の職
務命令に重大かつ明白な瑕疵がない限り,これに従う義務があるものと解される。
上記服務関係からすれば,地方公共団体の職員が職務命令である出張命令に従って
出張した場合には,職員は,出張命令に重大かつ明白な瑕疵がない限り,当該出張
に対して旅費の支給を受けることができ,それが不当利得になるものではない(最
高裁判所平成15年1月17日第二小法廷判決・民集57巻1号1頁)。
 本件では,被告Y3,被告Y4及び被告Y5に対する出張命令は,茨木市と国際
交流分野において密接な関係にある協会からの派遣依頼書を受けて(甲1),上記
3名を各旅行に派遣し,現地での連絡調整,構成員の管理等に当たらせるべく発令
されたものであると認められ(弁論の全趣旨),上記出張命令に明白かつ重大な瑕
疵があったことを基礎づける事実は本件全証拠によっても認められないから,上記
出張命令に明白かつ重大な瑕疵があったとはいえない。したがって,被告Y3,被
告Y4及び被告Y5に支給された各旅費はいずれも不当利得とはならない。
4 結論
 以上によれば,原告の請求は,被告Y1に対し,茨木市に対し,金81万780
0円並びに内金3万0800円に対する平成13年3月24日から支払済みまで年
5分の割合による金員,内金41万4000円に対する平成13年7月14日から
支払済みまで年5分の割合による金員及び内金37万3000円に対する平成13
年7月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払いを求める限度で理
由があるから認容し,その余は理由がないから棄却し,仮執行宣言は相当でないか
ら付さないこととして,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所 第二民事部
裁判長裁判官    山  田  知  司
裁判官       田  中  健  治
裁判官       小  野  裕  信

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