弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し本件を高松高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人堀耕作の上告理由第一点について。
 上告人(控訴人)が昭和二〇年一〇月三一日額面金九万五千五百七十一円八銭、
振出地大阪市、振出人D飛行機株式会社、支払人株式会社E銀行F支店と記載され
た指図人支払の「特」小切手の所持人であつたこと、右小切手の支払を受けるには、
その裏面に「G航機製作所A」という上告人の裏書が必要であつたこと、右小切手
の決済は同年一一月一五日までになされねばならなかつたこと、上告人は被上告人
(被控訴人)銀行窓口係員に右小切手を交付してその取立を委託したが、その際前
記の裏書がなかつたのに被上告銀行はそのまま支払人銀行宛送付したところ、右小
切手は裏書を欠いているため支払を拒絶するとの理由で被上告銀行に返送され、つ
いに決済期限を経過して支払不能となつたことは、いずれも原判決の確定した事実
である。そして右支払不能は、被上告銀行の事務従事者たる窓口係員が、故意又は
過失により事務処理上の注意義務を欠いたことに起因するとの上告人の主張に対し、
原判決は甲第二号証、乙第一ないし第四号証、第一審及び第二審証人Iの証言によ
り、被上告銀行は小切手の取立受託にあたつては小切手預り証を委託人に交付する
のであり、右預り証には手形取立方について特に依頼があつてこれにその内容を明
記した場合の外は、法定の手続(裏書その他)をしなかつたために生じた事故につ
き、被上告銀行において一切責任を負わぬという免責約款を規定しているのであつ
て、右は被上告銀行所在の徳島市にある各銀行の商慣習であり、上告人もこの慣習
に従う意思で取立の委託をしたものであること、本件受託の場合も右預り証を上告
人に交付したのであり、その預り証には免責を排除する特約の記載がないことが認
められるとして、被上告銀行の係員であつた訴外Hが本件小切手取立につき裏書の
なかつたことを上告人に注意しないでそのまま支払人銀行に送付したことによつて
小切手の支払不能を来したとしても、右訴外人には責むべき事由がなく、従つてそ
れにより生じた損害については、被上告銀行にその支払の責任がないと判示して、
この点に関する上告人の主張を排斥したものであること判文上明らかである。
 しかしながら、原判決の証拠とした甲第二号証(本件小切手預り証)の免責事項
には「手形取立方ニ付特ニ依頼アリテ此証ニ其旨明記シタルモノノ外ハ法定ノ手続
ヲ不致候ニ付其為メニ生シタル事故」と記載されているだけであつて、原判示のよ
うに、法定の手続の下に(裏書その他)と明記されていないことは論旨指摘のとお
りである。そして前記の免責事項として記載された文面によれば、その趣旨とする
ところは、特約の明記がない限り、取立の受託者たる被上告銀行がそのなすべき法
定の手続をなさなかつたことによつて生じた事故については、被上告銀行において
責任を負わないことを表明したものと解するのを相当とし、本件のように小切手取
立受託に際して、裏書を欠く形式上の不備を被上告銀行の係員が看過したことまで
免責する趣旨を含むものとは、原判決引用の証拠によつては認めることができない。
 そしてかかる場合に、被上告銀行の係員が形式上の不備を看過したことにつき義
務違背があつたか否かは、受任者が委任の本旨に従い善良な管理者の注意をもつて
委任事務を処理したかどうかによつて決まる法律上の問題であるこというまでもな
いところである。しかるに原判決は、銀行業者が小切手に裏書を欠いたような形式
上の不備を発見した場合、委託者に注意を与えその形式を完備させて損害の発生を
未然に防止させるようなことは、一般業者の道徳上の問題たるに過ぎないものであ
ると判示して上告人のこの点に関する主張を排斥しているのであるが、かかる判断
は、証拠の趣旨を誤認した結果法律上の判断を誤り、ひいて審理不尽若しくは理由
不備の違法を来たしたものというの外なく、その違法は他に首肯しうべき理由のな
いかぎり原判決に影響を及ぼすものと認めなければならない。
 されば本件上告は、爾余の争点について判断するまでもなく理由があるので原判
決は破棄を免がれない。
 よつて、民訴四〇七条に従い、裁判官全員の一致した意見で主文のとおり判決す
る。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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